2016年12月25日

ALK肺癌の治療戦略

第57回日本肺癌学会より

イブニングセミナー8
<ALK陽性肺癌の治療戦略-エビデンス、耐性機序、実地臨床>
・典型的な患者例提示
 51歳女性 
 喫煙歴なし
 倦怠感、咳、呼吸困難が2ヶ月間続いた
 両肺に多発結節あり、胸水あり
 脳転移あり
 ALK陽性腺癌と診断
 初回治療としてクリゾチニブの投与を開始し、定位脳照射を行った
 治療開始から13ヶ月後に、多発肺病巣の悪化と新規脳転移巣の出現で病勢進行となった
 二次治療としてセリチニブに変更したが、15ヶ月後に中枢神経病巣の悪化により病勢進行となった
 三次治療としてアレクチニブに変更した
・ALK融合遺伝子陽性肺癌は70-75%が非喫煙者で、年齢中央値は50-60歳
・クリゾチニブに関連したpivotal studies
PROFILE 1001試験(第I相)
PROFILE 1005試験(第II相)
PROFILE 1007試験(第III相、二次治療)
PROFILE 1014試験(第III相、一次治療)
・脳転移を有する患者に対するクリゾチニブの有効性
 Costa et al, WCLC 2013
・分子標的薬に対する耐性機序
 Lovly et al, Clin Cancer Res. 2014 May 1;20(9):2249-56
・ALK阻害薬に対する耐性機序の1/3は二次的なALK遺伝子異常
 ALK増幅
 二次的なALK遺伝子変異(ゲートキーパー変異)
  L1196M
  C1156Y
・各ALK阻害薬の開発状況
 Ceritinib(LDK378) 第III相まで進行
  第I相:Shaw et al, N Engl J Med 1189-1197, 2014
   Kim et al, Lancet Oncol, 2016
  第II相:ASCEND-5試験
Scaglliotti, ESMO 2016, PFS 5.4ヶ月 vs 1.6ヶ月, ハザード比0.49
 Alectinib 第III相まで進行
 Brigatinib 第III相まで進行
 Ensartinib 第III相まで進行
 Lorlatinib 第III相まで進行
 TPX0005 第I相まで進行
・ASCEND-8試験
 Global study、Ceritinibは食事の影響を受けるが、それを検証する試験
 Dziadziuszko et al, WCLC 2016
・Alectinibの成功:AF-001JP試験
・Ou et al, ASCO 2015, Alectinibのglobal 第II相試験
・Gadgeel et al, WCLC 2015
 Alectinibは脳転移を有する患者に対して高い効果を示す
 CNS-ORRはCeritinibで36%(ASCEND-1試験)-45%(ASCEND-2試験)、Alectinibで57%(global第II相試験)-75%(北米での試験)
・耐性機序とその個別対策
 Gainor et al, Cancer Discov. 2016 Oct;6(10):1118-1133
 耐性が現れる直前まで行っていた治療によって、耐性変異の表れ方も異なる
 →再生検を行い、検出された耐性変異によって次治療を考える
 By-pass trackが関わっていたら、場合によっては併用療法を検討する
 ALK耐性化の50%はBy-pass trackで耐性化
  Crystal et al, Science 1480-1486, 2014
AZD6244 + Ceritinib comboでMAPK2K1 K57Nを凌駕できる
Hrustanovic et al, Nat Med. 2015 Sep;21(9):1038-47  
Trametinib+CeritinibでMEK増幅を凌駕できる
・By-pass track
 EGFR, c-kit, MET, IGF-1R, HER2/HER3, SRC, MAPK
・ALK-TKI treatment sequence
 一次治療:Crizotinib
 二次治療:Ceritinib or Alectinib
 三次治療:再生検を行って治療選択、By-pass trackならcomboを
・ASCEND-4試験 WCLC 2016
 一次治療におけるCeritinib vs CDDP+PEM→maintenance PEM
 Ceritinibの無増悪生存期間中央値は16.6ヶ月だった
・結局、一次治療で何を使う?
 Best treatment sequenceで全生存期間延長を狙う
・対象患者の集団が少ないため、comboの臨床試験は成立しにくい
 むしろ、初回治療からcomboを行うコンセプトの方が可能性がある
 
 


 
  

2016年12月25日

各種バイオマーカーについて

第57回日本肺癌学会総会より

<肺癌薬物療法の実用的バイオマーカー>

S10-1:
<EGFR遺伝子変異陽性肺癌のバイオマーカー>
・minor mutation
Kobayashi et al, Cancer Sci 2016
・Exon 20挿入変異:T790M同様、EGFR阻害薬耐性あり
→中にはEGFR阻害薬が効くものもあり
・EGFR kinase domain duplication
Gallant et al, Cancer Discov 1155-1163, 2015
Afatinibの効果が期待できるタイプ
・BIM遺伝子欠失多形によるEGFR阻害薬感受性の低下
 Vorinostat併用でEGFR阻害薬感受性になる
 VICTORY-J試験が進行中
・第3世代EGFR阻害薬に対する耐性化の問題
 C797S変異, Neiderst et al, Clin Cancer Res 3924-3933, 2015
  T790MとC797Sがtransに存在すれば第1世代と第3世代のEGFR阻害薬の併用で対応
  T790MとC797Sがcisに存在する場合はEAI-045とcetuximabの併用で対応可?
   Jia et al, Nature 129-132, 2016
・T790M screening:liquid biopsy
 血液検体、尿検体で行う
 Liquid biopsyでT790Mが検出された場合、最初から第3世代を使用するか、病勢進行が確認される前に治療を変更するのか、病勢進行が確認されてから治療を変更するのか、選択を迫られる
・病勢進行の形式
 Gandara et al, Clin Lung Cancer, 2014
  Systemic PD
Oligo PD
Brain “sanctuary” PD
→Oligo PDの概念は、TNM分類第8版の病期分類に取り入れられている
・in vivoでMET増幅陽性の腫瘍細胞に対して、gefitinib+crizotinib併用で制御可能
→gefitinibのみ、crizotinibのみでは制御不能
→Osimertinib+crizotinibなら毒性も軽めに抑えられるかもしれない
・tumor heterogeneity
 Hata et al, Nature Med, 262-269, 2016
 T790Mにも2種類ある
de novo T790Mとdrug torelant T790M

S10-2:
<ALK融合遺伝子陽性肺癌のバイオマーカー>
・FISH法の実際
 まず50個の細胞をカウントする
  25個以上の細胞が陽性なら「ALK-FISH陽性」と判定 
  5-25個の細胞が陽性なら「保留」
  5個以下の細胞が陽性なら「ALK-FISH陰性」と判定
 「保留」では、さらに50個の細胞をカウントする
  15個以上の細胞が陽性なら「ALK-FISH陽性」と判定
  15個以下の細胞が陽性なら「ALK-FISH陰性」と判定
 →極めてアナログな手法、人手がかかるため、検査費用は人件費のために高額になる
・免疫染色(iAEP法)でスクリーニングし、FISHで確認
→iAEP法とFISH法を両方行うと、検査費用の方が保険償還される費用よりも高い
→陽性患者がたくさんいると、病院がどんどん赤字になるというジレンマ
・J-ALEX試験がLancet誌にアクセプトされた
→世界規模で考えてもインパクトが大きい結果であったことの証
・ASCEND-4試験(WCLC2016)では、ALK陽性はIHC(Ventana)のみで確認
→FDAはCeritinibの適用条件として、IHC(Ventana)のみで可とした
・耐性化の問題
 様々なゲートキーパー変異が報告されている
 G1202R変異はCrizotinib、Alectinib、Ceritinib全て無効
 Lorlatinib, Brigatinibは効果あり
 By-pass trackも考慮しなければならない
  MET増幅→Crizotinib推奨
  IGF-R変異、などなど
・Eusantinib、Entrectinibは日本発のALK阻害薬

S10-3:
<multiplex遺伝子解析>
・Sunami, Kohno et al, J Thorac Oncol 2016
EGFR 53%
KRAS 9.4%
HER2 1.9%
BRAF 0.3%
ALK 3.8%
RET 1.9%
ROS1 0.9%
NRG1 0.3%
MET skip 2.8%
・MET Exon 14 skipping mutation:Capmatinibが有効?
・LC-SCRUMは2016年12月現在で、3,700人の患者を集積した
・途中で調べたところ、2,514件は新鮮凍結検体、767件は液性検体(胸水)で提出されていた
・全体の10%程度でRNA不足、DNA不足で解析不能だった
・クライオプローブは大きな、しかも良質な検体が採取できる
・LC-SCRUMで使用しているOncomine Cancer PanelはもともとFFPE用のパネル
・FFPEでのconfirmationも行い、将来的にはFFPEでmultiplex解析ができるようにしたい
・RET, ROS1, ALKでPCRとNGSのconcordanceを検討したが、concordance rateはどれも0.99と良好
・LC-SCRUMは、2017年度よりEGFR遺伝子変異陽性患者も登録可能になり、複数回登録も許容し、パネルはGuardant 360へ移行、liquid biopsyも検討中

S10-4:
<PD-1阻害薬のバイオマーカー>
・PD-L1免疫染色は様々ながん種でバイオマーカーになりうるのか?
 Louis et al, PLoS ONE 1837-1846, 2016
・KEYNOTE-024でDAKO 22C3抗体を用いた
・扁平上皮癌では、Nivolumabの効果はPD-L1発現状態に依存しない
・非扁平上皮癌では、Nivolumabの効果はPD-L1発現状態と相関する
・AtezolizumabとPD-L1発現状態の関係
 腫瘍細胞だけでなく、腫瘍浸潤炎症細胞でも評価
 Barlesi et al, #LBA44, ESMO 2016
・Blueprint project, J Thorac Oncol 2016
 IASLC, ASCO, Bristol-Meyers squib, Roche, AstraZenekaが共同で検討 
 22C3抗体、22-8抗体、SP-142抗体、SP-263抗体で検討、各抗体の相関は不十分で代替はできない
・二次治療でNivolumabとPembrolizumab、どちらを選べばいい?
・WJOG PC1617L試験
 PD-L1発現状態が1%-49%の患者を対象に、Nivolumab vs Pembrolizumabの無作為化比較試験を検討中
・PD-L1発現<1%の患者群でも、10%程度の奏効割合あり
→PD-L1発現<1%の患者に対して、抗PD-1抗体の適応なし、と断定できるのか
・Chen et al, Immunity 39(1) 1-, 2013
 がん免疫サイクルにおいて、PD-L1はその一部にしか関わっていない
・Michele et al, Clin Cancer Res 2139-2145, 2015
 腫瘍微小環境をI型からIV型まで分類
・TCR-MHC複合体
 El-Osta et al, Oncotarget and therapy 2016
・Tumor mutation burden(TMB)
 Rizvi 2015
Schumacher et al, Science 2015
ASCO 2016 #9017
・Neoantigen-Clonal neoantigen
McGranahan et al, Science 1463-1469, 2016
・MANA reactivity
WCLC 2016 #4352
in vitroでclonal expansion evaluation by neoantigen
・腫瘍組織を用いたバイオマーカー開発
・末梢血を用いたバイオマーカー開発

S10-5:
<liquid biopsy>
・Cobas ver.2はCE, FDA承認済み
 Ann Oncol 2016, v1-v27
 ESMOガイドライン2016にliquid biopsyも書き込まれている
・MBP-QP法によるEGFR遺伝子変異の経時的モニタリング
・HASAT study, Aragane et al, Cancer Sci, 2016
 T790MはPD時にliquid biopsyで検出できるようになる
 新規病変によるPDならT790M陽性患者の52%でliquid biopsy陽性
 原発巣増大によるPDならT790M陽性患者の17%でliquid biopsy陽性
・liquid biopsyとtissue biopsyの一致率は50-60%程度
・Oxnard et al, J Clin Oncol 2016
 sEGFRmとT790Mでは、tissue biopsyとliquid biopsyの間の一致率が異なる
 sEGFRmでは一致率が高く、T790Mでは一致率が低い傾向
・佐賀大学で、T790M検出についてCobas ver.2による組織生検検体とMBP-QP法によるliquid biopsy検体の同等性を検証するオープンアクセス臨床試験を行っている
  

Posted by tak at 21:17Comments(2)検査法

2016年12月25日

アンコールセッション(SLCG0402とJ-ALEX)

第57回日本肺癌学会総会より

<アンコール・セッション>

ES-1:
<SLCG-0401試験>
・病理病期IB-IIIA期の完全切除後非小細胞肺癌患者を対象とした術後補助化学療法の第III相試験
・UFT群(U群)を標準治療群として、CBDCA+PTX療法群(C群)の優越性を検証する目的で開始した
・主要評価項目は全生存期間
・副次評価項目は無再発生存期間、毒性
・期待5年生存割合をU群45%、C群60%として、αエラーを0.05、βエラーを0.2とした
・各群200人を集積することにした
・2004年11月から2010年11月の間に、403人を集積した
・5年生存割合はU群で73%、C群で70%だった
・5年無再発生存割合はU群で57%、C群で56%だった
・stage IBの患者サブグループでの5年生存割合はU群で86%、C群で82%だった
・stage II-IIIの患者サブグループでの5年生存割合はU群で55%、C群で56%だった
・腺癌の患者サブグループでの5年生存割合はU群で70%、C群で73%だった
・非腺癌の患者サブグループでの5年生存割合はU群で76%、C群で65%だった
・今回の患者集団でのCBDCA+PTX術後補助化学療法は推奨できない

ES-2:
<J-ALEX試験>
・前治療歴のないIIIB/IV/術後再発ALK遺伝子再構成陽性非小細胞肺癌患者(IHCとFISHの両方で確認)を対象とし、アレクチニブ群(A群)とクリゾチニブ群(C群)に無作為割付する第III相試験
・主要評価項目は無増悪生存期間
・A群103人、B群104人
・無増悪生存期間中央値はA群で未到達(95%信頼区間は20.3ヶ月以上)、C群で10.2ヶ月(95%信頼区間は8.2-12.0ヶ月)、ハザード比0.34(95%信頼区間は0.17-0.71)、p<0.0001
・奏効割合はA群で85.4%、C群で70.2%
・ほぼ全てのサブグループ解析でA群が勝っていた
・中枢神経系の転移を有する患者サブグループではハザード比0.09、有さない患者サブグループではハザード比0.37
  

2016年12月25日

EAST-LCとAURA3の日本人サブグループ解析

第57回日本肺癌学会総会より

<Plenary session>

PL-1:
<EAST-LC(East Asia S-1 Trial – Lung Cancer)>
・S-1 vs Docetaxel after platinum doublet, phase III study
・適格基準はPS 0-2, NSCLC, IIIB-IV期、前治療暦は2-3レジメンまで可(EGFR阻害薬使用歴があれば、計3レジメンまではOK)
・患者総数1,154人、ドセタキセル群に577人、S-1群に577人が無作為割付された
・主要評価項目は全生存期間とし、ドセタキセルに対するS-1の非劣勢を検証する
・副次評価項目は無増悪生存期間、治療成功期間、毒性、QoL
・日本、中国、台湾、香港、シンガポールが参加
・2010年7月から2014年7月まで患者登録
・2015年11月にデータカットオフ
・片側検定で有意水準を0.025とし、検出力は80%、非劣勢マージンは1.2と設定
・ドセタキセル群は総数570人、うち日本人は359人、年齢中央値は62歳
・S-1群は総数577人、うち日本人は361人、年齢中央値は62歳、
・全体の全生存期間中央値はドセタキセル群で12.52ヶ月、S-1群で12.75ヶ月、ハザード比は0.945(95%信頼区間は0.833-1.073)で非劣勢が証明された
・日本人サブグループにおける全生存期間中央値はドセタキセル群で12.63ヶ月、S-1群で13.37ヶ月、ハザード比は0.922(95%信頼区間は0.789-1.079)
・全体の無増悪生存期間中央値はドセタキセル群で2.89ヶ月、S-1群で2.86ヶ月、ハザード比は1.033
・日本人サブグループにおける無増悪生存期間中央値はドセタキセル群で2.96ヶ月、S-1群で2.92ヶ月、ハザード比は1.043
・全体の奏効割合はドセタキセル群で9.9%、S-1群で8.3%
・ペメトレキセドによる前治療歴、組織型では効果に差はなかった
・QoLはS-1の方が有意に優れるものの、QoLスコア差は5.11と、有意(p=0.0025)ながら小さな差だった
・治療中止理由として、ドセタキセル群は毒性中止が、S-1群は病勢進行による中止が多かった
・S-1群でやや後治療がなされた患者が多い傾向にあった
・脱毛、神経障害はドセタキセル群で多かった
・今後、どのようにペメトレキセドと住み分けをするか
・late lineでのS-1+TAS114の第I相試験では、奏効割合が31.3%と良好
・WJOG7512L試験:扁平上皮癌を対象とした、CBDCA+S-1±S-1維持療法の第III相試験がon-going

PL-2:
<AURA3試験>
・EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌と診断され、EGFR阻害薬による一時治療後に病勢進行に至り、T790M耐性変異が確認された患者を対象とした
・2:1の割合でOsimeritinib群(O群)とプラチナ・ペメトレキセド併用療法群(P群)に無作為割付した
・O群は総数279人(うち日本人は41人)、P群は総数140人(うち日本人22人)
・O群は白人32%、アジア人65%、その他3%
・P群は白人32%、アジア人66%、その他2%
・途中でプロトコールが改訂され、P群で病勢進行に至った後はOsimertinibへの治療変更が可能となった
・両側検定、有意水準は0.05、検出力は80%
・日本人サブグループにおける無増悪生存期間中央値はO群で12.5ヶ月(95%信頼区間は6.9ヶ月から未到達)、P群で4.3ヶ月(95%信頼区間は4.0-6.7ヶ月)、ハザード比0.27
・AURA2試験における日本人サブグループの無増悪生存期間中央値は13.9ヶ月だったので、再現性あり
・脳転移を有する患者群でのサブグループ解析では、無増悪生存期間中央値はO群で8.5ヶ月、P群で4.2ヶ月、ハザード比0.32
・脳転移のない患者群でのサブグループ解析では、無増悪生存期間中央値はO群で10.8ヶ月、P群で5.6ヶ月、ハザード比0.40
・全体の奏効割合はO群で71%、P群で31%
・日本人サブグループでの奏効割合はO群で71%、P群で36%
・日本人サブグループでの奏効持続期間はO群で11.1ヶ月、P群で4.1ヶ月
・もともとのEGFR遺伝子変異タイプ別に、効果が若干異なり、Exon 19 deletionの方が効果が高い
・Transient asymptomatic pulmonary opacity(TAPO)
 Noonan et al, J Thorac Oncol 2253-2258, 2016
・Osimertinibによる間質性肺炎発症割合
 全体では10人/279人(4%)
 日本人サブグループでは3人/41人(7%)→Grade 3以上は0人
・AURA3には1,036人がentryしたが、T790Mが確認されて試験に参加できたのは419人
→2-3人に1人しか参加できなかった
・病勢進行が確認されてから再生検が行われるまでの期間中央値が43日間、再生検が行われてからOsimertinibの投与が開始されるまでの期間中央値が29日間、合わせると病勢進行が確認されてからOsimertinibの投与が開始されるまでの期間中央値は72日間、これをいかに短縮するかが今後の課題
  

2016年12月25日

医療経済から見た適正な肺がん診療

第57回日本肺癌学会総会から

SP 1-1:
・Malone, J Clin Oncol 2016
 医療経済についてのISPORからのステートメント
 社会全体にとっての治療選択とは
・医師の難しい立ち位置
 “double agent(二重の代理人)”, Blomqvist, 1991
 受益者たる患者と、負担者たる納税者の狭間に立たされている

SP 1-2:
・HTA:Health Technology assessment(医療技術評価)
・HTA機関のガイドライン
 ESMO、ASCOいずれのガイドラインにも、治療コストについては言及されていない
・EULAR(Europeの関節リウマチ治療ガイドライン)2013年版では、治療コストについての記載がある
・「黒船襲来」
 ソバルディ、ハーボニー(HCV感染治療薬)の1ヶ月薬価:100-160万円
 ニボルマブの1ヶ月薬価:260万円
 レパーサ(脂質異常症治療薬)の1ヶ月薬価:4万円
・ソバルディ、ハーボニーは30%offへ、ニボルマブは50%offへ
・「費用対効果」における・・・
 費用=治療介入そのものの費用-将来に見込める医療費削減
 効果:健康上のメリット
・QALY
 肺癌の場合:症状なしの場合の係数は0.75、症状ありの場合の係数は0.5
 ある治療をしたとき、症状なしで0.5年、症状ありで0.5年過ごして亡くなったとしたら
 QALY=0.5×0.75+0.5×0.5
・HTA評価で認定されなかったときの救済措置
 英国NICEでは
  Patient access scheme:企業が「非公開で」値引きし、一定期間後に無償供与
  Cancer Drug Funds:国家予算を用いて国が補助する
・日本における費用対効果
 費用:国内データを参照
 効果:海外データであっても可
 QoL:原則的に国内データを用いる
・旧薬の費用対効果が低いとき、はたしてそれと新薬の比較に意味があるのか?

S9-2:
<肺癌診療の医療経済-日本の高額医療>
・HTAは日本では試行的に導入されている
・費用対効果=cost vs QALY(Quality Adjusted Life-Year)
・英NICE(National Institute for Health and Care Excellence):1999年に設立
・一般薬では、20,000-30,000ポンド/QALY以下は推奨
 申請のあった249品目中、49%は推奨に採択されていた
・抗がん薬では、50,000ポンド/QALY以下は推奨
 申請のあった88品目中、40%が推奨に採択された
・中央社会保健医療協議会内に費用対効果専門部会が設置された
・一般に、ある薬について企業が提出する増分費用効果比(ICER、比較対象よりどれだけ効果が増えるか÷比較対象よりどれだけ費用が増えるか)は、政府が試算したICERより低額になる(そのため、治療が安上がりに見える)ことが多い
 例) カナダ政府と製薬企業のやり取り
  扁平上皮癌に対するNivolumabの増分費用効果比
   企業提出資料:ICER=$151,560
   政府見解資料:ICER=$219,660
  政府としては、効果が高く保険償還したいと考えているが、より一層ICERが低額になることが条件

S9-3:
<内保連の見解>
・国民皆保険を守るために・・・
1)薬価の見直し(市場拡大再算定、およびその特例)
  薬の適応の拡大により治療対象が増えて、企業収益が大きくなったときに、2年に1度の定期薬価改訂よりも早くに薬価を見直して引き下げる
→薬価を安くすることは国民や政府にとっては助かるが、企業の新薬開発意欲を削ぐ
2)適正使用ガイドライン
 適切な患者選択
 使用可能医師、使用可能医療機関に要件をつける
3)保険収載のあり方の見直し
・当局の介入方法に関する、英国と日本の違い
 英国では薬価が決定し、薬が使われ始めてから、保険償還するかしないかの判断の際にNICEが介入する
 日本では、薬事申請から製造承認の過程にPMDAが介入するが、薬価の決定、保険償還の是非判断にはPMDAは関わらない
・ICERの限界値
 英国:3万ポンド
 米国:5万ドル
・仏、英、蘭における新薬審査では、費用対効果は勘案していない
・コスト削減のための政府・医師主導の臨床試験が必要

S9-4:
<ドイツにおける薬事承認>
・EGFR-TKI:ICER=⊿$110,000から$130,000 QALY
・Atezolizumab:ICER=⊿$200,000 QALY(vs docetaxel)
・to consider different insurance system and reimbursement system
・Ramcirumab:additional benefit not proven
 ICER=⊿81,566.68 €
・Nintedanib:marginal benefit proven
 ICER=⊿38,430.20 €
・Necitumumab:additional benefit not proven
 ICER=60,043.66 €
・Osimertinib:additional benefit not proven
 ICER=97,696.87 €
・Nivolumab for Squamous cell carcinoma:Significant benefit proven for 90% patients
 ICER=106,565.23 €
・”Most effective approach is SMOKING CESSATION.”

S9-5:
<臨床現場での効率化の可能性>
・大腸がんの領域で、bevacizumabの代替にramcirumabがなり得るか?
→治療効果はほぼ同等、値段は3倍(150万円→450万円)
→演者の病院におけるレジメン登録委員会では、全会一致でramcirumabを不採用とした
・PointBreak試験
 非小細胞肺癌におけるCBDCA+Pemetrexed+bevacizumabは追加治療効果なく、高額
・Nivolumab has come!
 Highly effective, high cost.
 →治療効果が高いので、薬価が高いから不採用、という判断はできない
・Pseudo-progressionの問題、ASCO 2016
 N=535、414人は病勢進行後は治療中止、121人は病勢進行後も治療継続、121人のうち10人(8%)はその後に部分奏効(PR)に至った
・Nivolumabの治療効果予測因子、ESMO 2016
 治療開始後にIL-8が低い患者群では、奏効することが多い
 ただし、治療前の予測には役立たない
・二次治療としてのNivolumabについて、JCOGが計画中の臨床試験
 二次治療としてNivolumab投与開始→一旦中止して、病勢進行を確認したらNivolumabを再開する群と、中止せずに病勢進行までNivolumabを使い続ける群を比較
・cohort研究でCSPOR
 「Pseudoprogressionではない真のPDの患者」を早期に見つけて治療を中止する臨床試験
・JAMA oncology 2016に載っていた金言
「臨床試験における患者の全生存期間は、実地臨床における患者の全生存期間の代替エンドポイントである」
・「この検査結果を踏まえると、この治療は効果が期待できるでしょう」という場合には、患者も医師もその治療を始めるのに迷わない
・「この検査結果を踏まえると、この治療の効果は期待できないでしょう」という場合に、患者が会えてその治療を希望した場合(他に治療選択肢がない場合など)、医師はどう対応するのが適切なのか
→治療効果が期待できず、高額な医療費がかかるとわかっていても、その治療を行うべきなのか
  

Posted by tak at 17:08Comments(0)医療経済

2016年12月25日

免疫チェックポイント阻害薬に関連して

第57回日本肺癌学会総会より

イブニングセミナー1:免疫チェックポイント阻害薬

・CheckMate-017(扁平上皮癌)Nivolumabの奏効持続期間は25.2ヶ月
・CheckMate-057(非扁平上皮癌)Nivolumabの奏効持続期間は17.2ヶ月
・非扁平上皮癌に対するNivolumab療法は、治療開始から3ヶ月以内の死亡例が多い
 治療開始から3ヶ月以内の死亡割合:Nivolumab 20.2% vs Docetaxel 15.2%
・CheckMate-057では292人中71人で病勢進行後もNivolumab投与継続、そのうち15人では後に腫瘍が縮小した
→Borghaei, N Engl J Med 1627-,2016 appendix
・CheckMate-057とQoL:ASCO 2016 #9031
・市販後調査9,000人集積段階での有害事象
 間質性肺障害:3.9%、発現時期の中央値は治療開始から37日
 甲状腺機能異常:2.7%
 腸炎、下痢:2.2%
・pseudo-progressionでは腫瘍マーカーも上昇することがある
・2016年12月19日、Pembrolizumab(keytruda)が製造承認を取得
・CheckMate-026
 PD-L1>5%の患者を対象に、一次治療でNivolumab単剤療法(n=271)とプラチナ併用化学療法(n=270)を比較
 無増悪生存期間が主要評価項目だったが、優越性を証明できず
全生存期間中央値は14.4ヶ月vs15.2ヶ月
 奏効割合は26.1%vs33.5%
 病勢進行割合は27.5%vs9.9%
・CheckMate-227
 化学療法 vs Nivolumab vs Nivolumab+Ipilimumab
・KEYNOTE-024
 一次治療におけるPembrolizumabとプラチナ併用化学療法を比較
 PD-L1>50%の患者を対象に限定
・免疫チェックポイント阻害薬とPD-L1免疫染色
 Nivolumabに関して言えば、扁平上皮癌の治療では役に立たない
 非扁平上皮癌では、DAKO 28-8抗体が有効か
  

2016年12月25日

EGFR遺伝子変異関連

第57回日本肺癌学会総会より

O-1-36:
<EGFR minor mutation>
・backgroundはLC-SCRUMに参加したEGFR mutation(-)の患者群
・1,519人中56人(3.7%)でEGFR minor mutationを検出
・Ex.20は24種のmutationを42人で検出し、もっとも頻度が高かった
・AfatinibとOsimertinibのIC50が低く、効果がありそう

O-1-37:
<ASSESS study – ctDNA assessment in plasma, Europe and Japan>
・n=1,311
Japan 300
France 145
Germany 346
Italy 259
Netherland 27
Spain 158
Sweden 17
UK 59
・生検検体と血液検体のセットが得られたのは1,162人
 感度 46%、特異度 97%
・EGFRを検出するための検査法は国や施設によってまちまち
・sEGFRmの頻度は189/1,162=16.3%
 年齢、遠隔転移の有無、喫煙歴などが結果と相関
・IGNITE study:sEGFRmの頻度は692/1,687=41.0%
  

2016年12月24日

DNAチップ研究所

第57回日本肺癌学会総会より

 学会最終日のランチョンセミナーだった。
 発表後の質疑応答のときに、
 「ALKやRETの異常もliquid biopsyで検出できる」
という驚きのコメントが飛び出した。
 DNAチップ研究所ではそういったニーズに応えるべく、日夜研究を続けているそうだ。
 
 DNAチップ研究所:https://www.dna-chip.co.jp/
 TEL:03-5777-1687
 興味がある方は、一度連絡してみることを勧める。

ランチョンセミナー25
<EGFR変異陽性肺癌における血中腫瘍DNAの動態病理>
・cell free DNA: cfDNA
 血中に溶解している細胞から放出されたDNA
 白血球などのもともと血中に浮遊している細胞由来のものも含む
・circulating tumor DNA:ctDNA
 cfDNAの中で、腫瘍から放出されたものに限る
・liquid biopsy
 液性検体から腫瘍構成成分を検出する技術
 最近の学会報告、論文では「ctDNA検出」という用語に置き換わりつつある
・変異特異的PCR
 変異部位依存性が高い
 多数の変異への対応が困難
 定量的検出は難しい
・digital PCR
 抽出したDNAを限外希釈し、96穴等のウェルに分注してPCR反応を起こさせる
 陽性となったウェルの数を数えることで半定量できる
・BEAMing法:beads, emulsion, amplification, magneticsの頭文字から命名
・半導体シーケンサーの開発:Rotherberg, Nature 2011
・liquid biopsyの取り組み
 Uchida, Clin Chem 1191, 2015
 PNA-LNA-PCR clump法で組織検体のEGFR変異を調べた結果をgolden standardとして、Deep sequencing法で血液検体を用いたliquid biopsyを行い、どの程度一致するかを調べた
 Deep sequencingの検出感度は、病期がII期までだと20%程度
 III-IV期だと70%超
 →進行期になると、ctDNAが増えるということか
・liquid biopsyの承認状況
 Therascreen法 Ex.19/21が対象 2015/1/12にEUが承認 陽性ならgefitinib使用可
 Cobas法ver.2 Ex.19/21が対象 2016/6/1にFDAが承認 陽性ならerlotinib使用可
 Cobas法ver.2 T790Mが対象 2016/9/29にFDAが承認 陽性ならOsimertinib使用可
・患者のうち1/3は、明らかな病勢進行の3-4ヶ月前から血中のEGFR遺伝子変異検出量が多くなる
・Oxnard, J Clin Oncol 3375-, 2016
 Osimertinibの治療効果とliquid biopsyの相関
・Deep SequencingでALK, RETの検索も実用化段階に入りつつある
  

Posted by tak at 23:30Comments(0)検査法

2016年12月24日

第3世代EGFR阻害薬の四方山話

第57回日本肺癌学会総会より

ランチョンセミナー1:
 New strategy for NSCLC harboring sensitive EGFR mutation
・T790Mについて
 Kobayashi, N Engl J Med 786-792, 2005
 Yun, PNAS 2008
 Sacher, Cancer 2014
・第3世代EGFR阻害薬
 Osimertinib(AstraZeneka)
 Olumutinib(Korea)
・resistance mechanism
 CNS penetration
 T790M
 Small cell lung cancer transformation
・第3世代EGFR阻害薬の嚆矢-WZ4002
 Zhou, Nature 2009
・AURA phaseII pooled analysis
 Yang, ELCC 2016
 N=411, mPFS 11months
・ASP9273:Yu ASCO 2016, ORR 30%, mPFS 6.0ヶ月
・EGF816:Tan ASCO 2016, ORR 46.9%, mPFS 9.7ヶ月
・AC0010:Wu WCLC2016, ORR 42%, mPFS not reached
・PF06747775:data not available
・AURA3 study, Mok, E Engl J Med 2016
 Patients reported outcome
Appetite loss, cough, etc.全てOsimertinib favored
・CNS penetration
Ballard, Clin CancerRes 2016
既知の第3世代EGFR阻害薬で、良好にCNSに移行するのはOsimertinibのみ
 Goss, WCLC2016
Non-measurable CNS n=78
Measurable CNS n=50, CNS-ORR 54%(95%CI 39-68%, CR 12%, PR 42%, SD 38%, PD 6%)
6ヶ月CNS-PFS: 72%, 12ヶ月CNS-PFS 56%
・Osimertinib development timeline, Yver, Ann Oncol 2016
・2017年から2018年の間くらいにはFLAURA studyの結果が出るだろう
・Osimertinibを術後補助化学療法に?
  

2016年12月24日

WHO分類2015施行から1年を経て

S3-1:
 The 2015 WHO Classification of Tumors of the Lung, Re-assessment after One Year of Practice.
・for resected lung cancers
1)Adenocarcinoma subtyping
 solid patterns
 micropapillary patterns
Nitadori et al, JNCI 2013
Leeman et al, Int J Rad Oncol 138-145, 2017
定位RT後の再発はmicropapillaryとsolid subtypeで多い
2)Spread through air spaces(STAS)
Kadota et al, J Thorac Oncol 806-814, 2015
adenocarcinomaのみならず、squamousでもSTASが見られる
3)multiple primary or intrapulmonary metastasesの鑑別診断
4)神経内分泌癌に対する免疫染色とKi-67 index
 Caplin et al, Ann Oncol 1604-1620, 2015
  TC(5%)<AC(5-20%)<LCNEC(>50%)<SCLC(>50%)
5)Grading of lung cancer
 Weichart et al, Eur Respir J. 2016 Mar;47(3):938-46
  「発芽」する扁平上皮癌と生命予後
6)Cribriform pattern is poor prognostic predictor
 ALKやROS1との関連が指摘されている
7)SMARC-A4とSMARC-B1変異
 Nature genetics, 1200-1205, 2015
 非喫煙者、若年者での小細胞癌、腺癌に関連している
8)ciliated muconodular papillary tumor
 Kamata et al, J Thorac Oncol 261-265, 2016
  BRAF V600E 40%
BRAF G606R 10%
EGFR Ex.19 30%
Others 20%
9)TNM分類 第8版
 Travis et al, J Thorac Oncol 2016
 腫瘍径の評価には、実測よりもCTを用いた方が現実的で正確
 Travisはホルマリン注入固定はしていない?
10)PD-L1の免疫染色
  

Posted by tak at 22:32Comments(0)その他

2016年12月24日

小細胞癌の治療について

第57回日本肺癌学会総会より

S5-0:
SCLC treatment strategy overview
・限局型小細胞癌
Pignon et al, N Engl J Med 327, 1618-1624, 1992
 3年生存割合:化学放射線療法 14.3ヶ月、化学療法単独 8.9ヶ月
 化学放射線療法では治療関連死も1%増える
Takada et al, J Clin Oncol 2002
 同時併用化学放射線療法の意義
Turissi et al, N Engl J Med 1999
 加速過分割化学放射線療法の意義
Auperin et al, N Engl J Med 1999
 予防的全脳照射の意義、3年生存割合は治療群で20.7% vs 非治療群で15.3%
・進展型小細胞癌
Noda et al, N Engl J Med 2002
 JCOG 9511、CDDP+CPT vs CDDP+ETP phase III
 生存期間中央値は12.8ヶ月 vs 9.4ヶ月
・再燃後の治療
Topotecan, CPT-11...sensitive relapseのみ
Amrubicin...sensitive relapse, refractory relapseどちらも可
米国で行われたAmrubicin vs Topotecan phase III
 negative trialだったが、refractory relapseのsubgroup解析では有意差をもってAmrubicinが優れていた

S5-1:
小細胞肺癌に対する術後補助化学療法
・米国の小細胞癌:1986年は全体の17.26%→2002年は全体の12.95%
・米国の術後小細胞肺癌の予後、Yang et al, J Clin Oncol 1057-1064, 2016
  完全切除後の小細胞肺癌954人
   術後補助化学療法(-)では生存期間中央値42.1ヶ月、5年生存割合40.4%
   術後補助化学療法(+)では生存期間中央値66.0ヶ月、5年生存割合52.7%
・日本の小細胞癌:2004年の肺癌切除例では、243/11663=2.1%
  Takei et al, J Thorac Oncol 1140, 2014
・日本で行われた小細胞癌術後補助化学療法試験
  JCOG9101, Tsuchiya et al, J Clin Oncol 2005
  高悪性度神経内分泌癌   90人
  小細胞肺癌        53人
  混合型小細胞肺癌     10人
  大細胞神経内分泌癌    25人
  混合型大細胞神経内分泌癌 2人
・術後小細胞癌(国立がん研究センター東病院)、n=26
 術前に小細胞癌と診断できていたのは14人(53%)
・術後小細胞癌の補助化学療法に関する論文
 Mizugaki et al, Jpn J Clin Oncol
・高悪性度神経内分泌癌に対する術後補助CDDP+CPT11のパイロットスタディー
 Kenmotsu et al, Lung Cancer 2014
 参加40人中28人で病理医7人による中央病理診断結果が完全に一致
・JCOG1205 / 1206
 n=220の規模で、術後補助化学療法としてCDDP+CPT11とCDDP+Etoposideを無作為化 第III相試験として検証
 130人まで登録済み
  

Posted by tak at 22:20Comments(0)化学療法

2016年12月24日

日本の実臨床におけるEGFR阻害薬の実情

第57回日本肺癌学会、1日目

O-1-38:
 A real world evidence of 1,660 Japanese patients with NSCLC harboring EGFR mutation
・2008年1月から2012年12月に初回治療が開始されたsEGFRm陽性NSCLC患者1,660人を対象に全生存期間を解析した
・第3世代EGFR阻害薬、免疫チェックポイント阻害薬を使用した患者は含まない
・予後因子について探索的検討を行った
・1,660人のうち、解析対象となったのは1,656人、data cut off時点で生存していた患者が256人、死亡した患者が1,140人、予後不明の患者が260人
・年齢中央値は67歳
・女性が64.3%
・IIIB期が7.5%、IV期が66.7%、術後再発が25.8%
・腺癌が95.2%
・Exon 19欠失変異が50.1%、Exon 21点突然変異が41.5%
・生存期間中央値は29.7ヶ月(95%信頼区間は28.13-31.40)
・3年生存割合は41.2%
・5年生存割合はIIIB期で39.1%、IV期で27.9%、術後再発で13.9%(ホントかな?術後再発のほうが長生きしそうだけど)
・年齢、組織型、EGFR遺伝子変異の種類、臨床病期、PS、喫煙歴が全生存期間と相関した
・一次治療でgefitinibが使用されたのは全体の56.0%、この患者群の生存期間中央値は27.0ヶ月、無増悪生存期間中央値は11.3ヶ月だった
・EGFR阻害薬が一度も使われなかった患者は2.9%
・治療過程全体に占める治療期間は、EGFR阻害薬±αが61.47%、platinum doublet±Bevacizumabが8.15%、その他の化学療法±Bevacizumabが8.07%、無治療が22.24%
  

2016年12月24日

TNM病期分類第8版の要約

 肺癌取り扱い規約第8版から、肺がん診療上もっとも影響が大きい病期分類について触れる。
 前回、第6版から第7版に改訂されたときも困ったが、今回の第8版ではさらにややこしくなった。
 どうややこしくなったか。

・大前提として、スライス厚2mm以下の高分解能CTを撮影しないと病期分類できない
・主病巣のスリガラス成分と充実性成分を別々に測定し、記録する
・原則として、充実成分径を腫瘍径として取り扱う
・腫瘍径1cm、2cm、3cm、4cm、5cm、7cmを境としてT因子を分類する
・微小浸潤性腺癌の概念が持ち込まれ、T1miと称する
・気管分岐部に及ばない主気管支浸潤は全てT2
・無気肺・閉塞性肺炎はT2
・横隔膜浸潤はT4
・胸郭内転移をM1a、他臓器単発転移をM1b、他臓器多発転移をM1cと細分化

 どうにかして手帳に貼るなり、電子カルテシステムに組み込むなりしないと、細かいところまで覚えこなさない。
 分類上の原則に変更はないので、内科医が治療を選択する際には大きな影響はなさそうだが。




  

Posted by tak at 20:24Comments(0)その他

2016年12月23日

肺癌取り扱い規約の改訂

 先般、日本肺癌学会総会が福岡市で開催された。 
 3日間、ほぼ朝から晩までずーっと勉強だった。
 レポート用紙が5-6冊、メモで埋まってしまった。

 興味深い話題は様々あったが、肺癌に関わる全ての人に一番影響が大きいのは、肺癌取り扱い規約が改訂されたことだと思う。

 肺癌取り扱い規約は、日本で肺癌を取り扱う際のルールブックだ。
 肺癌の検診、診断、手術、病理診断のあたりまでを扱い、薬物療法や遺伝子変異についてはあまり言及されていない。
 したがって、呼吸器内科、呼吸器外科、放射線科の医師にとっては必読の書で、常に外来・病棟やデスクに置いておきたい書籍だ。
 2017年1月1日から、国際的なUICC-TNM分類が改訂、運用されるが、我が国では今回の肺癌取り扱い規約第8版に準拠して診療を行うことで、自動的に改訂UICC-TNM分類にも対応できる。
 改訂まであと10日間もない。
 恥ずかしながら、今回の学会で耳にするまでは、改訂時期がこんなにも迫っているとは知らなかった。
 そして、昨日大学に行って若手医師たちと話をしてみると、誰も改訂のことを知らなかった。
 危機感を感じて、真っ先にここに取り上げた。

 しつこいようだが、本書は肺癌を取り扱う上でのルールブックだ。
 裏を返せば、ルールブックを知ることなしに、肺癌を取り扱うことはできない。
 価格は6,700円と、専門書の中では決して高くない。
 肺癌診療に必要なminimal essenseが凝縮されている。
 
 専門的な内容が多いため一般の方にはあまり勧めないが、肺癌に関わる医療従事者には必携の書だ。
 これを読んだら直ちに駆け出して、買いに行くべきだ。  

Posted by tak at 10:39Comments(0)その他

2016年12月10日

Osimertinib>platinum+pemetrexed for T790M

 Osimertinibに関連して、ようやく真打のデータが出てきた。
 一般にはAURA3と呼ばれている臨床試験、世界肺癌会議2016で公表され、同時に論文化された。
 要約と、本文中の気になった部分を書き残す。
 クロスオーバーが容認された試験のため、多分全生存期間では有意差はつかない。
 しかし、この患者群におけるOsimertinibの有効性に疑問を呈する人はいないだろう。

 AURA3までは、まあ言ってみれば予定調和というか、規定路線というか、みんなが予想していた通りの結果である。
 多分そうなるだろうな、と考えられていた通りの結果が出た。
 あとは、FLAURA試験がどんな成績を収めるかに興味が向かう。
 FLAURA試験によってOsimertinibが勝る結果が出たら、他のEGFR阻害薬は一気に駆逐されるだろう。


Osimertinib or Platinum-Pemetrexed in EGFR T790M-Positive Lung Cancer
TS Mok et al, N Engl J Med 2016

背景:
 Osimertinibは非小細胞肺癌患者のEGFR-TKI感受性変異とT790M耐性変異を有する上皮成長因子受容体を選択的に阻害するEGFR阻害薬である。こうした患者に対する、Osimertinibと白金製剤+ペメトレキセド併用化学療法の効果比較についてははっきりしていない。

方法:
 今回の国際オープンラベル無作為化第III相臨床試験において、EGFR-TKIによる初回治療後病勢進行に至り、T790M耐性変異陽性の進行非小細胞肺癌患者419人を対象とした。2:1の割合でOsimertinibを内服する群(O群)と、カルボプラチンもしくはシスプラチンとペメトレキセドの併用療法を3週間ごとに最大6コース行い、維持療法も可とする群(C群)に割り付けた。主要評価項目は無増悪生存期間とした。

結果:
 無増悪生存期間中央値はO群で10.1ヶ月、C群で4.4ヶ月と、O群で有意に延長していた(ハザード比 0.30、95%信頼区間0.23-0.41、p<0.001)。奏効割合はO群で71%(95%信頼区間は65-76%)、C群で31%(95%信頼区間は24-40%)と、O群で有意に優れていた(オッズ比5.39、95%信頼区間は3.47-8.48、p<0.001)。中枢神経系に転移を有する患者144人において、無増悪生存期間中央値はO群で8.5ヶ月、C群で4.2ヶ月と有意にO群で延長していた(ハザード比0.32、95%信頼区間0.21-0.49)。Grade 3以上の有害事象の割合はO群で23%、C群で47%と、O群で低頻度だった。

結論:
 EGFR-TKI初回治療後に病勢進行に至ったT790M陽性進行非小細胞肺癌患者(中枢神経系への転移を有する患者を含む)において、プラチナ製剤+ペメトレキセド併用化学療法に対して、Osimertinibはより優れた臨床効果を示した。


・適格患者のスクリーニングは、2014年8月から2015年9月(のわずか13ヶ月間)に、126の参加施設で行われた
・適格患者の基準として、「腫瘍組織や腫瘍細胞でEGFR遺伝子変異検索を行った患者」とは書かれていない
→リキッドバイオプシーのみでT790M陽性と判定された患者も登録されているのかも
・参加者は全てcobas EGFR遺伝子変異検索キットver.2を使用してEGFR遺伝子変異検索を受けた
・参加者は全て、cobas EGFR遺伝子変異検索キットver.2を用いたリキッドバイオプシーを義務付けられた
・割付調整因子として、アジア人か非アジア人かという基準が設けられた
・2014年12月22日(適格患者のスクリーニング開始からわずか4ヵ月後)にプロトコール改訂が行われ、C群に割り付けられた患者の病勢進行が確認されたら、Osimertinibを使用してよいことになった。
→当初はC群はOsimertinibを使用できないことになっていたのだろうが、試験の進捗とともに効果の差がはっきりしてきて、Osimertinibの使用を禁じることは倫理的に問題があると判断されたのかもしれない
・事前に規定されたサブグループ解析としては、リキッドバイオプシーでT790M陽性が確認された患者群での解析、中枢神経系の転移を有する患者群での解析が規定された
・治療開始時のベースライン評価は、「プロトコール治療開始後28日以内」に行った
→あらら、「プロトコール治療開始前」ではないのね
・効果判定は6週間ごとに行った
・データカットオフは2016年4月15日に行った
・1036人をスクリーニングして、419人が参加した
→T790M陽性割合は約40%
・腫瘍組織とリキッドバイオプシーの両方でT790M陽性となった患者は419人中172人(41%)いた
・279人がO群に、140人がC群に割り付けられた
・データカットオフ時点で、O群のうち166人(59%)、C群のうち16人(12%)がプロトコール治療を継続していた
→O群の41%、C群の88%はそれぞれの治療が効かなくなった
・C群のうち60%(136人中82人)は病勢進行後Osimertinibを使用し、そのうち77%(82人中63人)はデータカットオフ時点でもOsimertinibを継続使用していた
・データカットオフ時点で、患者追跡期間中央値は8.3ヶ月で、病勢進行が確認された患者はO群で50%(279人中140人)、C群で79%(140人中110人)だった
・Exon 19 deletionの患者ではハザード比0.34(95%信頼区間0.24-0.46)
・Exon 21 point mutationの患者ではハザード比0.46(95%信頼区間0.30-0.71)
・アジア人ではハザード比0.32(95%信頼区間0.24-0.44)
・非アジア人ではハザード比0.48(95%信頼区間0.32-0.75)
・腫瘍組織とリキッドバイオプシー両方でT790M陽性だった患者の無増悪生存期間中央値はO群で8.2ヶ月、C群で4.2ヶ月、ハザード比は0.42、95%信頼区間は0.29-0.61だった
・間質性肺炎はO群で10人(4%)で、9人はGrade 1-2に留まり、1人は死亡した
・人種、性別、年齢、EGFR変異タイプ別、前治療の種類、中枢神経系転移の有無、喫煙歴、どの要因についてサブグループ解析を行っても、ハザード比0.50以下で有意にO群の方が優れていた
・今回のAURA3試験で得られたOsimertinibの無増悪生存期間10.1ヶ月、奏効割合71%という成績は、AURA, AURA2試験の結果と符合する
・今回のAURA3試験で得られた白金製剤+ペメトレキセド併用療法の無増悪生存期間4.4ヶ月、奏効割合31%という成績は、IMPRESS試験におけるT790M陽性群の結果と符合する
・リキッドバイオプシーにおける偽陰性の割合を考えると、リキッドバイオプシーでT790M陰性となった患者には組織生検を行ってT790Mを再検索することが推奨される