2024年12月09日

2022年01月05日の記事より・・・がん治療とその後の療養生活

2022年01月05日の記事より・・・がん治療とその後の療養生活


 私の母の胸部放射線治療、開始前は私自身薄氷を踏む思いで見ていました。

 母はもともと乳がんの術後再発を抑える目的で左乳房(前胸部)全体に極量の放射線治療をしていました。

 治療終了からすでに10年経過しているとはいえ、放射線治療の後遺障害は永続的です。

 新たに見つかった左下葉肺がん+縦郭リンパ節転移の治癒を目指すには、左胸部の広範囲に放射線をさらに極量を上乗せして照射するしかありませんでした。

 放射線治療医に相談して、なんとか照射野が重ならないように工夫しても、どうしても調整の利かない部分が出てきます。

 その部分の皮膚が壊死する、潰瘍化して穴が開く、くらいの覚悟をして治療に臨みました。

 母は文句なしに後期高齢者なので、局所進行期の原発性肺腺がんに対してカルボプラチン分割投与+同時併用根治的胸部放射線照射を行いました。

 治療の全行程を入院管理下で行いました。

 嘔気、嘔吐、食欲不振、食道炎症状はありましたが、幸い皮膚障害は軽微に抑えられました。

 早期からの軟膏処方、照射前後の冷却処置など、担当医や看護スタッフのきめ細かなケアの賜物と感謝しています。

 これまでのところまだ持ちこたえていますが、放射線治療の後遺障害というのは一定の期間をおいて出てくることもあり、まだまだ油断はできません。

 また、皮膚への照射線量を分散させるための調整の影響か、肺への放射線照射範囲は私が想像していたよりも広くに及び、比例して放射線肺臓炎を来した肺野も広くなり、プレドニゾロン内服期間がかなり長くなりました。

 治療開始前が1Lちょっとでしたので、おそらく今の母の肺活量は、確実に1Lを下回っているだろうと思います。

 そんなわけで、母の自宅療養については不安を感じていました。

 諸般の事情で母と同居できず、私自身いつも申し訳なく感じていますが、独居であることを除いては母の療養環境は恵まれているようです。

 片道5分程度の場所にあるスーパーまでを最大半径とした行動範囲で概ね生活が回ります。

 家業の関係で、しょっちゅう人が出入りして、あれこれ話をしていきます。

 家業を回転させるために常に頭を使います。

 私のほか、本人のきょうだいや親族、地元の友人が頻繁に訪ねてきます。

 温泉卵を茹でてはあちこちの親族やお客さまに送り付け、お返しに全国の山海珍味が返ってきて、またお返しを送ります。

 どこまでが仕事で、どこからが付き合いや趣味なのか、もうよくわかりません。

 母とお客さまが一緒に食事をしているところに、私も途中から混じるなどしばしばです。

 肺がん、乳がん、関節リウマチ、うつ病、糖尿病などなど、病める方々がたくさんやってきて、お風呂に入って地獄蒸しで食事をして、母と話をして、なぜかみなさん活気を取り戻して帰っていきます。

 とある会社の社長さんは、糖尿病による動脈硬化で足先が壊死しかけていたところ、実家の温泉で湯治を始めてからみるみる血行が良くなったそうで、それからというもの実家の一室に住みついてしまいました。

 何が言いたいのかというと、母にとって生活に必要なほどほどの運動が身体機能のリハビリとなり、家業の運転や多様なみなさんとの付き合いが高次脳機能の維持に役立っているようだということです。

 幸い母はまだ五感が健在なので、人とのコミュニケーションには支障がありません。

 同じ話を繰り返すことが以前よりも増えましたが、確認を兼ねてあえてそうしているのだろうと前向きにとらえています。

 以前の私ならば、肺がんの診療において肺がんにしか目が向かず、こうした生活に必要な身体機能、認知機能の維持には配慮ができませんでした。

 むしろ、治療に必要な身体機能、認知機能がなければ、治療を受ける適応(資格)がないと判断してしまうようなところがありました。

 治療に必要な体力、認知機能、療養環境を整えるところにも目配りしなければならない、というのは、地元に帰ってきて自然と老年期医療に携わるようになって、はじめて見えてきた視点です。

 生活の質を心地よく保ちながら長く治療を続けるには、身体・認知機能の維持と療養環境の整備はとても大切だと考えるようになりました。


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