2021年07月24日
LC-SCRUM AsiaにおけるKRAS G12C出現頻度
KRAS G12C変異陽性肺がんに対するsotorasibの有効性が示され、臨床導入が現実味を帯びてきた。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e989723.html
今回の報告はあくまでNRAS、HRASにスポットを当てたものだが、実臨床におけるインパクトという意味では、KRAS陽性患者の実像を明らかにしたことの方が興味深い。
そのため、敢えて末尾の図表では、KRASに絞って標記した。
Clinico-pathological and genomic features of NRAS- or HRAS-mutated non-small cell lung cancer (NSCLC) identified in large-scale genomic screening project (LC-SCRUM-Asia).
Yutaro Tamiya et al., 2021 ASCO Annual Meeting abst.#9054
背景:
RAS(KRAS、NRAS、HRAS)は非小細胞肺がんなどのがん種において治療標的となりうるがん遺伝子であり、種々のRAS標的薬が臨床開発の途上にある。しかし、NRAS、HRASといった稀なRAS遺伝子変異がどの程度非小細胞肺がんの病態に関わっているのかは、まだよくわかっていない。
方法:
大規模ゲノムスクリーニングプロジェクトであるLC-SCRUM-Asiaの枠組みの中で、次世代シーケンスシステムであるOncomine Comprehensive Assayを用いて肺がん患者のゲノム異常を前向きに解析した。本プロジェクトのデータベースを用いて、NRAS、HRAS遺伝子異常陽性患者の臨床病理学的背景をKRAS遺伝子異常陽性患者と比較した。
結果:
2015年3月から2020年12月までの期間で、9131人の非小細胞肺がん患者がLC-SCRUM-Asiaに登録された。そのうち8374人(92%)で、次世代シーケンサーでの解析に成功した。RAS遺伝子変異は、タイプ別にそれぞれKRAS遺伝子変異1134人(14%)、NRAS遺伝子変異50人(0.6%)、HRAS遺伝子変異15人(0.2%)が認められた。NRAS変異、HRAS変異で頻度が高かった変異は、NRASでQ61X(78%)、HRASでG13X(80%)だった。一方で、KRAS変異で頻度が高かったのはG12X(84%)だった。NRAS変異では、HRAS変異より有意に男性が多かった(p=0.03)。KRAS、NRAS、HRAS変異全てにおいて、喫煙者が多かった(全体の79%)。NRAS変異(70%)とKRAS変異(89%)では腺がんが多く、一方HRAS変異の60%は扁平上皮がんだった。Tumor Mutation Burden(TMB)はKRAS変異よりもNRAS変異で有意に高値だった(p=0.03)。TP53変異の併存は、KRAS変異よりもHRAS変異で有意に高頻度だった(30% vs 53%、p=0.05)。STK11変異は、統計学的には有意でないものの、KRAS変異よりもHRAS変異において高頻度だった(7% vs 20%、p=0.10)。抗PD-1 / PD-L1抗体の治療効果はこれまでの解析結果では差を認めないものの、HRAS変異を有する患者は本治療に反応していなかった(奏効割合0%、無増悪生存期間中央値1.6ヶ月)。
結論:
NRAS変異、HRAS変異を有する非小細胞肺がんは、KRAS変異を有する非小細胞肺がんとは異なる臨床病理学的背景を有していた。とりわけ、KRAS変異陽性非小細胞肺がんと異なり、HRAS変異陽性非小細胞肺がんには免疫チェックポイント阻害薬が無効であった。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e989723.html
今回の報告はあくまでNRAS、HRASにスポットを当てたものだが、実臨床におけるインパクトという意味では、KRAS陽性患者の実像を明らかにしたことの方が興味深い。
そのため、敢えて末尾の図表では、KRASに絞って標記した。
Clinico-pathological and genomic features of NRAS- or HRAS-mutated non-small cell lung cancer (NSCLC) identified in large-scale genomic screening project (LC-SCRUM-Asia).
Yutaro Tamiya et al., 2021 ASCO Annual Meeting abst.#9054
背景:
RAS(KRAS、NRAS、HRAS)は非小細胞肺がんなどのがん種において治療標的となりうるがん遺伝子であり、種々のRAS標的薬が臨床開発の途上にある。しかし、NRAS、HRASといった稀なRAS遺伝子変異がどの程度非小細胞肺がんの病態に関わっているのかは、まだよくわかっていない。
方法:
大規模ゲノムスクリーニングプロジェクトであるLC-SCRUM-Asiaの枠組みの中で、次世代シーケンスシステムであるOncomine Comprehensive Assayを用いて肺がん患者のゲノム異常を前向きに解析した。本プロジェクトのデータベースを用いて、NRAS、HRAS遺伝子異常陽性患者の臨床病理学的背景をKRAS遺伝子異常陽性患者と比較した。
結果:
2015年3月から2020年12月までの期間で、9131人の非小細胞肺がん患者がLC-SCRUM-Asiaに登録された。そのうち8374人(92%)で、次世代シーケンサーでの解析に成功した。RAS遺伝子変異は、タイプ別にそれぞれKRAS遺伝子変異1134人(14%)、NRAS遺伝子変異50人(0.6%)、HRAS遺伝子変異15人(0.2%)が認められた。NRAS変異、HRAS変異で頻度が高かった変異は、NRASでQ61X(78%)、HRASでG13X(80%)だった。一方で、KRAS変異で頻度が高かったのはG12X(84%)だった。NRAS変異では、HRAS変異より有意に男性が多かった(p=0.03)。KRAS、NRAS、HRAS変異全てにおいて、喫煙者が多かった(全体の79%)。NRAS変異(70%)とKRAS変異(89%)では腺がんが多く、一方HRAS変異の60%は扁平上皮がんだった。Tumor Mutation Burden(TMB)はKRAS変異よりもNRAS変異で有意に高値だった(p=0.03)。TP53変異の併存は、KRAS変異よりもHRAS変異で有意に高頻度だった(30% vs 53%、p=0.05)。STK11変異は、統計学的には有意でないものの、KRAS変異よりもHRAS変異において高頻度だった(7% vs 20%、p=0.10)。抗PD-1 / PD-L1抗体の治療効果はこれまでの解析結果では差を認めないものの、HRAS変異を有する患者は本治療に反応していなかった(奏効割合0%、無増悪生存期間中央値1.6ヶ月)。
結論:
NRAS変異、HRAS変異を有する非小細胞肺がんは、KRAS変異を有する非小細胞肺がんとは異なる臨床病理学的背景を有していた。とりわけ、KRAS変異陽性非小細胞肺がんと異なり、HRAS変異陽性非小細胞肺がんには免疫チェックポイント阻害薬が無効であった。
2021年07月22日
日本人の高齢進展型小細胞肺がんの標準治療
肺がんの化学療法に関するこうした古典的な臨床試験は、もう目にしなくなるかもしれない。
そして、イリノテカンの出番がまたひとつ減ることになった。
効果は同等、毒性の面ではカルボプラチン+エトポシド併用療法は骨髄抑制が、カルボプラチン+イリノテカン併用療法は下痢が問題となる。
骨髄抑制に対しては投与量減量やG-CSFで対処可能だが、下痢のマネジメントには難渋する。
使いやすさや免疫チェックポイント阻害薬との併用という点で、イリノテカンは明らかに劣後する。
もはや、イリノテカンを積極的に使用する機会はもはやほとんどなくなったと言ってもいいだろう。
A randomized phase II/III study comparing carboplatin and irinotecan with carboplatin and etoposide for the treatment of elderly patients with extensive-disease small cell lung cancer (JCOG1201/TORG1528).
Tsuneo Shimokawa et al., 2021 ASCO Annual Meeting abst #8571
背景:
カルボプラチン+エトポシド併用療法は、高齢者進展型肺小細胞癌に対する現在の標準治療である。今回は、日本人の高齢進展型肺小細胞癌患者を対象に、カルボプラチン+イリノテカン併用療法とカルボプラチン+エトポシド併用療法の有効性と安全性を比較検討する無作為化第II / III相試験を行った。
方法:
患者適格条件は以下の通りとした。
・組織診、あるいは細胞診で小細胞がんと診断されている
・化学療法の治療歴がない
・PS 0-2
・71歳以上
カルボプラチン+エトポシド併用療法(CE)群では、カルボプラチン5AUCを1日目、エトポシド80mg/㎡を1,2,3日目に投与し、3週間ごとに4コース繰り返した。カルボプラチン+イリノテカン併用療法(CI)群では、カルボプラチン4AUCを1日目、イリノテカン50mg/㎡を1日目,8日目に投与し、3週間ごとに4コース繰り返した。第II相部分では、主要評価項目はCI群の奏効割合、副次評価項目は有害事象とした。第III相部分では、主要評価項目は全生存期間、副次評価項目は無増悪生存期間、奏効割合、有害事象、症状スコアとした。全生存期間について、CE群に対するCI群の優越性を検証する試験デザインとした。CI群における生存期間中央値がCE群より3.5ヶ月延長し、ハザード比が0.75となる(CE群 10.5ヶ月 vs CI群 14.0ヶ月)ように見積もった。片側検定でのαエラーを0.05、検出力を70%とするとこの仮説検証に必要なイベント数は227であるため、サンプルサイズを250人に設定した。症例集積期間は6.5年、追跡期間は1.5年とした。
結果:
2013年12月から2019年6月にかけて、258人の患者を集積し、無作為割付した(CE群129人、CI群129人)。年齢中央値は75歳(71-90歳)だった。患者背景は両群とも同様だった。全生存期間中央値はCE群12.0ヶ月(95%信頼区間9.3-13.7)、CI群13.2ヶ月(95%信頼区間11.1-14.6)で、ハザード比は0.848(95%信頼区間0.650-1.105)、p=0.11で有意差を認めなかった。無増悪生存期間中央値はCE群4.4ヶ月(95%信頼区間4.0-4.7)、CI群4.9ヶ月(95%信頼区間4.5-5.2)で、ハザード比は0.851(95%信頼区間0.664-1.090)、p=0.21で有意差を認めなかった。奏効割合はCE群59.7%、CI群64.3%だった。症状スコアは、両群に有意差を認めなかった。grade 3以上の骨髄抑制はCE群で、消化管毒性はCI群でより高率に認められた。CE群で肺感染による1人、CI群で肺感染と敗血症による各1人の治療関連死を認めた。
結論:
CI群とCE群の間に統計学的な差異は認めなかった。日本人高齢進展型小細胞肺がん患者における標準治療は、依然としてカルボプラチン+エトポシド併用療法である。
そして、イリノテカンの出番がまたひとつ減ることになった。
効果は同等、毒性の面ではカルボプラチン+エトポシド併用療法は骨髄抑制が、カルボプラチン+イリノテカン併用療法は下痢が問題となる。
骨髄抑制に対しては投与量減量やG-CSFで対処可能だが、下痢のマネジメントには難渋する。
使いやすさや免疫チェックポイント阻害薬との併用という点で、イリノテカンは明らかに劣後する。
もはや、イリノテカンを積極的に使用する機会はもはやほとんどなくなったと言ってもいいだろう。
A randomized phase II/III study comparing carboplatin and irinotecan with carboplatin and etoposide for the treatment of elderly patients with extensive-disease small cell lung cancer (JCOG1201/TORG1528).
Tsuneo Shimokawa et al., 2021 ASCO Annual Meeting abst #8571
背景:
カルボプラチン+エトポシド併用療法は、高齢者進展型肺小細胞癌に対する現在の標準治療である。今回は、日本人の高齢進展型肺小細胞癌患者を対象に、カルボプラチン+イリノテカン併用療法とカルボプラチン+エトポシド併用療法の有効性と安全性を比較検討する無作為化第II / III相試験を行った。
方法:
患者適格条件は以下の通りとした。
・組織診、あるいは細胞診で小細胞がんと診断されている
・化学療法の治療歴がない
・PS 0-2
・71歳以上
カルボプラチン+エトポシド併用療法(CE)群では、カルボプラチン5AUCを1日目、エトポシド80mg/㎡を1,2,3日目に投与し、3週間ごとに4コース繰り返した。カルボプラチン+イリノテカン併用療法(CI)群では、カルボプラチン4AUCを1日目、イリノテカン50mg/㎡を1日目,8日目に投与し、3週間ごとに4コース繰り返した。第II相部分では、主要評価項目はCI群の奏効割合、副次評価項目は有害事象とした。第III相部分では、主要評価項目は全生存期間、副次評価項目は無増悪生存期間、奏効割合、有害事象、症状スコアとした。全生存期間について、CE群に対するCI群の優越性を検証する試験デザインとした。CI群における生存期間中央値がCE群より3.5ヶ月延長し、ハザード比が0.75となる(CE群 10.5ヶ月 vs CI群 14.0ヶ月)ように見積もった。片側検定でのαエラーを0.05、検出力を70%とするとこの仮説検証に必要なイベント数は227であるため、サンプルサイズを250人に設定した。症例集積期間は6.5年、追跡期間は1.5年とした。
結果:
2013年12月から2019年6月にかけて、258人の患者を集積し、無作為割付した(CE群129人、CI群129人)。年齢中央値は75歳(71-90歳)だった。患者背景は両群とも同様だった。全生存期間中央値はCE群12.0ヶ月(95%信頼区間9.3-13.7)、CI群13.2ヶ月(95%信頼区間11.1-14.6)で、ハザード比は0.848(95%信頼区間0.650-1.105)、p=0.11で有意差を認めなかった。無増悪生存期間中央値はCE群4.4ヶ月(95%信頼区間4.0-4.7)、CI群4.9ヶ月(95%信頼区間4.5-5.2)で、ハザード比は0.851(95%信頼区間0.664-1.090)、p=0.21で有意差を認めなかった。奏効割合はCE群59.7%、CI群64.3%だった。症状スコアは、両群に有意差を認めなかった。grade 3以上の骨髄抑制はCE群で、消化管毒性はCI群でより高率に認められた。CE群で肺感染による1人、CI群で肺感染と敗血症による各1人の治療関連死を認めた。
結論:
CI群とCE群の間に統計学的な差異は認めなかった。日本人高齢進展型小細胞肺がん患者における標準治療は、依然としてカルボプラチン+エトポシド併用療法である。
2021年07月20日
病院内におけるワクチン格差のリスク
ここにきて、新型コロナワクチン関連の報道がかまびすしい。
前回の緊急事態宣言下では関西が震央だったが、今回は紛れもなく首都圏が主役だ。
わが大分でも久しぶりに12人の陽性者が確認され、各地域で散発している。
海外のオリンピック選手団からも、連日のようにPCR陽性者が報告されている。
個人的な関心事は、今の波がどの程度、どれくらいの期間に及ぶかということだ。
いろいろと意見は出ているが、紆余曲折を経ながらも高齢者のワクチン接種がかなり進んだのは、政府や地方自治体の努力のたまものと賞賛していいのではないか。
各医療機関での接種とその予約が混乱を極めた一方で、自治体主導の集団接種は初期段階から有効に機能して、立派に各医療機関での接種を補完したように思う。
ありがたいことに、医療機関職員、施設入居者にはある程度接種が行き渡った。
一方、ワクチンの効果に過度の期待は禁物のようだ。
インフルエンザワクチンと同様に、接種した個人の重症化を予防する効果はありそうだが、感染そのものを回避するという点では絶対というわけではなさそうである。
ワクチン接種先進国であるイスラエル、英国、米国の状況を見れば明らかだ。
直近の英国の感染者数は増加の一途をたどっているものの、重症者や死者が抑えられているため、規制を撤廃したと聞く。
米国では、共和党支持層が多い州ではワクチンに懐疑的な国民が多く、感染動向が悪化傾向にあるのだとか。
インフルエンザの流行期において、ワクチン接種の前後を問わず、私は手洗い、うがいをしっかりして、マスクをして、電車通勤や人込みを避けるようにしている。
新型コロナウイルスの流行が収束するまでは、同じことを続ける。
世間的には夏休みに入り、7月22日から五輪による4連休を迎える。
都心のスクランブル交差点を行き交う人波を見るにつけ、とても緊急事態宣言が発出されている地域だとは思えない。
今後も感染は拡大すると見るのが現実的だろう。
そしてこれから先、さざ波のようにデルタ株が全国へ波及していくことだろう。
病院内には、ワクチン接種後の患者、職員もいれば、ワクチン未接種の患者、職員もいる。
そこには明らかなワクチン格差がある。
未接種の職員はともかくも、未接種の患者は、背景疾患と病状のために接種を見送られている人も少なくない。
夏休み期間中に、無症候性、あるいは軽症のデルタ株感染者がそうした患者のもとへウイルスを持ち込まないことを祈るばかりである。
自分が持ち込むかもしれないと思うと、恐ろしくてならない。
前回の緊急事態宣言下では関西が震央だったが、今回は紛れもなく首都圏が主役だ。
わが大分でも久しぶりに12人の陽性者が確認され、各地域で散発している。
海外のオリンピック選手団からも、連日のようにPCR陽性者が報告されている。
個人的な関心事は、今の波がどの程度、どれくらいの期間に及ぶかということだ。
いろいろと意見は出ているが、紆余曲折を経ながらも高齢者のワクチン接種がかなり進んだのは、政府や地方自治体の努力のたまものと賞賛していいのではないか。
各医療機関での接種とその予約が混乱を極めた一方で、自治体主導の集団接種は初期段階から有効に機能して、立派に各医療機関での接種を補完したように思う。
ありがたいことに、医療機関職員、施設入居者にはある程度接種が行き渡った。
一方、ワクチンの効果に過度の期待は禁物のようだ。
インフルエンザワクチンと同様に、接種した個人の重症化を予防する効果はありそうだが、感染そのものを回避するという点では絶対というわけではなさそうである。
ワクチン接種先進国であるイスラエル、英国、米国の状況を見れば明らかだ。
直近の英国の感染者数は増加の一途をたどっているものの、重症者や死者が抑えられているため、規制を撤廃したと聞く。
米国では、共和党支持層が多い州ではワクチンに懐疑的な国民が多く、感染動向が悪化傾向にあるのだとか。
インフルエンザの流行期において、ワクチン接種の前後を問わず、私は手洗い、うがいをしっかりして、マスクをして、電車通勤や人込みを避けるようにしている。
新型コロナウイルスの流行が収束するまでは、同じことを続ける。
世間的には夏休みに入り、7月22日から五輪による4連休を迎える。
都心のスクランブル交差点を行き交う人波を見るにつけ、とても緊急事態宣言が発出されている地域だとは思えない。
今後も感染は拡大すると見るのが現実的だろう。
そしてこれから先、さざ波のようにデルタ株が全国へ波及していくことだろう。
病院内には、ワクチン接種後の患者、職員もいれば、ワクチン未接種の患者、職員もいる。
そこには明らかなワクチン格差がある。
未接種の職員はともかくも、未接種の患者は、背景疾患と病状のために接種を見送られている人も少なくない。
夏休み期間中に、無症候性、あるいは軽症のデルタ株感染者がそうした患者のもとへウイルスを持ち込まないことを祈るばかりである。
自分が持ち込むかもしれないと思うと、恐ろしくてならない。
2021年07月15日
肺がん診療におけるステロイド薬の使い方
少し前と比べると、肺がん診療におけるステロイド薬の使い方、考え方はとても複雑になった。
例を挙げて考えてみたい。
1)化学療法施行時の制吐薬として
デキサメサゾンが一般的に用いられるが、各治療の催吐性リスクに応じて、他の制吐薬とともに使用量が変わる。
とはいえ、この用途ではかなり明確にガイドラインに定められており、少なくとも初回治療時に悩むことはあまりない。
さらに言えば、初回治療時に良好に嘔気が制御されたら、その後用量調整をすることはほぼないだろう。
2)悪液質に対する支持療法として
最近になってアナモレリンが使えるようになったが、悪液質対策としてはステロイド薬の方が遥かに歴史が長く、使用している医師は多いだろう。
使用するステロイド薬、使用する量は医師によってさまざまである。
3)がん性リンパ管症に対する支持療法として
呼吸器領域では、がん性リンパ管症に対する支持療法としてステロイド薬がしばしば用いられる。
患者体重1kg当たり0.5mgのプレドニゾロンを使用するのが一般的ではないだろうか。
4)放射線肺臓炎に対する治療として
感覚として、胸部放射線治療後1-3ヶ月程度で放射線肺臓炎が顕在化することが多いように感じる。
放射線肺臓炎はそもそも長く続く病態なので、患者体重1kg当たり0.5mgのプレドニゾロンを開始し、病状に合わせて漸減しながら月単位で継続することが多い。
厄介なのは、放射線肺臓炎がまだ落ち着いていないうちに肺がんの病勢が悪化したときだ。
一般に10mg/日以上のプレドニゾロンを投与しながらがん薬物療法を行うのは困難なので、どこかで折り合いをつけなければならない。
しかし、一昔前に比べれば、前後対向二門→off cord planningで計60Gyという古典的な照射方法から、定位照射、サイバーナイフ照射、重粒子線と照射法が多様になり、少なくとも定位照射やサイバーナイフでは放射線肺臓炎が軽微に抑えられ、治療の必要がないか、あるいはプレドニゾロンを使ってもより少量、より短期間に抑えられるようになった。
また、これも傾向として、間質性肺炎の治療時のようにじっくり時間をかけて漸減するよりも、比較的短期間で減量、中止を目指し、再燃したら一定量からまた再開、という使い方をされることが増えたように感じる。
5)化学療法による薬剤性肺障害に対して
肺がんのみならず、多領域のがん種の化学療法においても、薬剤性肺障害はしばしば経験する。
薬剤性肺障害が発生したら被疑薬は中止、状況に応じてステロイドを投与し、効果が出るように天を仰ぐ。
深刻な場合は、メチルプレドニゾロンパルス療法まで行う。
6)分子標的薬による薬剤性肺障害に対して
お手軽、安全、安心をモットーに、2002年夏(もう20年も経つのか!)ゲフィチニブを嚆矢としてデビューした分子標的薬だが、上市されて間もなく、我々は薬剤性肺障害の脅威を知ることになった。
ざっと発症率5%、死亡率3%という特徴があり、我が国でも訴訟問題に発展し、海外では薬事承認取り消しにまで追い込まれた。
結局治療は被疑薬の中止とステロイド投与しかないというのが実情で、これは今も昔も変わらない。
7)免疫チェックポイント阻害薬による各種有害事象に対して
近年大きく変わったのはここだろう。
甲状腺機能異常やインシュリン依存性糖尿病といった、生理活性物質の制御もしくは補充で対応するしかないものはともかくとして、多くの免疫関連有害事象にはまずステロイドが使用される。
長く効き続ける免疫チェックポイント阻害薬の性質上、免疫関連有害事象も放射線肺臓炎と同様長期にわたり続くことが多く、いったん始めたステロイドをどのくらいの期間で中止に持っていくかというのは、なかなか難しい命題である。
1)は決まりきった使い方があるし、2)、3)は言ってしまえば患者が天寿を全うするまでひたすら一定量を使い続けるだけなので、そんなに困らない。
もっとも、3)ならば状況が許せばステロイドより先にがん薬物療法を行い、効果に期待するだろう。
問題は4)以下である。
ステロイド薬を使うにあたり、次なるステップのがん薬物療法に適確につなげるために、出口戦略を考えなければならない。
ステロイド薬を早く減らし過ぎればそれぞれの有害事象がぶり返すし、かといってダラダラとステロイド薬を続ければ次治療のタイミングを失ってしまう恐れがある。
例を挙げて考えてみたい。
1)化学療法施行時の制吐薬として
デキサメサゾンが一般的に用いられるが、各治療の催吐性リスクに応じて、他の制吐薬とともに使用量が変わる。
とはいえ、この用途ではかなり明確にガイドラインに定められており、少なくとも初回治療時に悩むことはあまりない。
さらに言えば、初回治療時に良好に嘔気が制御されたら、その後用量調整をすることはほぼないだろう。
2)悪液質に対する支持療法として
最近になってアナモレリンが使えるようになったが、悪液質対策としてはステロイド薬の方が遥かに歴史が長く、使用している医師は多いだろう。
使用するステロイド薬、使用する量は医師によってさまざまである。
3)がん性リンパ管症に対する支持療法として
呼吸器領域では、がん性リンパ管症に対する支持療法としてステロイド薬がしばしば用いられる。
患者体重1kg当たり0.5mgのプレドニゾロンを使用するのが一般的ではないだろうか。
4)放射線肺臓炎に対する治療として
感覚として、胸部放射線治療後1-3ヶ月程度で放射線肺臓炎が顕在化することが多いように感じる。
放射線肺臓炎はそもそも長く続く病態なので、患者体重1kg当たり0.5mgのプレドニゾロンを開始し、病状に合わせて漸減しながら月単位で継続することが多い。
厄介なのは、放射線肺臓炎がまだ落ち着いていないうちに肺がんの病勢が悪化したときだ。
一般に10mg/日以上のプレドニゾロンを投与しながらがん薬物療法を行うのは困難なので、どこかで折り合いをつけなければならない。
しかし、一昔前に比べれば、前後対向二門→off cord planningで計60Gyという古典的な照射方法から、定位照射、サイバーナイフ照射、重粒子線と照射法が多様になり、少なくとも定位照射やサイバーナイフでは放射線肺臓炎が軽微に抑えられ、治療の必要がないか、あるいはプレドニゾロンを使ってもより少量、より短期間に抑えられるようになった。
また、これも傾向として、間質性肺炎の治療時のようにじっくり時間をかけて漸減するよりも、比較的短期間で減量、中止を目指し、再燃したら一定量からまた再開、という使い方をされることが増えたように感じる。
5)化学療法による薬剤性肺障害に対して
肺がんのみならず、多領域のがん種の化学療法においても、薬剤性肺障害はしばしば経験する。
薬剤性肺障害が発生したら被疑薬は中止、状況に応じてステロイドを投与し、効果が出るように天を仰ぐ。
深刻な場合は、メチルプレドニゾロンパルス療法まで行う。
6)分子標的薬による薬剤性肺障害に対して
お手軽、安全、安心をモットーに、2002年夏(もう20年も経つのか!)ゲフィチニブを嚆矢としてデビューした分子標的薬だが、上市されて間もなく、我々は薬剤性肺障害の脅威を知ることになった。
ざっと発症率5%、死亡率3%という特徴があり、我が国でも訴訟問題に発展し、海外では薬事承認取り消しにまで追い込まれた。
結局治療は被疑薬の中止とステロイド投与しかないというのが実情で、これは今も昔も変わらない。
7)免疫チェックポイント阻害薬による各種有害事象に対して
近年大きく変わったのはここだろう。
甲状腺機能異常やインシュリン依存性糖尿病といった、生理活性物質の制御もしくは補充で対応するしかないものはともかくとして、多くの免疫関連有害事象にはまずステロイドが使用される。
長く効き続ける免疫チェックポイント阻害薬の性質上、免疫関連有害事象も放射線肺臓炎と同様長期にわたり続くことが多く、いったん始めたステロイドをどのくらいの期間で中止に持っていくかというのは、なかなか難しい命題である。
1)は決まりきった使い方があるし、2)、3)は言ってしまえば患者が天寿を全うするまでひたすら一定量を使い続けるだけなので、そんなに困らない。
もっとも、3)ならば状況が許せばステロイドより先にがん薬物療法を行い、効果に期待するだろう。
問題は4)以下である。
ステロイド薬を使うにあたり、次なるステップのがん薬物療法に適確につなげるために、出口戦略を考えなければならない。
ステロイド薬を早く減らし過ぎればそれぞれの有害事象がぶり返すし、かといってダラダラとステロイド薬を続ければ次治療のタイミングを失ってしまう恐れがある。
2021年07月07日
「あと何年生きられますか?」「あと何年生きたいですか?」
至極当たり前だが、呼吸器内科医をやっていると、胸部レントゲンで異常があったから診てほしいとよく相談を受ける。
先日は、90歳代、認知症で家族のこともよく認識できないという方の相談を受けた。
一見して肺小細胞癌を疑わせる画像所見だった。
本人、ご家族と面談したところ、まだ肺がんの疑いがありますとも言いださないうちから、
「先生、うちの親はあと何年生きられますか?」
と尋ねられた。
まだ確定診断もついていない、これからどんな治療をするかもわからない状態でこれを言われると困ってしまう。
高度の認知症で積極的治療の余地がなく、画像診断で進行期であることがわかっていれば、あるいはどの程度の速度で病巣が悪化しているのか分かれば、いくらかでも答えようはある。
今回は、他院で最後に撮影した1年前のレントゲン・CTでは異常がなかったのに、今回は少なくとも同一肺葉内転移、縦隔リンパ節腫大を認めており、そんなにゆっくり進む病態ではなさそうだ、ということしか分かっていない。
物心両面でいろいろ準備があるし、という気持ちは、肺がん患者の家族として共有できる。
せめてどの組織型で、どの位の病期で、ということが分かれば、ある程度のデータは提供できる。
だけど初診時にいきなり聞かれると、聞かれる立場からするとやっぱりきつい。
残された寿命の平均値(という名目で便宜的に説明する生存期間中央値)とその95%信頼区間といった言い方なら、茫漠とした表現にはなるが伝えられるかもしれないが、初診時でこうしたことを話すのは心理的ハードルが高い。
受け止める側にもある程度の心の備え、基礎知識を持っておいてもらわないと、かえって誤解を招いてしまう。
一方、先だってこんな話を聞いた。
知人が手術の是非を相談するために外来受診したところ、冒頭に外科医から尋ねられたそうだ。
「あなたは、あと何年生きたいですか?」
これまた答えに窮する質問だ。
実際、知人は絶句してしまったらしい。
「私はあと何年生きられますか?」
という患者から医師に対するよくある質問の、いわば意趣返しのような、そんな問いかけだ。
質問されて答える側は、当然どちらも困ってしまう。
「あなたは、あと何年生きたいですか?」
と聞かれて、
「あと30年」
「100歳まで」
と明確に答える患者もいるかもしれないが、それを聞いた医師はどのように応じるのだろう。
「私はあと何年生きられますか?」
と聞かれて、
「診断にもよるけれど、進行の早い進行肺がんで治療できなかったら3ヶ月から6ヶ月」
と明確に答える医師もいるかもしれないが、それを聞いた患者は、どのように応じるのだろうか。
前者の回答はより楽天的であればあるほど、後者の回答はより深刻であればあるほど、受け止める側の心にはより深く刻み込まれるだろう。
場合によっては、過剰反応をその場で起こしてしまうかもしれない。
それぞれのやりとりにそれぞれの問題があると思うが、決定的に異なるのは、推測の対象になっているのはあくまで患者の生存期間であることだ。
医師の生存期間ではない。
単に立場が入れ替わっただけ、質問されて困るのはお互いさま、という話ではないのだ。
医師はその点をわきまえておかなければなるまい。
「あなたは、あと何年生きたいですか?」
進行期の患者に対してなら百歩譲るとしても、治癒切除を期待して手術の相談に来ている患者・家族に対しての最初の質問としては、やや配慮に欠けるのではないだろうか。
先日は、90歳代、認知症で家族のこともよく認識できないという方の相談を受けた。
一見して肺小細胞癌を疑わせる画像所見だった。
本人、ご家族と面談したところ、まだ肺がんの疑いがありますとも言いださないうちから、
「先生、うちの親はあと何年生きられますか?」
と尋ねられた。
まだ確定診断もついていない、これからどんな治療をするかもわからない状態でこれを言われると困ってしまう。
高度の認知症で積極的治療の余地がなく、画像診断で進行期であることがわかっていれば、あるいはどの程度の速度で病巣が悪化しているのか分かれば、いくらかでも答えようはある。
今回は、他院で最後に撮影した1年前のレントゲン・CTでは異常がなかったのに、今回は少なくとも同一肺葉内転移、縦隔リンパ節腫大を認めており、そんなにゆっくり進む病態ではなさそうだ、ということしか分かっていない。
物心両面でいろいろ準備があるし、という気持ちは、肺がん患者の家族として共有できる。
せめてどの組織型で、どの位の病期で、ということが分かれば、ある程度のデータは提供できる。
だけど初診時にいきなり聞かれると、聞かれる立場からするとやっぱりきつい。
残された寿命の平均値(という名目で便宜的に説明する生存期間中央値)とその95%信頼区間といった言い方なら、茫漠とした表現にはなるが伝えられるかもしれないが、初診時でこうしたことを話すのは心理的ハードルが高い。
受け止める側にもある程度の心の備え、基礎知識を持っておいてもらわないと、かえって誤解を招いてしまう。
一方、先だってこんな話を聞いた。
知人が手術の是非を相談するために外来受診したところ、冒頭に外科医から尋ねられたそうだ。
「あなたは、あと何年生きたいですか?」
これまた答えに窮する質問だ。
実際、知人は絶句してしまったらしい。
「私はあと何年生きられますか?」
という患者から医師に対するよくある質問の、いわば意趣返しのような、そんな問いかけだ。
質問されて答える側は、当然どちらも困ってしまう。
「あなたは、あと何年生きたいですか?」
と聞かれて、
「あと30年」
「100歳まで」
と明確に答える患者もいるかもしれないが、それを聞いた医師はどのように応じるのだろう。
「私はあと何年生きられますか?」
と聞かれて、
「診断にもよるけれど、進行の早い進行肺がんで治療できなかったら3ヶ月から6ヶ月」
と明確に答える医師もいるかもしれないが、それを聞いた患者は、どのように応じるのだろうか。
前者の回答はより楽天的であればあるほど、後者の回答はより深刻であればあるほど、受け止める側の心にはより深く刻み込まれるだろう。
場合によっては、過剰反応をその場で起こしてしまうかもしれない。
それぞれのやりとりにそれぞれの問題があると思うが、決定的に異なるのは、推測の対象になっているのはあくまで患者の生存期間であることだ。
医師の生存期間ではない。
単に立場が入れ替わっただけ、質問されて困るのはお互いさま、という話ではないのだ。
医師はその点をわきまえておかなければなるまい。
「あなたは、あと何年生きたいですか?」
進行期の患者に対してなら百歩譲るとしても、治癒切除を期待して手術の相談に来ている患者・家族に対しての最初の質問としては、やや配慮に欠けるのではないだろうか。
2021年07月01日
アンサーとセファランチン、放射線治療とリンパ球
セファランチン、最近めっきり使わなくなってしまった薬の1つである。
とても不思議な薬で、効能・効果は、
「放射線による白血球減少」「円形脱毛症・粃糠性脱毛症」
とされている。
かつて、胸部放射線治療を開始した患者さんによく処方していたが、効果があるのかないのかよく分からず、いつからか処方しなくなった。
インタビューフォームを確認しても、有効性については以下のような記載しかない。
「放射線による白血球減少症に対する効果:放射線による白血球減少症 264 例に対する有効率は、「有効」以上で 64.8%(171/264)、「やや
有効」以上で 83.3%(220/264)であった」
一方、アンサー皮下注は、そもそも使ったことがない。
この薬はセファランチンよりももっとトンガっていて、効能・効果は、
「放射線療法による白血球減少症」
と潔いくらいにこの用法に特化した薬である。
1日1回皮下注射、週に2回を放射線治療継続中は継続するとのこと。
こちらは二重盲検比較試験で有効性が検証されており、
「放射線療法に起因する白血球減少症に対するアンサー皮下注 20μgの臨床的有用性を、肺癌患者において感染症併発を指標とし、プラセボ(生理食塩液)を対照とした二重盲検比較試験により検討した。その結果、感染症併発の発生率は、アンサー皮下注 20μg群 6.7%、プラセボ群21.2%でアンサー皮下注 20μg群の方が低値であった。また感染症の累積発生率および疑感染を含む 3 段階の感染症併発の検討では、アンサー皮下注 20μg群で感染症の併発が有意に抑制されていた」
とのこと。
さらに、インタビューフォームを注意深く読んでみると、開発の経緯の項に
「本剤は 1956 年に日本医科大学皮膚科学教室 丸山千里博士により、人型結核菌青山 B 株から製造された結核菌体抽出物質である」
「本剤は基礎的検討で造血機能亢進作用並びに白血球減少回復促進作用が見出され、1986 年から臨床試験を開始し、放射線治療時の白血球減少に対する有用性が確認された」
とある。
・・・早い話が、丸山ワクチンのB液ということですか?
B液だけとはいえ、保険適応の薬として市販されているとは知らなかった。
コロニー刺激因子やIL-3の発現を誘導して、顆粒球や単球を増やすとのこと。
なぜこんなことを書き始めたかというと、III期局所進行非小細胞肺がん放射線治療中のリンパ球が多く保たれる方が、生命予後がよいという話を聞いたからである。
この論文では、放射線治療中のリンパ球最低値が≦500ケ/μLのグループと>500ケ/μLのグループとで比較したところ、後者の方が無増悪生存期間、全生存期間共に統計学的有意に優れていたとのこと。
じゃあリンパ球を増やす薬を併用しながら治療すればいいんじゃない?ということでアンサーとセファランチンを調べてみたのだが、残念ながらリンパ球を増やすような薬ではなかったようだ。
Treatment-duration is related to changes in peripheral lymphocyte counts during definitive radiotherapy for unresectable stage III NSCLC
Luke R G Pike et al., Radiat Oncol. 2019 May 27;14(1):86.
doi: 10.1186/s13014-019-1287-z.
背景:
非小細胞肺がん治療における根治的胸部放射線照射中における分割照射方法が、リンパ球減少症の程度に、さらには患者の生命予後に影響を与えるかどうかを検証した。
方法:
切除不能III期非小細胞肺がん患者で、異なる照射量・分割方法により根治的胸部放射線照射を受けた115人の患者を対象とした。カルテと臨床検査データを見直して、放射線治療中のリンパ球数の変化を評価した。リンパ球数と臨床経過の相関を解析した。
結果:
患者全体におけるリンパ球数減少値の中央値は1,300/μL(四分位区間は950-1510/μL)だった。全体のうち63人(54.8%)は、リンパ球数<500/μLと高度のリンパ球減少症に見舞われており、この状態になるまでの期間の中央値は放射線治療開始から5週目であり、放射線治療終了時や総照射量が最大になった時点ではなかった。高度のリンパ球減少を来すリスクは当初5週間で増加し(オッズ比は3.455、p=0.007)、その後はリスク増加は確認できなかった(オッズ比0.562、p=0.216)。リンパ球数の中央値は、放射線治療を完遂してから2ヶ月経過しても低値のままであり、治療開始前の水準には回復しなかった。高度の好中球減少に至らないことは独立した予後良好因子で、多変数解析で交絡因子を調整したあとでも、有意に無増悪生存期間(ハザード比0.544、p=0.010)、全生存期間(ハザード比0.463、p=0.011)を延長していた。高度のリンパ球減少は、全治療期間4週以内(3Gy/回×20回)の患者集団の方が、全治療期間4週間超(2Gy/回×30回)の患者集団よりも頻度が低かった(32.1% vs 62.1%、オッズ比0.289で71.1%の相対リスク低下、p=0.006)。多変数解析では、全治療期間4週以内であることがリンパ球減少のリスクを低減する独立した因子だった(オッズ比0.322、p=0.032)。
結論:
切除不能III期非小細胞肺がん患者において、3Gy/回×20回の放射線照射法は有意に高度のリンパ球減少リスクを低下させ、生命予後を改善することが示された。
とても不思議な薬で、効能・効果は、
「放射線による白血球減少」「円形脱毛症・粃糠性脱毛症」
とされている。
かつて、胸部放射線治療を開始した患者さんによく処方していたが、効果があるのかないのかよく分からず、いつからか処方しなくなった。
インタビューフォームを確認しても、有効性については以下のような記載しかない。
「放射線による白血球減少症に対する効果:放射線による白血球減少症 264 例に対する有効率は、「有効」以上で 64.8%(171/264)、「やや
有効」以上で 83.3%(220/264)であった」
一方、アンサー皮下注は、そもそも使ったことがない。
この薬はセファランチンよりももっとトンガっていて、効能・効果は、
「放射線療法による白血球減少症」
と潔いくらいにこの用法に特化した薬である。
1日1回皮下注射、週に2回を放射線治療継続中は継続するとのこと。
こちらは二重盲検比較試験で有効性が検証されており、
「放射線療法に起因する白血球減少症に対するアンサー皮下注 20μgの臨床的有用性を、肺癌患者において感染症併発を指標とし、プラセボ(生理食塩液)を対照とした二重盲検比較試験により検討した。その結果、感染症併発の発生率は、アンサー皮下注 20μg群 6.7%、プラセボ群21.2%でアンサー皮下注 20μg群の方が低値であった。また感染症の累積発生率および疑感染を含む 3 段階の感染症併発の検討では、アンサー皮下注 20μg群で感染症の併発が有意に抑制されていた」
とのこと。
さらに、インタビューフォームを注意深く読んでみると、開発の経緯の項に
「本剤は 1956 年に日本医科大学皮膚科学教室 丸山千里博士により、人型結核菌青山 B 株から製造された結核菌体抽出物質である」
「本剤は基礎的検討で造血機能亢進作用並びに白血球減少回復促進作用が見出され、1986 年から臨床試験を開始し、放射線治療時の白血球減少に対する有用性が確認された」
とある。
・・・早い話が、丸山ワクチンのB液ということですか?
B液だけとはいえ、保険適応の薬として市販されているとは知らなかった。
コロニー刺激因子やIL-3の発現を誘導して、顆粒球や単球を増やすとのこと。
なぜこんなことを書き始めたかというと、III期局所進行非小細胞肺がん放射線治療中のリンパ球が多く保たれる方が、生命予後がよいという話を聞いたからである。
この論文では、放射線治療中のリンパ球最低値が≦500ケ/μLのグループと>500ケ/μLのグループとで比較したところ、後者の方が無増悪生存期間、全生存期間共に統計学的有意に優れていたとのこと。
じゃあリンパ球を増やす薬を併用しながら治療すればいいんじゃない?ということでアンサーとセファランチンを調べてみたのだが、残念ながらリンパ球を増やすような薬ではなかったようだ。
Treatment-duration is related to changes in peripheral lymphocyte counts during definitive radiotherapy for unresectable stage III NSCLC
Luke R G Pike et al., Radiat Oncol. 2019 May 27;14(1):86.
doi: 10.1186/s13014-019-1287-z.
背景:
非小細胞肺がん治療における根治的胸部放射線照射中における分割照射方法が、リンパ球減少症の程度に、さらには患者の生命予後に影響を与えるかどうかを検証した。
方法:
切除不能III期非小細胞肺がん患者で、異なる照射量・分割方法により根治的胸部放射線照射を受けた115人の患者を対象とした。カルテと臨床検査データを見直して、放射線治療中のリンパ球数の変化を評価した。リンパ球数と臨床経過の相関を解析した。
結果:
患者全体におけるリンパ球数減少値の中央値は1,300/μL(四分位区間は950-1510/μL)だった。全体のうち63人(54.8%)は、リンパ球数<500/μLと高度のリンパ球減少症に見舞われており、この状態になるまでの期間の中央値は放射線治療開始から5週目であり、放射線治療終了時や総照射量が最大になった時点ではなかった。高度のリンパ球減少を来すリスクは当初5週間で増加し(オッズ比は3.455、p=0.007)、その後はリスク増加は確認できなかった(オッズ比0.562、p=0.216)。リンパ球数の中央値は、放射線治療を完遂してから2ヶ月経過しても低値のままであり、治療開始前の水準には回復しなかった。高度の好中球減少に至らないことは独立した予後良好因子で、多変数解析で交絡因子を調整したあとでも、有意に無増悪生存期間(ハザード比0.544、p=0.010)、全生存期間(ハザード比0.463、p=0.011)を延長していた。高度のリンパ球減少は、全治療期間4週以内(3Gy/回×20回)の患者集団の方が、全治療期間4週間超(2Gy/回×30回)の患者集団よりも頻度が低かった(32.1% vs 62.1%、オッズ比0.289で71.1%の相対リスク低下、p=0.006)。多変数解析では、全治療期間4週以内であることがリンパ球減少のリスクを低減する独立した因子だった(オッズ比0.322、p=0.032)。
結論:
切除不能III期非小細胞肺がん患者において、3Gy/回×20回の放射線照射法は有意に高度のリンパ球減少リスクを低下させ、生命予後を改善することが示された。