2021年03月31日

当事者として肺がんに関わるということ

 大分からセンバツ高校野球選手権大会に出場している明豊高校が、初の決勝進出を決めたとのことで、webニュースを読んでいた。
 1967年に全国優勝した津久見高校以来、54年ぶりの大分県勢決勝進出とのこと。
 確かに記憶にない。
 春・夏ともに甲子園が見送られた昨年を挟み、一昨年はベスト4、今大会では決勝進出ということで、実質2年連続で甲子園ベスト4入りを果たしているわけで、明豊高校は立派に名門の仲間入りをしたと言っていいだろう。
 明豊高校と聞くと、私はどうしても明青学園高校を思い出してしまう。
 上杉達也、上杉和也、朝倉南である。
 今は、立花投馬・走一郎の義兄弟が活躍しているようだ。
 なにはともあれ大分県民にとっては、新型コロナウイルス感染症の第4波が他県から押し寄せそうな嫌な雰囲気の中、快事として素直に喜びたい。

 他のニュースに目を通していたところ、以下のような記事を見つけた。
 「人気料理研究家の高木ゑみさん、35歳で死去 ステージ4の肺がんで闘病していた」
 https://news.yahoo.co.jp/articles/c967c721aaf17264ce2a7d5443cbaaa05959ccaf
 今日まで高木さんのことは存じ上げなかったが、35歳の若さで、2020年10月に脳転移、骨転移を伴うstage IVBの原発性肺がんと診断され、2021年3月28日に亡くなられたとのこと。
 確定診断からまだ半年も経過していない。
 進行期肺がん治療開発のめざましさが取りざたされる一方で、こうした厳しい現実もあるのだ。
 自分よりも若い方がこうした経緯で亡くなられるのは、ことのほかこたえる。
 シングルマザーとして息子さんを育てておられたということで、一層切ない。
 ご冥福をお祈りするとともに、息子さんの今後の人生に幸多かれと祈りたい。

 昼食を食べてから、午後のカンファレンスが始まるまでの間に、世界肺癌会議の際に公表された肺がん患者の動画を視聴していた。
 この患者が13歳の時に、祖父母が相次いで肺がんで亡くなった。
 その半年後には、父親が肺がんで亡くなった。
 さらに、20代の頃には母親と、近しい親族も肺がんで亡くなった。
 本人は39歳の時にEGFR遺伝子変異陽性肺がんと診断され、4人の幼い子供たちを抱えていた。
 stage IAで完全切除し、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬で術後補助治療を受けたものの再発、現在は別のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使って病状は安定しているとのことで、闘病期間は足かけ12年にも及ぶそうだ。
 担当医、その他の医療従事者、地域住民や各種団体に支えられて今日があるとおっしゃっていた。
 また、適切な情報開示、情報共有がとりわけ肝要であると話しておられた。
 明日の治療を開発する臨床試験においても、社会背景、性別、人種、年齢を問わず、多様性に対応できるように、さまざまな患者を組み入れられるような努力が必要であると話していた。
 学会における患者参加型プログラムの重要性を感じさせる内容だった。

 私自身、ほぼ同時に2人の近親者が昨年末から今年2月にかけて切除不能の原発性肺腺がんと診断され、現在進行形で家族として関わっている。
 わかってはいたことだが、医師として関わるのと、家族として関わるのでは、肺がんというものの景色が随分と変わる。
 恥ずかしながら、2人とも自分では満足に診断することすらできず、近親者として直接診療に関わるのは極めて危険だと感じた。
 近親者ならではの先入観や希望的観測をどうしても取り除けず、冷静な判断ができないのだ。
 それぞれ、1人の家族として、治療が本人の望むゴールを達成する助けとなってくれることを願って、見守っている。
 また、病状をしっかりと理解したうえで、自分が望むゴールはどこにあるのかということに、本人たちが向き合ってくれることをまた、祈っている。
 

   

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2021年03月24日

ADAURA試験サブグループ解析・・・術後補助化学療法の有無、病期別の解析結果

 CoVID-19に翻弄され続けた2020年度だったが、ワクチンの登場によりまだ時間はかかるだろうが出口は見えてきた感がある。
 あと1年間経過すれば、随分と世界は変わっていることだろう。
 CoVID-19にめげず、肺がん領域ではいろいろと新しい知見が今年度も提供されたが、やはり白眉はADAURA試験ではないか。
 完全切除後のEGFR遺伝子変異陽性肺がん患者において、圧倒的な差異を以て無病生存期間を延長した。
 標準的な術後補助化学療法を行うことが前提で(行うかどうかの最終的な判断は担当医と患者に委ねられていたが)、やるべき治療をやった後にオシメルチニブを上乗せするかどうかという臨床試験だった。
 オシメルチニブ以外の、もっとサイフに優しいEGFR阻害薬ではどうなのか、という疑問は残るものの、これだけ圧倒的な無病生存期間延長効果を見せつけられると、少なくとも治療選択肢を患者に提供しないわけにはいかない。

 New England Journal of Medicine誌に掲載された論文の要約を掲載するとともに、術後補助化学商法施行の有無、各病期別の無病生存期間解析データが2020年世界肺癌会議や2021年日本臨床腫瘍学会で報告されていた。
 stage IBの患者集団に関しては、我が国ではUFT内服による術後補助化学療法が標準治療とされているために、どうオシメルチニブを適用するかの議論が必要だと思われるが、少なくともII-IIIA期の患者では我が国でもオシメルチニブ投与を考えるべきだろう。



Osimertinib in Resected EGFR-Mutated Non–Small-Cell Lung Cancer
Yi-long Wu, Masahiro Tsuboi et al., N Engl J Med 2020; 383:1711-1723
DOI: 10.1056/NEJMoa2027071

背景:
 オシメルチニブはEGFR遺伝子変異陽性未治療進行非小細胞肺がんの標準治療である。術後補助療法としてのオシメルチニブの有効性と安全性は明らかでない。
方法:
 今回の二重盲検第III相臨床試験では、完全切除後のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を、オシメルチニブ群(80mgを1日1回服用)とプラセボ群に1:1の割合で無作為に割り付け、最長3年間治療を継続した。主要評価項目は担当医評価によるII期およびIIIA期の患者の無病生存期間とした。副次評価項目には全患者集団(IB期からIIIA期まで)の無病生存期間、全生存期間、安全性とした。
結果:
 682人の患者に対して無作為割り付けを行った(オシメルチニブ群339人、プラセボ群343人)。24ヶ月時点で、II期およびIIIA期の患者のうち、オシメルチニブ群の90%(95%信頼区間84%-93%)とプラセボ群の44%(95%信頼区間37%-51%)が無病生存していた(ハザード比0.17、99.06%信頼区間0.11-0.26、p<0.001)。全体集団では、オシメルチニブ群の89%(95%信頼区間85%-92%)、プラセボ群の52%(95%信頼区間46-58%)が無病生存していた(ハザード比0.20、99.12%信頼区間0.14-0.30、p<0.001)。24ヶ月時点で、オシメルチニブ群の98%(95%信頼区間95-99%)、プラセボ群の85%(95%信頼区間80-89%)は中枢神経系への転移なく生存していた(頭蓋内無病生存期間に関するハザード比は0.18、95%信頼区間0.10-0.33)。全生存期間イベントは29件(オシメルチニブ群9件、プラセボ群20件)と少なく、解析段階になかった。新規の有害事象は認めなかった。
結論:
 IB期からIIIA期のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんにおいて、オシメルチニブ群ではプラセボ群と比較して有意に無病生存期間が延長した。 



Postoperative Chemotherapy Use and Outcomes from ADAURA: Osimertinib as Adjuvant Therapy for Resected EGFR Mutated NSCLC
Yi-long Wu et al., WCLC2020, Abst.#OA06.04
Postoperative chemotherapy patterns and outcomes from ADAURA: osimertinib as adjuvant therapy for resected EGFRm NSCLC
Kato et al., JSMO2021, Abst.#MO29-7

背景:
 非小細胞肺がん患者のうち約30%は切除可能な状態で発見される。術後病理病期II期、IIIA期、あるいは一部のIB期患者に対しては、術後補助化学療法が推奨される。しかしながら、術後再発率は高い。今回の第III相、二重盲検、ランダム化ADAURA試験では、オシメルチニブ(第3世代、非可逆性、中枢神経系への活性を有するEGFR阻害薬)は完全切除、適応のある患者ではさらに術後補助化学療法追加後のIB-IIIA期EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者に対し、統計学的有意に、臨床的にも意味のある無病生存期間延長効果(ハザード比0.20、99.12%信頼区間0.14-0.30、p<0.001)を示した。今回は、術後補助化学療法施行有無とアウトカムに関する探索的検討を行った。
方法:
 完全切除後のIB-IIIA期(AJCC-TNM分類第7版、病理病期)EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を対象に、オシメルチニブ群(80mgを1日1回服用)とプラセボ群に1:1の割合で割り付けて、治療開始から3年間経過するか再発するかまで治療を継続した。ランダム化前の標準術後補助化学療法は、担当医および患者の判断で、してもしなくてもよいことになっていた。術後補助化学療法を施行したか否かに関する統計解析は探索的なものと位置付けられていた。術後補助化学療法施行のあり・なし別の全患者集団の無病生存期間解析は、予め定められたサブグループ解析で、コックス比例ハザードモデルを用いて解析された。データカットオフは2020年1月17日時点とした。
結果:
 ADAURA試験では、無作為割り付けされた患者全体のうち60%(682人中410人)が術後補助化学療法を受けており、治療コース数の中央値は4コースで、各治療群間に均等に割り付けられていた。410人中、409人がプラチナ併用化学療法を、残る1人は単剤化学療法を適用されており、ほとんどはII期もしくはIIIA期の患者だった(II期の患者全体のうち71%(231人中165人)、IIIA期の患者全体のうち80%(235人中187人)、IB期の患者全体のうち26%(216人中57人))。全体として、70歳未満の患者のうち66%(509人中338人)、70歳以上の患者のうち42%(173人中72人)、75歳以上の患者のうち27%(78人中21人)が術後補助化学療法を受けていた。WHO分類におけるPSは、術後補助化学療法施行の有無と相関はなかった(術後補助化学療法を受けたのはPS 0の患者の60%、PS 1の患者の60%)。アジア人患者414人のうち65%、非アジア人患者268人のうち53%が術後補助化学療法を受けていた。術後補助化学療法の有無、各病期別の無病生存期間解析結果は図表のとおりである。
結論:
 ADAURA試験における術後補助化学療法施行状況は、過去の臨床試験結果や実地臨床に即していた。予想されたように、若い患者やより進行した患者では術後補助化学療法が積極的に行われており、一方でPSの良し悪しとは関連がなかった。病理病期に拠らず、術後補助化化学療法施行の有無によらず、オシメルチニブによる術後治療は無病生存期間の延長に寄与していた。



  

2021年03月24日

CheckMate451試験、進展型肺小細胞癌に対するニボルマブ+イピリムマブ併用維持療法は無効

 進展型肺小細胞癌に対するプラチナ併用化学療法初回治療後にニボルマブ+イピリムマブ併用維持療法を行うことの意義を検証するCheckMate451第III相臨床試験の結果が報告されていた。
 端的に言って、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法もしくはニボルマブ単剤療法によるswitch maintenance therapyは無効だった。
 有害事象も治療関連死も明らかに増えており、本治療は勧められない。
 TMB≧13/1Mbaseの患者集団であればニボルマブ+イピリムマブ併用療法の意義がありそうだと付記されていたが、この患者集団に特化した第III相試験を新たに行わない限り、more toxicな本治療を行う必然性はないだろう。



Immunotherapy Doublet as Maintenance Therapy for Extensive-Disease Small Cell Lung Cancer
The ASCO Post
Posted: 3/18/2021 2:17:00 PM
Last Updated: 3/21/2021 12:09:41 PM

Nivolumab and Ipilimumab as Maintenance Therapy in Extensive-Disease Small-Cell Lung Cancer: CheckMate 451
Taofeek K. Owonikoko et al., J Clin Oncol 2021
DOI: 10.1200/JCO.20.02212 Journal of Clinical Oncology

背景:
 進展型小細胞肺がんの患者において、プラチナ併用初回化学療法による腫瘍縮小には期待できるものの、その効果に持続性はない。CheckMate451試験は二重盲検第III相臨床試験で、進展型小細胞肺がん患者に対する初回化学療法後の維持療法としてニボルマブ+イピリムマブ併用療法、あるいはニボルマブ単剤療法の有用性を検討したものである。

方法:
 進展型小細胞肺がんと診断され、ECOG-PS 0 /1、4コース以下の初回化学療法後に病勢進行に至っていない患者を対象とした。患者を1:1:1の割合で無作為に割り付けた。NI群(279人)ではニボルマブ1mg/kg+イピリムマブ3mg/kgを3週間ごとに12週間投与し、引き続いてニボルマブ240mgを2週間ごとに投与した。N群(280人)ではニボルマブ240mgを2週間ごとに投与した。P群(275人)ではプラセボを投与した。病勢進行あるいは忍容不能の毒性が出現するまで継続し、投与期間は最長2年間とした。主要評価項目はNI群とP群の間での全生存期間比較とし、副次評価項目は階層的に解析した。

結果:
 2015年10月から2018年1月にかけて、32か国から参加した834人の患者が無作為割り付けの対象となった。最短の経過観察期間は8.9ヶ月、各治療群における観察期間中央値はNI群で8.4ヶ月、N群で9.9ヶ月、P群で9.1ヶ月だった。P群と比較して、NI群の全生存期間に有意な延長は認められなかった(ハザード比0.92(95%信頼区間0.75-1.12)、p=0.37、生存期間中央値はNI群で9.2ヶ月(95%信頼区間8.0-10.2ヶ月)、P群で9.6ヶ月(95%信頼区間8.2‐11.0ヶ月))。P群と比較して、N群の生存期間延長効果も同様に見られなかった(ハザード比0.84(95%信頼区間0.69-1.02)、N群の生存期間中央値は10.4ヶ月(95%信頼区間9.5‐12.1ヶ月))。無増悪生存期間について、P群に対するハザード比はNI群で0.72(95%信頼区間0.60-0.87)、N群で0.67(95%信頼区間は0.56-0.81)だった。無増悪生存期間中央値はNI群で1.7ヶ月、N群で1.9ヶ月、P群で1.4ヶ月だった。奏効割合はNI群で9.1%、N群で11.5%、P群で4.2%だった。奏効持続期間中央値はNI群で10.2ヶ月、n群で11.2ヶ月、P群で8.1ヶ月だった。参加者のうち、580人ではベースラインのTumor mutational burden(TMB)データが得られ、TMBが1Mbaseあたり13以上の患者集団では、P群に対してNI群で全生存期間が延長する傾向が認められた(ハザード比0.61、95%信頼区間0.39-0.94)。Grade 3-4の治療関連有害事象は、NI群の52.2%、N群の11.5%、P群の8.4%認められた。重篤な治療関連有害事象はNI群の37.4%、N群の6.1%、P群の2.9%で認められた。治療関連死はNI群で7人(横紋筋融解症1人、心筋炎1人、肝不全1人、辺縁系脳症1人、重症筋無力症1人、脳炎1人、免疫関連腸炎1人)、N群で1人(脳炎1人)、P群で1人(肺臓炎)認められた。

結論:
 ニボルマブ+イピリムマブ併用による維持療法は、進展型小細胞肺がんの初回化学療法後の生存期間延長効果を示さないことが分かった。
  

2021年03月23日

EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおける、PD-L1発現状態とEGFR阻害薬の効果、T790M出現頻度

 一言で結論を言ってしまうと、
 「EGFR遺伝子変異陽性肺がんでは、PD-L1発現割合が高いほど、EGFR阻害薬の効果は低下し、T790M出現頻度も低下する」
ということである。
 2019年の日本呼吸器学会総会、International Poster Discussionで国立台湾大学病院の先生がご発表されていた。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e959711.html
 幸い、そのときのパンフレットを発掘したので、再度勉強してみる。
 調べてみたら、しっかり論文化されている。
 今回は、要約は論文から抜粋し、図表は学会パンフレットから抜粋する。

The Impact of Pre-Treatment PD-L1 on Clinical Outcomes of Lung Adenocarcinoma Patients with EGFR mutations Receiving Targeted therapies

2019年 第59回日本呼吸器学会総会、International Poster Discussion


Association between programmed death-ligand 1 expression, immune microenvironments, and clinical outcomes in epidermal growth factor receptor mutant lung adenocarcinoma patients treated with tyrosine kinase inhibitors

Ching-Yao Yang et al., Eur J Cancer. 2020 Jan;124:110-122.
doi: 10.1016/j.ejca.2019.10.019. Epub 2019 Nov 21.

背景:
 PD-L1発現状態は、肺がん一般の免疫チェックポイント阻害薬療法に対する効果予測因子として確立している一方で、EGFR遺伝子変異陽性肺腺がんに対してはそれほど治療効果と相関しない。この件に関しては過去の研究では結論を出すに至っておらず、治療への反応性や治療耐性化に関する問題はほとんど扱われていない。今回の研究では、EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおけるPD-L1発現状態とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療効果、耐性化、その他関連する臨床アウトカムとの相関を評価することを主目的とした。また、EGFR遺伝子変異陽性肺がんの腫瘍微小環境とPD-L1発現状態の関係性について、探索的な検討を行った。

方法:
 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療を受けたEGFR遺伝子変異陽性進行肺腺がん患者から治療開始前に採取した腫瘍組織を用いて、Dako 22C3抗体を用いた免疫組織化学検査によってPD-L1発現状態を後方視的に検討した。

結果:
 153人の台湾人患者を対象とした。女性が58.9%、非喫煙者が75.8%だった。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による奏効割合、無増悪生存期間はPD-L1発現<50%の患者において有意に優れていた(奏効割合 / 無増悪生存期間中央値はPD-L1 0%の患者群では65.6% / 12.5ヶ月、PD-L1 1-49%の患者群では56.4% / 12.8ヶ月、PD-L1≧50%の患者群では38.9% / 5.9ヶ月、p<0.05)。多変数解析を行ったところ、PD-L1<50%は無増悪生存期間における独立した予後良好因子だった(ハザード比0.433、95%信頼区間0.250-0.751、p=0.003)。さらに、PD-L1発現が高い患者ほど、T790M耐性化変異出現頻度が低下していた(T790M出現割合はPD-L1 0%の患者群で53.7%、PD-L1 1-49%の患者群で35.7%、PD-L1≧50%の患者群で10%、p=0.024)。








  

2021年03月22日

OSI-FACT試験 PD-L1発現とEGFR阻害薬効果の関係

 EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者を対象に、オシメルチニブとその他の第一世代EGFR阻害薬(ゲフィチニブ / エルロチニブ)の有効性を検討したFLAURA試験。
 本試験については繰り返し取り上げたが、概ね以下の記事とそのリンクを見れば内容が分かるだろう。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e967135.html

 全体集団での解析では無増悪生存期間、全生存期間いずれもオシメルチニブの優越性が確認されたにも関わらず、日本人サブセット解析ではオシメルチニブの方がかえって劣っているような結果になった。
 2年目くらいまではオシメルチニブが勝っているものの、3年目になると逆転してしまう。

 日本人では薬剤性肺障害合併頻度、有害事象による治療中止割合がいずれも高く、このことが成績不振に関与しているのではないかとの意見がある。

 今回触れるOSI-FACT試験は、オシメルチニブは本当に日本人ではイマイチなのか、ということを検証する目的で立ち上がったレトロスペクティブ観察研究らしい。
 熊本、宮城、栃木、千葉、愛知、大阪、兵庫、和歌山、岡山の有志の先生方が協力して取り組んだとのこと。
 2018年8月から2019年12月に患者登録を行い、今回日本臨床腫瘍学会で発表されたデータのカットオフは2020年6月時点なので、まだまだ生存解析の結果が出るのには時間がかかる。


 発表された先生が強調していたのは、
①実地臨床ベースでも薬剤性肺障害の頻度が高いこと
②オシメルチニブの効果にPD-L1の発現状態が関わっていそうなこと
だった。

 ①については、以下に示すように、なんと4人に1人(25%)が薬剤性肺障害を理由に治療中止に追い込まれている。
 4人は薬剤性肺障害により亡くなられた様子。
 薬剤性肺障害の発現時期中央値は56日、範囲は7-477日で、少なくとも治療開始から2ヶ月は慎重に経過を見なければならない。
 その他の治療中止に至った有害事象をまとめても16%にしかならないので、いかに薬剤性肺障害が問題なのかがよくわかる。


 ②は、PD-L1発現割合が高くなるほど、オシメルチニブの治療効果が弱まる、ということらしい。



 ②の結果を見ていて、2019年の日本呼吸器学会で台湾の先生が発表されていた内容を思い出した。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e959711.html
 PD-L1の発現割合が高くなるほどEGFR阻害薬の効きが悪くなるという点は綺麗に符合している。
 幸い、発表当時のパンフレットを発掘したので、改めて次の記事でまとめておく。
  

2021年03月22日

KEYNOTE-604試験・・・悪くない結果だけど使えない

 進展型小細胞肺がんに対して、プラチナ製剤+エトポシド併用療法にペンブロリズマブを上乗せする効果を検証したKEYNOTE-604試験。
 無増悪生存期間、全生存期間双方を主要評価項目としてしまったがために、十分に有効な、少なくともアテゾリズマブやデュルバルマブと比肩する結果を残したものの、実地臨床では使えない治療である。
 日本臨床腫瘍学会で日本人サブセット解析の結果が報告されていた。
 こうしてデータを見てみると、日本人サブセットではペンブロリズマブとアテゾリズマブには甲乙つけがたい。
 関連記事は以下を参照。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e966769.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e968112.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e969016.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e982589.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e986347.html


Pembrolizumab plus etoposide and platinum as first-line therapy for extensive-stage SCLC: KEYNOTE-604 Japanese subgroup

JSMO2021, O11-4



  

2021年03月22日

LIBRETTO-001試験 前治療の効果は?

 日本臨床腫瘍学会総会で、LIBRETTO-001試験においてRET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん患者に対するSelpercatinib投与前に、どんな治療を受けていて、どんな効果が見られたか、という発表があった。
 LIBRETTO-001試験については以下を参照。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e982216.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e985296.html

 現時点でRET陽性肺がんに対する特異的治療ができない我が国で、Selpercatinibをはじめとした分子標的薬が使えるようになるまでに何をして凌ぐべきか、という点で参考になるかも知れない。

Efficacy and Safety with Selpercatinib in Patients with RET Fusion+ NSCLC: Analysis by Last Prior Systemic Therapy
JSMO 2021, MO4-7

 要点を表にまとめてみた。

 生存期間解析のデータがないが、奏効割合を見る限りでは、化学療法+免疫チェックポイント阻害薬が現時点での最善の選択肢ということだろう。

  

2021年03月17日

@Be study、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法第II相試験

 PD-L1発現≧50%、ドライバー遺伝子変異なし、ベバシズマブ使用可能、未治療進行非扁平上皮非小細胞肺がんの患者を対象にアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の有効性と安全性を検討したシングルアーム第II相@Be studyの結果が先日の日本臨床腫瘍学会総会で公表されていた。
 主要評価項目を満たし、第III相試験での検証を検討するとのこと。

 当然、この患者集団では、ペンブロリズマブ単剤療法との比較が必要となる。
 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e986810.html
 奏効割合は同等、無増悪生存期間はアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の方が優れていそうだが、全生存期間についてはアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の1年生存割合とペンブロリズマブ単剤療法の2年生存割合が同等である。
 ベバシズマブを上乗せしている分だけ、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の方が有害事象的にもコスト的にもmore toxicであり、対象患者の範囲もより狭められることを考えると、果たして第III相試験を計画する意義があるだろうか。





 そして、発表の中で興味深かったのは、最後の質疑応答の内容だった。
 免疫チェックポイント阻害薬+抗VEGF抗体併用というコンセプトを考え、各製薬会社に提案したとのこと。
 ペンブロリズマブを扱うMSDにペンブロリズマブ+抗VEGF抗体療法を提案するも受け入れられず。
 抗VEGF抗体を扱う中外・Rocheにペンブロリズマブ+ベバシズマブ療法を提案するも受け入れられず。
 中外・Rocheは、アテゾリズマブ+ベバシズマブ療法だったら、結果が早く出るような試験デザインだったら考えるよ、との回答だったとのことで、@Be studyが誕生したとのことだった。


  

2021年03月16日

KEYNOTE-189試験 日本人サブグループ解析・・・30ヶ月生存割合60%

 先日行われた日本臨床腫瘍学会総会で、KEYNOTE-189試験と、その日本人拡大コホート試験(KEYNOTE-189 Japan)からの日本人サブグループ解析の結果が公表されていた。
 KEYNOTE-189試験については、以下を参照。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e963871.html

 患者背景を見ると、男性・喫煙者が多いことがわかる。
 また、日本人患者集団では、PD-L1発現<1%の患者が60%含まれている。


 全体集団の追跡期間中央値が4年弱、日本人集団の追跡期間中央値が3年弱なので、得られるデータには限りがある。


 日本人集団におけるペンブロリズマブ+プラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法群の生存期間中央値が未到達で、30ヶ月生存割合が60%というのは、かなり期待できる数字だ。
 ほとんどの進行非扁平上皮非小細胞肺がんの患者に適応でき、かつこれだけの治療成績が得られるということに意義がある。


 PD-L1≧50%の患者は全員、PD-L1 1-49%の患者の2/3、PD-L1<1%の患者の半数が、約34ヶ月の追跡期間経過後もまだ生存しているということで、PD-L1発現が低い患者にも希望がある。


  

2021年03月16日

KEYNOTE-024試験 日本人における5年生存割合はなんと51%!

 がん細胞のPD-L1発現が50%以上の進行非小細胞肺がん患者を対象に、ペンブロリズマブ単剤療法の有効性を検証したKEYNOTE-024試験。
 5年生存割合が31.9%であることが2020年の欧州臨床腫瘍学会で公表され、以下の記事にした。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e980235.html


 ドライバー遺伝子変異のない進行非小細胞肺がん患者の32%、つまり3人に1人が5年生存することに、驚きを以て記事にした。 
 本試験では、化学療法群の66%が病勢進行後にペンブロリズマブに治療変更したとされており、化学療法群でも16.3%、つまり6人に1人は5年生存するということで、一般的な感覚からすると極めて良好な成績だった。
 化学療法群の成績がこれだけ良いことに、かえって後治療のペンブロリズマブの凄みを感じる。

 先日行われた日本臨床腫瘍学会では、KEYNOTE-024試験の日本人サブグループにおける5年生存割合が公表された。
 なお、日本人サブグループでは、PD-L1発現が90%以上の患者がペンブロリズマブ群21人のうち10人(48%)を占めていたとのこと。
 以下の図表に示すように、ペンブロリズマブ群の5年生存割合は51%と、2人に1人は5年生存していることになる。 
 また、化学療法群の73.7%が病勢進行後にペンブロリズマブに治療変更したとされているが、化学療法群の5年生存割合は21%で、5人に1人は5年生存している。


 さらに言えば、ペンブロリズマブを既定の35コース、つまり約2年間継続できた患者はペンブロリズマブ群21人中8人(38%)にのぼり、この患者集団の5年生存割合はなんと100%である。
 ちなみに、この8人のうち、3人は治療終了後に病勢進行に至ったそうだが、ペンブロリズマブを再投与したところ2人で再度病巣が縮小したそうだ。
 見方を変えれば、8人中5人は追加治療を必要としていないということでもある。


 こうなると、少なくともドライバー遺伝子変異陰性、PD-L1発現50%以上の進行非小細胞肺がん患者に対する病状説明の内容は、従来とはずいぶんと違ったものになってくる。
 進行非小細胞肺がんは治癒不能である、という病状説明の前提条件、果たしてこのままでよいだろうか。

  

2021年03月09日

NEJ-026 updated data

 2021年日本臨床腫瘍学会のPresidential Session 2でNEJ026試験のupdated dataが公表されていた。
 NEJ-026試験は、EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者を対象に、エルロチニブ+ベバシズマブ併用療法とエルロチニブ単剤療法の有効性を比較する試験であり、主要評価項目は無増悪生存期間とされていた。
 NEJ-026試験については、以前も取り上げたことがある。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e944390.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e974779.html
 主要評価項目は達成され、全生存期間も併用療法群50.7ヶ月、単剤療法群46.2ヶ月と、両群ともに極めて有望な結果を残している。
 切り口によって、捉え方はさまざまだろう。 

 こちらは、やや乱暴な一覧表。
 発表時のスライド内容を、表に作り直してみた。
 それぞれの臨床試験で患者背景がさまざまであるうえ、NEJ試験以外はどれも国際共同試験なので、単純な比較はできない。
 とはいえ、NEJ-009試験とNEJ-026試験の結果が魅力的なのは間違いない。


 グラフにするとさらにその印象が際立つ。


 後治療でオシメルチニブを使えたら(ということは、再生検でT790Mが陽性だった患者)、生存期間は長かった様子。
 不思議なことに、この患者集団で最も成績が良さそうなのは、エルロチニブ単剤群でT790M陽性になってからオシメルチニブを使えた患者らしい。


 プロトコール治療中、p0, p1, p2と3回にわたって血液検査を行い、循環腫瘍DNA(ctDNA)を検索した。
 p0はプロトコール治療開始前、p1はプロトコール治療開始から6週間経過後、p2はプロトコール治療開始後病勢進行確認時にサンプルを採取した。


 p0(-)、すなわち、プロトコール治療開始前の段階でctDNA陰性なら生存期間が長いのは、当たり前と言えば当たり前の話。
 p0(-)の患者集団同士ではPFSの差は1.8ヶ月程度だが、p0(+)の患者集団同士ではPFSの差が4ヶ月に拡大する。
 より予後不良のp0(+)の患者では、ベバシズマブの上乗せ意義があると考えてよいのかも知れない。


 p0(+)かつp1(-)の患者集団では、PFSの差が4.4ヶ月とのこと。
 しかし、p0(+)の患者が治療後にp1(-)となるかどうかを予測するのは不可能なので、p0の状態だけを確認すればベバシズマブを上乗せするかどうかの判断には事足りる。
 EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がんの患者のうち、リキッドバイオプシーでEGFR遺伝子変異が確認された患者では、積極的にベバシズマブやラムシルマブの上乗せを考慮してよいのかもしれない。


 こちらは、学会発表にはない内容だが、個人的な興味としてまとめてみた。
 RELAY試験(エルロチニブ+ラムシルマブ)は全生存期間のデータがないので今回は含めていない。
 とどのつまり、日本人のみを対象に絞った場合、EGFR-TKIを絡めたどの治療が有望なのか。
 興味深いのは、現在もっとも一般的に利用されているはずのオシメルチニブ単剤療法は、NEJ-009レジメンやNEJ-026レジメンはおろか、アファチニブやダコミチニブといった第2世代EGFR-TKI単剤にも劣後している可能性が高いことである。
 さらに言えば、NEJ-026におけるエルロチニブ単剤よりも、FLAURAにおけるオシメルチニブ単剤の方が7ヶ月も全生存期間が劣っている。
 だからオシメルチニブよりもエルロチニブの方が優れているなどと言うつもりはないし、このこと自体が異なる臨床試験同士の、しかも副次評価項目のサブグループ解析同士を比較することの不適切さを示していると考えるが、それを差し引いてもオシメルチニブ単剤療法を見直すきっかけにはなるのではないか。
 治療初期の効果不足を背景にTPS>50%の患者集団におけるペンブロリズマブ単剤療法を見直して併用療法を考えるのであれば、生存期間延長の効果不足を背景にEGFR遺伝子変異陽性の患者集団におけるオシメルチニブ単剤療法をもまた、見直すべきではないだろうか。


 グラフにすると、いっそうそうした思いが強くなる。




  

2021年03月09日

ニボルマブ二次治療による5年生存割合:CheckMate017試験と057試験の統合解析

 ニボルマブによる二次治療で得られる5年生存割合が公表されている。
 ドライバー遺伝子変異のない進行非小細胞肺がんで5年生存割合が13-14%得られるというのは、一昔前からすると大きな進歩だ。
 そうではあるが、現在の趨勢を考えると、免疫チェックポイント阻害薬は一次治療から使われることが当たり前になって、二次治療で使うこと自体が既に少なくなっている。
 愕然とする。
 無増悪生存期間の延長を以て標準治療が書き換わることが当たり前になった証左だと思うが、きちんと全生存期間の追跡調査をして、現在の趨勢が本当に正しい方向に向かっているのかどうか見極める必要があるだろう。



Five-Year Outcomes From the CheckMate 017 and 057 Trials of Nivolumab vs Docetaxel in Previously Treated Patients With NSCLC

The ASCO Post, By Matthew Stenger
Posted: 2/8/2021 2:15:00 PM
Last Updated: 2/26/2021 4:12:58 PM

 治療歴のある進行肺扁平上皮がんに関する第III相CheckMate017試験、及び治療歴のある進行非扁平上皮非小細胞肺がんに関する第III相CheckMate057試験の統合解析結果がJournal of Clinical Oncology誌に発表された。これによると、5年生存割合はニボルマブ群で13.4%、ドセタキセル群で2.6%だったとのこと。既に報告済みの主要解析の結果、ニボルマブ群ではドセタキセル群に比して生存期間を延長することが報告されている。
 今回の統合解析では、プラチナ併用化学療法による一次治療後に病勢進行に至った854人の患者が対象となった。この中には、CheckMate017試験でそれぞれ無作為に割り付けられたニボルマブ群135人、ドセタキセル群137人、およびCheckMate057試験で同じく無作為に割り付けられたニボルマブ群292人、ドセタキセル群290人が含まれた。ニボルマブ群では3mg/kgのニボルマブを2週間ごとに、ドセタキセル群では75mg/㎡のドセタキセルを3週間ごとに投与し、病勢進行もしくは忍容不能の毒性出現まで継続された。主要評価項目は両試験ともに全生存期間だった。
 最短追跡期間、追跡期間中央値はCheckMate017試験で64.2ヶ月、69.5ヶ月、CheckMate057試験で64.5ヶ月、69.4ヶ月だった。
 全対象患者のうち、ニボルマブ群427人中50人、ドセタキセル群427人中9人が解析時点で存命であり、5年生存割合はニボルマブ群で13.4%、ドセタキセル群で2.6%だった。生存期間中央値はニボルマブ群で11.1ヶ月、ドセタキセル群で8.1ヶ月だった(ハザード比0.68、95%信頼区間は0.59-0.78)。
 肺扁平上皮がんの患者における5年生存割合はニボルマブ群で12.3%、ドセタキセル群で3.6%、非扁平上皮肺がんの患者における5年生存割合はニボルマブ群で14.0%、ドセタキセル群で2.1%だった。PD-L1発現が1%以上の患者集団における5年生存割合は、ニボルマブ分で18.3%、ドセタキセル群で3.4%、1%未満の患者集団における5年生存割合はニボルマブ群で8.0%、ドセタキセル群で2.0%だった。
 5年無増悪生存割合はニボルマブ群で8.0%、ドセタキセル群で0%だった。
 ニボルマブ群のうち、2年無再発だった患者(n=45)の5年無再発生存割合は59.6%、5年生存割合は82%だった。同じく、3年無再発だった患者(n=29)の5年無再発生存割合は78.3%、5年生存割合は93.0%、4年無再発だった患者(n=25)の5年無再発生存割合は87.5%、5年生存割合は100%だった。ドセタキセル群では、2年無再発だった患者(n=4)、3年無再発だった患者(n=1)の5年無再発生存割合、5年生存割合はいずれも0%で、4年無再発だった患者はいなかった。
 3-5年の追跡期間中の治療関連有害事象は、ニボルマブ群31人のうち8人(25.8%)に認められ、このうち7人はこの期間内に発生した新規の有害事象に見舞われた。ほとんどの有害事象はGrade 1ないしは2の軽微なものだったが、1件だけGrade 3のリパーゼ上昇を認めた。残る有害事象は、下痢が2件、無力症1件、低リン酸血症1件、皮膚合併症5件、記憶力障害1件、混迷1件、ほてり1件だった。


  

2021年03月04日

tasuki-52 trial 日本人サブグループ解析

 日本臨床腫瘍学会総会が先日開催された。
 ありがたいことに、今月末まではオンラインで閲覧可能とのことなので、暇を見つけて勉強する。

 今日取り上げるのは、ONO-4538-52 / TASUKI-52試験。
 小野薬品工業からプレスリリースが発出された時点で、過去に一度取り上げた。
 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e979186.html

 未治療進行非扁平上皮非小細胞肺がん患者で、ベバシズマブの治療対象となる条件を満たし、EGFR / ALK遺伝子変異のない人が対象である。
 標準治療のひとつであるカルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ併用療法にニボルマブを上乗せする意義を検証した試験である。
 ニボルマブを上乗せすることで、主要評価項目である無増悪生存期間を有意に延長し、少なくともこの患者群に対するカルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ併用療法は役割を終えたと考えていいだろう。
 現在主流である各種プラチナ併用化学療法+免疫チェックポイント阻害薬とどちらを選ぶかは、担当医判断に委ねられる。

 今回の発表は、日本人サブグループ解析の結果報告が目的だった様子。
 韓国、台湾から参加された患者のデータも含め、本試験の主要なデータをまとめておく。


  

2021年03月02日

IMpower133試験、updated data

 IMpower 133試験のupdated data。
 アテゾリズマブの上乗せ効果は、全生存期間で2か月、無増悪生存期間で1ヶ月と見ていいだろう。
 コストに見合った生存期間延長効果なのかどうかは、各自の判断で。
 現在治療している患者に使うかどうか悩んだが、限局型が病勢進行により進展型に変わったから、三次治療だけどアテゾリズマブを上乗せしました、という言い訳は通用しないだろうと思ったので、使用を見合わせた。

 結論にはPD-L1の発現状態やbTMBスコアによらずアテゾリズマブの上乗せ効果あり、という結論だったが、PD-L1≧5%、bTMBスコア≧16ならば、より生存期間延長効果が期待できるように感じられた。
 治療効果予測因子として有用なのではないだろうか。

 ネット上で海外の識者のコメントを見ていたら、以下のような点に言及されていた。
 アテゾリズマブを上乗せする意義は、維持療法に入ってから大きくなる、ということだろうか。
・CEA群、CEP群ともに、維持療法まで移行できた患者は80%程度いた
・維持療法に移行できるかどうかに関連する因子は年齢とPS
・維持療法に移行できた患者についてのみ検討すると、全生存期間はCEA群で15.7ヶ月、CEP群で11.3ヶ月
・維持療法に移行できた患者について、維持療法開始後の全生存期間はCEA群で12.5ヶ月、CEP群で8.4ヶ月


Updated Overall Survival and PD-L1 Subgroup Analysis of Patients With Extensive-Stage Small-Cell Lung Cancer Treated With Atezolizumab, Carboplatin, and Etoposide (IMpower133)

Stephen V. Liu, et al.
Journal of Clinical Oncology 39, no. 6 (February 20, 2021) 619-630.
DOI: 10.1200/JCO.20.01055
The ASCO Post, 2021/01/29

背景:
 IMpower133試験は、ランダム化二重盲検第I/III相試験であり、進展型小細胞肺がんの患者に対する初回治療として、カルボプラチン+エトポシド併用療法にアテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)を上乗せすることによって有意な全生存期間、無増悪生存期間延長効果が得られることを示した。今回は全生存期間、病勢進行時の経過、安全性、バイオマーカーに関する探索的検討(PD-L1、血液サンプルによるtumor mutational burden(bTMB))について最新のデータを報告する。

方法:
 未治療の進展型肺小細胞がん患者を対象に、1:1の割合でカルボプラチン(5AUC、day1)+エトポシド(100mg/㎡、day1,2,3)+アテゾリズマブ(1,200mg、day1)併用療法(CEA群)とカルボプラチン(5AUC、day1)+エトポシド(100mg/㎡、day1,2,3)+偽薬併用療法(CEP群)に無作為に割り付けた。治療は21日間隔で4コース行い、その後はアテゾリズマブもしくは偽薬の維持療法に移行し、忍容不能な毒性、病勢進行、あるいは臨床的有用性の喪失のいずれかのイベントが発生するまでは継続することとした。本試験に際し、腫瘍組織サンプルを参加患者から回収したが、試験登録に際してPD-L1発現状態は要求されなかった。主要評価項目は2つあり、担当医評価による無増悪生存期間および全生存期間とされ、中間解析時点で統計学的に有意な差が認められた。全生存期間の無増悪生存期間の追跡調査、探索的なバイオマーカー分析が計画された。

結果:
 患者総数は403人で、CEA群に201人、CEP群に202人が割り付けられた。
 中間解析時点では、観察期間中央値は13.9ヶ月で、全生存期間中央値はCEA群で12.3ヶ月、CEP群で10.3ヶ月(ハザード比0.70、p=0.007)、無増悪生存期間中央値はCEA群で5.2ヶ月、CEP群で4.3ヶ月(ハザード比0.77、p=0.02)だった。
最新の解析時点で、全生存期間に関する観察期間中央値は22.9ヶ月(CEP群で23.1ヶ月、CEP群で22.6ヶ月)、この間に全体のうち302人の患者が死亡した。全生存期間中央値はCEA群で12.3ヶ月(95%信頼区間は10.8-15.8ヶ月9、CEP群で10.3ヶ月(95%信頼区間は9.3-11.3ヶ月)(ハザード比0.76、95%信頼区間は0.60-0.95、p値は0.0154)だった。12ヶ月生存割合はCEA群で51.9%、CEP群で39.0%、18カ月生存割合はCEA群で34.0%、CEP群で21.0%だった。無増悪生存期間中央値はCEA群で5.2ヶ月、CEP群で4.3ヶ月(ハザード比0.77、95%信頼区間は0.63-0.95)だった。奏効割合はCEA群で60.2%、CEP群で64.4%(p=0.3839)、奏効持続期間はCEA群で4.2ヶ月、CEP群で3.9ヶ月(ハザード比0.67、95%信頼区間0.51-0.88)だった。
 臨床試験に参加した計403人の患者のうち、137人でPD-L1発現状態を評価可能だった。腫瘍細胞もしくは腫瘍浸潤免疫細胞のPD-L1発現状態により、PD-L1発現<1%の患者集団、≧1%の患者集団、≧5%の患者集団それぞれで生存期間中央値を比較したところ、<1%の患者集団ではCEA群で10.2ヶ月、CEP群で8.3ヶ月(ハザード比0.51、95%信頼区間は0.30-0.89)、≧1%の患者集団ではCEA群で9.7ヶ月、CEP群で10.6ヶ月(ハザード比0.87、95%信頼区間は0.51-1.49)、≧5%の患者集団ではCEA群で21.6ヶ月、CEP群で9.2ヶ月(ハザード比0.60、95%信頼区間は0.25-1.46)だった。
 臨床試験に参加した計403人の患者のうち、346人でbTMBが評価可能だった。bTMBスコアのカットオフ値を10、16に設定して検討した。bTMBスコア10未満と10以上の患者集団でECA群とCEP群の全生存期間に関するハザード比を算出したところ、それぞれ0.73(95%信頼区間は0.49-1.08)および0.73(95%信頼区間は0.53-1.00)だった。同様に、bTMBスコア16未満と16以上の患者集団でECA群とCEP群の全生存期間に関するハザード比を算出したところ、それぞれ0.79(95%信頼区間は0.60-1.04)および0.58(95%信頼区間は0.34-0.99)だった。
 PD-L1発現状態、bTMBの状態にかかわらず、CEA群の方が予後良好だった。
 有害事象は、当初報告された内容と同様だった。副腎皮質ステロイド投与を要する免疫関連有害事象はCEA群の20.2%、CEP群の5.6%に認められた。頻度の高かった免疫関連有害事象は、皮疹(CEA群の20.2%、CEP群の10.7%)、甲状腺機能低下症(CEA群の12.6%、CEP群の0.5%)、肝炎(CEA群の7.6%、CEP群の4.6%)、インフュージョン・リアクション(CEA群の5.6%、CEP群の5.1%)だった。免疫関連肺臓炎はCEA群の2.5%、CEP群の2.6%に認められた。