2024年12月29日
・Reiwa研究から・・・オシメルチニブ初回治療後、その他のEGFR-TKIでrechallenge治療をしたら
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬のrechallenge治療に関する研究をもう1件。
EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんに対してオシメルチニブを使用し、中止したのちにEGFR-TKIを用いて治療するにあたり、オシメルチニブ以外のEGFR-TKIを用いたらどうか、という検討です。
・オシメルチニブ中止の理由が毒性によるものだった
・PSがよい(PS 0-1である)
・EGFR遺伝子変異がエクソン19欠失変異である
場合には、その他のEGFR-TKIによる治療を検討する価値がありそうです。
また、オシメルチニブで薬剤性肺障害を起こしていても、その他のEGFR-TKIのrechallenge治療で薬剤性肺障害を起こすとは限らない(少なくとも今回の研究ではそうした患者は皆無だった)というのは、興味深い知見でした。
要約だけでなく、論文本文中にも気づきの多い報告でした。
Real-World Study of EGFR-TKI Rechallenge With Another TKI After First-Line Osimertinib Discontinuation in Patients With EGFR-Mutated Non-Small Cell Lung Cancer: A Subset Analysis of the Reiwa Study
Kei Sonehara et al.
Thoracic Cancer 2024
doi.org/10.1111/1759-7714.15507
背景:
EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を治療するにあたり、オシメルチニブによる初回治療は広く利用されている。実地臨床において、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)による初回治療の後、治療耐性化ないしは毒性により治療を中止した際、
他のEGFR-TKIを用いたrechallenge療法がしばしば行われる。しかし、オシメルチニブによる初回治療後のEGFR-TKIによるrechallenge療法の有効性と安全性については、これまで適切に検証されてこなかった。今回は、初回治療とは異なる種類のEGFR-TKIでrechallenge療法を行った際の有効性と安全性を検証することを目的とした。
方法:
今回の多施設共同前向き観察研究では、初回治療でオシメルチニブを使用したのち、二次治療ないし三次治療で他のEGFR-TKIを使用したEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を集積した。集積期間は2018年08月から2020年09月とした。
結果:
53人の患者がEGFR-TKIによるrechallenge治療を受けた。二次治療で受けた患者が38人(71.7%)、三次治療で受けた患者が15人(28.3%)だった。オシメルチニブによる初回治療を中止した理由は、毒性中止が32人(60.4%で、うち17人は薬剤性肺障害)、病勢進行が20人(37.7%)だった。最も多く使用されたEGFR-TKIはアファチニブ(24人、45.3%)で、ゲフィチニブ(16人、30.2%)、エルロチニブ(8人、15.1%)が続いた。実臨床における治療成功期間(real world Time to Treatment Failure, rwTTF)は7.3ヶ月だった。オシメルチニブ治療中断の要因別に解析すると、毒性中止群のrwTTFは9.3ヶ月、病勢進行群のrwTTFは5.1ヶ月だった(ハザード比1.61、p=0.119)。rechallenge治療は9人(17.0%)で毒性中止されたが、薬剤性肺障害を来した患者はいなかった。
結論:
初回治療でオシメルチニブを用い、治療中止に至ったEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんにおける、他のEGFR-TKIを用いたrechallenge治療の忍容性は良好だった。この治療コンセプトは、ことにオシメルチニブを毒性中止した場合には有益かもしれない。
本文から:
・EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんに対し、初回治療でオシメルチニブを使用して、病勢進行あるいは毒性により中止した際の次治療には議論の余地がある
・オシメルチニブ耐性化後の二次治療としてプラチナ併用化学療法がもっともよく用いられるが、その有効性に関するエビデンスは十分ではない
・EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんに対する化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法・・・化学免疫療法の有効性はいくつかの第III相試験で検証されたものの、生存期間延長効果が示されたものは未だない
・オシメルチニブ以外のEGFR-TKIを用いたrechallenge治療もよく行われる
・FLAURA試験では、オシメルチニブ群でオシメルチニブ投与中止後の二次治療において21%、三次治療で32%の患者がEGFR-TKIを用いた
・オシメルチニブ中止後、その他のEGFR-TKIによるrechallenge治療が有益であるかどうかはまだわかっていない
・第1世代EGFR-TKIのrechallenge治療に関しては、日本で複数の後方視的検討がなされており、奏効割合は17-25%、無増悪生存期間中央値は3.4-8.0ヶ月だった
・EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者を対象に、初回治療でゲフィチニブを用い、その後三次治療でゲフィチニブrechallenge治療を行う第II相試験では、奏効割合4.9%、無増悪生存期間中央値2.8ヶ月だった
Efficacy and safety of rechallenge treatment with gefitinib in patients with advanced non-small cell lung cancer
Cappuzzo et al. Lung Cancer. 2016 Sep:99:31-7.
doi: 10.1016/j.lungcan.2016.06.008. Epub 2016 Jun 14.
・EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者を対象に、初回治療で第1世代ないし第2世代のEGFR-TKIを用い、治療中止後にアファチニブrechallenge治療を行う第II相試験では、奏効割合17%、無増悪生存期間中央値4.2ヶ月だった
A phase II trial of EGFR-TKI readministration with afatinib in advanced non-small-cell lung cancer harboring a sensitive non-T790M EGFR mutation: Okayama Lung Cancer Study Group trial 1403
Oda et al.,Cancer Chemother Pharmacol. 2018 Dec;82(6):1031-1038.
doi: 10.1007/s00280-018-3694-5. Epub 2018 Oct 1.
・FLAURA試験において、日本人サブグループの薬剤性肺障害発生頻度は12.3%だった
・日本における実地臨床でのオシメルチニブについて多施設共同後方視的検討を行ったOSI-FACT研究において、薬剤性肺障害発生頻度は12.8%だった
・同じくOSI-FACT研究において、オシメルチニブによる薬剤性肺障害発症後の次治療としてもっとも適用されたのはプラチナ併用化学療法で(46.9%)、その他のEGFR-TKIによるrechallengeが次に多かった(37.5%)
・Reiwa研究は、実地臨床に関する大規模多施設共同前向き観察研究で、オシメルチニブによる初回治療の有効性、安全性、病勢進行パターンとその後の治療について調べることを目的としている
・今回はReiwa試験のデータを用いて、オシメルチニブ初回治療後にその他のEGFR-TKIでrechallenge治療を行った患者集団について分析することを目的とした
・日本国内30施設が参加し、2018年09月から2020年08月までの期間に、進行もしくは術後再発のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんと診断された20歳以上の患者を集積した
・実臨床における治療成功期間(real world Time to Treatment Failure, rwTTF)は、その他のEGFR-TKIでrechallenge治療を開始してから、毒性中止・病勢進行・患者希望での治療中止・患者死亡といった理由で治療を中止するまでの期間と定義した
・主要評価項目はrwTTFとその他のEGFR-TKI rechallenge治療の安全性とした
・本研究の対象となった患者は53人(Reiwa研究全体としては583人)
・オシメルチニブ初回治療の無増悪生存期間は12.2ヶ月(95%信頼区間7.5-16.9)
・オシメルチニブ初回治療を中止した理由は毒性中止32人(60.4%)、病勢進行20人(37.7%)、患者希望での治療中止1人(1.9%)
・毒性中止の理由として頻度が高かったのは、薬剤性肺障害17人(53.1%)、皮膚障害4人(12.5%)
・その他のEGFR-TKIを二次治療で使用した患者が38人(71.7%)、三次治療で使用した患者が15人(28.3%)
・使用されたその他のEGFR-TKIの内訳は、アファチニブ24人(45.3%)、ゲフィチニブ16人(30.2%)、エルロチニブ(8人、15.1%)、エルロチニブ+ベバシズマブ(3人、5.7%)、エルロチニブ+ラムシルマブ(2人、3.8%)
・オシメルチニブ初回治療の奏効割合は58.5%(95%信頼区間45.1-71.9)、病勢コントロール割合は77.4%(95%信頼区間66.1-88.7%)
・その他のEGFR-TKIによるrechallenge治療全体のrwTTF中央値は7.3ヶ月(95%信頼区間3.7-10.9)、全生存期間(OS)中央値は23.9ヶ月(95%信頼区間16.8-31.1)、奏効割合は32.1%(95%信頼区間19.4-44.8)、病勢コントロール割合は73.6%(61.6-85.6)
・毒性によりオシメルチニブ初回治療を中止した患者集団におけるその他のEGFR-TKIによるrechallenge治療のrwTTF中央値は9.3ヶ月(95%信頼区間4.2-14.4)、全生存期間(OS)中央値は29.8ヶ月(95%信頼区間23.1-36.5)、奏効割合は36.4%(95%信頼区間19.7-53.0)、病勢コントロール割合は81.8%(95%信頼区間68.5-95.2)
・病勢進行によりオシメルチニブ初回治療を中止した患者集団におけるその他のEGFR-TKIによるrechallenge治療のrwTTF中央値は5.1ヶ月(95%信頼区間2.3-7.9)、全生存期間(OS)中央値は12.8ヶ月(95%信頼区間9.1-16.5)、奏効割合は25.0%(95%信頼区間5.5-44.5)、病勢コントロール割合は60.0%(95%信頼区間38.0-82.0)
・毒性によりオシメルチニブ初回治療を中止した患者集団と病勢進行によりオシメルチニブ初回治療を中止した患者集団を比較すると、rwTTFはハザード比1.61(95%信頼区間0.89-2.93、p=0.119)、OSはハザード比3.10(95%信頼区間1.39-6.95、p=0.006)で、前者の方が予後良好な傾向だった
・その他のEGFR-TKIとしてアファチニブを使用した集団のrwTTFは5.1ヶ月(95%信頼区間2.2-8.0)、ゲフィチニブまたはエルロチニブを使用した集団のrwTTFは9.2ヶ月(95%信頼区間6.6-11.8)
・多変数解析の結果抽出されたrwTTF予後良好因子は、PS 0-1であること(ハザード比5.27、95%信頼区間1.47-19.0、p=0.011)とEGFR遺伝子変異がエクソン19欠失変異であること(ハザード比2.52、95%信頼区間1.30-4.89、p=0.006)だった
・rechallenge治療を毒性により中止した患者が9人(17.0%)いた
・毒性中止のうち、皮膚障害2人、肝障害2人で、薬剤性肺障害を起こした患者はいなかった
・9人のうち8人は、オシメルチニブ初回治療も毒性により中止しており、その内訳は薬剤性肺障害4人、爪囲炎1人、腎機能障害1人、心機能低下1人、QT延長症候群1人だった
・毒性によりオシメルチニブ初回治療を中止した患者集団におけるrechallenge治療の毒性中止割合は24.2%、病勢進行によりオシメルチニブ初回治療を中止した患者集団におけるrechallenge治療の毒性中止割合は5.0%だった(p=0.071)
・オシメルチニブ初回治療で薬剤性肺障害を起こした患者17人の詳細は、年齢中央値76歳(55-87)、男性29.4%、PS 0-1 47.1%、喫煙歴あり47.1%、エクソン19欠失変異58.8%、rechallenge治療で用いたEGFR-TKIはゲフィチニブ8人(47.1%)、アファチニブ6人(35.3%)、エルロチニブ2人(11.8%)、エルロチニブ+ラムシルマブ1人(5.9%)
、rwTTF中央値6.2ヶ月(95%信頼区間4.1-8.3)、全生存期間中央値27.2ヶ月(95%信頼区間20.6-33.8)、奏効割合17.6%(95%信頼区間0.0-36.3)、病勢コントロール割合76.5%(95%信頼区間55.7-97.3)だった
・オシメルチニブ耐性化患者の耐性機序の主なものはC797S変異、MET増幅、HER2変異/増幅だが、これらを標的とした治療はまだ開発途上である
・オシメルチニブ耐性化後に第1/2世代のEGFR-TKIを用いた前向き臨床試験では、奏効割合6.9%、無増悪生存期間中央値は1.9ヶ月だった
Clinical Efficacy and Safety of First- or Second-Generation EGFR-TKIs after Osimertinib Resistance for EGFR Mutated Lung Cancer: A Prospective Exploratory Study
Morimoto et al.,Target Oncol. 2023 Sep;18(5):657-665.
doi: 10.1007/s11523-023-00991-5. Epub 2023 Aug 23.
・アファチニブ耐性化後に第1世代のEGFR-TKIを用いた前向き臨床試験では、奏効割合11.6%、無増悪生存期間中央値3.9ヶ月だった
Activity of the EGFR-HER2 dual inhibitor afatinib in EGFR-mutant lung cancer patients with acquired resistance to reversible EGFR tyrosine kinase inhibitors
Landi et al.,Clin Lung Cancer. 2014 Nov;15(6):411-417.e4.
doi: 10.1016/j.cllc.2014.07.002. Epub 2014 Aug 16.
・今回の研究では、毒性によりオシメルチニブを中止した患者集団の方が病勢進行により中止した患者集団よりも予後が良かったため、前者では耐性化する前にオシメルチニブを中止したものと考えられる
・オシメルチニブを開始してからの全生存期間を検討したところ、薬剤性肺障害でオシメルチニブを毒性中止した集団と、それ以外の有害事象でオシメルチニブを毒性中止した集団の間に有意差を認めなかった(中央値は未到達 vs 45.0ヶ月、ハザード比1.27、95%信頼区間0.42-3.84、p=0.671)
・EGFR-TKIのrechallenge治療について統合解析を行った先行研究では、第3世代EGFR-TKIによる治療効果は第1/2世代より若干優れていた(奏効割合26% vs 14%、p=0.05)
EGFR-Tyrosine Kinase Inhibitor Retreatment in Non-Small-Cell Lung Cancer Patients Previously Exposed to EGFR-TKI: A Systematic Review and Meta-Analysis
Mechelon et al.,J Pers Med. 2024 Jul 15;14(7):752.
doi: 10.3390/jpm14070752.
・Yamaguchiらは、初回治療で第1世代EGFR-TKI使用した後にアファチニブrechallenge治療を行ったところ、初回治療のTTFが10ヶ月以上の患者集団の方が10ヶ月未満の患者集団よりも治療成績が良かったと報告している
Re-challenge of afatinib after 1st generation EGFR-TKI failure in patients with previously treated non-small cell lung cancer harboring EGFR mutation
Yamaguchi et al.,Cancer Chemother Pharmacol. 2019 May;83(5):817-825.
doi: 10.1007/s00280-019-03790-w. Epub 2019 Feb 13.
・Choらは、初回治療でゲフィチニブを使用した後にエルロチニブrechallenge治療を行ったところ、初回治療で病勢安定期が長かった患者では治療成績が良かったと報告している
Phase II study of erlotinib in advanced non-small-cell lung cancer after failure of gefitinib
Cho et al.,J Clin Oncol. 2007 Jun 20;25(18):2528-33.
doi: 10.1200/JCO.2006.10.4166.
・Yamaguchiら、Choらの報告を踏まえると、初回治療の効果が高い方がrechallenge治療の効果も高そうだ
・Reiwa研究全体では、オシメルチニブによる薬剤性肺障害は全グレードで12.9%、グレード3以上で3.1%だった
The Whole Picture of First-Line Osimertinib for EGFR Mutation-Positive Advanced NSCLC: Real-World Efficacy, Safety, Progression Pattern, and Posttreatment Therapy (Reiwa Study)
Watanabe et al.,JTO Clin Res Rep. 2024 Sep 7;5(11):100720.
doi: 10.1016/j.jtocrr.2024.100720. eCollection 2024 Nov.
・Kanajiらは、EGFR-TKIにより薬剤性肺障害を起こした患者にEGFR-TKIのrechallenge治療を行ったところ、58人中13人(22.4%)が薬剤性肺障害を再発したと報告している
Efficacy and Safety of Re-administration of Epidermal Growth Factor Receptor-Tyrosine Kinase Inhibitor (EGFR-TKI) After EGFR-TKI-Induced Interstitial Lung Disease (CS-Lung-005)
Kanaji et al.,Lung. 2024 Feb;202(1):63-72.
doi: 10.1007/s00408-023-00669-9. Epub 2024 Jan 24.
・Nishiokaらは、オシメルチニブで薬剤性肺障害を起こした患者にEGFR-TKIのrechallenge治療を行ったところ、27%(95%信頼区間17-38)で薬剤性肺障害を再発し、他のEGFR-TKIよりもオシメルチニブによるrechallengeの方が再発リスクが高かった(ハザード比3.1、95%信頼区間1.3-7.5)と報告している
Real-World Data on Subsequent Therapy for First-Line Osimertinib-Induced Pneumonitis: Safety of EGFR-TKI Rechallenge (Osi-risk Study TORG-TG2101)
Nishioka et al., Target Oncol. 2024 May;19(3):423-433.
doi: 10.1007/s11523-024-01048-x. Epub 2024 Apr 13.
・オシメルチニブ初回治療で薬剤性肺障害を起こしたのち、オシメルチニブのrechallenge治療を行った患者に関する多施設共同後方視的研究では、33人中5人(15.2%)が薬剤性肺障害を再発していた
Safety and efficacy of osimertinib rechallenge or continuation after pneumonitis: A multicentre retrospective cohort study
Imaji et al.,Eur J Cancer. 2023 Jan:179:15-24.
doi: 10.1016/j.ejca.2022.10.029. Epub 2022 Nov 12.
EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんに対してオシメルチニブを使用し、中止したのちにEGFR-TKIを用いて治療するにあたり、オシメルチニブ以外のEGFR-TKIを用いたらどうか、という検討です。
・オシメルチニブ中止の理由が毒性によるものだった
・PSがよい(PS 0-1である)
・EGFR遺伝子変異がエクソン19欠失変異である
場合には、その他のEGFR-TKIによる治療を検討する価値がありそうです。
また、オシメルチニブで薬剤性肺障害を起こしていても、その他のEGFR-TKIのrechallenge治療で薬剤性肺障害を起こすとは限らない(少なくとも今回の研究ではそうした患者は皆無だった)というのは、興味深い知見でした。
要約だけでなく、論文本文中にも気づきの多い報告でした。
Real-World Study of EGFR-TKI Rechallenge With Another TKI After First-Line Osimertinib Discontinuation in Patients With EGFR-Mutated Non-Small Cell Lung Cancer: A Subset Analysis of the Reiwa Study
Kei Sonehara et al.
Thoracic Cancer 2024
doi.org/10.1111/1759-7714.15507
背景:
EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を治療するにあたり、オシメルチニブによる初回治療は広く利用されている。実地臨床において、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)による初回治療の後、治療耐性化ないしは毒性により治療を中止した際、
他のEGFR-TKIを用いたrechallenge療法がしばしば行われる。しかし、オシメルチニブによる初回治療後のEGFR-TKIによるrechallenge療法の有効性と安全性については、これまで適切に検証されてこなかった。今回は、初回治療とは異なる種類のEGFR-TKIでrechallenge療法を行った際の有効性と安全性を検証することを目的とした。
方法:
今回の多施設共同前向き観察研究では、初回治療でオシメルチニブを使用したのち、二次治療ないし三次治療で他のEGFR-TKIを使用したEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を集積した。集積期間は2018年08月から2020年09月とした。
結果:
53人の患者がEGFR-TKIによるrechallenge治療を受けた。二次治療で受けた患者が38人(71.7%)、三次治療で受けた患者が15人(28.3%)だった。オシメルチニブによる初回治療を中止した理由は、毒性中止が32人(60.4%で、うち17人は薬剤性肺障害)、病勢進行が20人(37.7%)だった。最も多く使用されたEGFR-TKIはアファチニブ(24人、45.3%)で、ゲフィチニブ(16人、30.2%)、エルロチニブ(8人、15.1%)が続いた。実臨床における治療成功期間(real world Time to Treatment Failure, rwTTF)は7.3ヶ月だった。オシメルチニブ治療中断の要因別に解析すると、毒性中止群のrwTTFは9.3ヶ月、病勢進行群のrwTTFは5.1ヶ月だった(ハザード比1.61、p=0.119)。rechallenge治療は9人(17.0%)で毒性中止されたが、薬剤性肺障害を来した患者はいなかった。
結論:
初回治療でオシメルチニブを用い、治療中止に至ったEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんにおける、他のEGFR-TKIを用いたrechallenge治療の忍容性は良好だった。この治療コンセプトは、ことにオシメルチニブを毒性中止した場合には有益かもしれない。
本文から:
・EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんに対し、初回治療でオシメルチニブを使用して、病勢進行あるいは毒性により中止した際の次治療には議論の余地がある
・オシメルチニブ耐性化後の二次治療としてプラチナ併用化学療法がもっともよく用いられるが、その有効性に関するエビデンスは十分ではない
・EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんに対する化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法・・・化学免疫療法の有効性はいくつかの第III相試験で検証されたものの、生存期間延長効果が示されたものは未だない
・オシメルチニブ以外のEGFR-TKIを用いたrechallenge治療もよく行われる
・FLAURA試験では、オシメルチニブ群でオシメルチニブ投与中止後の二次治療において21%、三次治療で32%の患者がEGFR-TKIを用いた
・オシメルチニブ中止後、その他のEGFR-TKIによるrechallenge治療が有益であるかどうかはまだわかっていない
・第1世代EGFR-TKIのrechallenge治療に関しては、日本で複数の後方視的検討がなされており、奏効割合は17-25%、無増悪生存期間中央値は3.4-8.0ヶ月だった
・EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者を対象に、初回治療でゲフィチニブを用い、その後三次治療でゲフィチニブrechallenge治療を行う第II相試験では、奏効割合4.9%、無増悪生存期間中央値2.8ヶ月だった
Efficacy and safety of rechallenge treatment with gefitinib in patients with advanced non-small cell lung cancer
Cappuzzo et al. Lung Cancer. 2016 Sep:99:31-7.
doi: 10.1016/j.lungcan.2016.06.008. Epub 2016 Jun 14.
・EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者を対象に、初回治療で第1世代ないし第2世代のEGFR-TKIを用い、治療中止後にアファチニブrechallenge治療を行う第II相試験では、奏効割合17%、無増悪生存期間中央値4.2ヶ月だった
A phase II trial of EGFR-TKI readministration with afatinib in advanced non-small-cell lung cancer harboring a sensitive non-T790M EGFR mutation: Okayama Lung Cancer Study Group trial 1403
Oda et al.,Cancer Chemother Pharmacol. 2018 Dec;82(6):1031-1038.
doi: 10.1007/s00280-018-3694-5. Epub 2018 Oct 1.
・FLAURA試験において、日本人サブグループの薬剤性肺障害発生頻度は12.3%だった
・日本における実地臨床でのオシメルチニブについて多施設共同後方視的検討を行ったOSI-FACT研究において、薬剤性肺障害発生頻度は12.8%だった
・同じくOSI-FACT研究において、オシメルチニブによる薬剤性肺障害発症後の次治療としてもっとも適用されたのはプラチナ併用化学療法で(46.9%)、その他のEGFR-TKIによるrechallengeが次に多かった(37.5%)
・Reiwa研究は、実地臨床に関する大規模多施設共同前向き観察研究で、オシメルチニブによる初回治療の有効性、安全性、病勢進行パターンとその後の治療について調べることを目的としている
・今回はReiwa試験のデータを用いて、オシメルチニブ初回治療後にその他のEGFR-TKIでrechallenge治療を行った患者集団について分析することを目的とした
・日本国内30施設が参加し、2018年09月から2020年08月までの期間に、進行もしくは術後再発のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんと診断された20歳以上の患者を集積した
・実臨床における治療成功期間(real world Time to Treatment Failure, rwTTF)は、その他のEGFR-TKIでrechallenge治療を開始してから、毒性中止・病勢進行・患者希望での治療中止・患者死亡といった理由で治療を中止するまでの期間と定義した
・主要評価項目はrwTTFとその他のEGFR-TKI rechallenge治療の安全性とした
・本研究の対象となった患者は53人(Reiwa研究全体としては583人)
・オシメルチニブ初回治療の無増悪生存期間は12.2ヶ月(95%信頼区間7.5-16.9)
・オシメルチニブ初回治療を中止した理由は毒性中止32人(60.4%)、病勢進行20人(37.7%)、患者希望での治療中止1人(1.9%)
・毒性中止の理由として頻度が高かったのは、薬剤性肺障害17人(53.1%)、皮膚障害4人(12.5%)
・その他のEGFR-TKIを二次治療で使用した患者が38人(71.7%)、三次治療で使用した患者が15人(28.3%)
・使用されたその他のEGFR-TKIの内訳は、アファチニブ24人(45.3%)、ゲフィチニブ16人(30.2%)、エルロチニブ(8人、15.1%)、エルロチニブ+ベバシズマブ(3人、5.7%)、エルロチニブ+ラムシルマブ(2人、3.8%)
・オシメルチニブ初回治療の奏効割合は58.5%(95%信頼区間45.1-71.9)、病勢コントロール割合は77.4%(95%信頼区間66.1-88.7%)
・その他のEGFR-TKIによるrechallenge治療全体のrwTTF中央値は7.3ヶ月(95%信頼区間3.7-10.9)、全生存期間(OS)中央値は23.9ヶ月(95%信頼区間16.8-31.1)、奏効割合は32.1%(95%信頼区間19.4-44.8)、病勢コントロール割合は73.6%(61.6-85.6)
・毒性によりオシメルチニブ初回治療を中止した患者集団におけるその他のEGFR-TKIによるrechallenge治療のrwTTF中央値は9.3ヶ月(95%信頼区間4.2-14.4)、全生存期間(OS)中央値は29.8ヶ月(95%信頼区間23.1-36.5)、奏効割合は36.4%(95%信頼区間19.7-53.0)、病勢コントロール割合は81.8%(95%信頼区間68.5-95.2)
・病勢進行によりオシメルチニブ初回治療を中止した患者集団におけるその他のEGFR-TKIによるrechallenge治療のrwTTF中央値は5.1ヶ月(95%信頼区間2.3-7.9)、全生存期間(OS)中央値は12.8ヶ月(95%信頼区間9.1-16.5)、奏効割合は25.0%(95%信頼区間5.5-44.5)、病勢コントロール割合は60.0%(95%信頼区間38.0-82.0)
・毒性によりオシメルチニブ初回治療を中止した患者集団と病勢進行によりオシメルチニブ初回治療を中止した患者集団を比較すると、rwTTFはハザード比1.61(95%信頼区間0.89-2.93、p=0.119)、OSはハザード比3.10(95%信頼区間1.39-6.95、p=0.006)で、前者の方が予後良好な傾向だった
・その他のEGFR-TKIとしてアファチニブを使用した集団のrwTTFは5.1ヶ月(95%信頼区間2.2-8.0)、ゲフィチニブまたはエルロチニブを使用した集団のrwTTFは9.2ヶ月(95%信頼区間6.6-11.8)
・多変数解析の結果抽出されたrwTTF予後良好因子は、PS 0-1であること(ハザード比5.27、95%信頼区間1.47-19.0、p=0.011)とEGFR遺伝子変異がエクソン19欠失変異であること(ハザード比2.52、95%信頼区間1.30-4.89、p=0.006)だった
・rechallenge治療を毒性により中止した患者が9人(17.0%)いた
・毒性中止のうち、皮膚障害2人、肝障害2人で、薬剤性肺障害を起こした患者はいなかった
・9人のうち8人は、オシメルチニブ初回治療も毒性により中止しており、その内訳は薬剤性肺障害4人、爪囲炎1人、腎機能障害1人、心機能低下1人、QT延長症候群1人だった
・毒性によりオシメルチニブ初回治療を中止した患者集団におけるrechallenge治療の毒性中止割合は24.2%、病勢進行によりオシメルチニブ初回治療を中止した患者集団におけるrechallenge治療の毒性中止割合は5.0%だった(p=0.071)
・オシメルチニブ初回治療で薬剤性肺障害を起こした患者17人の詳細は、年齢中央値76歳(55-87)、男性29.4%、PS 0-1 47.1%、喫煙歴あり47.1%、エクソン19欠失変異58.8%、rechallenge治療で用いたEGFR-TKIはゲフィチニブ8人(47.1%)、アファチニブ6人(35.3%)、エルロチニブ2人(11.8%)、エルロチニブ+ラムシルマブ1人(5.9%)
、rwTTF中央値6.2ヶ月(95%信頼区間4.1-8.3)、全生存期間中央値27.2ヶ月(95%信頼区間20.6-33.8)、奏効割合17.6%(95%信頼区間0.0-36.3)、病勢コントロール割合76.5%(95%信頼区間55.7-97.3)だった
・オシメルチニブ耐性化患者の耐性機序の主なものはC797S変異、MET増幅、HER2変異/増幅だが、これらを標的とした治療はまだ開発途上である
・オシメルチニブ耐性化後に第1/2世代のEGFR-TKIを用いた前向き臨床試験では、奏効割合6.9%、無増悪生存期間中央値は1.9ヶ月だった
Clinical Efficacy and Safety of First- or Second-Generation EGFR-TKIs after Osimertinib Resistance for EGFR Mutated Lung Cancer: A Prospective Exploratory Study
Morimoto et al.,Target Oncol. 2023 Sep;18(5):657-665.
doi: 10.1007/s11523-023-00991-5. Epub 2023 Aug 23.
・アファチニブ耐性化後に第1世代のEGFR-TKIを用いた前向き臨床試験では、奏効割合11.6%、無増悪生存期間中央値3.9ヶ月だった
Activity of the EGFR-HER2 dual inhibitor afatinib in EGFR-mutant lung cancer patients with acquired resistance to reversible EGFR tyrosine kinase inhibitors
Landi et al.,Clin Lung Cancer. 2014 Nov;15(6):411-417.e4.
doi: 10.1016/j.cllc.2014.07.002. Epub 2014 Aug 16.
・今回の研究では、毒性によりオシメルチニブを中止した患者集団の方が病勢進行により中止した患者集団よりも予後が良かったため、前者では耐性化する前にオシメルチニブを中止したものと考えられる
・オシメルチニブを開始してからの全生存期間を検討したところ、薬剤性肺障害でオシメルチニブを毒性中止した集団と、それ以外の有害事象でオシメルチニブを毒性中止した集団の間に有意差を認めなかった(中央値は未到達 vs 45.0ヶ月、ハザード比1.27、95%信頼区間0.42-3.84、p=0.671)
・EGFR-TKIのrechallenge治療について統合解析を行った先行研究では、第3世代EGFR-TKIによる治療効果は第1/2世代より若干優れていた(奏効割合26% vs 14%、p=0.05)
EGFR-Tyrosine Kinase Inhibitor Retreatment in Non-Small-Cell Lung Cancer Patients Previously Exposed to EGFR-TKI: A Systematic Review and Meta-Analysis
Mechelon et al.,J Pers Med. 2024 Jul 15;14(7):752.
doi: 10.3390/jpm14070752.
・Yamaguchiらは、初回治療で第1世代EGFR-TKI使用した後にアファチニブrechallenge治療を行ったところ、初回治療のTTFが10ヶ月以上の患者集団の方が10ヶ月未満の患者集団よりも治療成績が良かったと報告している
Re-challenge of afatinib after 1st generation EGFR-TKI failure in patients with previously treated non-small cell lung cancer harboring EGFR mutation
Yamaguchi et al.,Cancer Chemother Pharmacol. 2019 May;83(5):817-825.
doi: 10.1007/s00280-019-03790-w. Epub 2019 Feb 13.
・Choらは、初回治療でゲフィチニブを使用した後にエルロチニブrechallenge治療を行ったところ、初回治療で病勢安定期が長かった患者では治療成績が良かったと報告している
Phase II study of erlotinib in advanced non-small-cell lung cancer after failure of gefitinib
Cho et al.,J Clin Oncol. 2007 Jun 20;25(18):2528-33.
doi: 10.1200/JCO.2006.10.4166.
・Yamaguchiら、Choらの報告を踏まえると、初回治療の効果が高い方がrechallenge治療の効果も高そうだ
・Reiwa研究全体では、オシメルチニブによる薬剤性肺障害は全グレードで12.9%、グレード3以上で3.1%だった
The Whole Picture of First-Line Osimertinib for EGFR Mutation-Positive Advanced NSCLC: Real-World Efficacy, Safety, Progression Pattern, and Posttreatment Therapy (Reiwa Study)
Watanabe et al.,JTO Clin Res Rep. 2024 Sep 7;5(11):100720.
doi: 10.1016/j.jtocrr.2024.100720. eCollection 2024 Nov.
・Kanajiらは、EGFR-TKIにより薬剤性肺障害を起こした患者にEGFR-TKIのrechallenge治療を行ったところ、58人中13人(22.4%)が薬剤性肺障害を再発したと報告している
Efficacy and Safety of Re-administration of Epidermal Growth Factor Receptor-Tyrosine Kinase Inhibitor (EGFR-TKI) After EGFR-TKI-Induced Interstitial Lung Disease (CS-Lung-005)
Kanaji et al.,Lung. 2024 Feb;202(1):63-72.
doi: 10.1007/s00408-023-00669-9. Epub 2024 Jan 24.
・Nishiokaらは、オシメルチニブで薬剤性肺障害を起こした患者にEGFR-TKIのrechallenge治療を行ったところ、27%(95%信頼区間17-38)で薬剤性肺障害を再発し、他のEGFR-TKIよりもオシメルチニブによるrechallengeの方が再発リスクが高かった(ハザード比3.1、95%信頼区間1.3-7.5)と報告している
Real-World Data on Subsequent Therapy for First-Line Osimertinib-Induced Pneumonitis: Safety of EGFR-TKI Rechallenge (Osi-risk Study TORG-TG2101)
Nishioka et al., Target Oncol. 2024 May;19(3):423-433.
doi: 10.1007/s11523-024-01048-x. Epub 2024 Apr 13.
・オシメルチニブ初回治療で薬剤性肺障害を起こしたのち、オシメルチニブのrechallenge治療を行った患者に関する多施設共同後方視的研究では、33人中5人(15.2%)が薬剤性肺障害を再発していた
Safety and efficacy of osimertinib rechallenge or continuation after pneumonitis: A multicentre retrospective cohort study
Imaji et al.,Eur J Cancer. 2023 Jan:179:15-24.
doi: 10.1016/j.ejca.2022.10.029. Epub 2022 Nov 12.
2024年12月26日
・Osi-risk TORG-TG2101試験・・・オシメルチニブ投与中止後のEGFR-TKI再投与とその安全性について
今年ももうすぐ終わりですね。
振り返ってみれば、あまり筆が進まない1年でした。
理由は様々です。
・有望だと報告される治療があまりに多すぎて、どれから手を付けていいかわからない
・免疫チェックポイント阻害薬関連では、近年周術期や局所進行期に関する報告が多数を占めていて、進行期の治療については材料が出尽くした感がある
・分子標的薬関連では、希少なドライバー遺伝子変異集団における治療選択肢が増えた、という報告が多かった
・本業が忙しく、ブログ運営に割ける余力が減った
・母に進行肺腺がん皮膚転移による病状悪化を疑わせることがあり、落ち着かなかった
・義父の進行肺腺がんの病状が現在進行形であまり思わしくない
・自分自身も手術を受けなくてはならなくなり、診断結果によってはがんサバイバーの仲間入り
ことに自分自身の病気については想像していたより遥かに影響がありました。
詳しくは別の記事で書きます。
入院して3日目を迎え、明日は手術を受ける予定です。
手術はおろか、入院生活すら人生で初めての経験です。
クリスマス、子供の誕生日、年末年始と、入院患者として病院で過ごすことになりました。
過敏と言ってもいいくらい感染対策が万全の病院で、新型コロナウイルスPCRが陰性であることを確認しないと入院させてもらえませんでした(専用病室で3時間ほど待機しました)し、外出・外泊はもちろんのこと、入院したが最期、退院するまで面会謝絶です。
そんなわけで自由時間がたくさんあるので、周術期で身動きが取れない期間を除いては、病棟内で運動したり、読書をしたり、論文を読んだり、ブログを書くことにしました。
今回取り上げるのは、オシメルチニブ初回治療後に薬剤性肺障害を来した場合、肺障害回復後にEGFR-TKI再投与をしてもよいものか、という後方視的研究です。
薬剤性肺障害を起こした後にEGFR-TKI再投与すること自体、なかなか"challenging"な診療だと思うのですが、実際のところオシメルチニブ再投与で50%、その他のEGFR-TKIにスイッチしても15%程度は薬剤性肺障害の再燃に見舞われるようです。
当たり前と言えば当たり前、オシメルチニブ再投与に至っては50%で済んでまだましだったのでは、という気もします。
とはいえ、せっかく腫瘍縮小効果が得られたのに薬剤性肺障害で治療中止せざるを得なくなった、となると再投与したくなるのは人情です。
考察の項でまとめられていたように、患者さん、ご家族と担当医が再投与のリスクを共有したうえで取り組むのであれば、選択肢としてはアリなのかもしれません。
Real-World Data on Subsequent Therapy for First-Line Osimertinib-Induced Pneumonitis: Safety of EGFR-TKI Rechallenge (Osi-risk Study TORG-TG2101)
Nishioka et al.
Target Oncol. 2024 May;19(3):423-433.
doi: 10.1007/s11523-024-01048-x. Epub 2024 Apr 13.
背景:
オシメルチニブはEGFR遺伝子変異陽性進行肺がんに対する有望な治療選択肢ではあるが、この薬を使用したときの薬剤性肺障害合併割合はとりわけ日本人で高い。さらには、薬剤性肺障害から回復したあと、EGFR-TKI再投与(rechallenge)を含む次治療の安全性と有効性についてはいまだ明らかでない。
目的:
初回治療でオシメルチニブを使用したのちに薬剤性肺障害を来した患者において、EGFR-TKI rechallengeの安全性を検証することを本研究の目的とし、rechallenge後の薬剤性肺障害再発に主眼を置いた。
方法:
2018年08月から2020年09月にかけて、日本国内34施設から後方視的に患者を集積した。EGFR遺伝子変異陽性肺がん患者で、オシメルチニブによる初回治療後に薬剤性肺障害を来した患者を対象とした。
結果:
124人が解析対象となった。そのうち68人(54.8%)はEGFR-TKI rechallengeを受けた。EGFR-TKI rechallenge後の薬剤性肺障害再発割合は、12ヶ月時点で27%(95%信頼区間17-39)だった。薬剤性肺障害再発累積発生数は、その他の(第1/2世代)EGFR-TKI rechallenge集団と比較して、オシメルチニブrechallenge集団で有意に高かった(ハザード比3.1、95%信頼区間1.3-7.5、p=0.013)。多変数解析の結果、rechallengeで使用したEGFR-TKIの種類(オシメルチニブ vs その他のEGFR-TKI)と薬剤性肺障害再発の間に有意な相関が見られ、薬剤性肺障害初発時の重症度や状態とは関連がなかった(ハザード比3.29、95%信頼区間1.12-9.68、p=0.03)。
結論:
初回治療でオシメルチニブを使用し、薬剤性肺障害により中止したのちにオシメルチニブrechallengeを行った場合、その他のEGFR-TKIでrechallengeを行うのと比較して薬剤性肺障害再発割合が高い。
本文より:
・オシメルチニブは第3世代のEGFR-TKIであり、第1世代と比較して無増悪生存期間や全生存期間を延長することが知られている
・一方、FLAURA試験やOsi-fact研究の結果から、日本人にオシメルチニブを使用した場合の薬剤性肺障害発生割合が高いことも知られている(FLAURA試験:12.3%、Osi-fact研究:12.8%)
・画像所見上は薬剤性肺障害と同一だが自覚症状を伴わない、一過性無症候性すりガラス陰影(transient asymptomatic pulmonary opacity, TAPO)が報告されており、薬剤性肺障害とは異なる現象と考えられていて、TAPOを認めてもオシメルチニブ投与を継続することが許容されている
・しかしながら、TAPOの発生機序や診断基準は今のところ明確でない
・今回の研究では、オシメルチニブ使用後に薬剤性肺障害を来したEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者におけるその後の治療についてのリアルワールドデータを集積することと、EGFR-TKIのrechallenge治療の安全性を評価することを目的とした
・日本国内34施設で、オシメルチニブによる初回治療後に薬剤性肺障害を起こしたEGFR遺伝子変異陽性切除不能非小細胞肺がん患者の臨床情報を後方視的に見直した
・2018年08月から2020年09月の期間に治療を受けた患者を対象とした
・UICC-TNM分類第8版を用いて病期分類した
・データ集積は2021/03/31で打ち切った
・本試験は参加した各施設の倫理委員会で承認され、インフォームド・コンセントは各施設ホームページ上に掲載したオプトアウトの形式を用いて行った
・本試験におけるEGFR-TKI rechallenge治療は、オシメルチニブによる初回治療後に最初の薬剤性肺障害を起こしたのち、二次治療以降の治療でオシメルチニブを含むEGFR-TKIを再投与することと定義した
・TAPOと診断されオシメルチニブを継続投与された患者においては、オシメルチニブによる初回治療期間はオシメルチニブの初回治療を開始してからTAPOと診断されるまでの期間とし、EGFR-TKIのrechallenge治療期間はTAPOと診断されてからオシメルチニブの最終投与日または患者死亡日までとした
・EGFR-TKIによる薬剤性肺障害のCT所見は以下のように分類した
〇器質化肺炎(OP)パターン:末梢優位の多発斑状陰影
〇過敏性肺臓炎(HP)パターン
〇びまん性肺胞障害(DAD)パターン
〇非特異型間質性肺炎(NSIP)パターン
〇分類不能(NE)パターン
・124人の患者が集積された
・大多数の患者がECOG-PS 0-1(85.5%)で、組織型は腺がん(98.4%)だった
・PD-L1≧50%の患者は12.1%だった
・オシメルチニブによる薬剤性肺障害を重症度別に分類すると、grade 1が32.3%、grade 2が33.9%、grade 3が25.8%、grade 4が1.6%、grade 5が6.4%だった
・オシメルチニブの初回投与開始から薬剤性肺障害発症までの期間中央値は60日間(3-434)だった
・全体集団と、EGFR-TKIのrechallenge集団との間に、患者背景の差はなかった
・rechallenge集団は68人、ECOG-PS 0-1(88.3%)、腺がん(97.1%)、PD-L1≧50%(7.4%)、オシメルチニブ開始から薬剤性肺障害発生までの期間中央値56.5日間(5-434)だった
・rechallenge集団には、オシメルチニブによる初回治療でgrade4の薬剤性肺障害を起こした患者はいなかった
・全体集団124人のうち、87人が二次治療を受け、うち46人はEGFR-TKI rechallenge治療を受け、41人は化学療法を受けた
・二次治療のEGFR-TKIで最も多く用いられたのはオシメルチニブ(19人、41.3%)で、二次治療の化学療法で最も多く用いられたのはカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法(12人、29.3%)だった
・二次治療で化学療法を受けた患者のうち、22人は二次治療後最終的にEGFR-TKIのrechallenge治療を受けた
・結局、総計68人の患者がEGFR-TKIのrechallenge治療を受けた
・研究期間中、薬剤性肺障害が再発するまでの期間は中央値に達しなかった(範囲は18.8ヶ月-未到達)
・3ヶ月薬剤性肺障害再発割合は21%(95%信頼区間12-32)、6ヶ月薬剤性肺障害再発割合は25%(95%信頼区間15-37)、12ヶ月薬剤性肺障害再発割合は27%(95%信頼区間17-39)だった
・rechallenge集団をオシメルチニブrechallenge集団とその他のEGFR-TKI rechallenge集団に分けたところ、増悪までの期間中央値はオシメルチニブrechallenge集団で9.2ヶ月(2.2-未到達)、その他のEGFR-TKI rechallenge集団で未到達(未到達-未到達)だった
・6ヶ月薬剤性肺障害再発割合はオシメルチニブrechallenge集団で46%(95%信頼区間24-68)、その他のEGFR-TKI rechallenge集団で15%(95%信頼区間6.3-29)だった
・12ヶ月薬剤性肺障害再発割合はオシメルチニブrechallenge集団で50%(95%信頼区間28-72)、その他のEGFR-TKI rechallenge集団で15%(95%信頼区間6.3-29)だった
・薬剤性肺障害の累積発生割合は、その他のEGFR-TKI rechallenge集団と比較して有意にオシメルチニブrechallenge集団で高かった(ハザード比3.1、95%信頼区間1.3-7.5、p=0.013)
・多変数解析を行ったところ、rechallenge治療でオシメルチニブを使うこと(補正ハザード比3.93、95%信頼区間1.58-9.80、p=0.003)、オシメルチニブ初回治療開始から初回の薬剤性肺障害を発症するまでの期間が60日間以内であること(補正ハザード比4.58、95%信頼区間1.57-13.34、p=0.005)の2項目が、EGFR-TKI rechallenge治療後の薬剤性肺障害再発の有意な危険因子だった
・全体集団124人中87人が二次治療を受け、うち19人はオシメルチニブrechallengeを、27人はその他のEGFR-TKI rechallengeを、41人は化学療法を受けていた
・二次治療期間における12ヶ月薬剤性肺障害再発割合は、オシメルチニブrechallenge集団で47.4%(95%信頼区間24.4-71.1)、その他のEGFR-TKI rechallenge集団で15%(95%信頼区間6.3-29)、化学療法集団で7.3%(95%信頼区間1.5-20)だった
・薬剤性肺障害の累積発生割合は、化学療法集団と比較して有意にオシメルチニブrechallenge集団で高かった(ハザード比5.85、95%信頼区間1.88-18.2、p=0.002)
・その他のEGFR-TKI rechallenge集団と化学療法集団の間で、薬剤性肺障害の累積発生割合の有意差は認めなかった(ハザード比1.31、95%信頼区間0.67-2.54、p=0.43)
・オシメルチニブ初回治療後の薬剤性肺障害(124人)についてCT分類別に解析したところ、OPパターンが最多(57人、46.0%)で、HPパターン(25人、20.2%)、DADパターン(24人、19.2%)、NSIPパターン(7人、5.6%)と続いた
・EGFR-TKI rechallenge後の薬剤性肺障害再発(19人)時の解析では、OPパターンが最多(10人、52.6%)で、HPパターン(5人、26.3%)、DADパターン(2人、10.5%)、NSIPパターン(1人、5.3%)と続いた
・EGFR-TKI rechallenge後に薬剤性肺障害を再発した患者集団としなかった患者集団において、初回の薬剤性肺障害のCTCAE grade、ステロイド治療内容、CTパターンの相違は認めなかった
・EGFR-TKI rechallenge後に薬剤性肺障害を再発した患者では、約10%がCTCAE grade 3以上の重症度だった
2024年12月09日
2022年01月06日の記事より・・・各種マスクによる新型コロナウイルス拡散予防効果
2022年01月05日、我が国でもいよいよ、オミクロン株による新型コロナウイルス感染流行の第6波が本格的に到来しました。
報道陣の質問に対して、大阪府の吉村知事が高らかに宣言していましたね。
共感します。
ワクチン接種がいきわたり、治療薬も様々使えるようになりました。
それでも、感染回避のための基本は変わりません。
人込みを避ける。
こまめに手洗い、うがいをする。
そして、不織布マスクをつける。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行により、われわれがはっきりと学んだことの一つに、マスクに関する知見があります。
今一度、振り返ってみましょう。
2020年10月27日の記事を振り返ります。
このシーズン、結局インフルエンザは全く流行しませんでした。
国民の感染予防行動の賜物、危険回避バイアスだと個人的に理解しています。
感染力が強く、病原性は弱く、よりインフルエンザに近い性質を持つと考えられる新型コロナウイルスオミクロン株。
知らないうちに自分が感染源になっている、ということのないように、少なくとも不織布マスクをつけるくらいの配慮が欲しいです。
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気温が下がってきて、そろそろインフルエンザの流行を意識する頃合いになってきました。
毎年のことだけれど、インフルエンザワクチンの入庫量が圧倒的に不足しています。
外来診療をするたびに、我々のところではもうインフルエンザワクチンは接種できないんです、と予約制度のところから患者さんに説明しなければなりません。
ワクチン接種もさることながら、まずは感染予防策の徹底が基本中の基本です。
人込みの中にはなるべく入らない、かぜ症状のある人とはできるだけ距離を置く、外出先から帰ってきたら20秒かけて手を洗ってうがいをする。
凡事徹底、自分にできることを淡々と続けたいものです。
2020/10/22のNHKニュースで、マスクの効果についての報道がありました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201022/k10012674851000.html
東京大学医科学研究所で行われた実験について。
出典はこちらのようです。
https://msphere.asm.org/content/msph/5/5/e00637-20.full.pdf
人形を用いたモデルで、実際の新型コロナウイルスの飛散を各種のマスクがどれだけ抑えられるかという内容でした。
ウイルスをまき散らす人と、ウイルスをもらってしまう人に分けて検証しているところが秀逸です。
使用したマスクは、布マスク、サージカルマスク、N95マスクの3種類でした。
まず、ウイルスをまき散らす人にマスクをさせると、布マスクでもサージカルマスクでも、70%程度はウイルスの飛散を抑えられたとのことです。
この点については、布マスクにも一定の効果があり、少なくともサージカルマスクと同程度の飛散予防効果があるということでした。
一方、ウイルスをもらってしまう人においては、マスクによって差が出ました。
布マスクは17%、サージカルマスクは47%、N95マスクは79%ほど、ウイルスをもらってしまう量を抑えられるとのことです。
ざっくりと言えば、それぞれのウイルス遮断効果は、布マスクが20%、サージカルマスクは50%、N95マスクは80%程度と言えるでしょう。
大切なことは、どのマスクを使用しても、それなりのウイルス遮断効果があり、ウイルスをまき散らす人がマスクをしたときがもっとも効果が高いということです。
そして、以下の記事を見る限り、サージカルマスクの50%ウイルス遮断効果というのは、どうも再現性がありそうです。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e972720.html
感染者には無症状の人もいるわけで、果たして自分がまき散らす側なのか、もらう側なのか、事前に判断することは難しいです。
これからインフルエンザ流行期を迎えるにあたり、凡事徹底のもうひとつとして、外出時にはきちんとマスクをする、ということも付け加えたいと思います。
2024年12月09日
2022年01月05日の記事より・・・がん治療とその後の療養生活
私の母の胸部放射線治療、開始前は私自身薄氷を踏む思いで見ていました。
母はもともと乳がんの術後再発を抑える目的で左乳房(前胸部)全体に極量の放射線治療をしていました。
治療終了からすでに10年経過しているとはいえ、放射線治療の後遺障害は永続的です。
新たに見つかった左下葉肺がん+縦郭リンパ節転移の治癒を目指すには、左胸部の広範囲に放射線をさらに極量を上乗せして照射するしかありませんでした。
放射線治療医に相談して、なんとか照射野が重ならないように工夫しても、どうしても調整の利かない部分が出てきます。
その部分の皮膚が壊死する、潰瘍化して穴が開く、くらいの覚悟をして治療に臨みました。
母は文句なしに後期高齢者なので、局所進行期の原発性肺腺がんに対してカルボプラチン分割投与+同時併用根治的胸部放射線照射を行いました。
治療の全行程を入院管理下で行いました。
嘔気、嘔吐、食欲不振、食道炎症状はありましたが、幸い皮膚障害は軽微に抑えられました。
早期からの軟膏処方、照射前後の冷却処置など、担当医や看護スタッフのきめ細かなケアの賜物と感謝しています。
これまでのところまだ持ちこたえていますが、放射線治療の後遺障害というのは一定の期間をおいて出てくることもあり、まだまだ油断はできません。
また、皮膚への照射線量を分散させるための調整の影響か、肺への放射線照射範囲は私が想像していたよりも広くに及び、比例して放射線肺臓炎を来した肺野も広くなり、プレドニゾロン内服期間がかなり長くなりました。
治療開始前が1Lちょっとでしたので、おそらく今の母の肺活量は、確実に1Lを下回っているだろうと思います。
そんなわけで、母の自宅療養については不安を感じていました。
諸般の事情で母と同居できず、私自身いつも申し訳なく感じていますが、独居であることを除いては母の療養環境は恵まれているようです。
片道5分程度の場所にあるスーパーまでを最大半径とした行動範囲で概ね生活が回ります。
家業の関係で、しょっちゅう人が出入りして、あれこれ話をしていきます。
家業を回転させるために常に頭を使います。
私のほか、本人のきょうだいや親族、地元の友人が頻繁に訪ねてきます。
温泉卵を茹でてはあちこちの親族やお客さまに送り付け、お返しに全国の山海珍味が返ってきて、またお返しを送ります。
どこまでが仕事で、どこからが付き合いや趣味なのか、もうよくわかりません。
母とお客さまが一緒に食事をしているところに、私も途中から混じるなどしばしばです。
肺がん、乳がん、関節リウマチ、うつ病、糖尿病などなど、病める方々がたくさんやってきて、お風呂に入って地獄蒸しで食事をして、母と話をして、なぜかみなさん活気を取り戻して帰っていきます。
とある会社の社長さんは、糖尿病による動脈硬化で足先が壊死しかけていたところ、実家の温泉で湯治を始めてからみるみる血行が良くなったそうで、それからというもの実家の一室に住みついてしまいました。
何が言いたいのかというと、母にとって生活に必要なほどほどの運動が身体機能のリハビリとなり、家業の運転や多様なみなさんとの付き合いが高次脳機能の維持に役立っているようだということです。
幸い母はまだ五感が健在なので、人とのコミュニケーションには支障がありません。
同じ話を繰り返すことが以前よりも増えましたが、確認を兼ねてあえてそうしているのだろうと前向きにとらえています。
以前の私ならば、肺がんの診療において肺がんにしか目が向かず、こうした生活に必要な身体機能、認知機能の維持には配慮ができませんでした。
むしろ、治療に必要な身体機能、認知機能がなければ、治療を受ける適応(資格)がないと判断してしまうようなところがありました。
治療に必要な体力、認知機能、療養環境を整えるところにも目配りしなければならない、というのは、地元に帰ってきて自然と老年期医療に携わるようになって、はじめて見えてきた視点です。
生活の質を心地よく保ちながら長く治療を続けるには、身体・認知機能の維持と療養環境の整備はとても大切だと考えるようになりました。
2024年12月09日
2022年01月04日の記事より・・・終末期医療におけるささやかな目標
2021年末から終末期医療を続けている患者さんが2人いらっしゃいます。
ひとりは高度の認知症を背景とした進行肺小細胞がんの患者さんです。
実家の近所にお住まいで、私が子供のころ、血縁の方に子供会や自治会の行事であちこち連れて行っていただきました。
病気に対する本人の理解は全く得られず、できることは対症療法のみでした。
確定診断から3ヶ月くらいしか持たないでしょうと当初ご家族にはお話ししましたが、すでに半年を経過しました。
今年に入って食事、内服、意思疎通ができなくなり、いよいよお別れのときが近づいてきていたようです。
浮腫のためふつうの点滴治療ができなくなり、ご家族と相談の末、最期まで苦痛緩和目的の治療ができるようにと、年始早々からではありますが右脚の付け根から中心静脈輸液を開始しました。
結局あくる日の未明に亡くなりましたが、お見送りの際にお話したところ、十分に手を尽くした、ということでご家族は納得されたようでした。
もうおひとりは、末期腎盂がんの患者さんです。
側腹部痛を契機に腎盂がんと診断しましたが、紹介先で摘出術をしたところ切除不能のリンパ節転移が明らかとなり、手つかずの部分を残したまま退院してこられました。
リハビリを続けていたのですが、晩秋に多発脊椎転移が明らかとなりました。
その後は衰弱の一途をたどり、満足に食事もできなくなりました。
「ここまできたらじたばたしても仕方がない」
「病院で寂しい最期を迎えるよりは、家族と一緒に住み慣れた環境で過ごしたい」
「お茶漬け、赤だし、おしんこを食べたい」
と希望され、中心静脈点滴、在宅酸素療法、訪問診療、訪問看護等を整備して、年の瀬を迎える前になんとか在宅医療に持ち込むことができました。
退院してもごはんは喉を通りません。
退院してもほとんどご家族と会話を交わしません。
でも、明らかに表情が柔らかくなりました。
喉を通らなくても、ほんの数口でも、自ら希望して食事をとるようになりました。
新型コロナウイルスオミクロン株の市中感染が確認された都道府県から帰省されたご家族とも、一緒に年末年始を過ごすことができました。
治療やケアもさることながら、同じ時間・空間をご家族と共有できる環境を整えることも、われわれスタッフの使命なのでしょう。
2024年12月09日
2022年01月03日の記事より・・・代替医療に関する私見
12年前の年末にも、この話題について書きました。
改めて刷りなおすことにしました。
12年前もそうでしたし、3回目のブログお引越しになる今回も、状況は変わりません。
お願いしてもいないし、逆に申し出もないのに、早速ブログに代替医療のリンクが貼られることがあります。
とはいえ、プラットフォーム(ブログ基盤)収益確保のためにこうした広告が貼られるのはやむを得ないことです。
本ブログのテーマに引っ張られてのことか、貼られる広告があまりにも代替医療関連のものばかりだったので、心配した以前の職場の上司が
「大丈夫?」
とご連絡をくださったほどでした。
一定の利用料をプラットフォームに支払うと広告貼り付けを拒否できます。
お支払いをしたら、本当にきれいさっぱり広告がなくなりました。
今回も利用料支払いの手続きをしようと思っています。
一方で、利用料をどこから捻出するのか考えなければなりません。
代替医療については、いろいろな意見があります。
今のところ代替医療について深く勉強したことがない(する気にならない)ので良いとも悪いともいえません。
一部の医療機関では、「代替医療相談専門外来」なんてのも開設されているようです。
ただ、はっきり言えることは、これまでの社会人生活の中で代替医療が奏効した患者さんの経験はありません。
このテーマで初めて記事を書いた当時も、12年経過した今も、基本的には変わりません。
たったのひとりも経験がありません。
ですから、経験上自分からはお勧めできません。
無料ブログへの貼り付けを含めた派手な広告をお金をかけて展開している代替医療を提供する事業主が、そのお金の回収のために高額な治療費を請求するのは事業としてやむを得ないことだと思いますが、治療を受ける患者さん、ご家族にはそうした仕組みをきちんと理解していただかなければなりません。
私の患者さん、あるいはご家族が、自由意思で代替医療を始めたいと希望したときは、あなたがたの責任の範囲内であれば結構ですよ、とお話しすることにしています。
知人・友人から勧められて、無碍に断ることもできず代替医療を開始した、というケースも少なくありません。
私自身、親族にせがまれて、「水素水」の本を買って読みましたし、実際に水素水を買って飲ませもしました。
飲ませている期間の治療は全く効きませんでした。
知人が以前くれたサルノコシカケを煎じて飲んだとも聞きました。
これまた全く効きませんでした。
効果はともかくとして、自由意思で代替医療を受けることによる精神的な安寧効果はあるでしょう。
2024年12月09日
2022年01月02日の記事より・・・新年を迎える幸せ
こちらの絵は、今年の年賀状に私の母が印刷したものです。
私の実家は祖父の代から大分県別府市鉄輪で貸し間旅館を営んでいます。
そしてこの絵は、常連客だったお客さまが生前に鉄輪を散策し、実家にたくさん遺してくださった水彩画からの1枚です。
毎年母は、特に懇意にしているお客さまへの年賀状として、毎年1枚を遺作から選び出して印刷し、ひとことを添えて皆様にお届けしています。
私の実家は祖父の代から大分県別府市鉄輪で貸し間旅館を営んでいます。
私の実家はお部屋をお貸ししてあとはほったらかし、どうぞ好きにやってください、ということで、これといったサービスも致しませんし、お食事も出しません。
それでも、お客さまは皆さん、気ままに内湯に浸かったり、近所に点在する多様なおお風呂に出かけたり、食材を持ち込んで地獄蒸しにして堪能したりと、楽しんでおられるようです。
敷地内の最古の建物は築80年を超え、随分とガタがきています。
今もなお濛々と噴気を噴き上げる温泉の蒸気にさらされて、あちこち傷み、シロアリにやられていないところはほぼありません。
それでも、温泉や地獄蒸し、自由気ままな生活、そして母の人柄に触れるのを楽しみにお越しになるお客さまは、母が進行肺がんを患ったのちも後を絶ちません。
今年のお正月は比較的国内の新型コロナウイルス感染者数が落ち着いていることもあって、客室はほぼフル稼働です。
私のきょうだいをはじめ、県内外の親族も帰省して、実家はとても賑わっています。
昨年は、母と義父が進行肺腺がんと診断され、社会人になってこれまでで最も精神的に追い込まれた1年でした。
親族が自分の専門領域の病気に苛まれたとき、こうまでも自分は無力で、まともな判断ができないものかと打ちのめされました。
悔やんでも悔やみきれない失敗をいくつもおかし、叩きのめされ、救いを求めました。
そして今は、たくさんの人に助けられ、母も義父も現代の肺がん薬物療法の恩恵を最大限に受けて、最初の1年を乗り越えることができました。
助けてくださった方々にはどんなに感謝してもしきれません。
家族そろって新年を迎えることのできる幸せは、これまでの一生の中でいちばん大きく感じています。
今年からは、単に肺がん診療に携わる医師としてだけでなく、母と義父の闘病生活を支え、実家のこれからを考える家族として、経験と苦悩、そして感謝を書き記していこうと思っています。