2020年05月31日
oligometaに対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬と定位放射線照射の併用療法
少数の遠隔転移を有するEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんに対する局所療法の有効性について。
個人的な見解に過ぎないが、方法論としては放射線治療のほか、手術も考えていいのではないかと思っている。
局所症状の治療ないしは予防に役立つし、腫瘍の性質を詳しく知るのに役立つ。
幸いなことに、大分ではサイバーナイフを用いた精密な定位照射が可能である。
今回の報告を踏まえると、ときにはIV期の患者であっても、適応を考えていいだろう。
First-line tyrosine kinase inhibitor with or without aggressive upfront local radiation therapy in patients with EGFRm oligometastatic non-small cell lung cancer: Interim results of a randomized phase III, open-label clinical trial (SINDAS) (NCT02893332).
Xiaoshan Wang et al.
2020 ASCO Virtual Scientific Program
abst.#9508
背景:
少数の遠隔転移を伴う(oligometastatic)進行非小細胞肺がん患者に対して、病勢制御の目的で積極的に局所療法を加えていくことが効果的かどうかはよくわかっていない。今回の多施設共同、無作為化、オープンラベル、第III相臨床試験は、EGFR遺伝子変異陽性で、少数の遠隔転移を伴う未治療進行非小細胞肺がん患者を対象に、診断時点で確認された全ての遠隔転移巣に対して定位放射線治療を治療初期から行った際の無増悪生存期間と全生存期間を検証した。
方法:
本試験は、中国国内で異なる行政単位(省)に属する5か所の医療機関の共同で行われた。適格条件は、病理学的に確認された原発性肺腺がんであること、遺伝子変異検索によりEGFR遺伝子変異が確認されていること、臨床病期IV期であること、5か所以下の遠隔転移巣を伴うこと、ECOG-PSが2以下であること、全身治療(薬物療法)未施行であること、無作為化前の段階で脳転移が確認されていないこと、とした。試験参加者は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬単剤療法のみを受ける群(標準治療群)と、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使用しつつ、全ての遠隔転移巣に対して定位放射線照射を並行して行う群(試験治療群)に無作為に割り付けられた。主要評価項目は無増悪生存期間、副次評価項目は全生存期間とした。
結果:
2016年1月から2019年1月にかけて、133人の患者が登録され、65人(48.8%)が標準治療群に、68人(51.1%)が試験治療群に割り付けられた。追跡期間中央値19.6ヶ月(四分位区間は9.4から41.0ヶ月)の時点で、無増悪生存期間中央値は標準治療群で12.5ヶ月、試験治療群で20.2ヶ月だった(ハザード比0.6188、95%信頼区間0.3949-0.9697、p<0.001)。全生存期間中央値は標準治療群で17.4ヶ月、試験治療群で25.5ヶ月だった(ハザード比0.6824、95%信頼区間0.4654-1.001、p<0.001)。有害事象は両群間で同等で、治療関連死は認めなかった。Grade 3/4の有害事象として、肺臓炎は標準治療群の2.9%、試験治療群の7.3%で認め、食道炎は標準治療群の3.0%、試験治療群の4.4%で認めたが、いずれも有意差はつかなかった。
結論:
少数の遠隔転移を伴うEGFR遺伝子変異陽性原発性肺腺がんの患者に対し、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬と定位放射線治療の併用療法は、EGFRチロシンキナーゼ単剤療法と比較して、無増悪生存期間と全生存期間を有意に改善した
本報告を受けて、というわけではないだろうが、令和2年04月の診療報酬改定で、定位放射線照射はオリゴ転移(5個以内)で算定可能となったとのこと。
本ブログをご覧になった方から教えて頂いた。
参考までに、令和2年度の診療報酬点数表から抜粋して、一部加筆して記載を残す。
M001-3 直線加速器による放射線治療(一連につき)
1 定位放射線治療の場合:63,000点=630,000円
2 1以外の場合:8,000点=80,000円
注
1 定位放射線治療のうち、患者の体幹部に対して行われるものについては、別に 厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け 出た保険医療機関において行われる場合に限り算定する。
2 定位放射線治療について、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合している ものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、呼吸性移動対策を 行った場合は、定位放射線治療呼吸性移動対策加算として、所定点数に次の点数 を加算する。
イ 動体追尾法 10,000点=100,000円
ロ その他 5,000点=50,000円
通知
(1) 直線加速器による放射線治療は、実施された直線加速器による体外照射を一連で評価し たものであり、「M001」体外照射を算定する場合は、当該点数は算定できない。
(2) 定位放射線治療とは、直線加速器(マイクロトロンを含む。)により極小照射野で線量 を集中的に照射する治療法であり、頭頸部に対する治療については、照射中心の固定精度 が2ミリメートル以内であるものをいい、体幹部に対する治療については、照射中心の固 定精度が5ミリメートル以内であるものをいう。
(3) 定位放射線治療における頭頸部に対する治療については、頭頸部腫瘍(頭蓋内腫瘍を含 む。)及び脳動静脈奇形に対して行った場合にのみ算定し、体幹部に対する治療について は、原発病巣が直径5センチメートル以下であり転移病巣のない原発性肺癌、原発性肝癌 又は原発性腎癌、3個以内で他病巣のない転移性肺癌又は転移性肝癌、転移病巣のない限 局性の前立腺癌又は膵癌、直径5センチメートル以下の転移性脊椎腫瘍、5個以内のオリ ゴ転移及び脊髄動静脈奇形(頸部脊髄動静脈奇形を含む。)に対して行った場合にのみ算 定し、数か月間の一連の治療過程に複数回の治療を行った場合であっても、所定点数は1 回のみ算定する。
(4) 定位放射線治療については、定位型手術枠又はこれと同等の固定精度を持つ固定装置を取 り付ける際等の麻酔、位置決め等に係る画像診断、検査、放射線治療管理等の当該治療に伴 う一連の費用は所定点数に含まれ、別に算定できない。
(5) 「注2」の呼吸性移動対策とは、呼吸による移動長が 10 ミリメートルを超える肺がん、 肝がん又は腎がんに対し、治療計画時及び毎回の照射時に呼吸運動(量)を計測する装置 又は実時間位置画像装置等を用いて、呼吸性移動による照射範囲の拡大を低減する対策の ことをいい、呼吸性移動のために必要な照射野の拡大が三次元的な各方向に対しそれぞれ 5ミリメートル以下となることが、治療前に計画され、照射時に確認されるものをいう。 なお、治療前の治療計画の際に、照射範囲計画について記録し、毎回照射時に実際の照射 範囲について記録の上、検証すること。
(6) 「注2」の「イ」動体追尾法は、自由呼吸の下で、呼吸運動と腫瘍位置との関係を分析 し、呼吸運動に合わせて照射野を移動して照射する方法、又は呼吸運動に合わせて腫瘍の 近傍のマーカー等をエックス線透視し、決められた位置を通過する時に照射する方法のい ずれかの場合に算定する。
個人的な見解に過ぎないが、方法論としては放射線治療のほか、手術も考えていいのではないかと思っている。
局所症状の治療ないしは予防に役立つし、腫瘍の性質を詳しく知るのに役立つ。
幸いなことに、大分ではサイバーナイフを用いた精密な定位照射が可能である。
今回の報告を踏まえると、ときにはIV期の患者であっても、適応を考えていいだろう。
First-line tyrosine kinase inhibitor with or without aggressive upfront local radiation therapy in patients with EGFRm oligometastatic non-small cell lung cancer: Interim results of a randomized phase III, open-label clinical trial (SINDAS) (NCT02893332).
Xiaoshan Wang et al.
2020 ASCO Virtual Scientific Program
abst.#9508
背景:
少数の遠隔転移を伴う(oligometastatic)進行非小細胞肺がん患者に対して、病勢制御の目的で積極的に局所療法を加えていくことが効果的かどうかはよくわかっていない。今回の多施設共同、無作為化、オープンラベル、第III相臨床試験は、EGFR遺伝子変異陽性で、少数の遠隔転移を伴う未治療進行非小細胞肺がん患者を対象に、診断時点で確認された全ての遠隔転移巣に対して定位放射線治療を治療初期から行った際の無増悪生存期間と全生存期間を検証した。
方法:
本試験は、中国国内で異なる行政単位(省)に属する5か所の医療機関の共同で行われた。適格条件は、病理学的に確認された原発性肺腺がんであること、遺伝子変異検索によりEGFR遺伝子変異が確認されていること、臨床病期IV期であること、5か所以下の遠隔転移巣を伴うこと、ECOG-PSが2以下であること、全身治療(薬物療法)未施行であること、無作為化前の段階で脳転移が確認されていないこと、とした。試験参加者は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬単剤療法のみを受ける群(標準治療群)と、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使用しつつ、全ての遠隔転移巣に対して定位放射線照射を並行して行う群(試験治療群)に無作為に割り付けられた。主要評価項目は無増悪生存期間、副次評価項目は全生存期間とした。
結果:
2016年1月から2019年1月にかけて、133人の患者が登録され、65人(48.8%)が標準治療群に、68人(51.1%)が試験治療群に割り付けられた。追跡期間中央値19.6ヶ月(四分位区間は9.4から41.0ヶ月)の時点で、無増悪生存期間中央値は標準治療群で12.5ヶ月、試験治療群で20.2ヶ月だった(ハザード比0.6188、95%信頼区間0.3949-0.9697、p<0.001)。全生存期間中央値は標準治療群で17.4ヶ月、試験治療群で25.5ヶ月だった(ハザード比0.6824、95%信頼区間0.4654-1.001、p<0.001)。有害事象は両群間で同等で、治療関連死は認めなかった。Grade 3/4の有害事象として、肺臓炎は標準治療群の2.9%、試験治療群の7.3%で認め、食道炎は標準治療群の3.0%、試験治療群の4.4%で認めたが、いずれも有意差はつかなかった。
結論:
少数の遠隔転移を伴うEGFR遺伝子変異陽性原発性肺腺がんの患者に対し、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬と定位放射線治療の併用療法は、EGFRチロシンキナーゼ単剤療法と比較して、無増悪生存期間と全生存期間を有意に改善した
本報告を受けて、というわけではないだろうが、令和2年04月の診療報酬改定で、定位放射線照射はオリゴ転移(5個以内)で算定可能となったとのこと。
本ブログをご覧になった方から教えて頂いた。
参考までに、令和2年度の診療報酬点数表から抜粋して、一部加筆して記載を残す。
M001-3 直線加速器による放射線治療(一連につき)
1 定位放射線治療の場合:63,000点=630,000円
2 1以外の場合:8,000点=80,000円
注
1 定位放射線治療のうち、患者の体幹部に対して行われるものについては、別に 厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け 出た保険医療機関において行われる場合に限り算定する。
2 定位放射線治療について、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合している ものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、呼吸性移動対策を 行った場合は、定位放射線治療呼吸性移動対策加算として、所定点数に次の点数 を加算する。
イ 動体追尾法 10,000点=100,000円
ロ その他 5,000点=50,000円
通知
(1) 直線加速器による放射線治療は、実施された直線加速器による体外照射を一連で評価し たものであり、「M001」体外照射を算定する場合は、当該点数は算定できない。
(2) 定位放射線治療とは、直線加速器(マイクロトロンを含む。)により極小照射野で線量 を集中的に照射する治療法であり、頭頸部に対する治療については、照射中心の固定精度 が2ミリメートル以内であるものをいい、体幹部に対する治療については、照射中心の固 定精度が5ミリメートル以内であるものをいう。
(3) 定位放射線治療における頭頸部に対する治療については、頭頸部腫瘍(頭蓋内腫瘍を含 む。)及び脳動静脈奇形に対して行った場合にのみ算定し、体幹部に対する治療について は、原発病巣が直径5センチメートル以下であり転移病巣のない原発性肺癌、原発性肝癌 又は原発性腎癌、3個以内で他病巣のない転移性肺癌又は転移性肝癌、転移病巣のない限 局性の前立腺癌又は膵癌、直径5センチメートル以下の転移性脊椎腫瘍、5個以内のオリ ゴ転移及び脊髄動静脈奇形(頸部脊髄動静脈奇形を含む。)に対して行った場合にのみ算 定し、数か月間の一連の治療過程に複数回の治療を行った場合であっても、所定点数は1 回のみ算定する。
(4) 定位放射線治療については、定位型手術枠又はこれと同等の固定精度を持つ固定装置を取 り付ける際等の麻酔、位置決め等に係る画像診断、検査、放射線治療管理等の当該治療に伴 う一連の費用は所定点数に含まれ、別に算定できない。
(5) 「注2」の呼吸性移動対策とは、呼吸による移動長が 10 ミリメートルを超える肺がん、 肝がん又は腎がんに対し、治療計画時及び毎回の照射時に呼吸運動(量)を計測する装置 又は実時間位置画像装置等を用いて、呼吸性移動による照射範囲の拡大を低減する対策の ことをいい、呼吸性移動のために必要な照射野の拡大が三次元的な各方向に対しそれぞれ 5ミリメートル以下となることが、治療前に計画され、照射時に確認されるものをいう。 なお、治療前の治療計画の際に、照射範囲計画について記録し、毎回照射時に実際の照射 範囲について記録の上、検証すること。
(6) 「注2」の「イ」動体追尾法は、自由呼吸の下で、呼吸運動と腫瘍位置との関係を分析 し、呼吸運動に合わせて照射野を移動して照射する方法、又は呼吸運動に合わせて腫瘍の 近傍のマーカー等をエックス線透視し、決められた位置を通過する時に照射する方法のい ずれかの場合に算定する。
2020年05月26日
「ふれあい」はAIでもオンラインでも代替不能
新型コロナウイルス騒ぎは、様々な発見を我々に与えている。
・これだけ科学が発達しても、たった1種類の目に見えない無生物に、全世界が翻弄されてしまうこと
・交通インフラ、ネット社会が発達し、政治・文化・経済の世界的な結びつきが深まったため、ウイルスが急速に全世界に広がったこと
・ウイルスに対する傾向と対策の在り方に、その国の政治・文化・経済が面白いくらいに反映されること
・マスクに対する考え方が示すように、エビデンスだけでは世の中回っていかないこと
→自分がマスクをしていればほかの人にウイルスを広げるリスクを減らせる、という目的でマスクをするのが正解だが・・・
→実際には、世界中でマスクをしているほとんどの人が、マスクをしていればウイルスをもらうリスクを減らせる、という神話を信じていることだろう
・社会がどれだけたくさんの「不要不急」であふれているかということ
・社会でどれだけたくさんの人が「不要不急」に依拠して生活しているかということ
・自粛できない人はたくさんいること
・国が、たくさんお金を印刷してみんなに配ります、というだけで、経済の実態が縮小の一途をたどっていても、株価は上がること
・一所懸命病気の人を助けようと仕事をしていても、そのことによって自分も家族も被差別対象となりうること
・ヒトの活動が抑制されたことにより、大気汚染の改善、海洋生物の活発化など、皮肉な反作用が様々見られること
などなど。
私自身もそうだが、有事の政治の在り方に疑問・懸念を持つようになった国民は、少なからずいるのではないか。
我が国の内政以外にも、かの国はやっぱり油断ならない、火事場泥棒そのもの、と他国を見直している人は、少なくないはずだ。
ヒトにとってのがん・細菌・ウイルスは、どんな存在なのか。
地球にとってヒトとは、どんな存在なのか
哲学的な発想かも知れないが、以下のように置き換えると関係性が理解しやすい。
ヒト vs がん・細菌・ウイルス vs 治療。
地球 vs ヒト vs がん・細菌・ウイルス。
ヒトは、 がん・細菌・ウイルスの攻撃を受けて命を落とすが、 がん・細菌・ウイルスと対峙するための治療が登場する。
地球はヒトの跋扈を許してその生態を蝕まれる(環境破壊、種の絶滅)が、ヒトと対峙するためのがん・細菌・ウイルスが登場する。
・・・我々は、宿主である地球とより円満に共存する手立てを、この機会によく考えるべきなのではないだろうか。
少なくとも経済界・産業界は、そうあるべきだろう。
県外移動を「自粛」するように要請され、袋小路にはまり込んだ家族の、なんと多いことだろうか。
高齢の患者を診療していると、患者家族の半数以上は県外に住んでいる印象を受ける。
いまどき、どこの病院や施設でもそうしていると思うが、「不要不急」の家族の面会は禁止している。
荷物や着替えを届けるために病棟に出入りしてよいのは一家族一人だけで、それも10分程度に限られる。
患者の外出、外泊は原則禁止。
県外からの家族との面会などもってのほか、という有様だ。
最近うわさに聞いたところでは、インフルエンザの流行期から上記体制を布いている施設では、その期間が半年を超えているとか。
平時であれば人権侵害として公に糾弾されてしかるべき対応だと思うが、いまどきでは誰も何も言わない。
新型コロナウイルスで命を落とした家族の遺骸に触れられずとも、終末期がんで旅立った家族と会えずとも、である。
そして、最近私が思うのは、究極的には医療はAIやオンラインでは代替できないだろう、ということだ。
最近転院受け入れをしている患者の殆どが、進行期がんの患者である。
上記のような理由で、入院患者と家族が直接会う機会は非常に限られる。
入院患者と家族が、一緒に担当医と話せる機会は、おそらく入院時くらいである。
これが何を意味するか。
担当医からの病状説明は、患者と家族は常に別々に受けなければならないということである。
それはどういうことにつながるか。
担当医、患者、家族の間の病状認識が、日常的にずれてしまうことにつながる。
進行がんの患者が認知症だったり、担当医との窓口となる家族の理解力が不足していたらどうなるか。
火を見るより明らかだ。
実際にそんなことが私自身に起こっており、各自の病状認識を揃えるために、入院時面談では日頃の3倍も4倍も神経をすり減らしている。
あまりにも大変なので、今度受け入れる予定の進行期肺癌、大腿骨病的骨折術後の患者さんの受け入れに際して、転院時には患者・家族にどのような病状説明をしたか書面で教えてほしい、と要求したところ、これから面談日程を組んで説明するから待ってくれ、ということで、転院が1週間延期された。
おいおい。
医療行為自体は、AIで代替できるかもしれない。
ただし、オンラインのみで診療を完結させる医師は、本来の意味での医師ではない。
患者と話して、見て、聞いて、匂いをかいで、触れて、感じてこそ、次の診療のステップに行ける。
こうしたプロセスを経ずに診療しようとする医師は、それこそAIか、もしくはオンライン診療に特化した特殊な医師により真っ先に淘汰される対象となるだろう。
そうした意味では、業務の性質上、やむを得ず大部分の医師が淘汰されてしまう診療科も出てくるかもしれない。
そして、決して代替できない医療行為は、医療面接である。
進行がんの患者・家族を前にして、相手の理解力や感情の機微、これまでの経緯を理解しつつ、SPIKESに基づいた医療面接を行うことは、知識・知性のみならず、経験や感受性を高度に要求される。
患者、家族、担当医が同じ空間を共有しなければ決して得られない相互理解、私は他の手段では代替不能と考える。
・これだけ科学が発達しても、たった1種類の目に見えない無生物に、全世界が翻弄されてしまうこと
・交通インフラ、ネット社会が発達し、政治・文化・経済の世界的な結びつきが深まったため、ウイルスが急速に全世界に広がったこと
・ウイルスに対する傾向と対策の在り方に、その国の政治・文化・経済が面白いくらいに反映されること
・マスクに対する考え方が示すように、エビデンスだけでは世の中回っていかないこと
→自分がマスクをしていればほかの人にウイルスを広げるリスクを減らせる、という目的でマスクをするのが正解だが・・・
→実際には、世界中でマスクをしているほとんどの人が、マスクをしていればウイルスをもらうリスクを減らせる、という神話を信じていることだろう
・社会がどれだけたくさんの「不要不急」であふれているかということ
・社会でどれだけたくさんの人が「不要不急」に依拠して生活しているかということ
・自粛できない人はたくさんいること
・国が、たくさんお金を印刷してみんなに配ります、というだけで、経済の実態が縮小の一途をたどっていても、株価は上がること
・一所懸命病気の人を助けようと仕事をしていても、そのことによって自分も家族も被差別対象となりうること
・ヒトの活動が抑制されたことにより、大気汚染の改善、海洋生物の活発化など、皮肉な反作用が様々見られること
などなど。
私自身もそうだが、有事の政治の在り方に疑問・懸念を持つようになった国民は、少なからずいるのではないか。
我が国の内政以外にも、かの国はやっぱり油断ならない、火事場泥棒そのもの、と他国を見直している人は、少なくないはずだ。
ヒトにとってのがん・細菌・ウイルスは、どんな存在なのか。
地球にとってヒトとは、どんな存在なのか
哲学的な発想かも知れないが、以下のように置き換えると関係性が理解しやすい。
ヒト vs がん・細菌・ウイルス vs 治療。
地球 vs ヒト vs がん・細菌・ウイルス。
ヒトは、 がん・細菌・ウイルスの攻撃を受けて命を落とすが、 がん・細菌・ウイルスと対峙するための治療が登場する。
地球はヒトの跋扈を許してその生態を蝕まれる(環境破壊、種の絶滅)が、ヒトと対峙するためのがん・細菌・ウイルスが登場する。
・・・我々は、宿主である地球とより円満に共存する手立てを、この機会によく考えるべきなのではないだろうか。
少なくとも経済界・産業界は、そうあるべきだろう。
県外移動を「自粛」するように要請され、袋小路にはまり込んだ家族の、なんと多いことだろうか。
高齢の患者を診療していると、患者家族の半数以上は県外に住んでいる印象を受ける。
いまどき、どこの病院や施設でもそうしていると思うが、「不要不急」の家族の面会は禁止している。
荷物や着替えを届けるために病棟に出入りしてよいのは一家族一人だけで、それも10分程度に限られる。
患者の外出、外泊は原則禁止。
県外からの家族との面会などもってのほか、という有様だ。
最近うわさに聞いたところでは、インフルエンザの流行期から上記体制を布いている施設では、その期間が半年を超えているとか。
平時であれば人権侵害として公に糾弾されてしかるべき対応だと思うが、いまどきでは誰も何も言わない。
新型コロナウイルスで命を落とした家族の遺骸に触れられずとも、終末期がんで旅立った家族と会えずとも、である。
そして、最近私が思うのは、究極的には医療はAIやオンラインでは代替できないだろう、ということだ。
最近転院受け入れをしている患者の殆どが、進行期がんの患者である。
上記のような理由で、入院患者と家族が直接会う機会は非常に限られる。
入院患者と家族が、一緒に担当医と話せる機会は、おそらく入院時くらいである。
これが何を意味するか。
担当医からの病状説明は、患者と家族は常に別々に受けなければならないということである。
それはどういうことにつながるか。
担当医、患者、家族の間の病状認識が、日常的にずれてしまうことにつながる。
進行がんの患者が認知症だったり、担当医との窓口となる家族の理解力が不足していたらどうなるか。
火を見るより明らかだ。
実際にそんなことが私自身に起こっており、各自の病状認識を揃えるために、入院時面談では日頃の3倍も4倍も神経をすり減らしている。
あまりにも大変なので、今度受け入れる予定の進行期肺癌、大腿骨病的骨折術後の患者さんの受け入れに際して、転院時には患者・家族にどのような病状説明をしたか書面で教えてほしい、と要求したところ、これから面談日程を組んで説明するから待ってくれ、ということで、転院が1週間延期された。
おいおい。
医療行為自体は、AIで代替できるかもしれない。
ただし、オンラインのみで診療を完結させる医師は、本来の意味での医師ではない。
患者と話して、見て、聞いて、匂いをかいで、触れて、感じてこそ、次の診療のステップに行ける。
こうしたプロセスを経ずに診療しようとする医師は、それこそAIか、もしくはオンライン診療に特化した特殊な医師により真っ先に淘汰される対象となるだろう。
そうした意味では、業務の性質上、やむを得ず大部分の医師が淘汰されてしまう診療科も出てくるかもしれない。
そして、決して代替できない医療行為は、医療面接である。
進行がんの患者・家族を前にして、相手の理解力や感情の機微、これまでの経緯を理解しつつ、SPIKESに基づいた医療面接を行うことは、知識・知性のみならず、経験や感受性を高度に要求される。
患者、家族、担当医が同じ空間を共有しなければ決して得られない相互理解、私は他の手段では代替不能と考える。
2020年05月21日
NEJ-026試験の全生存期間解析・・・やっぱりそうですよね。
NEJ-026試験のことは以前に触れた。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e944390.html
全生存期間の解析結果が今回示されたわけだが・・・やっぱりそうですよね。
統計学的有意差はつかなかった。
ベバシズマブ上乗せは、無増悪生存期間は延長するが、全生存期間は延長しない。
とはいえ、生存期間中央値でいえば、BE群は50.7ヶ月、E群は46.2ヶ月。
その差4.5ヶ月は、決して無視できない。
そして、JO25567試験とNEJ-026試験で、E群の生存期間中央値が再現性を以て約4年と示されたのは、個人的には注目に値する。
後治療の影響が大きすぎて、もはや全生存期間解析はあまり意味をなしていない。
Exon 21点突然変異の患者では、ベバシズマブ上乗せを検討する価値、さらにあるかもしれない。
また、Exon20挿入変異の患者の治療で、ベバシズマブをうまく活かせないだろうか。
NEJ026: Final overall survival analysis of bevacizumab plus erlotinib treatment for NSCLC patients harboring activating EGFR-mutations.
Makoto Maemondo et al.
2020 ASCO Virtual Scientific Program
abst.#9506
背景:
EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者において、ベバシズマブ+エルロチニブ併用療法はエルロチニブ単剤療法と比較して有意に無増悪生存期間を延長することが、第III相NEJ-026試験において既に示されている。しかしながら、結果解析時点では全生存期間に関するデータはまだ不十分だった。
方法:
化学療法未施行、EGFR遺伝子変異陽性の進行非扁平上皮非小細胞肺がん患者を対象として、エルロチニブ+ベバシズマブ併用療法(BE)群とエルロチニブ単剤療法(E)群に無作為に割り付けた。主要評価項目は無増悪生存期間、副次評価項目は全生存期間、奏効割合、安全性、QoLだった。
結果:
226人の患者がBE群(112人)とE群(114人)に割り付けられた。全生存期間解析を行うにあたり、データカットオフは2019年11月30日時点に設定した。追跡期間中央値は39.2ヶ月だった。生存期間中央値は、BE群で50.7ヶ月(95%信頼区間は37.3ヶ月から未到達)、E群で46.2ヶ月(95%信頼区間は38.2ヶ月から未到達)で、ハザード比は1.00、95%信頼区間は0.68-1.48)だった。BE群のうち29人(25.9%)、E群のうち26人(23.2%)は二次治療としてオシメルチニブを使用した。患者登録から二次治療後の病勢進行までの生存期間(PFS2)の中央値は、BE群で28.6ヶ月(95%信頼区間は22.1-35.9ヶ月)、E群で24.3ヶ月(95%信頼区間は20.4-29.1ヶ月)で、ハザード比は0.80、95%信頼区間は0.59-1.10だった。両群において、二次治療としてオシメルチニブを使用した場合の生存期間中央値はその他の薬物療法と比較して延長していた(オシメルチニブでは50.7ヶ月、95%信頼区間は38.0-50.7ヶ月、他の薬物療法では40.1ヶ月、95%信頼区間は29.5ヶ月から未到達)で、ハザード比は0.645、95%信頼区間は0.40-1.03)だった。
結論:
EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者に対し、エルロチニブ単剤療法にベバシズマブを上乗せする効果は、時間経過とともに薄れていき、PFS2や全生存期間には有意差を及ぼさないことが分かった。


http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e944390.html
全生存期間の解析結果が今回示されたわけだが・・・やっぱりそうですよね。
統計学的有意差はつかなかった。
ベバシズマブ上乗せは、無増悪生存期間は延長するが、全生存期間は延長しない。
とはいえ、生存期間中央値でいえば、BE群は50.7ヶ月、E群は46.2ヶ月。
その差4.5ヶ月は、決して無視できない。
そして、JO25567試験とNEJ-026試験で、E群の生存期間中央値が再現性を以て約4年と示されたのは、個人的には注目に値する。
後治療の影響が大きすぎて、もはや全生存期間解析はあまり意味をなしていない。
Exon 21点突然変異の患者では、ベバシズマブ上乗せを検討する価値、さらにあるかもしれない。
また、Exon20挿入変異の患者の治療で、ベバシズマブをうまく活かせないだろうか。
NEJ026: Final overall survival analysis of bevacizumab plus erlotinib treatment for NSCLC patients harboring activating EGFR-mutations.
Makoto Maemondo et al.
2020 ASCO Virtual Scientific Program
abst.#9506
背景:
EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者において、ベバシズマブ+エルロチニブ併用療法はエルロチニブ単剤療法と比較して有意に無増悪生存期間を延長することが、第III相NEJ-026試験において既に示されている。しかしながら、結果解析時点では全生存期間に関するデータはまだ不十分だった。
方法:
化学療法未施行、EGFR遺伝子変異陽性の進行非扁平上皮非小細胞肺がん患者を対象として、エルロチニブ+ベバシズマブ併用療法(BE)群とエルロチニブ単剤療法(E)群に無作為に割り付けた。主要評価項目は無増悪生存期間、副次評価項目は全生存期間、奏効割合、安全性、QoLだった。
結果:
226人の患者がBE群(112人)とE群(114人)に割り付けられた。全生存期間解析を行うにあたり、データカットオフは2019年11月30日時点に設定した。追跡期間中央値は39.2ヶ月だった。生存期間中央値は、BE群で50.7ヶ月(95%信頼区間は37.3ヶ月から未到達)、E群で46.2ヶ月(95%信頼区間は38.2ヶ月から未到達)で、ハザード比は1.00、95%信頼区間は0.68-1.48)だった。BE群のうち29人(25.9%)、E群のうち26人(23.2%)は二次治療としてオシメルチニブを使用した。患者登録から二次治療後の病勢進行までの生存期間(PFS2)の中央値は、BE群で28.6ヶ月(95%信頼区間は22.1-35.9ヶ月)、E群で24.3ヶ月(95%信頼区間は20.4-29.1ヶ月)で、ハザード比は0.80、95%信頼区間は0.59-1.10だった。両群において、二次治療としてオシメルチニブを使用した場合の生存期間中央値はその他の薬物療法と比較して延長していた(オシメルチニブでは50.7ヶ月、95%信頼区間は38.0-50.7ヶ月、他の薬物療法では40.1ヶ月、95%信頼区間は29.5ヶ月から未到達)で、ハザード比は0.645、95%信頼区間は0.40-1.03)だった。
結論:
EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者に対し、エルロチニブ単剤療法にベバシズマブを上乗せする効果は、時間経過とともに薄れていき、PFS2や全生存期間には有意差を及ぼさないことが分かった。


2020年05月21日
小細胞肺がんにはやっぱりPD-L1阻害薬?・・・CASPIAN試験のupdated data
CASPIAN試験のことは(ちょっと手抜きだけど)以前触れた。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e968112.html
今回のASCO 2020 virtual presentationでは、そのupdated dataが示されるらしい。
進展型小細胞肺がんに対して、プラチナ製剤+エトポシド併用療法(PE療法)にデュルバルマブを上乗せすることで生存期間が延長する、というのは、もう間違いなさそうだ。
KEYNOTE-604試験におけるペンブロリズマブ(PD-1阻害薬)上乗せの生存期間延長効果があまりパッとしなかったことを考えると、この分野ではアテゾリズマブやデュルバルマブ(いずれもPD-L1阻害薬)が一歩リードしているといえる。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e974740.html
PE療法に上乗せするなら、アテゾリズマブでもデュルバルマブでも、生存期間中央値は1年ちょっと。
ちなみに、同じ患者集団におけるJCOG9511試験のシスプラチン+イリノテカン併用療法の生存期間中央値は12.8ヶ月。
コストパフォーマンスは、どう考えてもシスプラチン+イリノテカン併用療法がいいのだが・・・。
言い忘れるところだった。
今回の結果を受けると、進展型小細胞肺がんの分野では、トレメリムマブの出番は全くなさそうだ。
昔ならnegative dataは寂しい話だったが、今では治療コストが安くなることの裏返しであり、むしろ歓迎したくなる。
Durvalumab ± tremelimumab + platinum-etoposide in first-line extensive-stage SCLC (ES-SCLC): Updated Results from the phase III CASPIAN study.
Luis G. Paz-Ares et al.
2020 ASCO Virtual Scientific Program
abst.#9002
背景:
CASPIAN試験は、進展型小細胞肺がん患者を対象に、初回治療としてのプラチナ製剤(シスプラチンもしくはカルボプラチン)+エトポシド併用療法群(EP)群、EP+デュルバルマブ併用療法(DEP)群、DEP+トレメリムマブ(DTEP)群の3群を比較するオープンラベル第III相臨床試験である。中間解析時点(データカットオフは2019年3月11日、イベント発生割合は63%)で、EP群と比較してDEP群が統計学的有意に生存期間を延長した(ハザード比0.73、95%信頼区間0.59-0.91、p=0.0047)。今回は、DEP群とEP群の比較に関する最新データと、DTEP群とEP群の初回データを供覧する。
方法:
未治療、WHO-PS 0-1の進展型小細胞肺がん患者を、DEP群、DTEP群、EP群に1:1:1に無作為割付した。DEP群、DTEP群では、4コースの治療の後、デュルバルマブ維持療法を4週間ごとに病勢進行に至るまで継続した。DTEP群では、患者はEP療法完遂後に1度だけトレメリムマブの追加投与を受けた。EP群では、EP療法を最長6コースまで施行し、予防的全脳照射を担当医判断で追加可能とした。主要評価項目は、DEP群 vs EP群、ならびにDTEP群 vs EP群の全生存期間とした。
結果:
DEP群に268人、DTEP群に268人、EP群に269人が割り付けられた。患者背景に偏りはなかった。2020年1月27日までの追跡期間中央値は25.1ヶ月で、イベント発生割合は82%だった。EP群と比較して、DEP群は引き続き全生存期間を統計学的有意に延長していた(ハザード比0.75、95%信頼区間0.62-0.91、p=0.0032、生存期間中央値はDEP群で12.9ヶ月、EP群で10.5ヶ月、2年生存割合はDEP群で22.2%、EP群で14.4%)。一方、DTEP群はEP群に対して統計学的有意に全生存期間を延長できなかった(ハザード比0.82、95%信頼区間0.68-1.00、p=0.0451(有意水準はp≦0.0418と規定されていた)、生存期間中央値10.4ヶ月、2年生存割合23.4%)。副次評価項目の無増悪生存期間と奏効割合も、EP群と比較してDEP群が優位性を保っていた(データは会期中に公表予定)。DTEP群とEP群の奏効割合は両群とも同等だった(58.4% vs 58.0%)。無増悪生存期間中央値も同等だった(DTEP群4.9ヶ月、EP群5.4ヶ月)が、12ヶ月無増悪生存割合はDTEP群16.9%、EP群5.3%でDTEP群の方が優れていた。無増悪生存期間に関するDTEP群とEP群のハザード比は0.84(95%信頼区間は0.70-1.01)だった。
DEP群、DTEP群、EP群における、Grade 3/4の有害事象発生割合はそれぞれ62.3%、70.3%、62.8%だった。治療中断につながる有害事象発生割合はそれぞれ10.3%、21.4%、9.4%だった。治療関連死はそれぞれ4.9%、10.2%、5.6%に認められた。
結論:
プラチナ製剤+エトポシド併用療法にデュルバルマブを加えることにより全生存期間が延長することが再認識され、進展型小細胞肺がんの標準治療としてさらに支持されることになった。また、プラチナ製剤の選択についても、より柔軟に(シスプラチンでも、カルボプラチンでも)選択できるようになった。一方、本治療にさらにトレメリムマブを加えても、今回の患者集団にはメリットがないことも示された。安全性の点では、新規に発見されたものはなかった。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e968112.html
今回のASCO 2020 virtual presentationでは、そのupdated dataが示されるらしい。
進展型小細胞肺がんに対して、プラチナ製剤+エトポシド併用療法(PE療法)にデュルバルマブを上乗せすることで生存期間が延長する、というのは、もう間違いなさそうだ。
KEYNOTE-604試験におけるペンブロリズマブ(PD-1阻害薬)上乗せの生存期間延長効果があまりパッとしなかったことを考えると、この分野ではアテゾリズマブやデュルバルマブ(いずれもPD-L1阻害薬)が一歩リードしているといえる。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e974740.html
PE療法に上乗せするなら、アテゾリズマブでもデュルバルマブでも、生存期間中央値は1年ちょっと。
ちなみに、同じ患者集団におけるJCOG9511試験のシスプラチン+イリノテカン併用療法の生存期間中央値は12.8ヶ月。
コストパフォーマンスは、どう考えてもシスプラチン+イリノテカン併用療法がいいのだが・・・。
言い忘れるところだった。
今回の結果を受けると、進展型小細胞肺がんの分野では、トレメリムマブの出番は全くなさそうだ。
昔ならnegative dataは寂しい話だったが、今では治療コストが安くなることの裏返しであり、むしろ歓迎したくなる。
Durvalumab ± tremelimumab + platinum-etoposide in first-line extensive-stage SCLC (ES-SCLC): Updated Results from the phase III CASPIAN study.
Luis G. Paz-Ares et al.
2020 ASCO Virtual Scientific Program
abst.#9002
背景:
CASPIAN試験は、進展型小細胞肺がん患者を対象に、初回治療としてのプラチナ製剤(シスプラチンもしくはカルボプラチン)+エトポシド併用療法群(EP)群、EP+デュルバルマブ併用療法(DEP)群、DEP+トレメリムマブ(DTEP)群の3群を比較するオープンラベル第III相臨床試験である。中間解析時点(データカットオフは2019年3月11日、イベント発生割合は63%)で、EP群と比較してDEP群が統計学的有意に生存期間を延長した(ハザード比0.73、95%信頼区間0.59-0.91、p=0.0047)。今回は、DEP群とEP群の比較に関する最新データと、DTEP群とEP群の初回データを供覧する。
方法:
未治療、WHO-PS 0-1の進展型小細胞肺がん患者を、DEP群、DTEP群、EP群に1:1:1に無作為割付した。DEP群、DTEP群では、4コースの治療の後、デュルバルマブ維持療法を4週間ごとに病勢進行に至るまで継続した。DTEP群では、患者はEP療法完遂後に1度だけトレメリムマブの追加投与を受けた。EP群では、EP療法を最長6コースまで施行し、予防的全脳照射を担当医判断で追加可能とした。主要評価項目は、DEP群 vs EP群、ならびにDTEP群 vs EP群の全生存期間とした。
結果:
DEP群に268人、DTEP群に268人、EP群に269人が割り付けられた。患者背景に偏りはなかった。2020年1月27日までの追跡期間中央値は25.1ヶ月で、イベント発生割合は82%だった。EP群と比較して、DEP群は引き続き全生存期間を統計学的有意に延長していた(ハザード比0.75、95%信頼区間0.62-0.91、p=0.0032、生存期間中央値はDEP群で12.9ヶ月、EP群で10.5ヶ月、2年生存割合はDEP群で22.2%、EP群で14.4%)。一方、DTEP群はEP群に対して統計学的有意に全生存期間を延長できなかった(ハザード比0.82、95%信頼区間0.68-1.00、p=0.0451(有意水準はp≦0.0418と規定されていた)、生存期間中央値10.4ヶ月、2年生存割合23.4%)。副次評価項目の無増悪生存期間と奏効割合も、EP群と比較してDEP群が優位性を保っていた(データは会期中に公表予定)。DTEP群とEP群の奏効割合は両群とも同等だった(58.4% vs 58.0%)。無増悪生存期間中央値も同等だった(DTEP群4.9ヶ月、EP群5.4ヶ月)が、12ヶ月無増悪生存割合はDTEP群16.9%、EP群5.3%でDTEP群の方が優れていた。無増悪生存期間に関するDTEP群とEP群のハザード比は0.84(95%信頼区間は0.70-1.01)だった。
DEP群、DTEP群、EP群における、Grade 3/4の有害事象発生割合はそれぞれ62.3%、70.3%、62.8%だった。治療中断につながる有害事象発生割合はそれぞれ10.3%、21.4%、9.4%だった。治療関連死はそれぞれ4.9%、10.2%、5.6%に認められた。
結論:
プラチナ製剤+エトポシド併用療法にデュルバルマブを加えることにより全生存期間が延長することが再認識され、進展型小細胞肺がんの標準治療としてさらに支持されることになった。また、プラチナ製剤の選択についても、より柔軟に(シスプラチンでも、カルボプラチンでも)選択できるようになった。一方、本治療にさらにトレメリムマブを加えても、今回の患者集団にはメリットがないことも示された。安全性の点では、新規に発見されたものはなかった。
2020年05月20日
KEYNOTE-604試験・・・統計学的にはほぼ優位だが、臨床的メリットがあると言えるのか
プレスリリースの時点で一度記事にした。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e969016.html
統計学的にはほぼ有効性が確認されたとしていいのだろうが。
ペンブロリズマブを上乗せすることで得られる無増悪生存期間の延長が0.2ヶ月(6日間)、全生存期間の延長が1.1ヶ月(33日間)。
果たしてコストに見合うと言えるのか。
私は見合わないと思う。
KEYNOTE-604: Pembrolizumab (pembro) or placebo plus etoposide and platinum (EP) as first-line therapy for extensive-stage (ES) small-cell lung cancer (SCLC).
Charles M. Rudin. et al.
2020 ASCO Virtual Scientific Program
abst.#9001
背景:
ペンブロリズマブ単剤療法は進展型小細胞肺がん薬物療法における3次治療以降で持続的な抗腫瘍活性を示し、米国食品医薬品局の薬事承認につながった。KEYNOTE-604試験は、進展型小細胞がんの初回治療として、ペンブロリズマブ+エトポシド+プラチナ製剤併用療法とプラセボ+エトポシド+プラチナ製剤併用療法の効果を比較する第III相臨床試験である。
方法:
未治療の進展型小細胞肺がん患者(中枢神経転移はないか、あっても治療済み)を対象に、プラチナ製剤+エトポシド併用療法(EP療法)4コースに加えて、ペンブロリズマブ200mg/回(P群)もしくは生理食塩水(S群)を3週間に1度、最長35コースにわたって投与することにした。4コースの治療の後、完全奏効もしくは部分奏効に達した患者では、担当医の判断で予防的全脳照射を適用できることとした。割付調整因子は、使用するプラチナ製剤(カルボプラチン vs シスプラチン)、ECOG-PS(0 vs 1)、LDH値(正常上限以下 vs 正常上限を超える)とした。主要評価項目は、ITT解析における全生存期間、無増悪生存期間の双方とした。副次評価項目は奏効割合、奏効持続期間、安全性とした。2回の中間解析と最終解析をプロトコールで規定した。2回目の中間解析時点での無増悪生存期間の有意水準を片側0.0048とし、最終解析における全生存期間の有意水準を0.0128とした。
結果:
453人の患者が無作為割付の対象となった。P群には228人が、S群には235人が割り付けられた。P群に割り付けられた患者のうち1人だけ、誤ってS群の治療を受けた。年齢中央値は65歳、全体の74%がPS1で、全体の57%のLDH値が正常上限を超えていた。P群の方が、治療開始前に脳転移を有する患者が多かった(14% vs 10%)。追跡期間中央値21.6ヶ月の最終解析時点で、P群のうち9%、S群のうち1%がプロトコール治療を継続していた。P群の12%、S群の14%が予防的全脳照射を受けた。2回目の中間解析時点(追跡期間中央値は13.5ヶ月)で、P群は有意に無増悪生存期間を延長した(無増悪生存期間中央値はP群4.5ヶ月 vs S群4.3ヶ月、ハザード比0.75、95%信頼区間0.61-0.91、p=0.0023)。しかし、最終解析時点で、P群は生存期間を延長したものの、有意水準を満たすことはできなかった(生存期間中央値はP群10.8ヶ月、S群9.7ヶ月、ハザード比0.80、95%信頼区間0.64-0.98、p=0.0164)。ITT解析ではなく、実治療群間での後付け解析を行ってみると、全生存期間解析でも有意水準を満たした(ハザード比0.78、95%信頼区間0.63-0.97、p=0.0124)。最終解析時点での奏効割合はP群で71%、S群で62%だった。奏効持続期間中央値はP群で4.2ヶ月、S群で3.7ヶ月だった。有害事象は事前に想定された範囲内であり、Grade 3/4の有害事象割合はP群77%、S群75%、Grade 5の有害事象割合はP群6%、S群5%、治療中止割合はP群15%、S群6%だった。
結論:
プラチナ製剤+エトポシド+ペンブロリズマブ併用療法は、プラチナ製剤+エトポシド併用療法と比較して有意に無増悪生存期間を改善し、全生存期間も延長する傾向が見られた。想定外の有害事象は確認できなかった。今回のデータから、進展型小細胞がんにおけるペンブロリズマブを含む治療法の有用性が示唆された。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e969016.html
統計学的にはほぼ有効性が確認されたとしていいのだろうが。
ペンブロリズマブを上乗せすることで得られる無増悪生存期間の延長が0.2ヶ月(6日間)、全生存期間の延長が1.1ヶ月(33日間)。
果たしてコストに見合うと言えるのか。
私は見合わないと思う。
KEYNOTE-604: Pembrolizumab (pembro) or placebo plus etoposide and platinum (EP) as first-line therapy for extensive-stage (ES) small-cell lung cancer (SCLC).
Charles M. Rudin. et al.
2020 ASCO Virtual Scientific Program
abst.#9001
背景:
ペンブロリズマブ単剤療法は進展型小細胞肺がん薬物療法における3次治療以降で持続的な抗腫瘍活性を示し、米国食品医薬品局の薬事承認につながった。KEYNOTE-604試験は、進展型小細胞がんの初回治療として、ペンブロリズマブ+エトポシド+プラチナ製剤併用療法とプラセボ+エトポシド+プラチナ製剤併用療法の効果を比較する第III相臨床試験である。
方法:
未治療の進展型小細胞肺がん患者(中枢神経転移はないか、あっても治療済み)を対象に、プラチナ製剤+エトポシド併用療法(EP療法)4コースに加えて、ペンブロリズマブ200mg/回(P群)もしくは生理食塩水(S群)を3週間に1度、最長35コースにわたって投与することにした。4コースの治療の後、完全奏効もしくは部分奏効に達した患者では、担当医の判断で予防的全脳照射を適用できることとした。割付調整因子は、使用するプラチナ製剤(カルボプラチン vs シスプラチン)、ECOG-PS(0 vs 1)、LDH値(正常上限以下 vs 正常上限を超える)とした。主要評価項目は、ITT解析における全生存期間、無増悪生存期間の双方とした。副次評価項目は奏効割合、奏効持続期間、安全性とした。2回の中間解析と最終解析をプロトコールで規定した。2回目の中間解析時点での無増悪生存期間の有意水準を片側0.0048とし、最終解析における全生存期間の有意水準を0.0128とした。
結果:
453人の患者が無作為割付の対象となった。P群には228人が、S群には235人が割り付けられた。P群に割り付けられた患者のうち1人だけ、誤ってS群の治療を受けた。年齢中央値は65歳、全体の74%がPS1で、全体の57%のLDH値が正常上限を超えていた。P群の方が、治療開始前に脳転移を有する患者が多かった(14% vs 10%)。追跡期間中央値21.6ヶ月の最終解析時点で、P群のうち9%、S群のうち1%がプロトコール治療を継続していた。P群の12%、S群の14%が予防的全脳照射を受けた。2回目の中間解析時点(追跡期間中央値は13.5ヶ月)で、P群は有意に無増悪生存期間を延長した(無増悪生存期間中央値はP群4.5ヶ月 vs S群4.3ヶ月、ハザード比0.75、95%信頼区間0.61-0.91、p=0.0023)。しかし、最終解析時点で、P群は生存期間を延長したものの、有意水準を満たすことはできなかった(生存期間中央値はP群10.8ヶ月、S群9.7ヶ月、ハザード比0.80、95%信頼区間0.64-0.98、p=0.0164)。ITT解析ではなく、実治療群間での後付け解析を行ってみると、全生存期間解析でも有意水準を満たした(ハザード比0.78、95%信頼区間0.63-0.97、p=0.0124)。最終解析時点での奏効割合はP群で71%、S群で62%だった。奏効持続期間中央値はP群で4.2ヶ月、S群で3.7ヶ月だった。有害事象は事前に想定された範囲内であり、Grade 3/4の有害事象割合はP群77%、S群75%、Grade 5の有害事象割合はP群6%、S群5%、治療中止割合はP群15%、S群6%だった。
結論:
プラチナ製剤+エトポシド+ペンブロリズマブ併用療法は、プラチナ製剤+エトポシド併用療法と比較して有意に無増悪生存期間を改善し、全生存期間も延長する傾向が見られた。想定外の有害事象は確認できなかった。今回のデータから、進展型小細胞がんにおけるペンブロリズマブを含む治療法の有用性が示唆された。
2020年05月20日
ゲフィチニブの術後補助化学療法は全生存期間を延長しないが・・・ADJUVANT-CTONG1104
ADJUVANT-CTONG1104は、過去に何度か扱った。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e919586.html
今回は、全生存期間に関する最終解析結果。
こうした試験デザインで、全生存期間が延長しないという現象は、もはや当たり前になってしまった。
しかし、わずか15人のサブグループ解析の結果ではあるが、術後補助治療でゲフィチニブを使って、再発後にも何らかのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使うと、病理病期II-IIIA期の患者の術後全生存期間中央値が6年を超える、というのは、やはり意義のある結果ではないだろうか。
日常臨床の経験から、そう実感する。
CTONG1104: Adjuvant gefitinib versus chemotherapy for resected N1-N2 NSCLC with EGFR mutation—Final overall survival analysis of the randomized phase III trial 1 analysis of the randomized phase III trial.
Yi-Long Wu,et al.
2020 ASCO Virtual Scientific Program
abst.#9005
背景:
ADJUVANT-CTONG1104試験は、EGFR遺伝子変異陽性、病理病期II-IIIA(N1-N2)期の完全切除後非小細胞肺がん患者における術後補助療法として、標準的な併用化学療法に対するゲフィチニブ内服療法が無病生存期間を有意に改善することを示した。N1-N2患者における5年生存割合は、IASLC病期診断システムでは38-50%とされている。今回、本試験における全生存期間の最終解析結果を報告する。
方法:
2011年9月から2014年4月の期間に、222人の患者を集積した。年齢は18歳から75歳、27施設から適格患者を集積した。患者を1:1の比率で各治療群間に割り付けた。G群(111人)ではゲフィチニブ250mg/日を24ヶ月にわたって投与した。VP群(111人)では、ビノレルビン(25㎎/㎡、1日目、8日目)+シスプラチン(75mg/㎡、1日目)併用療法を3週間ごとに4コース投与した。主要評価項目は無病生存期間、ITT解析に基づくものとした。副次評価項目には全生存期間、3年無病生存割合、5年無病生存割合、5年生存割合を含めた。VP群がゲフィチニブを使用する、G群がゲフィチニブを再使用するなど、再発後の後治療についてもデータを収集した。今回の解析におけるデータカットオフは2020年1月13日とした。
結果:
追跡期間中央値は76.9ヶ月だった。ITT解析対象となった患者集団全体における再発/死亡イベントは95件(42.8%)だった。生存期間中央値はG群で75.5ヶ月、VP群で79.2ヶ月、ハザード比は0.96、95%信頼区間は0.64-1.43、p=0.823だった。3年生存割合、5年生存割合は、G群でそれぞれ68.6%、53.8%で、VP群では67.5%、52.4%だった。3年無病生存割合、5年無病生存割合は、G群で40.3%、23.4%で、VP群では33.2%、23.7%だった(3年無病生存割合に関するp値は0.395、5年無病生存割合におけるp値は0.891)。年齢、性別、リンパ節転移の状況、EGFR遺伝子変異タイプ別のサブグループ解析では、有意差がつくものはなかった。後治療においては、分子標的薬を用いた治療が生存期間延長に寄与していた(ハザード比0.46、95%信頼区間は0.26-0.83)。後治療で分子標的薬を使用した患者(35人)の生存期間中央値は75.5ヶ月で、その他の治療を受けた患者(33人)の生存期間中央値は36.4ヶ月だった(p<0.001)。G群で後治療に分子標的薬を使用した患者(15人)の生存期間中央値は75.5ヶ月で、その他の治療を受けた患者(18人)の生存期間中央値は36.4ヶ月だった(p<0.001)。VP群で後治療に分子標的薬を使用した患者(20人)の生存期間中央値は62.8ヶ月で、その他の治療を受けた患者(15人)の生存期間中央値は46.8ヶ月だった(p=0.251)。G群で後治療に分子標的薬を使用した患者(15人)における奏効割合は26.7%、病勢コントロール割合は66.7%、無増悪生存期間中央値は14.1ヶ月、全生存期間中央値は19.6ヶ月だった。追跡期間中に、想定外の重篤な有害事象は認められなかった。
結論:
ADJUVANT試験では、無病生存期間の延長がそのまま全生存期間の延長に反映されることはなかった(無病生存期間は延長したが、全生存期間は延長しなかった)。N1-N2期の完全切除後非小細胞肺がん患者の生存期間中央値が75.5ヶ月に及ぶというのは過去のデータと比較して有望であり、術後補助化学療法、再発後治療のいずれでも分子標的薬を使用することで生存期間延長が期待できる。
・CTONG1104試験概要

・全生存期間の生存曲線

・無病生存期間の生存曲線

http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e919586.html
今回は、全生存期間に関する最終解析結果。
こうした試験デザインで、全生存期間が延長しないという現象は、もはや当たり前になってしまった。
しかし、わずか15人のサブグループ解析の結果ではあるが、術後補助治療でゲフィチニブを使って、再発後にも何らかのEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を使うと、病理病期II-IIIA期の患者の術後全生存期間中央値が6年を超える、というのは、やはり意義のある結果ではないだろうか。
日常臨床の経験から、そう実感する。
CTONG1104: Adjuvant gefitinib versus chemotherapy for resected N1-N2 NSCLC with EGFR mutation—Final overall survival analysis of the randomized phase III trial 1 analysis of the randomized phase III trial.
Yi-Long Wu,et al.
2020 ASCO Virtual Scientific Program
abst.#9005
背景:
ADJUVANT-CTONG1104試験は、EGFR遺伝子変異陽性、病理病期II-IIIA(N1-N2)期の完全切除後非小細胞肺がん患者における術後補助療法として、標準的な併用化学療法に対するゲフィチニブ内服療法が無病生存期間を有意に改善することを示した。N1-N2患者における5年生存割合は、IASLC病期診断システムでは38-50%とされている。今回、本試験における全生存期間の最終解析結果を報告する。
方法:
2011年9月から2014年4月の期間に、222人の患者を集積した。年齢は18歳から75歳、27施設から適格患者を集積した。患者を1:1の比率で各治療群間に割り付けた。G群(111人)ではゲフィチニブ250mg/日を24ヶ月にわたって投与した。VP群(111人)では、ビノレルビン(25㎎/㎡、1日目、8日目)+シスプラチン(75mg/㎡、1日目)併用療法を3週間ごとに4コース投与した。主要評価項目は無病生存期間、ITT解析に基づくものとした。副次評価項目には全生存期間、3年無病生存割合、5年無病生存割合、5年生存割合を含めた。VP群がゲフィチニブを使用する、G群がゲフィチニブを再使用するなど、再発後の後治療についてもデータを収集した。今回の解析におけるデータカットオフは2020年1月13日とした。
結果:
追跡期間中央値は76.9ヶ月だった。ITT解析対象となった患者集団全体における再発/死亡イベントは95件(42.8%)だった。生存期間中央値はG群で75.5ヶ月、VP群で79.2ヶ月、ハザード比は0.96、95%信頼区間は0.64-1.43、p=0.823だった。3年生存割合、5年生存割合は、G群でそれぞれ68.6%、53.8%で、VP群では67.5%、52.4%だった。3年無病生存割合、5年無病生存割合は、G群で40.3%、23.4%で、VP群では33.2%、23.7%だった(3年無病生存割合に関するp値は0.395、5年無病生存割合におけるp値は0.891)。年齢、性別、リンパ節転移の状況、EGFR遺伝子変異タイプ別のサブグループ解析では、有意差がつくものはなかった。後治療においては、分子標的薬を用いた治療が生存期間延長に寄与していた(ハザード比0.46、95%信頼区間は0.26-0.83)。後治療で分子標的薬を使用した患者(35人)の生存期間中央値は75.5ヶ月で、その他の治療を受けた患者(33人)の生存期間中央値は36.4ヶ月だった(p<0.001)。G群で後治療に分子標的薬を使用した患者(15人)の生存期間中央値は75.5ヶ月で、その他の治療を受けた患者(18人)の生存期間中央値は36.4ヶ月だった(p<0.001)。VP群で後治療に分子標的薬を使用した患者(20人)の生存期間中央値は62.8ヶ月で、その他の治療を受けた患者(15人)の生存期間中央値は46.8ヶ月だった(p=0.251)。G群で後治療に分子標的薬を使用した患者(15人)における奏効割合は26.7%、病勢コントロール割合は66.7%、無増悪生存期間中央値は14.1ヶ月、全生存期間中央値は19.6ヶ月だった。追跡期間中に、想定外の重篤な有害事象は認められなかった。
結論:
ADJUVANT試験では、無病生存期間の延長がそのまま全生存期間の延長に反映されることはなかった(無病生存期間は延長したが、全生存期間は延長しなかった)。N1-N2期の完全切除後非小細胞肺がん患者の生存期間中央値が75.5ヶ月に及ぶというのは過去のデータと比較して有望であり、術後補助化学療法、再発後治療のいずれでも分子標的薬を使用することで生存期間延長が期待できる。
・CTONG1104試験概要

・全生存期間の生存曲線

・無病生存期間の生存曲線

2020年05月20日
JCOG1205/1206・・・斜陽のイリノテカン
初期のパイロットスタディー立案に関わった立場としては寂しい限りだ。
小細胞肺がん、大細胞神経内分泌がんの術後補助化学療法として、シスプラチン+イリノテカン併用療法の有効性を検証した本試験。
残念ながら、シスプラチン+エトポシド併用療法に対する優越性を示すことはできなかった。
時代の流れというべきではないか。
イリノテカンという薬は、下痢の対処、UGT1A1遺伝子多型を評価する必要、毎週イリノテカン分割投与、という手間がある。
進展型小細胞肺がんに対するイリノテカンの有効性は、我が国の第III相臨床試験で示されているものの、その位置づけは年々低下している印象がある。
プラチナ製剤+エトポシド併用療法が世界的な標準と位置付けられ、免疫チェックポイント阻害薬が治療に組み込まれるようになって、いよいよ存在感が低下している。
これも時代の要請だろう。
治療の効果もさることながら、これだけ外来化学療法が普及してくると、治療の利便性、という臨床試験には表れない評価基準は、避けて通れない。
少なくとも肺がん領域では、イリノテカンは実臨床における自然淘汰にさらされているのだ。
本試験では、主要評価項目が全生存期間から3年無再発生存割合に変更されている。
折に触れて記しているが、第III相臨床試験において、主要評価項目を変更するのは、私個人としては禁じ手だと思っている。
臨床試験そのものの信頼性に関わる問題である。
だがしかし、今回の変更、中間解析時点での無効中止の判断は、時代の流れを汲み取り、早期に結論を出すための苦渋の決断だったのではないかと想像する。
さようなら、イリノテカン。
こんにちは、免疫チェックポイント阻害薬。
きっと次のステップでは、同じ患者集団を対象に、シスプラチン+エトポシド併用療法に免疫チェックポイント阻害薬を加えるかどうか、というコンセプトを考えるのではないだろうか。
私なら、そのために本試験を早期中止する。
だけど。
重喫煙者が多数を占めるこの患者集団に、医療費の高騰を招く上記のような臨床試験コンセプトは、受け入れがたい。
喫煙習慣撲滅以上に効果が期待できる臨床試験、この患者集団に立案できるだろうか。
たばこ業界と製薬業界には悪いが、喫煙者を触媒にして利益を得るのは、もういい加減やめてほしい。
消費者には自己を守る意識を、医療者には納税者への責任を肝に銘じてほしい。
Randomized phase III study of irinotecan/cisplatin (IP) versus etoposide/cisplatin (EP) for completely resected high-grade neuroendocrine carcinoma (HGNEC) of the lung: JCOG1205/1206.
Hirotsugu Kenmotsu. et al.
2020 ASCO Virtual Scientific Program
abst.#9006
背景:
肺がんWHO分類では、小細胞肺がんと大細胞神経内分泌がんは肺原発の高悪性度神経内分泌がんと捉えられている。完全切除後の肺原発高悪性度神経内分泌がんの術後補助化学療法について検討した無作為化比較試験は皆無だが、シスプラチン+エトポシド併用化学療法が標準治療と位置付けられている。一方、進展型小細胞肺がんに対しては、第III相比較試験(JCOG9511試験)で、シスプラチン+エトポシド併用療法に対するシスプラチン+イリノテカン併用療法の優位性が示されている。
方法:
完全切除後の高悪性度神経内分泌がんの患者を対象とし、EP群:エトポシド(100mg/㎡、1-3日目)+シスプラチン(80mg/㎡、1日目)とIP群:イリノテカン(60mg/㎡、1日目、8日目、15日目)+シスプラチン(60mg/㎡、1日目)に1:1の割合で無作為割付を行った。性別、病理病期、組織型、参加施設を割付調整因子とし、最小化法を用いて無作為化した。主要評価項目は当初全生存期間だったが、試験期間中に無再発生存期間に改めた。3年無再発生存割合をEP群で59%、IP群で72%、ハザード比を0.623とする仮説を立てた。80%の検出率、αエラーは片側検定で、有意水準5%と設定した。予定集積患者数は220人、患者集積期間を6年間、追跡期間を3年間とした。
結果:
2013年4月から2018年10月の期間に、221人の患者を集積した。年齢中央値は66歳、病理病期I期の患者が54%と半数以上を占め、小細胞がんの患者が53%とやはり半数以上を占めた。111人をEP群に、110人をIP群に割り付けた。2回目の中間解析において、主要評価項目の解析を行う時点でIP群がEP群を上回る確率が15.9%だったため、本試験は早期終了すべし、との結論に至った。追跡期間中央値24.1ヶ月の時点で、3年無増悪生存割合はEP群で65.4%、IP群で69.0%、ハザード比1.076(95%信頼区間は0.666-1.738、p=0.619)だった。組織型別のサブグループ解析で、小細胞がんにおける3年無再発生存割合はEP群で65.2%、IP群で66.5%、ハザード比1.029(95%信頼区間は0.544-1.944)、大細胞神経内分泌がんにおける3年無再発生存割合はEP群で66.5%、IP群で72.0%、ハザード比1.072(95%信頼区間は0.517-2.222)だった。3年全生存割合はEP群で84.1%、IP群で79.0%、ハザード比は1.539(95%信頼区間は0.760-3.117)だった。治療完遂割合はEP群で87.4%、IP群で72.7%だった。EP群、IP群におけるGrade 3 / 4の有害事象発生割合は、発熱性好中球減少症が20.2%、3.7%、好中球減少症が97.2%、35.8%で、これらはEP群でより高頻度だった。一方、Grade 3 / 4の下痢は0.9%、8.3%、食欲不振は6.4%、11.1%で、これら消化器症状はIP群で高頻度だった。IP群の中で1人だけ、気管内出血による治療関連死を認めた。
結論:
本試験では、完全切除後高悪性度神経内分泌がんの患者の術後補助化学療法において、EP群に対するIP群の優越性を証明できなかった。シスプラチン+エトポシド併用療法は、引き続き本患者群の標準治療と位置付けられる。
小細胞肺がん、大細胞神経内分泌がんの術後補助化学療法として、シスプラチン+イリノテカン併用療法の有効性を検証した本試験。
残念ながら、シスプラチン+エトポシド併用療法に対する優越性を示すことはできなかった。
時代の流れというべきではないか。
イリノテカンという薬は、下痢の対処、UGT1A1遺伝子多型を評価する必要、毎週イリノテカン分割投与、という手間がある。
進展型小細胞肺がんに対するイリノテカンの有効性は、我が国の第III相臨床試験で示されているものの、その位置づけは年々低下している印象がある。
プラチナ製剤+エトポシド併用療法が世界的な標準と位置付けられ、免疫チェックポイント阻害薬が治療に組み込まれるようになって、いよいよ存在感が低下している。
これも時代の要請だろう。
治療の効果もさることながら、これだけ外来化学療法が普及してくると、治療の利便性、という臨床試験には表れない評価基準は、避けて通れない。
少なくとも肺がん領域では、イリノテカンは実臨床における自然淘汰にさらされているのだ。
本試験では、主要評価項目が全生存期間から3年無再発生存割合に変更されている。
折に触れて記しているが、第III相臨床試験において、主要評価項目を変更するのは、私個人としては禁じ手だと思っている。
臨床試験そのものの信頼性に関わる問題である。
だがしかし、今回の変更、中間解析時点での無効中止の判断は、時代の流れを汲み取り、早期に結論を出すための苦渋の決断だったのではないかと想像する。
さようなら、イリノテカン。
こんにちは、免疫チェックポイント阻害薬。
きっと次のステップでは、同じ患者集団を対象に、シスプラチン+エトポシド併用療法に免疫チェックポイント阻害薬を加えるかどうか、というコンセプトを考えるのではないだろうか。
私なら、そのために本試験を早期中止する。
だけど。
重喫煙者が多数を占めるこの患者集団に、医療費の高騰を招く上記のような臨床試験コンセプトは、受け入れがたい。
喫煙習慣撲滅以上に効果が期待できる臨床試験、この患者集団に立案できるだろうか。
たばこ業界と製薬業界には悪いが、喫煙者を触媒にして利益を得るのは、もういい加減やめてほしい。
消費者には自己を守る意識を、医療者には納税者への責任を肝に銘じてほしい。
Randomized phase III study of irinotecan/cisplatin (IP) versus etoposide/cisplatin (EP) for completely resected high-grade neuroendocrine carcinoma (HGNEC) of the lung: JCOG1205/1206.
Hirotsugu Kenmotsu. et al.
2020 ASCO Virtual Scientific Program
abst.#9006
背景:
肺がんWHO分類では、小細胞肺がんと大細胞神経内分泌がんは肺原発の高悪性度神経内分泌がんと捉えられている。完全切除後の肺原発高悪性度神経内分泌がんの術後補助化学療法について検討した無作為化比較試験は皆無だが、シスプラチン+エトポシド併用化学療法が標準治療と位置付けられている。一方、進展型小細胞肺がんに対しては、第III相比較試験(JCOG9511試験)で、シスプラチン+エトポシド併用療法に対するシスプラチン+イリノテカン併用療法の優位性が示されている。
方法:
完全切除後の高悪性度神経内分泌がんの患者を対象とし、EP群:エトポシド(100mg/㎡、1-3日目)+シスプラチン(80mg/㎡、1日目)とIP群:イリノテカン(60mg/㎡、1日目、8日目、15日目)+シスプラチン(60mg/㎡、1日目)に1:1の割合で無作為割付を行った。性別、病理病期、組織型、参加施設を割付調整因子とし、最小化法を用いて無作為化した。主要評価項目は当初全生存期間だったが、試験期間中に無再発生存期間に改めた。3年無再発生存割合をEP群で59%、IP群で72%、ハザード比を0.623とする仮説を立てた。80%の検出率、αエラーは片側検定で、有意水準5%と設定した。予定集積患者数は220人、患者集積期間を6年間、追跡期間を3年間とした。
結果:
2013年4月から2018年10月の期間に、221人の患者を集積した。年齢中央値は66歳、病理病期I期の患者が54%と半数以上を占め、小細胞がんの患者が53%とやはり半数以上を占めた。111人をEP群に、110人をIP群に割り付けた。2回目の中間解析において、主要評価項目の解析を行う時点でIP群がEP群を上回る確率が15.9%だったため、本試験は早期終了すべし、との結論に至った。追跡期間中央値24.1ヶ月の時点で、3年無増悪生存割合はEP群で65.4%、IP群で69.0%、ハザード比1.076(95%信頼区間は0.666-1.738、p=0.619)だった。組織型別のサブグループ解析で、小細胞がんにおける3年無再発生存割合はEP群で65.2%、IP群で66.5%、ハザード比1.029(95%信頼区間は0.544-1.944)、大細胞神経内分泌がんにおける3年無再発生存割合はEP群で66.5%、IP群で72.0%、ハザード比1.072(95%信頼区間は0.517-2.222)だった。3年全生存割合はEP群で84.1%、IP群で79.0%、ハザード比は1.539(95%信頼区間は0.760-3.117)だった。治療完遂割合はEP群で87.4%、IP群で72.7%だった。EP群、IP群におけるGrade 3 / 4の有害事象発生割合は、発熱性好中球減少症が20.2%、3.7%、好中球減少症が97.2%、35.8%で、これらはEP群でより高頻度だった。一方、Grade 3 / 4の下痢は0.9%、8.3%、食欲不振は6.4%、11.1%で、これら消化器症状はIP群で高頻度だった。IP群の中で1人だけ、気管内出血による治療関連死を認めた。
結論:
本試験では、完全切除後高悪性度神経内分泌がんの患者の術後補助化学療法において、EP群に対するIP群の優越性を証明できなかった。シスプラチン+エトポシド併用療法は、引き続き本患者群の標準治療と位置付けられる。
2020年05月16日
新型コロナウイルスの陰に潜む、オリンピックイヤーのマイコプラズマ
我々はいま、医療人としての職業倫理を問われている。
新型コロナウイルス感染症が世界を席巻する中、多分医療人は3種類に区分されている。
新型コロナウイルス感染の可能性が少しでもあれば、診療を拒否するグループ。
新型コロナウイルス感染者を、積極的に受け入れざるを得ないグループ。
そして、新型コロナウイルス感染の可能性がある患者を受け入れて、診断作業はするものの治療は他院に依頼するグループ。
今のところ、私は3番目のグループに属している。
指定医療機関が新型コロナウイルス感染症患者を収容しきれなくなったら、2番目に格上げとなる予定。
冒頭、なぜ職業倫理の話を持ち出したのかというと、1番目のグループに属する医療人が少なくないと思われるからだ。
昨日外来を受診した気管支喘息の初診の患者から、
「診療を受け入れてくださってどうもありがとうございます」
と開口一番、感謝された。
確かに、数日前に電話で初診依頼を受けて、それでは予約診療として来ていただきましょうと対応した。
そんなの当り前ですよ、と答えようとすると、
「私が、3月末に仕事の都合で近畿地方から転居してきた、咳が続いて困っているので受診したいと話すと、どこも診療してくれないんですよ」
「医療機関を経営する知人に相談したところ、この先生なら責任もって診療してくれるよ、と薦めてくれたので相談しました」
とのこと。
いったい、どれだけ断られたんだろう。
そして、医療機関を経営する知人って、誰だろう。
教えてくれなかったんだけど、大分で医療機関を経営する人なら、なんで自分で診てあげようと思わなかったんだろう。
当日いろいろと調べてみたが、結局は気管支喘息と鉄欠乏性貧血があっただけで、新型コロナウイルス感染の兆しはなかった。
で、もう一人。
こちらは39℃から40℃の発熱があり、所轄の保健所に電話相談したうえで、最寄りの医療機関を受診しなさいと指示され、当院にやってきた。
のっけから警戒して取り組んだ。
これまでの保健所とのやり取りから、新型コロナウイルス感染確定者との明らかな接触歴、県外・海外への移動歴がない発熱患者の場合は、血液検査、尿検査で他の気道感染を除外して、CTで肺炎の有無を確認した後でないと新型コロナウイルスPCR検査の検討すらしてくれないことははっきりしている。
それがわかってから、発熱外来受診を希望している患者には、事情を説明して、診察前にこれらの検査を受けていただくことにしている。
個人的に「新型コロナウイルス対応検査」という名前を勝手につけて、一連のセット検査にした。
この患者さんにもセット検査を受けていただいて、結局のところ、マイコプラズマ気管支炎であることが判明した。
実際のところ、これまで私自身は新型コロナウイルスPCR陽性となった患者を診療していない。
一方、今シーズンは、マイコプラズマ感染患者をやたらと目にする。
新型コロナウイルスをひっかけようとして、予想外にマイコプラズマ感染が引っかかってくる。
本来、今年はオリンピックイヤーだったはずだ。
私が医学生だった20世紀末から、マイコプラズマはオリンピックイヤーに流行する、という都市伝説が存在する。
さすがのマイコプラズマも、オリンピックが延期になるとは予想していなかったようだ。
当然、肺がん患者さんにもマイコプラズマは感染する。
発熱、痰があまり絡まない頑固な咳、家族内発症といった所見があれば、積極的にマイコプラズマ感染を疑いたい。
新型コロナウイルス感染症が世界を席巻する中、多分医療人は3種類に区分されている。
新型コロナウイルス感染の可能性が少しでもあれば、診療を拒否するグループ。
新型コロナウイルス感染者を、積極的に受け入れざるを得ないグループ。
そして、新型コロナウイルス感染の可能性がある患者を受け入れて、診断作業はするものの治療は他院に依頼するグループ。
今のところ、私は3番目のグループに属している。
指定医療機関が新型コロナウイルス感染症患者を収容しきれなくなったら、2番目に格上げとなる予定。
冒頭、なぜ職業倫理の話を持ち出したのかというと、1番目のグループに属する医療人が少なくないと思われるからだ。
昨日外来を受診した気管支喘息の初診の患者から、
「診療を受け入れてくださってどうもありがとうございます」
と開口一番、感謝された。
確かに、数日前に電話で初診依頼を受けて、それでは予約診療として来ていただきましょうと対応した。
そんなの当り前ですよ、と答えようとすると、
「私が、3月末に仕事の都合で近畿地方から転居してきた、咳が続いて困っているので受診したいと話すと、どこも診療してくれないんですよ」
「医療機関を経営する知人に相談したところ、この先生なら責任もって診療してくれるよ、と薦めてくれたので相談しました」
とのこと。
いったい、どれだけ断られたんだろう。
そして、医療機関を経営する知人って、誰だろう。
教えてくれなかったんだけど、大分で医療機関を経営する人なら、なんで自分で診てあげようと思わなかったんだろう。
当日いろいろと調べてみたが、結局は気管支喘息と鉄欠乏性貧血があっただけで、新型コロナウイルス感染の兆しはなかった。
で、もう一人。
こちらは39℃から40℃の発熱があり、所轄の保健所に電話相談したうえで、最寄りの医療機関を受診しなさいと指示され、当院にやってきた。
のっけから警戒して取り組んだ。
これまでの保健所とのやり取りから、新型コロナウイルス感染確定者との明らかな接触歴、県外・海外への移動歴がない発熱患者の場合は、血液検査、尿検査で他の気道感染を除外して、CTで肺炎の有無を確認した後でないと新型コロナウイルスPCR検査の検討すらしてくれないことははっきりしている。
それがわかってから、発熱外来受診を希望している患者には、事情を説明して、診察前にこれらの検査を受けていただくことにしている。
個人的に「新型コロナウイルス対応検査」という名前を勝手につけて、一連のセット検査にした。
この患者さんにもセット検査を受けていただいて、結局のところ、マイコプラズマ気管支炎であることが判明した。
実際のところ、これまで私自身は新型コロナウイルスPCR陽性となった患者を診療していない。
一方、今シーズンは、マイコプラズマ感染患者をやたらと目にする。
新型コロナウイルスをひっかけようとして、予想外にマイコプラズマ感染が引っかかってくる。
本来、今年はオリンピックイヤーだったはずだ。
私が医学生だった20世紀末から、マイコプラズマはオリンピックイヤーに流行する、という都市伝説が存在する。
さすがのマイコプラズマも、オリンピックが延期になるとは予想していなかったようだ。
当然、肺がん患者さんにもマイコプラズマは感染する。
発熱、痰があまり絡まない頑固な咳、家族内発症といった所見があれば、積極的にマイコプラズマ感染を疑いたい。
2020年05月03日
EGFR Exon 20挿入変異とpoziotinib・・・ZENITH20試験コホート1の中間解析
Exon20挿入変異に対するpoziotinib。
奏効割合はEGFRチロシンキナーゼ前治療歴があると7%、ないと17%。
無増悪生存期間は4ヶ月。
既存のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬よりは優れているのだろうが、なかなかに厳しい結果だと思う。
Poziotinib Shows Mixed Findings in Exon 20-Mutant NSCLC
OncLive
Audrey Sternberg
Published: Monday, Apr 27, 2020
一部改変
ZENITH20試験の中間解析の結果、EGFR Exon20挿入変異陽性の既治療非小細胞肺がん患者に対し、poziotinibは68.7%(79/115)の病勢コントロール率を達成した。2020年AACR年次総会で報告された。本試験では4つのコホートが設定されており、今回は既治療のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を対象としたコホート1の解析結果に基づいている。
本結果をオンラインで報告したXiuning Le博士によると、効果は治療開始後比較的早い段階で現れ、投与量の減量や投与中断が必要だった患者ほどpoziotinibの効果が長期にわたり保たれた。サブグループ解析では、前治療の内容によらず、奏効割合はほぼかわらなかった。これは、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の前治療歴についても同じことがいえた。
患者背景に着目すると、総じてコホート1の患者は若く(年齢中央値は61歳)、女性が多く(67%)、白色人種が多く(67%)、非喫煙者が多かった(69%)。ほとんどの患者の組織型は腺がん(98%)で、病期はIV期(91%)で、脳転移を合併していなかった(90%)。前治療歴が1レジメンの患者は43%、2レジメンは25%、3レジメン以上は32%だった。75%の患者はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬未使用だった。
主要評価項目である奏効割合は治療を受けた患者の奏効割合の95%信頼区間の下限が17%以上であった場合に、主要評価項目が達成されると定義されていた。奏効割合は14.8%(17/115)(95%信頼区間は8.9%から22.6%)だったため、上記の主要評価項目は達成できなかったものの、腫瘍が縮小した患者の数は115人中75人(65%)に達していた。
事前に行われたMDアンダーソンがんセンターで行われた単施設での臨床試験では、濃厚な治療歴のあるEGFR陽性非小細胞肺がんやEGFR Exon20挿入変異陽性の非小細胞肺がん患者を対象として、奏効割合が43%に達していた。今回の結果はこれを再現することはできなかった。
前治療別に奏効割合を見ていくと、1レジメンのみの患者では14.3%、2レジメンの患者では13.8%、3レジメン以上の患者では16.2%だった。他の背景に沿った奏効割合は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療歴のある患者では6.9%、ない患者では17.4%、脳転移のある患者では8.3%、ない患者では15.5%、ECOG-PS0の患者では18.9%だった。
奏効持続期間中央値は7.4ヶ月(95%信頼区間は3.7-9.7ヶ月)だった。無増悪生存期間中央値は4.2ヶ月(95%信頼区間は3.7-6.6ヶ月)だった。既存のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を用いたとき、EGFR Exon20挿入変異陽性非小細胞肺がん患者の無増悪生存期間中央値は2ヶ月程度とされており、今回の結果はpoziotinibの有用性を示唆している。
poziotinibは16mg/日の開始量で投与されたものの、68%の患者で減量を要した。16mg/日を既定量としたときのdose intensityは72%で、平均投与量は11.5mg/日だった。
poziotinibの休薬は97人(88%)の患者で行われた。休薬期間中央値は16日間だった。治療関連有害事象により、投与中止を余儀なくされたのは全体の10%だった。
前治療別に奏効割合を見ていくと、1レジメンのみの患者では14.3%、2レジメンの患者では13.8%、3レジメン以上の患者では16.2%だった。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療歴のある患者では6.9%、ない患者では17.4%、脳転移のある患者では8.3%、ない患者では15.5%、ECOG-PS0の患者では18.9%だった。
114人の患者でなんらかの有害事象を認めた。下痢(79%)、発疹(60%)、胃炎(52%)、爪周囲炎(45%)が主だった有害事象で、Grade3以上の有害事象で10%以上の発現率を示したものは、下痢(25%)と発疹(28%)だった。治療関連死は認めなかった。
現時点で複数のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬がEGFR遺伝子変異陽性肺がんに対して使用可能となっているが、こうした患者の10%を占めるEGFR Exon20挿入変異陽性の患者に対してFDAが承認したものはない。他のEGFR遺伝子変異と比べて、Exon20挿入変異は他の変異とは異なるEGFRの構造変化をもたらすとされている。すなわち、Exon20挿入変異はEGFR蛋白のATP結合ポケットの活性表面を狭く、小さく改変し、これが既存のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に対する耐性をもたらしていると考えられている。poziotinibはEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の中でも小さくコンパクトな構造であり、Exon20挿入変異を有するEGFR蛋白にも結合可能であるとされる。
本試験には、既存の4コホートに加えて、さらに3コホートが設定された。そのうちコホート6では、オシメルチニブによる初回治療後に病勢進行に至ったEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者を対象としている。
奏効割合はEGFRチロシンキナーゼ前治療歴があると7%、ないと17%。
無増悪生存期間は4ヶ月。
既存のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬よりは優れているのだろうが、なかなかに厳しい結果だと思う。
Poziotinib Shows Mixed Findings in Exon 20-Mutant NSCLC
OncLive
Audrey Sternberg
Published: Monday, Apr 27, 2020
一部改変
ZENITH20試験の中間解析の結果、EGFR Exon20挿入変異陽性の既治療非小細胞肺がん患者に対し、poziotinibは68.7%(79/115)の病勢コントロール率を達成した。2020年AACR年次総会で報告された。本試験では4つのコホートが設定されており、今回は既治療のEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を対象としたコホート1の解析結果に基づいている。
本結果をオンラインで報告したXiuning Le博士によると、効果は治療開始後比較的早い段階で現れ、投与量の減量や投与中断が必要だった患者ほどpoziotinibの効果が長期にわたり保たれた。サブグループ解析では、前治療の内容によらず、奏効割合はほぼかわらなかった。これは、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の前治療歴についても同じことがいえた。
患者背景に着目すると、総じてコホート1の患者は若く(年齢中央値は61歳)、女性が多く(67%)、白色人種が多く(67%)、非喫煙者が多かった(69%)。ほとんどの患者の組織型は腺がん(98%)で、病期はIV期(91%)で、脳転移を合併していなかった(90%)。前治療歴が1レジメンの患者は43%、2レジメンは25%、3レジメン以上は32%だった。75%の患者はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬未使用だった。
主要評価項目である奏効割合は治療を受けた患者の奏効割合の95%信頼区間の下限が17%以上であった場合に、主要評価項目が達成されると定義されていた。奏効割合は14.8%(17/115)(95%信頼区間は8.9%から22.6%)だったため、上記の主要評価項目は達成できなかったものの、腫瘍が縮小した患者の数は115人中75人(65%)に達していた。
事前に行われたMDアンダーソンがんセンターで行われた単施設での臨床試験では、濃厚な治療歴のあるEGFR陽性非小細胞肺がんやEGFR Exon20挿入変異陽性の非小細胞肺がん患者を対象として、奏効割合が43%に達していた。今回の結果はこれを再現することはできなかった。
前治療別に奏効割合を見ていくと、1レジメンのみの患者では14.3%、2レジメンの患者では13.8%、3レジメン以上の患者では16.2%だった。他の背景に沿った奏効割合は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療歴のある患者では6.9%、ない患者では17.4%、脳転移のある患者では8.3%、ない患者では15.5%、ECOG-PS0の患者では18.9%だった。
奏効持続期間中央値は7.4ヶ月(95%信頼区間は3.7-9.7ヶ月)だった。無増悪生存期間中央値は4.2ヶ月(95%信頼区間は3.7-6.6ヶ月)だった。既存のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬を用いたとき、EGFR Exon20挿入変異陽性非小細胞肺がん患者の無増悪生存期間中央値は2ヶ月程度とされており、今回の結果はpoziotinibの有用性を示唆している。
poziotinibは16mg/日の開始量で投与されたものの、68%の患者で減量を要した。16mg/日を既定量としたときのdose intensityは72%で、平均投与量は11.5mg/日だった。
poziotinibの休薬は97人(88%)の患者で行われた。休薬期間中央値は16日間だった。治療関連有害事象により、投与中止を余儀なくされたのは全体の10%だった。
前治療別に奏効割合を見ていくと、1レジメンのみの患者では14.3%、2レジメンの患者では13.8%、3レジメン以上の患者では16.2%だった。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療歴のある患者では6.9%、ない患者では17.4%、脳転移のある患者では8.3%、ない患者では15.5%、ECOG-PS0の患者では18.9%だった。
114人の患者でなんらかの有害事象を認めた。下痢(79%)、発疹(60%)、胃炎(52%)、爪周囲炎(45%)が主だった有害事象で、Grade3以上の有害事象で10%以上の発現率を示したものは、下痢(25%)と発疹(28%)だった。治療関連死は認めなかった。
現時点で複数のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬がEGFR遺伝子変異陽性肺がんに対して使用可能となっているが、こうした患者の10%を占めるEGFR Exon20挿入変異陽性の患者に対してFDAが承認したものはない。他のEGFR遺伝子変異と比べて、Exon20挿入変異は他の変異とは異なるEGFRの構造変化をもたらすとされている。すなわち、Exon20挿入変異はEGFR蛋白のATP結合ポケットの活性表面を狭く、小さく改変し、これが既存のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に対する耐性をもたらしていると考えられている。poziotinibはEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の中でも小さくコンパクトな構造であり、Exon20挿入変異を有するEGFR蛋白にも結合可能であるとされる。
本試験には、既存の4コホートに加えて、さらに3コホートが設定された。そのうちコホート6では、オシメルチニブによる初回治療後に病勢進行に至ったEGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者を対象としている。
2020年05月03日
抗TIGIT抗体、Tiragolumabの第III相試験?肺がんの一次治療で??
日経メディカルの記事を眺めていて気が付いた。
中外製薬の新薬開発状況についてまとめられた中に、抗TIGITヒトモノクローナル抗体、Tiragolumabの臨床試験について触れられている。
https://www.chugai-pharm.co.jp/ir/reports_downloads/pipeline.html
驚くべきことに、非小細胞肺がん、非小細胞肺がん、いずれも第III相試験が現在進行中とのこと。
TIGIT?
初耳。
こういう免疫チェックポイント蛋白らしい。
https://www.immunooncology.jp/medical/immune-pathways/tigit.html
細胞障害性T細胞、メモリーT細胞、NK細胞、制御性T細胞の表面に発現している。
腫瘍細胞表面のCD155蛋白やCD112蛋白と会合し、細胞障害性T細胞、NK細胞といった免疫活性化細胞は抑制し、免疫を不活化する制御性T細胞は活性化するとのこと。
第II相試験の計画も結果も聞いたことないのに、いきなり第III相試験。
それも、一次治療での臨床試験らしい。
SKYSCRAPER-01試験が非小細胞肺がん、SKYSCRAPER-02試験が小細胞肺がんに関する試験コードネームとのこと。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04294810
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04256421
SKYSCRAPER-01試験は、未治療の局所進行・進行非小細胞肺がん患者を対象に、アテゾリズマブにTiragolumabを上乗せするかしないかを比較する第III相臨床試験で、主要評価項目は無増悪生存期間と全生存期間。
SKYSCRPER-02試験は、未治療の進展型小細胞肺がん患者を対象に、カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブ併用療法にTiragolumabを上乗せするかしないかを比較する第III相臨床試験で、主要評価項目は無増悪生存期間と全生存期間。
非小細胞肺がんにおいては、SKYSCRAPER-01試験の全段階と考えられる第II相試験が行われ、患者集積は既に終了している。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03563716
結果はまだ公表されていないようだが、おそらく手ごたえがあるのだろう。
また、結果を公表せずに開発を進めるのには、競合する他の製薬会社、他の臨床試験が林立していることが背景にありそうだ。
https://www.evaluate.com/vantage/articles/news/trial-results/roches-next-immuno-oncology-combo-big-bet-tigit
しかし。
非小細胞肺がんに対するアテゾリズマブとTiragolumabの併用ならまだしも、小細胞がんに対するアテゾリズマブを含めた4剤併用療法、どの程度浸透するだろうか。
結果が出るころ、CoVID-19で傷ついた世界経済は、こうした治療を積極的に実地臨床へ取り入れられるだろうか。
中外製薬の新薬開発状況についてまとめられた中に、抗TIGITヒトモノクローナル抗体、Tiragolumabの臨床試験について触れられている。
https://www.chugai-pharm.co.jp/ir/reports_downloads/pipeline.html
驚くべきことに、非小細胞肺がん、非小細胞肺がん、いずれも第III相試験が現在進行中とのこと。
TIGIT?
初耳。
こういう免疫チェックポイント蛋白らしい。
https://www.immunooncology.jp/medical/immune-pathways/tigit.html
細胞障害性T細胞、メモリーT細胞、NK細胞、制御性T細胞の表面に発現している。
腫瘍細胞表面のCD155蛋白やCD112蛋白と会合し、細胞障害性T細胞、NK細胞といった免疫活性化細胞は抑制し、免疫を不活化する制御性T細胞は活性化するとのこと。
第II相試験の計画も結果も聞いたことないのに、いきなり第III相試験。
それも、一次治療での臨床試験らしい。
SKYSCRAPER-01試験が非小細胞肺がん、SKYSCRAPER-02試験が小細胞肺がんに関する試験コードネームとのこと。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04294810
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04256421
SKYSCRAPER-01試験は、未治療の局所進行・進行非小細胞肺がん患者を対象に、アテゾリズマブにTiragolumabを上乗せするかしないかを比較する第III相臨床試験で、主要評価項目は無増悪生存期間と全生存期間。
SKYSCRPER-02試験は、未治療の進展型小細胞肺がん患者を対象に、カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブ併用療法にTiragolumabを上乗せするかしないかを比較する第III相臨床試験で、主要評価項目は無増悪生存期間と全生存期間。
非小細胞肺がんにおいては、SKYSCRAPER-01試験の全段階と考えられる第II相試験が行われ、患者集積は既に終了している。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03563716
結果はまだ公表されていないようだが、おそらく手ごたえがあるのだろう。
また、結果を公表せずに開発を進めるのには、競合する他の製薬会社、他の臨床試験が林立していることが背景にありそうだ。
https://www.evaluate.com/vantage/articles/news/trial-results/roches-next-immuno-oncology-combo-big-bet-tigit
しかし。
非小細胞肺がんに対するアテゾリズマブとTiragolumabの併用ならまだしも、小細胞がんに対するアテゾリズマブを含めた4剤併用療法、どの程度浸透するだろうか。
結果が出るころ、CoVID-19で傷ついた世界経済は、こうした治療を積極的に実地臨床へ取り入れられるだろうか。
2020年05月01日
CoVID-19を合併した胸部悪性腫瘍患者に関する国際調査
CoVID-19を合併した胸部悪性腫瘍(ほぼ肺がんと同義と考えてよい)についての報告。
PCRで診断確定した患者のみならず、CoVID-19患者と濃厚接触した胸部悪性腫瘍患者も、更にはCoVID-19を思わせる臨床症状を呈している胸部悪性腫瘍患者までもが対象として組み入れられており、診断の正確性にはやや疑問が残る。
男性、喫煙経験者、IV期の患者が多くを占めるというのは、頷ける結果だ。
3人に1人が化学療法のみを、4人に1人が免疫チェックポイント阻害薬のみを、5人に1人がチロシンキナーゼ阻害薬のみを使用しているというのは、現在の肺がんの治療実態を反映しているようでとても興味深い。また、本来は免疫抑制を来しにくいはずの後二者でもCoVID-19を合併しているということが、この問題の複雑さを物語っているように思う。高リスク群を絞り込めない、ということである。
胸部悪性腫瘍の患者がCoVID-19を発症したら、4人に1人は死亡する、というのは、なかなかに侮れない。
そして、ほとんどの患者が集中治療室にまでは収容されなかったという事実。
基礎疾患に難治性の悪性腫瘍があるから、ということで、人工呼吸管理などの侵襲的な治療は見合わせた、という無言の患者選別圧力が感じ取れる。
AACR 2020: Mortality Rate in Patients With Thoracic Cancers Infected With COVID-19
By The ASCO Post Staff
Posted: 4/29/2020 1:49:00 PM
Last Updated: 4/30/2020 2:23:47 PM
AACR(American Association for Cancer Research)のvirtual meeting、CoVID-19とがんのセッションにおいて、TERAVOLT患者登録システム(胸部悪性腫瘍とCoVID-19の相関に関する国際的調査)の最初の報告が成された。CoVID-19に罹患した胸部悪性腫瘍患者の死亡率が高いことが示された。
2020年04月12日までの間に登録された、最初の200人の患者に関するデータを含んでおり、これはCoVID-19に罹患した胸部悪性腫瘍患者の、最初の大きなデータセットである。
すでにJAMA oncology誌に報告された論文では、肺がんは他の癌腫よりも高いCoVID-19合併率を示していた。この報告は、JCO Oncology Practiceに掲載された論文と同様に、一般大衆と比較して、がん患者もしくはがんサバイバーの方がSARS-CoV-2感染リスクが高いことも示唆していた。
TERAVOLT患者登録システムは、がんの治療内容にかかわらず、CoVID-19に罹患した胸部悪性腫瘍患者の情報集積を目的として、2020年03月より開始された。世界中の21か国が本調査に参加し、国際的ながん学会の多くがこの取り組みを支援している。臨床検査によりCoVID-19と診断された胸部悪性腫瘍患者や、CoVID-19感染者と濃厚接触した胸部悪性腫瘍患者、CoVID-19を思わせる臨床症状を示した胸部悪性腫瘍患者、全てが本調査の対象とされた。
最初の200人に関して言えば、年齢中央値は68歳で、その多くは男性で、喫煙経験者だった。stage IVの患者が全体の73.5%を、非小細胞肺がん患者が全体の75.5%を占めた。小細胞がんの患者は14.5%だった。83.8%の患者が、胸部悪性腫瘍以外の合併症を抱えており、頻度が高いのは高血圧(47%)、慢性閉塞性肺疾患(25.8%)だった。
ほとんどの患者(73.9%)が、何らかのがん治療を受けていた。32.7%が化学療法のみを、23.1%が免疫チェックポイント阻害薬のみを、19%がチロシンキナーゼ阻害薬のみを使用していた。CoVID-19の症状は肺がんの症状と類似しており、そのほとんどは発熱、咳、呼吸困難であって、肺がんの患者がCoVID-19を合併しているかどうかを診断するのは難しい。CoVID-19発症時の主な合併症は、肺炎/肺臓炎が79.6%、急性呼吸促拍症候群が26.6%だった。
CoVID-19を合併した場合、ほとんどの患者(76%)が入院し、こうした患者のうち33.3%は死亡した。理由ははっきりしないが、入院した患者のほとんどは集中治療室には収容されなかった。単変数解析では、特定のがん治療と死亡リスク増加の相関関係は認めなかった。一般大衆において認められた重要なリスク因子について補正した多変数解析においても、胸部悪性腫瘍患者におけるCoVID-19関連死のリスク因子は同定できなかった。
PCRで診断確定した患者のみならず、CoVID-19患者と濃厚接触した胸部悪性腫瘍患者も、更にはCoVID-19を思わせる臨床症状を呈している胸部悪性腫瘍患者までもが対象として組み入れられており、診断の正確性にはやや疑問が残る。
男性、喫煙経験者、IV期の患者が多くを占めるというのは、頷ける結果だ。
3人に1人が化学療法のみを、4人に1人が免疫チェックポイント阻害薬のみを、5人に1人がチロシンキナーゼ阻害薬のみを使用しているというのは、現在の肺がんの治療実態を反映しているようでとても興味深い。また、本来は免疫抑制を来しにくいはずの後二者でもCoVID-19を合併しているということが、この問題の複雑さを物語っているように思う。高リスク群を絞り込めない、ということである。
胸部悪性腫瘍の患者がCoVID-19を発症したら、4人に1人は死亡する、というのは、なかなかに侮れない。
そして、ほとんどの患者が集中治療室にまでは収容されなかったという事実。
基礎疾患に難治性の悪性腫瘍があるから、ということで、人工呼吸管理などの侵襲的な治療は見合わせた、という無言の患者選別圧力が感じ取れる。
AACR 2020: Mortality Rate in Patients With Thoracic Cancers Infected With COVID-19
By The ASCO Post Staff
Posted: 4/29/2020 1:49:00 PM
Last Updated: 4/30/2020 2:23:47 PM
AACR(American Association for Cancer Research)のvirtual meeting、CoVID-19とがんのセッションにおいて、TERAVOLT患者登録システム(胸部悪性腫瘍とCoVID-19の相関に関する国際的調査)の最初の報告が成された。CoVID-19に罹患した胸部悪性腫瘍患者の死亡率が高いことが示された。
2020年04月12日までの間に登録された、最初の200人の患者に関するデータを含んでおり、これはCoVID-19に罹患した胸部悪性腫瘍患者の、最初の大きなデータセットである。
すでにJAMA oncology誌に報告された論文では、肺がんは他の癌腫よりも高いCoVID-19合併率を示していた。この報告は、JCO Oncology Practiceに掲載された論文と同様に、一般大衆と比較して、がん患者もしくはがんサバイバーの方がSARS-CoV-2感染リスクが高いことも示唆していた。
TERAVOLT患者登録システムは、がんの治療内容にかかわらず、CoVID-19に罹患した胸部悪性腫瘍患者の情報集積を目的として、2020年03月より開始された。世界中の21か国が本調査に参加し、国際的ながん学会の多くがこの取り組みを支援している。臨床検査によりCoVID-19と診断された胸部悪性腫瘍患者や、CoVID-19感染者と濃厚接触した胸部悪性腫瘍患者、CoVID-19を思わせる臨床症状を示した胸部悪性腫瘍患者、全てが本調査の対象とされた。
最初の200人に関して言えば、年齢中央値は68歳で、その多くは男性で、喫煙経験者だった。stage IVの患者が全体の73.5%を、非小細胞肺がん患者が全体の75.5%を占めた。小細胞がんの患者は14.5%だった。83.8%の患者が、胸部悪性腫瘍以外の合併症を抱えており、頻度が高いのは高血圧(47%)、慢性閉塞性肺疾患(25.8%)だった。
ほとんどの患者(73.9%)が、何らかのがん治療を受けていた。32.7%が化学療法のみを、23.1%が免疫チェックポイント阻害薬のみを、19%がチロシンキナーゼ阻害薬のみを使用していた。CoVID-19の症状は肺がんの症状と類似しており、そのほとんどは発熱、咳、呼吸困難であって、肺がんの患者がCoVID-19を合併しているかどうかを診断するのは難しい。CoVID-19発症時の主な合併症は、肺炎/肺臓炎が79.6%、急性呼吸促拍症候群が26.6%だった。
CoVID-19を合併した場合、ほとんどの患者(76%)が入院し、こうした患者のうち33.3%は死亡した。理由ははっきりしないが、入院した患者のほとんどは集中治療室には収容されなかった。単変数解析では、特定のがん治療と死亡リスク増加の相関関係は認めなかった。一般大衆において認められた重要なリスク因子について補正した多変数解析においても、胸部悪性腫瘍患者におけるCoVID-19関連死のリスク因子は同定できなかった。