2017年02月27日
上乗せすることで毒性が軽減される抗腫瘍薬:Plinabulin
いわゆる「抗がん薬」=「殺細胞性抗腫瘍薬」の話題は、このところすっかり寂れた。
そんな中、面白い薬の話題が届いた。
二次治療でドセタキセルと併用したところ、奏効持続期間が延長し、好中球減少の毒性は軽減されたとのこと。
上乗せしたことにより、毒性が軽減される抗がん薬は珍しい。
似たような薬をちょっと思い出せない。
全生存期間は延長せず、奏効持続期間が延長したということは、効果がある患者とない患者ではっきり運命が分かれるということだ。
今のところ「測定可能病変がある」ということが効果予測因子のようだが、これだけではちょっと納得できない。
その他の効果予測因子が見いだされてくれれば、新しい武器になる。
Plinabulin Demonstrates Provocative Results in Advanced NSCLC
ASCO-SITC Clinical Immuno-Oncology Symposium
February 24, 2017
Abst.#139
治療歴のある局所進行/進行非小細胞肺癌患者に対し、現在開発中のPlinabulinをドセタキセルに上乗せして使うと、全生存期間を延長する可能性があることが示された。測定可能病変を有する患者がこの治療の恩恵を最も受けるようで、生存期間中央値は4.6ヶ月延長し、奏効持続期間は約1年間延長した。
Ceders-Sinai医療センターのDr.Alain Mitaが、今回の無作為化第II相臨床試験の結果を報告した。
Plinabulinは新規の小分子化合物で、チュブリン分子のコルヒチン結合部に接着し、微小管の動態を不安定化する。したがって、Plinabulinを微小管の動態を安定化するドセタキセルと併用するのは、直感的に言えば合理的でないように思われる。しかし、基礎研究からは、腫瘍の微細環境におけるPlinabulinの多彩な効果が明らかになっている。すなわち、caspase-3を介した腫瘍細胞のアポトーシス誘導、樹状細胞の成熟化刺激、T細胞による腫瘍細胞攻撃の誘導、サイトカイン放出を介した好中球アポトーシスの抑制などである。
今回の第II相試験では、IIIB/IV期の非小細胞肺癌患者を対象に、二次治療/三次治療としてPlinabulin+ドセタキセル群とドセタキセル群に無作為割付し、主要評価項目は全生存期間とした。Plinabulinは、毒性の軽減を図る目的で、30mg/㎡の量で投与する患者コホート1と、20mg/㎡の量で投与する患者コホート2に分けて評価した。ドセタキセルは75mg/㎡の投与量で3週間に1回投与した。Plinabulinは治療1コースあたり、1日目と8日目に併用した。
患者コホート1では、肺に測定可能病変をもつ患者と持たない患者を取り混ぜて、計105人を治療した。生存期間中央値は、Plinabulin+ドセタキセル群では8.7ヶ月、ドセタキセル群では7.5ヶ月で、その差は1.2ヶ月であり、統計学的有意差には達しなかった。対照的に、奏効持続期間には11.2ヶ月の開きがあった。奏効持続期間は、Plinabulin+ドセタキセル群では12.7ヶ月だったのに対し、ドセタキセル群では1.5ヶ月で、統計学的に有意な差が見られた(p<0.05)。
患者コホート1におけるPlinabulinの効果は、測定可能病変を有する76人に限って評価するとより明らかだった。この患者群では、Plinabulin+ドセタキセル群の生存期間中央値は11.3ヶ月に達し、一方でドセタキセル群では6.7ヶ月で、両者には4.6ヶ月の開きがあったが、それでも統計学的有意差には至らなかった(p=0.29)。奏効持続期間は、Plinabulin+ドセタキセル群では12.7ヶ月だったのに対し、ドセタキセル群では1.0ヶ月で、こちらは統計学的に有意差があった(p<0.05)。
Plinabulinにより悪化した有害事象は、下痢、嘔気、嘔吐、頭痛、めまい、血圧上昇だった。しかし、これらの毒性は押しなべて軽度であり、Plinabulinの投与量を30mg/㎡から20mg/㎡に減らすと有害事象発生頻度も低下した。発表者のDr Mitaによると、血圧上昇はPlinabulin投与後数時間の間の一過性のもので、合併症を残さずに改善するとのことだった。
興味深いことに、Plinabulinにはドセタキセルによる好中球減少を抑制し、研究者を驚かせた。ドセタキセル群では約33%の患者が、初回投与時にGrade 4の好中球減少を合併したが、Plinabulin+ドセタキセル群では3-5%まで抑えられており、統計学的に有意な差を示していた(p<0.0003)。これは、敗血症(3.6% vs 0%)、重症感染症(3.6% vs 0%)、ドセタキセル投与量の減量(19.2% vs 6.7%)といったほかの有害事象、治療薬減量とも関連していた。
これらの結果に基づき、国際第III相試験であるDUBLIN-3が開始されつつある。少なくとも1箇所の測定可能病変を有する進行非小細胞肺癌患者を対象に、二次/三次治療としてPlinabulin+ドセタキセル併用療法とドセタキセル単剤療法を比較するデザインである。
その他にも、Plinabulinの免疫増強作用をより効果的に利用するための臨床試験が、非小細胞肺癌患者を対象に開始されようとしている。大腸がんや乳がんの動物モデルを使った前臨床試験では、PD-1やPD-L1阻害以外のメカニズムを介して腫瘍の発育を遅らせるPlinabulinとその他の免疫療法との併用効果が示唆されている。Plinabulinとニボルマブを併用する第I/II相の医師主導治験が非小細胞肺がんを対象に計画されている。
そんな中、面白い薬の話題が届いた。
二次治療でドセタキセルと併用したところ、奏効持続期間が延長し、好中球減少の毒性は軽減されたとのこと。
上乗せしたことにより、毒性が軽減される抗がん薬は珍しい。
似たような薬をちょっと思い出せない。
全生存期間は延長せず、奏効持続期間が延長したということは、効果がある患者とない患者ではっきり運命が分かれるということだ。
今のところ「測定可能病変がある」ということが効果予測因子のようだが、これだけではちょっと納得できない。
その他の効果予測因子が見いだされてくれれば、新しい武器になる。
Plinabulin Demonstrates Provocative Results in Advanced NSCLC
ASCO-SITC Clinical Immuno-Oncology Symposium
February 24, 2017
Abst.#139
治療歴のある局所進行/進行非小細胞肺癌患者に対し、現在開発中のPlinabulinをドセタキセルに上乗せして使うと、全生存期間を延長する可能性があることが示された。測定可能病変を有する患者がこの治療の恩恵を最も受けるようで、生存期間中央値は4.6ヶ月延長し、奏効持続期間は約1年間延長した。
Ceders-Sinai医療センターのDr.Alain Mitaが、今回の無作為化第II相臨床試験の結果を報告した。
Plinabulinは新規の小分子化合物で、チュブリン分子のコルヒチン結合部に接着し、微小管の動態を不安定化する。したがって、Plinabulinを微小管の動態を安定化するドセタキセルと併用するのは、直感的に言えば合理的でないように思われる。しかし、基礎研究からは、腫瘍の微細環境におけるPlinabulinの多彩な効果が明らかになっている。すなわち、caspase-3を介した腫瘍細胞のアポトーシス誘導、樹状細胞の成熟化刺激、T細胞による腫瘍細胞攻撃の誘導、サイトカイン放出を介した好中球アポトーシスの抑制などである。
今回の第II相試験では、IIIB/IV期の非小細胞肺癌患者を対象に、二次治療/三次治療としてPlinabulin+ドセタキセル群とドセタキセル群に無作為割付し、主要評価項目は全生存期間とした。Plinabulinは、毒性の軽減を図る目的で、30mg/㎡の量で投与する患者コホート1と、20mg/㎡の量で投与する患者コホート2に分けて評価した。ドセタキセルは75mg/㎡の投与量で3週間に1回投与した。Plinabulinは治療1コースあたり、1日目と8日目に併用した。
患者コホート1では、肺に測定可能病変をもつ患者と持たない患者を取り混ぜて、計105人を治療した。生存期間中央値は、Plinabulin+ドセタキセル群では8.7ヶ月、ドセタキセル群では7.5ヶ月で、その差は1.2ヶ月であり、統計学的有意差には達しなかった。対照的に、奏効持続期間には11.2ヶ月の開きがあった。奏効持続期間は、Plinabulin+ドセタキセル群では12.7ヶ月だったのに対し、ドセタキセル群では1.5ヶ月で、統計学的に有意な差が見られた(p<0.05)。
患者コホート1におけるPlinabulinの効果は、測定可能病変を有する76人に限って評価するとより明らかだった。この患者群では、Plinabulin+ドセタキセル群の生存期間中央値は11.3ヶ月に達し、一方でドセタキセル群では6.7ヶ月で、両者には4.6ヶ月の開きがあったが、それでも統計学的有意差には至らなかった(p=0.29)。奏効持続期間は、Plinabulin+ドセタキセル群では12.7ヶ月だったのに対し、ドセタキセル群では1.0ヶ月で、こちらは統計学的に有意差があった(p<0.05)。
Plinabulinにより悪化した有害事象は、下痢、嘔気、嘔吐、頭痛、めまい、血圧上昇だった。しかし、これらの毒性は押しなべて軽度であり、Plinabulinの投与量を30mg/㎡から20mg/㎡に減らすと有害事象発生頻度も低下した。発表者のDr Mitaによると、血圧上昇はPlinabulin投与後数時間の間の一過性のもので、合併症を残さずに改善するとのことだった。
興味深いことに、Plinabulinにはドセタキセルによる好中球減少を抑制し、研究者を驚かせた。ドセタキセル群では約33%の患者が、初回投与時にGrade 4の好中球減少を合併したが、Plinabulin+ドセタキセル群では3-5%まで抑えられており、統計学的に有意な差を示していた(p<0.0003)。これは、敗血症(3.6% vs 0%)、重症感染症(3.6% vs 0%)、ドセタキセル投与量の減量(19.2% vs 6.7%)といったほかの有害事象、治療薬減量とも関連していた。
これらの結果に基づき、国際第III相試験であるDUBLIN-3が開始されつつある。少なくとも1箇所の測定可能病変を有する進行非小細胞肺癌患者を対象に、二次/三次治療としてPlinabulin+ドセタキセル併用療法とドセタキセル単剤療法を比較するデザインである。
その他にも、Plinabulinの免疫増強作用をより効果的に利用するための臨床試験が、非小細胞肺癌患者を対象に開始されようとしている。大腸がんや乳がんの動物モデルを使った前臨床試験では、PD-1やPD-L1阻害以外のメカニズムを介して腫瘍の発育を遅らせるPlinabulinとその他の免疫療法との併用効果が示唆されている。Plinabulinとニボルマブを併用する第I/II相の医師主導治験が非小細胞肺がんを対象に計画されている。
2017年02月26日
Pembrolizumab二次治療後の5年生存割合は25%以上?!
3年未満しか追跡調査できていない臨床試験の結果から、5年生存割合を類推する、というのは、やや眉唾にも思える。
しかし、免疫チェックポイント阻害薬で治療した患者の生存曲線を見ると、初期には曲線が急速に低下し、その後にX軸とほぼ平行に走るプラトーに達する傾向がある。
今回は、こうした特性からPembrolizumabによる二次治療施行後の患者の5年生存割合を見積もった、という報告のようだ。
統計学的解析の詳細は不明で、勉強する気もないが、これが真実だとすると進行期非小細胞肺がん患者の4人に1人は5年生存することになる。
ちょっと信じがたいことだが、Pembrolizumabが実地臨床で本格的に使われるのはまさにこれからなわけで、5-10年後にならないと真実は明らかにならないだろう。
薬価は高く、医療費の高騰を招くのは火を見るより明らかだが、こうあっては臨床医としては使わざるを得ない薬だ。
Long-Term Survival With Pembrolizumab May Be Possible in Up to One-Quarter of Patients With Previously Treated, Advanced NSCLC
ASCO-SITC Clinical Immuno-Oncology Symposium
February 23, 2017
Abst.#77
メモリアル・スローンケタリングがんセンターのMatthew D.Hellmannらは、プラチナ併用化学療法後に病勢進行に至り、Pembrolizumabによる二次治療を受けたPD-L1高発現の非小細胞肺がん患者の長期生存(ここでは5年間以上の生存と定義)がどの程度期待できるのかを統計学的に見積もった。
KEYNOTE-001試験の生存データは3年未満のものしかないのだが、この試験に参加した306人のデータを用いて長期生存割合を予測した。その後、KEYNOTE-010試験に参加した690人の患者でも同様の評価を行った。
今回の検討から得られたデータは信頼に足るものだった。KEYNOTE-001試験からは、Pembrolizumab二次治療を受けた患者の長期生存割合は25.4%(95%信頼区間は14.8-33.6%)と見積もられた。同様に、KEYNOTE-010試験からは、25.3%(95%信頼区間は9.0-36.6%)と見積もられた。さらに、KEYNOTE-010試験では6ヶ月間の追跡期間延長後のデータを用いて再評価すると、21.5%(95%信頼区間は9.2-30.5%)と見積もられた。
結局のところ、Pembrolizumabによる二次治療の結果、21-25%の患者は長期生存が見込めることになり、その一方でドセタキセルでは3-4%しか見込めなかった。プラチナ併用化学療法後に病勢進行に至った患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果は、(既にドセタキセルよりも優れているとの評価は定まっているわけだが、durative responseにより25%もの患者が長期生存できる可能性があることを踏まえると)現時点では過小評価されているのかもしれない。
しかし、免疫チェックポイント阻害薬で治療した患者の生存曲線を見ると、初期には曲線が急速に低下し、その後にX軸とほぼ平行に走るプラトーに達する傾向がある。
今回は、こうした特性からPembrolizumabによる二次治療施行後の患者の5年生存割合を見積もった、という報告のようだ。
統計学的解析の詳細は不明で、勉強する気もないが、これが真実だとすると進行期非小細胞肺がん患者の4人に1人は5年生存することになる。
ちょっと信じがたいことだが、Pembrolizumabが実地臨床で本格的に使われるのはまさにこれからなわけで、5-10年後にならないと真実は明らかにならないだろう。
薬価は高く、医療費の高騰を招くのは火を見るより明らかだが、こうあっては臨床医としては使わざるを得ない薬だ。
Long-Term Survival With Pembrolizumab May Be Possible in Up to One-Quarter of Patients With Previously Treated, Advanced NSCLC
ASCO-SITC Clinical Immuno-Oncology Symposium
February 23, 2017
Abst.#77
メモリアル・スローンケタリングがんセンターのMatthew D.Hellmannらは、プラチナ併用化学療法後に病勢進行に至り、Pembrolizumabによる二次治療を受けたPD-L1高発現の非小細胞肺がん患者の長期生存(ここでは5年間以上の生存と定義)がどの程度期待できるのかを統計学的に見積もった。
KEYNOTE-001試験の生存データは3年未満のものしかないのだが、この試験に参加した306人のデータを用いて長期生存割合を予測した。その後、KEYNOTE-010試験に参加した690人の患者でも同様の評価を行った。
今回の検討から得られたデータは信頼に足るものだった。KEYNOTE-001試験からは、Pembrolizumab二次治療を受けた患者の長期生存割合は25.4%(95%信頼区間は14.8-33.6%)と見積もられた。同様に、KEYNOTE-010試験からは、25.3%(95%信頼区間は9.0-36.6%)と見積もられた。さらに、KEYNOTE-010試験では6ヶ月間の追跡期間延長後のデータを用いて再評価すると、21.5%(95%信頼区間は9.2-30.5%)と見積もられた。
結局のところ、Pembrolizumabによる二次治療の結果、21-25%の患者は長期生存が見込めることになり、その一方でドセタキセルでは3-4%しか見込めなかった。プラチナ併用化学療法後に病勢進行に至った患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果は、(既にドセタキセルよりも優れているとの評価は定まっているわけだが、durative responseにより25%もの患者が長期生存できる可能性があることを踏まえると)現時点では過小評価されているのかもしれない。
2017年02月26日
PD-L1評価と、LC-SCRUM-IBIS
「検体不足」と題して、PD-L1発現状態の評価がうまく出来なかったことに触れたが、上司からコメントを頂いた。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e890923.html
「そういう場合はLC-SCRUM-IBISを利用するといいよ。検体の中の癌細胞数が100個未満であっても、「判定不能」ではなく、参考値としてPD-L1の発現状態を報告してあげます。更に、4つの抗体を用いたIHCの結果(22C3、28-8、SP142、SP263)とmutation burden数まで分かるので、ぜひご利用ください。今後、生検は出来るだけ多くの検体を採取する必要があるよ。でも、生検だとおそらく結構な割合で判定不能と診断されると思います。」
現在、RET融合遺伝子などを主な検索対象としたLC-SCRUMは登録中断状態にある。
一方、PD-L1発現状態を複数の抗体で評価し、合わせてmutational burdenの測定や網羅的遺伝子解析も行うLC-SCRUM-IBISが進行中で、LC-SCRUM本体を補完している。
当院ではまだLC-SCRUM-IBISの倫理審査が終わっていないが、「判定不能」のために治療機会を逸するかもしれない患者さんのことを考えると、焦る。
検査会社には、実際に提出された検体のうち、どの程度の割合が「判定不能」と処理され、その理由の内訳はなんだったのか、受託開始から半年から1年くらいを目処に学会等で公表してほしい。
以下の如く、上司にお返事した。
「ご指導ありがとうございます。判定不能の詳細までは確認できておらず、SRLの担当者は、「切り出した切片に腫瘍細胞が含まれていなかった」としか教えてくれませんでした。先生のおっしゃるように、切片内の腫瘍細胞数が規定の数に達していなかった、というのが真実かもしれません。今回のことでLC-SCRUM-IBISの意義がよくわかりました。今回は、通常鉗子を用いて採取した生検ブロックを5-6個提出してこの回答だったので、かなり高いハードルだと感じました。だからこそcryoprobeに期待しています。」
この記事を見た医療者にも、是非PD-L1評価の問題点を共有してほしい。
通常径のガイドシースを使って採取した小さな生検標本では、おそらくPD-L1評価には不十分だ。
まずは原点回帰して、大きな組織をとるように工夫しなければならない。
でないと、何度も何度も患者に気管支鏡検査を強いることになるうえに、治療のタイミングを逸する事態にもなりかねない。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e890923.html
「そういう場合はLC-SCRUM-IBISを利用するといいよ。検体の中の癌細胞数が100個未満であっても、「判定不能」ではなく、参考値としてPD-L1の発現状態を報告してあげます。更に、4つの抗体を用いたIHCの結果(22C3、28-8、SP142、SP263)とmutation burden数まで分かるので、ぜひご利用ください。今後、生検は出来るだけ多くの検体を採取する必要があるよ。でも、生検だとおそらく結構な割合で判定不能と診断されると思います。」
現在、RET融合遺伝子などを主な検索対象としたLC-SCRUMは登録中断状態にある。
一方、PD-L1発現状態を複数の抗体で評価し、合わせてmutational burdenの測定や網羅的遺伝子解析も行うLC-SCRUM-IBISが進行中で、LC-SCRUM本体を補完している。
当院ではまだLC-SCRUM-IBISの倫理審査が終わっていないが、「判定不能」のために治療機会を逸するかもしれない患者さんのことを考えると、焦る。
検査会社には、実際に提出された検体のうち、どの程度の割合が「判定不能」と処理され、その理由の内訳はなんだったのか、受託開始から半年から1年くらいを目処に学会等で公表してほしい。
以下の如く、上司にお返事した。
「ご指導ありがとうございます。判定不能の詳細までは確認できておらず、SRLの担当者は、「切り出した切片に腫瘍細胞が含まれていなかった」としか教えてくれませんでした。先生のおっしゃるように、切片内の腫瘍細胞数が規定の数に達していなかった、というのが真実かもしれません。今回のことでLC-SCRUM-IBISの意義がよくわかりました。今回は、通常鉗子を用いて採取した生検ブロックを5-6個提出してこの回答だったので、かなり高いハードルだと感じました。だからこそcryoprobeに期待しています。」
この記事を見た医療者にも、是非PD-L1評価の問題点を共有してほしい。
通常径のガイドシースを使って採取した小さな生検標本では、おそらくPD-L1評価には不十分だ。
まずは原点回帰して、大きな組織をとるように工夫しなければならない。
でないと、何度も何度も患者に気管支鏡検査を強いることになるうえに、治療のタイミングを逸する事態にもなりかねない。
2017年02月25日
進行非小細胞肺がんで治療を受けなかったら
進行肺がんの診断がついても、積極的な治療を受けない患者さんは少なからず存在する。
積極的な治療を受けなかった患者さんのデータは、学会発表や論文ではあまり出てこない。
面白くないからだ。
しかし、臨床の現場で、治療をするかしないかの議論を患者さん、家族とする際には、こうしたデータはとても重要だ。
選択の目安となるからだ。
一般に、進行非小細胞肺癌の患者さんを無治療経過観察したときの生命予後は4-6ヶ月というのが相場だろう。
ところが、今回報告された大規模なレトロスペクティブ試験の結果はより深刻だ。
IV期の進行非小細胞肺癌患者さんを無治療経過観察した場合、生存期間中央値は2ヶ月と示されている。
・・・IV期の非小細胞肺癌患者を対象とする臨床試験では、「3ヶ月以上の生命予後が期待できる」という条件が付されることが多い。
そうすると、実地臨床におけるIV期の患者の半分以上は臨床試験の対象になりえないことになる。
治療手段が増えているにも関わらず、無治療経過観察となる患者は、少なくとも米国では増加しているらしい。
高齢化の影響なのか。
医療者が疲弊していて、手が回らないのか。
経済的に困窮していて、治療が受けられないのか。
Increasing Rates of No Treatment in Advanced-Stage Non-Small Cell Lung Cancer Patients: A Propensity-Matched Analysis
David EA et al., J Thorac Oncol 12(3), 437-445, 2017
・米国では、2,016年に非小細胞肺癌で死亡した患者は158,080人と見積もられている
・高齢、低学歴、健康保険未加入、進行期の患者ほど治療を受けていない、との仮説を立てて、National Cancer Data Baseを用いたレトロスペクティブ研究で検証した
・1,998年から2,012年にかけて、1,571,087人の非小細胞肺癌患者が抽出された
・他の癌を合併した人(392,129人)、人種が不明な人(31,869人)、臨床病期が不明な人(237,599人)を除外して、909,490人を調査対象とした
・そのうち21%(190,539人)は治療を受けていなかった(stage I: 13.5%, stage II: 15.4%, stage IIIA: 16.5%, stage IIIB: 22.2%, stage IV: 25.5%)
・どの臨床病期の患者においても、治療を受けなかった患者は高齢で、任意健康保険でなく公的健康保険に加入している傾向にあった
・14年間の調査期間中に、stage IもしくはIIで治療を受けなかった患者は、それぞれ0.66%(p<0.0001)、0.23%(p=0.022)減少していた
・同じ期間中に、stage IIIAもしくはIVで治療を受けなかった患者は、それぞれ0.21%(p=0.003)、0.4%(p<0.0001)増加していた
・stage IIIBで治療を受けなかった患者の割合は、同じ期間内に有意な増減を示さなかった
・stage IIIAの患者6,144人を抽出し、放射線化学療法を受けた患者と受けなかった患者の生命予後を比較したところ、生存期間中央値は16.5ヶ月 vs 6.1ヶ月(p<0.0001)だった
・stage IVの患者19,046人を抽出し、化学療法を受けた患者と受けなかった患者の生命予後を比較したところ、生存期間中央値は9.3ヶ月 vs 2.0ヶ月(p<0.0001)だった
積極的な治療を受けなかった患者さんのデータは、学会発表や論文ではあまり出てこない。
面白くないからだ。
しかし、臨床の現場で、治療をするかしないかの議論を患者さん、家族とする際には、こうしたデータはとても重要だ。
選択の目安となるからだ。
一般に、進行非小細胞肺癌の患者さんを無治療経過観察したときの生命予後は4-6ヶ月というのが相場だろう。
ところが、今回報告された大規模なレトロスペクティブ試験の結果はより深刻だ。
IV期の進行非小細胞肺癌患者さんを無治療経過観察した場合、生存期間中央値は2ヶ月と示されている。
・・・IV期の非小細胞肺癌患者を対象とする臨床試験では、「3ヶ月以上の生命予後が期待できる」という条件が付されることが多い。
そうすると、実地臨床におけるIV期の患者の半分以上は臨床試験の対象になりえないことになる。
治療手段が増えているにも関わらず、無治療経過観察となる患者は、少なくとも米国では増加しているらしい。
高齢化の影響なのか。
医療者が疲弊していて、手が回らないのか。
経済的に困窮していて、治療が受けられないのか。
Increasing Rates of No Treatment in Advanced-Stage Non-Small Cell Lung Cancer Patients: A Propensity-Matched Analysis
David EA et al., J Thorac Oncol 12(3), 437-445, 2017
・米国では、2,016年に非小細胞肺癌で死亡した患者は158,080人と見積もられている
・高齢、低学歴、健康保険未加入、進行期の患者ほど治療を受けていない、との仮説を立てて、National Cancer Data Baseを用いたレトロスペクティブ研究で検証した
・1,998年から2,012年にかけて、1,571,087人の非小細胞肺癌患者が抽出された
・他の癌を合併した人(392,129人)、人種が不明な人(31,869人)、臨床病期が不明な人(237,599人)を除外して、909,490人を調査対象とした
・そのうち21%(190,539人)は治療を受けていなかった(stage I: 13.5%, stage II: 15.4%, stage IIIA: 16.5%, stage IIIB: 22.2%, stage IV: 25.5%)
・どの臨床病期の患者においても、治療を受けなかった患者は高齢で、任意健康保険でなく公的健康保険に加入している傾向にあった
・14年間の調査期間中に、stage IもしくはIIで治療を受けなかった患者は、それぞれ0.66%(p<0.0001)、0.23%(p=0.022)減少していた
・同じ期間中に、stage IIIAもしくはIVで治療を受けなかった患者は、それぞれ0.21%(p=0.003)、0.4%(p<0.0001)増加していた
・stage IIIBで治療を受けなかった患者の割合は、同じ期間内に有意な増減を示さなかった
・stage IIIAの患者6,144人を抽出し、放射線化学療法を受けた患者と受けなかった患者の生命予後を比較したところ、生存期間中央値は16.5ヶ月 vs 6.1ヶ月(p<0.0001)だった
・stage IVの患者19,046人を抽出し、化学療法を受けた患者と受けなかった患者の生命予後を比較したところ、生存期間中央値は9.3ヶ月 vs 2.0ヶ月(p<0.0001)だった
2017年02月25日
EGFR遺伝子変異による抗PD-1/PD-L1抗体の効果予測
ドライバー遺伝子変異陽性の患者では、できるだけ免疫チェックポイント阻害薬の使用を後回しにしたい、という根拠のひとつを示す論文。
抗PD-1/PD-L1抗体使用後にEGFR阻害薬やALK阻害薬を使用すると、間質性肺炎などの強い毒性が現れる可能性が高い、というのは、様々な情報ソースからの注意喚起があり、広く知られている。
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/d2016-05.html
→https://www.haigan.gr.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=118
→https://www.opdivo.jp/contents/pdf/open/ip_hatsugen_egfr.pdf
一方、今回の論文は、EGFR遺伝子変異陽性の患者には、抗PD-1/PD-L1抗体の効果自体があまり期待できないというもの。
毒性が高まる一方で、効果が得られる見込みも少ない(more toxic, less effective)なら、使う意味はほとんどない。
引用されている論文からの知見も併せて考えると、PD-L1発現状態よりも、EGFR遺伝子変異の有無の方が、より強力な効果予測因子のようだ。
また、EGFR遺伝子変異の有無と、mutational burdenの多寡との間にも、負の相関関係がありそう。
EGFR遺伝子変異陽性なら、他の免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子を検討する必要自体がないのでは?
Checkpoint Inhibitors in Metastatic EGFR-Mutated Non-Small Cell Lung Cancer - A Meta-Analysis
Lee et al., J Thorac Oncol 12(2), 403-407, 2017
・マウスモデルでは、抗PD-1抗体はEGFR遺伝子変異陽性肺癌に効果を示す一方で、KRAS遺伝子変異陽性肺癌には効果がなかったとする報告がある
→Akbay et al., Cancer Discov 3, 1355-1363, 2013
・抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体による治療を受けた進行非小細胞肺癌患者58人のレトロスペクティブ研究において、EGFR遺伝子変異もしくはALK融合遺伝子陽性の患者では奏効割合が4%しかなかった一方、それ以外の患者では23%だった
→Gainor et al., Clin Cancer Res 22, 4585-4593, 2016
・今回は、進行非小細胞肺癌の二次治療で、抗PD-1/PD-L1抗体とドセタキセルの効果を比較した下記の臨床試験に参加した患者を対象に、メタ解析を行った
●Checkmate 057試験(ニボルマブ vs ドセタキセル)
→Borghaei et al., N Engl J Med 373, 1627-1639, 2015
●Keynote 010試験(ペンブロリズマブ vs ドセタキセル)
→Herbst et al., Lancet 387, 1540-1550, 2015
●POPLAR試験(アテゾリズマブ vs ドセタキセル)
→Fehrenbacher et al., Lanet 387, 1837-1846, 2016
・対象者は1,903人(ニボルマブ292人、ペンブロリズマブ691人、アテゾリズマブ144人、ドセタキセル776人)
・EGFR遺伝子変異の有無がわかっていた患者が1,548人(81%)
・全体では、免疫チェックポイント阻害薬はドセタキセルに対して、死亡リスクを32%低減した(ハザード比0.68、95%信頼区間0.61-0.77、p<0.0001)
・同様に、EGFR遺伝子変異陰性の患者群(1,362人)では、免疫チェックポイント阻害薬はドセタキセルに対して、死亡リスクを34%低減した(ハザード比0.66、95%信頼区間0.58-0.76、p<0.0001)
・一方、EGFR遺伝子変異陽性の患者群(186人)では、生存期間延長に関する免疫チェックポイント阻害薬の優越性は認められなかった(ハザード比1.05、95%信頼区間0.70-1.55、p<0.81)
・EGFR遺伝子変異は、全生存期間に関する免疫チェックポイント阻害薬の負の効果予測因子として有用かもしれない
・PD-L1高発現(腫瘍細胞の50%以上がPD-L1を発現している)患者群にペンブロリズマブを使用した際、EGFR遺伝子変異陽性の患者では陰性の患者より全生存期間が短かった(生存期間中央値 6.5ヶ月 vs 15.7ヶ月)という報告がある
→Hui et al., J Clin Oncol 34(suppl), 9026, 2016
・PD-L1陽性細胞割合が50%以上の群と1%未満の群を比べると、EGFR遺伝子変異陽性の患者群では生存期間中央値に差は見られない(6.5ヶ月 vs 5.7ヶ月)が、EGFR遺伝子変異陰性群では15.7ヶ月 vs 9.1ヶ月と差が見られた)
・遺伝子変異総量(mutational burden)が免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子として有用とする報告があるが、EGFR遺伝子変異陽性腫瘍では、遺伝子変異総量は少ないらしい
→Spigel et al., J Clin Oncol 34(suppl), 9017, 2016
抗PD-1/PD-L1抗体使用後にEGFR阻害薬やALK阻害薬を使用すると、間質性肺炎などの強い毒性が現れる可能性が高い、というのは、様々な情報ソースからの注意喚起があり、広く知られている。
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/d2016-05.html
→https://www.haigan.gr.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=118
→https://www.opdivo.jp/contents/pdf/open/ip_hatsugen_egfr.pdf
一方、今回の論文は、EGFR遺伝子変異陽性の患者には、抗PD-1/PD-L1抗体の効果自体があまり期待できないというもの。
毒性が高まる一方で、効果が得られる見込みも少ない(more toxic, less effective)なら、使う意味はほとんどない。
引用されている論文からの知見も併せて考えると、PD-L1発現状態よりも、EGFR遺伝子変異の有無の方が、より強力な効果予測因子のようだ。
また、EGFR遺伝子変異の有無と、mutational burdenの多寡との間にも、負の相関関係がありそう。
EGFR遺伝子変異陽性なら、他の免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子を検討する必要自体がないのでは?
Checkpoint Inhibitors in Metastatic EGFR-Mutated Non-Small Cell Lung Cancer - A Meta-Analysis
Lee et al., J Thorac Oncol 12(2), 403-407, 2017
・マウスモデルでは、抗PD-1抗体はEGFR遺伝子変異陽性肺癌に効果を示す一方で、KRAS遺伝子変異陽性肺癌には効果がなかったとする報告がある
→Akbay et al., Cancer Discov 3, 1355-1363, 2013
・抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体による治療を受けた進行非小細胞肺癌患者58人のレトロスペクティブ研究において、EGFR遺伝子変異もしくはALK融合遺伝子陽性の患者では奏効割合が4%しかなかった一方、それ以外の患者では23%だった
→Gainor et al., Clin Cancer Res 22, 4585-4593, 2016
・今回は、進行非小細胞肺癌の二次治療で、抗PD-1/PD-L1抗体とドセタキセルの効果を比較した下記の臨床試験に参加した患者を対象に、メタ解析を行った
●Checkmate 057試験(ニボルマブ vs ドセタキセル)
→Borghaei et al., N Engl J Med 373, 1627-1639, 2015
●Keynote 010試験(ペンブロリズマブ vs ドセタキセル)
→Herbst et al., Lancet 387, 1540-1550, 2015
●POPLAR試験(アテゾリズマブ vs ドセタキセル)
→Fehrenbacher et al., Lanet 387, 1837-1846, 2016
・対象者は1,903人(ニボルマブ292人、ペンブロリズマブ691人、アテゾリズマブ144人、ドセタキセル776人)
・EGFR遺伝子変異の有無がわかっていた患者が1,548人(81%)
・全体では、免疫チェックポイント阻害薬はドセタキセルに対して、死亡リスクを32%低減した(ハザード比0.68、95%信頼区間0.61-0.77、p<0.0001)
・同様に、EGFR遺伝子変異陰性の患者群(1,362人)では、免疫チェックポイント阻害薬はドセタキセルに対して、死亡リスクを34%低減した(ハザード比0.66、95%信頼区間0.58-0.76、p<0.0001)
・一方、EGFR遺伝子変異陽性の患者群(186人)では、生存期間延長に関する免疫チェックポイント阻害薬の優越性は認められなかった(ハザード比1.05、95%信頼区間0.70-1.55、p<0.81)
・EGFR遺伝子変異は、全生存期間に関する免疫チェックポイント阻害薬の負の効果予測因子として有用かもしれない
・PD-L1高発現(腫瘍細胞の50%以上がPD-L1を発現している)患者群にペンブロリズマブを使用した際、EGFR遺伝子変異陽性の患者では陰性の患者より全生存期間が短かった(生存期間中央値 6.5ヶ月 vs 15.7ヶ月)という報告がある
→Hui et al., J Clin Oncol 34(suppl), 9026, 2016
・PD-L1陽性細胞割合が50%以上の群と1%未満の群を比べると、EGFR遺伝子変異陽性の患者群では生存期間中央値に差は見られない(6.5ヶ月 vs 5.7ヶ月)が、EGFR遺伝子変異陰性群では15.7ヶ月 vs 9.1ヶ月と差が見られた)
・遺伝子変異総量(mutational burden)が免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子として有用とする報告があるが、EGFR遺伝子変異陽性腫瘍では、遺伝子変異総量は少ないらしい
→Spigel et al., J Clin Oncol 34(suppl), 9017, 2016
2017年02月25日
検体不足
PD-L1免疫染色の結果を待っていたところ、SRLの担当者から連絡が入った。
当院で保管していた経気管支肺生検の組織パラフィンブロックを全て提出したが、どれを切り出しても評価可能な腫瘍組織が見つからなかったので、「判定不能」で結果を返す、とのこと。
組織標本不足という、最初のハードルに早速引っかかってしまった。
LC-SCRUMやPD-L1の評価にも耐えるよう、意識して十分量の組織標本を確保していたつもりだっただけに、ガックリきた。
ALK検索と、LC-SCRUM提出用の切り出しで、腫瘍細胞がなくなってしまったのかもしれない。
EGFR、ALKの結果については、通常の検査の他にLC-SCRUMの結果をもって担保しているので、間違いはないだろう。
さて、PD-L1発現再評価のために、まだ初回治療すらしていないのに再生検をするか、はたまた化学療法に踏み切るか。
1週間後の面談時に、要相談。
当院で保管していた経気管支肺生検の組織パラフィンブロックを全て提出したが、どれを切り出しても評価可能な腫瘍組織が見つからなかったので、「判定不能」で結果を返す、とのこと。
組織標本不足という、最初のハードルに早速引っかかってしまった。
LC-SCRUMやPD-L1の評価にも耐えるよう、意識して十分量の組織標本を確保していたつもりだっただけに、ガックリきた。
ALK検索と、LC-SCRUM提出用の切り出しで、腫瘍細胞がなくなってしまったのかもしれない。
EGFR、ALKの結果については、通常の検査の他にLC-SCRUMの結果をもって担保しているので、間違いはないだろう。
さて、PD-L1発現再評価のために、まだ初回治療すらしていないのに再生検をするか、はたまた化学療法に踏み切るか。
1週間後の面談時に、要相談。
2017年02月25日
進展型小細胞肺癌とベバシツマブ
進展型小細胞がんに対するシスプラチン+エトポシド+ベバシズマブ併用療法の是非。
ベバシズマブ維持療法までこぎつけたら有意に予後改善・・・つまり、治療期間中に悪化しなければ予後改善・・・そりゃそうでしょ。
Italian Trial Adds Bevacizumab to Cisplatin/Etoposide in Extensive-Disease Small Cell Lung Cancer
By Matthew Stenger
Posted: 2/8/2017 9:35:44 AM
Last Updated: 2/8/2017 9:35:44 AM
Journal of Clinical Oncology誌に掲載された、イタリアで行われた第III相臨床試験で、進展型小細胞肺がんに対する初回治療においてシスプラチン+エトポシド併用療法にベバシズマブを上乗せしても、生存期間が延長しないことが示された。
今回のオープンラベル試験では、イタリアの29施設より204人の未治療進展型小細胞肺がん患者が集積された。期間は2009年11月から2015年10月で、シスプラチン+エトポシド+ベバシズマブ併用療法群(PEB群)に101人、シスプラチン+エトポシド併用療法群(PE群)に104人が割り付けられた。シスプラチンは25mg/㎡を1-3日目に、エトポシドは100mg/㎡を1-3日目に3週ごとに最大6コースまで投与した。PEB群ではさらに、ベバシズマブ7.5mg/kgを1日目に、3週ごとに投与した。PEB群において、病勢進行がない限りはベバシズマブの維持療法を最大18コースまで継続した。
主要評価項目はITT解析における全生存期間とした。PEB群のうち5人、PE群のうち1人はプロトコール治療開始前に試験に参加しないことになった。
観察期間中央値は34.9ヶ月だった。生存期間中央値はPEB群で9.9ヶ月、PE群で8.9ヶ月だった(ハザード比0.78、p=0.113)。1年生存割合はPEB群で37%、PE群で25%だった。PEB群のうち、ベバシズマブ維持療法までこぎつけた患者では、有意に生存期間が延長していた(ハザード比0.60、p=0.011)
無増悪生存期間中央値はPEB群で6.7ヶ月、PE群で5.7ヶ月だった(ハザード比0.72、p=0.030)。奏効割合はPEB群で58.4%、PE群で55.3%だった(オッズ比1.13、p=0.657)。
Grade 3-4の血液毒性は以下の通りだった(PEB群, PE群)。好中球減少(46%, 46%)、白血球減少(15%, 14%)、血小板減少(4%, 11%)、貧血(3%, 10%)。Grade 3-4の非血液毒性は、高血圧(6%, 1%)、血栓症(5%, 3%)、倦怠感(8%, 15%)、嘔気(1%, 5%)。
ベバシズマブ維持療法までこぎつけたら有意に予後改善・・・つまり、治療期間中に悪化しなければ予後改善・・・そりゃそうでしょ。
Italian Trial Adds Bevacizumab to Cisplatin/Etoposide in Extensive-Disease Small Cell Lung Cancer
By Matthew Stenger
Posted: 2/8/2017 9:35:44 AM
Last Updated: 2/8/2017 9:35:44 AM
Journal of Clinical Oncology誌に掲載された、イタリアで行われた第III相臨床試験で、進展型小細胞肺がんに対する初回治療においてシスプラチン+エトポシド併用療法にベバシズマブを上乗せしても、生存期間が延長しないことが示された。
今回のオープンラベル試験では、イタリアの29施設より204人の未治療進展型小細胞肺がん患者が集積された。期間は2009年11月から2015年10月で、シスプラチン+エトポシド+ベバシズマブ併用療法群(PEB群)に101人、シスプラチン+エトポシド併用療法群(PE群)に104人が割り付けられた。シスプラチンは25mg/㎡を1-3日目に、エトポシドは100mg/㎡を1-3日目に3週ごとに最大6コースまで投与した。PEB群ではさらに、ベバシズマブ7.5mg/kgを1日目に、3週ごとに投与した。PEB群において、病勢進行がない限りはベバシズマブの維持療法を最大18コースまで継続した。
主要評価項目はITT解析における全生存期間とした。PEB群のうち5人、PE群のうち1人はプロトコール治療開始前に試験に参加しないことになった。
観察期間中央値は34.9ヶ月だった。生存期間中央値はPEB群で9.9ヶ月、PE群で8.9ヶ月だった(ハザード比0.78、p=0.113)。1年生存割合はPEB群で37%、PE群で25%だった。PEB群のうち、ベバシズマブ維持療法までこぎつけた患者では、有意に生存期間が延長していた(ハザード比0.60、p=0.011)
無増悪生存期間中央値はPEB群で6.7ヶ月、PE群で5.7ヶ月だった(ハザード比0.72、p=0.030)。奏効割合はPEB群で58.4%、PE群で55.3%だった(オッズ比1.13、p=0.657)。
Grade 3-4の血液毒性は以下の通りだった(PEB群, PE群)。好中球減少(46%, 46%)、白血球減少(15%, 14%)、血小板減少(4%, 11%)、貧血(3%, 10%)。Grade 3-4の非血液毒性は、高血圧(6%, 1%)、血栓症(5%, 3%)、倦怠感(8%, 15%)、嘔気(1%, 5%)。
2017年02月23日
第I世代EGFR阻害薬のメタ解析
世界に先駆けてgefitinibが我が国の臨床現場に持ち込まれたのが2002年。
あと半年で、15周年を迎える。
薬剤性間質性肺炎の問題、特定の遺伝子異常が効果予測因子となる、耐性化とその克服戦略など、EGFR阻害薬はいろいろな意味で肺がん診療を大きく回天した。
もうそろそろかな、と思っていたら、EGFR遺伝子変異陽性患者に対するEGFR阻害薬のメタ解析が報告された。
あやふやなままになっていた第I世代EGFR阻害薬単剤治療にまつわる疑問に一定の回答が示されている。
FLAURA試験の結果いかんでは陳腐化してしまう知見かもしれないが、少なくとも現時点では知っておきたい知識である。
EGFR阻害薬と化学療法は(そしておそらくは、手術や放射線治療といった治療手段も)、全てを使い切ってこそ最大限の生存期間延長効果が得られるのだということを、医療者は肝に銘じておく必要がある。
EGFR遺伝子変異が陽性だからといって、一連の治療過程において化学療法を考えなくていい、ということにはならない。
clinical PDとなるまでEGFR阻害薬の治療を引き伸ばすという治療戦略に異を唱えるつもりはないが、RECIST PDを迎えた段階で、化学療法への治療の切り替えのタイミングを測り間違えないようにしたい。
臨床試験で全生存期間の延長が確認されないのは、もはややむを得ない。
むしろ、無増悪生存期間が大きく延長して、全生存期間が延長しないという現象は、適切にクロスオーバーが成された、倫理的に適切なデザインの臨床試験結果として前向きに捉えるべきなのかもしれない。
大切なことは、得られた全生存期間解析結果をヒストリカル・コントロールと比較することである。
第I世代EGFR阻害薬に関して言えば、それまでは薬物療法により約15ヶ月(FACS studyにおけるCDDP+GEM群の生存期間中央値)までしか伸ばせなかった全生存期間が、26-27ヶ月まで伸ばされたという事実が大切なのだ。
新しい薬で無増悪生存期間が大きく延長した場合、仮に臨床試験本体で全生存期間延長が示されなかったとしても、実地臨床における患者の生命予後が改善するのはほぼ間違いない。
近々別項で取り上げようと思っているが、本論文執筆者のLee先生、共著者のTony Mok先生、James Yang先生は連名で、免疫チェックポイント阻害薬とEGFR遺伝子変異陽性患者の関係についても興味深いメタ解析をまとめられている。
Gefitinib or Erlotinib vs Chemotherapy for EGFR Mutation-Positive Lung Caner: Individual Patients Data Meta-Analysis of Overall Survival
Lee CK et al., J Natl Cancer Inst 109(6), 2017
・EGFR遺伝子変異を有する進行・再発非小細胞肺癌患者を対象に、初回治療としてのEGFR阻害薬と化学療法の有効性を比較した全てのランダム化比較試験で、全生存期間は重要な副次評価項目となっている
・統計学的に有意な無増悪生存期間延長が確認されたにもかかわらず、過去のどの試験においても、全生存期間の延長は示されなかった
・無増悪生存期間に差があるにもかかわらず全生存期間に差が出ないというこのパラドックスは、病勢進行後の後治療によるところが大きいとされている
・第2世代のEGFR阻害薬であるafatinibを扱ったLUX-Lung 3試験およびLUX-Lung 6試験では、それぞれ化学療法に対して46%、36%の死亡リスク低減効果が確認された
・一方で、Exon 21 L858R変異を有する患者に限れば、全生存期間の延長効果は示されなかった
・第1世代のEGFR阻害薬において、こうしたEGFR変異タイプ別の効果差があるのかどうかは結論が出ていなかった
・今回のメタ解析では、第1世代のEGFR阻害薬であるgefitnibもしくはerlotinibが化学療法に対して全生存期間の延長効果を示すかどうか検証することを主目的とした
・副次的な評価として、EGFR遺伝子変異タイプやその他の背景因子が、EGFR阻害薬による生存期間延長の予測因子となるかどうかを検証することにした。
・対象とした臨床試験は次の6つ
●IPASS試験(gefitinib vs CBDCA+PTX, EGFR変異陰性例も含む)
●NEJ002試験(gefitinib vs CBDCA+PTX, Ex.19 / 21以外の変異も含む)
●WJTOG3405試験(gefitinib vs CDDP+DOC, 術後再発患者、PS2の患者を含む)
●OPTIMAL試験(erlotinib vs CDDP+GEM)
●EURTAC試験(erlotinib vs CDDP/CBDCA+GEM/DOC, 非アジア人)
●ENSURE試験(erlotinib vs CDDP+GEM)
・これらの臨床試験に参加した患者のうち、Ex.19とEx.21の遺伝子変異を有するもののみを対象に、個別患者データを収集して解析した
・サブグループ解析を行うにあたり、年齢(65歳未満か65歳以上か)、性別(男性か女性か)、人種(アジア人か非アジア人か)、喫煙歴(非喫煙者か喫煙経験者か)、PS(0-1か2か)、組織型(腺癌かそれ以外か)、EGFR遺伝子変異(Ex.19かEx.21か)を検討項目とした
・1,231人の患者が対象となった
・Ex.19変異が682人、Ex.21変異が540人、Ex.19とEx.21両変異掛け持ちが9人だった
・初回治療として、632人(51.3%)がgefitinibまたはerlotinibを使用し、599人(48.7%)が化学療法を行った
・化学療法のコース数上限は3-6コースと規定されていた
・観察期間中央値は35ヶ月だった(四分位は15-32ヶ月)
・1,231人のうち、解析時点までに780人(63.4%)が死亡していた(EGFR阻害薬群:65.4%、化学療法群:61.3%)
・全生存期間はEGFR阻害薬群と化学療法群で有意差がなかった
EGFR阻害薬群:25.8ヶ月、95%信頼区間は23.8-27.5ヶ月
化学療法群:26.0ヶ月、95%信頼区間は23.6-28.9ヶ月
ハザード比1.01、95%信頼区間は0.88-1.17、p=0.84
・EGFR変異タイプ別の解析でも全生存期間に有意差はなかった(とはいえ、EGFR阻害薬群同士では、3ヶ月もの差が見られている)
Ex.19変異
EGFR阻害薬群:27.4ヶ月、95%信頼区間は25.1-29.3ヶ月
化学療法群:25.9ヶ月、95%信頼区間は23.2-29.5ヶ月
ハザード比0.96、95%信頼区間は0.79-1.16、p=0.68
Ex.21変異
EGFR阻害薬群:24.1ヶ月、95%信頼区間は21.6-26.8ヶ月
化学療法群:25.9ヶ月、95%信頼区間は22.5-29.6ヶ月
ハザード比1.06、95%信頼区間は0.86-1.32、p=0.59
・無増悪生存期間の解析は1,227人でしかできず、そのうち1,004人(81.8%)で解析時点までに病勢進行が確認された(EGFR阻害薬群:78.0%、化学療法群:85.7%)
・EGFR阻害薬群では、有意に無増悪生存期間が延長した
EGFR阻害薬群:11.0ヶ月、95%信頼区間は9.9-11.8ヶ月
化学療法群:5.6ヶ月、95%信頼区間は5.4-5.8ヶ月
ハザード比0.37、95%信頼区間は0.32-0.42、p<0.001
・EGFR変異タイプ別の解析では、
Ex.19
ハザード比は0.28、95%信頼区間は0.23-0.34、p<0.001
Ex.21
ハザード比は0.49、95%信頼区間は0.40-0.60、p<0.001
・化学療法に比べると、EGFR阻害薬は42.9%の無増悪生存期間延長効果があった
・病勢進行後、後治療を行ったのは化学療法群のうち377人(73.8%)、EGFR阻害薬群のうち325人(65.9%)だった
・Ex.19群では、化学療法後に病勢進行しEGFR阻害薬による後治療を行ったのは207人(71.1%)、EGFR阻害薬後に病勢進行し化学療法による後治療を行ったのは165人(64.0%)だった
・Ex.21群では、化学療法後に病勢進行しEGFR阻害薬による後治療を行ったのは166人(77.2%)、EGFR阻害薬後に病勢進行し化学療法による後治療を行ったのは157人(67.7%)だった
・後治療をしなかった患者は、EGFR阻害薬群の方が化学療法群より多かった(9.1% vs 0.6%)
・病勢進行後の生存期間は、EGFR阻害薬群の方が化学療法群より短かった
EGFR阻害薬群:生存期間12.8ヶ月、95%信頼区間は11.4-14.3ヶ月
化学療法群:生存期間19.8ヶ月、95%信頼区間は17.6-21.7ヶ月
・病勢進行後、二次治療あるいはそれ以降の治療としてEGFR阻害薬を使用した患者では、それ以外の治療を受けた患者よりも生存期間が長かった
EGFR阻害薬を使用した患者:生存期間21.5ヶ月、95%信頼区間は19.1-24.9ヶ月
化学療法を受けた患者:生存期間15.9ヶ月、95%信頼区間は14.2-17.5ヶ月
無治療経過観察された患者:生存期間4.1ヶ月、95%信頼区間は3.0-5.9ヶ月
その他/詳細不明の治療を受けた患者:生存期間4.9ヶ月、95%信頼区間は3.5-5.8ヶ月
・治療前の段階でPS不良だった患者、臨床病期IV期だった患者は有意に生存期間が短かった
・65歳以上の患者は、多変数解析の結果、病勢進行のリスクが23.0%低いことがわかったが、全生存期間に有意な差はなかった
・EGFR阻害薬による治療は、化学療法に比べて63.0%の病勢進行リスク抑制効果があった
・過去の検討では、EGFR遺伝子変異陽性患者に対するEGFR阻害薬の増悪抑制効果を化学療法と比較すると、それが初回治療であろうが(無増悪生存期間に関するハザード比0.43、95%信頼区間0.38-0.49)、二次治療以降であろうが(無増悪生存期間に関するハザード比0.34、95%信頼区間0.20-0.60)あまり変わりはなかった
→Lee et al., J Natl Cancer Inst 105(9), 595-605, 2013
・gefitinibの臨床導入前と後でEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌患者の治療成績を比較した国立がんセンター中央病院の検討では、全生存期間は導入前が13.6ヶ月、導入後が27.2ヶ月とほぼ倍増していた
→Takano et al., J Clin Oncol 26(34), 5589-5595, 2008
・奇しくも、この27.2ヶ月という期間は、今回の検討で導かれた25.9ヶ月と同等だった
あと半年で、15周年を迎える。
薬剤性間質性肺炎の問題、特定の遺伝子異常が効果予測因子となる、耐性化とその克服戦略など、EGFR阻害薬はいろいろな意味で肺がん診療を大きく回天した。
もうそろそろかな、と思っていたら、EGFR遺伝子変異陽性患者に対するEGFR阻害薬のメタ解析が報告された。
あやふやなままになっていた第I世代EGFR阻害薬単剤治療にまつわる疑問に一定の回答が示されている。
FLAURA試験の結果いかんでは陳腐化してしまう知見かもしれないが、少なくとも現時点では知っておきたい知識である。
EGFR阻害薬と化学療法は(そしておそらくは、手術や放射線治療といった治療手段も)、全てを使い切ってこそ最大限の生存期間延長効果が得られるのだということを、医療者は肝に銘じておく必要がある。
EGFR遺伝子変異が陽性だからといって、一連の治療過程において化学療法を考えなくていい、ということにはならない。
clinical PDとなるまでEGFR阻害薬の治療を引き伸ばすという治療戦略に異を唱えるつもりはないが、RECIST PDを迎えた段階で、化学療法への治療の切り替えのタイミングを測り間違えないようにしたい。
臨床試験で全生存期間の延長が確認されないのは、もはややむを得ない。
むしろ、無増悪生存期間が大きく延長して、全生存期間が延長しないという現象は、適切にクロスオーバーが成された、倫理的に適切なデザインの臨床試験結果として前向きに捉えるべきなのかもしれない。
大切なことは、得られた全生存期間解析結果をヒストリカル・コントロールと比較することである。
第I世代EGFR阻害薬に関して言えば、それまでは薬物療法により約15ヶ月(FACS studyにおけるCDDP+GEM群の生存期間中央値)までしか伸ばせなかった全生存期間が、26-27ヶ月まで伸ばされたという事実が大切なのだ。
新しい薬で無増悪生存期間が大きく延長した場合、仮に臨床試験本体で全生存期間延長が示されなかったとしても、実地臨床における患者の生命予後が改善するのはほぼ間違いない。
近々別項で取り上げようと思っているが、本論文執筆者のLee先生、共著者のTony Mok先生、James Yang先生は連名で、免疫チェックポイント阻害薬とEGFR遺伝子変異陽性患者の関係についても興味深いメタ解析をまとめられている。
Gefitinib or Erlotinib vs Chemotherapy for EGFR Mutation-Positive Lung Caner: Individual Patients Data Meta-Analysis of Overall Survival
Lee CK et al., J Natl Cancer Inst 109(6), 2017
・EGFR遺伝子変異を有する進行・再発非小細胞肺癌患者を対象に、初回治療としてのEGFR阻害薬と化学療法の有効性を比較した全てのランダム化比較試験で、全生存期間は重要な副次評価項目となっている
・統計学的に有意な無増悪生存期間延長が確認されたにもかかわらず、過去のどの試験においても、全生存期間の延長は示されなかった
・無増悪生存期間に差があるにもかかわらず全生存期間に差が出ないというこのパラドックスは、病勢進行後の後治療によるところが大きいとされている
・第2世代のEGFR阻害薬であるafatinibを扱ったLUX-Lung 3試験およびLUX-Lung 6試験では、それぞれ化学療法に対して46%、36%の死亡リスク低減効果が確認された
・一方で、Exon 21 L858R変異を有する患者に限れば、全生存期間の延長効果は示されなかった
・第1世代のEGFR阻害薬において、こうしたEGFR変異タイプ別の効果差があるのかどうかは結論が出ていなかった
・今回のメタ解析では、第1世代のEGFR阻害薬であるgefitnibもしくはerlotinibが化学療法に対して全生存期間の延長効果を示すかどうか検証することを主目的とした
・副次的な評価として、EGFR遺伝子変異タイプやその他の背景因子が、EGFR阻害薬による生存期間延長の予測因子となるかどうかを検証することにした。
・対象とした臨床試験は次の6つ
●IPASS試験(gefitinib vs CBDCA+PTX, EGFR変異陰性例も含む)
●NEJ002試験(gefitinib vs CBDCA+PTX, Ex.19 / 21以外の変異も含む)
●WJTOG3405試験(gefitinib vs CDDP+DOC, 術後再発患者、PS2の患者を含む)
●OPTIMAL試験(erlotinib vs CDDP+GEM)
●EURTAC試験(erlotinib vs CDDP/CBDCA+GEM/DOC, 非アジア人)
●ENSURE試験(erlotinib vs CDDP+GEM)
・これらの臨床試験に参加した患者のうち、Ex.19とEx.21の遺伝子変異を有するもののみを対象に、個別患者データを収集して解析した
・サブグループ解析を行うにあたり、年齢(65歳未満か65歳以上か)、性別(男性か女性か)、人種(アジア人か非アジア人か)、喫煙歴(非喫煙者か喫煙経験者か)、PS(0-1か2か)、組織型(腺癌かそれ以外か)、EGFR遺伝子変異(Ex.19かEx.21か)を検討項目とした
・1,231人の患者が対象となった
・Ex.19変異が682人、Ex.21変異が540人、Ex.19とEx.21両変異掛け持ちが9人だった
・初回治療として、632人(51.3%)がgefitinibまたはerlotinibを使用し、599人(48.7%)が化学療法を行った
・化学療法のコース数上限は3-6コースと規定されていた
・観察期間中央値は35ヶ月だった(四分位は15-32ヶ月)
・1,231人のうち、解析時点までに780人(63.4%)が死亡していた(EGFR阻害薬群:65.4%、化学療法群:61.3%)
・全生存期間はEGFR阻害薬群と化学療法群で有意差がなかった
EGFR阻害薬群:25.8ヶ月、95%信頼区間は23.8-27.5ヶ月
化学療法群:26.0ヶ月、95%信頼区間は23.6-28.9ヶ月
ハザード比1.01、95%信頼区間は0.88-1.17、p=0.84
・EGFR変異タイプ別の解析でも全生存期間に有意差はなかった(とはいえ、EGFR阻害薬群同士では、3ヶ月もの差が見られている)
Ex.19変異
EGFR阻害薬群:27.4ヶ月、95%信頼区間は25.1-29.3ヶ月
化学療法群:25.9ヶ月、95%信頼区間は23.2-29.5ヶ月
ハザード比0.96、95%信頼区間は0.79-1.16、p=0.68
Ex.21変異
EGFR阻害薬群:24.1ヶ月、95%信頼区間は21.6-26.8ヶ月
化学療法群:25.9ヶ月、95%信頼区間は22.5-29.6ヶ月
ハザード比1.06、95%信頼区間は0.86-1.32、p=0.59
・無増悪生存期間の解析は1,227人でしかできず、そのうち1,004人(81.8%)で解析時点までに病勢進行が確認された(EGFR阻害薬群:78.0%、化学療法群:85.7%)
・EGFR阻害薬群では、有意に無増悪生存期間が延長した
EGFR阻害薬群:11.0ヶ月、95%信頼区間は9.9-11.8ヶ月
化学療法群:5.6ヶ月、95%信頼区間は5.4-5.8ヶ月
ハザード比0.37、95%信頼区間は0.32-0.42、p<0.001
・EGFR変異タイプ別の解析では、
Ex.19
ハザード比は0.28、95%信頼区間は0.23-0.34、p<0.001
Ex.21
ハザード比は0.49、95%信頼区間は0.40-0.60、p<0.001
・化学療法に比べると、EGFR阻害薬は42.9%の無増悪生存期間延長効果があった
・病勢進行後、後治療を行ったのは化学療法群のうち377人(73.8%)、EGFR阻害薬群のうち325人(65.9%)だった
・Ex.19群では、化学療法後に病勢進行しEGFR阻害薬による後治療を行ったのは207人(71.1%)、EGFR阻害薬後に病勢進行し化学療法による後治療を行ったのは165人(64.0%)だった
・Ex.21群では、化学療法後に病勢進行しEGFR阻害薬による後治療を行ったのは166人(77.2%)、EGFR阻害薬後に病勢進行し化学療法による後治療を行ったのは157人(67.7%)だった
・後治療をしなかった患者は、EGFR阻害薬群の方が化学療法群より多かった(9.1% vs 0.6%)
・病勢進行後の生存期間は、EGFR阻害薬群の方が化学療法群より短かった
EGFR阻害薬群:生存期間12.8ヶ月、95%信頼区間は11.4-14.3ヶ月
化学療法群:生存期間19.8ヶ月、95%信頼区間は17.6-21.7ヶ月
・病勢進行後、二次治療あるいはそれ以降の治療としてEGFR阻害薬を使用した患者では、それ以外の治療を受けた患者よりも生存期間が長かった
EGFR阻害薬を使用した患者:生存期間21.5ヶ月、95%信頼区間は19.1-24.9ヶ月
化学療法を受けた患者:生存期間15.9ヶ月、95%信頼区間は14.2-17.5ヶ月
無治療経過観察された患者:生存期間4.1ヶ月、95%信頼区間は3.0-5.9ヶ月
その他/詳細不明の治療を受けた患者:生存期間4.9ヶ月、95%信頼区間は3.5-5.8ヶ月
・治療前の段階でPS不良だった患者、臨床病期IV期だった患者は有意に生存期間が短かった
・65歳以上の患者は、多変数解析の結果、病勢進行のリスクが23.0%低いことがわかったが、全生存期間に有意な差はなかった
・EGFR阻害薬による治療は、化学療法に比べて63.0%の病勢進行リスク抑制効果があった
・過去の検討では、EGFR遺伝子変異陽性患者に対するEGFR阻害薬の増悪抑制効果を化学療法と比較すると、それが初回治療であろうが(無増悪生存期間に関するハザード比0.43、95%信頼区間0.38-0.49)、二次治療以降であろうが(無増悪生存期間に関するハザード比0.34、95%信頼区間0.20-0.60)あまり変わりはなかった
→Lee et al., J Natl Cancer Inst 105(9), 595-605, 2013
・gefitinibの臨床導入前と後でEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌患者の治療成績を比較した国立がんセンター中央病院の検討では、全生存期間は導入前が13.6ヶ月、導入後が27.2ヶ月とほぼ倍増していた
→Takano et al., J Clin Oncol 26(34), 5589-5595, 2008
・奇しくも、この27.2ヶ月という期間は、今回の検討で導かれた25.9ヶ月と同等だった
2017年02月18日
2016
2016年の年頭に、この1年は肺がん診療にとっては大きな転換点となるだろう、と記した気がする。
はたしてその通りになった。
TNM分類が改訂されたとか、肺癌取り扱い規約が改訂されたとか、そういったやや本質から離れた話題はこの際、措く。
今日、米国臨床腫瘍学会から届いた"2017 Clinical Cancer Advances - ASCO's 12th annual report on progress against cancer"がとても参考になったので、肺がんに関連した話題を書き残す。
治療上の進歩はさることながら、再生検、リキッドバイオプシー、PD-L1検索といった、診断過程に関わる話題が多く、明らかに例年と異なる。
診断作業だけをして肺がん薬物療法に関わらない一部の呼吸器内科医も、診断作業はしないけれど肺がん薬物療法には携わる一部の腫瘍内科医も、この肺がん診療過程の変革のうねりを敏感に捉えて協力し、実地診療に落とし込んでほしい。
少なくともこれらの検査は、全くのタイムラグなく、いま行える。
治療内容に直結するものばかりであり、遅滞は許されない。
それから、米国臨床腫瘍学会のこうした年次報告書に、我が国のJ-ALEX studyが一定の紙面をさいて取り上げられたことは、素直に嬉しかった。
1)がんの統計
・WHOは、世界中で新規にがんと診断される患者の数は、2012年の1400万人から、20年後には2200万人まで増えるだろうと試算している
・同じ期間に、がんに関連した死亡者数は70%増加するだろうとも試算している
・がん患者の5年生存割合は、1970年代は成人で50%、小児で62%だったが、今日では成人で68%、小児で81%まで向上した
2)IMMUNOTHERAPY 2.0
・米国臨床腫瘍学会は、免疫療法の領域におけるこの1年の目覚しい進展に対し、"Immunotherapy 2.0"と名付けた。
3)進行肺がんとPD-1/PD-L1阻害薬
・2012年には、全世界で180万人が新たに肺がんと診断された
・毎年、全世界で160万人が肺がんにより死亡しており、言い換えれば毎分3人が死亡していることになる
・肺がんの85%は非小細胞肺がんである
・標準化学療法による生存期間中央値は10ヶ月である
・PD-L1陽性の既治療進行非小細胞肺癌患者に対するPembrolizumabとDocetaxelの比較試験で、全生存期間はP群で10.4ヶ月、D群で8.5ヶ月だった
・PD-L1陽性細胞が50%以上の患者に限ると、P群で14.9ヶ月、D群で8.2ヶ月だった
・高度の有害事象は、P群の16%、D群の35%に見られた
・この結果により、Pembrolizumabの有効性もさることながら、PD-L1による治療効果予測についての議論に火がついた
→KEYNOTE-010, Herbst et al.,Lancet 387, 1540-1550, 2016
・PD-L1陽性細胞が50%以上の患者に限れば、未治療進行非小細胞肺癌患者であっても、Pembrolizumabがプラチナ併用化学療法を凌駕することが明らかになった
→KEYNOTE-024, Reck et al.,N Engl J Med 375, 1823-1833, 2016
・一方、Nivolumabは未治療進行非小細胞肺癌患者におけるプラチナ併用化学療法を凌駕できなかった
→CheckMate-026, Socinski et al., ESMO 2016, abst,#LBA7-PR
・もはや、進行非小細胞肺癌患者に対するPD-L1発現検索はルーチン検査である
・PD-L1高発現の患者では、化学療法よりも免疫療法の方がいい
・AtezorizumabはPD-L1阻害薬だが、既治療進行非小細胞肺癌患者を対象とした異なる2つの大規模臨床試験で、Docetaxelに対して全生存期間を延長することが明らかになった(12.6-13.8ヶ月 vs 9.6-9.7ヶ月)
→OAK trial, Rittmeyer et al., Lancet 389, 255-265, 2017
4)2015年11月から2016年10月までに米国食品医薬品局が新規承認あるいは適応追加した肺がんのおくすり・検査法
・Osimertinib(2015年11月)
EGFR T790M変異陽性の進行非小細胞肺癌に対して
・Necitumumab(2015年11月)
未治療進行肺扁平上皮癌に対して、シスプラチン+ジェムシタビン療法と併用で
・Alectinib(2015年12月)
Crizotinibによる治療後に病勢進行もしくは毒性中止に至ったALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対して
・Crizotinib(2016年3月)
ROS1融合遺伝子陽性の進行非小細胞肺癌に対して
・cobas法によるリキッド・バイオプシー(2016年6月)
進行非小細胞肺癌におけるEGFR Exon 19もしくはExon 21遺伝子変異を検出し、Erlotinibを使用する目的で
・Atezorizumab(2016年10月)
プラチナ併用化学療法後に病勢進行に至った既治療進行非小細胞肺癌に対して
5)ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がんとAlectinib
・ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がんは、全体の3-7%
・ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対して、米国食品医薬品局がCrizotinibを承認したのが2011年
・Crizotinib耐性化後の治療が課題だった
・Alectinibに関する初期の臨床試験では、全体の48%で腫瘍縮小効果が得られ、奏効持続期間は13.5ヶ月だった
・脳転移を有する患者の実に75%で、Alectinib投与により脳転移巣が縮小した
・ALK融合遺伝子陽性の未治療進行非小細胞肺癌患者を対象に、AlectinibとCrizotinibの治療効果を比較したJ-ALEX試験において、A群では92%、C群では79%の奏効割合を示し、Alectinibは66%の増悪リスク抑制効果を示した
→J-ALEX Study, Nokihara et al., J Clin Oncol 34, 2016(suppl; ASCO 2016 Abst #9008)
6)Looking to the Future・・・LIQUID BIOPSY
・これまでは、血液から腫瘍の情報を得るにあたって、腫瘍マーカーがよく用いられてきた
・この15年、循環血中腫瘍細胞(circulating tumor cells)に関する報告がしばしばあった
・最近では、循環血中腫瘍DNA(cell-free tumor DNA, ctDNA)がよく取り沙汰される
・ctDNAを使って腫瘍の解析をすることをliquid biopsyという
・liquid biopsyにより簡便に全身の腫瘍量、腫瘍の遺伝子型、表現型を経時的に把握することができる
・通常の組織生検では、生検をした部位の腫瘍情報しか得られない
・腫瘍の時間的・空間的多様性を考えると、ある時点で、ある部位から行った生検により得た腫瘍情報が、その患者全身の腫瘍情報を反映しているとは限らない
・liquid biopsyにより、患者全体の腫瘍情報を捉えることができるかもしれない
・しかし、これまでのところは、通常生検で得られた遺伝子異常がliquid biopsyで検出できなかった事例もしばしば報告されている
・liquid biopsyは、既にEGFR遺伝子変異、EGFR T790M耐性変異の検出法として実用化されている
・cobas法以外にも、BEAMing法やdigital PCRといった高感度検出法も開発されている
・EGFR以外に、BRAF、KRAS、ALK、RET、ROS1変異も94-100%の検出力で検出することができる
7)その他
・BRAF V600E変異陽性非小細胞肺がんに対するDabrafenib+Trametinibの第II相試験
→Planchard et al., Lancet Oncol 17, 642-650, 2016
・再燃小細胞肺がんとRovalpituzumab tesrine(Rova-T)
→Rudin et al., ASCO 2016, abst #LBA8505
・MET exon 14 skipping mutation陽性進行非小細胞肺がんとCrizotinib
→Drilon et al., ASCO 2016, abst #108
→Shea et al., J Thorac Oncol 11, e81-82, 2016
・転移巣の少ない進行非小細胞肺癌に対する局所制御療法と薬物療法の併用に関する第II相試験
→Gomez et al., ASCO 2016 abst #9004
・外科治療や定位脳照射の適応がない脳転移を有する進行非小細胞肺がん患者に対する全脳照射をするかしないかの第III相比較試験(QUARTZ試験)
→Mulvenna et al., Lancet 388, 2004-2014, 2016
はたしてその通りになった。
TNM分類が改訂されたとか、肺癌取り扱い規約が改訂されたとか、そういったやや本質から離れた話題はこの際、措く。
今日、米国臨床腫瘍学会から届いた"2017 Clinical Cancer Advances - ASCO's 12th annual report on progress against cancer"がとても参考になったので、肺がんに関連した話題を書き残す。
治療上の進歩はさることながら、再生検、リキッドバイオプシー、PD-L1検索といった、診断過程に関わる話題が多く、明らかに例年と異なる。
診断作業だけをして肺がん薬物療法に関わらない一部の呼吸器内科医も、診断作業はしないけれど肺がん薬物療法には携わる一部の腫瘍内科医も、この肺がん診療過程の変革のうねりを敏感に捉えて協力し、実地診療に落とし込んでほしい。
少なくともこれらの検査は、全くのタイムラグなく、いま行える。
治療内容に直結するものばかりであり、遅滞は許されない。
それから、米国臨床腫瘍学会のこうした年次報告書に、我が国のJ-ALEX studyが一定の紙面をさいて取り上げられたことは、素直に嬉しかった。
1)がんの統計
・WHOは、世界中で新規にがんと診断される患者の数は、2012年の1400万人から、20年後には2200万人まで増えるだろうと試算している
・同じ期間に、がんに関連した死亡者数は70%増加するだろうとも試算している
・がん患者の5年生存割合は、1970年代は成人で50%、小児で62%だったが、今日では成人で68%、小児で81%まで向上した
2)IMMUNOTHERAPY 2.0
・米国臨床腫瘍学会は、免疫療法の領域におけるこの1年の目覚しい進展に対し、"Immunotherapy 2.0"と名付けた。
3)進行肺がんとPD-1/PD-L1阻害薬
・2012年には、全世界で180万人が新たに肺がんと診断された
・毎年、全世界で160万人が肺がんにより死亡しており、言い換えれば毎分3人が死亡していることになる
・肺がんの85%は非小細胞肺がんである
・標準化学療法による生存期間中央値は10ヶ月である
・PD-L1陽性の既治療進行非小細胞肺癌患者に対するPembrolizumabとDocetaxelの比較試験で、全生存期間はP群で10.4ヶ月、D群で8.5ヶ月だった
・PD-L1陽性細胞が50%以上の患者に限ると、P群で14.9ヶ月、D群で8.2ヶ月だった
・高度の有害事象は、P群の16%、D群の35%に見られた
・この結果により、Pembrolizumabの有効性もさることながら、PD-L1による治療効果予測についての議論に火がついた
→KEYNOTE-010, Herbst et al.,Lancet 387, 1540-1550, 2016
・PD-L1陽性細胞が50%以上の患者に限れば、未治療進行非小細胞肺癌患者であっても、Pembrolizumabがプラチナ併用化学療法を凌駕することが明らかになった
→KEYNOTE-024, Reck et al.,N Engl J Med 375, 1823-1833, 2016
・一方、Nivolumabは未治療進行非小細胞肺癌患者におけるプラチナ併用化学療法を凌駕できなかった
→CheckMate-026, Socinski et al., ESMO 2016, abst,#LBA7-PR
・もはや、進行非小細胞肺癌患者に対するPD-L1発現検索はルーチン検査である
・PD-L1高発現の患者では、化学療法よりも免疫療法の方がいい
・AtezorizumabはPD-L1阻害薬だが、既治療進行非小細胞肺癌患者を対象とした異なる2つの大規模臨床試験で、Docetaxelに対して全生存期間を延長することが明らかになった(12.6-13.8ヶ月 vs 9.6-9.7ヶ月)
→OAK trial, Rittmeyer et al., Lancet 389, 255-265, 2017
4)2015年11月から2016年10月までに米国食品医薬品局が新規承認あるいは適応追加した肺がんのおくすり・検査法
・Osimertinib(2015年11月)
EGFR T790M変異陽性の進行非小細胞肺癌に対して
・Necitumumab(2015年11月)
未治療進行肺扁平上皮癌に対して、シスプラチン+ジェムシタビン療法と併用で
・Alectinib(2015年12月)
Crizotinibによる治療後に病勢進行もしくは毒性中止に至ったALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対して
・Crizotinib(2016年3月)
ROS1融合遺伝子陽性の進行非小細胞肺癌に対して
・cobas法によるリキッド・バイオプシー(2016年6月)
進行非小細胞肺癌におけるEGFR Exon 19もしくはExon 21遺伝子変異を検出し、Erlotinibを使用する目的で
・Atezorizumab(2016年10月)
プラチナ併用化学療法後に病勢進行に至った既治療進行非小細胞肺癌に対して
5)ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がんとAlectinib
・ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がんは、全体の3-7%
・ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対して、米国食品医薬品局がCrizotinibを承認したのが2011年
・Crizotinib耐性化後の治療が課題だった
・Alectinibに関する初期の臨床試験では、全体の48%で腫瘍縮小効果が得られ、奏効持続期間は13.5ヶ月だった
・脳転移を有する患者の実に75%で、Alectinib投与により脳転移巣が縮小した
・ALK融合遺伝子陽性の未治療進行非小細胞肺癌患者を対象に、AlectinibとCrizotinibの治療効果を比較したJ-ALEX試験において、A群では92%、C群では79%の奏効割合を示し、Alectinibは66%の増悪リスク抑制効果を示した
→J-ALEX Study, Nokihara et al., J Clin Oncol 34, 2016(suppl; ASCO 2016 Abst #9008)
6)Looking to the Future・・・LIQUID BIOPSY
・これまでは、血液から腫瘍の情報を得るにあたって、腫瘍マーカーがよく用いられてきた
・この15年、循環血中腫瘍細胞(circulating tumor cells)に関する報告がしばしばあった
・最近では、循環血中腫瘍DNA(cell-free tumor DNA, ctDNA)がよく取り沙汰される
・ctDNAを使って腫瘍の解析をすることをliquid biopsyという
・liquid biopsyにより簡便に全身の腫瘍量、腫瘍の遺伝子型、表現型を経時的に把握することができる
・通常の組織生検では、生検をした部位の腫瘍情報しか得られない
・腫瘍の時間的・空間的多様性を考えると、ある時点で、ある部位から行った生検により得た腫瘍情報が、その患者全身の腫瘍情報を反映しているとは限らない
・liquid biopsyにより、患者全体の腫瘍情報を捉えることができるかもしれない
・しかし、これまでのところは、通常生検で得られた遺伝子異常がliquid biopsyで検出できなかった事例もしばしば報告されている
・liquid biopsyは、既にEGFR遺伝子変異、EGFR T790M耐性変異の検出法として実用化されている
・cobas法以外にも、BEAMing法やdigital PCRといった高感度検出法も開発されている
・EGFR以外に、BRAF、KRAS、ALK、RET、ROS1変異も94-100%の検出力で検出することができる
7)その他
・BRAF V600E変異陽性非小細胞肺がんに対するDabrafenib+Trametinibの第II相試験
→Planchard et al., Lancet Oncol 17, 642-650, 2016
・再燃小細胞肺がんとRovalpituzumab tesrine(Rova-T)
→Rudin et al., ASCO 2016, abst #LBA8505
・MET exon 14 skipping mutation陽性進行非小細胞肺がんとCrizotinib
→Drilon et al., ASCO 2016, abst #108
→Shea et al., J Thorac Oncol 11, e81-82, 2016
・転移巣の少ない進行非小細胞肺癌に対する局所制御療法と薬物療法の併用に関する第II相試験
→Gomez et al., ASCO 2016 abst #9004
・外科治療や定位脳照射の適応がない脳転移を有する進行非小細胞肺がん患者に対する全脳照射をするかしないかの第III相比較試験(QUARTZ試験)
→Mulvenna et al., Lancet 388, 2004-2014, 2016
2017年02月17日
早速PD-L1検査
患者さんの情報収集能力というのは本当に恐るべきもので、キートルーダやPD-L1抗体検査が使用可能になったばかりの2017年2月15日、早速患者さんから問い合わせが来た。
「うそでしょ!」
という感じ。
もっとも、患者さんやご家族にとってみれば、
「いつやるの?・・・今でしょ!」
ということなのだろう。
PD-L1が陽性なのかどうか、キートルーダが使えるのかどうか、早く調べて欲しいという。
相談を受けて動き出したのが夕方だったので、検査会社への問い合わせが間に合わなかった。
2月16日の朝っぱらから電話で問い合わせたところ、
・2月15日から検査受託を開始した
・キートルーダの適応判定のための22C3抗体、オプジーボの効果予測のための28-8抗体の両方が使用可能
・それぞれの抗体を用いた検査に、各25000円の実費がかかるが、健康保険が利用できる
・技術的には両方を同時に調べることも可能だが、両方同時に調べたときに保険請求ができるのかどうかは現時点で定かではない
・組織ブロックか薄切標本を送ってもらえれば調べる
との回答だった。
患者さんのご家族に問い合わせたところ、即答で両方の抗体について調べて欲しいとのことだった。
網羅的に解析してもドライバー遺伝子変異が一切見つからなかったので、患者さん・ご家族も私も必死である。
ソッコーで検査提出した。
もしかしたら、大分県下で一番乗りの提出だったかもしれない。
今後は、進行期非小細胞肺癌の患者では、PD-L1発現状態の確認は必須となるだろう。
もはや、GS越しのちっちゃな組織では全く対応できない。
策を講じる必要がある。
「うそでしょ!」
という感じ。
もっとも、患者さんやご家族にとってみれば、
「いつやるの?・・・今でしょ!」
ということなのだろう。
PD-L1が陽性なのかどうか、キートルーダが使えるのかどうか、早く調べて欲しいという。
相談を受けて動き出したのが夕方だったので、検査会社への問い合わせが間に合わなかった。
2月16日の朝っぱらから電話で問い合わせたところ、
・2月15日から検査受託を開始した
・キートルーダの適応判定のための22C3抗体、オプジーボの効果予測のための28-8抗体の両方が使用可能
・それぞれの抗体を用いた検査に、各25000円の実費がかかるが、健康保険が利用できる
・技術的には両方を同時に調べることも可能だが、両方同時に調べたときに保険請求ができるのかどうかは現時点で定かではない
・組織ブロックか薄切標本を送ってもらえれば調べる
との回答だった。
患者さんのご家族に問い合わせたところ、即答で両方の抗体について調べて欲しいとのことだった。
網羅的に解析してもドライバー遺伝子変異が一切見つからなかったので、患者さん・ご家族も私も必死である。
ソッコーで検査提出した。
もしかしたら、大分県下で一番乗りの提出だったかもしれない。
今後は、進行期非小細胞肺癌の患者では、PD-L1発現状態の確認は必須となるだろう。
もはや、GS越しのちっちゃな組織では全く対応できない。
策を講じる必要がある。
2017年02月16日
あっぱれ、IUNO試験
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の話題が目白押しで、化学療法の話題にはすっかり地味な領域になってしまった。
しかし、少なくとも初回治療においては、EGFR-TKIの対象となるのが腺癌の30%=非小細胞肺癌の15%、ALK-TKIの対象となるのが腺癌の5%=非小細胞肺癌の3%、Pembrolizumabの対象となるのが非小細胞肺癌の残り82%の患者のうち25%=非小細胞肺癌の20%とすると、残る62%の患者では依然として化学療法が初回標準治療である。
他にもROS1、RET、METexon14skippingなどの遺伝子異常も分子標的薬の対象となるものがあるが、実数としては知れている。
したがって、依然として進行非小細胞肺がん患者の主要な初回治療は化学療法であることは揺るぎない。
ペメトレキセドやベバシツマブの維持療法は、すっかり標準治療として定着した。
しかし、ペメトレキセド維持治療の有効性を検証したPARAMOUNT試験では、シスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法で病勢進行が認められなかった、いわばペメトレキセドの有効性が実証された患者に絞り込んで、ペメトレキセド維持療法群とプラセボ群を比較し、さらにはプラセボ群が病勢進行に至った後もそのほとんどの患者が(有効性が期待できる)ペメトレキセドを使用できなかった、という、試験デザイン上も、倫理的にもやや問題のある、後味の悪い成り行きの中で、維持療法群の優越性が証明された。
また、ベバシツマブ維持療法の有効性はECOG4599試験で検証されたが、これはそもそもカルボプラチン+パクリタキセル+ベバシツマブ併用療法群で病勢進行が認められなかった患者ではベバシツマブを維持療法として継続する、という治療がもともと規定されており、標準治療のカルボプラチン+パクリタキセル群に対する優越性を証明したが、そもそもベバシツマブの維持療法というコンセプト自体が必要なものなのか、という疑問には答えられない。
ペメトレキセドにせよ、ベバシツマブにせよ、維持療法というコンセプト自体の有効性を証明するためには、それぞれの薬を維持治療として使う群、病勢進行後の二次治療として使う群の比較をする必要がある。
ペメトレキセドならこうした試験デザインは成り立つだろうが、おそらくベバシツマブでは無理だろう。
どちらも高額な薬であり、効果が同じならば維持治療として使うよりも病勢進行後の二次治療として使用した方がコスト低減に役立ちそうな気がする。
企業治験としては成り立たないが、世間の趨勢を考えたときに、国家予算を使ってでも検証してよい内容のように思う。
海外のe-ラーニングで勉強していると、最近はドライバー遺伝子変異もPD-L1発現もない非小細胞肺癌を、"pan-negative NSCLC"と呼んでいるようだ。
エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2のいずれも陰性の乳腺腫瘍を"triple-negative breast cancer"と称するが、それを髣髴とさせる。
その"pan-negative NSCLC"のe-ラーニングの中に、一旦はSATURN試験で有効性が証明された、EGFR遺伝子変異陰性非小細胞肺癌に対するエルロチニブ維持療法を再検証し、完膚なきまでに結果を覆したIUNO試験が取り上げられていた。
switch-maintenance therapyなのでペメトレキセド維持療法、ベバシツマブ維持療法と同列に扱うことは出来ないが、このコンセプトの臨床試験がエルロチニブ販売元であるRoche社の資金援助の下に行われたことも、この結果を以って実地臨床でのエルロチニブ維持療法が否定されたことも、東欧や中国・タイを中心に本試験が遂行され、その結果が米国の実地臨床に活かされたことも、驚きである。
あっぱれ、IUNO試験。
手放しで賞賛したい。
同じようなコンセプトで、ペメトレキセドやベバシツマブ、免疫チェックポイント阻害薬の維持療法の是非についても検証して欲しい。
Maintenance erlotinib versus erlotinib at disease progression in patients with advanced non-small-cell lung cancer who have not progressed following platinum-based chemotherapy ( IUNO study )
Cicenas et al., Lung Cancer 102, 30-37, 2016
・エルロチニブはEGFR遺伝子変異陽性の局所進行・進行非小細胞肺癌に対する初回治療として、あるいは少なくとも1レジメンの化学療法後に病勢進行した局所進行・進行非小細胞肺癌の治療として認められている
・EUでは、EGFR遺伝子変異陽性の局所進行・進行非小細胞肺癌の初回化学療法後に病勢が安定している患者に対する維持治療としてもエルロチニブの使用が認められている
・局所進行・進行非小細胞肺癌に対するエルロチニブの維持療法は、ランダム化多施設共同第III相比較試験であるSATURN試験の結果に基づいて承認されていた
Cappuzzo et al., Lancet Oncol 11, 521-529, 2011
・SATURN試験では、EGFR遺伝子変異の有無を問わず、局所進行・進行非小細胞肺癌の患者を対象に、初回治療としてプラチナ併用化学療法を4コース行い、病勢進行や毒性による治療中止がなかった患者を対象にエルロチニブの維持療法を行った
・エルロチニブ維持療法群は、プラセボ群に対して無増悪生存期間を有意に延長した(ハザード比0.71、95%信頼区間0.62-0.82、p<0.0001)
・今回のIUNO試験は、ランダム化・二重盲検・多施設共同・プラセボコントロール・第III相比較試験として、薬事承認後委託研究の位置づけで企画された
・EGFR遺伝子変異のない局所進行・進行非小細胞肺癌患者で、初回治療としてプラチナ併用化学療法を4コース行い、治療中に病勢進行に至らなかった患者を対象として、病勢進行に至るまでにエルロチニブの維持療法を行う“early maintenance erlotinib therapy”群と、初回化学療法後は病勢進行に至るまで無治療経過観察し、病勢進行に至ってからエルロチニブの二次治療を行う”late second-line erlotinib therapy”群を比較し、前者の優越性を検証した
・対象者は18歳以上、PS 0-1、EGFR遺伝子変異陰性の局所進行・進行非小細胞肺癌患者で、4コースのプラチナ併用化学療法を完遂し、最終コース施行28日後までに病勢進行に至っていないものとした
・”early”群の生存期間中央値を12.5ヶ月、”late”群の生存期間中央値を9.6ヶ月、”early”群の予後改善効果を30%と見込み、検出力80%、有意水準5%の両側検定の前提で症例数設定を行った
・総患者数610人(各群305人)、最終解析に必要なイベント数を460と設定した
・主要評価項目は全生存期間、副次評価項目は無増悪生存期間、奏効割合、病勢コントロール割合とした
・2011年9月6日から2014年6月10日までに、1,629人の患者がスクリーニングを受けた
・643人の患者が無作為割付され、322人が”early”群に、321人が”late”群に割り付けられた
・スクリーニングの時点で除外された患者の除外理由としては、4コースの化学療法を完遂できなかった(29.7%)、化学療法中に死亡した(12.7%)、EGFR遺伝子変異陽性が判明した(13.0%)があがった
・”early”群のうち18人(5.6%)、”late”群のうち23人(7.2%)でEGFR遺伝子変異の状態が不明のままだった
・”early”群ではエルロチニブ維持療法後に病勢進行したのち、160人(50%)で二次治療を行った
・”late”群ではプラセボでの治療後に病勢進行した後、250人(78%)がエルロチニブによる二次治療を受けた
・”early”群のうち、三次治療以降も行ったのは84人(26.1%)だった
・”late”群のうち、三次治療以降も行ったのは85人(26.5%)だった
・”early”群、”late”群の生存期間中央値はそれぞれ9.7ヶ月、9.5ヶ月で、ハザード比は1.02、95%信頼区間は0.85-1.22、p=0.82で、有意差はなかった
・”early”群、”late”群の無増悪生存期間中央値はそれぞれ13.0週、12.0週で、ハザード比は0.94、95%信頼区間は0.80-1.11、p=0.48で、有意差はなかった
・全生存期間、無増悪生存期間ともに、サブグループ解析を行っても有意差はなかった
・IUNO試験では、”late”群≒プラセボ群の78%でエルロチニブが使用されている一方で、SATURN試験ではプラセボ群の21%しかエルロチニブを使用されていない
・IUNO試験では、”early”群の50%しか二次治療をしていない一方で、”late”群では78%が二次治療をしたが、前者では二次治療が実地臨床で医療費が患者負担になる一方、後者ではエルロチニブがスポンサー企業から無償で提供されたことが関係しているかもしれない
しかし、少なくとも初回治療においては、EGFR-TKIの対象となるのが腺癌の30%=非小細胞肺癌の15%、ALK-TKIの対象となるのが腺癌の5%=非小細胞肺癌の3%、Pembrolizumabの対象となるのが非小細胞肺癌の残り82%の患者のうち25%=非小細胞肺癌の20%とすると、残る62%の患者では依然として化学療法が初回標準治療である。
他にもROS1、RET、METexon14skippingなどの遺伝子異常も分子標的薬の対象となるものがあるが、実数としては知れている。
したがって、依然として進行非小細胞肺がん患者の主要な初回治療は化学療法であることは揺るぎない。
ペメトレキセドやベバシツマブの維持療法は、すっかり標準治療として定着した。
しかし、ペメトレキセド維持治療の有効性を検証したPARAMOUNT試験では、シスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法で病勢進行が認められなかった、いわばペメトレキセドの有効性が実証された患者に絞り込んで、ペメトレキセド維持療法群とプラセボ群を比較し、さらにはプラセボ群が病勢進行に至った後もそのほとんどの患者が(有効性が期待できる)ペメトレキセドを使用できなかった、という、試験デザイン上も、倫理的にもやや問題のある、後味の悪い成り行きの中で、維持療法群の優越性が証明された。
また、ベバシツマブ維持療法の有効性はECOG4599試験で検証されたが、これはそもそもカルボプラチン+パクリタキセル+ベバシツマブ併用療法群で病勢進行が認められなかった患者ではベバシツマブを維持療法として継続する、という治療がもともと規定されており、標準治療のカルボプラチン+パクリタキセル群に対する優越性を証明したが、そもそもベバシツマブの維持療法というコンセプト自体が必要なものなのか、という疑問には答えられない。
ペメトレキセドにせよ、ベバシツマブにせよ、維持療法というコンセプト自体の有効性を証明するためには、それぞれの薬を維持治療として使う群、病勢進行後の二次治療として使う群の比較をする必要がある。
ペメトレキセドならこうした試験デザインは成り立つだろうが、おそらくベバシツマブでは無理だろう。
どちらも高額な薬であり、効果が同じならば維持治療として使うよりも病勢進行後の二次治療として使用した方がコスト低減に役立ちそうな気がする。
企業治験としては成り立たないが、世間の趨勢を考えたときに、国家予算を使ってでも検証してよい内容のように思う。
海外のe-ラーニングで勉強していると、最近はドライバー遺伝子変異もPD-L1発現もない非小細胞肺癌を、"pan-negative NSCLC"と呼んでいるようだ。
エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2のいずれも陰性の乳腺腫瘍を"triple-negative breast cancer"と称するが、それを髣髴とさせる。
その"pan-negative NSCLC"のe-ラーニングの中に、一旦はSATURN試験で有効性が証明された、EGFR遺伝子変異陰性非小細胞肺癌に対するエルロチニブ維持療法を再検証し、完膚なきまでに結果を覆したIUNO試験が取り上げられていた。
switch-maintenance therapyなのでペメトレキセド維持療法、ベバシツマブ維持療法と同列に扱うことは出来ないが、このコンセプトの臨床試験がエルロチニブ販売元であるRoche社の資金援助の下に行われたことも、この結果を以って実地臨床でのエルロチニブ維持療法が否定されたことも、東欧や中国・タイを中心に本試験が遂行され、その結果が米国の実地臨床に活かされたことも、驚きである。
あっぱれ、IUNO試験。
手放しで賞賛したい。
同じようなコンセプトで、ペメトレキセドやベバシツマブ、免疫チェックポイント阻害薬の維持療法の是非についても検証して欲しい。
Maintenance erlotinib versus erlotinib at disease progression in patients with advanced non-small-cell lung cancer who have not progressed following platinum-based chemotherapy ( IUNO study )
Cicenas et al., Lung Cancer 102, 30-37, 2016
・エルロチニブはEGFR遺伝子変異陽性の局所進行・進行非小細胞肺癌に対する初回治療として、あるいは少なくとも1レジメンの化学療法後に病勢進行した局所進行・進行非小細胞肺癌の治療として認められている
・EUでは、EGFR遺伝子変異陽性の局所進行・進行非小細胞肺癌の初回化学療法後に病勢が安定している患者に対する維持治療としてもエルロチニブの使用が認められている
・局所進行・進行非小細胞肺癌に対するエルロチニブの維持療法は、ランダム化多施設共同第III相比較試験であるSATURN試験の結果に基づいて承認されていた
Cappuzzo et al., Lancet Oncol 11, 521-529, 2011
・SATURN試験では、EGFR遺伝子変異の有無を問わず、局所進行・進行非小細胞肺癌の患者を対象に、初回治療としてプラチナ併用化学療法を4コース行い、病勢進行や毒性による治療中止がなかった患者を対象にエルロチニブの維持療法を行った
・エルロチニブ維持療法群は、プラセボ群に対して無増悪生存期間を有意に延長した(ハザード比0.71、95%信頼区間0.62-0.82、p<0.0001)
・今回のIUNO試験は、ランダム化・二重盲検・多施設共同・プラセボコントロール・第III相比較試験として、薬事承認後委託研究の位置づけで企画された
・EGFR遺伝子変異のない局所進行・進行非小細胞肺癌患者で、初回治療としてプラチナ併用化学療法を4コース行い、治療中に病勢進行に至らなかった患者を対象として、病勢進行に至るまでにエルロチニブの維持療法を行う“early maintenance erlotinib therapy”群と、初回化学療法後は病勢進行に至るまで無治療経過観察し、病勢進行に至ってからエルロチニブの二次治療を行う”late second-line erlotinib therapy”群を比較し、前者の優越性を検証した
・対象者は18歳以上、PS 0-1、EGFR遺伝子変異陰性の局所進行・進行非小細胞肺癌患者で、4コースのプラチナ併用化学療法を完遂し、最終コース施行28日後までに病勢進行に至っていないものとした
・”early”群の生存期間中央値を12.5ヶ月、”late”群の生存期間中央値を9.6ヶ月、”early”群の予後改善効果を30%と見込み、検出力80%、有意水準5%の両側検定の前提で症例数設定を行った
・総患者数610人(各群305人)、最終解析に必要なイベント数を460と設定した
・主要評価項目は全生存期間、副次評価項目は無増悪生存期間、奏効割合、病勢コントロール割合とした
・2011年9月6日から2014年6月10日までに、1,629人の患者がスクリーニングを受けた
・643人の患者が無作為割付され、322人が”early”群に、321人が”late”群に割り付けられた
・スクリーニングの時点で除外された患者の除外理由としては、4コースの化学療法を完遂できなかった(29.7%)、化学療法中に死亡した(12.7%)、EGFR遺伝子変異陽性が判明した(13.0%)があがった
・”early”群のうち18人(5.6%)、”late”群のうち23人(7.2%)でEGFR遺伝子変異の状態が不明のままだった
・”early”群ではエルロチニブ維持療法後に病勢進行したのち、160人(50%)で二次治療を行った
・”late”群ではプラセボでの治療後に病勢進行した後、250人(78%)がエルロチニブによる二次治療を受けた
・”early”群のうち、三次治療以降も行ったのは84人(26.1%)だった
・”late”群のうち、三次治療以降も行ったのは85人(26.5%)だった
・”early”群、”late”群の生存期間中央値はそれぞれ9.7ヶ月、9.5ヶ月で、ハザード比は1.02、95%信頼区間は0.85-1.22、p=0.82で、有意差はなかった
・”early”群、”late”群の無増悪生存期間中央値はそれぞれ13.0週、12.0週で、ハザード比は0.94、95%信頼区間は0.80-1.11、p=0.48で、有意差はなかった
・全生存期間、無増悪生存期間ともに、サブグループ解析を行っても有意差はなかった
・IUNO試験では、”late”群≒プラセボ群の78%でエルロチニブが使用されている一方で、SATURN試験ではプラセボ群の21%しかエルロチニブを使用されていない
・IUNO試験では、”early”群の50%しか二次治療をしていない一方で、”late”群では78%が二次治療をしたが、前者では二次治療が実地臨床で医療費が患者負担になる一方、後者ではエルロチニブがスポンサー企業から無償で提供されたことが関係しているかもしれない
2017年02月15日
日本肺癌学会のアンケート調査
日本肺癌学会から、2017年2月13日付で以下のようなアンケートが来た。
アンケートに答えながら、設問を見て、本ブログを続けるべきかやめるべきか真剣に悩んでいる。
本ブログは広告目的はなく、(私見は織り込んでいるかもしれないが)故意にゆがめた情報もない。
しかし、後から見直して不正確だった(記録を残したのちに見解が覆された)内容はないかと言われれば、否定できない。
講演会やセミナーの内容は、例え公的な学会で報告されたものでも演者の私見などの不確定要素が含まれるため、一時期から演者を記載しないようにした(そもそも、企業主催の講演会・セミナーで発表される内容はバイアスがかかっていることが多いため、最近では出席を控え、ブログでは取り扱わなくなった)。
そうはいっても、インターネットでのe-ラーニングですら、ほとんどの場合製薬企業などがスポンサーについている。
あらゆる学会が、スポンサー抜きでは運営すらままならない。
医療費高騰の問題を考えるに、医療界の大きな自己矛盾を感じる。
肺癌学会会員各位
この度、「がん診療に従事する医師から、患者に向けたインターネット情報の提供について」というアンケートを企画し、
肺癌学会会員各位を対象として本アンケートを行う事となりました。
回答にかかる時間は5~10分程度です。
がんに対する国民の関心は高く、インターネットを利用して情報を集める患者・家族は多くなっていると思われます。
簡便に広く情報収集できる利便性は無視できませんが、一方でインターネット上に溢れる情報には広告を含め、
不正確なばかりか故意にゆがめられた情報があるのも否めないと思われます。
初期的なアンケートではありますが、インターネットによる情報提供の現状把握をするとともに、
そのより効果的な活用法の普及に向けて課題を抽出することを目的としています。
得られた結果は2017年10月に開催される第58回日本肺癌学会学術集会で報告し、
会員の皆様のご議論を賜りたいと考えております。
お忙しいとは思いますが、何卒よろしくお願いいたします。
アンケートに答えながら、設問を見て、本ブログを続けるべきかやめるべきか真剣に悩んでいる。
本ブログは広告目的はなく、(私見は織り込んでいるかもしれないが)故意にゆがめた情報もない。
しかし、後から見直して不正確だった(記録を残したのちに見解が覆された)内容はないかと言われれば、否定できない。
講演会やセミナーの内容は、例え公的な学会で報告されたものでも演者の私見などの不確定要素が含まれるため、一時期から演者を記載しないようにした(そもそも、企業主催の講演会・セミナーで発表される内容はバイアスがかかっていることが多いため、最近では出席を控え、ブログでは取り扱わなくなった)。
そうはいっても、インターネットでのe-ラーニングですら、ほとんどの場合製薬企業などがスポンサーについている。
あらゆる学会が、スポンサー抜きでは運営すらままならない。
医療費高騰の問題を考えるに、医療界の大きな自己矛盾を感じる。
肺癌学会会員各位
この度、「がん診療に従事する医師から、患者に向けたインターネット情報の提供について」というアンケートを企画し、
肺癌学会会員各位を対象として本アンケートを行う事となりました。
回答にかかる時間は5~10分程度です。
がんに対する国民の関心は高く、インターネットを利用して情報を集める患者・家族は多くなっていると思われます。
簡便に広く情報収集できる利便性は無視できませんが、一方でインターネット上に溢れる情報には広告を含め、
不正確なばかりか故意にゆがめられた情報があるのも否めないと思われます。
初期的なアンケートではありますが、インターネットによる情報提供の現状把握をするとともに、
そのより効果的な活用法の普及に向けて課題を抽出することを目的としています。
得られた結果は2017年10月に開催される第58回日本肺癌学会学術集会で報告し、
会員の皆様のご議論を賜りたいと考えております。
お忙しいとは思いますが、何卒よろしくお願いいたします。
2017年02月15日
免疫チェックポイント阻害薬と使用制限
日本臨床腫瘍学会、日本肺癌学会からメールが送られてきた。
以下の内容に関するものだった。
ニボルマブ、ペンブロリズマブの使用に関するかなり踏み込んだ内容だ。
使用医師の制限については、専門医資格などは求められていない。
ペンブロリズマブの薬価収載、および22C3抗体によるPD-L1免疫染色の保険収載に合わせた慌ただしい動きのようである。
問い合わせをしたところ、キートルーダを取り扱うMSD株式会社/大鵬薬品も、使用可能施設に施設基準を設けている様子だ。
がん医療のきんてん化と濫用抑制の狭間にあって、これは必要な対応だろう。
早速というかなんというか、患者さんのご家族からキートルーダ使用に関するお問い合わせが来た。
まずは病理組織検体を切り出して、PD-L1発現状態を調べなければ。
■薬生薬審発0214第1号
ニボルマブ(遺伝子組換え)製剤及びペムブロリズマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドライン(非小細胞肺癌及び悪性黒色腫)に
ついて
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T170215I0110.pdf
■保医発0214第4号
抗Pd-1抗体抗悪性腫瘍剤に係る最適使用推進ガイドラインの策定に伴う留意事項について
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T170215S0090.pdf
患者のみならず、施設や使用医師にも使用を制限する基準が設けられている。
患者:PD-L1の検索を行った非小細胞肺癌
ニボルマブは原則扁平上皮癌かPD-L1陽性の非扁平上皮癌患者に使用し、非扁平上皮癌でPD-L1陽性細胞<1%の場合は、なぜその患者に使用したかの理由を診療報酬請求書に明記する
ペンブロリズマブはPD-L1陽性の患者に使用を限定する
施設:都道府県・地域がん診療連携拠点病院等、一定のがん診療の施設基準を満たしている
使用医師:肺がん化学療法について、一定の経験年数がある
これらについては、以下を抜粋して記載する。
4.施設について
承認条件として使用成績調査(全例調査)が課せられていることから、当該調査を適切
に実施できる施設である必要がある。その上で、本剤の投与が適切な患者を診断・特定
し、本剤の投与により重篤な副作用を発現した際に対応することが必要なため、以下の
①~③のすべてを満たす施設において使用するべきである。
① 施設について
①-1 下記の(1)~(5)のいずれかに該当する施設であること。
(1) 厚生労働大臣が指定するがん診療連携拠点病院等(都道府県がん診療連携拠点病院、
地域がん診療連携拠点病院、地域がん診療病院など)(平成28 年10 月1 日時点:
427 施設)
(2) 特定機能病院(平成28 年9 月1 日時点:84 施設)
(3) 都道府県知事が指定するがん診療連携病院(がん診療連携指定病院、がん診療連携
協力病院、がん診療連携推進病院など)
(4) 外来化学療法室を設置し、外来化学療法加算1 又は外来化学療法加算2 の施設基準
に係る届出を行っている施設(平成27 年7 月1 日時点: 2538 施設)
(5) 抗悪性腫瘍剤処方管理加算の施設基準に係る届出を行っている施設(平成27 年7
月1 日時点:1284 施設)
①-2 肺癌の化学療法及び副作用発現時の対応に十分な知識と経験を持つ医師(下表の
いずれかに該当する医師)が、当該診療科の本剤に関する治療の責任者として配置され
ていること。
表
医師免許取得後2 年の初期研修を終了した後に5 年以上のがん治療の臨床研修を行
っていること。うち、2 年以上は、がん薬物療法を主とした臨床腫瘍学の研修を行
なっていること。
医師免許取得後2 年の初期研修を終了した後に4 年以上の臨床経験を有しているこ
と。うち、3 年以上は、肺癌のがん薬物療法を含む呼吸器病学の臨床研修を行って
いること。
② 院内の医薬品情報管理の体制について
医薬品情報管理に従事する専任者が配置され、製薬企業からの情報窓口、有効性・安全
性等薬学的情報の管理及び医師等に対する情報提供、有害事象が発生した場合の報告業
務、等が速やかに行われる体制が整っていること。
10
③ 副作用への対応について
③-1 施設体制に関する要件
間質性肺疾患等の重篤な副作用が発生した際に、24 時間診療体制の下、当該施設又は
連携施設において、発現した副作用に応じて入院管理及びCT 等の副作用の鑑別に必要
な検査の結果が当日中に得られ、直ちに対応可能な体制が整っていること。
③-2 医療従事者による有害事象対応に関する要件
がん診療に携わる専門的な知識及び技能を有する医療従事者が副作用モニタリングを
含めた苦痛のスクリーニングを行い主治医と情報を共有できるチーム医療体制が整備
されていること。なお、整備体制について、がん患者とその家族に十分に周知されてい
ること。
また、本ガイドラインに関する日本肺癌学会の見解がこちら。
「本ガイドライン(以下GL)には日本肺癌学会編の肺癌診療GL2016年版との相違点が見られます。さらに上記「留意事項について」が遵守されていない場合は保険査定の可能性もありますので、ここに要点をまとめ、皆様の注意を喚起したいと思います。一番ご注意頂きたい点は非扁平上皮癌セカンドライン治療において、肺癌診療GLではニボルマブはグレードAでPD-L1の発現に関わらず推奨されていますが、最適使用GLでは“PD-L1発現率が1%未満であることが確認された非扁平上皮癌患者においては、原則、ドセタキセル等の本剤(ニボルマブ)以外の抗悪性腫瘍剤の投与を優先する”、となっている点です。なおペムブロリズマブのセカンドライン治療では組織型の如何を問わずPD-L1≥%の発現が承認条件となっており、この点に関する齟齬はありません。」
以下の内容に関するものだった。
ニボルマブ、ペンブロリズマブの使用に関するかなり踏み込んだ内容だ。
使用医師の制限については、専門医資格などは求められていない。
ペンブロリズマブの薬価収載、および22C3抗体によるPD-L1免疫染色の保険収載に合わせた慌ただしい動きのようである。
問い合わせをしたところ、キートルーダを取り扱うMSD株式会社/大鵬薬品も、使用可能施設に施設基準を設けている様子だ。
がん医療のきんてん化と濫用抑制の狭間にあって、これは必要な対応だろう。
早速というかなんというか、患者さんのご家族からキートルーダ使用に関するお問い合わせが来た。
まずは病理組織検体を切り出して、PD-L1発現状態を調べなければ。
■薬生薬審発0214第1号
ニボルマブ(遺伝子組換え)製剤及びペムブロリズマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドライン(非小細胞肺癌及び悪性黒色腫)に
ついて
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T170215I0110.pdf
■保医発0214第4号
抗Pd-1抗体抗悪性腫瘍剤に係る最適使用推進ガイドラインの策定に伴う留意事項について
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T170215S0090.pdf
患者のみならず、施設や使用医師にも使用を制限する基準が設けられている。
患者:PD-L1の検索を行った非小細胞肺癌
ニボルマブは原則扁平上皮癌かPD-L1陽性の非扁平上皮癌患者に使用し、非扁平上皮癌でPD-L1陽性細胞<1%の場合は、なぜその患者に使用したかの理由を診療報酬請求書に明記する
ペンブロリズマブはPD-L1陽性の患者に使用を限定する
施設:都道府県・地域がん診療連携拠点病院等、一定のがん診療の施設基準を満たしている
使用医師:肺がん化学療法について、一定の経験年数がある
これらについては、以下を抜粋して記載する。
4.施設について
承認条件として使用成績調査(全例調査)が課せられていることから、当該調査を適切
に実施できる施設である必要がある。その上で、本剤の投与が適切な患者を診断・特定
し、本剤の投与により重篤な副作用を発現した際に対応することが必要なため、以下の
①~③のすべてを満たす施設において使用するべきである。
① 施設について
①-1 下記の(1)~(5)のいずれかに該当する施設であること。
(1) 厚生労働大臣が指定するがん診療連携拠点病院等(都道府県がん診療連携拠点病院、
地域がん診療連携拠点病院、地域がん診療病院など)(平成28 年10 月1 日時点:
427 施設)
(2) 特定機能病院(平成28 年9 月1 日時点:84 施設)
(3) 都道府県知事が指定するがん診療連携病院(がん診療連携指定病院、がん診療連携
協力病院、がん診療連携推進病院など)
(4) 外来化学療法室を設置し、外来化学療法加算1 又は外来化学療法加算2 の施設基準
に係る届出を行っている施設(平成27 年7 月1 日時点: 2538 施設)
(5) 抗悪性腫瘍剤処方管理加算の施設基準に係る届出を行っている施設(平成27 年7
月1 日時点:1284 施設)
①-2 肺癌の化学療法及び副作用発現時の対応に十分な知識と経験を持つ医師(下表の
いずれかに該当する医師)が、当該診療科の本剤に関する治療の責任者として配置され
ていること。
表
医師免許取得後2 年の初期研修を終了した後に5 年以上のがん治療の臨床研修を行
っていること。うち、2 年以上は、がん薬物療法を主とした臨床腫瘍学の研修を行
なっていること。
医師免許取得後2 年の初期研修を終了した後に4 年以上の臨床経験を有しているこ
と。うち、3 年以上は、肺癌のがん薬物療法を含む呼吸器病学の臨床研修を行って
いること。
② 院内の医薬品情報管理の体制について
医薬品情報管理に従事する専任者が配置され、製薬企業からの情報窓口、有効性・安全
性等薬学的情報の管理及び医師等に対する情報提供、有害事象が発生した場合の報告業
務、等が速やかに行われる体制が整っていること。
10
③ 副作用への対応について
③-1 施設体制に関する要件
間質性肺疾患等の重篤な副作用が発生した際に、24 時間診療体制の下、当該施設又は
連携施設において、発現した副作用に応じて入院管理及びCT 等の副作用の鑑別に必要
な検査の結果が当日中に得られ、直ちに対応可能な体制が整っていること。
③-2 医療従事者による有害事象対応に関する要件
がん診療に携わる専門的な知識及び技能を有する医療従事者が副作用モニタリングを
含めた苦痛のスクリーニングを行い主治医と情報を共有できるチーム医療体制が整備
されていること。なお、整備体制について、がん患者とその家族に十分に周知されてい
ること。
また、本ガイドラインに関する日本肺癌学会の見解がこちら。
「本ガイドライン(以下GL)には日本肺癌学会編の肺癌診療GL2016年版との相違点が見られます。さらに上記「留意事項について」が遵守されていない場合は保険査定の可能性もありますので、ここに要点をまとめ、皆様の注意を喚起したいと思います。一番ご注意頂きたい点は非扁平上皮癌セカンドライン治療において、肺癌診療GLではニボルマブはグレードAでPD-L1の発現に関わらず推奨されていますが、最適使用GLでは“PD-L1発現率が1%未満であることが確認された非扁平上皮癌患者においては、原則、ドセタキセル等の本剤(ニボルマブ)以外の抗悪性腫瘍剤の投与を優先する”、となっている点です。なおペムブロリズマブのセカンドライン治療では組織型の如何を問わずPD-L1≥%の発現が承認条件となっており、この点に関する齟齬はありません。」
2017年02月06日
国立がん研究センター東病院での気管支鏡・クライオプローブ見学
2月2日(木)、1日お休みをとって国立がん研究センター東病院に伺った。
どこに行くにしても、大分からだと時間がかかる。
当日のスケジュールを振り返ると、
午前5時:起床
午前5時40分:出発
午前5時55分:空港バス乗車
午前7時45分:大分空港発
午前9時過ぎ:羽田空港着
モノレール、山手線、つくばエクスプレス、タクシーを乗り継いで
午前11時過ぎ:国立がん研究センター東病院着
午前中:呼吸器内科、病理部へご挨拶、クライオプローブでの生検標本を顕微鏡で見学
午後:クライオプローブ生検2件を含め、計6件の気管支鏡検査を見学
午後4時7分:空港バス乗車、国立がん研究センター東病院発
午後5時過ぎ:羽田空港着
午後7時55分:羽田空港発
午後9時30分ごろ:大分空港着
午後11時前:空港バス下車
午後11時:帰宅
18時間のうち、実際に施設見学できたのは正味4時間30分程度だった。
すこぶる効率が悪い。
でも、行ってよかった。
まず、検査前の噴霧麻酔では、一般的なジャクソン式噴霧器を使わない。

耳鼻科診察室にあるようなキャビネットが、噴霧麻酔専用のスペースに設置されている。

これは贅沢な環境だ。
この環境があるがために、検査の回転が速い。
他の検査が進行している間に、担当医がここで噴霧麻酔をしている。
検査終了後直ちに入れ替わり、次の検査に入ることができる。
3時間足らずで6件の検査をこなしていたが、これは大分大学病院の2倍速だ。
また、透視機器として、C-arm透視装置が設置されている。
東病院を離れてみると、C-arm透視装置が気管支内視鏡検査室に置かれていることの贅沢さがよく分かる。
患者の体位変換をしなくても、斜視撮影ができるのは大きなメリットだ。

モニターにも工夫が凝らされている。
検査術者を取り囲むように、多数のモニターが配されている。
術者は気管支鏡の挿入部位によって右を向いたり左を向いたりしなければならないが、どっちを向いても必要な画像が見ることができる。
そして、部屋の左奥に-80℃で凍結保存可能なフリーザーが設置されていることも忘れてはならない。
核酸や蛋白解析のために、検体採取後ただちに凍結保存ができる環境が整っている。

検査中迅速細胞診を行う体制も整っている。
ただし、現段階では細胞診検査技師ではなく、検査医が判定している。
専属の細胞診検査技師や顕微鏡の確保には苦労しているようだった。

気管支鏡保管用のキャビネットを見ると、なんと処置用の1T-Q290が3本も常備されている!
通常、処置用気管支鏡はこんなにたくさん置いてない。
太径のガイドシースを使用するにはなくてはならない気管支鏡だが、まさかこんなにおいてあるとは。
クライオプローブを使用する際にもよく使うらしい。

たくさん置いてあると言えば、EBUS用のプローブもたくさん置いてあった。
4本ぶら下げる場所がある。
「細」「太」と仕分けてあるのは、多分「細径ガイドシース用」と「太径ガイドシース用」ということだろう。

そして今回の主役、クライオプローブ一式。
炭酸ガスボンベ2本がくっついた本体と、そこから延びるプローブ。
よほど高額な設備かと思ったが、予定されている価格を聞いてみるとそれほどでもなかった。
それほどでもないと言えるほど安くもないが、少なくともEBUS-TBNAを導入するよりは安いらしい。
ただし、EBUS-TBNAとは異なり、クライオプローブを導入したからといって病院の収入が増えるわけではないので、単純な比較はできない。

当日の検査の内訳は、EBUS-TBNA3件、可視範囲の通常鉗子生検1件、可視範囲のクライオプローブ生検1件、透視下のクライオプローブ生検1件の計6件だった。
EBUS-TBNA3件の方も興味深かった。
様々な穿刺針が準備されており、オリンパス社製の針しか使ったことのない私にとっては新鮮だった。
25Gの針も準備されていて、かなり穿刺しやすいとのことだ。
クライオプローブ生検の詳細は臨床試験の真っ最中なので控えるが、前評判通りの実力だった。
とにかく取れる組織が大きい。
通常の生検組織の大きさをゴマ粒程度とすれば、クライオプローブ生検標本は大豆程度といったところか。
顕微鏡で観察すると、組織構築がきれいに保たれているのが印象的だった。
しかし、安直な気持ちでは取り組んではならない手技であることも、よく分かった。
まず、クライオプローブ生検は、全例気管内挿管をされたうえで行われている。
生検した際、プローブを気管支鏡ごといったん患者から抜き取らないと検体が採取できないが、途中で声門に引っかかって検体が落っこちてしまうことがしばしばあるそうだ(実際、この日も2回落っこちていた)。
それを少しでも予防するために、気管内挿管をしているらしい。
また、プローブと気管支鏡を抜き取っている間は、当たり前だが止血処置ができない。
したがって、標本採取部位が出血していたら、もたもたしていると気管内が血の海になってしまう。
術者には、素早く気管支鏡を抜き去って速やかに挿入し、盲目的にでも出血部位まで気管支鏡を持っていく技量が必要だ。
気管支鏡検査時の止血処置がきちんとできる医師でなければ、手を出すべきではない。
また、クライオプローブの剛性のために、肺尖部やS6の生検はなかなか難しそうだ。
こちらも、気管支鏡とプローブの特性を理解した上で工夫しなければならない。
プローブ挿入・止血処置の両面から、両肺尖部のクライオプローブ生検は、術者にかなりの技量を要求する。
百聞は一見に如かずだった。
ごく近い将来、国内のどの施設でもクライオプローブが使えるようになりそうだが、臨床導入前にぜひ一度見学しておくことをお勧めする。
予想以上に有用なデバイスであるとともに、知らずに手を出すと痛い目に合いそうだ。
どこに行くにしても、大分からだと時間がかかる。
当日のスケジュールを振り返ると、
午前5時:起床
午前5時40分:出発
午前5時55分:空港バス乗車
午前7時45分:大分空港発
午前9時過ぎ:羽田空港着
モノレール、山手線、つくばエクスプレス、タクシーを乗り継いで
午前11時過ぎ:国立がん研究センター東病院着
午前中:呼吸器内科、病理部へご挨拶、クライオプローブでの生検標本を顕微鏡で見学
午後:クライオプローブ生検2件を含め、計6件の気管支鏡検査を見学
午後4時7分:空港バス乗車、国立がん研究センター東病院発
午後5時過ぎ:羽田空港着
午後7時55分:羽田空港発
午後9時30分ごろ:大分空港着
午後11時前:空港バス下車
午後11時:帰宅
18時間のうち、実際に施設見学できたのは正味4時間30分程度だった。
すこぶる効率が悪い。
でも、行ってよかった。
まず、検査前の噴霧麻酔では、一般的なジャクソン式噴霧器を使わない。

耳鼻科診察室にあるようなキャビネットが、噴霧麻酔専用のスペースに設置されている。

これは贅沢な環境だ。
この環境があるがために、検査の回転が速い。
他の検査が進行している間に、担当医がここで噴霧麻酔をしている。
検査終了後直ちに入れ替わり、次の検査に入ることができる。
3時間足らずで6件の検査をこなしていたが、これは大分大学病院の2倍速だ。
また、透視機器として、C-arm透視装置が設置されている。
東病院を離れてみると、C-arm透視装置が気管支内視鏡検査室に置かれていることの贅沢さがよく分かる。
患者の体位変換をしなくても、斜視撮影ができるのは大きなメリットだ。

モニターにも工夫が凝らされている。
検査術者を取り囲むように、多数のモニターが配されている。
術者は気管支鏡の挿入部位によって右を向いたり左を向いたりしなければならないが、どっちを向いても必要な画像が見ることができる。
そして、部屋の左奥に-80℃で凍結保存可能なフリーザーが設置されていることも忘れてはならない。
核酸や蛋白解析のために、検体採取後ただちに凍結保存ができる環境が整っている。

検査中迅速細胞診を行う体制も整っている。
ただし、現段階では細胞診検査技師ではなく、検査医が判定している。
専属の細胞診検査技師や顕微鏡の確保には苦労しているようだった。

気管支鏡保管用のキャビネットを見ると、なんと処置用の1T-Q290が3本も常備されている!
通常、処置用気管支鏡はこんなにたくさん置いてない。
太径のガイドシースを使用するにはなくてはならない気管支鏡だが、まさかこんなにおいてあるとは。
クライオプローブを使用する際にもよく使うらしい。

たくさん置いてあると言えば、EBUS用のプローブもたくさん置いてあった。
4本ぶら下げる場所がある。
「細」「太」と仕分けてあるのは、多分「細径ガイドシース用」と「太径ガイドシース用」ということだろう。

そして今回の主役、クライオプローブ一式。
炭酸ガスボンベ2本がくっついた本体と、そこから延びるプローブ。
よほど高額な設備かと思ったが、予定されている価格を聞いてみるとそれほどでもなかった。
それほどでもないと言えるほど安くもないが、少なくともEBUS-TBNAを導入するよりは安いらしい。
ただし、EBUS-TBNAとは異なり、クライオプローブを導入したからといって病院の収入が増えるわけではないので、単純な比較はできない。

当日の検査の内訳は、EBUS-TBNA3件、可視範囲の通常鉗子生検1件、可視範囲のクライオプローブ生検1件、透視下のクライオプローブ生検1件の計6件だった。
EBUS-TBNA3件の方も興味深かった。
様々な穿刺針が準備されており、オリンパス社製の針しか使ったことのない私にとっては新鮮だった。
25Gの針も準備されていて、かなり穿刺しやすいとのことだ。
クライオプローブ生検の詳細は臨床試験の真っ最中なので控えるが、前評判通りの実力だった。
とにかく取れる組織が大きい。
通常の生検組織の大きさをゴマ粒程度とすれば、クライオプローブ生検標本は大豆程度といったところか。
顕微鏡で観察すると、組織構築がきれいに保たれているのが印象的だった。
しかし、安直な気持ちでは取り組んではならない手技であることも、よく分かった。
まず、クライオプローブ生検は、全例気管内挿管をされたうえで行われている。
生検した際、プローブを気管支鏡ごといったん患者から抜き取らないと検体が採取できないが、途中で声門に引っかかって検体が落っこちてしまうことがしばしばあるそうだ(実際、この日も2回落っこちていた)。
それを少しでも予防するために、気管内挿管をしているらしい。
また、プローブと気管支鏡を抜き取っている間は、当たり前だが止血処置ができない。
したがって、標本採取部位が出血していたら、もたもたしていると気管内が血の海になってしまう。
術者には、素早く気管支鏡を抜き去って速やかに挿入し、盲目的にでも出血部位まで気管支鏡を持っていく技量が必要だ。
気管支鏡検査時の止血処置がきちんとできる医師でなければ、手を出すべきではない。
また、クライオプローブの剛性のために、肺尖部やS6の生検はなかなか難しそうだ。
こちらも、気管支鏡とプローブの特性を理解した上で工夫しなければならない。
プローブ挿入・止血処置の両面から、両肺尖部のクライオプローブ生検は、術者にかなりの技量を要求する。
百聞は一見に如かずだった。
ごく近い将来、国内のどの施設でもクライオプローブが使えるようになりそうだが、臨床導入前にぜひ一度見学しておくことをお勧めする。
予想以上に有用なデバイスであるとともに、知らずに手を出すと痛い目に合いそうだ。
2017年02月06日
ceritinibによるALK陽性肺がんの一次治療
ALK陽性進行肺癌に対するceritinibの一次治療が、化学療法に対して無増悪生存期間を有意に延長することが報告された。
これで、ALK陽性進行肺癌の一次治療としてエビデンスを有する薬が3種類になった。
J-ALEX試験の結果が報告されてから1年もたたない。
個人的には、"more effective, less toxic"の原則に基づいて治療選択をする。
病勢進行した際に、次治療をどのように選択するかが今後の課題だが、体制が整えばEGFR変異陽性肺癌と同様、再生検をして、病勢進行のメカニズムを明らかにして臨むべきだろう。
また、化学療法群でも全生存期間が確実に2年を超える、というのは朗報だ。
何らかの理由で初回診断時にALK検索ができず、化学療法から導入した患者でも、治療経過中に再生検してALK検索をするチャンスが出てこないか、担当医は常に意識しておくべきだ。
Phase III Trial Finds First-Line Ceritinib Improves PFS vs Platinum-Based Chemotherapy in ALK-Rearranged NSCLC
By Matthew Stenger
Posted: 2/2/2017 9:35:13 AM
Last Updated: 2/2/2017 9:35:13 AM
First-line ceritinib versus platinum-based chemotherapy in advanced ALK-rearranged non-small-cell lung cancer (ASCEND-4): a randomised, open-label, phase 3 study
Soria JC et al, Lancet 2017
DOI: http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(17)30123-X
Lancet誌に報告された第III相臨床試験(ASCEND-4)において、SoriaらはALK陽性進行非小細胞肺癌の一次治療でceritinibがプラチナ併用化学療法と比較して無増悪生存期間を延長することを示した。ceritinibは次世代選択的ALK阻害薬であり、in vitroではcrizotinibよりも高度のALK阻害活性を示していた。ceritinibはcrizotinib耐性もしくは毒性によりcrizotinib継続困難なALK陽性進行非小細胞肺癌の治療薬として既に承認されている。
今回のASCEND-4試験はオープンラベル試験で、stage IIIB / IV期のALK陽性非扁平・非小細胞肺癌患者376人が、28か国、134施設(欧州、アジア、ブラジル、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド)から参加した。2013年8月から2015年5月までにceritinib群(189人)と化学療法群(187人)に割り付けられた。ceritinibは750mg/日を内服した。化学療法群ではシスプラチン+ペメトレキセド併用療法か、カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法を3週間ごとに4コース行い、ペメトレキセド維持療法も適応があれば行った。
無作為割付はPS、術前・術後補助化学療法の有無、脳転移の有無を割付調整因子として行った。主要評価項目は無増悪生存期間とした。安全性評価は、一度でも試験治療薬の投与を受けた全ての患者で行った。
<患者背景>
ceritinib群 vs 化学療法群として以下を示す。年齢中央値:55歳 vs 54歳、女性:54% vs 61%、白人:55% vs 52%、アジア人:40% vs 44%、PS0:37% vs 37%、PS1:57% vs 56%、PS2:7% vs 6%、非喫煙者:57% vs 65%、腺癌:95% vs 98%、IV期:95% vs 97%、骨転移:41% vs 43%、脳転移:31% vs 33%、肝転移:18% vs 21%、手術歴あり:23% vs 23%、放射線治療歴あり:20% vs 21%、脳への放射線治療歴あり:13% vs 14%(そのうち、無作為化から3ヶ月以内の治療歴:92% vs 89%)、術後補助化学療法歴あり:5% vs 4%、術前化学療法歴あり:0% vs 1%
<無増悪生存期間解析>
無増悪生存期間についての追跡調査期間中央値は19.7ヶ月だった。独立評価委員会によると、無増悪生存期間中央値はceritinib群16.6ヶ月(95%CI 12.6-27.2ヶ月) vs 化学療法群8.1ヶ月(95%CI 5.8-11.1ヶ月)で、ハザード比は0.55、p値<0.00001だった。担当医評価では、ceritinib群16.8ヶ月 vs 化学療法群7.2ヶ月で、ハザード比0.49、p<0.00001だった。ハザード比はおしなべてそのサブグループ解析でもceritinibで良好な傾向にあり、そのほとんどで統計学的な有意差がついた。
脳転移を有する患者群を独立評価委員会が調べたところ、ceritinib群と化学療法群の間に無増悪生存期間の有意差はつかなかった。無増悪生存期間中央値はceritinib群10.7ヶ月(95%CI 8.1-16.4ヶ月) vs 化学療法群6.7ヶ月(95%CI 4.1-10.6ヶ月)、ハザード比0.70(95%CI 0.44-1.12)だった。脳転移のない患者群では、無増悪生存期間中央値はceritinib群26.3ヶ月(95%CI 15.4-27.7ヶ月) vs 化学療法群8.3ヶ月(95%CI 6.0-13.7ヶ月)、ハザード比0.48(95%CI 0.33-0.69)だった。
<全生存期間、奏功割合の解析>
解析時点で、全生存期間のデータは不十分(最終解析に必要なイベント数の42%しか確認されていない)だった。生存期間中央値はceritinib群で未到達(95%CI 29.3ヶ月以上)、化学療法群で26.2ヶ月(95%CI 22.8ヶ月以上)で、ハザード比は0.73(p=0.056)だった。2年生存割合はceritinib群で70.6%、化学療法群で58.2%だった。今回の解析では、全生存期間に関する有効中止基準を満たさなかった。化学療法群145人中105人(72%)は化学療法中止後にALK阻害薬を使用しており、そのうち80人はceritinibを使用していた。
奏効割合はceritinib群で72.5%、化学療法群で26.7%だった。奏効に至るまでの期間中央値はceritinib群で6.1週間、化学療法群で13.4週間、奏効持続期間中央値はceritinib群で23.9ヶ月、化学療法群で11.1ヶ月だった。
<有害事象>
(ceritinib群 vs 化学療法群)の主な有害事象は、ceritinib群でより高頻度だったものとして下痢(85% vs 11%)、嘔気(69% vs 55%)、嘔吐(66% vs 36%)、ALT上昇(60% vs 32%)、AST上昇(53% vs 19%)、γGTP上昇(37% vs 10%)、食欲不振(34% vs 31%)だった。その他、貧血(15% vs 35%)、好中球減少(5% vs 22%)、白血球減少(18% vs 4%)は化学療法群の方が頻度が高かった。Grade 3 / 4の有害事象としては、ALT上昇(31% vs 3%)、γGTP上昇(29% vs 2%)、AST上昇(17% vs 2%)が挙がった。
Grade 4のQT延長、torsade de pointes、Hy's law該当(薬剤性肝障害の予後予測スコアで、①ASTもしくはALTが、正常上限の3倍を超える、②総ビリルビン値が正常上限の2倍を超える、③ALPが正常値に近い、④他の肝障害となる原因が否定されている、の①-④を全て満たす場合、肝障害による死亡率が10-50%に至るとされる)、膵炎はいずれも認めなかった。間質性肺炎は(2% vs 1%)で認めた。
投与量減量もしくは投与中断を余儀なくされた有害事象は(80% vs 45%)で発生し、ceritinib群では胃腸障害と肝障害の割合が高かった。治療薬による有害事象で治療中止に至った患者は、(5% vs 11%)だった。治療薬の最終投与から30日以内の患者死亡は(6% vs 3%)で認めたが、治療関連死と判断された患者はいなかった。
これで、ALK陽性進行肺癌の一次治療としてエビデンスを有する薬が3種類になった。
J-ALEX試験の結果が報告されてから1年もたたない。
個人的には、"more effective, less toxic"の原則に基づいて治療選択をする。
病勢進行した際に、次治療をどのように選択するかが今後の課題だが、体制が整えばEGFR変異陽性肺癌と同様、再生検をして、病勢進行のメカニズムを明らかにして臨むべきだろう。
また、化学療法群でも全生存期間が確実に2年を超える、というのは朗報だ。
何らかの理由で初回診断時にALK検索ができず、化学療法から導入した患者でも、治療経過中に再生検してALK検索をするチャンスが出てこないか、担当医は常に意識しておくべきだ。
Phase III Trial Finds First-Line Ceritinib Improves PFS vs Platinum-Based Chemotherapy in ALK-Rearranged NSCLC
By Matthew Stenger
Posted: 2/2/2017 9:35:13 AM
Last Updated: 2/2/2017 9:35:13 AM
First-line ceritinib versus platinum-based chemotherapy in advanced ALK-rearranged non-small-cell lung cancer (ASCEND-4): a randomised, open-label, phase 3 study
Soria JC et al, Lancet 2017
DOI: http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(17)30123-X
Lancet誌に報告された第III相臨床試験(ASCEND-4)において、SoriaらはALK陽性進行非小細胞肺癌の一次治療でceritinibがプラチナ併用化学療法と比較して無増悪生存期間を延長することを示した。ceritinibは次世代選択的ALK阻害薬であり、in vitroではcrizotinibよりも高度のALK阻害活性を示していた。ceritinibはcrizotinib耐性もしくは毒性によりcrizotinib継続困難なALK陽性進行非小細胞肺癌の治療薬として既に承認されている。
今回のASCEND-4試験はオープンラベル試験で、stage IIIB / IV期のALK陽性非扁平・非小細胞肺癌患者376人が、28か国、134施設(欧州、アジア、ブラジル、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド)から参加した。2013年8月から2015年5月までにceritinib群(189人)と化学療法群(187人)に割り付けられた。ceritinibは750mg/日を内服した。化学療法群ではシスプラチン+ペメトレキセド併用療法か、カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法を3週間ごとに4コース行い、ペメトレキセド維持療法も適応があれば行った。
無作為割付はPS、術前・術後補助化学療法の有無、脳転移の有無を割付調整因子として行った。主要評価項目は無増悪生存期間とした。安全性評価は、一度でも試験治療薬の投与を受けた全ての患者で行った。
<患者背景>
ceritinib群 vs 化学療法群として以下を示す。年齢中央値:55歳 vs 54歳、女性:54% vs 61%、白人:55% vs 52%、アジア人:40% vs 44%、PS0:37% vs 37%、PS1:57% vs 56%、PS2:7% vs 6%、非喫煙者:57% vs 65%、腺癌:95% vs 98%、IV期:95% vs 97%、骨転移:41% vs 43%、脳転移:31% vs 33%、肝転移:18% vs 21%、手術歴あり:23% vs 23%、放射線治療歴あり:20% vs 21%、脳への放射線治療歴あり:13% vs 14%(そのうち、無作為化から3ヶ月以内の治療歴:92% vs 89%)、術後補助化学療法歴あり:5% vs 4%、術前化学療法歴あり:0% vs 1%
<無増悪生存期間解析>
無増悪生存期間についての追跡調査期間中央値は19.7ヶ月だった。独立評価委員会によると、無増悪生存期間中央値はceritinib群16.6ヶ月(95%CI 12.6-27.2ヶ月) vs 化学療法群8.1ヶ月(95%CI 5.8-11.1ヶ月)で、ハザード比は0.55、p値<0.00001だった。担当医評価では、ceritinib群16.8ヶ月 vs 化学療法群7.2ヶ月で、ハザード比0.49、p<0.00001だった。ハザード比はおしなべてそのサブグループ解析でもceritinibで良好な傾向にあり、そのほとんどで統計学的な有意差がついた。
脳転移を有する患者群を独立評価委員会が調べたところ、ceritinib群と化学療法群の間に無増悪生存期間の有意差はつかなかった。無増悪生存期間中央値はceritinib群10.7ヶ月(95%CI 8.1-16.4ヶ月) vs 化学療法群6.7ヶ月(95%CI 4.1-10.6ヶ月)、ハザード比0.70(95%CI 0.44-1.12)だった。脳転移のない患者群では、無増悪生存期間中央値はceritinib群26.3ヶ月(95%CI 15.4-27.7ヶ月) vs 化学療法群8.3ヶ月(95%CI 6.0-13.7ヶ月)、ハザード比0.48(95%CI 0.33-0.69)だった。
<全生存期間、奏功割合の解析>
解析時点で、全生存期間のデータは不十分(最終解析に必要なイベント数の42%しか確認されていない)だった。生存期間中央値はceritinib群で未到達(95%CI 29.3ヶ月以上)、化学療法群で26.2ヶ月(95%CI 22.8ヶ月以上)で、ハザード比は0.73(p=0.056)だった。2年生存割合はceritinib群で70.6%、化学療法群で58.2%だった。今回の解析では、全生存期間に関する有効中止基準を満たさなかった。化学療法群145人中105人(72%)は化学療法中止後にALK阻害薬を使用しており、そのうち80人はceritinibを使用していた。
奏効割合はceritinib群で72.5%、化学療法群で26.7%だった。奏効に至るまでの期間中央値はceritinib群で6.1週間、化学療法群で13.4週間、奏効持続期間中央値はceritinib群で23.9ヶ月、化学療法群で11.1ヶ月だった。
<有害事象>
(ceritinib群 vs 化学療法群)の主な有害事象は、ceritinib群でより高頻度だったものとして下痢(85% vs 11%)、嘔気(69% vs 55%)、嘔吐(66% vs 36%)、ALT上昇(60% vs 32%)、AST上昇(53% vs 19%)、γGTP上昇(37% vs 10%)、食欲不振(34% vs 31%)だった。その他、貧血(15% vs 35%)、好中球減少(5% vs 22%)、白血球減少(18% vs 4%)は化学療法群の方が頻度が高かった。Grade 3 / 4の有害事象としては、ALT上昇(31% vs 3%)、γGTP上昇(29% vs 2%)、AST上昇(17% vs 2%)が挙がった。
Grade 4のQT延長、torsade de pointes、Hy's law該当(薬剤性肝障害の予後予測スコアで、①ASTもしくはALTが、正常上限の3倍を超える、②総ビリルビン値が正常上限の2倍を超える、③ALPが正常値に近い、④他の肝障害となる原因が否定されている、の①-④を全て満たす場合、肝障害による死亡率が10-50%に至るとされる)、膵炎はいずれも認めなかった。間質性肺炎は(2% vs 1%)で認めた。
投与量減量もしくは投与中断を余儀なくされた有害事象は(80% vs 45%)で発生し、ceritinib群では胃腸障害と肝障害の割合が高かった。治療薬による有害事象で治療中止に至った患者は、(5% vs 11%)だった。治療薬の最終投与から30日以内の患者死亡は(6% vs 3%)で認めたが、治療関連死と判断された患者はいなかった。
2017年02月01日
なんとわが身にも!
ここ数年、知人が肺がんの手術を受けたとか、CTを撮ったらたまたま肺の結節影を指摘されたとか、そういった話を聞くことが多くなった。
相談を受けてアドバイスをする、といったことは本当にしばしばだ。
2017年になったとたんにひどい風邪を引いて、その後もずっと咳が続いている。
昨年末、自分の病院の職員を対象とした院内セミナーで、「結核と結核もどき」という話をした際、
「長く続く咳は、結核の可能性があるので要注意!」
としゃべった手前、調べないわけにはいかなくなった。
レントゲンでは昨年5月ごろの検診フィルムと変化はなかった。
ここでやめておけばよかった。
高分解能CTを撮影したところ、左肺上葉と右肺下葉にそれぞれ3-4mm大のスリガラス状結節影を見つけてしまった。
慌てて昨年3月、尿路結石を患った際の(通常)CTと比較したところ、たしかにそれらしい影がある。
10ヶ月経過して消えていないということは、おそらく異型腺腫様過形成かAdenocarcinoma in situだろう。
定期経過観察しなければならなくなった。
自分が専門とする病気にかかるというのが、どんなものなのかよく分かった。
たいへん気が滅入る。
相談を受けてアドバイスをする、といったことは本当にしばしばだ。
2017年になったとたんにひどい風邪を引いて、その後もずっと咳が続いている。
昨年末、自分の病院の職員を対象とした院内セミナーで、「結核と結核もどき」という話をした際、
「長く続く咳は、結核の可能性があるので要注意!」
としゃべった手前、調べないわけにはいかなくなった。
レントゲンでは昨年5月ごろの検診フィルムと変化はなかった。
ここでやめておけばよかった。
高分解能CTを撮影したところ、左肺上葉と右肺下葉にそれぞれ3-4mm大のスリガラス状結節影を見つけてしまった。
慌てて昨年3月、尿路結石を患った際の(通常)CTと比較したところ、たしかにそれらしい影がある。
10ヶ月経過して消えていないということは、おそらく異型腺腫様過形成かAdenocarcinoma in situだろう。
定期経過観察しなければならなくなった。
自分が専門とする病気にかかるというのが、どんなものなのかよく分かった。
たいへん気が滅入る。