2016年02月27日
エベロリムスとカルチノイド
The U.S. Food and Drug Administration today approved everolimus (Afinitor) for the treatment of adult patients with progressive, well-differentiated nonfunctional neuroendocrine tumors of gastrointestinal or lung origin with unresectable, locally advanced, or metastatic disease.
Today’s approval was based on demonstration of improvement in progression-free survival in a multicenter, randomized (2:1), placebo-controlled trial of everolimus at 10 mg orally once daily plus best supportive care to placebo plus best supportive care.
以前も少し書いたかもしれませんが、神経内分泌腫瘍というカテゴリーの腫瘍があります。
われわれ呼吸器内科医にとっては、「カルチノイド」という疾患が挙げられます。
現在の分類上、肺から発生する腫瘍の中では「定型カルチノイド」「否定形カルチノイド」「大細胞神経内分泌癌」「小細胞癌」が神経内分泌腫瘍に含まれます。
「大細胞神経内分泌癌」や「小細胞癌」はいわゆる肺癌ですから、ある程度の治療体系が整っていますが、カルチノイドは手術ができるなら手術をする、できないならばサンドスタチンを用いて治療する、くらいしか治療体系が定まっていません。
米国食品医薬品局は、2016年2月26日、消化管および肺原発の神経内分泌腫瘍に対する治療薬として、Everolimusを承認した模様です。
EverolimusはmTOR阻害薬で、いまのところわが国では
1. 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
2. 膵神経内分泌腫瘍
3. 手術不能又は再発乳癌
4. 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫
5. 結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫
に対して使用可能となっていますが、今回のFDAの決定は、2.に関連した部分の適応拡大、ということになりそうです。
わが国でも比較的受け入れやすいのではないでしょうか。
ただし、Everolimusは我々呼吸器内科医にとっては、薬剤性肺障害や日和見感染症を起こしやすい、要注意の薬剤です。
本日行われた気管支鏡専門医大会でも、Everolimus投与中に発症したニューモシスチス肺炎の症例に関して発表がありました。
以下、ASCO Postから。
2016年2月26日、米国食品医薬品局は、進行・切除不能・高分化型・非機能性(ホルモン関連症状を呈していない)の消化管もしくは肺原発の神経内分泌腫瘍に対する治療として、Everolimus(アフィニトールTM)を承認した。本承認は、多施設共同無作為化(2:1割付)プラセボ対象比較試験において、Everolimus群がプラセボ群に対して無増悪生存期間を改善したことに基づいている。
本臨床試験は、切除不能 / 局所進行 / 進行性の高分化型・非機能性(これまでにカルチノイド症状を呈したことがない)消化管もしくは肺原発の神経内分泌腫瘍の患者302人を組み入れた。試験参加にさかのぼること6ヶ月以内に、明らかな病勢進行を認めていることが条件とされた。主要評価項目は、独立した評価機関による画像的RECIST評価に基づいた無増悪生存期間とされた。
無増悪生存期間中央値はEverolimus群11ヶ月、プラセボ群3.9ヶ月(ハザード比0.48、95%信頼区間0.35-0.67, p<0.001)だった。奏効割合はEverolimus群2%、プラセボ群1%だった。中間解析時点において、全生存期間に統計学的有意差は認められていない。
安全性の評価は、少なくとも1度の治療を受けた300人の患者を対象に行われた。Everolimusの治療継続期間中央値は9.3ヶ月で、64%の患者が6ヶ月、39%の患者が12ヶ月は治療を継続していた。
Everolimus群の患者のうち29%は有害事象により治療を中止し、70%は投与量の減量もしくは治療時期の延期が必要だった。Everolimus群の42%に重篤な有害事象が出現し、うち3人は有害事象により死亡した(心不全、呼吸不全、敗血症)。
頻度の高い有害事象(30%以上の発現率)は胃炎、感染症、下痢、浮腫、倦怠感、皮疹だった。また、頻度の高い血液生化学的異常(50%以上の発現率)は貧血、脂質異常、リンパ球減少、AST上昇、空腹時高血糖だった。
Today’s approval was based on demonstration of improvement in progression-free survival in a multicenter, randomized (2:1), placebo-controlled trial of everolimus at 10 mg orally once daily plus best supportive care to placebo plus best supportive care.
以前も少し書いたかもしれませんが、神経内分泌腫瘍というカテゴリーの腫瘍があります。
われわれ呼吸器内科医にとっては、「カルチノイド」という疾患が挙げられます。
現在の分類上、肺から発生する腫瘍の中では「定型カルチノイド」「否定形カルチノイド」「大細胞神経内分泌癌」「小細胞癌」が神経内分泌腫瘍に含まれます。
「大細胞神経内分泌癌」や「小細胞癌」はいわゆる肺癌ですから、ある程度の治療体系が整っていますが、カルチノイドは手術ができるなら手術をする、できないならばサンドスタチンを用いて治療する、くらいしか治療体系が定まっていません。
米国食品医薬品局は、2016年2月26日、消化管および肺原発の神経内分泌腫瘍に対する治療薬として、Everolimusを承認した模様です。
EverolimusはmTOR阻害薬で、いまのところわが国では
1. 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
2. 膵神経内分泌腫瘍
3. 手術不能又は再発乳癌
4. 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫
5. 結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫
に対して使用可能となっていますが、今回のFDAの決定は、2.に関連した部分の適応拡大、ということになりそうです。
わが国でも比較的受け入れやすいのではないでしょうか。
ただし、Everolimusは我々呼吸器内科医にとっては、薬剤性肺障害や日和見感染症を起こしやすい、要注意の薬剤です。
本日行われた気管支鏡専門医大会でも、Everolimus投与中に発症したニューモシスチス肺炎の症例に関して発表がありました。
以下、ASCO Postから。
2016年2月26日、米国食品医薬品局は、進行・切除不能・高分化型・非機能性(ホルモン関連症状を呈していない)の消化管もしくは肺原発の神経内分泌腫瘍に対する治療として、Everolimus(アフィニトールTM)を承認した。本承認は、多施設共同無作為化(2:1割付)プラセボ対象比較試験において、Everolimus群がプラセボ群に対して無増悪生存期間を改善したことに基づいている。
本臨床試験は、切除不能 / 局所進行 / 進行性の高分化型・非機能性(これまでにカルチノイド症状を呈したことがない)消化管もしくは肺原発の神経内分泌腫瘍の患者302人を組み入れた。試験参加にさかのぼること6ヶ月以内に、明らかな病勢進行を認めていることが条件とされた。主要評価項目は、独立した評価機関による画像的RECIST評価に基づいた無増悪生存期間とされた。
無増悪生存期間中央値はEverolimus群11ヶ月、プラセボ群3.9ヶ月(ハザード比0.48、95%信頼区間0.35-0.67, p<0.001)だった。奏効割合はEverolimus群2%、プラセボ群1%だった。中間解析時点において、全生存期間に統計学的有意差は認められていない。
安全性の評価は、少なくとも1度の治療を受けた300人の患者を対象に行われた。Everolimusの治療継続期間中央値は9.3ヶ月で、64%の患者が6ヶ月、39%の患者が12ヶ月は治療を継続していた。
Everolimus群の患者のうち29%は有害事象により治療を中止し、70%は投与量の減量もしくは治療時期の延期が必要だった。Everolimus群の42%に重篤な有害事象が出現し、うち3人は有害事象により死亡した(心不全、呼吸不全、敗血症)。
頻度の高い有害事象(30%以上の発現率)は胃炎、感染症、下痢、浮腫、倦怠感、皮疹だった。また、頻度の高い血液生化学的異常(50%以上の発現率)は貧血、脂質異常、リンパ球減少、AST上昇、空腹時高血糖だった。
2016年02月27日
OsimertinibとCeritinib
2月26日に開催された薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で、以下の薬の効能・効果が認められたとのこと。
・Osimertinib(タグリッソTM)
「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のEGFR T790M変異陽性の手術不能・再発非小細胞肺がん」の治療薬として了承
・Ceritinib(ジカディアTM)
「クリゾチニブ(ザーコリ)に抵抗性又は不耐容のALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の治療薬として了承
予想の通りなのですが、長い使用条件が付されています。
Osimertinibは、
1)EGFR遺伝子変異陽性(Exon 19 / Exon 21)を有し
2)既存のEGFR遺伝子変異阻害薬使用歴があり、なおかつ治療抵抗性となり
3)T790M変異陽性が確認された
4)手術不能・再発非小細胞肺がん
患者さんが対象です。
裏を返せば、初回診断時にT790M陽性だったとしても、初回治療からOsimertinibを使ってよい、ということにはなりません。
また、T790M陽性が確認されない限りは、使用できません。
T790Mをどのように確認するかは明記されておらず、コンパニオン診断やリキッド・バイオプシーの問題は先送りです。
これから再生検を行う動きが活発化しそうですが、診断する側の準備はまだ整っているとはいえません。
どの時点で再生検を考慮するのか、再生検をしてもT790Mが陰性だった場合にそこであきらめるのか、再挑戦するのか。
検査を行う医師は、「肺癌であるかどうか」「組織型はなにか」という議論を越えて、「遺伝子変異プロファイルがどのようになっているのか」を明らかにすることを求められていること、その結論が出せなければ検査をする意味がないことを肝に銘じて検査に望まねばなりません。
Ceritinibの使用条件も、現状を考えると悩ましいです。
J-ALEX studyが早期有効中止となったため、今後Alectinibが初回治療から使用され始める可能性が高いですが、CeritinibはあくまでもCrizotinib使用歴があることが前提条件です。
ALK陽性肺癌患者さんの治療シーケンスとして、
1)Crizotinib→Alectinib→Ceritinib
2)Crizotinib→Ceritinib→Alectinib
3)Alectinib→Crizotinib→Ceritinib
となることが考えられますが、J-ALEX studyの結果を踏まえれば、3)を選択することになります。
3rd lineまでCeritinibの出番はありません。
明記はされていませんが、ALK肺癌もいずれは再生検が求められ、その結果を踏まえて治療シーケンスを決めることになるでしょうね。
・Osimertinib(タグリッソTM)
「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のEGFR T790M変異陽性の手術不能・再発非小細胞肺がん」の治療薬として了承
・Ceritinib(ジカディアTM)
「クリゾチニブ(ザーコリ)に抵抗性又は不耐容のALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の治療薬として了承
予想の通りなのですが、長い使用条件が付されています。
Osimertinibは、
1)EGFR遺伝子変異陽性(Exon 19 / Exon 21)を有し
2)既存のEGFR遺伝子変異阻害薬使用歴があり、なおかつ治療抵抗性となり
3)T790M変異陽性が確認された
4)手術不能・再発非小細胞肺がん
患者さんが対象です。
裏を返せば、初回診断時にT790M陽性だったとしても、初回治療からOsimertinibを使ってよい、ということにはなりません。
また、T790M陽性が確認されない限りは、使用できません。
T790Mをどのように確認するかは明記されておらず、コンパニオン診断やリキッド・バイオプシーの問題は先送りです。
これから再生検を行う動きが活発化しそうですが、診断する側の準備はまだ整っているとはいえません。
どの時点で再生検を考慮するのか、再生検をしてもT790Mが陰性だった場合にそこであきらめるのか、再挑戦するのか。
検査を行う医師は、「肺癌であるかどうか」「組織型はなにか」という議論を越えて、「遺伝子変異プロファイルがどのようになっているのか」を明らかにすることを求められていること、その結論が出せなければ検査をする意味がないことを肝に銘じて検査に望まねばなりません。
Ceritinibの使用条件も、現状を考えると悩ましいです。
J-ALEX studyが早期有効中止となったため、今後Alectinibが初回治療から使用され始める可能性が高いですが、CeritinibはあくまでもCrizotinib使用歴があることが前提条件です。
ALK陽性肺癌患者さんの治療シーケンスとして、
1)Crizotinib→Alectinib→Ceritinib
2)Crizotinib→Ceritinib→Alectinib
3)Alectinib→Crizotinib→Ceritinib
となることが考えられますが、J-ALEX studyの結果を踏まえれば、3)を選択することになります。
3rd lineまでCeritinibの出番はありません。
明記はされていませんが、ALK肺癌もいずれは再生検が求められ、その結果を踏まえて治療シーケンスを決めることになるでしょうね。
2016年02月25日
あらためて、Osimertinibについて
Osimertinibに関する総括的な文献が手に入ったので、ざっと読み下してみました。
既によく知られていることから、あまり知られていなさそうなことまでいろいろと書かれていたので、思いつくままに箇条書きします。
参考になれば幸いです。
・第1世代のEGFR阻害薬(gefitnib, erlotinib)はEGFR感受性変異陽性患者によく効き、これら患者の初回治療として使われることが多い。
・第2世代のEGFR阻害薬(afatinib, dacomitinib)は変異を持たないEGFRも強力に阻害するために、下痢や皮疹といった有害事象がより問題となるが、第1世代の薬と同様に使用開始後いずれは薬剤耐性となる時期を迎える。
・第3世代のEGFR阻害薬は、EGFR阻害薬に対する耐性機序の50-60%を占めるとされるT790M変異と既存の感受性変異を治療標的として、さらには変異を持たないEGFRには干渉しないことも目標として開発された。
・米国FDAは、2015年11月に第3世代EGFR阻害薬であるOsimertinibを迅速承認した。
・FDAがOsimertinibを迅速承認するに当たり、対象患者は「EGFR阻害薬治療中もしくは治療後に病勢が進行し、FDAが承認したコンパニオン診断法によりT790M変異陽性と診断された、進行非小細胞肺癌患者」とされた。
・早期臨床試験における奏効割合や効果持続期間の結果を踏まえた(無増悪生存期間や全生存期間の延長効果があるかどうかの結論は出ていない)迅速承認であるために、以後の臨床試験結果で効果を検証し、承認が適切かどうかをいずれ改めて判断することを付随条件とした。
・Osimertinibは錠剤であり、食間・食後いずれのタイミングでの内服でも支障はない。
・嚥下困難の患者では、Osimertinibを50ml以下の水で溶解し、直ちに経管栄養チューブから投与する、という方法も可能である。
・Osimertinibは2015年9月には米国で優先審査の対象となり、欧州では2015年5月に迅速審査の対象となり、日本では2015年の第3四半期に優先審査の対象となった。
・Osimeritinibとdurvalumab(抗PD-1抗体)の併用第III相比較試験(CAURAL試験)は、間質性肺炎発症の報告を受けて、2015年10月現在では一時的に試験継続を見合わせている。
・Osimertinibを初回治療、二次治療、あるいは術後補助治療として検証する第III相臨床試験がいくつかの国で行われている。
・希少な固形がんを対象としたOsimertinibの効果と安全性を検討する第I相臨床試験が、米国と欧州の一部の国で行われている。
・2014年10月、アストラゼネカ社はケンブリッジ大学との間に、Osimertinibを含む各種の治療薬候補物質の開発に関するパートナーシップ契約を結んだ。
・2015年10月、アストラゼネカ社はイーライリリー社との間に、固形がんの患者に対するOsimertinib+Ramcilumab併用療法、Osimertinib+Necitumumab併用療法を開発することについての協議を始め、これらの臨床試験を実施するに当たっては、イーライリリー社が主導することが決定したが、費用負担や対象疾患についての取り決めはいまだ明らかにされていない。
・Osimertinibは新規の非可逆的EGFR阻害薬だが、L858R/T790M変異陽性のEGFRに対して、変異を持たないEGFRとの比較でほぼ200倍の親和性をもつ。
・Osimertinibは、EGFRのほかにHER2, HER3, HER4, ACK1, BLKに対しても阻害活性を示す。
・非小細胞肺癌患者の血清を用いた検討から、Osimertinib耐性化にはC797S変異が主に関わっていると考えられている。
・C797S変異のほか、HER2遺伝子増幅、METなどのバイパストラック、小細胞癌への転化、EGFRのリガンドの増幅(HGFなどを介したautocrineの増幅ということか?)といった機序が報告されている。
・これら耐性機序への対策として各種併用療法が検討されているが、Osimertinibと他のEGFR阻害薬の併用によりMET経路を介した耐性化を回避もしくは遅延させるデータ、OsimertinibとMEK1/2阻害薬であるselumetinibの併用によりMEK/ERK経路を介した耐性化を遅延させるデータが既に示されている。
・AURA試験の第I / II相部分において、Osimertinibの治療効果予測因子について検討されたが、生検組織でT790M陰性だった患者でも、血清中にT790M陽性DNAが検出された場合は、検出されなかった場合と比較して2倍以上の奏効割合(85% vs 33%)を示すことが示された。
・Osimertinibは内服後緩やかに吸収され、最高血中濃度にいたるまでの時間は6時間程度であり、1日1回の内服法で血中濃度が定常状態になるのは内服開始から22日目以後である。
・マウスの実験から、Osimertinib単回投与後の脳実質内濃度は血清濃度と比較して5-25倍にも上ることがわかっており、これはgefitinibと比べると10倍程度の脳移行率である。
・AURA試験の第II相部分とAURA2試験において、2人の患者が脳脊髄液中のOsimertinib濃度について検討されたが、定常状態での血清Osimertinib濃度に比較して、0.2-1.0%程度の濃度だった。
・Osimertinibの半減期は55時間程度である。
・Osimertinibは68%は便から、14%は尿から排泄される。
・高度の腎障害、肝障害を有する患者へのOsimertinibの安全性は確認されていない。
・Osimertinib使用中は避妊が推奨される。
・妊婦がOsimertinibを服用した場合、死産となる可能性がある。
・母乳栄養している場合、母親がOsimertinibを服用していれば母乳を中止すべきで、最終投与日から2週間は授乳を避けるべきである
・Osimertinibはプロトンポンプ阻害薬と併用しても問題ない。
・二次治療としてのOsimertinibの効果を検証したAURA試験において、T790M陽性患者における奏効割合と病勢コントロール割合はそれぞれ61%、95%であり、T790M陰性患者では21%、61%だった。
・AURA試験、AURA2試験の参加者を対象とした統合解析において、治療開始前に脳転移巣を認めた患者での奏効割合は62%、認めなかった患者での奏効割合は69%だった。
・EGFR阻害薬既治療の癌性髄膜炎合併患者を対象にOsimertinib 160mg/日内服の効果を検証する第I相試験(BLOOM試験)が進行中だが、初期段階の報告によると、11人中8人(73%)に画像上の改善所見を認め、治療開始12週後の評価がなされた6人の患者全てにおいて画像上の効果が持続していることが確認された。さらに、治療開始前に神経学的症状があった患者9人中5人(56%)において症状の改善が認められた。
・AURA試験のうち、一次治療でOsimertinibの投与を受けた患者では、全体の奏効割合、病勢コントロール割合、3ヶ月無増悪生存割合、6ヶ月無増悪生存割合はそれぞれ70%、97%、93%、87%だった。80mg/日の投与量では奏効割合は60%、病勢コントロール割合は93%で、160mg/日の投与量では奏効割合は80%、病勢コントロール割合は100%だった。
・Osimertinibの主たる有害事象は、下痢(47%)、皮疹(40%)、嘔気(22%)、食欲不振(21%)、皮膚乾燥(20%)である。
・下痢と皮疹は、用量依存性に頻度が増加する。
・その他に、頻度は低いが問題となる有害事象として、肺臓炎(2-3%)、QT延長(2-5%)、耐糖能異常(2-3%)、脳血管障害(0.5%)があげられる。
・米国では、肺臓炎、QT延長、心筋症に関連してOsimertinibの一次中止/永続的中止基準が設けられている。肺臓炎を示唆するような呼吸状態の悪化、0.5秒を超えるQT延長、無症候性でも10%以上の左室駆出率の低下を見た場合には一時中止し、明らかな肺臓炎の発症、致死的な不整脈を伴うQT延長、症候性の心不全を見た場合には永続的に中止する。
・コンパニオン診断法としては、cobas EGFR Mutation Test v2が採用されている。
・EGFR阻害薬既治療のT790M陽性患者を対象にOsimertinibの効果を検証する試験が、アジア太平洋地域(AURA17)やノルウェー(TREM試験)で行われている。
・EGFR阻害薬既治療のT790M陽性患者を対象に、Osimertinibとプラチナ併用化学療法の効果を比較する第III相試験(AURA3試験)が行われている。
・EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌患者を対象に、Osimeritinibと標準治療(gefitinib / erlotinib)の効果を比較する第III相比較試験(FLAURA試験)が行われている。
・各種の小分子化合物(Osimertinib, gefitinib, selumetinib)とdocetaxelをさまざまな順序で逐次併用する治療と、複数の免疫チェックポイント阻害薬を逐次併用する治療(tremelimumab→durvalumab)を、主要評価項目を完全奏効割合(!!)として比較する第IIa相試験が行われている。
・EGFR感受性変異陽性の完全切除後病理病期IB-IIIA期非小細胞肺癌患者を対象に、無病生存期間を主要評価項目として術後Osimeritinib療法とプラセボを比較する第III相試験(ADAURA試験)が行われている。
・・・afatinibのLUX-Lungシリーズ、nivolumabのCheckmateシリーズ、pembrolizumabのKEYNOTEシリーズさながらに、さまざまな臨床試験が同時進行で進んでおり、大変なことになっています。
既によく知られていることから、あまり知られていなさそうなことまでいろいろと書かれていたので、思いつくままに箇条書きします。
参考になれば幸いです。
・第1世代のEGFR阻害薬(gefitnib, erlotinib)はEGFR感受性変異陽性患者によく効き、これら患者の初回治療として使われることが多い。
・第2世代のEGFR阻害薬(afatinib, dacomitinib)は変異を持たないEGFRも強力に阻害するために、下痢や皮疹といった有害事象がより問題となるが、第1世代の薬と同様に使用開始後いずれは薬剤耐性となる時期を迎える。
・第3世代のEGFR阻害薬は、EGFR阻害薬に対する耐性機序の50-60%を占めるとされるT790M変異と既存の感受性変異を治療標的として、さらには変異を持たないEGFRには干渉しないことも目標として開発された。
・米国FDAは、2015年11月に第3世代EGFR阻害薬であるOsimertinibを迅速承認した。
・FDAがOsimertinibを迅速承認するに当たり、対象患者は「EGFR阻害薬治療中もしくは治療後に病勢が進行し、FDAが承認したコンパニオン診断法によりT790M変異陽性と診断された、進行非小細胞肺癌患者」とされた。
・早期臨床試験における奏効割合や効果持続期間の結果を踏まえた(無増悪生存期間や全生存期間の延長効果があるかどうかの結論は出ていない)迅速承認であるために、以後の臨床試験結果で効果を検証し、承認が適切かどうかをいずれ改めて判断することを付随条件とした。
・Osimertinibは錠剤であり、食間・食後いずれのタイミングでの内服でも支障はない。
・嚥下困難の患者では、Osimertinibを50ml以下の水で溶解し、直ちに経管栄養チューブから投与する、という方法も可能である。
・Osimertinibは2015年9月には米国で優先審査の対象となり、欧州では2015年5月に迅速審査の対象となり、日本では2015年の第3四半期に優先審査の対象となった。
・Osimeritinibとdurvalumab(抗PD-1抗体)の併用第III相比較試験(CAURAL試験)は、間質性肺炎発症の報告を受けて、2015年10月現在では一時的に試験継続を見合わせている。
・Osimertinibを初回治療、二次治療、あるいは術後補助治療として検証する第III相臨床試験がいくつかの国で行われている。
・希少な固形がんを対象としたOsimertinibの効果と安全性を検討する第I相臨床試験が、米国と欧州の一部の国で行われている。
・2014年10月、アストラゼネカ社はケンブリッジ大学との間に、Osimertinibを含む各種の治療薬候補物質の開発に関するパートナーシップ契約を結んだ。
・2015年10月、アストラゼネカ社はイーライリリー社との間に、固形がんの患者に対するOsimertinib+Ramcilumab併用療法、Osimertinib+Necitumumab併用療法を開発することについての協議を始め、これらの臨床試験を実施するに当たっては、イーライリリー社が主導することが決定したが、費用負担や対象疾患についての取り決めはいまだ明らかにされていない。
・Osimertinibは新規の非可逆的EGFR阻害薬だが、L858R/T790M変異陽性のEGFRに対して、変異を持たないEGFRとの比較でほぼ200倍の親和性をもつ。
・Osimertinibは、EGFRのほかにHER2, HER3, HER4, ACK1, BLKに対しても阻害活性を示す。
・非小細胞肺癌患者の血清を用いた検討から、Osimertinib耐性化にはC797S変異が主に関わっていると考えられている。
・C797S変異のほか、HER2遺伝子増幅、METなどのバイパストラック、小細胞癌への転化、EGFRのリガンドの増幅(HGFなどを介したautocrineの増幅ということか?)といった機序が報告されている。
・これら耐性機序への対策として各種併用療法が検討されているが、Osimertinibと他のEGFR阻害薬の併用によりMET経路を介した耐性化を回避もしくは遅延させるデータ、OsimertinibとMEK1/2阻害薬であるselumetinibの併用によりMEK/ERK経路を介した耐性化を遅延させるデータが既に示されている。
・AURA試験の第I / II相部分において、Osimertinibの治療効果予測因子について検討されたが、生検組織でT790M陰性だった患者でも、血清中にT790M陽性DNAが検出された場合は、検出されなかった場合と比較して2倍以上の奏効割合(85% vs 33%)を示すことが示された。
・Osimertinibは内服後緩やかに吸収され、最高血中濃度にいたるまでの時間は6時間程度であり、1日1回の内服法で血中濃度が定常状態になるのは内服開始から22日目以後である。
・マウスの実験から、Osimertinib単回投与後の脳実質内濃度は血清濃度と比較して5-25倍にも上ることがわかっており、これはgefitinibと比べると10倍程度の脳移行率である。
・AURA試験の第II相部分とAURA2試験において、2人の患者が脳脊髄液中のOsimertinib濃度について検討されたが、定常状態での血清Osimertinib濃度に比較して、0.2-1.0%程度の濃度だった。
・Osimertinibの半減期は55時間程度である。
・Osimertinibは68%は便から、14%は尿から排泄される。
・高度の腎障害、肝障害を有する患者へのOsimertinibの安全性は確認されていない。
・Osimertinib使用中は避妊が推奨される。
・妊婦がOsimertinibを服用した場合、死産となる可能性がある。
・母乳栄養している場合、母親がOsimertinibを服用していれば母乳を中止すべきで、最終投与日から2週間は授乳を避けるべきである
・Osimertinibはプロトンポンプ阻害薬と併用しても問題ない。
・二次治療としてのOsimertinibの効果を検証したAURA試験において、T790M陽性患者における奏効割合と病勢コントロール割合はそれぞれ61%、95%であり、T790M陰性患者では21%、61%だった。
・AURA試験、AURA2試験の参加者を対象とした統合解析において、治療開始前に脳転移巣を認めた患者での奏効割合は62%、認めなかった患者での奏効割合は69%だった。
・EGFR阻害薬既治療の癌性髄膜炎合併患者を対象にOsimertinib 160mg/日内服の効果を検証する第I相試験(BLOOM試験)が進行中だが、初期段階の報告によると、11人中8人(73%)に画像上の改善所見を認め、治療開始12週後の評価がなされた6人の患者全てにおいて画像上の効果が持続していることが確認された。さらに、治療開始前に神経学的症状があった患者9人中5人(56%)において症状の改善が認められた。
・AURA試験のうち、一次治療でOsimertinibの投与を受けた患者では、全体の奏効割合、病勢コントロール割合、3ヶ月無増悪生存割合、6ヶ月無増悪生存割合はそれぞれ70%、97%、93%、87%だった。80mg/日の投与量では奏効割合は60%、病勢コントロール割合は93%で、160mg/日の投与量では奏効割合は80%、病勢コントロール割合は100%だった。
・Osimertinibの主たる有害事象は、下痢(47%)、皮疹(40%)、嘔気(22%)、食欲不振(21%)、皮膚乾燥(20%)である。
・下痢と皮疹は、用量依存性に頻度が増加する。
・その他に、頻度は低いが問題となる有害事象として、肺臓炎(2-3%)、QT延長(2-5%)、耐糖能異常(2-3%)、脳血管障害(0.5%)があげられる。
・米国では、肺臓炎、QT延長、心筋症に関連してOsimertinibの一次中止/永続的中止基準が設けられている。肺臓炎を示唆するような呼吸状態の悪化、0.5秒を超えるQT延長、無症候性でも10%以上の左室駆出率の低下を見た場合には一時中止し、明らかな肺臓炎の発症、致死的な不整脈を伴うQT延長、症候性の心不全を見た場合には永続的に中止する。
・コンパニオン診断法としては、cobas EGFR Mutation Test v2が採用されている。
・EGFR阻害薬既治療のT790M陽性患者を対象にOsimertinibの効果を検証する試験が、アジア太平洋地域(AURA17)やノルウェー(TREM試験)で行われている。
・EGFR阻害薬既治療のT790M陽性患者を対象に、Osimertinibとプラチナ併用化学療法の効果を比較する第III相試験(AURA3試験)が行われている。
・EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌患者を対象に、Osimeritinibと標準治療(gefitinib / erlotinib)の効果を比較する第III相比較試験(FLAURA試験)が行われている。
・各種の小分子化合物(Osimertinib, gefitinib, selumetinib)とdocetaxelをさまざまな順序で逐次併用する治療と、複数の免疫チェックポイント阻害薬を逐次併用する治療(tremelimumab→durvalumab)を、主要評価項目を完全奏効割合(!!)として比較する第IIa相試験が行われている。
・EGFR感受性変異陽性の完全切除後病理病期IB-IIIA期非小細胞肺癌患者を対象に、無病生存期間を主要評価項目として術後Osimeritinib療法とプラセボを比較する第III相試験(ADAURA試験)が行われている。
・・・afatinibのLUX-Lungシリーズ、nivolumabのCheckmateシリーズ、pembrolizumabのKEYNOTEシリーズさながらに、さまざまな臨床試験が同時進行で進んでおり、大変なことになっています。
2016年02月21日
血中自己抗体で肺癌と良性肺結節を見分けられるか?
わが国は、単位人口当たりのCT保有台数が世界一の国です。
放射線暴露の量はともかくとして、手続き上はレントゲン写真を撮影するのと同じくらいの手軽さでCTを撮影することができます。
そのため、レントゲンでは発見できないような小さな肺結節が見つかって、見つかったはいいもののあまりに小さすぎて、気管支鏡でも診断はつかなさそうだし、PETはそもそも悪性腫瘍の診断が未確定なので自費診療になってしまうし、扱いに困ってしまいます。
今回の報告は、CTによって発見された肺結節が良性なのか、悪性なのか、自己抗体(はっきり言ってしまえば血清腫瘍マーカー)を用いて見分けられないか、という古典的な話題について扱ったものです。
5種類程度の腫瘍マーカーを組み合わせて用いることにより、感度30%、特異度90%程度の成績で良悪性を鑑別できるということですが、個人的には肺結節の性状と経過観察中に増大するか否かを見ていくことで事足りるのではないかと感じました。
「CTで定期経過観察すると、その分だけ放射線暴露が増すでしょう?」という指摘があれば確かにその通りで、その場合には腫瘍マーカーを用いて鑑別して、治療するか放置するかを決めればいいでしょう。
現状では無理なことがわかっているので、僕はそんなことはしませんが。
Comparative Study of Autoantibody Responses between Lung Adenocarcinoma and Benign Pulmonary Nodules
Jie Wang, PhD, Shilpa Shivakumar, MD, Kristi Barker, MS, Yanyang Tang, BS, Garrick Wallstrom, PhD, Jin G. Park, PhD, Jun-Chieh J. Tsay, MD, MS, Harvey I. Pass, MD, William N. Rom, MD, Joshua LaBaer, MD, PhD, Ji Qiu, PhD
http://dx.doi.org/10.1016/j.jtho.2015.11.011
背景)
CTによるスクリーニングが肺癌死亡率を低下させることが明らかとなり、CTの利用頻度が増すとともに、良性肺結節が発見される機会も増えた。結果として良性結節であった患者の側からすると、振り返ってみれば不必要な、コストのかかる、侵襲的な検査を強いられたことになる。そのため、肺結節が発見された際に高リスク群と低リスク群を区分するコンパニオン診断ツールのニーズが出てくる。
肺癌は免疫反応を惹起し、がん抗原に対する自己抗体産生を引き起こすことがある。これら自己抗体と、それに対応したがん抗原を同定してがん免疫システムの理解を深めることにより、がんの早期発見やがんの免疫療法の発展につながる。この領域の研究は、これまでほとんどががん患者と健常者の比較、というコンセプトで行われてきた。今回我々は、がん患者、良性結節を有する患者、喫煙健常者を対象として、液性免疫反応を評価する研究を行った。
方法)
まず、40人の早期肺癌患者と40人の喫煙健常者を対象に、がん特異性自己抗体の候補を同定するために、10000種のヒトタンパクに対する血清反応性をマイクロアレイを用いて検証した。これによって得られた自己抗体候補について、137人のがん患者、127人の喫煙健常者、170人の良性結節患者を対象とし、ELISA法を用いて検討した。
結果)
タンパクマイクロアレイによるスクリーニングを行ったところ、喫煙健常者に比べてがん患者において17種の抗原の反応性が高いことがわかった。続いて、これらの抗原についてELISAで検証したところ、5種の抗原セット(tetratricopeptide repeat domain 14(TTC 14), BRAF, actin like 6B(ACTL6B), MORC family CW-type zinc finger 2(MORC2), cancer-testis antigen 1B(CTAG1B))を用いると、感度30%、特異度89%で肺がん患者と喫煙健常者を鑑別することができた。さらに、次の5種の抗原セット(keratin 8 type II, TTC 14, Kruppel-like factor 8, BRAF, tousled like kinase 1)を用いると、感度30%、特異度88%で肺がん患者とCT陽性良性結節患者を鑑別することができた。TTC 14, BRAF, MORC2, CTAG1B, keratin 8 type II, tousled like kinase 1の6種のタンパクのmRNAレベルは肺腺癌組織において高値を示していた。
結論)
今回の検討で、肺癌とCT陽性良性結節患者を鑑別しうるいくつかの自己抗体を見出した。より多数の患者での再検証が必要である。
放射線暴露の量はともかくとして、手続き上はレントゲン写真を撮影するのと同じくらいの手軽さでCTを撮影することができます。
そのため、レントゲンでは発見できないような小さな肺結節が見つかって、見つかったはいいもののあまりに小さすぎて、気管支鏡でも診断はつかなさそうだし、PETはそもそも悪性腫瘍の診断が未確定なので自費診療になってしまうし、扱いに困ってしまいます。
今回の報告は、CTによって発見された肺結節が良性なのか、悪性なのか、自己抗体(はっきり言ってしまえば血清腫瘍マーカー)を用いて見分けられないか、という古典的な話題について扱ったものです。
5種類程度の腫瘍マーカーを組み合わせて用いることにより、感度30%、特異度90%程度の成績で良悪性を鑑別できるということですが、個人的には肺結節の性状と経過観察中に増大するか否かを見ていくことで事足りるのではないかと感じました。
「CTで定期経過観察すると、その分だけ放射線暴露が増すでしょう?」という指摘があれば確かにその通りで、その場合には腫瘍マーカーを用いて鑑別して、治療するか放置するかを決めればいいでしょう。
現状では無理なことがわかっているので、僕はそんなことはしませんが。
Comparative Study of Autoantibody Responses between Lung Adenocarcinoma and Benign Pulmonary Nodules
Jie Wang, PhD, Shilpa Shivakumar, MD, Kristi Barker, MS, Yanyang Tang, BS, Garrick Wallstrom, PhD, Jin G. Park, PhD, Jun-Chieh J. Tsay, MD, MS, Harvey I. Pass, MD, William N. Rom, MD, Joshua LaBaer, MD, PhD, Ji Qiu, PhD
http://dx.doi.org/10.1016/j.jtho.2015.11.011
背景)
CTによるスクリーニングが肺癌死亡率を低下させることが明らかとなり、CTの利用頻度が増すとともに、良性肺結節が発見される機会も増えた。結果として良性結節であった患者の側からすると、振り返ってみれば不必要な、コストのかかる、侵襲的な検査を強いられたことになる。そのため、肺結節が発見された際に高リスク群と低リスク群を区分するコンパニオン診断ツールのニーズが出てくる。
肺癌は免疫反応を惹起し、がん抗原に対する自己抗体産生を引き起こすことがある。これら自己抗体と、それに対応したがん抗原を同定してがん免疫システムの理解を深めることにより、がんの早期発見やがんの免疫療法の発展につながる。この領域の研究は、これまでほとんどががん患者と健常者の比較、というコンセプトで行われてきた。今回我々は、がん患者、良性結節を有する患者、喫煙健常者を対象として、液性免疫反応を評価する研究を行った。
方法)
まず、40人の早期肺癌患者と40人の喫煙健常者を対象に、がん特異性自己抗体の候補を同定するために、10000種のヒトタンパクに対する血清反応性をマイクロアレイを用いて検証した。これによって得られた自己抗体候補について、137人のがん患者、127人の喫煙健常者、170人の良性結節患者を対象とし、ELISA法を用いて検討した。
結果)
タンパクマイクロアレイによるスクリーニングを行ったところ、喫煙健常者に比べてがん患者において17種の抗原の反応性が高いことがわかった。続いて、これらの抗原についてELISAで検証したところ、5種の抗原セット(tetratricopeptide repeat domain 14(TTC 14), BRAF, actin like 6B(ACTL6B), MORC family CW-type zinc finger 2(MORC2), cancer-testis antigen 1B(CTAG1B))を用いると、感度30%、特異度89%で肺がん患者と喫煙健常者を鑑別することができた。さらに、次の5種の抗原セット(keratin 8 type II, TTC 14, Kruppel-like factor 8, BRAF, tousled like kinase 1)を用いると、感度30%、特異度88%で肺がん患者とCT陽性良性結節患者を鑑別することができた。TTC 14, BRAF, MORC2, CTAG1B, keratin 8 type II, tousled like kinase 1の6種のタンパクのmRNAレベルは肺腺癌組織において高値を示していた。
結論)
今回の検討で、肺癌とCT陽性良性結節患者を鑑別しうるいくつかの自己抗体を見出した。より多数の患者での再検証が必要である。
2016年02月16日
各種EGFR遺伝子変異阻害薬によるT790M変異の誘導
EGFRの二次耐性変異、Exon 20, T790Mに対して有効な第3世代EGFR阻害薬の登場が、すぐそこまで来ています。
2016年2月26日に薬事・食品衛生審議会、医薬品第二部会でこの分野の嚆矢となるであろうosimertinib(タグリッソ)の審議が予定されています。
また、この際には、同じくALK阻害薬のceritinib(ジカディア)も審議される模様です。
承認されれば、約1か月後、もしかしたら新年度に入ると同時、くらいのスピード感で使用可能になるかも知れません。
この動きを見越して、gefitnib、erlotinib、afatinib使用中で、治療効果が得られなくなってきた患者さんでは、再生検を行う動きが活発化しています。
第3世代EGFR阻害薬使用の条件として、「T790M変異が陽性の患者」という条件が付く可能性が高いからです。
再生検で本遺伝子変異を確認しなければなりません。
EGFR阻害薬に耐性化した場合、T790M陽性である割合は、国内では50-60%程度と目されています。
第3世代EGFR阻害薬が使えるようになると、仮に耐性化したとしてもT790Mであれば、その後の治療の見通しが立てやすくなります。
そのため、再生検の技術を磨くのはもちろん大事ですが、臨床の現場ではいかにほかの変異ではなくてT790M変異に腫瘍を誘導するか、といった、理に適ってはいるものの見通しはまったく立たない、だれもどうすれば誘導できるのかわからない、といった議論があちこちでなされています。
昨年11月の日本肺癌学会総会では、各EGFR阻害薬を使用した際に、どの程度の頻度でT790M変異が出現するかについて、まとめられていました。
この際は、gefitinib、erlotinibはほぼ同等で、afatinibはやや頻度が少ないながら、もともとafatinibを使用された患者さんの数が少ないために、判断しにくい面がありました。
最近台湾大学のJames Yang先生のグループからafatinib投与後の患者さんにどの程度T790M変異が出現したかを調べた論文が出たようです。
The mechanism of acquired resistance to irreversible EGFR tyrosine kinase inhibitor-afatinib in lung adenocarcinoma patients.
www.impactjournals.com/oncotarget 2016
これによると、afatinib治療歴があり、afatinib耐性となった患者さん42人に対して再生検を行ったところ、20人(47.6%)にT790M変異が検出されたそうです。
我が国のデータと並べて見てみると、gefitnib、erlotinibのデータとあまり変わりないように見えます。
それでも患者数が一ケタ違うため比較は難しいのですが、参考までに。

2016年2月26日に薬事・食品衛生審議会、医薬品第二部会でこの分野の嚆矢となるであろうosimertinib(タグリッソ)の審議が予定されています。
また、この際には、同じくALK阻害薬のceritinib(ジカディア)も審議される模様です。
承認されれば、約1か月後、もしかしたら新年度に入ると同時、くらいのスピード感で使用可能になるかも知れません。
この動きを見越して、gefitnib、erlotinib、afatinib使用中で、治療効果が得られなくなってきた患者さんでは、再生検を行う動きが活発化しています。
第3世代EGFR阻害薬使用の条件として、「T790M変異が陽性の患者」という条件が付く可能性が高いからです。
再生検で本遺伝子変異を確認しなければなりません。
EGFR阻害薬に耐性化した場合、T790M陽性である割合は、国内では50-60%程度と目されています。
第3世代EGFR阻害薬が使えるようになると、仮に耐性化したとしてもT790Mであれば、その後の治療の見通しが立てやすくなります。
そのため、再生検の技術を磨くのはもちろん大事ですが、臨床の現場ではいかにほかの変異ではなくてT790M変異に腫瘍を誘導するか、といった、理に適ってはいるものの見通しはまったく立たない、だれもどうすれば誘導できるのかわからない、といった議論があちこちでなされています。
昨年11月の日本肺癌学会総会では、各EGFR阻害薬を使用した際に、どの程度の頻度でT790M変異が出現するかについて、まとめられていました。
この際は、gefitinib、erlotinibはほぼ同等で、afatinibはやや頻度が少ないながら、もともとafatinibを使用された患者さんの数が少ないために、判断しにくい面がありました。
最近台湾大学のJames Yang先生のグループからafatinib投与後の患者さんにどの程度T790M変異が出現したかを調べた論文が出たようです。
The mechanism of acquired resistance to irreversible EGFR tyrosine kinase inhibitor-afatinib in lung adenocarcinoma patients.
www.impactjournals.com/oncotarget 2016
これによると、afatinib治療歴があり、afatinib耐性となった患者さん42人に対して再生検を行ったところ、20人(47.6%)にT790M変異が検出されたそうです。
我が国のデータと並べて見てみると、gefitnib、erlotinibのデータとあまり変わりないように見えます。
それでも患者数が一ケタ違うため比較は難しいのですが、参考までに。

2016年02月13日
TG4010併用化学療法
以下は、2009年に日経メディカル誌に掲載された記事を一部改変したものです。
進行非小細胞肺癌患者さんを対象に、プラチナ併用標準化学療法に対するTG4010ワクチンの上乗せ効果を検証した結果ですが、治療効果予測因子をちゃんと評価すれば有効性が期待できそうな内容でした。
後ほど述べるように、TG4010に関する新たな臨床試験結果が最近報告されましたが、CD16+/CD56+/CD69+陽性活性化リンパ球の話はややトーンダウンして、非扁平上皮癌の患者において有効性が期待できそうな、といった内容でした。
腫瘍関連抗原をターゲットにした治療なので、免疫チェックポイント阻害薬のように自己免疫反応を恐れる必要はなさそうですが、無増悪生存期間延長効果は1ヶ月にも見たず、効果は限定的です。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/200904/510519.html
遺伝子組み換えワクチンTG4010を、化学療法と併用で非小細胞肺癌(NSCLC)患者に投与するフェーズ2b臨床試験において、効果を予測できるバイオマーカーが明らかとなった。成果は2009年4月18日から22日にデンバーで開催された米国癌研究会議(AACR)で、フランスTransgene社のBruce Acres氏によって発表された。
TG4010は、ワクシニアウイルス(MVA)をベクターとし、MUC1という癌抗原の遺伝子とインターロイキン2(IL2)遺伝子を組み込んだ組み換えウイルスワクチン。MVAは、抗原に対して強い免疫反応を誘導できる作用を持つことが知られている。加えて、IL2遺伝子も組み込んでいるため、特異的T細胞の反応を刺激できると考えられている。つまり、MUC1を発現している癌に対し、免疫反応を誘導できることになる。
無作為化多施設フェーズ2b試験は、IIIB期とIV期の患者148人を対象に行われた。対照群は3週間を1サイクルとしてシスプラチン75mg/m2を1日目に、ゲムシタビン1250mg/m2を1日目と8日目に投与した。投与は、最大6サイクルまで行われた。TG4010群は同じ化学療法に加えて、TG4010を週に一度、計6週間投与し、その後はTG4010のみ3週置きに病状が増悪するまで投与した。主要評価項目は6カ月時点での無増悪生存率で、副次評価項目は全生存期間、奏効率、安全性、免疫学的なパラメーターだった。
主要評価項目は達成され、6カ月時点の無増悪生存率は対照群が35%だったのに対して、TG4010群は44%だった。奏効率は対照群が27%で、TG4010群は43%。全生存期間中央値は対照群が10.3カ月に対して、TG4010群は10.7カ月だった。
1日目、43日目と85日に、138人について血液を採取し解析を行った。TG4010群は、1日目の活性化ナチュラルキラー細胞数が正常値の患者(48人)の生存期間中央値(17.1カ月)の方が、高値の患者(21人)の生存期間中央値(5.3カ月)より有意に長かった。対照群では活性化ナチュラルキラー細胞数の上下によって、生存期間に差はなかった。
また、TG4010群は、1日目に炎症関連血漿たんぱく質(sCD-54、IL-6、M-CSF)正常値の患者の生存期間中央値の方が、高値の患者の生存期間中央値よりも有意に長かった。対照群では炎症関連血漿たんぱく質の量による生存期間の有意な差はなかった。
一方、43日目の測定で、TG4010群においては活性化T細胞数が中央値よりも多い群(28人)の生存期間中央値は17カ月以上だったのに対し、中央値よりも少ない患者(29人)では10.4カ月だった。対照群は11.3カ月と11.4カ月と差がなかった。
また、活性化T細胞が中央値よりも多くかつインターフェロンγが検出できた患者では、TG4010群(15人)では生存期間中央値が20カ月以上だったのに対して、対照群(11人)では7.6カ月で、TG4010群でTh1機構が働いていることを示唆する結果となった。
要点を簡単にまとめると、進行期非小細胞肺癌患者の初回シスプラチン+ジェムシタビン併用化学療法にTG4010を加えることにより、
・6ヶ月無増悪生存割合が35%から44%に改善する
・奏効割合が27%から43%に改善する
・全生存期間中央値は10.3ヶ月と10.7ヶ月であまりかわらない。
が判明し、さらにTG4010を投与された患者群で治療開始前効果予測因子を解析したところ、治療開始前の末梢血中活性化ナチュラルキラー細胞数が正常範囲内であること、治療開始前の血清中炎症関連たんぱく質(sCD54、IL-6、M-CSF)が正常範囲内であること、が認められた、ということです。
続いて、今回の報告です。
TG4010 immunotherapy and first-line chemotherapy for advanced non-small-cell lung cancer (TIME): results from the phase 2b part of a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2b/3 trial
Quoix et al.
Lancet Oncol. Volume 17, No. 2, p212–223, February 2016
MUC1は非小細胞肺癌やその他の多くの固形癌で認められる腫瘍関連抗原である。これまでの研究により、治療開始前のCD16+/CD56+/CD69+活性化ナチュラルキラー細胞数が非小細胞肺癌に対するTG4010併用化学療法の効果と関連していそうなことがわかっている。今回示すphase IIb試験の目的はこのCD16+/CD56+/CD69+活性化リンパ球数と治療効果の関連性を評価することだった。
今回の二重盲見試験は9ヶ国、45の参加施設で2012年4月から2014年9月まで患者登録が行われた。EGFR遺伝子変異陰性で、腫瘍細胞の50%以上がMUC1を発現している未治療IV期非小細胞肺癌患者222人を対照とし、プラチナ併用化学療法に加えてTG4010を皮下注射する群(111人)と偽薬を皮下注射する群(111人)に無作為に割り付けた。皮下注射は当初6週間は毎週行い、それ以降は病勢進行に至るか、治療中止となるまで3週間に1度の間隔で継続した。ベバシツマブ併用療法、ペメトレキセド維持療法、エルロチニブ維持療法は許容された。無作為化時の割付調整因子は、治療開始前のCD16+/CD56+/CD69+活性化リンパ球数とした。主要評価項目は無増悪生存期間とした。両群ともに、77%の患者において活性化リンパ球数は正常範囲内にあった。
対象患者全体における無増悪生存期間中央値は、TG4010群で5.9ヶ月(95%信頼区間は5.4-6.7ヶ月)、偽薬群で5.1ヶ月(4.2-5.9ヶ月)で、ハザード比は0.74(95%信頼区間は0.55-0.98)、p=0.019と有意差を認めた。ハザード比は活性化リンパ球数が正常範囲内の患者では0.75(95%信頼区間は0.54-1.03)、正常上限以上の患者では0.77(0.42-1.40)で、試験デザイン上は前者では有意に無増悪生存期間を延長したと判定された。非扁平上皮癌患者196人においては、ハザード比は0.69(p=0.0093)だった。
有害事象として、Grade 2以下の局所反応をTG4010群の33%に、偽薬群の4%に認めた。TG4010に関連すると思われるGrade 3あるいは4の重篤な有害事象はなかった。主要なGrade 3以上の有害事象は好中球減少、貧血、疲労であった。
本試験の第III相部分は、現在も進行中である。
進行非小細胞肺癌患者さんを対象に、プラチナ併用標準化学療法に対するTG4010ワクチンの上乗せ効果を検証した結果ですが、治療効果予測因子をちゃんと評価すれば有効性が期待できそうな内容でした。
後ほど述べるように、TG4010に関する新たな臨床試験結果が最近報告されましたが、CD16+/CD56+/CD69+陽性活性化リンパ球の話はややトーンダウンして、非扁平上皮癌の患者において有効性が期待できそうな、といった内容でした。
腫瘍関連抗原をターゲットにした治療なので、免疫チェックポイント阻害薬のように自己免疫反応を恐れる必要はなさそうですが、無増悪生存期間延長効果は1ヶ月にも見たず、効果は限定的です。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/200904/510519.html
遺伝子組み換えワクチンTG4010を、化学療法と併用で非小細胞肺癌(NSCLC)患者に投与するフェーズ2b臨床試験において、効果を予測できるバイオマーカーが明らかとなった。成果は2009年4月18日から22日にデンバーで開催された米国癌研究会議(AACR)で、フランスTransgene社のBruce Acres氏によって発表された。
TG4010は、ワクシニアウイルス(MVA)をベクターとし、MUC1という癌抗原の遺伝子とインターロイキン2(IL2)遺伝子を組み込んだ組み換えウイルスワクチン。MVAは、抗原に対して強い免疫反応を誘導できる作用を持つことが知られている。加えて、IL2遺伝子も組み込んでいるため、特異的T細胞の反応を刺激できると考えられている。つまり、MUC1を発現している癌に対し、免疫反応を誘導できることになる。
無作為化多施設フェーズ2b試験は、IIIB期とIV期の患者148人を対象に行われた。対照群は3週間を1サイクルとしてシスプラチン75mg/m2を1日目に、ゲムシタビン1250mg/m2を1日目と8日目に投与した。投与は、最大6サイクルまで行われた。TG4010群は同じ化学療法に加えて、TG4010を週に一度、計6週間投与し、その後はTG4010のみ3週置きに病状が増悪するまで投与した。主要評価項目は6カ月時点での無増悪生存率で、副次評価項目は全生存期間、奏効率、安全性、免疫学的なパラメーターだった。
主要評価項目は達成され、6カ月時点の無増悪生存率は対照群が35%だったのに対して、TG4010群は44%だった。奏効率は対照群が27%で、TG4010群は43%。全生存期間中央値は対照群が10.3カ月に対して、TG4010群は10.7カ月だった。
1日目、43日目と85日に、138人について血液を採取し解析を行った。TG4010群は、1日目の活性化ナチュラルキラー細胞数が正常値の患者(48人)の生存期間中央値(17.1カ月)の方が、高値の患者(21人)の生存期間中央値(5.3カ月)より有意に長かった。対照群では活性化ナチュラルキラー細胞数の上下によって、生存期間に差はなかった。
また、TG4010群は、1日目に炎症関連血漿たんぱく質(sCD-54、IL-6、M-CSF)正常値の患者の生存期間中央値の方が、高値の患者の生存期間中央値よりも有意に長かった。対照群では炎症関連血漿たんぱく質の量による生存期間の有意な差はなかった。
一方、43日目の測定で、TG4010群においては活性化T細胞数が中央値よりも多い群(28人)の生存期間中央値は17カ月以上だったのに対し、中央値よりも少ない患者(29人)では10.4カ月だった。対照群は11.3カ月と11.4カ月と差がなかった。
また、活性化T細胞が中央値よりも多くかつインターフェロンγが検出できた患者では、TG4010群(15人)では生存期間中央値が20カ月以上だったのに対して、対照群(11人)では7.6カ月で、TG4010群でTh1機構が働いていることを示唆する結果となった。
要点を簡単にまとめると、進行期非小細胞肺癌患者の初回シスプラチン+ジェムシタビン併用化学療法にTG4010を加えることにより、
・6ヶ月無増悪生存割合が35%から44%に改善する
・奏効割合が27%から43%に改善する
・全生存期間中央値は10.3ヶ月と10.7ヶ月であまりかわらない。
が判明し、さらにTG4010を投与された患者群で治療開始前効果予測因子を解析したところ、治療開始前の末梢血中活性化ナチュラルキラー細胞数が正常範囲内であること、治療開始前の血清中炎症関連たんぱく質(sCD54、IL-6、M-CSF)が正常範囲内であること、が認められた、ということです。
続いて、今回の報告です。
TG4010 immunotherapy and first-line chemotherapy for advanced non-small-cell lung cancer (TIME): results from the phase 2b part of a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2b/3 trial
Quoix et al.
Lancet Oncol. Volume 17, No. 2, p212–223, February 2016
MUC1は非小細胞肺癌やその他の多くの固形癌で認められる腫瘍関連抗原である。これまでの研究により、治療開始前のCD16+/CD56+/CD69+活性化ナチュラルキラー細胞数が非小細胞肺癌に対するTG4010併用化学療法の効果と関連していそうなことがわかっている。今回示すphase IIb試験の目的はこのCD16+/CD56+/CD69+活性化リンパ球数と治療効果の関連性を評価することだった。
今回の二重盲見試験は9ヶ国、45の参加施設で2012年4月から2014年9月まで患者登録が行われた。EGFR遺伝子変異陰性で、腫瘍細胞の50%以上がMUC1を発現している未治療IV期非小細胞肺癌患者222人を対照とし、プラチナ併用化学療法に加えてTG4010を皮下注射する群(111人)と偽薬を皮下注射する群(111人)に無作為に割り付けた。皮下注射は当初6週間は毎週行い、それ以降は病勢進行に至るか、治療中止となるまで3週間に1度の間隔で継続した。ベバシツマブ併用療法、ペメトレキセド維持療法、エルロチニブ維持療法は許容された。無作為化時の割付調整因子は、治療開始前のCD16+/CD56+/CD69+活性化リンパ球数とした。主要評価項目は無増悪生存期間とした。両群ともに、77%の患者において活性化リンパ球数は正常範囲内にあった。
対象患者全体における無増悪生存期間中央値は、TG4010群で5.9ヶ月(95%信頼区間は5.4-6.7ヶ月)、偽薬群で5.1ヶ月(4.2-5.9ヶ月)で、ハザード比は0.74(95%信頼区間は0.55-0.98)、p=0.019と有意差を認めた。ハザード比は活性化リンパ球数が正常範囲内の患者では0.75(95%信頼区間は0.54-1.03)、正常上限以上の患者では0.77(0.42-1.40)で、試験デザイン上は前者では有意に無増悪生存期間を延長したと判定された。非扁平上皮癌患者196人においては、ハザード比は0.69(p=0.0093)だった。
有害事象として、Grade 2以下の局所反応をTG4010群の33%に、偽薬群の4%に認めた。TG4010に関連すると思われるGrade 3あるいは4の重篤な有害事象はなかった。主要なGrade 3以上の有害事象は好中球減少、貧血、疲労であった。
本試験の第III相部分は、現在も進行中である。
2016年02月12日
脳転移陽性患者さんへのafatinib
LUX-Lung 3およびLUX-Lung6の臨床試験において、脳転移を有する患者さんのみでサブグループ解析をした際の結果が以下の論文に報告されています。
当たり前と言えば当たり前の結果で、もはやEGFR遺伝子変異陽性の肺癌患者さんに対する初回治療を化学療法から開始するという医師は少ないと思いますので、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬同士での比較ではどうなるのか、といったところが気になります。
そもそも、脳転移を有する患者さんにおいての有効性を比較するのと同様に、脳転移を新規発症させない治療はどれなのか、という観点が必要です。
一般に、gefitinibよりもerlotinibの方が脳転移によって病勢進行に至るリスクが低いと言われており(近いうちに記事としてまとめようと思っています)、gefitinibでは第II相ながらしっかりとした前向き臨床試験の結果が報告されているにも関わらず、ヒトにおける髄液移行性のデータや後方視的な検討の結果から、巷では2014年ごろからerlotinibの処方が増えつつあるようです(学会上でも、このころからerlotinibを推す雰囲気が増してきたように感じます)。
さてafatinibではどうなのか、となると、まだこういったデータがありません。
afatinibに関して、各種臨床試験の追跡調査の結果から脳転移により病勢進行に至った割合や、治療開始から脳転移が出現するまでの期間中央値といったデータが示されると、例え後方視的な検討でも有益ではないかと思っています。
http://www.jto.org/article/S1556-0864(15)00220-8/pdf
以下は、2016 / 2 / 2のASCO evening postから。
Afatinib Shows Clinical Benefit for Non–Small Cell Lung Cancer Patients With Brain Metastases
エクソン19や21のEGFR遺伝子変異を有し、脳転移を合併した非小細胞肺癌患者さんにおいて、afatinibはシスプラチン併用標準化学療法と比較して無増悪生存期間と奏効割合を改善することが明らかになった。
進行非小細胞肺癌患者のうち25%以上、EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者の44-63%は経過中に脳転移を合併する。この場合、生命予後は不良で、診断確定後1-5ヶ月程度とされている。
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬はEGFR遺伝子変異を有する進行非小細胞肺癌患者、中でもとりわけエクソン19欠失変異やエクソン21点突然変異を有する患者には効果が高い。EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌患者に対して一次治療として承認されているEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は複数あるが、脳転移を有する患者を対象としたEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の効果を検証する前向き臨床試験のデータはあまりない。
EGFR遺伝子変異を有し、過去に治療歴のないIIIB / IV期の原発性肺腺癌の患者を対象に、afatinibとプラチナ併用標準化学療法の有効性を検証した無作為化オープンラベル第III相比較試験が2つある。LUX-Lung 3試験はafatinibとシスプラチン+ペメトレキセド併用療法を比較したグローバルスタディーで、LUX-Lung 6は(試験開始当時は非小細胞肺癌に対してペメトレキセドが使用できなかった)中国、大韓民国、タイで行われたafatinibとシスプラチン+ジェムシタビン併用化学療法を比較する試験だった。
どちらの臨床試験においても、無症候性の、もしくは治療によりコントロールされた脳転移を有する患者は試験参加可能だった。主要評価項目は無増悪生存期間で、副次評価項目の中で重要なものとして全生存期間、奏効割合、患者による治療効果評価(≒QoL)が含まれていた。
これら2つの臨床試験の結果は既に学会・論文で報告されており、afatinibが有意に無増悪生存期間、奏効割合、QoLを改善することが示された。さらに、エクソン19変異を有する患者においては、afatinibが全生存期間を延長することが初めて示された(その他のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬では示されていない)。
今回の解析では、参加登録時点で脳転移とEGFR遺伝子変異を有していた患者(LUX-Lung 3に参加した345人のうち35人(10.1%)とLUX-Lung 6に参加した364人のうち46人(12.6%))を対象とした。その結果、脳転移を有する患者でも、afatinibはプラチナ併用化学療法に対して有意に無増悪生存期間を延長し(8.2ヶ月 vs 5.4ヶ月、ハザード比0.50, p=0.0297)、奏効割合も高かった(73% vs 25%)。有害事象は脳転移を有さない患者における内容とほぼ同等で、予期せぬ有害事象は認められなかった。
当たり前と言えば当たり前の結果で、もはやEGFR遺伝子変異陽性の肺癌患者さんに対する初回治療を化学療法から開始するという医師は少ないと思いますので、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬同士での比較ではどうなるのか、といったところが気になります。
そもそも、脳転移を有する患者さんにおいての有効性を比較するのと同様に、脳転移を新規発症させない治療はどれなのか、という観点が必要です。
一般に、gefitinibよりもerlotinibの方が脳転移によって病勢進行に至るリスクが低いと言われており(近いうちに記事としてまとめようと思っています)、gefitinibでは第II相ながらしっかりとした前向き臨床試験の結果が報告されているにも関わらず、ヒトにおける髄液移行性のデータや後方視的な検討の結果から、巷では2014年ごろからerlotinibの処方が増えつつあるようです(学会上でも、このころからerlotinibを推す雰囲気が増してきたように感じます)。
さてafatinibではどうなのか、となると、まだこういったデータがありません。
afatinibに関して、各種臨床試験の追跡調査の結果から脳転移により病勢進行に至った割合や、治療開始から脳転移が出現するまでの期間中央値といったデータが示されると、例え後方視的な検討でも有益ではないかと思っています。
http://www.jto.org/article/S1556-0864(15)00220-8/pdf
以下は、2016 / 2 / 2のASCO evening postから。
Afatinib Shows Clinical Benefit for Non–Small Cell Lung Cancer Patients With Brain Metastases
エクソン19や21のEGFR遺伝子変異を有し、脳転移を合併した非小細胞肺癌患者さんにおいて、afatinibはシスプラチン併用標準化学療法と比較して無増悪生存期間と奏効割合を改善することが明らかになった。
進行非小細胞肺癌患者のうち25%以上、EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者の44-63%は経過中に脳転移を合併する。この場合、生命予後は不良で、診断確定後1-5ヶ月程度とされている。
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬はEGFR遺伝子変異を有する進行非小細胞肺癌患者、中でもとりわけエクソン19欠失変異やエクソン21点突然変異を有する患者には効果が高い。EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌患者に対して一次治療として承認されているEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は複数あるが、脳転移を有する患者を対象としたEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の効果を検証する前向き臨床試験のデータはあまりない。
EGFR遺伝子変異を有し、過去に治療歴のないIIIB / IV期の原発性肺腺癌の患者を対象に、afatinibとプラチナ併用標準化学療法の有効性を検証した無作為化オープンラベル第III相比較試験が2つある。LUX-Lung 3試験はafatinibとシスプラチン+ペメトレキセド併用療法を比較したグローバルスタディーで、LUX-Lung 6は(試験開始当時は非小細胞肺癌に対してペメトレキセドが使用できなかった)中国、大韓民国、タイで行われたafatinibとシスプラチン+ジェムシタビン併用化学療法を比較する試験だった。
どちらの臨床試験においても、無症候性の、もしくは治療によりコントロールされた脳転移を有する患者は試験参加可能だった。主要評価項目は無増悪生存期間で、副次評価項目の中で重要なものとして全生存期間、奏効割合、患者による治療効果評価(≒QoL)が含まれていた。
これら2つの臨床試験の結果は既に学会・論文で報告されており、afatinibが有意に無増悪生存期間、奏効割合、QoLを改善することが示された。さらに、エクソン19変異を有する患者においては、afatinibが全生存期間を延長することが初めて示された(その他のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬では示されていない)。
今回の解析では、参加登録時点で脳転移とEGFR遺伝子変異を有していた患者(LUX-Lung 3に参加した345人のうち35人(10.1%)とLUX-Lung 6に参加した364人のうち46人(12.6%))を対象とした。その結果、脳転移を有する患者でも、afatinibはプラチナ併用化学療法に対して有意に無増悪生存期間を延長し(8.2ヶ月 vs 5.4ヶ月、ハザード比0.50, p=0.0297)、奏効割合も高かった(73% vs 25%)。有害事象は脳転移を有さない患者における内容とほぼ同等で、予期せぬ有害事象は認められなかった。
2016年02月12日
J-ALEX study 中間解析で有効中止
ALK再構成陽性肺癌の患者さんを対象に、crizotinibとalectinibの効果を直接比較する国内第III相試験「J-ALEX」試験ですが、中間解析の段階で主要評価項目である無増悪生存期間においてalectinibの優越性が確認されたらしく、早期有効中止となった模様です。
どちらもALK再構成陽性者のみをターゲットにした治療薬ですが、主要評価項目で早期有効中止になるのはちょっとした驚きです。
EGFR遺伝子変異の世界ではこんな現象は認められていないだけに、とても興味深い結果です。
ALK再構成陽性肺癌患者さんの初回治療選択において、大きなインパクトを残す(有効性と毒性の両面から考えると、alectinibが初回治療として選択される公算が極めて高い)結果になりそうです。
今年の各学会で徐々に結果が明らかになっていくと思われます。
また、国際的な試験として現在進行形の「ALEX study」の進捗も気になるところです。
J-ALEX試験早期有効中止のプレスリリースはこちらから。
http://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20160210150000.html
どちらもALK再構成陽性者のみをターゲットにした治療薬ですが、主要評価項目で早期有効中止になるのはちょっとした驚きです。
EGFR遺伝子変異の世界ではこんな現象は認められていないだけに、とても興味深い結果です。
ALK再構成陽性肺癌患者さんの初回治療選択において、大きなインパクトを残す(有効性と毒性の両面から考えると、alectinibが初回治療として選択される公算が極めて高い)結果になりそうです。
今年の各学会で徐々に結果が明らかになっていくと思われます。
また、国際的な試験として現在進行形の「ALEX study」の進捗も気になるところです。
J-ALEX試験早期有効中止のプレスリリースはこちらから。
http://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20160210150000.html