2015年10月31日

一般私立病院で働いていると・・・。

 私が現在勤務している病院は、いわゆる一般私立病院です。
 もともと整形外科の病院として成立したこともあり、整形外科診療とリハビリテーションに重きが置かれています。
 裏を返せば、肺がんを含めた腫瘍内科診療には、病院として決して力点を置いていません。
 そうであるがゆえに、これまでの病院とは違った世界が見えてきます。

 大学病院や地域の基幹病院ではカバーできないニーズがあります。
 特別養護老人ホーム入所中、嘱託医から肺がんの疑いがあると指摘され、入所を継続できなくなった患者さん。
 下咽頭癌に対する姑息的治療後の嚥下リハビリ目的で紹介されたものの、多発肺転移や肝転移といった進行期の病状を正確に知らされておらず、リハビリ途中で病勢進行により退院が難しくなってしまった患者さん。
 認知症を合併しているため、悪性リンパ腫の治療を受けられなかった患者さん。
 
 いわゆる「標準治療」を受けるためには、
 「治療に耐えうる全身状態」
 「病状と治療について理解できる認知能力」
が最低限求められますし、実際に過去の病院ではこれらを治療の条件として私自身提示してきました。
 しかし、世界のトップを走る高齢化社会のわが国には、こういった条件を満たせない高齢患者さんはたくさんいらっしゃいます。
 膵癌、下咽頭癌、直腸がん、悪性リンパ腫、乳癌、肺癌と、現在の職場でも様々ながんの患者さんに接する機会があり、専門医資格を取得してよかったと感じます。

 下咽頭癌の患者さんは、病状進行で痛みが強くなってきたため、やむを得ず私が正確な病状を説明し、モルヒネの持続点滴を開始しました。
 まずは疼痛コントロールをきっちりやって、体調が回復して希望があれば化学療法のプランを話し合う予定です。
 なんとか、一度は自宅に帰っておいしいご飯を食べる機会を作って差し上げたいです。

  

Posted by tak at 20:31Comments(0)その他

2015年10月11日

治癒を目指す

 今日もセカンド・オピニオンのお話です。
 "curative intent(治癒を目指す医療)"と"evidence based medicine(医学的根拠に基づいた医療)"の狭間で迷うケースです。
 
 40代男性、喫煙歴あり、咳を主訴に受診し、胸部レントゲン及びCTで異常を指摘され、基幹病院に紹介されました。
 精密検査により、原発性肺腺癌、EGFR遺伝子変異陰性、ALK再構成陰性でした。
 悩ましいのは病期分類です。
 右肺門部原発、縦隔リンパ節転移あり、明らかな胸郭外臓器や肺内の他の部位への転移はありません。
 これだけなら、いわゆる局所進行肺癌の状態で、組織型によらず"curative intent"で放射線と抗癌薬の同時併用療法を行うのが原則です。
 治る可能性がある患者さんには、治す可能性のある治療を受けていただかねばなりません。
 治る可能性がある患者さんに、治す可能性のない治療を提供するのは受け入れられません。

 しかし、この患者さんには、ひとつだけ問題がありました。
 腫瘍原発巣と同じ側の前胸壁(前胸部の肋骨の裏側)に1箇所だけ異常な丸い影があります。
 PETでも陽性で、診断時はこれが「遠隔転移」と判定され、それゆえ「治癒不能の状態」と診断されました。
 その結果、プラチナ製剤+ペメトレキセド併用化学療法が行われました。
 一定の縮小効果が得られたのですが、画像上緩やかに増大傾向に転じた、という段階で、私のもとに相談に来られました。
 どちらかというとご家族の方が熱心で(往々にしてよくある傾向です)、本人は少し冷めた雰囲気がありました。

 受診直前の画像所見を見ると、少なくとも新たな病巣の出現はありませんでした。
 受診の段階で、Performance Statusは0です。
 特段の合併症もなく、背景の肺には肺気腫のような変化はありませんでした。
 これまでのいきさつを整理し、担当医の判断や治療内容を尊重した上で、放射線化学療法を新たに始めることを選択肢として加えました。

 evidence based medicineは大切です。
 標準的な治療は何か、を判断する際に、その根幹をなす概念です。
 ただし、evidenceに包含されない患者さんが世の中にたくさんいること、実地臨床の中に、evidence based medicineでは括りきれない現象がさまざま繰り返されていることを踏まえ、目の前にいる患者さんにとって最もハッピーな結果をもたらしうる治療はなんなのか、常に考えなければなりません。
 患者さんは何を求めているのか?
 私の義理の祖母のように、明らかに早期の肺腺癌らしき胸部異常陰影がありながら、
「この間亡くなったおじいさんのところに少しでも早く行きたいから、このままでいいのよ」
と言って、治療はおろか診断のための検査すらせずに、満足して癌死していく人もいます。
 一方で、今回の患者さんのように、若くして肺癌にかかり、治らない病状と言われながらも暗中模索して光明を見出そうとされている方もいます。
 今回の患者さんは、前胸壁の病巣がリンパ節だとしたら、curative intentの放射線化学療法もありうると判断しました。
 この患者さんのCT画像を見たときに、現在新別府病院の呼吸器外科にいらっしゃる三浦隆先生のご研究内容を思い出しました。
 胸郭内のリンパ流路に関するお話で、学会の帰り道にいろいろと教えていただいたのですが、肺内の病巣から縦隔リンパ節に至るまでに、肺門方向に向かう流路以外に胸壁に沿って迂回する流路があり、それを動物実験で証明されたそうです。
 これが本当だとすれば、今回の患者さんのがん細胞も、未だに胸郭内にとどまっていて、放射線照射可能範囲に可視病変が収まっていれば、放射線化学療法で治癒する可能性もあります。
 繰り返すようですが、
「治る可能性がある患者さんには、治す可能性がある治療を」受けていただかねばなりません。
 治る可能性があると判断するかどうかは、患者さんや医師の判断に委ねられます。
 流石にこの場合は、医学的に妥当な判断を下せるかどうか、医師の力量が求められます。

 この患者さんは、一般的な見方からすれば、治癒不能と判断するのが普通でしょう。
 でも、
「原発性肺腺癌と診断され、脳転移巣を切除してから10年以上無治療で長生きしている」
「原発性肺腺癌と診断され、化学療法後に新たに出現した膀胱転移、胃転移、大腸転移をすべて切除して、5年以上生存している」
「肺内転移を伴う進行小細胞癌と診断され、一次化学療法後再燃なく5年以上生存している」
「胆管細胞癌切除後に進行小細胞癌と診断され、化学療法中にDICに陥り、緩和医療施設に転院したのに病状安定のために自宅退院し、2年半後にギランバレー症候群に罹患して神経内科に再入院、人工呼吸管理後に離脱し、現在回復期リハビリ中」
などなど、ちょっと"evidence based"では考えられないような患者さんたちを、何度も何度も見てきました。

 ちなみに、この患者さんは主治医と相談の上、さらに別の医療機関に3rd opinionの相談に行き、そこで放射線化学療法を受けて、現在経過観察中のようです。
 この成り行きが正しいのかどうかはともかくとして、ご本人とご家族は満足の行く治療を受けておられるのだと思います。

 「本当に治癒の可能性はないのか?」
 化学療法をはじめとした"not curative intent"な薬物療法単独で治療を組み立てる前に、常に自問自答しています。  

2015年10月11日

原発性肺腺癌、多発肺転移、stage IVの3rd opinion

 「このブログを見て、先生のセカンド・オピニオンを受けたいと思ってお電話しました」
という連絡が、ブログを書き始めてからしばしばあります。
 ブログを始めた甲斐があったと思う反面、このブログだけではあまり参考にならないのかもな、とも感じます。
 いろいろと考えたのですが、外来でセカンド・オピニオンの相談を受けた際、その内容を書き残すと参考になるのかな、ということで、できるだけ本ブログに記録を残すようにします。

 先日お越しになったのは、健康診断で胸部異常陰影を指摘された70代前半の男性患者さんです。
 若いころは喫煙されていましたが、40歳くらいでやめたとのこと。
 二次検診のため近医を受診したところ、右肺門部に腫瘤があり、微小肺転移が両肺に多発していました。
 気管支鏡検査により腺癌と診断がつきましたが、可視範囲内に粘膜不整があり(bevacizumabは推奨できない)、EGFR遺伝子変異陰影、ALK遺伝子再構成は判定不能でした。
 全身検索で他に転移巣はなく、stage IVの原発性肺腺癌として、化学療法を勧められました。
 現在は咳が出るようになったとのことで、Performance Statusは1のようでした。
 認知症などはなく、良質な治療が受けられるなら多少遠くでも受診する、とおっしゃっているそうです。

 その後、セカンド・オピニオンを希望され、九州がんセンターを受診されたそうです。
 診断根拠から治療選択枝、二次治療となった際の選択肢にまで説明が及んでいます。
 納得して地元に戻り、いよいよ数日後に治療開始、となった時点で、3rd opinionを希望されて私のもとに息子さんのみお越しになりました。
 これから行われようとしている治療でいいのかどうか、治療中の副作用はどんなことが予想されるのか、といったことが相談の趣旨でした。

 私は、セカンド・オピニオンを引き受けるときに、これといって資料を要求していません。
 資料が皆無ならばその状況で可能な一般的な内容をお話ししますし、資料があればそれに基づいた説明をしています。
 今回は、担当医からの紹介状はなく、担当医から患者さんへ渡された各種検査結果、九州がんセンターの面談要旨を持参されました。

 間違った結論を導き出さないように、必要な情報を整理していきます。

1)現時点での診断名
2)受診からこれまでの経過
3)治療方針を決めるにあたって重要な項目
 i. 組織型
 ii.進行期分類と各進行期ごとの治療方針、治癒の可能性があるのか治癒不能なのかの判別
 iii.ドライバー遺伝子変異(EGFR, ALK, その他)の有無の確認
 iv.現時点での体力(performance status)の確認→これは、指標を簡単に説明した上で、どこに該当するのか本人・家族の評価と私の評価を別個に行ってすり合わせています。
 v.本人、家族が担当医や私の説明内容を理解されているかどうかの確認
4)治療選択枝、およびそのスケジュールの提示
5)有害事象について
6)期待される効果について、もし要望があれば治療の根拠になっているデータの提示
7)全体のまとめと、具体的に今度どのように行動するのが望ましいか
8)質疑応答

といった感じでしょうか。
 通常の診療と異なり、単位時間当たりで患者さんにお金の負担が発生してしまうので、必要十分な情報のみお伝えして、できるだけ患者さんのニーズに合わせてお話をするように(余計な時間を使わないように)気を使っています。

 今回のケースでは、ALK遺伝子再構成が明らかになっていないこと、明日から開始されようとしている治療が必ずしも現在の標準治療とは言えない内容(カルボプラチン+ビノレルビン併用療法)であったこと、骨転移について評価されていなかったため、最寄りの医療機関ならどこで骨転移の検索ができるか、もし骨転移があったらどのような治療を追加すべきか、などをお伝えしました。
 特に、化学療法の内容については、早々にプラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法への変更依頼をした方がいいとお勧めし、診察終了後直ちに担当医に電話連絡をして相談するように伝えました。

 当院までは車でも1時間以上かかる地域からの相談だったため、今後のことを考えると今の環境のまま治療を継続される方がいいでしょう、ただし、またお困りのことがあればブログ上でも、電話でも相談に乗りますので、遠慮なくご連絡くださいとお伝えしました。
 
 「大分での肺がん診療」とタイトルにうたっている以上、大分県内の肺がん関連医師の配置や診療施設の配置、個別の事情を踏まえて、地域密着型のアドバイスができるのが私の強みと自負しています。
 


   

2015年10月09日

gefitinib, erlotinibを含めた多剤併用療法

 前回の記事で触れた標記の内容について。
 
 先般行われた2015年世界肺癌会議では、EGFR遺伝子変異陽性の東アジアの非小細胞・非扁平上皮肺癌患者さんに対して、gefitinib単剤療法と、gefitinib+pemetrexed併用療法の有効性と安全性を検証するランダム化第II相試験の結果が報告されました。
 ランダム化第II相試験ですから、厳密にいえばこれら2種の治療の優劣を直接見るわけではありません。
 しかし、これまた厳密にいえば、既に標準治療のひとつであるgefitinib単剤療法をランダム化比較試験の治療選択肢に入れるのは、あまり意味がありません。
 したがって、事実上はこれら両群の優劣を見る(そういった意図が多分に含まれている)臨床試験と考えていいでしょう。
 実際のところ、不均等割り付けによりgefitinib+pemetrexed群に多めに患者さんが割り付けられるようになっています。
 その分、gefitinib+pemetrexed群への期待が高いということです。

 本試験の概要です。
 日本、中国、韓国、台湾が参加しています。
 この4か国がともに一つの臨床試験に取り組む、ということ自体が、とても有意義なことのように思います。
 政治の面や医療制度・慣習の面で、一緒に取り組むのはなかなかにハードルが高い、と伺ったことがあります。


 患者背景です。
 喫煙者が思ったより多いです。
 大分で実地臨床をしている実感とは反対で、Exon 19変異陽性の方が多く参加しています。
 登録数は日本が最多のようです。

 
 主要評価項目の無増悪生存期間では、gefitnib+pemetrexed群が有望な結果でした。
 繰り返すようですが、ランダム化第II相臨床試験で各治療群を直接比較しても、厳密には優劣を問えません。
 ただし、実際には優劣を見るがごとき解析が行われています。
 gefitinib+pemetrexed群の中央値は15.8ヶ月、gefitinib群の中央値は10.9ヶ月、ハザード比は0.68で、新たな標準治療として位置づけてもよかろうとされる0.8を下回っており、有意差がついています。


 EGFR遺伝子変異別の解析結果です。
 Exon 19では中央値に大きな差があり、Exon 21で末広がりの曲線になっています。
 いずれも有意差はついていませんが、生存曲線はいずれもgefitnib+pemetrexed群がより上位にあります。


 forest plotを示します。
 女性、非喫煙者、前治療(術後補助化学療法)のない人、韓国の患者さん、はgefitinib+pemetrexed群が優れていたようです。


 有害事象です。
 pemetrexedが毒性が軽めの化学療法だとは言え、やはり併用群の方が毒性が強いようです。


 forest plotの結果を見ると日本人ではあまりよく無さそうですが、この試験が第III相試験に発展するとは思えませんし、臨床家は今回の結果を以て実臨床に活かすかどうか判断しなければならないでしょうね。
 そのうち全生存期間の結果が出てくると思います。
 しかし、何はともあれ、同時併用療法で無増悪生存期間が延長しているのは事実です。
 現在結果が待たれているNEJ009試験(CBDCA+pemetrexed+gefitinib)と併せて見てみたいところです。

 一方、今回の欧州臨床腫瘍学会では、先日講演にお越しになった先生のグループが、同じような対象の患者さんでerlotinib+CBDCA+PEM+bevacizumabの4剤併用療法という野心的な臨床試験を展開されています。
 まだ第I相試験の結果報告の段階で、患者数はわずか6人ですが、奏効割合はなんと100%です。
 有害事象といかに折り合うかが問題だと思いますが、第II相部分でどのような結果が出るのか、楽しみです。

  

2015年10月08日

日本人に対するafatinibの効果

 一昨日、大分市内にて肺がん講演会に参加してきました。
 主として、EGFR遺伝子変異陽性肺癌に対するお話でしたが、一言でいえば、混沌としていて今はまだ標準治療に変化はない、というところでした。
 現在、EGFR遺伝子変異陽性の肺癌に対しては、gefitnib, erlotinib, afatinibといったEGFRチロシンキナーゼ阻害薬単剤での治療が標準です。
 それぞれの薬には特性があり、
・gefitinibは見た目の有害事象が軽め、肝機能障害が多い、最も古くからあるため研究成果や臨床医の経験が豊富、生存期間延長効果はやや短め、脳転移に対する前向き臨床試験の結果がある、EGFR遺伝子変異陰性でも二次治療でドセタキセルと同等、ベバシツマブとの併用療法の第II相臨床試験が有望と報告されている、化学療法との同時併用療法の第III相試験が進行中
・erlotinibは見た目の有害事象が中等度、中枢神経系への移行がよいことが基礎データで示されている、海外では第一選択薬である、EGFR遺伝子変異陰性の場合でも二次治療・三次治療でエビデンスがある、生存期間延長効果は中等度、ベバシツマブとの併用療法の第II相臨床試験が有望で、現在第III相試験が進行中
・afatinibは第2世代薬で、HERファミリーの受容体全体に非可逆性の結合をする、生存期間延長効果は最もよさそう、有害事象が最も高度、高齢者には使いにくい、Exon 19変異にはより効果が高い、化学療法との併用の報告はまだ乏しい、扁平上皮癌にも効きそう
といった感じでまとめられるかと思います。

 昨日、出張先でEGFR遺伝子変異陽性患者さんを対象としたafatinib vs CDDP+pemetrexedの第III相試験、LUX-Lung 3の日本人サブグループ解析の論文を流し読みしていましたが、統計学的に有意かどうかはともかくとして、afatinib群では無増悪生存期間が13.8ヶ月、全生存期間が46.9ヶ月であり、CDDP+pemetrexed群の6.9ヶ月、35.8ヶ月より優れているようでした。進行期肺がんの患者さんを対象とした臨床試験で、全生存期間が4年に迫るというのは驚きです。gefitinibに関する同様の試験であるNEJ002試験はgefitinib群の全生存期間が約2年、WJOG3405L試験の全生存期間が約3年ですから、afatinibの全生存期間はgefitinibの約2倍ということになります。また、病勢増悪後の生存期間が33ヶ月というのは、後治療の影響が極めて強いということが言え、今後は後治療までパッケージングした臨床試験を行う方がよさそうに思います。

 講演された先生は、
「afatinibはあまりにも毒性が強く、直接比較試験の結果が出ていない現状ではより毒性の低い薬を勧めたい」
とおっしゃっていましたが、上記の生存期間延長効果を示し、患者さんの意見を聞いてから薬を選択するのが適切なように思います。
 
 副作用が軽めで長生き効果が平均2年の薬と、副作用が強めで長生き効果が平均4年の薬、あなたはどちらを選びますか?
  

Posted by tak at 09:24Comments(0)化学療法

2015年10月01日

IMPRESS studyとT790Mサブグループ解析

 ゲフィチニブをbeyond PDで用いる臨床試験の嚆矢として、IMPRESS studyが知られています。
 以前、本ブログでも簡単に取り上げたことがあります。
 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e757909.html
 EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌患者さん、化学療法未施行、ゲフィチニブ初回投与により4か月以上の完全奏効/部分奏効もしくは6ヶ月以上の病勢安定が得られた方を対象に、シスプラチン+ペメトレキセド療法とゲフィチニブを併用するグループと、シスプラチン+ペメトレキセドのみを使うグループに分けて、治療効果を比較しました。
 主要評価項目は無増悪生存期間ですが、ゲフィチニブをbeyond PDで併用する以上はtoxic newな治療であり、全生存期間延長効果にも期待が集まります。
 しかし、結論としては、ゲフィチニブ上乗せによっても無増悪生存期間の延長は得られませんでした。
 既に論文化されていますが、この時点ではまだ全生存期間の生存曲線は明らかになっていません。
 しかし、全体の三分の一の解析時点では、ゲフィチニブ併用群の方が全生存期間は有意に劣っているそうです。

 今回のお話では、リキッド・バイオプシーによるT790Mの解析を行い、その変異状況によるサブグループ解析について触れられていました。
 治療開始前に血液サンプルが採取され、参加265人中261人で解析をしました。
 142人(54.4%)がT790M陽性、105人(40.2%)がT790M陰性、14人(5.4%)が解析できなかったとのこと。
 生存曲線を見てみると・・・
 無増悪生存期間においては、T790M陽性群では両グループとも同等、T790M陰性群ではゲフィチニブ併用群がやや優位なようです。
 しかし、これが全生存期間となると、T790M陽性群では有意に劣っており、T790M陰性群では同等、ということになっています。
 したがって、ゲフィチニブ併用は、T790M陽性群では生命予後を悪化させ、T790M陰性群では全生存期間に影響を与えないものの、ゲフィチニブを内服する分だけ有害事象やコストの面で不利、ということになります。
 いずれにせよ、beyond PDでのゲフィチニブ併用の意義は、IMPRESS studyにおいては認められません。

 興味深いのは、無増悪生存期間が同等でも、全生存期間に差がつくことがある、と示されたことです。
 無増悪生存期間は、必ずしも全生存期間の代替エンドポイントにはならない、ということの証左だと思います。