2021年03月24日

ADAURA試験サブグループ解析・・・術後補助化学療法の有無、病期別の解析結果

 CoVID-19に翻弄され続けた2020年度だったが、ワクチンの登場によりまだ時間はかかるだろうが出口は見えてきた感がある。
 あと1年間経過すれば、随分と世界は変わっていることだろう。
 CoVID-19にめげず、肺がん領域ではいろいろと新しい知見が今年度も提供されたが、やはり白眉はADAURA試験ではないか。
 完全切除後のEGFR遺伝子変異陽性肺がん患者において、圧倒的な差異を以て無病生存期間を延長した。
 標準的な術後補助化学療法を行うことが前提で(行うかどうかの最終的な判断は担当医と患者に委ねられていたが)、やるべき治療をやった後にオシメルチニブを上乗せするかどうかという臨床試験だった。
 オシメルチニブ以外の、もっとサイフに優しいEGFR阻害薬ではどうなのか、という疑問は残るものの、これだけ圧倒的な無病生存期間延長効果を見せつけられると、少なくとも治療選択肢を患者に提供しないわけにはいかない。

 New England Journal of Medicine誌に掲載された論文の要約を掲載するとともに、術後補助化学商法施行の有無、各病期別の無病生存期間解析データが2020年世界肺癌会議や2021年日本臨床腫瘍学会で報告されていた。
 stage IBの患者集団に関しては、我が国ではUFT内服による術後補助化学療法が標準治療とされているために、どうオシメルチニブを適用するかの議論が必要だと思われるが、少なくともII-IIIA期の患者では我が国でもオシメルチニブ投与を考えるべきだろう。



Osimertinib in Resected EGFR-Mutated Non–Small-Cell Lung Cancer
Yi-long Wu, Masahiro Tsuboi et al., N Engl J Med 2020; 383:1711-1723
DOI: 10.1056/NEJMoa2027071

背景:
 オシメルチニブはEGFR遺伝子変異陽性未治療進行非小細胞肺がんの標準治療である。術後補助療法としてのオシメルチニブの有効性と安全性は明らかでない。
方法:
 今回の二重盲検第III相臨床試験では、完全切除後のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を、オシメルチニブ群(80mgを1日1回服用)とプラセボ群に1:1の割合で無作為に割り付け、最長3年間治療を継続した。主要評価項目は担当医評価によるII期およびIIIA期の患者の無病生存期間とした。副次評価項目には全患者集団(IB期からIIIA期まで)の無病生存期間、全生存期間、安全性とした。
結果:
 682人の患者に対して無作為割り付けを行った(オシメルチニブ群339人、プラセボ群343人)。24ヶ月時点で、II期およびIIIA期の患者のうち、オシメルチニブ群の90%(95%信頼区間84%-93%)とプラセボ群の44%(95%信頼区間37%-51%)が無病生存していた(ハザード比0.17、99.06%信頼区間0.11-0.26、p<0.001)。全体集団では、オシメルチニブ群の89%(95%信頼区間85%-92%)、プラセボ群の52%(95%信頼区間46-58%)が無病生存していた(ハザード比0.20、99.12%信頼区間0.14-0.30、p<0.001)。24ヶ月時点で、オシメルチニブ群の98%(95%信頼区間95-99%)、プラセボ群の85%(95%信頼区間80-89%)は中枢神経系への転移なく生存していた(頭蓋内無病生存期間に関するハザード比は0.18、95%信頼区間0.10-0.33)。全生存期間イベントは29件(オシメルチニブ群9件、プラセボ群20件)と少なく、解析段階になかった。新規の有害事象は認めなかった。
結論:
 IB期からIIIA期のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんにおいて、オシメルチニブ群ではプラセボ群と比較して有意に無病生存期間が延長した。 



Postoperative Chemotherapy Use and Outcomes from ADAURA: Osimertinib as Adjuvant Therapy for Resected EGFR Mutated NSCLC
Yi-long Wu et al., WCLC2020, Abst.#OA06.04
Postoperative chemotherapy patterns and outcomes from ADAURA: osimertinib as adjuvant therapy for resected EGFRm NSCLC
Kato et al., JSMO2021, Abst.#MO29-7

背景:
 非小細胞肺がん患者のうち約30%は切除可能な状態で発見される。術後病理病期II期、IIIA期、あるいは一部のIB期患者に対しては、術後補助化学療法が推奨される。しかしながら、術後再発率は高い。今回の第III相、二重盲検、ランダム化ADAURA試験では、オシメルチニブ(第3世代、非可逆性、中枢神経系への活性を有するEGFR阻害薬)は完全切除、適応のある患者ではさらに術後補助化学療法追加後のIB-IIIA期EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者に対し、統計学的有意に、臨床的にも意味のある無病生存期間延長効果(ハザード比0.20、99.12%信頼区間0.14-0.30、p<0.001)を示した。今回は、術後補助化学療法施行有無とアウトカムに関する探索的検討を行った。
方法:
 完全切除後のIB-IIIA期(AJCC-TNM分類第7版、病理病期)EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を対象に、オシメルチニブ群(80mgを1日1回服用)とプラセボ群に1:1の割合で割り付けて、治療開始から3年間経過するか再発するかまで治療を継続した。ランダム化前の標準術後補助化学療法は、担当医および患者の判断で、してもしなくてもよいことになっていた。術後補助化学療法を施行したか否かに関する統計解析は探索的なものと位置付けられていた。術後補助化学療法施行のあり・なし別の全患者集団の無病生存期間解析は、予め定められたサブグループ解析で、コックス比例ハザードモデルを用いて解析された。データカットオフは2020年1月17日時点とした。
結果:
 ADAURA試験では、無作為割り付けされた患者全体のうち60%(682人中410人)が術後補助化学療法を受けており、治療コース数の中央値は4コースで、各治療群間に均等に割り付けられていた。410人中、409人がプラチナ併用化学療法を、残る1人は単剤化学療法を適用されており、ほとんどはII期もしくはIIIA期の患者だった(II期の患者全体のうち71%(231人中165人)、IIIA期の患者全体のうち80%(235人中187人)、IB期の患者全体のうち26%(216人中57人))。全体として、70歳未満の患者のうち66%(509人中338人)、70歳以上の患者のうち42%(173人中72人)、75歳以上の患者のうち27%(78人中21人)が術後補助化学療法を受けていた。WHO分類におけるPSは、術後補助化学療法施行の有無と相関はなかった(術後補助化学療法を受けたのはPS 0の患者の60%、PS 1の患者の60%)。アジア人患者414人のうち65%、非アジア人患者268人のうち53%が術後補助化学療法を受けていた。術後補助化学療法の有無、各病期別の無病生存期間解析結果は図表のとおりである。
結論:
 ADAURA試験における術後補助化学療法施行状況は、過去の臨床試験結果や実地臨床に即していた。予想されたように、若い患者やより進行した患者では術後補助化学療法が積極的に行われており、一方でPSの良し悪しとは関連がなかった。病理病期に拠らず、術後補助化化学療法施行の有無によらず、オシメルチニブによる術後治療は無病生存期間の延長に寄与していた。

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