2021年04月30日
Ruminococcus属とAkkermansia属
免疫チェックポイント阻害薬による術前治療の有効性について、2週間ほど前にまとめた。
その際、NEOSTAR試験の項で、腸管内のRuminococcus属とAkkermansia属の増加が治療有効性と相関があると触れた。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e987858.html
Ruminococcus?
Akkermansia?
いずれも、通常の呼吸器診療をしていても全く馴染みのない菌である。
少し調べてみた。
私なりの結論は、免疫チェックポイント阻害薬を使用するにあたっては、シイタケやなめこといったトレハロースを多く含む食品、ウナギやドジョウといった食品を食事に取り入れたらどうだろうということに落ち着いた。
結局のところ、旬の食材を取り入れた古典的な日本食がよい。
がん薬物療法治療中、どんな食事をとればいいかという質問をしばしば受けるので、少しは根拠を以て答えられそうだ。
どこまで信ぴょう性があるかはともかくとして。
1)Ruminococcus属(Wikipedia, 理化学研究所HP:https://www.riken.jp/press/2020/20200422_1/index.htmlより)
・ルミノコッカス属は、草食動物の胃などに存在するグラム陽性菌の一属
・フィルミクテス門クロストリジウム目に属すが芽胞は形成しない
・セルロース分解能力を持ち、草食動物の胃などに生息する
・一般的に嫌気性で、培養には強い嫌気度を必要とする
・セルラーゼを有し、セルロースを分解してそれを栄養とするが、一部の菌はキシロース分解酵素は有さず、また、グルコースも取り入れることはできない
・トレハロースが豊富な環境下では、Ruminococcusが増殖し、CD8陽性制御性T細胞が誘導される可能性がある
・2011年に「Nature」で発表された報告では、ヒトの腸内細菌叢パターン(エンテロタイプ)は3種に大別される
Enterotypes of the human gut microbiome. Arumugam et al., Nature. 2011 May 12;473(7346):174-80.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3728647/
1) スウェーデン・日本人タイプ
スウェーデン人と日本人に多いエンテロタイプ。ビフィドバクテリウム属、ルミノコッカス属の比率が他のエンテロタイプに比べ多いのが特徴。スウェーデン、日本とも農業と漁業の盛んな国特有の長年の食習慣が「スウェーデン・日本人タイプ」の腸内細菌叢が形成された要因と推察できる。食生活から考えて、穀物を主食とし、海産物を多く食べる食習慣がこのようなエンテロタイプを形成したと考えられる
2)欧米タイプ
欧米人や中国人によく見られるエンテロタイプ。タンパク質や脂肪を多く摂取する食習慣をもつ人に特徴的なタイプ。バクテロイデス属の比率が高い。
3)アフリカ・南米タイプ
中南米やアフリカ大陸に住む人に多いエンテロタイプ。穀物を主食にしている人に多くみられる。プレボテラ属が多い。
2)Akkermansia属(Wikipedia, ヤクルト中央研究所「菌の図鑑」より)
・アッケルマンシア属(Akkermansia)は、偏性嫌気性グラム陰性細菌の属である
・幅広い脊椎動物の消化器官に分布する
・2004年、オランダのムリエル・デリエンは健康なヒトの糞便から細菌を分離し、オランダの著名な微生物生態学者の名前(アントーン・アッカーマンス)から、アッカーマンシア・ムシニフィラと名づけた
・生後まもない乳児の糞便中に検出され、6か月齢では約7割の乳児が保菌するようになり、1歳では保菌率が成人と同レベルの9割に達する
・成人の腸内細菌の総数の1~4%を占め、腸内に大量に棲息する菌の一種
・体重、肥満度指数(Body Mass Index:BMI)、血中コレステロール値、空腹時血糖値が高いヒトでは、正常なヒトに比べて、腸内のアッカーマンシア・ムシニフィラが少ないとされる
その際、NEOSTAR試験の項で、腸管内のRuminococcus属とAkkermansia属の増加が治療有効性と相関があると触れた。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e987858.html
Ruminococcus?
Akkermansia?
いずれも、通常の呼吸器診療をしていても全く馴染みのない菌である。
少し調べてみた。
私なりの結論は、免疫チェックポイント阻害薬を使用するにあたっては、シイタケやなめこといったトレハロースを多く含む食品、ウナギやドジョウといった食品を食事に取り入れたらどうだろうということに落ち着いた。
結局のところ、旬の食材を取り入れた古典的な日本食がよい。
がん薬物療法治療中、どんな食事をとればいいかという質問をしばしば受けるので、少しは根拠を以て答えられそうだ。
どこまで信ぴょう性があるかはともかくとして。
1)Ruminococcus属(Wikipedia, 理化学研究所HP:https://www.riken.jp/press/2020/20200422_1/index.htmlより)
・ルミノコッカス属は、草食動物の胃などに存在するグラム陽性菌の一属
・フィルミクテス門クロストリジウム目に属すが芽胞は形成しない
・セルロース分解能力を持ち、草食動物の胃などに生息する
・一般的に嫌気性で、培養には強い嫌気度を必要とする
・セルラーゼを有し、セルロースを分解してそれを栄養とするが、一部の菌はキシロース分解酵素は有さず、また、グルコースも取り入れることはできない
・トレハロースが豊富な環境下では、Ruminococcusが増殖し、CD8陽性制御性T細胞が誘導される可能性がある
・2011年に「Nature」で発表された報告では、ヒトの腸内細菌叢パターン(エンテロタイプ)は3種に大別される
Enterotypes of the human gut microbiome. Arumugam et al., Nature. 2011 May 12;473(7346):174-80.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3728647/
1) スウェーデン・日本人タイプ
スウェーデン人と日本人に多いエンテロタイプ。ビフィドバクテリウム属、ルミノコッカス属の比率が他のエンテロタイプに比べ多いのが特徴。スウェーデン、日本とも農業と漁業の盛んな国特有の長年の食習慣が「スウェーデン・日本人タイプ」の腸内細菌叢が形成された要因と推察できる。食生活から考えて、穀物を主食とし、海産物を多く食べる食習慣がこのようなエンテロタイプを形成したと考えられる
2)欧米タイプ
欧米人や中国人によく見られるエンテロタイプ。タンパク質や脂肪を多く摂取する食習慣をもつ人に特徴的なタイプ。バクテロイデス属の比率が高い。
3)アフリカ・南米タイプ
中南米やアフリカ大陸に住む人に多いエンテロタイプ。穀物を主食にしている人に多くみられる。プレボテラ属が多い。
2)Akkermansia属(Wikipedia, ヤクルト中央研究所「菌の図鑑」より)
・アッケルマンシア属(Akkermansia)は、偏性嫌気性グラム陰性細菌の属である
・幅広い脊椎動物の消化器官に分布する
・2004年、オランダのムリエル・デリエンは健康なヒトの糞便から細菌を分離し、オランダの著名な微生物生態学者の名前(アントーン・アッカーマンス)から、アッカーマンシア・ムシニフィラと名づけた
・生後まもない乳児の糞便中に検出され、6か月齢では約7割の乳児が保菌するようになり、1歳では保菌率が成人と同レベルの9割に達する
・成人の腸内細菌の総数の1~4%を占め、腸内に大量に棲息する菌の一種
・体重、肥満度指数(Body Mass Index:BMI)、血中コレステロール値、空腹時血糖値が高いヒトでは、正常なヒトに比べて、腸内のアッカーマンシア・ムシニフィラが少ないとされる
2021年04月28日
CheckMate-227試験 日本人サブセット解析
昨年秋の日本肺癌学会総会で、CheckMate-227試験の日本人サブグループ解析結果が示されていた。
試験全体のデザインについてはあえてコメントを避けるが、結局のところ未治療進行非小細胞肺がんに対するニボルマブ+イピリムマブ併用療法とプラチナ併用化学療法の比較試験と考えて差し支えないだろう。
PD-L1発現の多寡に関わらず、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法が生存期間を延長していると考えてよい。
興味深いのは、PD-L1発現と生存期間の関係は、むしろ化学療法群の方が強そうだということだ。
PD-L1発現が乏しくなるほど化学療法による生存期間延長効果は小さくなっている。
ニボルマブ+イピリムマブ併用療法から開始して、化学療法を温存するという戦略があってよさそうだ。

あとはCheckMate9LAレジメンやKEYNOTE-189レジメン等の免疫チェックポイント阻害薬+化学療法との比較で、どれを選ぶかということになるだろう。
同じ日本人サブセット解析同士を比べると、CheckMate-227レジメンとKEYNOTE-189レジメンは甲乙つけがたい。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e986834.html
試験全体のデザインについてはあえてコメントを避けるが、結局のところ未治療進行非小細胞肺がんに対するニボルマブ+イピリムマブ併用療法とプラチナ併用化学療法の比較試験と考えて差し支えないだろう。
PD-L1発現の多寡に関わらず、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法が生存期間を延長していると考えてよい。
興味深いのは、PD-L1発現と生存期間の関係は、むしろ化学療法群の方が強そうだということだ。
PD-L1発現が乏しくなるほど化学療法による生存期間延長効果は小さくなっている。
ニボルマブ+イピリムマブ併用療法から開始して、化学療法を温存するという戦略があってよさそうだ。

あとはCheckMate9LAレジメンやKEYNOTE-189レジメン等の免疫チェックポイント阻害薬+化学療法との比較で、どれを選ぶかということになるだろう。
同じ日本人サブセット解析同士を比べると、CheckMate-227レジメンとKEYNOTE-189レジメンは甲乙つけがたい。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e986834.html
2021年04月26日
医師とカネ
新型コロナウイルスワクチンに関わる製薬会社とメディアでコメントしている医師の間で、金銭授受の事実があるとの報道を見かけた。
記事をよく読んでみると、製薬会社から依頼された講演に対する謝金であるとか、コンサルタント料だとかで、ワクチンと直接の関わりはない様だ。
とは言え、情報源になっているデータベースを覗いてみると、とても興味深い。
製薬会社から我が国の医師に支払われた講演料、コンサルタント料などは製薬会社自らが公開しているが、それを丹念にデータベース化したものだそうだ。
マネーデータベース『製薬会社と医師』
https://db.wasedachronicle.org/
一人の医師が、本業とは異なる名目で、年間どれだけのおカネを製薬会社から受け取っているのか。
こうした経費は、当然薬の値段に上乗せされているはずで、知っておいて損はないだろう。
記事をよく読んでみると、製薬会社から依頼された講演に対する謝金であるとか、コンサルタント料だとかで、ワクチンと直接の関わりはない様だ。
とは言え、情報源になっているデータベースを覗いてみると、とても興味深い。
製薬会社から我が国の医師に支払われた講演料、コンサルタント料などは製薬会社自らが公開しているが、それを丹念にデータベース化したものだそうだ。
マネーデータベース『製薬会社と医師』
https://db.wasedachronicle.org/
一人の医師が、本業とは異なる名目で、年間どれだけのおカネを製薬会社から受け取っているのか。
こうした経費は、当然薬の値段に上乗せされているはずで、知っておいて損はないだろう。
2021年04月22日
がんと新型コロナウイルスワクチン
私の勤め先の市町村でも、患者の手元に新型コロナウイルスワクチンのクーポンが届き始めた。
たくさんの外来患者から、自分は接種してもいいだろうかと相談を受けた。
型のごとく、新型コロナウイルスワクチンは他のワクチンと同様に自由意思が尊重されているので、接種するかしないかは個人の自由だと伝えている。
その上で、もし接種をするのなら、少なくとも2回目を接種した翌日だけは自宅で1日療養できる体制を整えるようにと伝えた。
ワクチンは新型コロナウイルスに対する免疫活性を増強するために接種するわけだが、ワクチン接種により免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けているがん患者では、免疫関連有害事象が起こりやすくなるのではないかという仮説が考えられる。
今回の論文はそこに一定の回答を与えるものであり、結論から言うとあまり心配せずに、一般の患者と同様に接種を勧めてよさそうだ。
Short-term safety of the BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine in patients with cancer treated with immune checkpoint inhibitors
Lancet Oncol. 2021 Apr 1
doi: 10.1016/S1470-2045(21)00155-8 [Epub ahead of print]
2020年12月20日、イスラエル保健省は国家的なCOVID-19ワクチン施策に着手した。これは、2021年1月末日までに全てのハイリスク者に迅速にワクチン接種(ビオンテック/ファイザーのBNT162b2ワクチン...商品名コミナティ, 以下COVID-19ワクチンと記載)を行うことを目指していた。本ワクチンは速やかに、かつ無料で提供された。薬物療法を受けているがん患者はとりわけCOVID-19による死亡リスクの高い集団であり、COVID-19ワクチン優先接種群として扱われた。
BNT162b2ワクチンの有効性を立証した臨床試験には健常者、もしくは慢性疾患はあるものの安定している患者のみが参加していたため、当局者にとっての懸念はがん治療を受けた、もしくは受けている患者にワクチン接種をした場合の有効性や安全性のデータがないことだった。インフルエンザワクチン等、日常的に使用されている他のワクチンに関する知見に基づき、当局は全てのがん患者に対してCOVID-19ワクチン接種を推奨した。しかし一部の有識者は、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けている患者の免疫関連有害事象が、ワクチン接種により誘発ないし増幅されるリスクについて懸念を抱いていた。そのため、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けている患者のワクチン接種については、当局は態度を保留し、担当医の判断に委ねることとした。
テルアビブSourasky医療センター(TLVSMC)の腫瘍部門およびBnei-Zion医療センターの腫瘍ユニットの施設方針は、全てのがん治療を受けている患者に対して、治療内容によらずCOVID-19ワクチン接種を許可ないし推奨するというものだった。COVID-19はこうした患者に対してはとりわけ危険なため、病期、PS、期待される予後に関わらずワクチン接種が推奨された。既に新型コロナウイルスに感染した患者、あるいは何らかの急性期合併症に見舞われている患者(活動性の感染症に罹患している、コントロールできていない免疫関連有害事象に見舞われている、など)はCOVID-19ワクチン施策の対象外とされた。COVID-19ワクチンは標準投与量を1日目と21日目に投与された。2回目の投与は、1回目の投与の後に新型コロナウイルスに感染した患者では省略された。
前述の安全性に関する懸念から、免疫チェックポイント阻害薬治療中の患者におけるCOVID19ワクチンの副反応・有害事象は、1回目の接種後、2回目の接種後ともに20日間前後、詳しい電話アンケートの形式で追跡された。今回報告するのは、上記の2医療センターで免疫チェックポイント阻害薬治療を受けている患者におけるCOVID-19ワクチンの安全性に関するデータである。免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けている患者とコントロール群の患者におけるCOVID-19ワクチンの有害事象を症例・対照研究として比較した。COVID-19ワクチン施策の開始時点で、病院ボランティアを含むすべてのTLVSMCの医療スタッフが新型コロナウイルスワクチン接種を推奨され、実際にワクチンを接種した2241人が有害事象調査に参加した。2回目の接種まで受け終えたそれぞれのがん患者に対して、TLVMCでワクチン接種を受けた健常者から性別と年齢を適合させた対照者を設定し、比較対照群とした。一人だけ、93歳の患者については対照者が得られなかったため、89歳の患者を充てた。
2021年1月11日から2月25日にかけて、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けている患者170人に対してCOVID-19ワクチン接種とその後の調査が提案された。33人(19%)はCOVID-19ワクチン接種を拒否した。ほとんどはCOVID-19ワクチン接種による有害事象を恐れていることが理由だった。137人(81%)の患者は1回目のワクチン接種を受け、そのうち134人は2回目のワクチン接種を受けた。3人の患者は1回目のワクチン接種後に死亡した。1人はCOVID-19感染により、2人はがんの病勢進行により死亡した。1回目のワクチン接種後に頻度が高かった副反応は、注射部位の痛み(134人中28人、21%)だった。全身性の副反応には、疲労(5人、4%)、頭痛(3人、2%)、筋肉痛(3人、2%)、そして悪寒戦慄(1人、1%)だった。
2回目の投与後の観察期間中に、134人中4人(3%)が病院に入院した。4人中3人はがん関連の有害事象、4人中1人は発熱が原因だった。入院治療後、4人全てが退院した。既に報告されているように、1回目ワクチン投与後よりも2回目のワクチン投与後の方が全身的、局所的副反応がより起こりやすかった。局所的副反応で頻度が高かったのは、注射部位の痛み(134人中85人、63%)、局所の発疹(134人中3人、2%)、局所の腫脹(134人中12人、9%)だった。一方、全身性副反応で頻度が高かったのは、筋肉痛(134人中46人、34%)、疲労(134人中45人、34%)、頭痛(134人中22人、16%)、発熱(134人中14人、10%)、悪寒戦慄(134人中14人、10%)、胃腸症状(134人中14人、10%)、インフルエンザ様症状(134人中3人、2%)だった。これら副反応により、入院や特別な治療を要することはなかった。
134人中、ほとんどの患者(116人、87%)は免疫チェックポイント阻害薬単剤での治療を受けており、残る18人(13%)は免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法を受けていた。両群において、全身性のワクチン副反応が起こる頻度に違いは見られなかった(単剤療法群116人中37人(32%) vs 併用療法群18人中8人(44%)、χ二乗テストでのp=0.29)。
何より重要なことに、新たな免疫関連有害事象の発生や、既に認められていた免疫関連有害事象の増悪は認められなかった。
COVID-19ワクチンによる副反応は、健常者とがん患者においてほぼ同様だったが、筋肉痛だけはがん患者でより高頻度に認められた。しかし、免疫関連筋炎と診断された患者は、健常者、がん患者、いずれにも認められなかった。今回の調査結果は、免疫チェックポイント阻害薬を使用しているがん患者に対するCOVID-19ワクチンの安全性を裏付けている。
COVID-19ワクチン接種前に認められていた免疫関連有害事象とCOVID-19ワクチンによる副反応の関連性についても調べた。134人中72人(54%)の患者は、COVID-19ワクチン接種よりも前に、Grade2もしくはより深刻な免疫関連有害事象を経験していた。免疫関連有害事象を経験している患者でもしていない患者でも、COVID-19ワクチンの2回目を接種した後の全身性の副反応には差がなかった(72人中24人(33%) vs 62人中21人(34%)、p=0.94)。重要なことに、過去に免疫関連有害事象を経験したことがある患者について、COVID-19ワクチン関連の副反応はマイルドで、入院やがん治療の休止を要するようなものではなかった。
たくさんの外来患者から、自分は接種してもいいだろうかと相談を受けた。
型のごとく、新型コロナウイルスワクチンは他のワクチンと同様に自由意思が尊重されているので、接種するかしないかは個人の自由だと伝えている。
その上で、もし接種をするのなら、少なくとも2回目を接種した翌日だけは自宅で1日療養できる体制を整えるようにと伝えた。
ワクチンは新型コロナウイルスに対する免疫活性を増強するために接種するわけだが、ワクチン接種により免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けているがん患者では、免疫関連有害事象が起こりやすくなるのではないかという仮説が考えられる。
今回の論文はそこに一定の回答を与えるものであり、結論から言うとあまり心配せずに、一般の患者と同様に接種を勧めてよさそうだ。
Short-term safety of the BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine in patients with cancer treated with immune checkpoint inhibitors
Lancet Oncol. 2021 Apr 1
doi: 10.1016/S1470-2045(21)00155-8 [Epub ahead of print]
2020年12月20日、イスラエル保健省は国家的なCOVID-19ワクチン施策に着手した。これは、2021年1月末日までに全てのハイリスク者に迅速にワクチン接種(ビオンテック/ファイザーのBNT162b2ワクチン...商品名コミナティ, 以下COVID-19ワクチンと記載)を行うことを目指していた。本ワクチンは速やかに、かつ無料で提供された。薬物療法を受けているがん患者はとりわけCOVID-19による死亡リスクの高い集団であり、COVID-19ワクチン優先接種群として扱われた。
BNT162b2ワクチンの有効性を立証した臨床試験には健常者、もしくは慢性疾患はあるものの安定している患者のみが参加していたため、当局者にとっての懸念はがん治療を受けた、もしくは受けている患者にワクチン接種をした場合の有効性や安全性のデータがないことだった。インフルエンザワクチン等、日常的に使用されている他のワクチンに関する知見に基づき、当局は全てのがん患者に対してCOVID-19ワクチン接種を推奨した。しかし一部の有識者は、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けている患者の免疫関連有害事象が、ワクチン接種により誘発ないし増幅されるリスクについて懸念を抱いていた。そのため、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けている患者のワクチン接種については、当局は態度を保留し、担当医の判断に委ねることとした。
テルアビブSourasky医療センター(TLVSMC)の腫瘍部門およびBnei-Zion医療センターの腫瘍ユニットの施設方針は、全てのがん治療を受けている患者に対して、治療内容によらずCOVID-19ワクチン接種を許可ないし推奨するというものだった。COVID-19はこうした患者に対してはとりわけ危険なため、病期、PS、期待される予後に関わらずワクチン接種が推奨された。既に新型コロナウイルスに感染した患者、あるいは何らかの急性期合併症に見舞われている患者(活動性の感染症に罹患している、コントロールできていない免疫関連有害事象に見舞われている、など)はCOVID-19ワクチン施策の対象外とされた。COVID-19ワクチンは標準投与量を1日目と21日目に投与された。2回目の投与は、1回目の投与の後に新型コロナウイルスに感染した患者では省略された。
前述の安全性に関する懸念から、免疫チェックポイント阻害薬治療中の患者におけるCOVID19ワクチンの副反応・有害事象は、1回目の接種後、2回目の接種後ともに20日間前後、詳しい電話アンケートの形式で追跡された。今回報告するのは、上記の2医療センターで免疫チェックポイント阻害薬治療を受けている患者におけるCOVID-19ワクチンの安全性に関するデータである。免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けている患者とコントロール群の患者におけるCOVID-19ワクチンの有害事象を症例・対照研究として比較した。COVID-19ワクチン施策の開始時点で、病院ボランティアを含むすべてのTLVSMCの医療スタッフが新型コロナウイルスワクチン接種を推奨され、実際にワクチンを接種した2241人が有害事象調査に参加した。2回目の接種まで受け終えたそれぞれのがん患者に対して、TLVMCでワクチン接種を受けた健常者から性別と年齢を適合させた対照者を設定し、比較対照群とした。一人だけ、93歳の患者については対照者が得られなかったため、89歳の患者を充てた。
2021年1月11日から2月25日にかけて、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けている患者170人に対してCOVID-19ワクチン接種とその後の調査が提案された。33人(19%)はCOVID-19ワクチン接種を拒否した。ほとんどはCOVID-19ワクチン接種による有害事象を恐れていることが理由だった。137人(81%)の患者は1回目のワクチン接種を受け、そのうち134人は2回目のワクチン接種を受けた。3人の患者は1回目のワクチン接種後に死亡した。1人はCOVID-19感染により、2人はがんの病勢進行により死亡した。1回目のワクチン接種後に頻度が高かった副反応は、注射部位の痛み(134人中28人、21%)だった。全身性の副反応には、疲労(5人、4%)、頭痛(3人、2%)、筋肉痛(3人、2%)、そして悪寒戦慄(1人、1%)だった。
2回目の投与後の観察期間中に、134人中4人(3%)が病院に入院した。4人中3人はがん関連の有害事象、4人中1人は発熱が原因だった。入院治療後、4人全てが退院した。既に報告されているように、1回目ワクチン投与後よりも2回目のワクチン投与後の方が全身的、局所的副反応がより起こりやすかった。局所的副反応で頻度が高かったのは、注射部位の痛み(134人中85人、63%)、局所の発疹(134人中3人、2%)、局所の腫脹(134人中12人、9%)だった。一方、全身性副反応で頻度が高かったのは、筋肉痛(134人中46人、34%)、疲労(134人中45人、34%)、頭痛(134人中22人、16%)、発熱(134人中14人、10%)、悪寒戦慄(134人中14人、10%)、胃腸症状(134人中14人、10%)、インフルエンザ様症状(134人中3人、2%)だった。これら副反応により、入院や特別な治療を要することはなかった。
134人中、ほとんどの患者(116人、87%)は免疫チェックポイント阻害薬単剤での治療を受けており、残る18人(13%)は免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法を受けていた。両群において、全身性のワクチン副反応が起こる頻度に違いは見られなかった(単剤療法群116人中37人(32%) vs 併用療法群18人中8人(44%)、χ二乗テストでのp=0.29)。
何より重要なことに、新たな免疫関連有害事象の発生や、既に認められていた免疫関連有害事象の増悪は認められなかった。
COVID-19ワクチンによる副反応は、健常者とがん患者においてほぼ同様だったが、筋肉痛だけはがん患者でより高頻度に認められた。しかし、免疫関連筋炎と診断された患者は、健常者、がん患者、いずれにも認められなかった。今回の調査結果は、免疫チェックポイント阻害薬を使用しているがん患者に対するCOVID-19ワクチンの安全性を裏付けている。
COVID-19ワクチン接種前に認められていた免疫関連有害事象とCOVID-19ワクチンによる副反応の関連性についても調べた。134人中72人(54%)の患者は、COVID-19ワクチン接種よりも前に、Grade2もしくはより深刻な免疫関連有害事象を経験していた。免疫関連有害事象を経験している患者でもしていない患者でも、COVID-19ワクチンの2回目を接種した後の全身性の副反応には差がなかった(72人中24人(33%) vs 62人中21人(34%)、p=0.94)。重要なことに、過去に免疫関連有害事象を経験したことがある患者について、COVID-19ワクチン関連の副反応はマイルドで、入院やがん治療の休止を要するようなものではなかった。
2021年04月19日
進行肝細胞がんに対するアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法
以前、未治療進行非小細胞肺がんに対するアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法についての第II相臨床試験である、@Be studyについて触れた。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e986859.html
最近、進行肝細胞がんの治療に触れる機会があったのだが、肝細胞がんの領域ではアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法は標準治療になっているらしい。
論文に行き当たったので要約だけ読んでみた。
Atezolizumab plus Bevacizumab in Unresectable Hepatocellular Carcinoma
Richard S Finn et al., N Engl J Med. 2020 May 14;382(20):1894-1905.
doi: 10.1056/NEJMoa1915745.
背景:
アテゾリズマブとベバシズマブの併用療法は、切除不能肝細胞がん患者を対象とした第Ib相試験において、有望な抗腫瘍活性と安全性を示した。
方法:
国際オープンラベル第III相臨床試験において、全身薬物療法歴のない切除不能肝細胞癌患者を対象として、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法群(AB群)とソラフェニブ単剤療法群(S群)に2:1の割合で無作為に割り付けた。治療は忍容不能の毒性が出現するか、あるいは臨床的有用性がなくなるまで継続された。主要評価項目は2つ設定され、intention-to-treat解析における全生存期間と無増悪生存期間とされた。効果判定はRECIST ver.1.1に基づき、独立した効果判定委員会により行われた。
結果:
AB群に336人、S群に165人が組み入れられた。初回解析(2019年8月29日)の時点で、S群に対するAB群の全生存期間のハザード比は0.58(95%信頼区間は0.42-0.79、p<0.001)だった。12ヶ月生存割合はAB群で67.2%(95%信頼区間は61.3-73.1)で、S群で54.6%(95%信頼区間は45.2-64.0)だった。無増悪生存期間中央値はAB群で6.8ヶ月(95%信頼区間は5.7-8.3)、S群で4.3ヶ月(95%信頼区間は4.0-5.6)、ハザード比は0.59(95%信頼区間は0.47-0.76、p<0.001)だった。Grade 3-4の有害事象はAB群の治療を受けた患者329人のうち56.5%を、S群156人のうち55.1%を占めていた。Grade 3-4の高血圧はAB群の15.2%で認められた。しかし、その他の高度毒性の頻度は少なかった。
結論:
切除不能肝細胞がんの患者において、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法はソラフェニブよりも有意に全生存期間、無増悪生存期間を延長した。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e986859.html
最近、進行肝細胞がんの治療に触れる機会があったのだが、肝細胞がんの領域ではアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法は標準治療になっているらしい。
論文に行き当たったので要約だけ読んでみた。
Atezolizumab plus Bevacizumab in Unresectable Hepatocellular Carcinoma
Richard S Finn et al., N Engl J Med. 2020 May 14;382(20):1894-1905.
doi: 10.1056/NEJMoa1915745.
背景:
アテゾリズマブとベバシズマブの併用療法は、切除不能肝細胞がん患者を対象とした第Ib相試験において、有望な抗腫瘍活性と安全性を示した。
方法:
国際オープンラベル第III相臨床試験において、全身薬物療法歴のない切除不能肝細胞癌患者を対象として、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法群(AB群)とソラフェニブ単剤療法群(S群)に2:1の割合で無作為に割り付けた。治療は忍容不能の毒性が出現するか、あるいは臨床的有用性がなくなるまで継続された。主要評価項目は2つ設定され、intention-to-treat解析における全生存期間と無増悪生存期間とされた。効果判定はRECIST ver.1.1に基づき、独立した効果判定委員会により行われた。
結果:
AB群に336人、S群に165人が組み入れられた。初回解析(2019年8月29日)の時点で、S群に対するAB群の全生存期間のハザード比は0.58(95%信頼区間は0.42-0.79、p<0.001)だった。12ヶ月生存割合はAB群で67.2%(95%信頼区間は61.3-73.1)で、S群で54.6%(95%信頼区間は45.2-64.0)だった。無増悪生存期間中央値はAB群で6.8ヶ月(95%信頼区間は5.7-8.3)、S群で4.3ヶ月(95%信頼区間は4.0-5.6)、ハザード比は0.59(95%信頼区間は0.47-0.76、p<0.001)だった。Grade 3-4の有害事象はAB群の治療を受けた患者329人のうち56.5%を、S群156人のうち55.1%を占めていた。Grade 3-4の高血圧はAB群の15.2%で認められた。しかし、その他の高度毒性の頻度は少なかった。
結論:
切除不能肝細胞がんの患者において、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法はソラフェニブよりも有意に全生存期間、無増悪生存期間を延長した。
2021年04月14日
実際に術前免疫チェックポイント阻害薬を受けた患者さんのコメント
このところLCMC3、CheckMate816、NEOSTARと立て続けに術前免疫チェックポイント阻害薬投与からの肺がん切除術に関する記事を書いた、
なぜ書いたかというと、今回の記事を書く前提にしたかったからである。
今回掲載するのは、本ブログのコメント欄にたびたび投稿くださった患者さんの記載内容をまとめたもので、ご許可を頂いたので書き残す。
当初は切除不能IIIB期原発性肺腺がんと診断された方だが、結果的に術前ペンブロリズマブ単剤療法の後に完全切除を施行され、病理学的完全寛解が確認され、現在も元気でお過ごしとのことである。
学会報告や論文からはうかがい知ることのできない、患者さん本人の本音がにじみ出ている。
進行期肺がんの領域で進んでいる免疫チェックポイント阻害薬+化学療法併用の波はもう周術期治療の分野にも打ち寄せてきているが、こうした患者さんの声を我々は知っておくべきだろう。
肺癌治療中の50代女子です。X年5月に非小細胞肺腺癌(T3、N3、M0、ステージⅢb)と診断されました。ドライバー遺伝子変異は無く、PD-L1発現率は95%、主治医の勧めで初回からキイトルーダで治療しました。6回投与の後、謎の筋肉痛と関節痛がひどくなり、消去法でリウマチでもヘルニアでもないから副作用かなーと判定され、腫瘍がどんどん小さくなって経過も良好だからと2ヶ月間休薬、痛みが軽減したので11月より再開しました。休薬により状態が悪くなっていないかとCTを撮ったところ、もっともっと小さくなっちゃってて。 そこで、主治医が「完治を目指して手術で切除することを検討したい」とおっしゃったのです。「完治は望めないから」とキイトルーダなわけだし、自覚症状はなく、副作用も上記のようなものであるため、私自身は告知以前と全く同じ生活(朝晩は犬と1時間ずつ早歩き、週に6日はスポーツジムでトレーニング、月に何度か2時間立ちっぱなしで仕事)ができていました。切除して肺機能になにか障害が出たらやだなー、とは思いました。そして、少なくともかかりつけの病院においては「免疫チェックポイント阻害薬で小さくなったから切除して完治」というケースはまだひとつもないと聞いており、完治したら嬉しいけど不安もあるな、と思っていました。
様々なことを考え合わせた上、素人ながら「切除手術は実験的なもの」という感触を持ちました。
告知からしばらくの間は受け止めようがなくてオロオロしましたが、その後「がんはそこにいてもいい。悪さをしなければ、そこにあってもいい」という考え方に到達したことで、「そのためのキイトルーダなのだ」と深く納得し、悪さをしなければ普通に暮らせるのだからと気が楽になり、よく食べよく飲みよく笑い、運動する、という生活に戻ることができました。キイトルーダの副作用や「耐性ができてしまったら困るな」ということは心配ではあるけれど非常に安定している、治療も生活もうまくいっていて不満がない、という状況だったのにこの提案。うーむ・・。
結局、キイトルーダ11回投与の後、X+1年3月に肺葉切除手術を受けました。切ってみたら癌細胞がなくなっていたそうです。その後、肺活量も元通り、生活にもトレーニングなどの趣味にもなんら困るところなく暮らしています。
ここまでの治療を振り返って、いくつか考えたことがあります。
1)患者自身にとっては、放射線治療も免疫チェックポイント阻害薬も未知なるもの。特に免疫チェックポイント阻害薬については診断当時知っている人が少なくて、どの治療をするか選べと言われておおいに困ってしまいました。結果的にキイトルーダを選択して吉と出ましたが、放射線治療を選択していたらどうなっていたんだろう。そこは素人が決めるとこじゃない、という気がしました。「最後は自分で決めて」のスタンスが、患者初心者にとっては非常に辛かった、という思い出です。
2)免疫チェックポイント阻害薬の効き目についてもっともっといろいろなことがわかってくれば、私のようなケースは「切らないで完治」ということになるのではないか。「切ってみたら癌細胞がなかった」というのは、嬉しさと残念さが半々でした。肺は取られちゃったあとだし。なお、投与5回めから出始めた筋肉痛は投与終了から1年4ヶ月経っても残っていて、ステロイド剤と鎮痛剤の服用を長期にわたり続けました。その後、胃をやられてしまいました。ロキソニンをはじめ、複数の痛み止めを使っていたら胃が荒れました。やむなく鎮痛剤の種類を替え、さらに分量を減らし、プレドニゾロンについてもすこしずつ減量を試みたところ、不思議なことにある時期からふと「あれ?一段階楽になったかも」と思えるようになり、揺り戻しもありつつ、最近ではあきらかに「前よりマシ」になっています。それって、キイトルーダの効力が切れるということ?そしたら再発しちゃうってこと?素人としては、そんな不安もありますけれど・・・・痛みが減るのは何にせよめでたいことと思うようにしております。
なぜ書いたかというと、今回の記事を書く前提にしたかったからである。
今回掲載するのは、本ブログのコメント欄にたびたび投稿くださった患者さんの記載内容をまとめたもので、ご許可を頂いたので書き残す。
当初は切除不能IIIB期原発性肺腺がんと診断された方だが、結果的に術前ペンブロリズマブ単剤療法の後に完全切除を施行され、病理学的完全寛解が確認され、現在も元気でお過ごしとのことである。
学会報告や論文からはうかがい知ることのできない、患者さん本人の本音がにじみ出ている。
進行期肺がんの領域で進んでいる免疫チェックポイント阻害薬+化学療法併用の波はもう周術期治療の分野にも打ち寄せてきているが、こうした患者さんの声を我々は知っておくべきだろう。
肺癌治療中の50代女子です。X年5月に非小細胞肺腺癌(T3、N3、M0、ステージⅢb)と診断されました。ドライバー遺伝子変異は無く、PD-L1発現率は95%、主治医の勧めで初回からキイトルーダで治療しました。6回投与の後、謎の筋肉痛と関節痛がひどくなり、消去法でリウマチでもヘルニアでもないから副作用かなーと判定され、腫瘍がどんどん小さくなって経過も良好だからと2ヶ月間休薬、痛みが軽減したので11月より再開しました。休薬により状態が悪くなっていないかとCTを撮ったところ、もっともっと小さくなっちゃってて。 そこで、主治医が「完治を目指して手術で切除することを検討したい」とおっしゃったのです。「完治は望めないから」とキイトルーダなわけだし、自覚症状はなく、副作用も上記のようなものであるため、私自身は告知以前と全く同じ生活(朝晩は犬と1時間ずつ早歩き、週に6日はスポーツジムでトレーニング、月に何度か2時間立ちっぱなしで仕事)ができていました。切除して肺機能になにか障害が出たらやだなー、とは思いました。そして、少なくともかかりつけの病院においては「免疫チェックポイント阻害薬で小さくなったから切除して完治」というケースはまだひとつもないと聞いており、完治したら嬉しいけど不安もあるな、と思っていました。
様々なことを考え合わせた上、素人ながら「切除手術は実験的なもの」という感触を持ちました。
告知からしばらくの間は受け止めようがなくてオロオロしましたが、その後「がんはそこにいてもいい。悪さをしなければ、そこにあってもいい」という考え方に到達したことで、「そのためのキイトルーダなのだ」と深く納得し、悪さをしなければ普通に暮らせるのだからと気が楽になり、よく食べよく飲みよく笑い、運動する、という生活に戻ることができました。キイトルーダの副作用や「耐性ができてしまったら困るな」ということは心配ではあるけれど非常に安定している、治療も生活もうまくいっていて不満がない、という状況だったのにこの提案。うーむ・・。
結局、キイトルーダ11回投与の後、X+1年3月に肺葉切除手術を受けました。切ってみたら癌細胞がなくなっていたそうです。その後、肺活量も元通り、生活にもトレーニングなどの趣味にもなんら困るところなく暮らしています。
ここまでの治療を振り返って、いくつか考えたことがあります。
1)患者自身にとっては、放射線治療も免疫チェックポイント阻害薬も未知なるもの。特に免疫チェックポイント阻害薬については診断当時知っている人が少なくて、どの治療をするか選べと言われておおいに困ってしまいました。結果的にキイトルーダを選択して吉と出ましたが、放射線治療を選択していたらどうなっていたんだろう。そこは素人が決めるとこじゃない、という気がしました。「最後は自分で決めて」のスタンスが、患者初心者にとっては非常に辛かった、という思い出です。
2)免疫チェックポイント阻害薬の効き目についてもっともっといろいろなことがわかってくれば、私のようなケースは「切らないで完治」ということになるのではないか。「切ってみたら癌細胞がなかった」というのは、嬉しさと残念さが半々でした。肺は取られちゃったあとだし。なお、投与5回めから出始めた筋肉痛は投与終了から1年4ヶ月経っても残っていて、ステロイド剤と鎮痛剤の服用を長期にわたり続けました。その後、胃をやられてしまいました。ロキソニンをはじめ、複数の痛み止めを使っていたら胃が荒れました。やむなく鎮痛剤の種類を替え、さらに分量を減らし、プレドニゾロンについてもすこしずつ減量を試みたところ、不思議なことにある時期からふと「あれ?一段階楽になったかも」と思えるようになり、揺り戻しもありつつ、最近ではあきらかに「前よりマシ」になっています。それって、キイトルーダの効力が切れるということ?そしたら再発しちゃうってこと?素人としては、そんな不安もありますけれど・・・・痛みが減るのは何にせよめでたいことと思うようにしております。
2021年04月14日
第II相NEOSTAR試験・・・術前ニボルマブ+イピリムマブ併用療法
最後にNEOSTAR試験。
こちらは術前にニボルマブ+イピリムマブ併用療法を行うというもの。
第II相臨床試験ではあるが、果たしてCheckMate816レジメンとどう住み分けることになるのか。
少なくともニボルマブに関する限り、単剤での術前療法を開発する方向には向かっていないようだ。
Neoadjuvant nivolumab or nivolumab plus ipilimumab in operable non-small cell lung cancer: the phase 2 randomized NEOSTAR trial.
Tina Cascone et al.,Nature medicine. 2021 03;27(3);504-514.
doi: 10.1038/s41591-020-01224-2.
イピリムマブは、ニボルマブと併用することによって進行非小細胞肺がんの予後を改善することが示されているが、切除可能な非小細胞肺がん病巣の免疫学的微小環境にどのように影響するのかは未知数である。今回我々は、切除可能な非小細胞肺がん患者44人を対象として、術前ニボルマブ単剤療法(N群)と術前ニボルマブ+イピリムマブ併用療法(NI群)とそれに引き続く手術の効果を、major pathological response(MPR)を主要評価項目として検証するランダム化第II相NEOSTAR試験の結果について報告する。MPR割合は、術前化学療法によって得られるそれをhistolical controlとして統計解析にかけた。NI群においては、21人の患者のうち6人でMPRが達成されることを有効性の閾値としたが、今回は21人中8人(38%)でMPRが得られたため、有効と判定した。一方N群においては、23人中5人(22%)でMPRが得られた。プロトコール治療中に計37人の患者が手術を受け、N群におけるMPR割合は24%(5/21)、NI群におけるMPR割合は50%(8/16)だった。病理学的完全奏効割合(N群 10% vs NI群 38%)、生存腫瘍細胞割合中央値(N群 50% vs NI群 9%)、腫瘍病巣内に残存するT細胞数のいずれもNI群で優れていた。腸管内におけるRuminococcusとAkkermansia属の増加がNI群のMPR割合と相関していた。
こちらは術前にニボルマブ+イピリムマブ併用療法を行うというもの。
第II相臨床試験ではあるが、果たしてCheckMate816レジメンとどう住み分けることになるのか。
少なくともニボルマブに関する限り、単剤での術前療法を開発する方向には向かっていないようだ。
Neoadjuvant nivolumab or nivolumab plus ipilimumab in operable non-small cell lung cancer: the phase 2 randomized NEOSTAR trial.
Tina Cascone et al.,Nature medicine. 2021 03;27(3);504-514.
doi: 10.1038/s41591-020-01224-2.
イピリムマブは、ニボルマブと併用することによって進行非小細胞肺がんの予後を改善することが示されているが、切除可能な非小細胞肺がん病巣の免疫学的微小環境にどのように影響するのかは未知数である。今回我々は、切除可能な非小細胞肺がん患者44人を対象として、術前ニボルマブ単剤療法(N群)と術前ニボルマブ+イピリムマブ併用療法(NI群)とそれに引き続く手術の効果を、major pathological response(MPR)を主要評価項目として検証するランダム化第II相NEOSTAR試験の結果について報告する。MPR割合は、術前化学療法によって得られるそれをhistolical controlとして統計解析にかけた。NI群においては、21人の患者のうち6人でMPRが達成されることを有効性の閾値としたが、今回は21人中8人(38%)でMPRが得られたため、有効と判定した。一方N群においては、23人中5人(22%)でMPRが得られた。プロトコール治療中に計37人の患者が手術を受け、N群におけるMPR割合は24%(5/21)、NI群におけるMPR割合は50%(8/16)だった。病理学的完全奏効割合(N群 10% vs NI群 38%)、生存腫瘍細胞割合中央値(N群 50% vs NI群 9%)、腫瘍病巣内に残存するT細胞数のいずれもNI群で優れていた。腸管内におけるRuminococcusとAkkermansia属の増加がNI群のMPR割合と相関していた。
2021年04月14日
第III相CheckMate816試験・・・ニボルマブ併用術前化学療法により病理学的完全奏効割合が改善
こちらは、ニボルマブ+プラチナ併用化学療法を術前に行うことにより、病理学的完全奏効割合が有意に改善したとする第III相臨床試験。
術前治療による病理学的完全奏効は術後再発割合を下げ、生存期間延長に寄与するとされている。
しかしながら、本治療の真価は生存期間解析の結果を以て確認すべきである。
術前治療の有用性が第III相臨床試験で示されることはほとんどなく、非常に貴重な報告である。
このテーマに関する過去の記事を検索してみたが、わずかに1本しか見つからなかった。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e507188.html
CT003 - Nivolumab (NIVO) + platinum-doublet chemotherapy (chemo) vs chemo as neoadjuvant treatment (tx) for resectable (IB-IIIA) non-small cell lung cancer (NSCLC) in the phase 3 CheckMate 816 trial
Patrick M. Forde et al., AACR 2021
背景:
遠隔転移のない非小細胞肺がん患者において、手術療法は治癒が期待できる治療だが、手術を受けた患者のうち30-80%で術後再発する。再発リスクの高い患者では術前もしくは術後化学療法が推奨されるものの、その治療効果はさほど高くなく、術前化学療法により病理学的完全奏効が得られることは少ない。PD-1経路を治療標的とした免疫チェックポイント阻害薬は進行非小細胞肺がん患者の生命予後を改善したが、完全切除可能な患者における免疫チェックポイント阻害薬の有効性について、第III相臨床試験の結果はまだ報告されていない。近年、ニボルマブ単剤、あるいはニボルマブと化学療法の併用に関する第II相単アーム臨床試験において、有望な病理学的完全奏効割合が示された。今回は、完全切除可能な非小細胞肺がん患者を対象に、術前療法としてのニボルマブ併用化学療法群と化学療法単独群を比較するランダム化第III相オープンラベルCheckMate816試験について、主要評価項目の1つである病理学的完全奏効の最終解析結果について報告する。
方法:
臨床病期IB(原発巣の最大径が4cm以上)からIIIA期(AJCC第7版準拠)の完全切除可能非小細胞肺がん患者で、ECOG-PS 0-1、EGFR遺伝子変異もしくはALK融合遺伝子のないものを対象とし、ニボルマブ+プラチナ併用化学療法群(NC群:ニボルマブ360mg+プラチナ併用化学療法を3週ごとに3コース施行)とプラチナ併用化学療法単独群(C群:プラチナ併用化学療法を3週ごとに3コース施行)に無作為に割り付けて、その後に手術を行った。割付調整因子は臨床病期(IB / II期 vs IIIA期)、PD-L1発現状態(≧1% vs <1%)、性別とした。主要評価項目は、独立委員会評価による病理学的完全奏効割合と無再発生存期間とした。病理学的完全奏効は切除した肺とリンパ節に生存腫瘍細胞が全く認められない(0%)ことと定義した。手術が行われなかった患者は、術前治療の効果が得られなかったものとみなした。副次評価項目は全生存期間、major pathological response(MPR:切除した肺とリンパ節に認められる生存腫瘍細胞が全体の10%以下)、試験参加から死亡もしくは遠隔転移発覚までの期間、とした。探索的評価項目は奏効割合、治療効果予測因子としてPD-L1発現状態とtumor mutational burden(TMB)とした。
結果:
NC群、C群ともに患者数は179人で、患者背景に差はなかった。intent-to-treat解析において、NC群で有意に病理学的完全奏効割合が改善した(NC群で24.0%、C群で2.2%、オッズ比は13.94(99%信頼区間は3.49-55.75、p<0.0001)。この所見は、どのサブグループ解析においても同様に認められた;IB / II期(26.2% vs 4.8%)、IIIA期以上(23.0% vs 0.9%)、PD-L1<1%(16.7% vs 2.6%)、PD-L1≧1%(32.6% vs 2.2%)、TMB低値(22.4% vs 1.9%)、TMB高値(30.8% vs 2.7%)。MPR割合(36.9% vs 8.9%)、奏効割合(53.6% vs 37.4%)、画像診断上の病期改善割合(30.7% vs 23.5%)もNC群で良好だった。定型的な手術はNC群の83.2%、C群の75.4%で実施された。毒性により手術不能となった患者は各群2人ずつと少数で、病勢進行により手術不能となった患者はNC群で12人、C群で17人だった。Grade 3-4の薬物療法関連有害事象はNC群の33.5%、C群の36.9%で、Grade 3-4の手術関連有害事象はNC群の11.4%、C群の14.8%で認められた。
結論:
CheckMate816試験は、主要評価項目の1つである完全奏効割合をNC群が統計学的有意に改善することを示した。ニボルマブ+プラチナ併用化学療法による毒性として新規なものは認められず、本治療を行うことにより手術実施に支障をきたすことはなかった。
術前治療による病理学的完全奏効は術後再発割合を下げ、生存期間延長に寄与するとされている。
しかしながら、本治療の真価は生存期間解析の結果を以て確認すべきである。
術前治療の有用性が第III相臨床試験で示されることはほとんどなく、非常に貴重な報告である。
このテーマに関する過去の記事を検索してみたが、わずかに1本しか見つからなかった。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e507188.html
CT003 - Nivolumab (NIVO) + platinum-doublet chemotherapy (chemo) vs chemo as neoadjuvant treatment (tx) for resectable (IB-IIIA) non-small cell lung cancer (NSCLC) in the phase 3 CheckMate 816 trial
Patrick M. Forde et al., AACR 2021
背景:
遠隔転移のない非小細胞肺がん患者において、手術療法は治癒が期待できる治療だが、手術を受けた患者のうち30-80%で術後再発する。再発リスクの高い患者では術前もしくは術後化学療法が推奨されるものの、その治療効果はさほど高くなく、術前化学療法により病理学的完全奏効が得られることは少ない。PD-1経路を治療標的とした免疫チェックポイント阻害薬は進行非小細胞肺がん患者の生命予後を改善したが、完全切除可能な患者における免疫チェックポイント阻害薬の有効性について、第III相臨床試験の結果はまだ報告されていない。近年、ニボルマブ単剤、あるいはニボルマブと化学療法の併用に関する第II相単アーム臨床試験において、有望な病理学的完全奏効割合が示された。今回は、完全切除可能な非小細胞肺がん患者を対象に、術前療法としてのニボルマブ併用化学療法群と化学療法単独群を比較するランダム化第III相オープンラベルCheckMate816試験について、主要評価項目の1つである病理学的完全奏効の最終解析結果について報告する。
方法:
臨床病期IB(原発巣の最大径が4cm以上)からIIIA期(AJCC第7版準拠)の完全切除可能非小細胞肺がん患者で、ECOG-PS 0-1、EGFR遺伝子変異もしくはALK融合遺伝子のないものを対象とし、ニボルマブ+プラチナ併用化学療法群(NC群:ニボルマブ360mg+プラチナ併用化学療法を3週ごとに3コース施行)とプラチナ併用化学療法単独群(C群:プラチナ併用化学療法を3週ごとに3コース施行)に無作為に割り付けて、その後に手術を行った。割付調整因子は臨床病期(IB / II期 vs IIIA期)、PD-L1発現状態(≧1% vs <1%)、性別とした。主要評価項目は、独立委員会評価による病理学的完全奏効割合と無再発生存期間とした。病理学的完全奏効は切除した肺とリンパ節に生存腫瘍細胞が全く認められない(0%)ことと定義した。手術が行われなかった患者は、術前治療の効果が得られなかったものとみなした。副次評価項目は全生存期間、major pathological response(MPR:切除した肺とリンパ節に認められる生存腫瘍細胞が全体の10%以下)、試験参加から死亡もしくは遠隔転移発覚までの期間、とした。探索的評価項目は奏効割合、治療効果予測因子としてPD-L1発現状態とtumor mutational burden(TMB)とした。
結果:
NC群、C群ともに患者数は179人で、患者背景に差はなかった。intent-to-treat解析において、NC群で有意に病理学的完全奏効割合が改善した(NC群で24.0%、C群で2.2%、オッズ比は13.94(99%信頼区間は3.49-55.75、p<0.0001)。この所見は、どのサブグループ解析においても同様に認められた;IB / II期(26.2% vs 4.8%)、IIIA期以上(23.0% vs 0.9%)、PD-L1<1%(16.7% vs 2.6%)、PD-L1≧1%(32.6% vs 2.2%)、TMB低値(22.4% vs 1.9%)、TMB高値(30.8% vs 2.7%)。MPR割合(36.9% vs 8.9%)、奏効割合(53.6% vs 37.4%)、画像診断上の病期改善割合(30.7% vs 23.5%)もNC群で良好だった。定型的な手術はNC群の83.2%、C群の75.4%で実施された。毒性により手術不能となった患者は各群2人ずつと少数で、病勢進行により手術不能となった患者はNC群で12人、C群で17人だった。Grade 3-4の薬物療法関連有害事象はNC群の33.5%、C群の36.9%で、Grade 3-4の手術関連有害事象はNC群の11.4%、C群の14.8%で認められた。
結論:
CheckMate816試験は、主要評価項目の1つである完全奏効割合をNC群が統計学的有意に改善することを示した。ニボルマブ+プラチナ併用化学療法による毒性として新規なものは認められず、本治療を行うことにより手術実施に支障をきたすことはなかった。
2021年04月14日
LCMC3・・・アテゾリズマブ単剤による術前治療の効果
何件か、術前免疫チェックポイント阻害薬療法について取り扱う。
まずはLCMC3試験の初期評価報告について。
今年1月に開催された世界肺癌会議で取り扱われていた。
化学療法薬の開発の経緯を振り返ると、周術期治療に関する臨床試験は抗悪性腫瘍薬開発における最終段階と考えていいだろう。
LCMC3試験において、アテゾリズマブは主要評価項目を達成しており、今後の第III相試験が期待される。
しかし、他の記事で取り扱うが、この分野ではニボルマブが開発の一歩先を行っているようだ。
LCMC3 Findings Indicate Neoadjuvant Atezolizumab Safe, Efficacious in Resectable Stage IB-IIIB NSCLC
Kara Nyberg, PhD, et al., PRESIDENTIAL SYMPOSIUM WCLC 2020 ARCHIVE Abst.#PS01.05
JAN 28, 2021
第II相Lung Cancer Mutation Consortium(LCMC)3臨床試験の解析データ第一陣から、アテゾリズマブによる術前治療が根治切除可能なIB-IIIB期の非小細胞肺がん患者の一部において検討する価値のある治療選択肢であることが示唆された。EGFR遺伝子変異もしくはALK融合遺伝子を伴わない患者の21%で、切除時点でmajor pathologic response(MPR)‐残存腫瘍細胞が腫瘍全体の10%未満‐に至っており、本試験の主要評価項目を達成した。一方、病理学的完全奏効‐残存腫瘍細胞が全くない‐はこの患者群の7%に留まった。病理学的な評価が可能だった155人のうち43%でアテゾリズマブによる術前治療で病期が改善し、一方19%では病期が進行した。
術前化学療法と異なり、アテゾリズマブによる術前治療では周術期の合併症や手術関連死を抑えつつ、術前治療終了後すぐに手術を行うことができ、完全切除割合も高かった。本試験は比較的多数の患者を対象に行われたため、術前治療の有効性に関する今後の臨床試験のベンチマークとなり得る結果を残した。
LCMC3試験はオープンラベル、単アームの試験デザインが特徴である。計181人の根治切除可能なIB-IIIA期、もしくは慎重に手術適応を判断されたIIIB期の非小細胞肺がん患者が参加した。全ての患者は最大2コースの術前アテゾリズマブ療法(1200mg/日、3週ごと)を受け、最後にアテゾリズマブが投与されてから8-28日目(試験治療開始から30日目から50日目)に根治切除を予定することとした。
181人が本試験に参加し、159人(88%)が術前アテゾリズマブ療法ののちに根治切除に進み、アテゾリズマブの最終投与日から手術を行うまでの期間中央値は22日(11-74日)だった。159人中140人は、試験治療開始から30-50日間の範囲内で根治切除術を受けていた。アテゾリズマブの最終投与から既定の日程以内に手術を受けられなかった19人においても、9人では物流の問題、6人では他の合併症の問題、4人では治療に直接関係のない問題が原因だった。
手術そのものについては、低侵襲な手術法で臨んだ101人のうち、15人で開胸術への移行を要した。すなわち、ロボット支援手術や胸腔鏡か切除が54%、開胸術が46%を占めたということである。R0切除ができたのは92%で、術前化学療法の臨床試験のhistolical controlと比較して良好だった。
なお、生存期間解析については追跡期間が2.1年と短いものの、1年無病生存割合はI / II期、III期の患者でいずれも85%、1.5年無病生存割合はI / II期で79%、III期で77%だった。同様に、1年生存割合はI / II期の患者で92%、III期の患者で95%、1.5年生存割合はI / II期の患者で91%、III期の患者で87%だった。
まずはLCMC3試験の初期評価報告について。
今年1月に開催された世界肺癌会議で取り扱われていた。
化学療法薬の開発の経緯を振り返ると、周術期治療に関する臨床試験は抗悪性腫瘍薬開発における最終段階と考えていいだろう。
LCMC3試験において、アテゾリズマブは主要評価項目を達成しており、今後の第III相試験が期待される。
しかし、他の記事で取り扱うが、この分野ではニボルマブが開発の一歩先を行っているようだ。
LCMC3 Findings Indicate Neoadjuvant Atezolizumab Safe, Efficacious in Resectable Stage IB-IIIB NSCLC
Kara Nyberg, PhD, et al., PRESIDENTIAL SYMPOSIUM WCLC 2020 ARCHIVE Abst.#PS01.05
JAN 28, 2021
第II相Lung Cancer Mutation Consortium(LCMC)3臨床試験の解析データ第一陣から、アテゾリズマブによる術前治療が根治切除可能なIB-IIIB期の非小細胞肺がん患者の一部において検討する価値のある治療選択肢であることが示唆された。EGFR遺伝子変異もしくはALK融合遺伝子を伴わない患者の21%で、切除時点でmajor pathologic response(MPR)‐残存腫瘍細胞が腫瘍全体の10%未満‐に至っており、本試験の主要評価項目を達成した。一方、病理学的完全奏効‐残存腫瘍細胞が全くない‐はこの患者群の7%に留まった。病理学的な評価が可能だった155人のうち43%でアテゾリズマブによる術前治療で病期が改善し、一方19%では病期が進行した。
術前化学療法と異なり、アテゾリズマブによる術前治療では周術期の合併症や手術関連死を抑えつつ、術前治療終了後すぐに手術を行うことができ、完全切除割合も高かった。本試験は比較的多数の患者を対象に行われたため、術前治療の有効性に関する今後の臨床試験のベンチマークとなり得る結果を残した。
LCMC3試験はオープンラベル、単アームの試験デザインが特徴である。計181人の根治切除可能なIB-IIIA期、もしくは慎重に手術適応を判断されたIIIB期の非小細胞肺がん患者が参加した。全ての患者は最大2コースの術前アテゾリズマブ療法(1200mg/日、3週ごと)を受け、最後にアテゾリズマブが投与されてから8-28日目(試験治療開始から30日目から50日目)に根治切除を予定することとした。
181人が本試験に参加し、159人(88%)が術前アテゾリズマブ療法ののちに根治切除に進み、アテゾリズマブの最終投与日から手術を行うまでの期間中央値は22日(11-74日)だった。159人中140人は、試験治療開始から30-50日間の範囲内で根治切除術を受けていた。アテゾリズマブの最終投与から既定の日程以内に手術を受けられなかった19人においても、9人では物流の問題、6人では他の合併症の問題、4人では治療に直接関係のない問題が原因だった。
手術そのものについては、低侵襲な手術法で臨んだ101人のうち、15人で開胸術への移行を要した。すなわち、ロボット支援手術や胸腔鏡か切除が54%、開胸術が46%を占めたということである。R0切除ができたのは92%で、術前化学療法の臨床試験のhistolical controlと比較して良好だった。
なお、生存期間解析については追跡期間が2.1年と短いものの、1年無病生存割合はI / II期、III期の患者でいずれも85%、1.5年無病生存割合はI / II期で79%、III期で77%だった。同様に、1年生存割合はI / II期の患者で92%、III期の患者で95%、1.5年生存割合はI / II期の患者で91%、III期の患者で87%だった。
2021年04月06日
新型コロナウイルスワクチン(コミナティ)体験記
先週、2回目の新型コロナウイルスワクチン接種を終えた。
印象を書き残す。
今回接種したのは、米ファイザー社、独ビオンテック社の共同開発による「コミナティ」。
冷凍保存が必要だの、衝撃を与えるとよくないだの、専用シリンジでないと接種可能数が減るだの、話題に事欠かないワクチンだ。

検温、問診票記入、ワクチン接種の流れは、他のワクチンと大きな違いはない。
行政が摂取状況を把握するための仕組みが一部加わった程度だ。
接種部位は三角筋(肩の部分、腕の付け根の盛り上がった部分の筋肉)なので、ノースリーブもしくは半袖の肌着を着ておくといい。
接種時の針は十分に細く、接種液量は0.3mlと少なめなので、接種されたときの苦痛はそれほど感じなかった。
アナフィラキシー反応がよく取り沙汰されるが、私の職場にアナフィラキシー反応を起こした人はいなさそうだ。
1回目の副反応は、翌日に明らかになった接種部位の筋肉痛くらいだった。
私より先に接種した人たちによると、接種部位の筋肉痛がひどくて、数日は肩が挙がらなくなったとのことだった。
私はそこまではなかったが、確かに接種部位の筋肉痛はあった。
筋肉の中にワクチンを接種して、そこに炎症を起こしているんだから、当たり前と言えば当たり前だ。
それも2日間くらいでほぼ消失し、全身性の副反応はなかった。
日常生活に支障はなかった。
3週間経過して、2回目の接種時期が来た。
2回目となると接種する側もされる側も慣れていて、作業は滞りなく進んだ。
問題は副反応だ。
私より先に接種した人たちの話を聞くと、報道されている通り、発熱している人が少なからずいた。
私より先に接種した人たち50人くらいのうち、8-9人くらいは38度前後の発熱があったとのことだった。
実際に接種してみると、初回より筋肉痛が始まるのが早かった。
お昼くらいに接種して、夕方にはしっかりした接種部位の筋肉痛があった。
それでも接種当日はどうということはなかったが、翌日はどうにも調子が悪かった。
発熱こそないものの、倦怠感、両肩・背中・腰の筋肉痛、頭痛、食欲不振にさいなまれた。
ちょっとした風邪よりたちが悪い。
結局接種翌日は、比較的症状の軽かった早朝を除いて何もできず、ほぼ臥床したまま1日を終えた。
翌々日の朝には随分と楽になり、日常生活に支障はない。
ごく軽い頭痛が残るものの、副反応なのか、寝不足のせいなのか、判然としない程度の軽いものである。
これから接種する方へは、以下のように助言したい。
副反応を過度に恐れる必要はないと感じたものの、体調がいい時に接種するに越したことはない。
そして、少なくとも2回目の接種翌日はかなり体調が崩れると考えて、1日スケジュールを空けておくことを勧める。
2回目の接種翌日は、読了したい本を1冊準備しておくとちょうどいい。
個人差はあると思うが、これくらいの準備は整えておきたい。
印象を書き残す。
今回接種したのは、米ファイザー社、独ビオンテック社の共同開発による「コミナティ」。
冷凍保存が必要だの、衝撃を与えるとよくないだの、専用シリンジでないと接種可能数が減るだの、話題に事欠かないワクチンだ。

検温、問診票記入、ワクチン接種の流れは、他のワクチンと大きな違いはない。
行政が摂取状況を把握するための仕組みが一部加わった程度だ。
接種部位は三角筋(肩の部分、腕の付け根の盛り上がった部分の筋肉)なので、ノースリーブもしくは半袖の肌着を着ておくといい。
接種時の針は十分に細く、接種液量は0.3mlと少なめなので、接種されたときの苦痛はそれほど感じなかった。
アナフィラキシー反応がよく取り沙汰されるが、私の職場にアナフィラキシー反応を起こした人はいなさそうだ。
1回目の副反応は、翌日に明らかになった接種部位の筋肉痛くらいだった。
私より先に接種した人たちによると、接種部位の筋肉痛がひどくて、数日は肩が挙がらなくなったとのことだった。
私はそこまではなかったが、確かに接種部位の筋肉痛はあった。
筋肉の中にワクチンを接種して、そこに炎症を起こしているんだから、当たり前と言えば当たり前だ。
それも2日間くらいでほぼ消失し、全身性の副反応はなかった。
日常生活に支障はなかった。
3週間経過して、2回目の接種時期が来た。
2回目となると接種する側もされる側も慣れていて、作業は滞りなく進んだ。
問題は副反応だ。
私より先に接種した人たちの話を聞くと、報道されている通り、発熱している人が少なからずいた。
私より先に接種した人たち50人くらいのうち、8-9人くらいは38度前後の発熱があったとのことだった。
実際に接種してみると、初回より筋肉痛が始まるのが早かった。
お昼くらいに接種して、夕方にはしっかりした接種部位の筋肉痛があった。
それでも接種当日はどうということはなかったが、翌日はどうにも調子が悪かった。
発熱こそないものの、倦怠感、両肩・背中・腰の筋肉痛、頭痛、食欲不振にさいなまれた。
ちょっとした風邪よりたちが悪い。
結局接種翌日は、比較的症状の軽かった早朝を除いて何もできず、ほぼ臥床したまま1日を終えた。
翌々日の朝には随分と楽になり、日常生活に支障はない。
ごく軽い頭痛が残るものの、副反応なのか、寝不足のせいなのか、判然としない程度の軽いものである。
これから接種する方へは、以下のように助言したい。
副反応を過度に恐れる必要はないと感じたものの、体調がいい時に接種するに越したことはない。
そして、少なくとも2回目の接種翌日はかなり体調が崩れると考えて、1日スケジュールを空けておくことを勧める。
2回目の接種翌日は、読了したい本を1冊準備しておくとちょうどいい。
個人差はあると思うが、これくらいの準備は整えておきたい。