2021年09月17日

第III相POSEIDON試験

 デュルバルマブが関わる臨床試験は、海洋に関わるコードネームが様々ついている。
 PACIFIC(太平洋)。
 CASPIAN(カスピ海)。
 MYSTIC(コネチカット州の港町)
 そして今回のPOSEIDON(海洋神)。

 デュルバルマブは抗PD-L1抗体、Tremelimumabは抗CTLA-4抗体なので、POSEIDON試験の比較対象としてはCheckMate9LA試験を挙げるのがいいのだろう。

・ニボルマブ+イピリムマブ±プラチナ併用化学療法 適応追加
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e982891.html

 臨床試験の規模は各群340-360人程度でほぼ同等。
 無増悪生存期間中央値(95%信頼区間)はD+T+CT併用療法で6.2ヶ月(5.0-6.5)、CheckMate9LAレジメンで6.8ヶ月(5.5-7.7)でほぼ同等。
 生存期間中央値(95%信頼区間)はD+T+CT併用療法で14.0ヶ月(11.7-16.1)、CheckMate9LAレジメンで14.1ヶ月(13.2-16.2)でほぼ同等。

 さあ、ではどっちを選ぶ?と言われると、私を含めて多くの医師は、治療が楽な方を選ぶだろう。
 D+T+CTは化学療法を含む導入療法が3週ごとに④コース、⑤コース目はD+T、⑥コース目以降はDのみ4週ごとに繰り返し。
 CheckMate9LAレジメンは導入療法が3週ごとに②コース、その後は3週ごとにニボルマブ、6週ごとにイピリムマブが入っていく。
 後者の方が幾分シンプルだろうか。

 あと、細かいことを敢えて言うならば、POSEIDON試験におけるD+T+CT併用療法の有効性は、あくまで条件付き副次評価項目の位置づけである。



Durvalumab ± Tremelimumab + Chemotherapy as First-line Treatment for mNSCLC: Results from the Phase 3 POSEIDON Study

Melissa L Johnson et al., WCLC2021 Abst.#PL02.01

背景:
 PD-1 / PD-L1経路を治療標的とした免疫療法は、単剤療法として、そして化学療法との併用療法として、進行非小細胞肺癌(mNSCLC)の治療を変貌させた。POSEIDON試験はランダム化オープンラベル国際共同第III相試験であり、mNSCLCに対する初回治療として担当医が自由選択による化学療法とデュルバルマブ、トレメリムマブを併用することの意義を問うものである。

方法:
 未治療、EGFR / ALK遺伝子異常陰性のmNSCLC患者を1:1:1の割合で以下の治療群に割り付けた。D+CT群:デュルバルマブ1500mg+化学療法を3週ごとに4サイクル行い、引き続いてデュルバルマブ1500mgを4週間に1サイクル、病勢進行に至るまで継続する。D+T+CT群:デュルバルマブ1500mg+トレメリムマブ75mg+化学療法を3週ごとに最高4サイクルまで行い、続いてデュルバルマブ+トレメリムマブを1サイクル行い、その後はデュルバルマブを4週間に1サイクル、病勢進行に至るまで継続する。CT群:化学療法を3週ごとに最高6サイクルまで行う。化学療法の選択肢は、非扁平上皮がん患者に対するプラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法(ペメトレキセドの維持療法は許容する)、扁平上皮がん患者に対するプラチナ製剤+ジェムシタビン併用療法、全ての組織型に対するカルボプラチン+ナブパクリタキセル併用療法のいずれかとした。割付調整因子は、腫瘍細胞のPD-L1発現割合(50%以上 vs 50%未満)、臨床病期(IVA期 vs IVB期)、組織型とした。主要評価項目は独立効果判定委員会によるRECIST ver.1.1準拠の無増悪生存期間(PFS)、CT群に対するD+CT群の全生存期間(OS)とし、いずれかの優越性が示されたらCT群に対するD+T+CT群のPFS、OSを副次評価項目として解析することとした。安全性評価は割り付けられた治療群に沿って行った。PFSに関するデータカットオフは2019年7月24日、OSと安全性に関するデータカットオフは2021年3月12日とした。

結果:
 1013人の患者が無作為割付された。28.8%の患者でPD-L1発現が50%以上で、49.6%の患者がIVB期で、36.9%の患者が扁平上皮がんだった。担当医が選択した化学療法は、各治療群間で偏りがなかった。CT群に対して、D+CT群では有意にPFSが延長していたが、OSは有意水準に至らなかった。CT群に対して、D+T+CT群はPFS、OSともに有意に延長した。Grade 3 / 4の治療関連有害事象は、D+T+CT群の51.8%、D+CT群の44.6%、CT群の44.4%に認められた。有害事象によりプロトコール治療中止に至った患者は、D+T+CT群の15.5%、D+CT群の14.1%、CT群の9.9%に上った。

結論:
 POSEIDON試験において、D+T+CT併用療法はCT療法に対して統計学的有意にmNSCLC患者のPFSとOSを延長した。同様に、D+CT併用療法はCT療法に対して有意にPFSを延長したが、OSの延長は統計学的有意水準に至らなかった。安全性プロファイルは各治療群間において同様であり、新規の有害事象は認めなかった。治療中断に至る割合はD+T+CT併用療法とD+CT併用療法の間で同様だった。D+T+CT併用療法はmNSCLCに対する初回治療の選択肢の一つとなるかもしれない。





   

2021年09月13日

病勢進行後の治療をどう考えるか

 肺がんの治療が多様化し、治療の考え方はとても複雑になった。
 病勢進行後の治療をどう考えるかについて、散文的にはなるが書き記しておきたい。

1)「病勢進行」をどうとらえるか
 病勢進行の定義をRECIST効果判定の考え方に沿って端的に書き下すなら、「一定以上の病巣増大、あるいは新規病巣の出現」である。
 薬の腫瘍縮小効果を評価する臨床試験においては、この基準が厳密に適用される。
 とはいえ、それさえも絶対的なものではない。

〇主観の問題 
 画像診断に基づいて腫瘍縮小効果を判定するといっても、評価者の主観に左右される。
 患者・家族と喜びも悲しみも分かち合う担当医と、まったく診療に関わらない効果判定委員会では、どうしても測定結果に相違がある。
 効果判定委員会の評価を仮に真の測定結果とするならば、患者・家族の心情を慮って測定結果をいい方にとってしまう担当医もいるだろう。
 逆に、臨床試験の厳格さを重視するあまりに、却って測定結果を悪い方にとってしまう担当医もいるだろう。
 そうした評価のブレがつきものだが、最近はあえて効果判定委員会の評価ではなく、担当医の評価を主要な評価項目に据える臨床試験も散見する。
 これは私の推測だが、プロトコール治療が効果・安全性両面で優れていれば、担当医は長くプロトコール治療を続けたいと思うだろうし、逆に効果・安全性いずれかに問題があれば(診療をしていてそのように感じるならば)担当医は早くプロトコール治療をやめて、次の治療を提供したいと考えるだろう。
 そうした担当医の主観が、敢えて効果判定に持ちこまれるようにしているのかもしれない。
〇タイミングの問題
 治療の効果発現時期が効果判定のタイミングとうまく合致するとは限らない。
 双極にあるのが、ドライバー遺伝子変異に対する分子標的薬と、免疫チェックポイント阻害薬である。
 分子標的薬は一般に効果発現が早く、適切に使えば治療初期は劇的に病巣が縮小することが多い。
 一方で、免疫チェックポイント阻害薬では、有効な場合にも一過性に病巣が増大することがある(Pseudo-Progression)。
 そのため、免疫チェックポイント阻害薬で効果判定を急ぎすぎると、せっかく有効なのに早期に中止してしまう可能性がある。
〇過大評価の問題
 RECIST効果判定では、「ベースライン(治療開始前)径和に比して、標的病変の径和が30%以上減少したら奏効と判定する」、「(治療)経過中の最小の径和(ベースライン径和が経過中の最小値である場合、これを最小の径和とする)に比して、標的病変の径和が20%以上増加、かつ径和が絶対値でも5mm以上増加したら病勢進行と判定する」という規定が存在する。
 よく言われることだが、100mmあった病巣が、治療により10mmまで縮小し奏効と判定され、その後20mmまで増大したら、RECIST規定上はその時点で病勢進行である。
 治療開始前からすれば1/5まで病巣が縮小した状態を保っているのだが、最も病巣が縮小した時点を基準とすれば病巣は2倍に増大している。 
 10mmまで縮小するのに1ヶ月、その後20mmまで増大するのに3年かかったとしても、RECIST効果判定上は病勢進行である。
 この時点で治療をやめるのは誰が考えてもナンセンスだと思うのだが、ここまで極端でないにしても、似たようなことは実臨床で行われている可能性がある。
 100mmあった病巣が、治療により70mmまで縮小し奏効と判定され、そこから84mmまで増大してもやはり病勢進行である。
 この場合も、治療開始前より腫瘍が縮小しているにもかかわらず、治療は変更されることになる。
 RECIST効果判定に従う限り、一旦奏効と判定された後の病勢進行は過大評価されがちであることがわかると思う。
〇評価確定の問題
 RECIST効果判定においては、完全奏効や奏効の判定は、一定程度の腫瘍縮小が2回の効果判定にわたって連続的に確認されることで初めて確定する。
 一方、病勢進行は1回の効果判定で基準を満たせば直ちに確定である。
〇病理学的な確認の問題
 とくに新規病巣が出現した場合には要注意である。
 その病巣が転移巣とは限らない。
 実際に生検してみたら単なる良性病変だった、ということはしばしばある。
 
 他にもまだ様々な問題はあると思うが、これらを踏まえると実地臨床においてはRECIST基準を厳密に守る必要はない。
 とはいえ、各担当医の主観に完全に委ねてしまうと、担当医間、診療施設間でのバラつきがあまりに大きくなってしまい、都合が悪い。
 RECISTはもともと化学療法の効果判定のために定められた性質が強いが、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬のような新しいメカニズムの治療が一般化している以上、もはやRECIST自体が現状に合わなくなっている感が強い。
 実地臨床でも応用可能な効果判定基準の策定に向けて、見直しをすべき時期に来ているように思う。
 願わくば、患者の状態の代替指標として有効に機能する測定値の経過の追い方や、時間(縮小速度、増悪速度)の概念を新しい基準では盛り込んでほしい。

2)「病勢進行」後の治療をどのように考えるか
 病勢進行、と判定しても、その後の治療の考え方は千差万別である。
 ここでは、検討すべき項目を述べ、コメントを付すにとどめる。

〇考え得る治療
 往々にして、初期に行われる治療の方が効果が高く、二次、三次、四次治療と進むにつれて期待できる効果は薄れていく。
 病巣が大きくなっているにしても、治療前に比べると増大スピードが緩やかになっているようであれば、敢えてその治療をできる限り続けるという戦略もあるだろう。
〇年齢
 90代の患者に対し、分子標的薬が効かなくなったからと言って、安易に化学療法に切り替えるのが良いとは限らない。
 化学療法に切り替えるくらいなら、有害事象の軽い分子標的薬を使い続けて、それで効かなくなったら運命と思ってあきらめる、という人は多い。
〇体力(PS)
 言いたいことは年齢の項と同様である。
〇治療薬の種類
 点滴なのか、内服なのか。
 化学療法なのか、分子標的薬なのか、血管増殖因子阻害薬なのか、免疫チェックポイント阻害薬なのか。
 病勢進行後、次に使うとしたらどのような薬を想定しているのか。
 それぞれの要素によって、おのずと考え方は変わってくるだろう。
 例えば、免疫チェックポイント阻害薬使用後に分子標的薬に切り替えるのは、間質性肺炎のリスクを考えると勇気がいる。
 敢えて間に化学療法を挟んで免疫チェックポイント阻害薬の影響が薄れるのを待つというのも戦略としてあり得るだろう。
〇脳転移による病勢進行
 遠隔転移の中でも、脳転移については特別視することが多い。
 脳転移以外は病勢進行を認めない、というときは、脳転移巣のみ放射線治療で対処し、薬物療法は変更しないということは多い。

 薬物療法の進歩とともに、病勢進行の判定、その後の治療計画策定は一筋縄ではいかなくなった。
 とは言え、これは決して悪いことではないように思う。
 肌感覚としてかなりの確度を以て言えるのだが、担当医が「これはもういよいよ治療を変えなければまずい」とはっきり感じる場合を除いて、病勢進行時に急いで治療を変える必要はない。
 そのくらい、肺がん領域における薬物療法は効果とその持続時間、安全性の両面から質が高くなっているように感じられる。
  

2021年09月06日

進行が速い進行肺腺がんに遭遇したらどう振る舞うか

 先日に引き続き、webinerで米国識者の症例検討を聴講した。
 細かい議論の内容は分からないが、なんとなく同じことでみんな迷うんだなというのはわかった。
 変な親近感を感じてしまった。

・31歳、女性
・(多分痩せる目的で)胃のバイパス手術の既往あり
・喫煙歴はほとんどなし:1日20本を1年間(1-pack-year)
・どんどん悪化する咳、息切れ、食欲不振、体重減少を主訴に救急外来を受診した
・胸部レントゲン写真で、右大量胸水を認めた
・CTで、右大量胸水、右肺門部腫瘍、両側肺門・縦隔のリンパ節腫大、肝・骨に無数の転移性腫瘍を認めた
・頭部MRIでは、脳転移の所見はなかった
・胸水穿刺し細胞診へ提出したところ、低分化腺がんと診断された
・免疫染色でCK7+, TTF1+, napsinA+が確認され、原発性肺腺がんと診断された
・PD-L1発現状態を調べたところ、90%陽性だった
・次世代シーケンサーを用いた網羅的ドライバー遺伝子変異解析を行うことにしたが、結果が返ってくるまでに2-3週間を要す
 
 さて、どうするか、とのこと。
 PD-L1発現が90%以上なんだから、迷わずペンブロリズマブで、と言ってしまいたいところだが、そうは問屋が卸さない。
 パネリストによると、
・なんといっても若くて、ほぼ喫煙歴がなく、しかも臨床経過が激しい
・これだけで、何らかのドライバー遺伝子変異の関与を強く疑う
・何らかの遺伝子変異があり、分子標的薬を使う可能性があるからには、不用意に免疫チェックポイント阻害薬を入れるべきではない
・免疫チェックポイント阻害薬を使用したのちに、何らかのドライバー遺伝子変異が見つかった場合には、却って不利な状況に陥りかねない
・免疫チェックポイント阻害薬使用後に分子標的薬を使うと、薬剤性肺障害のリスクが高い
・待機する余裕があれば、ドライバー遺伝子変異の結果が返ってくるまで薬物療法は控えた方がいい
・待機する余裕がなければ、カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法で凌ぎつつ、時を待つのが良い

 実際のところ、右胸腔ドレナージを行い、待機していたそう。
 果たして予感は的中し、ALK融合遺伝子陽性だった様子。
 ここから論点は、ALK阻害薬をどのように使うかに移った。
第一世代:クリゾチニブ
第二世代:セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ
第三世代:ロルラチニブ

 もはやクリゾチニブを初回治療で選ぶことはなく、第二世代を選ぶか、第三世代を選ぶかが焦点である。
 第二世代(セリチニブ以外)、第三世代、それぞれにクリゾチニブを比較対象として、第III相臨床試験で優越性が示されている。
 ことにアレクチニブを指示する話題は豊富である。

<アレクチニブ>
・J-ALEX and ALEX
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e902483.html
・ALEXと脳転移
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e916528.html
・ALEX試験のアジア人サブグループ解析
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e916937.html
・ALEX試験、最新の生存解析結果
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e976408.html
・J-ALEX試験最終解析・・・ありがちな結論だけどやっぱりすごい。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e989928.html

<ブリガチニブ>
・Brigatinib、進行ALK肺がんの一次治療でクリゾチニブを凌駕 ALTA-1L study
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e942885.html

<ロルラチニブ>
・ロルラチニブ、一次治療へ・・・第III相CROWN試験
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e979184.html
・改めてCROWN試験
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e980198.html

 第二世代から入って、耐性化を確認してから第三世代を使うのか。
 いきなり最初から第三世代を使うのか。
 いろいろ議論された結果、明確な結論は導き出されなかった。
 第二世代、第三世代、どれもいい薬じゃん、とのこと。

 効果よりも、副作用を判断基準にして、患者の希望を聞きながら選びましょうということになった。
 ことに第三世代に関しては、中枢神経系への効果が高いゆえの中枢神経系副作用や脂質異常症が問題となる。
 記憶障害やらなんやらは、患者のアイデンティティにも関わる問題なだけに、治療開始前後の治療説明が必須である。
  

2021年03月22日

LIBRETTO-001試験 前治療の効果は?

 日本臨床腫瘍学会総会で、LIBRETTO-001試験においてRET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん患者に対するSelpercatinib投与前に、どんな治療を受けていて、どんな効果が見られたか、という発表があった。
 LIBRETTO-001試験については以下を参照。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e982216.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e985296.html

 現時点でRET陽性肺がんに対する特異的治療ができない我が国で、Selpercatinibをはじめとした分子標的薬が使えるようになるまでに何をして凌ぐべきか、という点で参考になるかも知れない。

Efficacy and Safety with Selpercatinib in Patients with RET Fusion+ NSCLC: Analysis by Last Prior Systemic Therapy
JSMO 2021, MO4-7

 要点を表にまとめてみた。

 生存期間解析のデータがないが、奏効割合を見る限りでは、化学療法+免疫チェックポイント阻害薬が現時点での最善の選択肢ということだろう。

  

2021年02月07日

CheckMate-9LA試験 論文とアジア人サブグループ解析資料

 進行非小細胞肺がんに対するニボルマブ+イピリムマブ+治療初期2コースのプラチナ併用化学療法の有効性を検証したCheckMate-9LA試験、Lancet Oncology誌に論文化されている。
 CheckMate-9LA試験に関する過去の記事は以下。
 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e982891.html
 こうして改めて論文を見てみると、追跡期間はまだ極めて短く、臨床的意義を定めるにはまだ時期尚早のような気がする。
 なにせ、あれだけ驚きと賞賛を持って迎えられたPD-L1発現≧50%におけるペンブロリズマブ単剤療法ですら、その立ち位置は揺らいでいるのだ。
 
 今回は論文用紙に加え、いくつかの図表を添付する。
 我々にとっては、アジア人サブグループ解析データも参考になるのではないか。



First-line nivolumab plus ipilimumab combined with two cycles of chemotherapy in patients with non-small-cell lung cancer (CheckMate 9LA): an international, randomised, open-label, phase 3 trial

Luis Paz-Ares et al., Lancet Oncol. 2021 Feb;22(2):198-211.
doi: 10.1016/S1470-2045(20)30641-0. Epub 2021 Jan 18.

背景:
 ニボルマブ+イピリムマブ併用療法が進行非小細胞肺がん患者の生存期間を延長することは既に示されている。今回は、本治療に2コースの化学療法を併用することにより臨床効果が増幅されるかどうかを検証した。

方法:
 今回のランダム化オープンラベル第3相臨床試験は、19か国、103施設が参加して行われた。18歳以上、未治療、組織学的に証明されたIV期もしくは術後再発非小細胞肺がん、ECOG-PS 0-1の患者を対象とした。患者はランダムに試験治療群(ニボルマブ(360mgを3週間ごとに点滴静注)+イピリムマブ(1mg/kgを6週間ごとに点滴静注)+組織型に応じたプラチナ併用化学療法(3週間ごとに2コース))とコントロール群(組織型に応じたプラチナ併用化学療法を3週間ごとに4コース)に1:1の比率で割り付けられた。割付調整因子は組織型、性別、PD-L1発現状態とした。プロトコール治療を受けた全ての患者で安全性評価をした。今回報告する結果は、事前に計画されていた中間解析の結果と、より長期に追跡した探索的解析の結果である。本試験は現在も進行中だが、患者集積は既に終了している。

結果:
 2017年8月24日から2019年1月30日までに、1150人の患者が登録され、719人(62.5%)の患者がランダム化の対象となった。361人(50%)の患者が試験治療群に、358人(50%)の患者がコントロール群に割り付けられた。事前に計画されていた中間解析時点(追跡期間中央値は9.7ヶ月(四分位間は6.4-12.8ヶ月))の段階で、生存期間は試験治療群で有意に延長していた(生存期間中央値は試験治療群で14.1ヶ月(95%信頼区間は13.2-16.2ヶ月)、コントロール群で10.7ヶ月(95%信頼区間は9.5-12.4ヶ月)、ハザード比は0.69(96.71%信頼区間は0.55-0.87)、p=0.00065)。さらに3.5ヶ月の追跡期間を積み増したところ、追跡期間中央値は13.2ヶ月(四分位間は6.4-17.0ヶ月)、生存期間中央値は試験治療群で15.6ヶ月(95%信頼区間は13.9-20.0ヶ月)、コントロール群で10.9ヶ月(95%信頼区間は9.5-12.6ヶ月)、ハザード比は0.66(95%信頼区間は0.55-0.80)だった。頻度の高かったGrade 3-4の有害事象は、好中球減少(試験治療群で24人(7%) vs コントロール群で32人(9%))、貧血(21人(6%) vs 50人(14%))、下痢(14人(4%) vs 2人(1%))、リパーゼ上昇(22人(6%) vs 3人(1%))、無力症(3人(1%) vs 8人(2%))だった。深刻な治療関連有害事象は試験治療群で106人(30%)、コントロール群で62人(18%)に認めた。試験治療群のうち、7人(2%)は死亡した(急性腎障害、下痢、肝障害、肝炎、肺臓炎、急性腎障害を伴う敗血症、血小板減少が原因だった)。コントロール群では6人(2%)が治療関連有害事象で死亡した(貧血、発熱性好中球減少症、汎血球減少、肺炎に伴う敗血症、呼吸不全、敗血症)。

結論:
 ニボルマブ+イピリムマブ+2コースの化学療法は、化学療法単独と比較して全生存期間を延長し、安全性プロファイルも良好だった。本試験結果から、このレジメンは進行非小細胞肺がん患者の初回治療の選択肢の一つとしてよい。










  

2020年11月28日

EGFR-TKI治療で病勢増悪後のABCP療法の第II相試験

 EGFR-TKI治療後に病勢進行に至った患者に対するアテゾリズマブ+ベバシズマブ+カルボプラチン+ペメトレキセド(ABCP)療法の第II相試験。
 私の苦手な4剤同時併用てんこ盛り治療の臨床試験だが、効果は高い様子。
 第III相臨床試験で再現できるかどうか。


380MO - A phase II trial of atezolizumab, bevacizumab, pemetrexed and carboplatin combination for metastatic EGFR-mutated NSCLC after TKI failure

Tai Chung Lam, et al., ESMO Asia 2020

背景:
 チロシンキナーゼ阻害薬に対する獲得耐性はEGFR遺伝子変異陽性進行肺がんにおける重要な未解決問題である。今回の臨床試験では、こうした背景をもつアジア人患者集団で、抗VEGF抗体+免疫チェックポイント阻害薬+プラチナ併用化学療法の有効性を検証した。

方法:
 EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者で、少なくとも1種類のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療後に病勢進行に至った患者を対象とした。T790M耐性変異を有する患者においては、オシメルチニブ使用後に放射線画像診断で進行が確認されていることを参加条件とした。アテゾリズマブ(1200mg / body)+ベバシズマブ(7.5mg / kg)+ペメトレキセド(500mg / ㎡)+カルボプラチン(AUC 5)を3週間ごとに病勢進行に至るまで継続した。評価項目は奏効割合、無増悪生存期間、全生存期間とした。

結果:
 40人の患者が組み入れられた。年齢中央値は62歳で、半数以上(57.5%)の患者がオシメルチニブ投与後の病勢進行を経験していた。治療開始前の段階で、病状の安定している脳転移を有する患者が22.5%に及んだ。PD-L1発現が1%未満だった患者は52.5%だった。追跡期間中央値は11.0ヶ月で、奏効割合は62.5%だった。無増悪生存期間中央値は9.43ヶ月(95%信頼区間は7.62-12.1ヶ月)だった。プロトコール治療中に病勢進行に至った31人の患者において、11人は中枢神経系病変の増悪のみが病勢進行の原因だった。生存期間中央値は未到達で、1年生存割合は72.5%だった。Grade 3以上の治療関連有害事象は、37.5%におよび、1人だけプロトコール治療が中止となった、7人(17.5%)は治療薬の減量が必要となり、1人(2.5%)は心筋梗塞合併のために死亡した。Grade 2の高血圧は、27.5%の患者で認められた。2人は無症候性の肺動脈血栓塞栓症を合併していた。深部静脈血栓症を合併した患者も1人いた。こうした3人の患者においては、血栓症の治療が終了したのちにプロトコール治療を再開した。免疫関連有害事象は32.5%の患者で出現した。Grade 3の一過性の肝機能障害を来した1人、Grade 4の多発神経炎を合併した1人を除けば、全ての免疫関連有害事象はGrade 1-2のマイルドな甲状腺機能低下症もしくは亢進症と、副腎皮質ホルモンの分泌障害だった。
 
結論:
 ABCP療法は、チロシンキナーゼ耐性化後にEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんの病勢が進行した場合の治療として、有望な結果を残した。

  

2020年11月25日

免疫関連有害事象の起こり方と生存期間延長効果

 免疫関連有害事象が発生した方が、免疫チェックポイント阻害薬の生存期間延長効果は強くなる、というお話。
 背景は不明だが、この報告にある内容は、多かれ少なかれ誰もが実感として感じている内容ではないだろうか。
 免疫関連有害事象のマネジメントは大変だけれど、頑張れば報われる。


Multisystem Immune-Related Adverse Events and Disease Outcomes Among Patients With NSCLC Treated With Immunotherapy
The ASCO Post
By Matthew Stenger
Posted: 11/4/2020 11:50:00 AM
Ref.:
Multisystem Immune-Related Adverse Events Associated With Immune Checkpoint Inhibitors for Treatment of Non–Small Cell Lung Cancer
Bairavi Shankar et al., JAMA Oncol. Published online October 29, 2020. doi:10.1001/jamaoncol.2020.5012

JAMA Oncology誌に公表された後方視的研究においてShankarらは、III期もしくはIV期の非小細胞肺がん患者に対して抗PD-1 / 抗PD-L1免疫チェックポイント阻害薬を使用したのちに多系統免疫関連有害事象を経験した患者では、無増悪生存期間および全生存期間が改善していたと報告した。
 本試験には、全世界の5施設から623人の患者データが集積された。対象者は、2007年1月から2019年1月の間に、抗PD-1 / 抗PD-L1免疫チェックポイント阻害薬を単独で、あるいは他の抗腫瘍薬と併用で使用された者とした。
 多系統免疫関連有害事象は、個別の免疫関連有害事象の組み合わせ、あるいは個別の臓器合併症の組み合わせと特徴づけられた。
 623人(男性60%、白人77%、年齢中央値66歳)の患者中、527人は抗PD-1 / 抗PD-L1抗体単剤療法を、96人は抗PD-1 / 抗PD-L1抗体+他の抗腫瘍薬の併用療法を受けていた。全体で、148人(24%)は1種類の免疫関連有害事象を合併し、58人(9.3%)は多系統免疫関連有害事象を合併していた。全ての多系統免疫関連有害事象は逐次的に発生していた。
 抗PD-1 / 抗PD-L1抗体単剤療法を受けた患者では、135人が1種類の免疫関連有害事象を合併し、51人が多系統免疫関連有害事象を合併していた。多系統免疫関連有害事象を合併した患者において多かった有害事象の組み合わせは、肺臓炎+甲状腺炎(7人、14%)、肝炎+甲状腺炎(5人、10%)、皮膚炎+肺臓炎(5人、10%)、皮膚炎+甲状腺炎(4人、8%)だった。
 抗PD-1 / 抗PD-L1抗体+他の抗腫瘍薬の併用療法を受けた患者では、13人が1種類の免疫関連有害事象を合併し、7人が多系統免疫関連有害事象を合併していた。こうした患者の多系統免疫関連有害事象には、これといった有害事象の組み合わせの傾向は見られなかった。
 多系統免疫関連有害事象と独立した相関関係を持っていた因子は、ECOG-PS 0 /1 vs 2(補正オッズ比0.27、p=0.04)、免疫チェックポイント阻害薬使用継続期間(補正オッズ比 1.02、p<0.001)だった。
 無増悪生存期間中央値は、多系統免疫関連有害事象を合併した患者集団では10.9ヶ月、1種類の免疫関連有害事象のみを合併した患者集団では5.1ヶ月、全く免疫関連有害事象を合併しなかった患者集団では2.8ヶ月だった(p<0.001)。1年無再発生存割合はそれぞれ44%、28%、16%だった。免疫チェックポイント阻害薬の使用期間について補正して、無増悪生存期間に関する多変数解析を行ったところ、全く免疫関連有害事象を合併しなかった患者集団に対する補正ハザード比は、1種類の免疫関連有害事象を合併した患者集団では0.68(p<0.001)、多系統免疫関連有害事象を合併した患者集団では0.39(p<0.001)だった。
 生存期間中央値は、多系統免疫関連有害事象を合併した患者集団では21.8ヶ月、1種類の免疫関連有害事象を合併した患者集団では12.3ヶ月、全く免疫関連有害事象を合併しなかった患者集団では8.7ヶ月だった。免疫チェックポイント阻害薬の使用期間について補正して、全生存期間に関する多変数解析を行ったところ、全く免疫関連有害事象を合併しなかった患者集団に対する補正ハザード比は、1種類の免疫関連有害事象を合併した患者集団では0.86(p<0.26)、多系統免疫関連有害事象を合併した患者集団では0.57(p<0.005)だった。
 全体として、免疫関連有害事象のイベントの数と無増悪生存期間(ハザード比0.67、p<0.001)および全生存期間(ハザード比0.79、p=0.003)の間に有意な正の相関があることがわかった。
  

2020年11月17日

あれから20年も、この先10年も

 ネット上に、米国の抗腫瘍薬開発のオピニオンリーダーから以下のようなコメントが寄せられていたので引用してみた。
 かなり意訳してしまった。
 この20年は、私の社会人としてのキャリアとぴったり重なるので、とても感慨深い。




Lung Cancer: Precision Therapies at the Forefront
By Suresh S. Ramalingam, MD, FACP, FASCO
November 10, 2020

 この20年間で、なんと大きな変化が起こったことだろうか。
 ECOG1594試験の結果は、2000年の米国臨床腫瘍学会年次総会のプレナリーセッションで報告された。進行非小細胞肺がん患者に対する初回治療として、4種のプラチナ併用化学療法はどれも同等の効果を示すとされた。各治療の奏効割合はおしなべて20%程度で、生存期間中央値はたった8ヶ月だった。その1年前、進行非小細胞肺がん患者のサルベージ療法(二次化学療法)としてドセタキセル単剤療法が薬事承認されたが、これは10%未満の奏効割合と8ヶ月程度の生存期間中央値という結果に基づいたものだった。
 当時は、進行非小細胞肺がんの患者に対して、そもそも薬物療法を提案するべきか否かという論争があった。肺がん患者に対して長期生存もしくは治癒の可能性があるとするなら、それは早期の段階で外科切除を行い、それにより確定診断がついたときだった。しかし、有効なスクリーニング手段がないため、早期に診断される肺がん患者は少なかった。
 もっとも楽観的な見通しを持っていた胸部腫瘍医でさえ、個別改良により進行がんの患者が長期生存できるようになるモデルケースの役割を肺がんが担うようになると予測するのは難しかっただろう。肺がんによる死亡率は2013年以降というもの、年率3-6%ずつ減少しており、1991年以降の米国でがん死亡率が29%減少-この30年間でがん関連死亡者数が300万人減少-したことの主たる要因と考えられている。
 2020年だけでも、米国食品医薬品局は肺がんに対して9種の新規治療を承認した。そのうち4種(selpercatinib, pralsetinib, lurbinectedin, capmatinib)は初めて医薬品として承認された化学物質である。また3種は、既存の免疫チェックポイント阻害薬の新たな適応拡大だった。非小細胞肺がんの治療はここ数年で様変わりした。ほとんどの進行非小細胞肺がんの患者において、QoLを悪化させずに長期生存を目指すことは、現実的な治療目標になった。次世代シーケンサーによる分子標的の検索により、治療標的となり得る少なくとも7種の「分子ドライバー」の検出が可能になった。こうした分子標的薬を用いることにより、奏効割合は50-85%、無増悪生存期間中央値は10-25ヶ月は見積もられるようになった。
 個別化医療への第一歩は、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬の開発と、治療感受性が活性化遺伝子変異と相関していることの発見だった。続いて、より高い有効性と、耐性化変異の克服のために、新世代のEGFR阻害薬が開発された。異常蛋白への特異性を増すことにより、EGFR阻害薬の安全性プロファイルが改善した。また、脳転移に対する効果が改善したこともまた、新世代のEGFR阻害薬開発の成功のためのキーポイントだった。
 2007年に、肺がん患者の一部でALK遺伝子再構成がドライバー遺伝子変異として働いていることが発見されたことは、もう一つの重要な節目だった。この発見からほとんど時を置かず、劇的な治療効果を示すALK阻害薬の評価がなされた。この患者集団において、6種の異なるALK阻害薬が強力な抗腫瘍活性を示し、生存期間中央値は5年を超える。
 最近では、KRAS G12Cがん遺伝子を直接の標的とした治療が有望な結果を残している。かつてKRAS遺伝子変異は治療標的期とはなりがたいと考えられていたが、新規の薬剤を用いると奏効割合は約32%に達することが分かった。また、抗体-薬物複合体を用いた治療により、HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者では60%以上の奏効割合が、現在進行中の臨床試験で示されている。
 こうした諸々の治療により、プレシジョン・メディシンを達成するための標的分子の数は近い将来2ケタに達すると考えられ、我々が長い間渇望していた個別化医療に前進をもたらすだろう。
 また一方で、免疫チェックポイント阻害薬の開発もまた、肺がん治療の進歩のもう一つの節目と言える。現在、日々の実地臨床において5種の免疫チェックポイント阻害薬が使用されている。
 進行非小細胞肺がんの患者のうち約30%を占めるPD-L1高発現の患者に対して、ペンブロリズマブ単剤療法を行った際の5年生存割合は32%である。ここでもまた、バイオマーカーに基づいた治療選択が、免疫チェックポイント阻害薬単剤療法、もしくは免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法による便益を最大化するのに役立っており、この治療戦略はPD-L1発現状態に依拠している。イピリムマブとニボルマブの併用療法は、免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法として、初めて化学療法を含まない形での併用療法として米国食品医薬品局に認可された。治療耐性化を克服するために、また免疫チェックポイント阻害薬療法による便益をさらに拡大するために、こうしたコンセプトの併用療法はこれから先も多く実地臨床に導入されることが望まれる。
 免疫チェックポイント阻害薬はまた、切除不能のIII期非小細胞肺がん患者への治療にもうまく組み込まれている。この患者集団においては、この20年で最初の大きな成果といってよく、化学放射線療法後のデュルバルマブ維持療法により、4年生存割合は約47%に達した。また、根治切除後の術後補助療法として免疫チェックポイント阻害薬の意義を検証する臨床試験が行われているが、結果の公表が強く待ち望まれている。
 こうした治療上の進歩を我々は祝福するべきだが、一方で我々は、ルーチンワークの負担増大、研究予算の縮小、(治療費の高騰により患者負担が大きくなってしまったがために)治療方針選択の主導権が規制当局や生命保険会社へのシフトといった逆境にも関わらず、この分野への関与を続ける研究者および医療チームのたゆまぬ努力と献身を決して忘れてはならない。同様に、こうした治療開発の成功は、肺がんに対する悲観的なマインドセットを変化させるために努力してきた患者やコミュニティーの代表者に負うところもまた大きい。
 これから10年間、我々の課題ははっきりしている。
1、効果的な喫煙規制政策を推し進めることにより肺癌罹患のリスクを低下させること、とりわけ、ティーンエイジャーへの電子たばこ利用増加に対して警鐘を鳴らすこと
2、肺がんの早期発見を促すため、ハイリスク集団に対するCT検診の適用を拡大すること、現在はこうした集団の5%以下にしか適用できていない
3、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬に対する耐性化克服のための新たな治療開発を推し進めること
4、微小転移や残存病変を検出するためのリキッドバイオプシー体制を実用化すること
5、人種等に起因する肺がん治療格差を理解して、その解消に取り組むこと
6、臨床試験への参加を促し、有望な発見を実地臨床へ持ち込む過程を加速すること
  

2020年07月15日

患者提案型・医師主導治験「KISEKI trial」、計画進行中

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬既治療T790M耐性変異陰性、もしくは中枢神経系転移による病勢進行後の非小細胞肺がん患者を対象としたオシメルチニブ投与の有効性を検証する「KISEKI」試験が進行中とのこと。

 おそらく実地臨床では既に一定数行われているであろう本治療、しっかり検証して頂けるとありがたい。
 応援しています。

 https://oncolo.jp/feature/20200707t  

2020年07月12日

いまさらと言われるのを覚悟でLUME-Lung 1試験のおさらい

 以下の記事を書いてから、どうももやもやして仕方がないので、LUME-Lung 1試験の要約をきちんと残しておくことにした。
 「進行性線維化を伴う間質性肺炎」の患者にニンテダニブを導入し、その上で二次治療以降でドセタキセルを使用する、という状況は起こりうるのでは・・・。
 レトロスペクティブな検討でもいいので、ニンテダニブを使用しつつ他の薬物療法を行った患者の治療成績を見てみたいところだ。
 
 ところで、本試験における治療関連死の確率はやや高い。
 ドセタキセル+ニンテダニブ併用療法群において治療関連死の割合が5.3%というのは、無視できない数字である。
 ドセタキセル単剤療法でも3.8%に上っており、参加施設における実地臨床の安全性そのものが問われかねない結果である。

・「進行性線維化を伴う間質性肺疾患」へ、ニンテダニブが使用可能に
 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e975490.html




Docetaxel plus nintedanib versus docetaxel plus placebo in patients with previously treated non-small-cell lung cancer (LUME-Lung 1): a phase 3, double-blind, randomised controlled trial

Martin Reck et al., Lancet Oncol VOLUME 15, ISSUE 2, P143-155, FEBRUARY 01, 2014

背景:
 第III相LUME-Lung 1試験は非小細胞肺がん患者に対する二次治療としてのドセタキセル+ニンテダニブ併用療法の有効性と安全性を評価した試験である。

方法:
 27ヶ国、211の参加施設から、初回化学療法後に病勢進行に至ったIIIB / IV期の非小細胞肺がん患者を集積した。割付調整因子はECOG-PS、過去のベバシズマブ投与歴、組織型、脳転移の有無とした。1:1の比率で無作為割付を行った。DN群では、ドセタキセル75mg/㎡を1日目に点滴投与し、ニンテダニブ200mg/回を1日2回、2日目から21日目まで服用した。D群では、ドセタキセル75mg/㎡を1日目に点滴投与し、偽薬を1日2回、2日目から21日目まで服用した。両群ともにプロトコール治療を3週ごとに反復し、忍容不能の有害事象が起こるまで、あるいは病勢進行に至るまで治療を継続した。担当医も患者もどちらの治療群に割り付けられたかは知らされなかった。主要評価項目は中央評価による無増悪生存期間とし、714件のイベントが発生した時点で解析することとした。主な副次評価項目は全生存期間とし、1121件のイベントが発生した時点で、ステップワイズ法に沿って以下の患者群について段階的に解析することにした。①初回化学療法から9か月以内に病勢進行に至った腺がん患者について、②腺がん患者全体について、③全患者について。

結果:
 2008年12月23日から2011年2月9日にかけて、1314人の患者を無作為割付した。655人はDN群に、659人はD群に割り付けられた。追跡期間中央値7.1ヶ月(四分位範囲は3.8-11.0ヶ月)の時点で主要評価項目に関する解析を行った。無増悪生存期間はDN群で有意に改善していた(中央値はDN群3.4ヶ月(95%信頼区間は2.9-3.9ヶ月)、D群2.7ヶ月(95%信頼区間は2.6-2.8ヶ月)、ハザード比0.79(95%信頼区間は0.68-0.92)、p=0.0019)。追跡期間中央値31.7ヶ月(四分位範囲27.8-36.1ヶ月)の時点で、初回化学療法から9か月以内に病勢進行に至った腺がん患者集団において、DN群(206人)はD群(199人)に対して有意に生存期間が延長していた(中央値はDN群10.9ヶ月(95%信頼区間は8.5-12.6ヶ月)、D群7.9ヶ月(95%信頼区間は6.7-9.1ヶ月)、ハザード比0.75(95%信頼区間は0.60-0.92)、p=0.0073)。同様の結果は腺がん患者全体でも認められ、DN群(322人)はD群(336人)に対して有意に生存期間が延長していた(中央値はDN群12.6ヶ月(95%信頼区間は10.6-15.1ヶ月)、D群10.3ヶ月(95%信頼区間は8.6-12.2ヶ月)、ハザード比0.83(95%信頼区間は0.70-0.99)、p=0.0359)。しかし、全患者を対象とすると、生存期間に有意差は認められなかった(中央値はDN群10.1ヶ月(95%信頼区間は8.8-11.2ヶ月)、D群9.1ヶ月(95%信頼区間は8.4-10.4ヶ月)、ハザード比0.94(95%信頼区間は0.83-1.05、p=0.2720)。Grade 3以上の有害事象はDN群でD群より多く認められ、主なものは下痢(6.6% vs 2.6%)、可逆性のALT上昇(7.8% vs 0.9%)、可逆性のAST上昇(3.4% vs 0.5%)だった。DN群のうち35人(5.3%)、D群のうち25人(3.8%)は有害事象により死亡した。主な死因としては敗血症(DN群5人、D群1人)、肺炎(DN群2人、D群7人)、呼吸不全(DN群4人、D群0人)、肺塞栓症(DN群0人、D群3人)が挙がった。

結論:
 プラチナ併用化学療法後に病勢進行に至った進行非小細胞肺がん患者に対する二次治療として、ドセタキセル+ニンテダニブ併用療法は、とりわけ腺がん患者に対して有効だった。

・無増悪生存曲線


・生存期間曲線
 上段から順に①、②、③


  

2020年03月08日

KEYNOTE-010試験の長期追跡結果・・・2年間の治療完遂後と、再投与の効果

 本文を読んでいないので細かい内容がわからないけれど、長期間ペンブロリズマブの治療を継続できた患者では、その後かなり長い間治療効果が続き、病勢進行後もペンブロリズマブの再投与によってある程度の治療効果が期待できるようだ。
 私の患者も、2,019年11月ごろにペンブロリズマブの二次治療後によって薬剤性間質性肺炎を来し、2,020年を迎えるのは難しいかと危ぶんでいたが、その後は支持療法のみで経過観察しているにもかかわらず、今もまだ頑張っている。
 ベッドサイドにはツバキやウメなど季節の生花が飾られていたが、そろそろサクラに切り替わりそうだ。


Long-Term Outcomes and Retreatment Among Patients With Previously Treated, Programmed Death-Ligand 1‒Positive, Advanced Non‒Small-Cell Lung Cancer in the KEYNOTE-010 Study

Roy S.Herbst et al., J Clin Oncol 2020
https://doi.org/10.1200/JCO.19.02446

目的:
 治療歴があり、PD-L1を発現している進行非小細胞肺がん患者に対するKEYNOTE-010試験において、TPS≧50%(がん細胞のうちPD-L1を発現する細胞が50%以上認められる)の患者集団、およびTPS≧1%(がん細胞のうちPD-L1を発現する細胞が1%以上認められる)の患者集団ではペンブロリズマブがドセタキセルに対して生存期間延長効果を示した。今回は、KEYNOTE-010試験参加者の長期追跡結果を、35コース/2年間の治療を完遂した患者、あるいはペンブロリズマブによる二次治療を受けた患者を含めて報告する。
方法:
 1,033人の患者がペンブロリズマブ群(P群)、ドセタキセル群(D群)に無作為に割り付けられた。P群690人では、344人がペンブロリズマブを2mg/kgで、346人が10mg/kgで3週間隔、最長35コース/2年間投与された。D群343人では、ドセタキセルを75mg/㎡の投与量で、3週間隔で投与された。P群で35コース/2年間の治療を完遂し、その後病勢進行した場合には、最長17コースのペンブロリズマブ二次治療を行えることになっていた。主たる評価の際にペンブロリズマブの投与量による治療効果の差が検出されたため、ペンブロリズマブの総投与量を記録に残した。
結果:
 ペンブロリズマブの有意性は長期追跡調査の後も保たれていた。経過観察期間中央値は42.6ヶ月(35.2-53.2ヶ月)で、D群に対するP群の生存期間延長効果の優位性は、TPS≧50%の患者群ではハザード比0.53、95%信頼区間0.42-0.66、p<0.00001で、TPS≧1%の患者群ではハザード比0.69、95%信頼区間は0.60-0.80、p<0.00001だった。3年生存割合は、TPS≧50%の患者群ではP群34.5%、D群12.7%で、TPS≧1%の患者群ではP群22.9%、D群11.0%だった。Grade 3-5の治療関連有害事象は、P群で16%、D群で37%に認めた。P群690人のうち、35コース/2年間のプロトコール治療を完遂したのは79人だった。プロトコール治療完遂後の1年生存割合は98.7%(95%信頼区間は91.1-99.8%)、1年無再発生存割合は72.5%(95%信頼区間は59.9-81.8%)だった。79人のうち、75人(95%)の患者では奏効が確認され、その75人のうち48人(64%)では奏効が持続していた。この79人において、Grade 3-5の治療関連有害事象を認めたのは17.7%だった。79人のうち、14人の患者はペンブロリズマブによる二次治療を受けて、5人は17コースのプロトコール治療を完遂し、6人(43%)で部分奏効を、5人(36%)で病勢安定を示した。
結論:
 既治療、PD-L1陽性の進行非小細胞肺がん患者に対して、ペンブロリズマブはドセタキセルと比較して長期にわたる全生存期間延長効果を示し、安全性の面でも優れていた。2年間の治療を受けた患者では長期に持続する治療効果が認められ、ペンブロリズマブによる二次治療においても病勢コントロールが得られた。

  

2020年02月26日

FLAURA日本人サブグループ解析に関するweb講演会

 企業が関わる講演会・セミナーから距離を置くようになってから、随分経った。
 いまだに参加依頼、講演依頼ともにお話を頂くのは光栄なことだ。
 ご依頼くださる企業はもとより、座長の先生にも申し訳ないと思いながらも、相変わらず断り続けている。
 会場費やら、講演料やら、旅費・交通費やら、果ては企業の方々の残業代まで考えると、結局は薬価に反映されるわけで、どうも気が進まない。
 学会発表などの冒頭、講演者が利益相反のスライドで多数の企業との関わりを公表しているところを見ると、そのお金、全部患者団体に寄付してはいかがですかと言いたくなってしまう。
 免疫チェックポイント阻害薬が肺がんの実地臨床に導入されてからというもの、経済的な理由で治療を中断する患者さんを見かけることが、本当に多くなった。

 閑話休題。
 最近は、企業主催の講演会がweb上で行われることが多くなった。
 これも一定の費用が発生しているのは間違いないが、一般の講演会やセミナーよりは費用を抑えられているのではないかと、都合がつけば聴講している。

 今日はアストラゼネカ社主催の、表題の講演。
 主催者がオシメルチニブの販売元だから、それなりに割り引いて聴講しなければならない。
 このテーマが日本肺癌学会で発表された段階の記事は以下を参照。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e967135.html

 今日は、聴講していていくつか目にとまった内容を取り上げて、感想を記しておく。


 全生存期間解析に関する生存曲線の一覧。
 こうして並べてみると、非アジア人>全体>アジア人>日本人という順番で、オシメルチニブが優れていそうな印象。
 日本人に関するサブグループ解析は、そもそも試験デザインの時点では予定すらされていなかった後解析でしかない。
 ・・・と演者の先生は強調されていたが、それで片付けてしまうには、あまりにも生存曲線の性向が一貫しすぎていはしないか?
 オシメルチニブとゲフィチニブ、エルロチニブの薬価の差を考えれば、この結果でオシメルチニブを使うのは、納税者に申し訳ないのでは?


 各治療群で、毒性でプロトコール治療中止となった場合、病勢進行でプロトコール治療中止となった場合の次治療の内訳。
 オシメルチニブ群では、毒性中止となった場合、他のEGFR阻害薬に切り替える患者と殺細胞性抗腫瘍薬に切り替える患者がほぼ半々。
 ゲフィチニブ/エルロチニブ群では、毒性中止となった場合、殺細胞性抗腫瘍薬に切り替える患者は皆無で、(おそらくT790Mが判明した)オシメルチニブに切り替えた患者が1人だけいて、その他は全て他のEGFR阻害薬に切り替えられていた。
 病勢進行で次治療に移行する場合も、両群間で違いがある。
 オシメルチニブ群で殺細胞性抗腫瘍薬を使う患者が多いことは容易に予想できるが、ゲフィチニブ/エルロチニブ群でオシメルチニブに切り替えた患者が半数程度いるのは、結構多いな、と感じた。
 当然T790Mが検出されていないとオシメルチニブは使えないわけで、実地臨床で20-25%程度にしかT790Mが陽性にならない感触からすると、46%は結構多いな、と感じる。
 また、この図表には示されていないが、オシメルチニブ群の22%、ゲフィチニブ/エルロチニブ群の24%は次治療を受けていないことも知っておかなければならない。



 オシメルチニブ耐性後の治療戦略のお話。
 過去の関連記事は以下を参照。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e808803.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e884383.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e954089.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e970829.html
 第1世代、第2世代EGFR阻害薬使用後のT790M出現率に比べると、EGFRそのものの構造改変をきたすC797Sのような変化は、必ずしもオシメルチニブ耐性化のメインストリームではなさそうだ。
 また、これは直感でしかないが、EGFRやMETのより下流のシグナル伝達系を抑え込むのは、あまりうまくいかなさそうな気がする。
 

 プラチナ併用化学療法とオシメルチニブの併用が有効かどうかを検証する第III相試験、FLAURA2。
 NEJ009やNoronha trialを踏まえれば、当然出てくるコンセプトだ。
 多分有望な結果が出るだろうが、個人的に興味があるのは、CBDCA+PEMと組み合わせたとき、ゲフィチニブとオシメルチニブの間に何らかの差が出るかどうかである。
 

  

2019年10月01日

KEYNOTE-189再々掲

 化学療法+免疫チェックポイント阻害薬併用療法も随分定着してきた感がある。
 若年、TPSが低めの患者を選択して適用されているように感じる。
 いまのところ、化学療法のみ、あるいは免疫チェックポイント阻害薬のみの治療に比べて、重篤な有害事象が出ているようにも、有害事象の頻度が増えているようにも見えない。

 ASCO2019、WCLC2019でKEYNOTE-189の最新データが公表されていた。
 過去記事へのリンクも併せて引用する。
 全体のOS、PFSの結果のインパクトもさることながら、TPS別のPFS2、TMB別のOSデータが興味深い。
 TPSに関わらず全ての患者層でPFS2が、それも圧倒的なHRのもとに併用療法群で延長している。
 また、TMBに関わらず、全ての患者層でOSが、同様に併用療法群で延長している。
 患者に治療を受け入れる体力、理解力、経済力があれば、分子標的薬の適応がない進行期非扁平上皮・非小細胞肺癌の患者なら、TPS・TMBの値に関わらず(TPS・TMB評価不能の患者も含めて)迷わず勧めていい治療ということになるだろう。

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e927301.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e931610.html









Updated Analysis From KEYNOTE-189: Pembrolizumab or Placebo Plus Pemetrexed and Platinum for Previously Untreated Metastatic Nonsquamous Non–Small-Cell Lung Cancer

Shirish Gadgeel et al. J Clin Oncol 2020
DOI: 10.1200/JCO.19.03136

背景:
 KEYNOTE-189試験において、進行非扁平上皮非小細胞肺がん患者に対する初回治療として、プラチナ製剤+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ(PPP)併用療法は、プラチナ製剤+ペメトレキセド(PP)併用療法に対して、PD-L1発現状態にかかわらず有意に全生存期間、無再発生存期間を延長した。今回は、その最新解析結果を報告する。

方法:
 対象患者はPPP群(410人)とPP群(206人)に2:1の割合で無作為に割り付けられ、3週間隔、4コースの治療を受けた。その後、PPP群ではペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用維持療法を、PP群ではペメトレキセド+偽薬併用維持療法を最大35コースまで行った。PP群の患者で、病勢進行に至った適格患者は、ペンブロリズマブ単剤療法へのクロスオーバーが許されていた。RECIST ver.1.1に則り腫瘍縮小効果が評価された。今回の追跡調査において、統計学的なα値は割り当てられなかった。

結果:
 2018年9月21日まで(追跡期間中央値は23.1ヶ月)の段階で、全生存期間中央値はPPP群で22.0ヶ月(95%信頼区間は19.5-25.2ヶ月)、PP群で10.7ヶ月(8.7-13.6ヶ月)だった(ハザード比0.56、95%信頼区間0.45-0.70)。無増悪生存期間中央値は、PPP群で9.0ヶ月(8.1-9.9ヶ月)、PP群で4.9ヶ月(4.7-5.5ヶ月)だった(ハザード比0.48、95%信頼区間は0.40-0.58)。無作為化から二次治療後の病勢進行もしくは死亡までの期間、いわゆる二次無増悪生存期間中央値は、PPP群で17.0ヶ月(15.1-19.4ヶ月)、PP群で9.0ヶ月(7.6-10.4ヶ月)だった(ハザード比0.49、95%信頼区間0.40-0.59)。全生存期間、無増悪生存期間は、PD-L1の発現状態によらず、肝転移や脳転移の有無によらず、一貫してPPP群で優れていた。grade 3-5の有害事象の発現率は両治療群間で同等(PPP群で71.9%、PP群で66.8%)だった。

結論:
 進行非扁平上皮非小細胞肺がん患者におけるペンブロリズマブ+ペメトレキセド+プラチナ製剤併用療法は、PD-L1発現状態や肝転移、脳転移の有無によらず全生存期間と無増悪生存期間を改善し、毒性は忍容可能で、長期経過観察後もそれらの傾向は続いていた。



   

2019年08月20日

カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブ、我が国でも進展型小細胞肺癌一次治療に使用可能に

 分子標的薬よりも先に、免疫チェックポイント阻害薬が進展型小細胞肺癌の領域に乗り入れてきた。
 いずれ、限局型にもこうした動きが出てくるかもしれない。

 関連する臨床試験は、IMpower133試験。
 関連記事は以下を参照のこと。
 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e943506.html

 ただ、喫煙関連肺癌に対して公費から高額医療が供されるのは、やはり納得できない。
 たばこを国内販売禁止にするのが先なのでは?



 厚生労働省の薬食審医薬品第二部会は8月2日、抗PD-L1抗体テセントリクの進展型小細胞肺がん適応追加の承認可否を審議し、承認することを了承した。同剤は小細胞肺がんの適応を持つ初の免疫チェックポイント阻害薬となる。

【審議品目】(カッコ内は一般名、申請企業名)
▽テセントリク点滴静注1200 mg(アテゾリズマブ(遺伝子組換え)、中外製薬):「進展型小細胞肺がん」の効能・効果を追加する新効能・新用量医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。

 免疫チェックポイント阻害薬で、抗PD-L1抗体。小細胞肺がんは、増殖が速く転移しやすいのが特徴。早期発見は困難で、手術だけでは再発しやすい一方、抗がん剤や放射線治療に対する反応が良いとされる。国内の肺がんの年間罹患患者数は約12.5万人。肺がん患者のうち約20%が小細胞肺がん患者、このうち60~70%が進展型と診断される。

 同剤の進展型小細胞肺がんの適応は、海外では2019年5月時点で米国など4か国で承認済。
  

2019年04月24日

PROCLAIM試験 シスプラチン+ペメトレキセド併用化学放射線療法は「あり」か?

 前回の記事で、MS58発表後の質疑応答で取り上げられたPROCLAIM試験。
 改めて見てみると、試験自体は早期無効中止となっている。

 「これ以上臨床試験を続けても、患者にとっての利益にならないので、途中で切り上げましょう」
ということで早期無効中止となった臨床試験結果を以て、シスプラチン+ペメトレキセド併用化学放射線療法を患者に勧めるのは、ありなのか。
 それって、根本的に間違っているのでは・・・?

・・・なんて、臨床試験原理主義者の立場で論じるつもりはない。
 全生存期間に関する統計学的な優越性はもちろん証明できなかった。
 早期無効中止なんて、臨床試験としては大失敗以外の何物でもない。
 しかし、全生存期間成績は標準治療と同等で、毒性がより軽かったのなら、実地臨床としてはありかも知れない。
 きちんとやろうと思えば、改めて全生存期間に関する非劣勢を証明して、副次評価項目として毒性が軽いことを示せばいいのだろうが、製薬会社はそんなことにお金はかけない。
 だって、そんなことしなくても、実地臨床でこの治療をやって、学会発表までしている先生がいるんだもの。
 そんなことしなくても、肺癌領域においてはペメトレキセドが製薬会社の稼ぎ頭であることは揺るぎない。

 要は、この試験結果をどのように解釈して、患者の治療に活かすか、ということだろう。
 PROCLAIM試験の結果を以て、患者にシスプラチン+併用化学放射線療法を進めるのは間違っている、と断じるのは簡単なこと。
 だけど、MS58を発表した病院で、この局所進行非小細胞肺癌患者の治療後5年生存割合が40%程度あったこと、一般にIV期の患者群においてシスプラチン+ペメトレキセド併用療法が頻用されていて、医療者がそのマネジメントに習熟しており安全に治療施行可能なこと、など、現実を冷静に見つめるならば、本治療は治療選択肢と考えていいような気がする。

 再燃時の治療としてペメトレキセドの選択肢を残しておきたい、という反対意見も当然あるだろう。
 それはそれでもちろん一理ある。




PROCLAIM: Randomized Phase III Trial of Pemetrexed-Cisplatin or Etoposide-Cisplatin Plus Thoracic Radiation Therapy Followed by Consolidation Chemotherapy in Locally Advanced Nonsquamous Non–Small-Cell Lung Cancer

Suresh Senan, et al.

Journal of Clinical Oncology 34, no. 9 (March 20 2016) 953-962. 2016



目的:
 第III相PROCLAIM試験は、A群:シスプラチン+ペメトレキセド併用化学放射線療法→ペメトレキセド維持療法とB群:シスプラチン+エトポシド併用化学放射線療法→地固め化学療法の全生存期間成績を比較する臨床試験である

対象と方法:
 IIIA / IIIB期の切除不能非扁平上皮非小細胞肺癌患者を対象とし、A群とB群に1:1の割合で割り付けた。A群ではシスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法を3週ごと3コース、根治的胸部放射線療法(総線量60-66Gy)との併行で行い、その後ペメトレキセド維持療法を3週間ごとに4コース行った。B群ではシスプラチン+エトポシド併用放射線化学療法を4週ごと2コース、根治的胸部放射線療法(総線量60-66Gy)との併行で行い、その後地固めのプラチナ併用化学療法2コースを行った。主要評価項目は全生存期間とした。第一種の過誤を5%、検出力を80%、全生存期間に関するハザード比の有意水準を0.74とし、B群に対するA群の優越性を検証する試験デザインとした。

結果:
 本試験は早期無効中止となった。598人の患者を無作為割り付けし(A群301人、B群297人)、555人(A群283人、B群272人)が実際にプロトコール治療を受けた。全生存期間に関して、A群はB群に対して統計学的な優越性を示すことができなかった(ハザード比0.98、95%信頼区間は0.79-1.20、生存期間中央値はA群で26.8ヶ月、B群で25.0ヶ月、p=0.831)。A群ではGrade 3-4の有害事象が有意に少なく(64.0% vs 76.8%、p=0.001)、その中には好中球減少も含まれていた(24.4% vs 44.5%, p<0.001)。

結論:
 IIIA / IIIB期の切除不能非扁平上皮非小細胞肺癌患者を対象としたシスプラチン+ペメトレキセド併用化学放射線療法は、標準治療に対する優越性を示すことができなかった。
  

Posted by tak at 17:23Comments(0)化学療法放射線治療

2019年04月23日

2019年 第59回日本呼吸器学会備忘録その4 デュルバルマブが使える患者は?

2019年 第59回日本呼吸器学会備忘録

 以前、ベバシズマブが登場したときにもこんな話題があった。
 薬が使えるようになったのはいいけれど、果たしてどのくらいの患者が治療対象となるのか。
 今回は、局所進行非小細胞肺癌に対してプラチナ併用化学放射線療法を行った患者で、果たしてどの程度デュルバルマブの治療対象になる人がいるのか、といった検討だった。
 プラチナ併用化学放射線療法を行った患者73人のうち、デュルバルマブ治療対象となるのは61人(70%)だったとのこと。
 なお、本邦におけるデュルバルマブの治療適応は「切除不能な局所進行の非小細胞肺癌における根治的化学放射線療法後の維持療法」と定められている。
 高齢者における局所進行非小細胞肺癌に対する本邦の標準治療であるカルボプラチン単剤分割投与併用化学放射線療法の患者も対象となり得る。

 今回の発表では、併用する化学療法レジメンにシスプラチン+ペメトレキセド併用療法が多かったようで、それについて会場から質問が飛んでいた。演者はPROCLAIM試験に基づいてシスプラチン+ペメトレキセド併用療法を頻用していると話していた。第III相PROCLAIM試験はシスプラチン+ペメトレキセド併用化学放射線療法がシスプラチン+エトポシド併用化学放射線療法に対する優越性を証明できなかったnegative studyである。デュルバルマブの有効性の論拠となる第III相PACIFIC試験においてもプラチナ製剤+ペメトレキセド併用化学放射線療法は全体の4%程度にしか用いられていない。

 局所進行非小細胞肺癌の化学放射線療法後5年生存割合が約40%というのは、立派な治療成績だ。


〇MS58 当科における切除不能III期非小細胞肺癌に対する根治的化学放射線療法の治療成績と、デュルバルマブによる地固め療法が対象となる割合の後方視的検討

・2011年01月から2018年05月までに切除不能III期非小細胞肺癌に対して根治的化学放射線療法を行った81人の患者を対象に検討した
・どの程度の患者がデュルバルマブを使用可能な対象となるかを調べた
・患者背景は以下の通り

・プラチナ併用化学療法を含む治療を受けたのは73人(90%)
・73人中54人(74%)が経過中に放射線肺臓炎を合併し、73人中12人(16%)は化学放射線療法後3ヶ月以内にGrade 2以上の放射線肺臓炎を発症し、デュルバルマブ治療対象外と考えられた
・PS不良のためデュルバルマブ治療対象外と考えられた患者は73人中7人(10%)
・病勢進行のためデュルバルマブ治療対象外と考えられた患者は73人中3人(4%)
・結局、デュルバルマブ治療対象外の患者は73人中22人(30%)
・残る70%はデュルバルマブ治療対象になり得ると考えられた
・全体の無増悪生存期間中央値は10.9ヶ月
・5年無増悪生存割合は21.3%
・Best Supportive Careに移行し(転院して追跡不能になった)患者を打ち切り例として扱うと、生存期間中央値は57.8ヶ月、5年生存割合は45.9%
・Best Supportive Careに移行し(転院して追跡不能になった)患者を死亡例と同様に扱うと、生存期間中央値は26.8ヶ月、5年生存割合は38.3%
  

2019年04月03日

NEJ009 gefitinib±CBDCA+PEM followed by osimertinib

 最近、NEJ009試験のその後について触れた。
 
 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e954088.html

 ESMO2018発表時ポスターのレプリカが手に入ったので見てみたが、これは共有した方が良さそうだと考えた。

https://cslide.ctimeetingtech.com/esmo2018/attendee/confcal/show/session/260


1382PD - Phase III Study of Gefitinib (G) versus Gefitinib+Carboplatin+Pemetrexed (GCP) as 1st-line Treatment for Patients (pts) with Advanced Non-Small Cell Lung Cancer (NSCLC) with EGFR Mutations (NEJ009)

Masahiro Seike et al.

ESMO 2018 congress

















 EGFR遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がんに対して、カルボプラチン+ペメトレキセド+ゲフィチニブ併用療法が無増悪生存期間、全生存期間を有意に延長した、というのが結論で、無増悪生存期間中央値は21ヶ月、全生存期間は51ヶ月と、日本人のみを対象とした過去の臨床試験と比較しても最高の結果を残している。
 これだけでも本併用療法を一押しするに足るのだが、今回の発表の白眉は何といっても次の資料だ。





 ゲフィチニブ単剤療法群172人のうち、病勢進行後にT790M耐性変異が明らかとなってオシメルチニブを使用した患者が37人(22%)、オシメルチニブを使用できなかった患者が135人。
 カルボプラチン+ペメトレキセド+ゲフィチニブ併用療法群の170人のうち、病勢進行後にT790M耐性変異が明らかとなってオシメルチニブを使用した患者が29人(17%)、オシメルチニブを使用できなかった患者が141人。
 両群ともに、二次治療でオシメルチニブを使用できた場合には、95%以上の確率で67ヶ月以上の生存期間が期待できる、ということのようだ。
 ゲフィチニブ単剤療法から開始したら、5人中4人はT790M陰性、期待される生存期間中央値は30ヶ月で、5人中1人はT790M陽性、二次治療でオシメルチニブを使用した場合に期待される生存期間は少なくとも74ヶ月。
 カルボプラチン+ペメトレキセド+ゲフィチニブ併用療法から開始したら、6人中5人はT790M陰性、期待される生存期間中央値は44ヶ月、6人中1人はT790M陽性、二次治療でオシメルチニブを使用した場合に期待される生存期間は少なくとも67ヶ月。

 オシメルチニブを初回治療で使用した場合の生存期間全容については今後の報告を待たねばならないが、EGFR遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がん患者に対して、治療開始前に今回のデータを提示すべきだ。



  

2018年10月10日

免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ)、いよいよ肺小細胞癌の領域へ

 IMpower133の結果が2018年の世界肺癌会議で公表されたようで、早くも内容が論文化されたようだ。
 無理もないことで、多分20年ぶりくらいで、進展型肺小細胞がんの薬物療法に関わる第III相試験において生命予後を改善する新治療が出てきたことになる。
 ペンブロリズマブ(第II相試験)もIpilimumab(第III相試験)もこの分野ではこけている。
 そうした中、免疫チェックポイント阻害薬の一角であるアテゾリズマブが進展型肺小細胞がんの生存期間中央値を2ヶ月延長した、ということで、小さな改善効果とは言いながら、非常に有意義だと感じる。
 アテゾリズマブは既にわが国で製造承認、薬価収載ともに終わっている。
 どの程度の日本人患者が本試験に参加したのかは定かでない(きっと近い将来学術集会で明らかにされるだろう)ので、本試験結果を以ってそのまま規制当局が国内使用を許可するかどうかは見通せない。
 しかし、仮に適応拡大承認が得られれば、比較的速やかに普及するのではないだろうか。
 国民医療費はさらに高騰するが。

 論文本体を読み込むと以下のように書いてあり、要約の内容に一部誇張された内容が入っていそうで、注意したい。

・全生存期間と無増悪生存期間をいずれも主要評価項目とした
・全生存期間の解析を先に行って、これにより有意差が確認されたら無増悪生存期間の解析を段階的に行うことにした
・全生存期間の有意水準は両側検定でp=0.045、無増悪生存期間の有意水準は両側検定でp=0.005とした(従って、今回の試験では、無増悪生存期間に有意な改善は認められなかった(p=0.02)ことになる)
・今回は、もともと予定していた中間解析時点で有意な全生存期間の延長が認められたため、結果を公表することになった
・データカットオフは2018年4月(ということは、世界肺癌会議や今回の論文発表に間に合わせるために、かなりの突貫工事でデータのとりまとめを行ったものと想像される)

 また、以下のような興味深いことも目に付いた。
・全生存期間についてサブグループ解析を行うと、65歳未満の年齢層では両治療群間に有意差を認めなかったが、65歳以上では有意差が認められ、アテゾリズマブ群の方が優れていた(それぞれの年齢層はほぼ半々であることから、この結果の信頼性は高いと考えられる。数ある臨床試験でも、若年者よりも高齢者の方が予後が優れる、というものはあまり記憶にない)
・脳転移を有する患者群での治療効果は、こうした患者の絶対数が少なかったために解析困難だった
・奏効持続期間は、アテゾリズマブ群の方がかなり長そうだった
・生存曲線を見ると、両群ともに治療開始から半年くらいまでは曲線の下がり方はなだらか(ということは、治療開始から半年間くらいは亡くなる方が少なめだったということ)で、それ以降に両群間の差がついてきた
・censored caseが多いためまだ結論を出すには早いが、非小細胞肺癌におけるこの種の臨床試験に比べると、long survivorはすくなさそう
・そこそこの割合の人が、プロトコール治療中に(進展型小細胞がんであるにもかかわらず)予防的全脳照射を受けた
 
 話題は尽きないが、epoch-makingな治療が登場したことは間違いないし、本論文はonlineで無料で入手できるので(こういう太っ腹なところは流石のトップジャーナルである)、この分野で働く職業人としては是非一読したい。

 こうなると、神経内分泌腫瘍の領域にも免疫チェックポイント阻害薬の波がやってくるかもしれない。



First-Line Atezolizumab plus Chemotherapy in Extensive-Stage Small-Cell Lung Cancer.

Horn L. et al., N Engl J Med. 2018 Sep 25.
DOI: 10.1056/NEJMoa1809064. [Epub ahead of print]
PDF: https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1809064

背景:
 PD-L1とPD-1のシグナル伝達系を阻害することにより腫瘍特異的なT細胞免疫機能を賦活することが、進展型肺小細胞がんの治療に有望であることがすでに示されていた。免疫チェックポイント阻害薬と殺細胞性抗腫瘍薬を併用することにより、相乗効果が得られるかもしれない。

方法:
 今回、未治療の進展型肺小細胞がん患者に対してカルボプラチン+エトポシド併用療法に対するアテゾリズマブの上乗せ効果を検証するプラセボ対照二重盲見第III相比較試験を計画した。参加登録した患者は、カルボプラチン+エトポシド併用療法に加えて、アテゾリズマブを使用する群(アテゾリズマブ群)とプラセボを使用する群(プラセボ群)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。治療導入期にはそれぞれの治療を3週間ごとに最大4コースまで行い、維持治療期にはアテゾリズマブもしくはプラセボを、忍容不能な毒性にさいなまれるか、RECIST ver.1.1における病勢進行基準を満たすか、ないしは臨床的有益性がもはや認められないと担当医が判断するかまで投与継続された。主要評価項目は無増悪生存期間、全生存期間とした。

結果:
 計201人の患者がアテゾリズマブ群へ、202人の患者がプラセボ群に割り付けられた。経過観察期間13.9ヶ月の段階で、生存期間中央値はアテゾリズマブ群で12.3ヶ月、プラセボ群で10.3ヶ月、ハザード比0.70、95%信頼区間は0.54-0.91、p=0.007と、アテゾリズマブ群で有意に優れていた。無増悪生存期間中央値はアテゾリズマブ群で5.2ヶ月、プラセボ群で4.3ヶ月、ハザード比0.77、95%信頼区間は0.62-0.96、p=0.02だった。安全性プロファイルは、それぞれの治療について過去に報告された有害事象とほぼ同様で、新規なものは認めなかった。

結論:
 進展が多少細胞肺癌の初回治療において、化学療法にアテゾリズマブを加えることにより、全生存期間(と無増悪生存期間)が有意に延長した。
  

2018年04月20日

KEYNOTE-042・・・The bar is dropping.

 KEYOTE-024も十分インパクトがあった。
 実際、標準治療が変わってしまった。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e914135.html

 しかし、このKEYNOTE-042はさらにインパクトが大きい。
 The bar has been dropping.
 TPS≧50%は結構高いハードルだった気がするが、TPS≧1%のハードルはかなり低い。
 もはや、ドライバー遺伝子変異のない患者のほとんどが対象になるのでは?


<第III相KEYNOTE-042試験において、ペンブロリズマブ単剤療法が全生存期間を延長>

By The ASCO Post
Posted: 4/19/2018 3:44:45 PM
Last Updated: 4/19/2018 3:44:45 PM

 2018年4月9日、局所進行および進行非小細胞肺癌患者に対する一次治療の有効性を検証する第III相KEYNOTE-042試験において、ペンブロリズマブ単剤療法は主要評価項目である全生存期間において優越性を示した。独立データモニタリング委員会が中間解析を行ったところ、PD-L1-TPS≧1%の患者に対しては、ペンブロリズマブはプラチナ併用化学療法(カルボプラチン+パクリタキセルあるいはカルボプラチン+ペメトレキセド)よりも有意に全生存期間を延長した。PD-L1陽性度合いに応じてあらかじめ規定されていたサブグループ解析を行ったところ、TPS≧50%の患者群、TPS≧20%の患者群のいずれでも全生存期間は有意に改善しており、患者群全体に相当するTPS≧1%でも同様だった。ペンブロリズマブの安全性については、既報と同様の結果だった。
 独立データモニタリング委員会の勧告に従い、今後も本試験は継続され、副次評価項目である無増悪生存期間についても評価することになっている。

<KEYNOTE-042試験の概略>
 KEYNOTE-042試験は、TPS≧1%の局所進行/進行非小細胞肺癌患者を対象に、標準治療であるプラチナ併用化学療法とペンブロリズマブ単剤療法を比較する国際共同、無作為化、オープンラベル第III相臨床試験である。EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子を伴わず、抗がん薬物療法の既往がないことが条件とされた。1,274人の患者が組み入れられ、1:1の割合でペンブロリズマブ単剤療法群(200mg/回を3週間隔で投与)とプラチナ併用化学療法(扁平上皮癌ならカルボプラチン+パクリタキセル療法・最大6コースまで、非扁平上皮癌ならカルボプラチン+ペメトレキセド療法・最大6コースまで→オプションとしてペメトレキセド維持療法)に割り付けられた。  

2018年02月21日

FDA、局所進行非小細胞肺がんにDurvalumabを承認

 何はともあれ、治癒を目指せる治療法が増えるのはとても意義深い。


FDA Expands Approval of Durvalumab to Reduce the Risk of NSCLC Progression

By The ASCO Post
Posted: 2/20/2018 5:56:34 PM
Last Updated: 2/20/2018 9:44:22 PM

 2018年2月16日、米国食品医薬品局は、放射線化学療法後に病勢進行に至っていない切除不能III期非小細胞肺がん患者に対するDurvalumab療法を承認した。このsettingの治療としては、これが初の薬事承認となる。切除不能III期非小細胞肺がん患者に対し、進行を抑えるための標準治療はこれまで放射線化学療法だったが、この治療により治癒に至る患者は一握りだった。今回の承認により、放射線化学療法後により長くがんの病勢進行を抑え込む治療を受けられるようになった。

 DurvalumabはPD-1 / PD-L1経路を治療標的としている。PD-1 / PD-L1の相互作用を阻害することにより、Durvalumabは患者の免疫システムががん細胞を攻撃する手助けをする。2017年の段階で、Durvalumabは先行して進行膀胱がんに対する迅速承認を受けていた。

 今回の承認は、すなわち、放射線化学療法完遂後病勢進行に至っていない切除不能III期非小細胞肺がん患者713人を対象としたPACFIC試験の結果に基づいている。この試験の評価項目は無増悪生存期間だった。無増悪生存期間中央値は、Durvalumabを使用した患者群で16.8か月、使用しなかった患者群で5.6か月だった。加えて、PACIFIC試験のスポンサーであるアストラゼネカ社は、本試験で放射線化学療法後にDurvalumabを使用した患者の全生存期間データをFDAに提出することを、市販後臨床調査の一環として行うことに同意している。
 Durvalumabに関連した頻度の高い有害事象は、咳、疲労感、肺臓炎 / 放射線肺炎、上気道感染、呼吸困難、発疹だった。
 重篤な有害事象には、肺臓炎、肝炎、腸炎、内分泌障害、腎炎といった免疫関連有害事象が含まれる。Durvalumabはまた、胎児発育に対する毒性も有している。そのため、女性の患者に対しては胎児発育への潜在的なリスクが説明され、避妊することが推奨されねばならない。