2015年09月29日

術後補助化学療法とベバシツマブ

 昨夜の当直中、ネット講演を拝聴しました。
 先般開催された第16回世界肺癌会議の内容に触れられていました。
 その中から一つ、IB-IIIA期の完全切除後非小細胞肺癌の患者さんを対象に、プラチナ併用化学療法にベバシツマブを上乗せする術後化学療法の意義を検証する臨床試験について取り上げます。
 結論は、「上乗せ効果は証明されなかった」です。
 生存曲線はほぼ重なっています。
 





 病期別の解析を見てみたいところですが、少なくとも今回の結果からは、術後補助化学療法におけるベバシツマブの出番はないと考えられます。
 ・・・そういえば、このところプラチナ併用術後補助化学療法を行う患者さんを、身の回りであまり見ていないような気がします。
  

2015年09月29日

なぜ免疫担当細胞におけるPD-L1抗体の発現を見るのか

 以下の記事で、抗PD-L1抗体であるAtezolimumabの効果を見たPOPLAR studyのことを記載していますが、本来は腫瘍細胞表面に発現されるはずのPD-L1について、なぜ腫瘍細胞での発現のみならず、免疫担当細胞での発現を見ているのか、ずっと疑問に思っていました。
 
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e806518.html

 Journal of Clinical Oncologyに掲載された以下の図表を見て、ようやく少しだけ納得できました。
 PD-L1は免疫担当細胞にも発現していて、免疫担当細胞のCD28蛋白と樹状細胞のB7蛋白が結合して腫瘍免疫のアクセルを踏む際に、免疫担当細胞のPD-L1が樹状細胞のB7に作用して、アクセルを緩める、という流れがあるようです。

 ・・・ややこしや。


  

2015年09月29日

The immune related Response Criteria (irRC)

 通常、腫瘍縮小効果の評価には、RECIST基準を用います。
 簡単に言えば、測定しやすい病巣をいくつかピックアップして、治療開始前と治療後について、病巣の長さの和を比較します。
 病巣が消失したら「完全奏効」、長さの和が30%以上縮小したら「部分奏効」、20%以上増大したら「病勢増悪」、どれにもはまらなければ「安定」と判定します。 
 また、新たな病巣が出現した場合には、長さの和の如何によらず「病勢増悪」と判断します。

 ところが、免疫チェックポイント阻害薬では、このRECIST基準が役に立たないことがしばしばあるそうです。
 CTLA-4阻害薬を用いた治療では、初期には長さの和が増大して「病勢増悪」と判断されるところが、最終的には「完全奏効」や「部分奏効」と判断される患者さんが出てきました。その他にも、CTLA-4阻害薬により「完全奏効」に至った患者さんが「部分奏効」に至るまでの期間の中央値が30ヶ月(長い!)であったり、CTLA-4阻害薬により少なくとも4年以上長生きできている患者さんのうち約4分の1は効果判定上は「病勢増悪」に留まっていたりと、RECIST基準における効果判定と実際の長生き効果が結びつかないことが認められています。
 そのため、「The immune related Response Criteria(irRC) - 免疫関連効果判定基準 - 」なる新たな効果判定基準が提唱されています。
 ざっとその特徴を箇条書きにすると、
・病巣の大きさは、RECIST基準では一方向のみ計測していたが、irRCでは二方向(長径と、それに直交する短径)を計測する
・「完全奏効」の基準は、RECIST基準と同じく「全ての標的病変の消失」「全ての非標的病変の消失」「全てのリンパ節が短径10mm以下になる」「新規病変を認めない」を満たす
・「部分奏効」においては、50%以上の腫瘍量の縮小を見た場合とし、複数回(少なくとも二回)の効果判定で確認されなければならない
・「病勢増悪」においては、「直近の評価時点と比較して」「25%以上の腫瘍量の増大を見た場合」とし、「新規病変も腫瘍量の一部として含め(新規病変出現を即「病勢増悪」とは判定しない)」、複数回(少なくとも二回)の効果判定で確認されなければならない
・「安定」はRECIST同様に、「完全奏効」「部分奏効」「病勢増悪」いずれにも合致しない場合とする
ということです。
 
 「病勢増悪」の判断を、かなり慎重に行うこととなっており、「安定」と判定される患者さんがやたらと多くなりそうです。
 効果判定基準が変わる、というのも、免疫チェックポイント阻害薬の大きな特徴のひとつです。
  

2015年09月28日

臨床的に意味のある治療成績

 以前、肺癌に関連する臨床試験の質の低下について、以下の記事で触れました。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e751814.html

 今回取り上げる論文は(といっても、論文自体は1年半も前に発表されたものですが)、その質を引き上げるために、進行非小細胞肺癌の臨床試験に求められる、「臨床的に意味のある」=「患者さんにとって意味のある」治療効果について、記載されています。

American Society of Clinical Oncology Perspective:Raising the Bar for Clinical Trials by Defining Clinically Meaningful Outcomes

Lee M. Ellis, David S. Bernstein, Emile E. Voest, Jordan D. Berlin, Daniel Sargent, Patricia Cortazar, Elizabeth Garrett-Mayer, Roy S. Herbst, Rogerio C. Lilenbaum, Camelia Sima, Alan P. Venook, Mithat Gonen, Richard L. Schilsky, Neal J. Meropol, and Lowell E. Schnipper

J Clin Oncol VOLUME 32 NUMBER 12 APRIL 20 2014

 簡単に、以下のようにまとめられています。

・進行(非小細胞)肺癌の第III相臨床試験においては
→患者集積期間は18ヶ月
→少なくとも全ての患者について、18ヶ月は経過観察期間をおく
→非扁平上皮癌の患者では、コントロール群の生存期間中央値を13か月、試験治療群に期待する生存期間中央値を17か月と見積もって試験デザインを行う
→扁平上皮癌の患者では、コントロール群の生存期間中央値を10か月、試験治療群に期待する生存期間中央値を13か月と見積もって試験デザインを行う
→コントロール群に対する試験治療群の全生存期間におけるハザード比が0.8を下回った場合には臨床的に意味のある差が得られたと判断する。

 ・・・改めて見直してみても、なかなか厳しい基準です。
 有力な治療標的分子と分子標的薬がある条件ではいざ知らず、殺細胞性抗腫瘍薬やバイオマーカーが明らかとなっていない抗体医薬においては、このRaised Barは高いです。
  

Posted by tak at 23:43Comments(0)その他

2015年09月28日

切除後肺腺癌におけるALK陽性割合

 読みこなしていない論文がたまっちゃったので、要約だけざっと訳して残しておきます。
 Tissue microarrayを用いたALKに関わる解析です。
 ふーん、そうですか、といった感じです。

<切除後病理病期I期からIII期の原発性肺腺癌におけるALK陽性肺癌の割合と臨床的特徴について> 
- European Thoracic Oncology Platform Lungscape Projectから -

Prevalence and Clinical Outcomes for Patients With ALK-Positive Resected Stage I to III Adenocarcinoma: Results From the European Thoracic Oncology Platform Lungscape Project

Fiona H. Blackhall, Solange Peters, Lukas Bubendorf, Urania Dafni, Keith M. Kerr, Henrik Hager,
Alex Soltermann, Kenneth J. O’Byrne, Christoph Dooms, Aleksandra Sejda, Javier Herna´ndez-Losa,
Antonio Marchetti, Spasenija Savic, Qiang Tan, Erik Thunnissen, Ernst-Jan M. Speel, Richard Cheney,
Daisuke Nonaka, Jeroen de Jong, Miguel Martorell, Igor Letovanec, Rafael Rosell, and Rolf A. Stahel

J Clin Oncol 32. © 2014

目的:
 早期非小細胞肺癌におけるALK遺伝子再構成が陽性となる割合は、報告や検査法によって様々異なる。
 Lungscape ALK projectは、欧州で切除された原発性肺腺癌におけるALK陽性割合とその予後について明らかにする目的で計画された。
方法:
 ALKの判定は、免疫染色とFISHによった。European Thoracic Oncology Platform Lungscape iBiobankに蓄積された1281人分の腺癌組織を用いた。ALK陽性と判定された患者1人に対し、ALK陰性と判定された患者2人を比較対象として抽出した。ALK検査は今回の計画に参加した16施設で行われ、外部組織における品質管理を受けつつ、同じ検査プロトコールを用いた。
結果:
 ALK免疫染色陽性と判定された患者は80人だった(陽性割合は6.2%、95%信頼区間は4.9-7.6%)。ALK-FISHの陽性カットオフ値を2.2%としたところ、免疫染色で陽性となった患者の中で、28人はALK-FISHも陽性と判定された。FISHの特異度は100%、感度は35%(95%信頼区間は24.7%-46.5%)だった。患者死亡に関するハザード比は、ALK免疫染色陰性の患者に対して、ALK-FISH陽性の患者において有意に低下していた(p=0.022)。各種背景因子について調整した多変数解析モデルでは、ALK-FISH陽性は全生存期間に関する予後良好因子だった。
結論:
 今回の検討では、免疫染色では6.2%、FISHでは少なくとも2.2%のALK陽性割合であった。ALK陽性は、全生存期間に関する予後良好因子だった。

  

Posted by tak at 23:11Comments(0)遺伝子変異