2021年10月30日

肺がんCT検診の比較試験:JECS Study

 先日、勤め先に標記臨床試験の事務局から資料が届いた。
 参加施設に名を連ねませんか、とのこと。
 
 以下のリンクに詳しい情報が記載されている。
 http://jecs-study.jp/list.html
 開始されたのは2010年とのことなので、もう10年以上にわたって継続されている臨床試験らしい。
 
 「胸部CT検査を併用する検診と併用しない検診(胸部X線検査のみ)の比較試験を実施し、胸部CT検査が有効かどうかを検証します」
と謳われている。
 研究に参加する方の適格条件は、
・50歳以上70歳以下
・喫煙指数600未満(喫煙指数=1日の喫煙本数 X 喫煙年数)
・この比較試験の意義に賛同している
と、極めてシンプルである。
 参加者はCT検診群とX線検診群に振り分けられる。
 CT検診群は初回と6年後にCT検診を受け、他の年は通常の定期検診を受ける。
 X線検診群は初回にX線検診を受け、他の年は通常の定期検診を受ける。
 このままではX線検診群に割り当てられた方が同意を撤回しそうなので、X線検診群にのみ無料で内臓脂肪CT撮影を受けられる、というオマケをつけているようだ。

 胸部CT検査による肺がん死亡減少効果を示したNLST試験は、対象者が重喫煙者に限られていたため、JECS Studyはそれ以外の対象についても同様の結論が導き出せるかを検証するための試験と考えていいだろう。
  

Posted by tak at 06:00Comments(0)検査法地域医療

2021年10月29日

脳転移を有する患者集団に対しても、免疫チェックポイント阻害薬は有効なのか

 ドライバー遺伝子変異を有する非小細胞肺がん患者は、脳転移を合併しやすい一方、対応する分子標的薬が脳転移巣にも有効なことが多い。
 分子標的薬は一般に小分子化合物であるがゆえに、脳血液関門を越えて効果を及ぼしやすいということか、あるいは開発の段階で、脳血液関門を越えやすい化合物が選択されているためか。

 一方、免疫チェックポイント阻害薬は基本的にモノクローナル抗体であるがために、脳血液関門は越えにくいのではないか、したがって脳転移巣には効果を及ぼしにくいのではないか、という推測が成り立つ。
 今回取り上げた報告は、そうした疑問に正面から答えてくれるものではないが、脳転移の有無は免疫チェックポイント阻害薬の効果にはさほど影響を及ぼさない、ということは示してくれているように思う。
 そういえば、血管増殖因子阻害薬であるベバシズマブもモノクローナル抗体だが、脳腫瘍や脳転移巣にも一定の効果がある。
 モノクローナル抗体は相対的に大きな分子で、脳血液関門を通過するハードルは高い、というのが通説だと思うのだが、中枢神経系の病変にも効果を示すことの理論的背景って、どんななんだろう。



Outcomes With Pembrolizumab Monotherapy in Patients With Programmed Death-Ligand 1-Positive NSCLC With Brain Metastases: Pooled Analysis of KEYNOTE-001, 010, 024, and 042

Aaron S Mansfield et al., JTO Clin Res Rep. 2021 Jul 1;2(8):100205.
doi: 10.1016/j.jtocrr.2021.100205. eCollection 2021 Aug.

背景:
 脳転移の有無がペンブロリズマブと化学療法の有効性に関連するかどうかを調べるため、PD-L1陽性非小細胞肺がん患者における治療効果を後方視的に検討した。

方法:
 KEYNOTE-001試験、KEYNOTE-010試験、KEYNOTE-024試験、KEYNOTE-042試験を対象に、既治療、あるいは未治療のPD-L1陽性(tumor proportion score(TPS)≧1%)進行非小細胞肺がん患者のデータについて統合解析を行った。対象となった患者は、ペンブロリズマブ(2mg/kg, 10mg/kg, もしくは200mgを3週間に1度、ないしは10mg/kgを2週間に1度)を使用するか、あるいはKEYNOTE-001試験以外の試験では化学療法を受けた。全ての臨床試験において、既に治療済みで安定している脳転移巣を有する患者が含まれていた。

結果:
 3170人の患者が解析対象となった。試験登録の段階で脳転移のあった患者が293人(9.2%)、なかった患者が2877人(90.8%)だった。データカットオフ時点での追跡期間中央値は12.9ヶ月(0.1-43.7)だった。化学療法を受けた患者と比較して、ペンブロリズマブを受けた患者は脳転移のあった患者集団でもなかった患者集団でも全生存期間が延長していた。PD-L1≧50%かつ脳転移巣のあった患者におけるハザード比は0.67(95%信頼区間0.44-1.02)、PD-L1≧50%かつ脳転移巣のなかった患者におけるハザード比は0.66(95%信頼区間0.58-0.76)だった。PD-L1≧1%かつ脳転移巣のあった患者におけるハザード比は0.83(95%信頼区間0.62-1.10)、PD-L1≧1%かつ脳転移巣のなかった患者におけるハザード比は0.78(95%信頼区間0.71-0.85)だった。脳転移の有無に拠らず、ペンブロリズマブは化学療法と比較して無増悪生存期間を改善し、奏効割合を高め、奏効持続期間を延長した。治療関連有害事象は脳転移巣を有する患者集団に限ってみるとペンブロリズマブによるものが66.3%、化学療法によるものが84.4%で、脳転移巣のない患者集団ではペンブロリズマブ群で67.2%、化学療法によるものが88.3%だった。

結論:
 ペンブロリズマブ単剤療法は、化学療法と比較して治療効果良好で有害事象は少なかった。脳転移巣の有無は、治療効果とは無関係だった。


  

2021年10月21日

タルクは噴霧するのがいいのか、懸濁液を注入するのがいいのか

 タルク末を利用した胸膜癒着術、本来は胸腔鏡下にパウダーとして肺表面に散布するのが正しい方法であると、呼吸器内視鏡学会主催のセミナーで聞いたことがある。
 一方、国内で一般に行われているのは、胸腔ドレーンから懸濁液を注入することだと思う。
 懸濁液注入法は果たして妥当なのか、今回取り上げる臨床試験で検証されていた。
 結論から言えば懸濁液注入法で事足りるらしいのだが、原発巣が肺がんや乳がんの場合は胸腔鏡下で噴霧する方が治療成功率が高いようだ。


Phase III intergroup study of talc poudrage vs talc slurry sclerosis for malignant pleural effusion

Carolyn M Dresler et al., Chest. 2005 Mar;127(3):909-15.
doi: 10.1378/chest.127.3.909.

目的:
 悪性胸水に対して胸膜癒着術を行うにあたり、最適なタルクの注入法を検証すること

方法:
 確定診断済みの悪性胸水に対し、胸腔鏡下でのタルク噴霧法(TTI群)と、胸腔ドレーンからのタルク懸濁液注入法(TS群)を比較する前向き無作為化臨床試験を計画した。主要評価項目は、胸膜癒着術により90%超の肺再膨張が得られた存命患者における、レントゲン上の30日胸水無増悪割合とした。合併症、患者死亡、QoLについても評価した。

結果:
 501人の患者が登録され、適格と判断された患者をTTI群(242人)とTS群(240人)に無作為割付した。患者背景や悪性腫瘍原発巣は両治療群間で同様だった。30日胸水無増悪割合は両群同等だった(TTI群78%、TS群71%)。しかし、原発巣が肺がんもしくは乳がんの患者集団では、TS群よりもTTI群の方が胸水コントロールは良好だった。(TTI群82%、TS群67%)。頻度の高い合併症には発熱、呼吸困難、疼痛があった。治療関連死はTTI群で9人、TS群で7人認められた。呼吸器合併症を発症したのは、TTI群で14%、TS群で6%と、TTI群でより高頻度に認められた。呼吸不全はTS群の4%、TTI群の8%に認められた。そのうちTTI群で6人、TS群で5人、治療関連死にいたった。QoL評価では、TS群と比較してTTI群の方が倦怠感がよりマイルドだったが、その他には有意な差は認めなかった。

結論:
 噴霧法、懸濁液注入法、いずれも同様の有効性を認めた。肺がんや乳がんの患者においては、噴霧法の方がよいかもしれない。

  

Posted by tak at 06:00Comments(0)支持療法

2021年10月20日

CheckMate-227試験 4年追跡後

 以下のごとく、進行非小細胞肺がんに対するニボルマブ+イピリムマブ併用療法の意義を検討したCheckMate-227試験については、幾度となく取り上げてきた。
 いまだに試験デザインについては眉唾ものと思っているが、そうはいっても母が実際に受けた治療でもあり、長期追跡結果には大変興味がある。
 今回の報告から、進行・術後再発非小細胞肺がん患者に対する一次治療としてニボルマブ+イピリムマブ併用療法を行った場合、4年生存割合はPD-L1発現状態によらず25-30%と見積もって良さそうである。


・CheckMate227試験・・・試験デザインに極めて難あり
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e968110.html

・CheckMate227試験とCheckMate9LA試験
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e976407.html

・ニボルマブ+イピリムマブ±プラチナ併用化学療法 適応追加
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e982891.html

・CheckMate-227試験 日本人サブセット解析
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e988334.html




First-Line Nivolumab Plus Ipilimumab in Advanced Non-Small Cell Lung Cancer: 4-Year Outcomes From the Randomized, Open-Label, Phase 3 CheckMate 227 Part 1 Trial

Luis G.Paz-Ares et al., J Thorac Oncol. 2021 Oct 11;S1556-0864(21)03207-X.
doi: 10.1016/j.jtho.2021.09.010. Online ahead of print.

背景:
 CheckMate 227試験では、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法がPD-L1≧1%の患者集団に対して(主要評価項目)も、<1%の患者集団に対して(事前設定の記述統計)も、化学療法に対して生存期間を延長した。今回は4年追跡後の更新データを報告する。

方法:
 未治療のIV期、もしくは術後再発の成人非小細胞肺がん患者を対象に、PD-L1≧1%の患者集団はニボルマブ+イピリムマブ群(NI群)、ニボルマブ群(N群)、化学療法群(C群)に、PD-L1<1%の患者集団はニボルマブ+イピリムマブ群(NI群)、ニボルマブ+化学療法群(NC群)、化学療法群(C群)に1:1:1の割合で無作為割付した。有効性の評価項目には全生存期間その他の判定項目を含めた。安全性の評価には、免疫関連有害事象発現のタイミングや対処法も含めた。後付けの解析として、治療関連有害事象のためにニボルマブ+イピリムマブ併用療法を中止した患者における有効性評価を行った。

結果:
 追跡期間中央値は54.8ヶ月で、PD-L1≧1%の患者集団においてNI群はC群に対して全生存期間の延長を維持していた(ハザード比0.76、95%信頼区間0.65-0.90、4年生存割合はNI群29%、C群18%)。また、PD-L1<1%の患者集団においても同様だった(ハザード比0.64、95%信頼区間0.51-0.81、4年生存割合はNI群24%、C群10%)。NI群の生存期間延長効果は、扁平上皮がんでも非扁平上皮がんでも同様に認められた。記述統計において、PD-L1≧1%の患者集団ではN群よりもNI群の方が、PD-L1<1%の患者集団ではNC群よりもNI群の方が、有効性が高かった。安全性は既報と変わるところはなかった。NI群、N群、NC群において頻度の高かった免疫関連有害事象は皮疹だった。ほとんどの免疫関連有害事象(内分泌異常を除く)はプロトコール治療開始から6か月以内に発生し、副腎皮質ステロイドを主とした治療介入により発生から3か月以内には寛解した。NI群のプロトコール治療を有害事象により中止した患者では、全体集団と同様に長期的な生存期間延長効果が認められた。

結論:
 4年追跡調査後、さらに言えば全ての対象患者において免疫チェックポイント阻害薬最終投与から2年以上経過した状況下で、進行非小細胞肺がんに対するニボルマブ+イピリムマブ併用療法は持続的長期効果を維持していた。新種の有害事象は認めなかった。免疫関連有害事象は比較的早い段階で発生し、ガイドラインに基づいた治療対応で速やかに改善した。治療関連有害事象によりニボルマブ+イピリムマブ併用療法の中止を余儀なくされた場合にも、全患者集団と同様に長期的な治療効果が得られた。

  

2021年10月15日

悪性胸水に対しOK-432(ピシバニール)を用いた胸膜癒着術

 終日臥床状態、意思疎通ほぼ不能の患者のがん性胸膜炎制御に忙殺されている。
 毎日1000-1500mlの胸水が出続けるので、週末返上で頑張っている。
 
 胸膜癒着術を行おうにも体位変換ができないので、今週から取り掛かり始めた胸膜癒着術に何を使おうか難渋した。
 まずは毒性のマイルドなミノサイクリンから取り組んでみたのだが、全くの鳴かず飛ばず。
 昨日はピシバニール(OK-432)を10KE使用し、お決まりの高熱に苛まれたが、これまでのところ胸水は減少傾向にある。
 なるべくならこのまま凌ぎたい。
 タルクを使ってもよいが、体位変換が満足にできない以上、おそらく癒着効果は背側のみに留まるだろう。

 ピシバニールに関する国内外の臨床試験結果をまとめておく。
 胸膜癒着術に期待できる効果を患者・家族に示すにあたり、根拠となる数字が示されている。



Comparison of OK-432 and mitomycin C pleurodesis for malignant pleural effusion caused by lung cancer. A randomized trial

K T Luh et al., Cancer. 1992 Feb 1;69(3):674-9.
doi: 10.1002/1097-0142(19920201)69:3<674::aid-cncr2820690313>3.0.co;2-5.

背景:
 胸膜癒着術の有効性について、2種の新規薬剤(OK-432、マイトマイシンC)を比較する前向き無作為化臨床試験を行った。

方法:
 悪性胸水を合併した肺がん患者53人を対象とした。試験参加中は、化学療法や放射線治療は行わなかった。胸水ドレナージによる排液後、参加者をOK-432群(OK-432を 10KE(Klinische Einheit)単位/回、毎週胸腔内投与)とMMC群(マイトマイシンCを8mg/回、毎週胸腔内投与)に無作為に割り付けた。胸水の排液がなくなるか、連続して4回の治療を行った段階で治療終了とした。

結果:
 OK-432群に26人、MMC群に27人が割り付けられた。患者背景(年齢、性別、組織型、PS、胸膜癒着術の前に行われた治療)は両群間で同等だった。OK-432群の方が完全胸水制御率が高かった(OK-432群73%、MMC群41%)。胸水制御率(完全制御+部分制御)は両群とも同等だった(OK-432群88%、MMC群67%)。完全胸水制御に至るまでに必要だった治療回数は、OK-432群の方が少なかった(OK-432群 1.9±0.9回、MMC群2.8±0.9回)。生存期間中央値は両群間で有意差を認めなかった(OK-432群5.8ヶ月、MMC群5.1ヶ月)。胸水無増悪期間はOK-432群が有意に長かった(OK-432群7.0ヶ月、MMC群1.5ヶ月)。合併症発生率は、OK-432群の方が高かった(OK-432群80%、MMC群30%)。一過性の発熱反応が最も頻度の高い合併症だった。免疫学的検証を行ったところ、OK-432群では末梢血中のリンパ球数が増加し、CD4/CD8比が低下していた。一方、MMC群では末梢血中のリンパ球数が軽度低下し、CD4/CD8比には有意な変化を認めなかった。

結論:
 OK-432による胸膜癒着術は、悪性胸水を合併した肺がん患者の胸水制御に有効である。



Randomized phase II trial of three intrapleural therapy regimens for the management of malignant pleural effusion in previously untreated non-small cell lung cancer: JCOG 9515

Kimihide Yoshida et al., Lung Cancer. 2007 Dec;58(3):362-8.
doi: 10.1016/j.lungcan.2007.07.009. Epub 2007 Aug 22.

背景:
 治療歴のない非小細胞肺がん患者に合併した悪性胸水貯留の胸膜癒着術に使う薬として、ブレオマイシン(BLM)、OK-432(加熱殺菌処理を施したStreptococcus pyogenesを粉砕処理した薬品)、シスプラチン+エトポシドの3群の効果と毒性を評価した。

方法:
 適格条件を満たした患者を各治療群に無作為割り付けした。BLM群はBLM 1mg/kg(最高用量60mg / body)、OK-432群は0.2KE / kg(最高用量10KE / body)、PE群はシスプラチン80mg/㎡+エトポシド80mg/㎡とした。胸水制御割合は4週間ごとに規定の判定基準で評価した。胸膜癒着術が成功した患者には、シスプラチン+エトポシド併用化学療法を3-4週間ごとに2コース以上行った。無作為割り付けから、胸水の再増悪が認められるか、患者が死亡するまでの期間を胸水無増悪生存期間と定義した。主要評価項目は、4週間経過時点での胸水無増悪生存割合とした。

結果:
 105人の患者が登録され、102人の患者が効果判定対象となった。4週胸水無増悪生存割合はBLM群で68.6%、OK-432群で75.8%、PE群で70.6%だった。生存期間中央値はBLM群で32.1週間、OK-432群で48.1週間、PE群で45.7週間だった。各治療群間で、これら評価項目に有意差を認めなかった。BLM群に1名、間質性肺炎による治療関連死を認めたが、それ以外の毒性は許容範囲だった。

結論:
 本試験結果から、4週胸水無増悪生存割合が最も高かったOK-432を今後の臨床試験における標準治療群とする。

  

Posted by tak at 06:00Comments(0)緩和医療支持療法

2021年10月11日

HER2エクソン20挿入変異陽性非小細胞肺がんに対するpoziotinib

 poziotinibについては過去に何度か触れた。

・PoziotinibとEGFR Exon 20変異
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e914150.html

・EGFR Exon 20挿入変異とpoziotinib・・・ZENITH20試験コホート1の中間解析
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e974052.html

 今回の欧州臨床腫瘍学会では、EGFRエクソン20挿入変異ではなく、HER2エクソン20挿入変異を有する非小細胞肺がんに対して、poziotinibはどうか、というZENITH20試験のコホート4についての報告があった。
 16mg1日1回、8mg1日2回の2つの方法で試みられているようだが、後者のデータはまだ公表されていないものの、筆頭演者の話によれば後者の方が毒性が軽いとのことだった。



Efficacy and safety of poziotinib in treatment-naïve NSCLC harboring HER2 exon 20 mutations: A multinational phase II study (ZENITH20-4)

R. Cornelissen et al., ESMO 2021 Abst. #LBA46

背景:
 EGFRエクソン20変異、あるいはHER2エクソン20変異を有する非小細胞肺がんの治療は確立していない。今回は、HER2エクソン20挿入変異を有する未治療非小細胞肺がん患者を対象に、エクソン20変異によって生じる(他の薬剤では結合困難な)薬剤結合部位にも作用しうるチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるpoziotinibの有効性と安全性を評価する国際的複数コホート第II相試験を行った。

方法:
 ZENITH20試験はエクソン20挿入変異を伴う進行非小細胞肺がん患者を対象とした。腫瘍組織を用いた遺伝子プロファイリングで変異を同定し、コホート1は既治療EGFRエクソン20挿入変異陽性患者、コホート2は既治療HER2エクソン20挿入変異陽性患者、コホート3は未治療EGFRエクソン20挿入変異陽性患者、コホート4は未治療HER2エクソン20挿入変異陽性患者をあてた。poziotinibは1日16mgを経口投与し、1日1回投与、あるいは1日2回分割投与(8mg/回を1日2回)のいずれかの方法で使用し、発現した毒性に応じて治療の中断や減量ができることとした。主要評価項目はRECIST 1.1準拠の独立効果判定委員会判定による奏効割合(ORR)とした。副次評価項目は病勢コントロール割合(DCR) 、奏効持続期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、安全性とした。今回はコホート4の結果を報告する。

結果:
 コホート4では、48人の患者が16mg1日1回投与、23人の患者が8mg1日2回投与で治療を受けた。8mg1日2回投与による治療群は現在も患者集積中であるため、今回は16mg1日1回投与群の結果を報告する。48人の年齢中央値は61歳(34-87)で、4人の患者は学会報告時点でも臨床試験継続中だった。白人が75%、女性が54%、非喫煙者が69%、ECOG PS1が65%だった。88%の患者で治療中断を要し、76%の患者で減量が必要だった。12%の患者で治療中止に至る有害事象が発生した。Grade3以上の治療関連有害事象の主なものは、発疹(35%)、下痢(14%)、胃炎(20%)、爪囲炎(8%)だった。主要評価項目であるORRは44%(95%信頼区間29.5-58.8)だった。さらに2人の患者は、解析時点ではまだ1度の奏効しか確認できていなかったが、確認出来たら奏効割合が48%となる。DCRは75%、DOR中央値は5.4ヶ月(2.8-19.1以上)で、3人の患者が治療を継続していた。PFS中央値は5.6ヶ月(0-20.2以上)だった。

結論:
 Poziotinib16mg1日1回投与は、HER2エクソン20変異を有する未治療非小細胞肺がん患者に対して、臨床的に意義のある治療効果を示した。 安全性プロファイルは他の第2世代EGFR阻害薬と同様だった。1日2回投与群の臨床試験は現在も継続中である。







  

2021年10月10日

放射線治療を前処置とした免疫チェックポイント阻害薬

 表題のテーマについて、しばし物思いにふけっていた。
 忘れないうちに書き残しておく。


・姑息的放射線照射による遠隔腫瘍縮小(アブスコパル)効果と免疫チェックポイント阻害薬 その1
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e992230.html 

・姑息的放射線照射による遠隔腫瘍縮小(アブスコパル)効果と免疫チェックポイント阻害薬 その2
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e992257.html


<がん特異抗原の流出と各種がん治療に関する仮説>
 手術:マクロレベルでの治療なので、がん特異抗原の流出にはほとんど影響しない
 放射線治療:がん細胞を物理的に破壊する→様々ながん特異抗原蛋白、ペプチドが作成されやすい
 化学療法:がん細胞を化学反応として破壊、あるいは静止化する→放射線治療に比べるとがん特異抗原、ペプチドの多様性は乏しい


<放射線治療を前処置とした免疫チェックポイント阻害薬施行時のがん免疫サイクルの仮説>
1)放射線治療による前処置
 中枢神経系への放射線治療→がん特異抗原が体循環にまで行きわたるかどうか不明
 中枢神経系以外への放射線治療→がん特異抗原ががん組織から流出する

2)抗CTLA-4抗体で、抗原提示細胞のがん特異抗原認識を増強
 放射線治療後によりがん特異抗原の流出が活性化、かつ多様化され、抗原提示細胞の提示能力のレパートリーが広がる
 
2.5)抗原提示細胞が細胞障害性T細胞を教育する過程を増強
 この系が見つかれば、新たな治療薬創生に繋がるかもしれない

3)抗PD-1 / PD-L1抗体で細胞障害性T細胞によるがん細胞攻撃を増強
 認識可能ながん特異抗原が多様化することで、細胞障害性T細胞ががん細胞を攻撃する効率が高くなる


<考え得る臨床試験コンセプト>
・局所進行肺がんに対する化学放射線療法に引き続く抗CTLA-4抗体+抗PD-1 / PD-L1抗体±手術
・骨転移を伴う進行期肺がんに対する姑息的放射線治療に引き続く抗CTLA-4抗体+抗PD-1 / PD-L1抗体
・中枢神経系転移を伴う進行期肺がんに対する全脳照射に引き続く抗CTLA-4抗体+抗PD-1 / PD-L1抗体
・進行期肺がんに対し、がん特異抗原流出を目的とした定位照射と、それに引き続く抗CTLA-4抗体+抗PD-1 / PD-L1抗体  

2021年10月09日

悪性胸膜中皮腫とニボルマブ+イピリムマブ併用療法

 どんなテーマで記事を書こうか考えるときに、きっかけはいくつかある。
 各種学会の話題を物色しているとき然り。
 報道記事に触れたとき然り。
 そして、もっともモチベーションを揺さぶられるのは、仕事でテーマに遭遇したときだろう。
 そういった意味で、今は悪性胸水の波が来ている。
 
 他の医療機関からの相談。
 重篤な脳梗塞で終日臥床状態にある患者にたまたま肺がんを疑わせる病巣が見つかり、しかも未治療の胸水貯留があるという。
 肺がんの診療に携わる立場からすれば、どう考えても積極的な治療対象にはならない状況だが、紹介元は脳梗塞のリハビリ目的で転院させたいという。
 自院の呼吸器内科に相談したところ、リハビリの結果PSが改善したら、経気管支肺生検などで診断確定をして治療を考えましょうとのこと。
 本人は病状を理解できる状態にないし、せめても家族の希望を失わせないようにとの配慮だったのかもしれないが、リハビリを請け負う立場からするとたまらない。
 かといって受け入れを拒んでも患者や家族のためにならないので、受け入れをして、正直に脳梗塞の機能予後(頑張ってもリクライニング車いす座位で過ごせるようになるくらいが精一杯)と支持療法に徹した場合の肺がんの予後(治癒不能、生命予後は3-6ヶ月程度)を入院当日に説明し、看取りまで当院でお世話させていただきますと伝えた。
 なるべく本人に苦痛を与えたくないので、経気管支肺生検はおろか、胸水コントロールもしない方針となっていた。
 ところが、転院から2週間もたたないうちに病側の胸郭は胸水でいっぱいになり、明らかな呼吸不全に陥った。
 胸水コントロールをしないこと自体が本人の苦痛を増しているわけで、ご家族と繰り返し相談し、症状緩和目的の支持療法として急遽胸腔ドレナージを開始した。
 再膨張性肺水腫のため一過性に低酸素血症が悪化したが、今は随分呼吸が楽になったようだ。
 今は胸膜癒着術をするべきかせざるべきか、悩んでいるところ。

 もうひとつ、他の医療機関からの相談。
 以前も担当したことがあるのだが、悪性胸膜中皮腫としては私の経験上もっとも長期生存している患者で、診断からゆうに10年を超えている。
 基本的には薬物療法と胸腔ドレナージを繰り返してきており、最後に行った薬物療法はニボルマブ単剤療法だ。
 認知症の低下、PS低下によりニボルマブ継続が困難となり、以後は病状悪化のたびに胸腔ドレナージを行っている。
 徐々に胸腔ドレナージを要する間隔が狭まっており、いまは月に一回程度は胸腔ドレナージを要する状態である。
 その都度日常生活能力が低下するので、今後は胸腔ドレナージおよびリハビリ目的の入院をして、退院直前にできるだけ胸水を抜いて、直後に退院、その後病状が悪化したらまた入院、以後繰り返し、というサイクルでやりくりしなければ仕方がないのかなと思っている。
 どうにかこれで長生きできたにしても、はたしてこの生活、本人にとっては幸せなのかどうか。

 すっかり前置きが長くなってしまった。
 なんとか状況を打開するすべがないか、ということで取り上げるのが、悪性胸膜中皮腫に対するニボルマブ+イピリムマブ併用療法である。 
 CheckMate743試験は一次治療が前提の臨床試験なので、本当に上記患者に適応できるか、と言われると困ってしまうが。


・小野薬品工業のプレスリリース:オプジーボとヤーボイの併用療法が、化学療法と比較して、第Ⅲ相 CheckMate -743 試験における切除不能な悪性胸膜中皮腫のファーストライン治療で、3 年時点で持続的な全生存期間の改善を示す
https://www.ono.co.jp/sites/default/files/ja/news/press/news20210914.pdf


First-line nivolumab plus ipilimumab in unresectable malignant pleural mesothelioma (CheckMate 743): a multicentre, randomised, open-label, phase 3 trial

Paul Baas et al., Lancet. 2021 Jan 30;397(10272):375-386.
doi: 10.1016/S0140-6736(20)32714-8. Epub 2021 Jan 21.

背景:
 悪性胸膜中皮腫に対して承認された全身治療は、化学療法に限られており、治療成績はあまり良いとは言えない。ニボルマブ+イピリムマブ併用療法は、他のがん種において臨床的有用性を示しており、この中には非小細胞肺がんに対する一次治療も含まれる。本治療が悪性胸膜中皮腫の生存期間も延長すると仮説を立てた。

方法:
 今回のオープンラベル、無作為化、第III相CheckMate743試験には、21ヶ国から103の医療機関が参加した。18歳以上、治療歴なし、組織学的に切除不能の悪性胸膜中皮腫と診断済みで、ECOG-PS 0-1の患者を対象とした。適格患者は1:1の割合でニボルマブ+イピリムマブ併用療法群(NI群)と化学療法群(Cx群)に無作為に割り付けられた。NI群はニボルマブ(3mg/kgを2週間に1回点滴)およびイピリムマブ(1mg/kgを6週間に1回点滴)の投与を最長2年間継続した。Cx群はプラチナ製剤(シスプラチン75mg/㎡点滴あるいはカルボプラチン5AUC点滴)+ペメトレキセド(500mg/㎡点滴)を3週間に1回、最長6サイクルまで継続した。主要評価項目は無作為割付を受けた全ての患者を対象とした全生存期間とし、プロトコール治療を受けた全ての患者について安全性評価を行った。

結果:
 2016年11月29日から2018年04月28日までに、計713人の患者が本試験に登録され、605人が各治療群に無作為割付された(NI群303人、Cx群302人)。467人(77%)が男性で、年齢中央値は69歳(四分位間は64-75)だった。既定の中間解析時点(データカットオフは2020年4月3日に行い、追跡期間中央値は29.7ヶ月(四分位間は26.7-32.9))において、NI群で有意に全生存期間が延長していた(NI群18.1ヶ月(95%信頼区間16.8-21.4)、Cx群14.1ヶ月(95%信頼区間12.4-16.2)、ハザード比0.74(95%信頼区間0.60-0.91)、p=0.0020)。2年生存割合はNI群で41%(95%信頼区間35.1-46.5)、Cx群で27%(95%信頼区間21.9-32.4)だった。Grade 3-4の有害事象はNI群のうち治療を受けた300人中91人(30%)に、Cx群のうち治療を受けた284人中91人(32%)に認めた。NI群のうち3人(肺臓炎、脳炎、心不全)、Cx群のうち1人(骨髄抑制)に治療関連死が発生した。

結論:
 未治療切除不能悪性胸膜中皮腫に対し、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法は標準的な化学療法と比較して、統計学的有意に、しかも臨床的に意味のある生存期間延長効果を示した。




First-line nivolumab (NIVO) plus ipilimumab (IPI) vs chemotherapy (chemo) in patients (pts) with unresectable malignant pleural mesothelioma (MPM): 3-year update from CheckMate 743

Solange Peters et al., ESMO 2021 abst.#LBA65

背景:
 既報のCheckMate743試験について、3年追跡後の効果・安全性と、バイオマーカー解析について報告する。

方法:
 割付調整因子は組織型(上皮型 vs 非上皮型)と性別だった。その他は既報の通り。バイオマーカー解析は、探索的評価項目として位置づけられていた。CD8A、PD-L1、STAT-1、LAG-3の4種の炎症関連遺伝子発現状態について、RNAシーケンスを用いて推算し、中央値に対して高いか低いかで分類して評価した。治療開始前の末梢血好中球数 / リンパ球数比とLDHから算出されるLung immune prognostic index(LIPI)についても評価した。

結果:
 最短追跡期間35.5ヶ月(データカットオフ2021年5月7日)の時点で、NI群は生存期間延長に関する優位性を維持していた(ハザード比0.75、95%信頼区間0.63-0.90)。探索的バイオマーカー解析において、NI群では炎症関連遺伝子発現スコアが高い方が生存期間中央値が長かった(21.8ヶ月 vs 16.8ヶ月)。Cx群ではこうした所見は認めなかった。





  

2021年10月08日

セルペルカチニブの添付文書

 製造販売承認は得られたものの、まだ薬価収載には至っていないセルペルカチニブだが、添付文書は参照できる状態になっていた。
 参考までに。

https://www.lillymedical.jp/ja-jp/answers/144696  

2021年10月07日

第4世代ALK阻害薬・・・TPX-0131とNVL-655

 ALK肺がんの領域でなにか新しい話題がないかと思ってい調べたところ、今回紹介する総説に遭遇した。
 これまで文献を読んだときは、漫然と要約を書き下していたが、総説だとそうはいかない。
 迷った挙句、将来読み返したときに参考になるように、自分なりの要点を3点書き残す。
 EGFR肺がんのオシメルチニブ耐性でも問題になっている重複遺伝子変異の概念、その克服を目指す第4世代ALK阻害薬の登場がトピックであり、ALK肺がんの研究開発の奥行を感じさせてくれる総説だった。


Will the clinical development of 4th-generation "double mutant active" ALK TKIs (TPX-0131 and NVL-655) change the future treatment paradigm of ALK+ NSCLC?

Sai-Hong Ignatius Ou et al., Transl Oncol. 2021 Nov;14(11):101191.
doi: 10.1016/j.tranon.2021.101191. Epub 2021 Aug 5.

1)ALK肺がんに対する一次治療としてのALK阻害薬臨床試験のまとめ
 ALK肺がんを間野先生の研究グループが発見したのち、当初はマルチキナーゼ阻害薬であるクリゾチニブが使われ始めた。
 ALK肺がんの領域におけるクリゾチニブは、もはや「古典」といってもいい治療である。
 当初はプラチナ併用化学療法に対し、クリゾチニブが有意に無増悪生存期間延長効果を示し、それもハザード比0.40-0.45程度と圧倒的な差を以てクリゾチニブに軍配が上がっており、ALK肺がんにはALK阻害薬、という今日では当たり前の治療概念が確立された。
 以後はクリゾチニブが標準治療、比較対象として広く受け入れられるようになり、いつの間にか他のALK阻害薬の引き立て役になってしまった。
 セリチニブはともかく、アレクチニブ、ブリガチニブ、ensartinib、ロルラチニブ、いずれも一次治療として、クリゾチニブと比較して無増悪生存期間を延長し、それもハザード比0.28-0.51と圧倒的な差を以てクリゾチニブ以外のALK阻害薬に軍配が上がっている。
 驕れるものは久しからず、とは言わないが、一次治療としてのクリゾチニブの役割は終わった。
 そして、ALK肺がんの特徴である高頻度の中枢神経系転移に対する抗腫瘍活性に優れ、かつALK融合遺伝子産物に対する選択的阻害活性がより強いクリゾチニブ以外のALK阻害薬(主にセリチニブ、アレクチニブ)が一次治療として積極的に使用されるようになる。





2)ALK阻害薬の使用法の変遷と、耐性変異様式の移り変わり
 ALK異常を含め、複数の遺伝子異常に有効なマルチキナーゼ阻害薬として働くクリゾチニブを使用することにより、クリゾチニブにより誘導される耐性変異は多岐にわたり、solvent front と呼ばれる薬剤結合部位の入り口の耐性変異はその中の一部にしか過ぎなかったが、クリゾチニブ以外のALK選択性の強いALK阻害薬により誘導される耐性変異は、よりsolvent frontへの耐性変異に収斂されていくことになる。
 なかでも最も厄介な、それでいて出現頻度の高い耐性変異がG1202R変異であるが、より中枢神経系への移行活性が高く、かつG1202R変異への阻害活性を強めるべく開発されたのがロルラチニブだった。
 こうした薬剤特性と治療開発の経緯から、クリゾチニブを第1世代、セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、ensartinibを第2世代、ロルラチニブを第3世代のALK阻害薬と称する分類法が一般的となっていく。
 そして近年では、複数の耐性変異が1本のALK肺がん染色体アリルに共存するがために、上記の既存ALK阻害薬が効かない耐性例が見られるようになった。
 こうした「重複耐性変異」を有するALK肺がんは、アレクチニブでの治療後(アレクチニブの前治療の如何は問わない)では24%の出現頻度で、第2世代ALK阻害薬を用いた後のロルラチニブでの治療後では48%と倍増していた。

3)重複耐性変異に対する第4世代ALK阻害薬の登場
 第2世代、第3世代のALK阻害薬は、二次治療以降で使用すると一般に無増悪生存期間延長効果が薄まってしまう。
 例えば、ALTA-1L試験結果から、ブリガチニブを一次治療で使用すると2年程度の無増悪生存期間を見込めるが、アレクチニブ耐性後にブリガチニブを使用すると、無増悪生存期間は4.4-7.3ヶ月程度まで短縮する。
 同様に、CROWN試験結果から、ロルラチニブを一次治療で使用すると2年半程度の無増悪生存期間を見込めるが、第2世代ALK阻害薬1種類耐性後にロルラチニブを使用すると6.9ヶ月、2種類以上のALK阻害薬耐性後にロルラチニブを使用すると5.5ヶ月まで短縮する。
 こうした状況を打破するために開発されたのが、TPX-0131やNVL-655といった第4世代のALK阻害薬である。
 まだ前臨床の段階ではあるが、TPX-0131、NVL-655いずれも、重複耐性変異に対する阻害活性を有することが確認されている。
 TPX-0131に至っては、一部の三重重複耐性変異にも阻害活性を有するようである。
 一方、G1202R / G1269AやG1202R / G1269A / L1204VのようなTPX-0131でも歯が立たない重複耐性変異も確認されている。
 今後は、第4世代ALK阻害薬の効果と安全性を検証する臨床試験が、既存治療耐性化後のALK肺がん患者、あるいは未治療ALK肺がん患者を対象として計画されていくだろう。
 また、その結果を受けて、第○○世代といったあいまいな分類ではなく、それぞれの薬理特性に見合ったALK阻害薬分類に切り替わっていくだろう。







 なお、ALK阻害薬の耐性化機構については、こちらのリンクがとても参考になるので書き残しておく。
・ALKキナーゼ・ROS1キナーゼ融合遺伝子陽性肺がんの、治療薬への耐性化機構と克服薬を発見することに成功
https://www.jfcr.or.jp/chemotherapy/pickup/backnumber_003.html  

2021年10月04日

新型コロナウイルスワクチンの効果と考え方

 新型コロナウイルスワクチン、本邦でもかなり浸透した。
 先日視聴したニュース番組では、
・1回接種終了者:接種対象者の約60%
・2回接種終了者:接種対象者の約70%
と報道されていた。
 
 新型コロナウイルスに関連した学術報告はバブルの様相を呈しており、実生活にどの程度活かせるのかわからない。
 こんなときは、かえって一般報道の方が実態を反映しているように感じられる。
 がんの臨床試験結果が、必ずしも実地臨床を反映していないのと関係がよく似ている。

 読み遅れていた2021/09/25付の新聞の社会面を見たら、いろいろと参考になることが書いてあった。
 患者と話すときに役立つかもしれないので書き残しておく。

・新型コロナウイルスのワクチンの2回接種を終えてから感染する「ブレークスルー感染」が絡むクラスターが目立ってきた
・2回接種した人は感染しても未接種者より軽症で済むケースが多い
・体調の変化に気付きにくく対応が遅れる恐れがある
・群馬県伊勢崎市の病院で、2021/09/22までに10-80代の入院患者17人と職員8人の計25人の感染が判明した
・うち24人はワクチンを2回接種済みだった
・残る1人も1回接種していた
・和歌山県高野町の特別養護老人ホームで、2021/09/24までに重症者1人を含む80-90代の施設利用者12人と職員2人の感染が確認された
・全員がワクチンの2回接種を完了していた
・デルタ株に対するワクチンの感染予防効果は50-90%などとする報告があり、接種しても感染の可能性は残る
・一方で、発症や入院を予防する効果は80-90%とされ、重症化するリスクは低い
・福井県越前市の介護老人保健施設で9月に2回接種済みの約30人が感染したクラスターでは、いずれも軽症や無症状だった
・ブレイクスルー感染は感染そのものに気付きにくく、無症状のまま他人に移してしまう恐れが指摘されている
・2021/09/24に東京都が開いたモニタリング会議で、2021/08/01-2021/09/20に新型コロナウイルス感染のために東京都内で亡くなった人484人のうち、ワクチン接種歴を確認できた412人を分析したところ、325人(79%)がワクチン未接種者、38人(9%)が1回接種者、49人(12%)が2回接種者だった
・2回接種した死亡者のうち、糖尿病などの基礎疾患のあった患者が45人(92%)を占めた
・年代別では、60歳以上の死亡者が303人(74%)だった

 以上から得られる教訓は、
・ワクチンを2回接種したら、一般には重症化や死亡のリスクを減らせる
・ブレークスルー感染は無症状、軽症のこともあり、誰もが無症候性・軽症キャリアとして感染源となる可能性があるので、消毒・手洗い・ソーシャルディスタンス・マスク着用といった予防行動はこれまで通りに必要
・高齢、糖尿病などのリスクがあると、2回接種を終了していてもブレイクスルー感染発症時の死亡リスクがあるため、感染予防行動が欠かせない
といったところだろうか。

 裏を返せば、ワクチン接種完了者はこうした事実を踏まえながら社会正常化に向けた活動を始める時期が来た、ということだろう。
 ワクチン接種未完了者、あるいはワクチン非接種の意向を持つ人は、引き続き社会生活を営むにあたって自他ともに配慮を要するだろう。
  

Posted by tak at 06:00Comments(0)その他