2015年11月30日

神経内分泌腫瘍の病理分類

 一般の方にはちんぷんかんぷんな内容かもしれませんが、この分野が好きな専門職の方には興味深いかも知れませんので、参考までに記載します。


<神経内分泌腫瘍の病理分類>

がん研究所有明病院病理部 石川雄一先生のランチョンセミナーより

・神経内分泌腫瘍に関する2010年WHO分類では、呼吸器領域の専門家は一切関わっていない
・以下のように分類
1)Neuroendocrine tumor(NET G1) typical carcinoidに相当
2)Neuroendocrine tumor(NET G2) atypical carcinoidに相当
3)Neuroendocrine carcinoma(NEC) LCNEC / SCLCに相当
4)Mixed adenoneuroendocrine carcinoma(MANEC)
5)Hyperplastic and preneoplastic lesions
・1)、2)、3)は核分裂像とKi67-Indexで分類
 NET G1は核分裂像 <2/10HPF, Ki67-Index≦2%
 NET G2は核分裂像 2-20/10HPF, Ki67-Index 3-20%
 NECは核分裂像 >20/HPF, Ki67-Index >20%
・WHO分類2015においては
 typical carcinoid(TC)はKi67-Index <5%
 atypical carcinoid(AC)はKi67-Index 5%-20%
 LCNECはKi67-Index 40-80%
 SCLCはKi67-Index 50-80%
・発生頻度はTC <1%, AC 0.1-0.2%, LCNEC <3%, SCLC <15%
・AC / TCは神経内分泌分化高度、化学療法感受性は悪い、腫瘍随伴症候群は高頻度、LOHは低頻度、p53変異は低頻度、11q(MEN type 1)変異は高頻度
・LCNEC / SCLCは神経内分泌分化(±)、化学良好感受性良好、腫瘍随伴症候群は低頻度、LOHは高頻度、p53変異は高頻度、11q変異は低頻度
・carcinoidの治療薬がいろいろ出てきた-ソマトスタチンアナログ(PROMID study)、エベロリムス(mTOR inhibitor)、スニチニブ(VEGF inhibitor)、ストレプトゾシン
・カルチノイド、腺癌、正常組織などなど、さまざまな臓器から組織を集めてきて、miRNAアレイでクラスター分類すると、カルチノイドは臓器横断的に一群を形成して、他の組織とは相容れない→発生母地は臓器横断的?
・carcinoid, LCNEC, SCLCの術後予後調査
 Asamura et al, J Clin Oncol 2006 70-76 (Japan)
 Rindi et al, Endocrine related Cancer 2014 1-16 (Italy)
→結果はほぼ一致している。
 Italyの方が、TC, ACの症例数が多く、より信頼性が高い
・mRNAアレイによるSCLC, LCNECのクラスター分類
 Jones, Ishikawa et al, Lancet 2004
 HGNT1群とHGNT2群に分類、1群のほうが予後が悪く、SCLCのcell lineにより近いmRNA発現状態にある
 HGNT2群は予後良好群、ときどき見られるSCLCの長期生存例はこちらに入るのか
・IHCによるSCLCの亜分類
 Hamanaka, Ishikawa et al, Hum Pathol 2015, 1045-1056
 44人は手術症例、51人は内科生検症例
 神経内分泌マーカー(NE)(CGA,synapto, CD56)とBasaloidマーカー(BA)(34βE12, p63)で染色
 NE(+)BA(+), NE(+)BA(-), NE(-)BA(-)の3群に分かれる
 NE(+)BA(-):58%, NE(+)BA(+):19%, NE(-)BA(-):23%
 NE(+)は予後不良
 BAでは予後に有意差なし
 内科生検例(手術不能)は全例NE(+)BA(-)だった
・miRNAアレイによるSCLC亜分類
 Chiba, Ishikawa et al, submitting
 miRNA 153, 203, 216aの3つで分類可能
 group1は予後不良でproGRP高値, group2は予後良好でproGRP低値
・メチル化アレイでも予後良好群と予後不良群に分けられる
・LCNECでmTOR mutation(L2209V)がたった一人だけだが見つかった
 Yamaguchi, Mano et al, Cancer Sci 2015
・WHO分類2015では、4大組織型はSq, Ad, NET(亜型としてSCLC, LCNEC, carcinoid, DIPNECHを含む), Largeと分類された
  

Posted by tak at 21:10Comments(0)その他

2015年11月30日

心を揺さぶる語り方

 今回の学会では、大きな会場にばっかり顔を出していたので、必然的に特別講演を聴講することが多かったです。
 最終日のお昼前に行われた、大会長の患者さんでもある人間国宝の講談師、六代目一龍齋貞水さんのお話について。

 題名からしてすごいですよね。
 心を揺さぶる語り方。
 同じ題名で著書があるようです。
 対人恐怖症、病状説明下手の私は、少なからず期待して聴講しました。

 壇上には金屏風と高座が設けられ、講談ならではの年季が入った釈台が据えられています。
 座長の弦間先生の紹介に続いて、貞水さんがよったりよったり入場され、よっこいしょとばかりに高座に上がられました。

 

 具体的に「こんな話し方をしなさい」なんて話は一言もありませんでした。
 しかし、感じるものはたくさんありました。
 大切な内容なのか、取るに足らない内容なのかは別として、以下のようなお話が耳に残っています。

・講談ってえのは、もともとは難しい古典の書物の内容を大衆に分かりやすく話し言葉で話して聞かせることから始まったんですな。
・落語と違って机が据えてありますが、別にこの上でうたたねしよう、って料簡じゃなくて、これは書物を載せるためのものなんです。
・落語の世界では教えてくれる人を「師匠」と呼ぶけど、講談の世界では「先生」と呼ぶ。
・先生と書いて「先に生まれる」と読む人もいれば、「先ず生きてる」と読む人もいる。
・タバコはかなり若いころから吸ってましたね。
・講談の楽屋に出入りし始めたのがちょうどそのころなんですが、楽屋にタバコが置いてあって、みんな出番が来て部屋から出ていっちまってわたしひとりになっちゃう。すると、部屋に置いてあるタバコが、ほらこっちにおいで、まあ遠慮せずに一服やんなさいよ、ってなもんだから、しようがなくじゃあ頂いちゃおうか、ってことになる。
・真っ赤なションベンが出て、若い衆に、おい大変だ、変なションベンが出てるぞ、って行ったら、病院に行くことになっちゃって、こりゃあまず間違いなく膀胱がんだね、だって。
・膀胱がんがひと段落してやれやれと思ったら、左の肺に肺がんまで見つかっちゃった。
・手術して取ってやれやれ、と思ったら、今度は右肺にもできちゃった。
・右も手術したんだけど、もう話はできなくなるんじゃないかと思ってた。
・講談協会の会長をやったけど、そんなに偉いもんじゃなくって、ありゃあ総会を欠席すると自動的になっちゃうんだね。
・用事があって出らんないから、って欠席したら、帰ってきたら会長に決まりましたよ、って言われて、こりゃあしくじった、と思ったね。
・最近の若い人はあれだね、言いたいことをはっきり言うね。
・若い人が入門してきて一緒の楽屋で過ごしてるんだけど、用事があるからちょっとおいで、って言っても全然反応がない。
・おい、ちょっと、ってもう一回いうんだけど、やっぱり反応がない。
・もう一回、用事があるんだけど、ちょっときてくんねえかい、って声をかけると、「用事があるのは先生でしょう、だったら先生がこっちに来たらいいじゃないですか」だって。
・なんだとこんちくしょう、と思ったけど、言ってることももっともなので、こっちから行っちゃった。
・最近の若い入門者は、男性よりも女性の方が多いんだね。
・女性も男性も楽屋はおんなじで、楽屋自体が狭いもんで、着替えるときもおんなじ部屋。
・女性も強くって、「先生、着替えるから部屋から出てってください」って言うんだけど、従うしかないよね。
・若い人に教えるときには、最初は「お茶くみ」と「着替えをたたむこと」から。
・何年たっても「お茶くみ」と「着替えをたたむこと」ばっかりで、いつまでたったら講談を教えてくれるんですか、って聞いてくる
・講談なんて教えないよ、って言ってやる
・別に意地悪で言ってるんじゃなくて、講談界にある若手指導のマニュアルにもちゃんとそう書いてある
・「お茶くみ」「着替えをたたむこと」ってのは、講談とは直接関係はないけど、みんなその仕事ぶりをちゃんと見てる
・暑い夏の盛り、次の出番が来る前にちょっと一服したいって先輩が来たら、どうします?
・グラグラ煮立ったお茶を出すバカはいないよね。
・ぐいっと一杯やってスッキリしたいんだろうからって、ぬるめのお茶なり冷たいお茶を準備してあげるのが人情だよね。
・これから出番だって時に、気持ちよく高座に上がるための着替えって、どんなだろう?
・風呂敷を空けたら、着るべき順番に衣服が整えられてたら、気持ちがいいよね。
・そういった気配り、目配りができる人になってるかどうかってのを、みんな見てるし、それが修行だと思ってるんだよね。
・それができるようになったら、精進する気持ちさえあれば講談は自然と身についてくる。
・たとえ下手くそでも、一所懸命やってる若手の姿ってのは、ちゃんとお客さんは見てる。
・初めての高座で若い衆があがっちゃって、「駿馬を小脇にかいこみ、長槍にうちまたがりて・・・」なんて馬鹿なこと言っちゃっても、そんなの聞いてる人は気にしない、あったかく笑ってくれる
・人の心を打つのは、芸の上手下手じゃなくて、懸命に講談と向き合う心、必死にお客さんに伝えようとするひたむきな心なんですな
・あとは先輩の仕事ぶりを見て、芸を盗んでいくものです。
・大工さんだって、棟梁から手取り足取り教えてくれるわけじゃない
・「親方、仕事はどうやって教えてもらったんだい」「何言ってやんで、仕事なんてこれっぽっちも教えてもらったことはねえやい」「そんなこと言っても、家を建てる技術は一通りなんでも身についてるじゃないか」「知らねえよそんなの、できるからできるんだよ、別に教えてもらったわけじゃねんだよ、そんなの理屈じゃねえよ」

 あとは、坂東武者がいざ鎌倉と頼朝のもとに馳せ参じる様子をちょっとだけ話してくださいましたが、両肺に治療を受けた76歳の方とは思えない声の張りでした。
 張扇と拍子木を使って、馬のひづめの音を表現しながらの語りでしたが、そりゃあ見事でした。



  

Posted by tak at 21:00Comments(0)その他

2015年11月28日

肺癌新治療の費用対効果

 肺癌の薬物治療には、私が医師になった1999年から今日に至るまで、何度かのターニングポイントがありました。
 初回治療におけるプラチナダブレットの確立、二次治療におけるドセタキセルの確立、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の登場、EGFR遺伝子変異と治療効果の相関に関する発見、抗VEGF抗体の上乗せ、ペメトレキセドの登場、組織診断の重要性再認識、ALK遺伝子再構成の発見と治療薬開発、そしてここ2年くらいは、第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の波と免疫チェックポイント阻害薬の波が同時に押し寄せており、希少な遺伝子異常を有する癌の検索と治療開発も始まっています。
 こうして見ると、臨床応用されたもの、されつつあるものだけでもおなかいっぱいになりますが、もうひとつ重要なことは、新しいテクノロジーが出現するたびに医療費が高騰していることです。
 水分・糖質補給のための点滴の薬代が数百円であるところにもってきて、点滴用の抗生物質は高いもので数千円します。
 医師になりたての頃、抗生物質って高いもんだなあと思っていたら、抗真菌(カビ)薬は一万円を超えるものも当たり前でした。
 こりゃたまらんと思っていたら、抗がん薬は1回の治療で数万円は当たり前、の世界でした。
 抗がん薬治療は吐き気止めなどの支持療法も必要なのですが、困ったことに吐き気止めも一万円を超えるものが出てきました。
 分子標的薬が出てきたと思ったら、1錠7000円から一万円もして、毎日飲まなきゃならないときました。
 内服薬とはいえ、馬鹿にならないなと思っていたら、1回の治療で数十万円も上乗せされる抗体医薬や新規抗がん薬が出てきました。
 このころから、高額医療制度でカバーできるのだろうかと不安になり始め、製薬会社も治療コストを考慮したパンフレットを作り始めました。
 困ったことに、分子標的薬、抗体医薬、新規抗がん薬、どれをとっても長期投与により生存期間の延長が示されています。
 掛け値なしに、命=時間をお金で買っていることになります。
 わが国は国民皆保険制度で医療費をまかなっており、どんなにお金持ちでも保険診療である限りは1ヶ月に14万円以上を支払うことはありません。
 限度額を超える医療費は、そのほとんどが税金と、毎月の給与から差し引かれる健康保険料で賄われています。
 わが国の肺癌の発症時年齢中央値は70歳を超えていると思われますから、現役世代が税金と保険料で支えている構図です。
 そして、それだけでは賄いきれないので、年間40兆円の医療費を国の借金(国債など)で支払っており、この医療費は今後も増え続けると予想されています。
 国の借金は、現在でも国民総生産の2倍以上あります。
 わかりやすく家計にたとえるなら、お父さんの給料では賄いきれない年間400万円のおじいちゃん、おばあちゃんの治療費を、消費者金融からお金を借りて支払っているのですが、この治療費は今後も増え続けると予想され、さらには借金の残高も利息も増え続けるということになります。
 すでに借金の総額は、お父さんの年収の2倍を超えており、預金は一銭もありません。
 このままだとこの家庭は、どうなるでしょうか・・・。
 破産、家庭崩壊、一家離散、借金苦の挙句に一家心中、などなど、とても悲観的な将来しか見えてきません。
 国家レベルに話を戻すなら、デフォルト、医療崩壊、外貨の流出、場合によっては戦争も現実味を帯びてきます。
 そしてここに追い討ちをかけるように、肺癌の世界では第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬や年間数千万円から一億円とも言われる医療費がのしかかる免疫チェックポイント阻害薬が使い始められようとしています。
 免疫チェックポイント阻害薬で炎症性腸疾患様の有害事象が起こったら、抗TNFα抗体(インフリキシマブ)を使ってでも押さえ込む、という年の入りようで、高コスト体質は際限なく広がります。

 本日の肺癌学会で行われた表題のシンポジウムでは、医療経済の専門家、薬価設定や薬価改定の専門家の講演も交えて、Pros & Consに近いような形で議論が展開されました。
 新規診断法や新規治療に関する情報が得られるわけでもないのですが、1000人以上を収容するメイン会場で立ち見が出るほどの盛況で、肺癌薬物療法の高コスト体質にいかにみんなが危機感を持っているのかがよくわかりました。
 それぞれの演者についてコメントをするのは避けますが、いろんな立場から議論が展開され、それぞれに一理あり、会場の参加者全員が何らかの思いを抱えながら会場を後にしたことでしょう。
 
 ここから先は、私の私見です。
 他の薬はともかくとして、免疫チェックポイント阻害薬だけは、健康保険制度で賄ってほしくありません。
 肺癌の領域では、喫煙が関連した(多段階発癌を経た)癌には免疫チェックポイント阻害薬の効果が高いことがわかっています。 
 高い効果が期待できる患者さんを見分ける上で、喫煙者か否かというのはとても簡単な方法です。
 しかし、非喫煙者としても、医師としても、勝手に喫煙して、勝手に肺癌になって、その上現役世代や将来世代に年間数千万から一億円の借金を背負わせて、免疫チェックポイント阻害薬の治療を受けるのは、承服できません。
 治療をしないとは言いませんが、免疫チェックポイント阻害薬は高度先進医療かそれに準じた取り扱いにして、患者さんに選択してもらうのがさし当たってはいいのではないでしょうか。
 生命保険で高度先進医療特約に入っていればそちらから賄われるでしょうし(現物給付でないと対応できないかもしれませんが)、そういったバックアップ体制を自ら準備していない患者さんは、この治療は受けるべきではない気がします。
 夏休み期間中、学校で給食を食べられないがために栄養失調に陥る(家計が切迫しているために家庭では十分な食事を用意できない)子供が少なからずいるわが国で、通常の健康保険で免疫チェックポイント阻害薬を使用していいものでしょうか。

 がんと薬物療法の闘いは、細菌感染症と抗生物質の闘いの歴史を追いかけているように見えますが、コストの面においてはがんの世界の方が遥かに深刻です。
 米国では、家庭内に進行期の肺癌患者がひとり発生すると、13家族のうち1家族は破産する統計データがあるそうです。
 個人単位では、長生きすればするほど生活は貧しく、苦しくなり、国家単位では、国民の5年生存割合が伸びれば伸びるほど、国家財政は破綻の方向に向かいます。

 ・・・やっぱり、まずはがんにかからないことが大切です。
 予防医学です。
 今回の記事を読んで危機感を感じた喫煙者の方は、現在ただいまから、直ちに禁煙してください。
 男性なら、それだけで肺癌の発癌リスクが半分に減るはずです。
  

Posted by tak at 01:07Comments(2)医療経済

2015年11月27日

2015年日本肺癌学会総会備忘録

 先週末の新聞記事だったと思いますが、医薬品関連の株式が堅調に推移しているようです。
 小野薬品工業の株価が続伸しているそうですが、ニボルマブへの期待が大きいのでしょうね。
 
 11/26から2015年の日本肺癌学会総会が横浜を舞台に始まりました。
 備忘録です。
 雑記します。
 休み休み追記します。

・Oxnard, WCLC 2015, 3rd generation EGFR-TKI使用後耐性化した腫瘍のC797S陽性率:22%
・3rd generation EGFR-TKIは次々出てきていて、それぞれに特徴的な有害事象がある。
 - CO1686(rociletinib, Clovis Oncology)→高血糖
 - AZD9291(osimertinib, Tagrisso, Astrazeneca)→下痢
 - HM61713(Korea)→呼吸困難(10.2%に発現)、発疹
 - EGF816X(Novartis)→発疹(Grade 3/4が20%)
 - ASP8273(Asteras)→低ナトリウム血症、下痢、嘔気
・3rd generation EGFR-TKIのカウンターパートはMEK阻害薬、VEGF阻害薬、MET阻害薬、PD-1/PD-L1抗体

・進行肺扁平上皮癌に対するネダプラチン+ドセタキセル>シスプラチン+ドセタキセル(プレナリーセッション1)
 - 当初は予定登録数250人だったが、検出率を80%から90%に上げるために350人まで集積
 - 全生存期間中央値で2ヶ月(13.6ヶ月 vs 11.4ヶ月)の延長、ハザード比で0.81、ただし95%信頼区間の上限は1を超える
 - WJOGは今後進行肺扁平上皮癌の臨床試験において、ネダプラチン+ドセタキセルをreference arm(標準治療)とする

・非小細胞肺がんに伴うがん悪液質に対するONO-7643(Anamorelin)の国内第II相試験
 - Anamorelin内服で、グレリン様作用を示す
 - がん悪液質の定義→Fearon et al, Lancet Oncol 2011, 489-495, EPCRC criteria
 - 主要評価項目は除脂肪体重、握力
 - 握力は変わらず、除脂肪体重は増加、QOLもPSも改善
 - 食欲増進効果は明らかで、やめた途端に患者さんは食欲をなくす
 - 海外では第III相臨床試験が終わっている
 - 国内では第II相臨床試験をやり直している
 
 - Nivolumabは12月には承認されるかも?
 - 抗PD-1抗体はPD-1とPD-L1, PD-1とPD-L2の結合を両方ブロックする
 - 抗PD-L1抗体はPD-1とPD-L1の結合をブロックするが、PD-1とPD-L2の結合には関与しない
 - CheckMate 017 studyとCheckMate 057 study
 - CheckMate 017 studyでの、奏効割合(Objective Response Rate, ORR)と進行割合(Progressive Disease Rate, PDR)
 - NivolumabのORR:20%, PDR:41%, DocetaxelのORR:9%, PDR:35%→NivolumabはORR, PDRいずれもDocetaxekより高い
 - Atezolimumabと化学療法の併用:どの併用療法でも、ほとんどの患者で腫瘍は縮小する
  Amab+CBDCA+PTX, Amab+CBDCA+PEM, Amab+CBDCA+nabPTX
 - Nivolumabと化学療法の併用:国立がん研究センター中央病院での少数例検討でも、ほとんどの患者で腫瘍縮小
  Nmab+CDDP+GEM, Nmab+CDDP+PEM, Nmab+CBDCA+PTX+BV, Nmab+DOC, 各6例ずつ

 - AJCC TNM classification 8th edition project on-going
 - T因子は1cmから5cmまで1cm刻みに細分化、5cmの次は7cm
 - WHO分類2015
 - PETでSUVmaxが高いと切除後予後不良
 - Tsao MS et al, J Clin Oncol, 2015:腺癌組織型と術後補助化学療法
  acinar, papillaryは補助化学療法効果(-)、micropapillary, solidは術後補助化学療法の効果(+)
 - 術後補助化学療法にBevacizumabを上乗せする意義を検証する第III相試験、扁平上皮癌も30%含まれていた1500人規模の臨床試験
  全生存期間、無再発生存期間いずれも上乗せ効果見られず
 - SCAT study(スペイン):腫瘍のBRCA1発現状態で術後補助化学療法レジメンを決定
  CDDP+DOC, CDDP+GEM, DOCから選択
  BRCA1低発現軍ではCDDP+DOCよりCDDP+GEMの方が効果が高い

 - AZD9291:AURA study pII part: ORR 61%, DCR>90%, 6ヶ月PFS 70%
  AURA2 study(phase II): ORR 71%, DCR>90%,
 - AURA study 1st line part: ORR 75%, ILDは5%で発症, DCR>90%, 6ヶ月PFS=12ヶ月PFS 70%
 - C797SはEx. 19で出現しやすい(Ex. 19で20%、Ex. 21で8%)、その他の耐性機序はT790M loss, MET, BRAFm, HER2m
 - CO1686ではAZD9291とは異なる耐性機序が働く
 - CO1686はT790M(-)でもORR 30%
 - ALK陽性肺がんにおけるCrizotinibの市販後調査:生存期間中央値18.7ヶ月、治療開始時に喫煙を継続していると予後不良
  病勢進行後に第2世代ALK阻害薬を使った場合は予後良好
 - PF06463922(Lorlatinib)はheavily treatedでもORR 47%, 脳血液関門を通過、健忘などの中枢神経系有害事象あり、脂質異常も出現
  他のALK-TKIが無効なG1202R耐性変異にも有効
  

Posted by tak at 22:29Comments(0)その他

2015年11月20日

LC-scrum 全体会議 その4

 その4のお題は「EDC入力上の留意事項」です。
 なんじゃいな、そりゃ、というようなお題です。

 配布資料の中ではかなりのページを割いていました。
 要は、LC-scrum Japanの患者登録からその後の臨床経過の追跡調査に至るまで、全てインターネット上でやりとりしようということのようです。
 従来は、臨床試験の患者登録や経過報告と言えば、紙媒体やFAXでのやりとりが主流でした。
 ネット上でやり取りするようになったのは、IPASS studyのころからだと思います。

 今月から本システムに完全移行したため、参加者はみなECD入力のトレーニングを終了しないと患者登録できないことになりました。
 私も再来週くらいをめどに現在進行中の内容を全て院内倫理審査委員会に諮る予定ですが、こっちのトレーニングもしないと参加できません。
 腫瘍凍結検体は今週採取しちゃったので、早く話を進めなければ。  

Posted by tak at 18:55Comments(0)遺伝子変異

2015年11月20日

脳転移を有するALK陽性肺癌

http://www.ascopost.com/ViewNews.aspx?nid=34059

脳転移を有するALK陽性非小細胞肺癌患者さんの予後良好因子の報告。
「脳転移が発覚する前の段階では、ALK阻害薬の治療をしていない」
「脳転移以外に遠隔転移がない」
「PSがよい」
というのが有意な予後良好因子で、
「脳転移巣がひとつしかない」
「脳転移に対する初回治療が定位脳照射である」
というのは予後因子にならないそう。
 当たり前と言えば当たり前でしょうか。
 脳転移が発覚してからの生存期間中央値は49.5ヶ月、頭蓋内病巣に関する無増悪生存期間は11.9ヶ月、脳転移のために最期を迎える方の割合は45%、こういったデータは何かに役立つかもしれません。  

2015年11月15日

来ました、オシメルチニブ!

 米国食品医薬品局が、2015年11月13日付で、EGFR阻害薬治療後に病勢進行をきたし、EGFR T790M遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんに対してオシメルチニブ(Osimertinib)を承認しました。
 オシメルチニブ?
 なんじゃいな、そりゃ、ということで調べてみたら、おなじみのAZD9291でした。
 第三世代EGFR阻害薬の先陣争いは、AZD9291に軍配が上がったということですね。
 おそらく、第一世代の時と同じような順番に上市されていくのでしょう。

 オシメルチニブ、商品名はタグリッソ(Tagrisso)というようです。

 以下、ASCO Postの記事から一部抜粋します。

 「肺がんの分子病理と前治療に対する耐性化機序への知見は急速に進みつつある」
 「今回の承認は、EGFR耐性変異(T790M)のある患者に新たな治療を提供し、臨床試験においてオシメルチニブが半数以上の患者の腫瘍を縮小したという統計学的に有意な臨床効果に基づいたものである」
 ・・・つまるところ、「生存期間の延長」ではなく、「腫瘍縮小効果」に基づいた承認、ということですね。
 生存期間延長効果は、市販後の調査に委ねられました。

 あわせて、コンパニオン診断も承認されました。
 今回は、「cobas EGFR遺伝子変異検査キットバージョン2」が採用されています。
 本検査法が、通常の細胞診や生検診断のみならず、リキッド・バイオプシーにまで対応できるのかどうかは言及されていません。

 オシメルチニブは、2つの多施設共同単アーム臨床試験で検証され、57-61%の奏効割合を示しています。

 オシメルチニブの承認は条件付きで、さらなる臨床試験で効果の裏付けを取ることが課されているようです。
 
 オシメルチニブの主な有害事象は下痢、皮疹、爪周囲炎です。
 また、深刻な有害事象として、肺障害や心筋障害、さらには妊婦が服用した際の胎児発達障害が記載されています。
 肺障害はともかくとして、心筋障害や胎児発育障害が取り上げられているのはちょっとした驚きでした。

  

2015年11月13日

LC-scrum Japan 全体会議その3

3) 小細胞肺癌遺伝子スクリーニングの進捗報告
 腺癌では多種多様な、扁平上皮癌でも限られてはいるもののちらほらと、分子標的が見つかり、治療薬の開発も進んでいます。
 一方で、小細胞癌はというと、分子標的の発見や治療開発は全く成功していません。
 梅村先生は、東病院で外科切除された小細胞癌組織検体の全エクソン解析およびコピー数解析をされたそうですが、PIK3CA, PTEN, Akt2,Akt3,RICTOR, mTORといった一連のPIK3CAシグナル伝達経路の異常が全体の30%に認められることから、この経路の阻害薬が分子標的治療につながるのではないかと考えられたそうです。
 そして、Akt1, mTOR, OIK3CA, PTEN, TSC1, TSC2といったPIK3CA経路を含む網羅的遺伝子解析をOncomine Cancer Research Panelを用いて行い、異常が検出された患者さんを対象に、PIK3CAおよびmTORの両者を阻害するGedatolisib(PF-05212384)の有効性と安全性を検証する多施設共同第II相医師主導臨床試験(EAGLE-PAT)の開始に動き出したとのこと。
 遺伝子スクリーニングは、2015年9月30日現在で17施設で開始され、45施設で倫理審査委員会の承認待ちの状態だったそうで、既に8人の患者登録がなされています。
 既にPIK3CAの変異、もしくはFGFR2の増幅を認める患者さんが確認されたとのこと。
 2016年初頭からGedatolisibを用いた臨床試験が開始される見込みとのことです。

 扁平上皮癌も小細胞癌も、濃厚な喫煙歴を有する方に発生する、多段階発癌を経た腫瘍ですから、扁平上皮癌でPIK3CA系の阻害薬が効きそうな人や、小細胞癌でFGFR系の阻害薬が効きそうな人も出てくるかもしれませんね。  

Posted by tak at 19:57Comments(0)検査法

2015年11月13日

LC-scrum Japan 全体会議その2

2) 扁平上皮癌の遺伝子スクリーニング進捗報告
 もともと、LC-scrum JapanはEGFR遺伝子変異陰性が確認された非小細胞・非扁平上皮癌の患者さんを対象としてスタートした取り組みです。
 一方で、FGFR遺伝子の増幅、再構成などの異常を示す扁平上皮癌が見つかっており、こういった異常を治療標的にできないか、ということで、扁平上皮癌でも網羅的遺伝子異常スクリーニングが開始されています。
 2015年9月30日現在で、全国で参加を表明した医療機関が142施設、倫理審査委員会で承認された医療機関が80施設に上り、奈良県、徳島県、高知県を除く都道府県で実施されています。
 2015年9月30日現在で74人の患者さんが参加しており、遺伝子変異解析の成功率は92%、現在のところ、解析患者さん全体の40%弱でなんらかの治験対象となる遺伝子異常が見つかっているそうです。
 その中には、FGFR1遺伝子増幅、FGFR3遺伝子融合、PIK3CA遺伝子変異などが含まれているとのこと。
 全体で600人の患者さんの参加を募っているそうですから、まだまだ参加の余地はありそうです。
   

Posted by tak at 08:55Comments(0)

2015年11月12日

LC-scrum Japan 全体会議その1

 2015年11月7日、東京でLC-scrum Japanの年次全体会議が行われました。
 プログラムと配布資料を見ながら、印象に残ったことを記します。

1)LC-scrum-Japan / SCRUM-Japanの進捗報告
 当初はRET再構成陽性肺癌の患者さんを見つけて薬を届けたい、という願いから始まった本研究ですが、現在ではRET,ROS1,ALKの検索のみならず、次世代シーケンサーを用いて100種を超える遺伝子変異スクリーニングを行うようになりました。
 また、これも当初は非小細胞・非扁平上皮癌でEGFR遺伝子変異が陰性と確認された患者さんが対象だったのですが、その後扁平上皮癌、小細胞癌でも同様の研究が行われるようになりました。
 研究参加施設は全国200病院を超え、参加患者さんは2000人を超えました。
 既にRET陽性患者さんを対象にしたvandetanibの有効性・安全性を検討するLURET試験は患者さんの募集を終え、ROS1陽性肺癌患者さんを対象にした中国、韓国、台湾、我が国の共同治験であるOO12-01試験も患者さんの募集が終わっています。現在は、ALK陽性肺癌、BRAFV600E陽性肺癌、HER2変異/増幅陽性肺癌、FGFR遺伝子変異陽性肺癌等を対象とした臨床試験が進行しています。
 国からは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED、以前は日本版NIHと呼ばれていましたが、2015年4月に発足し活動を開始しています)を介して支援を受け、検査会社のSRLや国内外14社の製薬企業の協力も得て、大きな産官学連携のプロジェクトに発展しています。対象疾患も、肺癌領域の枠を超えて、現在は消化器癌領域(GI-SCREEN Japanという別組織が動き出しました)にも活動が広がっています。
 さらには、本研究をてこに、全国の肺癌患者さんの診断・治療データベースの構築なども視野に入れているようです。

・・・目次は全部で20くらいまであるのですが、とても収まりきらないのでまた次回に。  

Posted by tak at 09:12Comments(0)検査法

2015年11月01日

ASCOの肺癌診療ガイドライン2015

 既にオンラインでは発表されていましたが、ASCO(米国臨床腫瘍学会)のIV期非小細胞肺癌診療ガイドラインが公表されていたので、要約を以下に記します。

J Clin Oncol 33:3488-3515.

Systemic Therapy for Stage IV Non–Small-Cell Lung Cancer: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update
Gregory A. Masters, Sarah Temin, Christopher G. Azzoli, Giuseppe Giaccone, Sherman Baker Jr, Julie R. Brahmer, Peter M. Ellis, Ajeet Gajra, Nancy Rackear, Joan H. Schiller, Thomas J. Smith, John R. Strawn, David Trent, and David H. Johnson

 IV期の非小細胞肺がん患者では、治癒は期待できない。
 パフォーマンスステータス0、1、(2)で、EGFR感受性変異またはALK遺伝子再構成のない患者では、併用化学療法を推奨する。
 治療内容は腫瘍の組織型に基づいて決定する。
 治療早期から、緩和医療を並行して行う。
 パフォーマンスステータス0、1の患者では、プラチナ併用化学療法を行う。
 禁忌条件がなければ、カルボプラチン+パクリタキセル併用療法においてはベバシツマブを上乗せしてもよい。
 パフォーマンスステータス2の患者では、併用もしくは単剤化学療法、あるいは緩和医療のみを行う。
 EGFR感受性変異を有する患者では、アファチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブを用いる。
 ALKもしくはROS1遺伝子再構成を有する患者では、クリゾチニブを用いる。
 大細胞神経内分泌癌においては、上記以外にプラチナ製剤とエトポシドの併用を選択肢とする。
 維持療法は、初回の併用療法で腫瘍縮小もしくは病勢安定が得られた患者、あるいは何らかの理由でいったん治療を中断した患者に対するペメトレキセド継続投与を含む。
 二次治療では、非扁平上皮癌患者ではドセタキセル、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ペメトレキセドを使用する。
 扁平上皮癌患者ではドセタキセル、エルロチニブ、ゲフィチニブを使用する。
 ALK遺伝子再構成陽性の患者で、クリゾチニブ療法後に病勢進行を認めたら化学療法かセリチニブ投与を行う。
 三次治療では、エルロチニブもしくはゲフィチニブを使ったことのない患者では、エルロチニブを推奨する。
 日常臨床において、三次化学療法を推奨するだけのデータはない。
 患者の年齢のみを根拠に、治療内容を決めるべきではない。
 →高齢であっても、元気な患者であればより有効な治療を検討するべきである。   

 ASCOのガイドラインは、proof of conceptはともかくとして、基本的には第III相臨床試験でちゃんと結論が出た根拠をもとに構成されています。
 必ずしも実地臨床にそぐわない面もありますが、この内容をベースラインとしてそれぞれの医師が自分の考え方を反映させながら、治療体系を組み立てるとよいと思います。

 それにしても冒頭の
「IV期の非小細胞肺がん患者では、治癒は期待できない。」
という一文は、シンプルで重い言葉です。
   

Posted by tak at 17:46Comments(0)その他