2017年03月28日

PD-L1評価のため再生検したものの・・・

 原発性肺腺癌と診断したものの、PD-L1検索では「評価不能」と判定された患者さん、本人と家族の希望で3月14日に再生検を行った。
 まだ初回治療も行っていない、確定診断済みの患者さんに、PD-L1再評価のためだけに再生検をしたのは、生まれて初めてだ。
 それだけに結果にはこだわりたい。

 何が言いたいのかというと、検査受託の体制に関してである。
 前回12月のプレパラート、今回3月のプレパラート、ともに全て自分で顕微鏡を覗いて、所見を確認した。
 前回は6検体中4検体、今回は10検体中5検体で腫瘍組織が含まれていた。
 しかし、今回よりも前回の方が、明らかに腫瘍組織含有量や細胞異型が強く、前回の標本の方がむしろPD-L1評価に適しているように感じた。

 PD-L1の検査を受託している某社に問い合わせたところ、以下のような回答だった。
・PD-L1の評価をしている八王子の拠点では、預かった組織ブロックを薄切してPD-L1の評価はするものの、腫瘍組織が含まれているかどうかまでは事前に確認していない
・複数の組織ブロックを預かっても、その中の1検体しか評価しない
・複数の組織ブロック全てに対して検査をするのなら、組織ブロックの数だけPD-L1検査の検査料をもらうことになる

・・・首をかしげてしまった。
 検査を依頼する立場としては、確実に結果を得たいために虎の子の組織ブロックを全て某社に送ったわけだ。
 しかし、某社の方では、その中に腫瘍組織が含まれているかどうか、どのブロックがもっともPD-L1評価に適しているのかの検討をしておらず(検討してくれたものと信じたい)、もしかすると複数ある組織ブロックのうち、腫瘍が含まれていないものをわざわざ選んで評価をされたのかも知れない。
 PD-L1免染前に検討していれば、腫瘍組織含まれていないことが判明した段階でその旨を連絡してくれるのが筋だろう。
 それでは、ということで、今度はどのブロックに腫瘍組織が含まれているのかまで明らかにしたうえで、そのブロックを削り出してまとめて評価をしてもらおうとしたところ、営業所レベルの判断ではそれはできない、ということだった。

 われわれ臨床家は、検査の合併症のリスクを冒してでもできるだけ多くの組織検体をとろうとしているのに、最終評価の段階でその努力が台無しにされるのであれば全く受け入れられない。
 腫瘍組織が含まれる複数の薄切切片を1枚のプレパラートにマウントして評価するくらいの心遣いがあっていいのではないだろうか。

 あまりにもやるせなくなったので、上記のような対応を取ってもらえるように検査拠点に直接連絡を取って直談判した。
 某社で病理組織診断を改めてしてもらい、腫瘍組織が含まれる切片を併せて薄切し、複数の検体をまとめてPD-L1評価してもらえるように依頼した。
 念のため、前回の組織ブロック・今回の組織ブロック、両方合わせて提出するつもりだ。

 これでダメならTBLB検体でのPD-L1評価は極めて困難だということになる。
 ここまで高いハードルだとは予想していなかった。
 全部合わせて15ケ以上の組織切片を採取して結果が得られないのであれば、諦めざるを得ない。
 しかし、多分にcommecial based PD-L1検査の黎明期だからこその問題が多いのだろうと感じた。

 今後は、通常の病理組織検診断の段階から一括して外注に出し、診断時点でPD-L1やALK-IHC用の組織切片もまとめて切り出してもらうことにする。
  

Posted by tak at 19:19Comments(2)検査法

2017年03月23日

画像診断(所見)見落とし つづき

 先日標記の話題を取り上げたが、日経メディカルに詳報が掲載されていた。
 日経新聞よりも詳しく記載されており、これによると直接死因は肺がんではなく肝硬変ではないかと考えたくなるが、だからといって見落としの事実が正当化されるわけではない。
 新聞記事だけを読んでいると、
 「肺癌が見落とされたために、肺癌の進行がもとで患者が死亡した」
と誤解しかねない。
 今回の記事と、過去の関連記事を併せて引用する。

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リポート◎指摘の見落とし、連携不足、多忙など改善点は多く
< 画像診断報告書の確認漏れが起こる理由 >
2017/3/23

 昨年末、名古屋大学附属病院(石黒直樹院長)は、胸部の画像所見が共有されなかったことから肺癌の診断・治療が3年遅れた事例について調査報告書を公表した。患者は、外耳道癌と診断され治療を受けた80歳代女性で、最終的に肺癌の増悪によって死亡した。同病院は、この事例に対する診療行為が不適切だったと認め、遺族に対して説明し謝罪した。

 この事例では、主治医の確認ミスが明らかだった。また、そのミスをチェックすることができたはずのカンファレンスが機能していなかった点も問題視された。主治医の所属する診療科は年度末のため診療に当たる医師が少なく、これに長時間の手術が重なったため、主治医が定例のカンファレンスに出席できず代行の医師も立てられなかったとみられている。


<「肺癌の疑い」を1年間放置、患者は死亡>

 名大病院に続き、今年2月には、東京慈恵会医科大学附属病院(丸毛啓史院長)で、画像診断報告書の重要情報が共有されずに1年間放置された事例が発覚。同病院は2月4日、この事例の経過と発生要因の分析、さらには現時点での対応と改善策を公表した。

 事例の経過はこうだ。患者は50歳代男性で、C型肝炎で同病院の消化器科・肝臓内科に通院していた。2015年10月に、高度の貧血を認めて緊急入院となり、上部消化管出血を疑った当直医は、胸腹部CT検査を実施。その結果、画像診断報告書に「右肺尖部濃度上昇;悪性腫瘍否定にも短期間でのフォローが望まれる」との記載があったことから、当直医は入院診療録に「右肺尖部濃度↑」と記載するとともに、翌朝の申し送りで口頭で伝えたという。しかし、入院主治医チームは、当直医の入院診療録の記載や画像診断報告書を確認することはなかった。入院主治医チームは消化管出血の診療に専念し、症状が軽快したため患者を退院させた。

 退院後、患者は消化器・肝臓内科の外来に月1回の頻度で通院していた。この間、呼吸器関連の自覚症状はなかったという。

 2016年10月、患者は肝硬変に関連すると考えられる腹水貯留を精査し治療するために同病院に入院。発熱、咳が出現したため胸部X線検査を実施したところ、右上肺にすりガラス陰影を認めたことから、同月に胸部CT検査が行われた。その画像診断報告書には、「右肺上葉の原発性肺癌、右肺・縦隔にリンパ節転移が疑われ、左肺尖部にも原発性肺癌」という所見が記されており、この時点で肺癌と確認された。結局、肺癌との診断に至ったのは、「右肺尖部濃度上昇」という重要情報が得られてから1年後のことだった。

 この段階で主治医は患者・家族に対し、「今回のCT検査で肺癌の所見があり、現時点では、肝硬変の悪化もあり、肺癌の治療は困難である」と伝えていた。この1カ月後には「1年前の救急入院時のCT検査においても肺癌の可能性が指摘されている」と説明。「この指摘を主治医側がきちんと受け止めず、結果として肺癌の発見が遅れてしまった」とした上で、「その時点(1年前)であれば、肺癌の外科的措置の可能性があった」とし肺癌発見の遅れを謝罪している。

 その後、2016年末に患者は発熱と呼吸困難感が出現したため救急入院となった。肺癌に加え、肝硬変の悪化も伴う重篤な状態が続き2017年2月に死亡した。

<確認漏れは様々な診療科で発生>

 この事例では、「肺癌の疑い」という当直医が発した情報が、入院主治医チームばかりか外来主治医にも伝わっていなかった。このため同病院は、2月段階での対応として、「院内での事例の共有・注意喚起」を挙げ、(1)全診療部を対象に診療部ごとに画像診断リポートの確認・共有対策について集中検討会を実施、(2)セーフティマネジャーを介した啓発、(3)全診療部門診療部長が参加する診療部会議での注意喚起――を実施することを表明した。

 また改善策としては、診療情報の共有を確実にするためのワーキンググループの立ち上げ、予防対策の立案に取り組むとしている。同病院内の過去の事例や日本医療機能評価機構が指摘している問題点を検討し、特に(1)画像診断部から担当医へ直接連絡する場合の基準引き下げと確実な情報共有、(2)各種診断結果についてのダブルチェックと時間差チェック体制の構築、(3)読影確認ボタンを押す人の限定化、(4)画像診断結果の識別度の向上、(5)紙印刷による結果の共有、(6)救急担当医と入院担当医、当直医と入院担当医、入院担当医と外来担当医など、担当医師の交代時に用いる連携引き継ぎシート(ハンドオフシート)の作成と必須化――を挙げ、継続して議論するとしている。

 同病院は現在、外部の有識者を交えた調査委員会を立ち上げ、再発防止策を吟味している段階だ。より具体的な再発防止策については、調査委員会の結果を待たなければならない。

 日本医療機能評価機構が行っている医療事故情報収集等事業のデータベースを基に画像診断報告書の見落とし事例を探索したところ、編集部が調べた2017年3月時点で9件存在した。発生日時が非公開のため時系列の解析はできないが、事例の背景情報は以下のとおりだった。

 発生場所は、外来診察室が7件、病室と救急外来が1件ずつ。関わっていた診療科は、血液内科、麻酔科、循環器内科、外科、眼科、耳鼻咽喉科、内科(腎臓内科)、消化器外科、呼吸器内科、心臓血管外科、肝胆膵外科、神経科と多岐にわたっていた。画像診断報告書の見落としは、様々な診療科で発生しているようだ。

 それぞれの発生要因を見ていくと、「確認を怠った」が全例で指摘されており、コンピューターシステムの不備、診療科間の連携不足、確認ルールの不備なども上がっていた。また、「勤務状況が繁忙だった」も2件で指摘されていた。画像診断報告書の見落としが生じる要因は様々で、改善点も多岐に及ぶことをうかがわせる。


<医師と診療情報管理士による第三者チェック>

 解決に向けた取り組みの1つとして、愛知県小牧市の小牧市民病院(谷口健次院長)の例を紹介したい。同病院では医師と診療情報管理士によるチェックシステムを構築し、主治医による画像診断報告書の確認漏れを防ぐ取り組みを続けている。

 きっかけは3年ほど前。谷口氏が副院長として医療安全を担当していた時に、報告書の内容が確認されず診断の遅れを生じた可能性のある事例が相次いだ。このような事例は、2014年6月時点で4件確認されたという。

 同病院ではCT、MRI、核医学の3つの検査で、放射線科医師が画像診断報告書を作成している。相次いだ確認漏れ事例はいずれもCT検査の報告書で、悪性疾患が疑われる所見を主治医が確認しておらず、診断までに半年以上が経過していた。4件の発生要因は様々で、いずれの事例においても、画像診断報告書の確認不足を防ぐための対策が十分ではなかった。

 さらに、画像診断報告書の所見に基づいた診断に至らなかった原因と分析をしたところ、(1)報告書の確認不足、(2)担当医の画像診断の不十分さ――の2点が浮かび上がった。(1)では、担当医が報告書を全く読んでいなかった事例や、報告書は読んでいるが検査の主目的に関連する部分しか読んでいなかった事例が確認された。また(2)では、主な疾患に関連する所見や自分の専門領域の所見しか読影していなかった事例があった。

 これらの検討から、担当医は検査の主目的に関する所見以外に、偶然に指摘された所見を見落とす傾向があることや、担当医自身の読影は専門領域以外では不十分になりやすいことが明らかになった。その対策として、「画像診断報告書で指摘された異常所見が診療内容に反映されているかどうかを、第三者によりチェックする仕組みが必要と考え、まずCT検査で取り組んだ」(谷口氏)。

 具体的には、(1)診療情報管理士とチェック担当医師が、検査翌日までに、報告書の一覧から臨床上問題となる新たな異常所見が指摘されているものを選別する、(2)診療情報管理士とチェック担当医師が、異常所見が診療記録に反映されているかどうか、カルテを参照しながら確認する、(3)確認は検査翌日に行い、その後は2、4週間後をめどに異常所見が診療録へ反映されるまで継続する、(4)早急な対応が必要と考えられる場合、あるいは担当医による確認が不十分と判断される場合は、医療安全管理を担当する副院長から直接、担当医に連絡して対応を促し、報告書の確認を徹底するよう指導する――というものだ。

 診療情報管理士とは、四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)と医療研修推進財団が認定している民間資格のこと。日本病院会が認定した大学、専門学校でも育成が行われている。診療記録や診療情報を管理しそれらの情報を活用することで、医療の安全管理や病院の経営管理に貢献する専門的な職業と位置付けられている。改称される前の診療録管理士も含めると、認定者は全国で3万人を超えている。

 小牧市民病院では、第三者がチェックする仕組みを導入してから1年間に4万38件のCT検査があり、そのうち報告書の確認不足と判断して主治医に連絡した事例は99件だった。これらの内容を吟味したところ、悪性疾患の治療の遅れを生じかねない事例は11件だった。つまり、第三者のチェック体制を取り入れたことで、1年間で11件の見落としにつながり得る事例を回避できたことになる。

 谷口氏は、「当院での取り組みは、報告書の確認不足をチェックするだけでなく、医師に情報を提供し指導することで、報告書の所見の重要性を再認識してもらうことも目的」と話す。チェックシステムの導入から2年余りとなるが、報告書の確認不足事例は着実に減少しており、2014年以降、報告書の内容が確認されず診断の遅れを生じた可能性のある事例は発生していない。

 「必要に迫られて見切り発車的にスタートしたため、方法としては効率面も含め発展途上であることは否めない」と話す谷口氏は、今後も試行錯誤を繰り返しながら適宜修正し、画像診断報告書の確認不足の解消に努めていきたいと語っている。



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画像所見共有されず、術前カンファレンスも機能せず
< 名大病院、肺癌診断・治療が3年遅れた事例公表 >
2016/12/28


 名古屋大学附属病院(石黒直樹院長)は12月26日、胸部の画像所見が共有されなかったことから肺癌の診断・治療が3年遅れた事例について調査報告書を公表した。患者は、外耳道癌と診断され治療を受けた80歳代女性で、最終的に肺癌の増悪によって死亡した。同病院は、この事例に対する診療行為が不適切だったと認め、遺族に対して説明し謝罪したことも明らかにした。

 報告書によると事実経過は表1のようになる。この中で調査委員会は、以下のような不適切な診療行為があったことを認めている。

 まず、放射線科医による左肺上葉結節影という所見がありながら、その情報が耳鼻咽喉科の診療チーム内で活用されなかった点だ。主治医は、放射線科医師が作成したFDG-PET画像診断報告書の所見のうち、外耳道癌の遠隔転移・リンパ節転移はないという記載を確認した後に根治手術を行うことを予定していた。しかし、同時に記載されていた「左肺に2カ所陰影があり、炎症性変化を疑うものの原発性肺癌の可能性を否定できない」という記載については、「当時の記憶がない」と話したという。

 また、主に外耳道癌の進行度やリンパ節・遠隔転移の有無を把握するために中内耳造影CT検査も行われており、その結果、外耳道癌の局所の浸潤や頸部リンパ節転移は認めなかったものの、左肺の陰影は指摘されていた。しかし主治医は、所見欄の「肺癌は否定できない」との記載についても、内容を確認したかどうかは記憶が定かでなかったという。

 さらに、科長など診療責任者が参加する術前カンファレンスがあったにもかかわらず、今回の事例はカンファレンスで検討されていなかった。年度末で勤務医師が少なく、他の長時間にわたる手術が行われていたこともあって、主治医がカンファレンスに参加できなかったという。代行者を用意するなどの対応もされていなかったことから、報告書は「耳鼻咽喉科における術前カンファレンスが形骸化していた可能性を否定できない」と指摘し、同科のガバナンス体制が不適切だったとした。

 結局、こうした不適切な診療行為が重なった結果、肺癌を示す情報がありながら、患者・家族に手術を含めた治療の選択肢が与えられなかった。この点について調査委員会は「標準的な対応とは言えない」とし、「患者の治療選択の可能性を閉ざしたものであり、不適切だった」とまとめている。 なお、肺癌の診断遅れによる生命予後への影響については、正確に評価することは難しいとしつつ「適切な時期に手術が施行されていたら、ある程度の長期生存が望めた可能性があった」と言及している。

<肺癌の診断・治療が3年遅れた事例の経緯(名古屋大学病院の事例調査報告書を基に作成)>
2010年4月20日
・左耳痛を主訴に名大病院耳鼻咽喉科を受診
・CT撮影により左耳介軟骨炎と診断し投薬治療を開始
・左耳痛が改善せず、同科を複数回受診、投薬治療が行われた
2011年1月31日
・外耳道軟骨部後壁に軟骨様の硬さの2cm程度の腫瘤を認める
・検査の結果、外耳道癌と診断
2011年2月8日
・外来担当医師が患者に告知
2011年2月25日
・癌転移検索のためFDG-PETを実施
・放射線科医師が「左外耳道後壁に淡い集積(SUVmax0.8)を伴う壁肥厚あり。リンパ節転移や遠隔転移を疑う異常集積なし。左肺上葉S3末梢に19mm大の腫瘤性病変あり。左肺上葉S1+2の気管支周囲にも斑状のスリガラス陰影あり。SUVmaxは 1-1.5程度。炎症性変化の疑いだが、肺癌の可能性を否定できない。左外耳道癌については転移を指摘できない。左肺上葉結節影については精査下さい」という趣旨の画像診断報告書を作成(写真1参照)
・主治医は、指摘された左肺上葉結節影については患者への説明や精査をしないまま、外耳道癌について頸部リンパ転移を認めない局所病変と判断し手術を提案。患者は手術を選択した
2011年3月10日
・主に外耳道癌の進行度やリンパ節・遠隔転移の有無を把握するために、中内耳造影CT検査が行われる
・その結果、外耳道癌の局所の浸潤や頸部リンパ節転移は認めなかったものの、左肺の陰影の指摘はされていた
2011年3月28日
・定例カンファレンスで検討されるはずだったが、主治医不在のためこの症例は検討されず
2011年3月30日
・耳鼻咽喉科内での共有・検討の機会がなく、他の医師のチェックを受けることもないままに入院
2011年4月1日
・外耳道悪性腫瘍手術を実施
・退院後に通院による耳の経過観察が行われる
2014年3月17日
・耳鼻咽喉科を予約受診。転移検索のための胸部CT検査を受ける
・CT検査の結果、肺腫瘍の指摘があり呼吸器内科を受診し、各種検査を受ける
・その結果、T2bN0M1b(肺転移)ステージIVの肺腺癌と診断される。この癌は、2011年2月25日のFDG-PETで指摘された陰影が増悪したものだった
・その後、医師と患者本人・家族で相談し、肺腺癌に対する積極的な治療をしないBest Supportive Care(BSC)を行うことに
2015年4月
・患者は同癌により死亡した


<画像診断報告書の視認性の改善も>

 調査委員会は、再発防止策も提言。患者を引き継ぐ際の情報共有体制の強化とガバナンスの向上のほか、画像診断報告書の視認性の改善も求めている。

 前者では、カンファレンスにおいて主治医・担当医が直接患者の臨床経過を総括し、参加した他の職員によるチェックを受け、さらに診療の責任者に治療方針の承諾を得るといった「本来のカンファレンス体制を構築しなければならない」と指摘している。

 一方、後者においては、報告書がパソコン画面上で閲覧されている点を踏まえた留意点を挙げている。現状、報告書は上部に全ての画像所見をまとめた「所見」が記載されている。その下部に要約である「impression」が配置されている(写真1)。この配置を逆にすることで、報告書の重要点の把握を優先するよう促すことが期待できるとしている。
  

Posted by tak at 08:38Comments(0)検査法

2017年03月21日

画像診断(所見)見落とし

 この記事にあるような火種は、日常診療のいたるところに潜んでいる。

 ここで触れられている「画像診断書」は、正しくは放射線診断医が作成する「画像診断結果報告書」のことだと思われるが、この書類が出来上がるのは、場合によっては検査翌日以降になることもある。
 夥しい数の検査に追い立てられて、放射線診断医は大変なのだ。

 たとえば、呼吸器内科医が肺気腫の診療のためにCTを撮影した際、たまたま撮影範囲に入った肝臓に異常所見が隠れている、なんてことも無くはないだろう。
 同様に、胸部大動脈解離に対して大動脈ステントを留置し、その経過観察のために撮影したCTで肺がんを思わせる影が見つかることも無くはないだろう。

 「人間はみな自分の見たいものしか見ようとしない」というカエサルの言葉は、CTの画像を眺めるとき、とても腑に落ちる。
 肺気腫を見ている呼吸器内科医の大部分は、あまり細かく腹部の所見を見ない。
 見落としのリスクは高いだろう。
 そこを補完してくれるのが、放射線診断医の画像診断結果報告書だ。
 自分の眼力を過信せず、虚心坦懐に目を通すようにしたい。


<日本経済新聞2017年3月18日朝刊より>
 某病院で肺がんの疑いがあると指摘された男性(2月に死亡)の画像診断書が約1年間放置された問題で、医療事故の遺族らで作る市民団体「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」が17日、厚生労働省に再発防止に取り組むように要請した。
 男性は2015年10月に受けたコンピューター断層撮影装置(CT)検査で肺がんの疑いがあるとされた。だが、主治医は画像診断書を十分に確認せず肺がんの疑いがある事実を見落とした。昨年10月の再入院で肺がんと判明するまで治療がなされず、男性は2月に亡くなった。同病院もミスを認めている。 
 要請後に記者会見した連絡協議会のメンバーは、
 「医療従事者は、見落としなどのケアレスミスが重大事故につながるということを肝に銘じ、医療安全に対する意識を高めて共有してほしい」
と強調した。
 男性の長男も会見に同席し、
 「遺族を社会的に支援する枠組みも必要」
と主張。男性は05年に別の病院で点滴用カテーテルの誤挿入後に妻を亡くしており、長男は、
 「両親の犠牲を無駄にしないためにも、単純な医療ミスをなくすための取り組みを強化してもらいたい」
と語った。  

Posted by tak at 21:05Comments(0)検査法

2017年03月15日

脂質異常症の薬と小細胞癌

 もう10年も前のことになるが、術後補助治療として血小板凝集を抑制する薬を使うと再発が抑えられるのではないか、試しにレトロスペクティブな検討をして、アスピリン製剤を服用している人といない人を比べてみようかと考えたことがある。
 アスピリンは虚血性心疾患や脳梗塞など、動脈硬化に起因する血栓症の再発予防薬だが、脂質異常症の治療薬であるスタチン類も動脈硬化の抑制効果があることが広く知られている。
 しかし、がん患者における前向き臨床試験では、期待されながらもスタチンの生存期間延長効果が示されておらず、今回英国から報告された研究でも、改めてスタチンの上乗せ効果がないことが示されている。
 こうした、本来がんに対する治療薬ではないものをがん治療に応用しようという試みは、なかなかうまく行っていない。
 かつては、小細胞がんに亜硝酸薬を用いるという研究もあったが、実地臨床には用いられていない。
 腫瘍幹細胞を標的としたサラズスルファピリジンを用いた臨床試験は、その後どうなったのだろう。



UK Trial Shows No Survival Benefit in Adding Pravastatin to Standard Chemotherapy in Small Cell Lung Cancer

By Matthew Stenger
Posted: 3/13/2017 10:14:11 AM
Last Updated: 3/13/2017 10:14:11 AM


Multicenter, Phase III, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial of Pravastatin Added to First-Line Standard Chemotherapy in Small-Cell Lung Cancer (LUNGSTAR)

Michael J. Seckl, et al., J Clin Oncol 2017
http://dx.doi.org/10.1200/JCO.2016.69.7391

 英国で行われたLUNGSTAR試験において、小細胞肺がん患者の標準化学療法に脂質異常症治療薬のプラバスタチンを上乗せしても生存期間延長効果がないことが示された。

 スタチン類を服用している患者では、がんによる死亡リスクが低下することが多くの大規模前向きコホート研究や患者データベースからのレトロスペクティブ研究で示されている。たとえば、膵がん患者の死亡リスク低下、乳がんの再発および死亡リスクの低下、食道がん、大腸がん、肺がん、あるいは全てのがん種における再発および死亡リスクの低下を示した研究がある。全てのがん種、前立腺がん、大腸がんを対象にしたものでは、メタアナリシスの報告もある。肺がん細胞株を用いた前臨床の研究では、スタチンを作用させることで浸潤能の抑制、細胞死の誘導、腫瘍増殖の抑制が認めたれたとするものもある。しかし、これまでに行われた4つの無作為化プラセボ対照比較試験では、がん患者に対するスタチンの有効性は示されていない。

 今回の二重盲権試験では、2007年2月から2012年1月にかけて、846人の限局型 / 進展型小細胞肺がん患者を英国の91施設から登録し、プラチナ製剤+エトポシド併用化学療法(3週ごと、最大6コース)に加えてプラバスタチンを2年間服用する群(422人)とプラセボを2年間服用する群(424人)の2群に無作為に割り付けた。放射線治療は、各施設の実地臨床に基づいて適用された。
 プロトコール治療に先立つこと12ヶ月以内にスタチンを使用していた患者、4週間以内にフィブラートを使用していた患者は除外した。結果として、スクリーニングされた患者のうち22%は、スタチン使用歴のために本試験に参加できなかった。主要評価項目は全生存期間とした。

 以下、(プラバスタチン群、プラセボ群)の背景因子を示す。
 年齢中央値:(63歳、64歳)
 男性:(52%、51%)
 ECOG-PS 0または1:(76%、75%)
 ECOG-PS 2または3:(24%、25%)
 限局型:(43%、43%)
 進展型:(57%、57%)
 原発巣と同側の胸水貯留:(25%、26%)
 原発巣と同側の鎖骨上リンパ節転移(23%、25%)
 カルボプラチン投与:(87%、91%)
 シスプラチン投与:(13%、9%)
 肝転移:(30%、28%)
 副腎転移(12%、13%)
 ほとんどの患者が喫煙者だった。

 経過観察期間の中央値は39.6ヶ月だった。プラバスタチン服用期間の中央値は8.6ヶ月、プラセボ服用期間の中央値は7.8ヶ月だった。プラバスタチン群の47.9%、プラセボ群の49.5%が胸部放射線治療を受けた(照射線量の中央値は前者が39Gy、後者が40Gy)。プラバスタチン群の48.1%、プラセボ群の48.8%が予防的全脳照射を受けた(照射線量の中央値はいずれも25Gy)。
 
 プラバスタチン群、プラセボ群において、生存期間中央値はそれぞれ10.6ヶ月 vs 10.7ヶ月(ハザード比1.01、p=0.90)、2年生存割合はそれぞれ14.1%、13.2%、限局型患者の生存期間中央値はそれぞれ14.6ヶ月 vs 14.6ヶ月、進展型患者の生存期間中央値はそれぞれ9.1ヶ月 vs 8.8ヶ月だった。ECOG-PS、年齢、性別、使用したプラチナ製剤の別、胸水の有無、リンパ節転移の状態、どの要素でサブグループ解析を行っても、治療群間の違いは認められなかった。
 無増悪生存期間中央値はそれぞれ7.7ヶ月 vs 7.3ヶ月(ハザード比0.98、p=0.81)1年および2年無再発生存割合はそれぞれ25.3% vs 24.2%、7.5% vs 7.2%だった。奏効割合はそれぞれ69.0% vs 69.1%だった。

 毒性は両治療群とも同等だった。すなわち、Grade 3以上の有害事象はそれぞれ81.2% vs 81.4%に認めた。好中球減少は44.9% vs 43.0%、白血球減少は15.1% vs 12.7%、倦怠感は14.9% vs 13.0%、筋痛・筋炎は18.0% vs 18.8%に認めた。

  

Posted by tak at 00:03Comments(3)化学療法

2017年03月02日

Durvalumabの第II相試験-ATLANTIC study

 Osimertinibとの併用療法で高頻度に間質性肺炎が出現したDurvalumab。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e852243.html

 単剤としての治療成績が報告されていた。
 主要評価項目が奏効割合なのでこの内容でも成り立つのかも知れないが、PD-L1高発現群を対照とするようにプロトコール改訂が行われたこと、観察期間中央値が短くて生存期間の評価にはまだ時期尚早であること、この種の薬の常として、無増悪生存期間の結果がかならずしも全生存期間の延長にはつながらないであろうことなど、注意しながら結果を見たい。
 また、無増悪生存期間の代わりに、症状コントロールやQoLに関する効果を見てみたい。

 それでも、3次治療以降に対象患者を敢えて設定した研究者の心意気そのものを評価したい。
 しかし、既治療に免疫チェックポイント阻害薬が使われていた場合、今回の結果を適用してよいのかどうか、みんな頭を悩ますところだろう。
 PD-L1発現のカットオフ値も、25%やら90%やらが出現している。
 免疫染色に使われる抗体は様々、その際のカットオフ値も1%、25%、50%、90%などとさまざま。
 カットオフ値を統一して、患者をきれいに二分してほしい。
 
 


Study Finds Durvalumab of Benefit in Advanced and Metastatic Non–Small Cell Lung Cancer

By Meg Barbor
February 10, 2017

2016 World Conference on Lung Cancer. Abstract PL04a.03. Presented December 7, 2016.

Reference
1. Garassino MC, Vansteenkiste JF, Kim J, et al: Durvalumab in ≥ 3rd-line locally advanced or metastatic, EGFR/ALK wild-type NSCLC. 2016 World Conference on Lung Cancer. Abstract PL04a.03. Presented December 7, 2016.


 Durvalumabは選択的で親和性の高い抗PD-L1モノクローナル抗体で、PD-L1とPD-1が結合するのを阻害する。PD-1/PD-L1抗体は進行非小細胞肺癌患者に有効だが、2レジメンの化学療法後に病勢進行に至った患者については、標準治療が乏しいことから、未だに予後不良である。
 ATLANTIC studyはオープンラベル、単アームの臨床試験で、プラチナ併用化学療法を含む少なくとも2レジメンの薬物療法を受けたIIIB/IV期の非小細胞肺癌患者を対象とした。開始当初は上記を満たす全ての患者を組み入れていたが、途中からPD-L1高発現の患者(腫瘍細胞の25%以上において、抗PD-L1抗体免疫染色により細胞膜が染色される患者)のみを対象にした。
 本試験では、独立した3群のコホートを設定されたが、2016年の世界肺癌会議では、コホート2のうち265人(PD-L1発現が<25%の群と≧25%の群)とコホート3のうち68人(PD-L1発現が≧90%の群)について結果が報告された。
 
 患者はDurvalumab 10mg/kgを2週間ごとに点滴静注され、最高12ヶ月まで治療を継続した。コホート2の患者のうち60%、コホート3の患者のうち40%が4レジメン目以降の治療としてDurvalumabを使用する、いわゆる"haevily treated"の患者だった。主要評価項目は奏功割合とした。
 患者背景はコホート2、コホート3ともほぼ同様だった。過去の治療レジメン数の平均は、コホート2では3.2レジメン(患者のうち20.8%は扁平上皮癌患者)、コホート3では2.6レジメン(29.4%は扁平上皮癌患者)だった。




 PD-L1発現が高い患者群(PD-L1発現腫瘍細胞数≧25%)では、奏功割合も高かった。しかし、なんらかの治療効果は全ての患者群で認められており、過去の治療レジメン数との関連はなかった。特筆すべきは、中枢神経系の転移巣を有する患者でも治療効果が得られたことだった。

 以下、(コホート3、コホート2のPD-L1発現≧25%群、コホート2のPD-L1発現<25%群)について述べる。
 奏効割合は、(30.9%、16.4%、7.5%)だった。Durvalumabの治療効果は持続的で、1年生存割合は(50.8%、47.7%、34.5%)だった。
 観察期間中央値は(7.0ヶ月、9.4ヶ月、9.3ヶ月)だった。
 無増悪生存期間中央値は(2.4ヶ月、3.3ヶ月、1.9ヶ月)だった。

 ほとんどの有害事象は軽微であり、治療の延期あるいは免疫抑制療法で対応可能だった。Grade3以上の治療関連毒性はコホート2の8.3%、コホート3の17.6%に認めた。しかし、治療中断につながるほどの毒性は、コホート2の3%、コホート3の1.5%に留まった。

 現在、Durvalumab単剤療法と、Durvalumabを含めた多剤併用療法の第III相試験が進行中である。