2015年06月30日
Boehringer Ingelheim Lung Cancer Conference 2015(その3)
標記の講演会備忘録、さらに続き。
<非扁平上皮癌(EGFR遺伝子変異陰性、ALK遺伝子転座陰性)に対する治療戦略>
四国がんセンター 野上尚之先生
・CTLA4, PD-1, PD-L1に関する模式図・・・Ribas NEJM 2012 (366) 2517-2519

・がん免疫反応は車の運転にたとえられることが多い。
1)抗原提示細胞とT細胞の相互作用
腫瘍組織適合遺伝子複合体とがん抗原に対するT細胞受容体(TCR)の結合:新規異物抗原の認識:車にキーを差し込む
細胞表面のB7蛋白に対するCD28の結合:免疫反応の活性化:アクセルを踏む
細胞表面のB7蛋白に対するCTLA4の結合:過剰な免疫反応の抑制:ブレーキを踏む
2)がん細胞とT細胞の相互作用
腫瘍組織適合遺伝子複合体とがん抗原に対するT細胞受容体(TCR)の結合:がん免疫反応の開始:車にキーを差し込む
細胞表面のPD-L1に対するPD-1の結合:がん細胞に対する免疫寛容(アネルギー):ブレーキを踏む
・免疫チェックポイント阻害薬は、CTLA4、PD-1、PD-L1に対する抗体で、ブレーキを壊してがん免疫反応を促進する。
・免疫チェックポイント阻害薬は、治療が終わった後も長く効果が続くことがある。
・Checkmate-017試験:肺扁平上皮癌二次治療におけるNivolumabとDocetaxelの第III相比較試験
→全生存期間、無増悪生存期間とも有意にNivolumabが優れていた。
→PD-L1の発現状況と効果には関連なし。

・Checkmate-057試験:肺非扁平上皮非小細胞肺癌二次治療におけるNivolumabとDocetaxelの第III相比較試験
→全生存期間は有意にNivolumabが優れていた。
→無増悪生存期間は有意差がつかなかった。
→どちらの生存曲線も、途中で交差していた。


→発表当時、さんざん物議をかもしたIPASS試験の無増悪生存曲線とよく似ている。
→IPASSは、EGFR遺伝子変異を有するsuper-responderと変異を有さないnon-responderが混在したために、Gefitinib群の初期は急速に曲線が下がり、non-responderの影響が消えてから変曲点を迎えて、曲線の傾きが緩やかになったと理解されている。

→そうすると、肺非扁平上皮非小細胞肺癌に対するNivolumab療法でも、super-responderを見分けるbiomarkerがありそう。
→腫瘍のPD-L1発現状況で治療効果が異なるようだが、PD-L1発現の評価方法が複雑で、ASCO2015の会場では不評だった。

→PD-L1高発現の腫瘍だと、全生存期間、無増悪生存期間ともに延長し、奏効割合も高い。
→しかし、PD-L1低発現でも、一部にsuper-responderが存在するため、他のbiomarkerが関与している可能性がある。
・KEYNOTE-001試験ではPembrolizumabについて検討されている。
→PD-L1の発現状況は、腫瘍細胞の50%以上が発現しているかどうかで区切ったところ、50%以上発現している腫瘍では全生存期間、無増悪生存期間は延長し、奏効割合も高かった。

・抗PD-L1抗体であるAtezolimumabの効果について検証したPOPLAR試験では、がん細胞のみならず、腫瘍組織に浸潤する免疫担当細胞のPD-L1発現状態についても検討している。
・CD8陽性T細胞の一部が抗PD-L1抗体で染色される→CD8陽性T細胞も一部はPD-L1を発現している。
・腫瘍細胞、免疫担当細胞いずれもPD-L1高発現の方が、Atezolimumabがよく効いていた。




・・・まだ終わりません。
続きは次回に。
<非扁平上皮癌(EGFR遺伝子変異陰性、ALK遺伝子転座陰性)に対する治療戦略>
四国がんセンター 野上尚之先生
・CTLA4, PD-1, PD-L1に関する模式図・・・Ribas NEJM 2012 (366) 2517-2519

・がん免疫反応は車の運転にたとえられることが多い。
1)抗原提示細胞とT細胞の相互作用
腫瘍組織適合遺伝子複合体とがん抗原に対するT細胞受容体(TCR)の結合:新規異物抗原の認識:車にキーを差し込む
細胞表面のB7蛋白に対するCD28の結合:免疫反応の活性化:アクセルを踏む
細胞表面のB7蛋白に対するCTLA4の結合:過剰な免疫反応の抑制:ブレーキを踏む
2)がん細胞とT細胞の相互作用
腫瘍組織適合遺伝子複合体とがん抗原に対するT細胞受容体(TCR)の結合:がん免疫反応の開始:車にキーを差し込む
細胞表面のPD-L1に対するPD-1の結合:がん細胞に対する免疫寛容(アネルギー):ブレーキを踏む
・免疫チェックポイント阻害薬は、CTLA4、PD-1、PD-L1に対する抗体で、ブレーキを壊してがん免疫反応を促進する。
・免疫チェックポイント阻害薬は、治療が終わった後も長く効果が続くことがある。
・Checkmate-017試験:肺扁平上皮癌二次治療におけるNivolumabとDocetaxelの第III相比較試験
→全生存期間、無増悪生存期間とも有意にNivolumabが優れていた。
→PD-L1の発現状況と効果には関連なし。

・Checkmate-057試験:肺非扁平上皮非小細胞肺癌二次治療におけるNivolumabとDocetaxelの第III相比較試験
→全生存期間は有意にNivolumabが優れていた。
→無増悪生存期間は有意差がつかなかった。
→どちらの生存曲線も、途中で交差していた。


→発表当時、さんざん物議をかもしたIPASS試験の無増悪生存曲線とよく似ている。
→IPASSは、EGFR遺伝子変異を有するsuper-responderと変異を有さないnon-responderが混在したために、Gefitinib群の初期は急速に曲線が下がり、non-responderの影響が消えてから変曲点を迎えて、曲線の傾きが緩やかになったと理解されている。

→そうすると、肺非扁平上皮非小細胞肺癌に対するNivolumab療法でも、super-responderを見分けるbiomarkerがありそう。
→腫瘍のPD-L1発現状況で治療効果が異なるようだが、PD-L1発現の評価方法が複雑で、ASCO2015の会場では不評だった。

→PD-L1高発現の腫瘍だと、全生存期間、無増悪生存期間ともに延長し、奏効割合も高い。
→しかし、PD-L1低発現でも、一部にsuper-responderが存在するため、他のbiomarkerが関与している可能性がある。
・KEYNOTE-001試験ではPembrolizumabについて検討されている。
→PD-L1の発現状況は、腫瘍細胞の50%以上が発現しているかどうかで区切ったところ、50%以上発現している腫瘍では全生存期間、無増悪生存期間は延長し、奏効割合も高かった。

・抗PD-L1抗体であるAtezolimumabの効果について検証したPOPLAR試験では、がん細胞のみならず、腫瘍組織に浸潤する免疫担当細胞のPD-L1発現状態についても検討している。
・CD8陽性T細胞の一部が抗PD-L1抗体で染色される→CD8陽性T細胞も一部はPD-L1を発現している。
・腫瘍細胞、免疫担当細胞いずれもPD-L1高発現の方が、Atezolimumabがよく効いていた。




・・・まだ終わりません。
続きは次回に。
2015年06月29日
Boehringer Ingelheim Lung Cancer Conference 2015(その2)
先日記載した、標記の講演会の備忘録、つづきです。
冒頭は、前回と重複しますが、おさらいを兼ねて。
<EGFR遺伝子変異陽性肺癌における治療戦略-mutation subtype毎に個別の治療戦略は必要か?->
・参加者全員で投票:Ex.19とEx.21で治療を分けるべき(68%)、分けなくてもよい(32%)
・Ex.19陽性、PS 0-1、年齢75歳未満の患者で選ぶ治療は?
gefitinib:21%
erlotinib:15%
afatinib:57%
erlotinib+bevacizumab:3%
chemotherapy:4%
・Ex.21陽性、PS 0-1、年齢75歳未満の患者で選ぶ治療は?
gefitinib:56%
erlotinib:19%
afatinib:9%
erlotinib+bevacizumab:8%
chemotherapy:7%
others:1%
・LUX-Lung 3:日本人サブグループ解析:Ex.19(+)
全生存期間 afatinib群 46.9ヶ月 vs chemotherapy群 35.0ヶ月
無増悪生存期間 afatinib群 16.4ヶ月 vs chemotherapy群 13.7ヶ月
・LUX-Lung 3 日本人サブグループ解析:Ex. 21(+)
全生存期間 afatinib群 41.7ヶ月 vs chemotherapy群 40.3ヶ月
・ LUX-Lung 3 サブグループ解析:chemotherapy群を遺伝子変異タイプ別に解析
無増悪生存期間 Ex. 19(+)群 5.6ヶ月 vs Ex.21(+)群 8.1ヶ月
・LUX-Lung 3 日本人サブグループ解析
無増悪生存期間 Ex.19(+)群 3.1ヶ月 vs Ex.21(+)群 8.3ヶ月
・Ex.21(+)群ではchemotherapyの感受性がやや高い。
・もはや、Ex.19(+)肺癌とEx.21(+)肺癌は別々の疾患単位として認識すべきでは。
・Ex. 19(+)の方が、生物学的活性が高い、多発転移巣の転移個数が多く、脳転移巣の周辺の浮腫は比較的軽い。
・各エキスパートに治療方針を伺ったところ
井上彰先生(東北大学緩和医療学分野 教授) Ex.19(+):afatinib, Ex.21(+):gefitinib
里内美弥子(兵庫県立がんセンター 呼吸器内科 部長) いずれも同様に扱う(多分gefitinibを使う)
岡本 勇先生(九州大学病院 呼吸器科 ARO次世代医療センター 准教授) Ex.19(+):afatinib, Ex21.(+)可能ならafatinib
・LUX-Lung 7(Afatinib vs Gefitinib for EGFRm pt. randomized phase IIb)の結果を待ちたい。
・来年のASCOでは、LUX-Lung 7の結果が出るだろう。
・LUX-Lung 7の主要評価項目は、全参加者を対象とした無増悪生存期間と12ヶ月病勢コントロール割合。
・LUX-Lung 7で遺伝子変異タイプ別に治療効果がどうなるか、はこれまたサブグループ解析に過ぎず、どんな結果になっても議論を醸すだろう。
<和歌山県立医大、山本信之先生のコメント>
・まず、特定の会社に有利なコメントはしない、ということを最初にお断りする。
・LUX-Lung 3および6試験の統合解析で、化学療法に対してAfatinibが全生存期間を延長した、と喧伝されているが、厳密にいうと正しくない。
・もともと、LUX-Lung 3と6は、EGFR遺伝子変異患者すべてを対象として開始された試験だが、これら全ての患者を解析対象とすると、全生存期間の延長は証明できなかった。この点は、GefitinibやErlotinibと何ら変わりない。

・Ex.19およびEx.21の"common mutation"に限って解析すると、各試験単独では統計学的に有意な全生存期間延長効果は証明できなかったものの、統合解析では「ギリギリ」有意差を以て証明することができた。

・患者全体を対象としたら有意差が得られず、患者を限定したらギリギリ有意差を検出できた、という成り行きは、いかにも作為的な印象を与えやすい。
・さらに、common mutationの中でも、Ex.19とEx.21で別々に解析したところ、既によく知られているようにEx.19ではLUX-Lung 3, LUX-Lung 6, 両者の統合解析のいずれでも有意な全生存期間延長が示され、Ex.21では有意差はなく、むしろ生存曲線は化学療法群がAfatinib群を上回るような結果だった。

・サブグループ解析の結果は、そのまま受け入れられることはあまりない。
・しかし、今回のEx.19に関する全生存期間延長効果は、異なる2つの臨床試験において、再現性(一貫性)をもって示されており、更には事前に規定された解析だったため、信頼性は高い。
・もちろん、Ex.19陽性の患者のみを対象として新たな臨床試験を計画するのが王道だが、自分自身の実地臨床ではEx.19陽性患者にはAfatinibを積極的に使用したい。
・少なくとも、Ex.19陽性の患者を対象とした臨床試験が今後計画されたとして、コントロール群にGefitinibやErlotinibが設定されたなら、自分はその臨床試験には参加しないだろう。
・実地臨床上、第3世代TKIが上市されたら、という過程で言えば、次のような使い分けまでは妥当なところではないだろうか。

・・・長くなってしまったので、続きのテーマはまた改めて。
冒頭は、前回と重複しますが、おさらいを兼ねて。
<EGFR遺伝子変異陽性肺癌における治療戦略-mutation subtype毎に個別の治療戦略は必要か?->
・参加者全員で投票:Ex.19とEx.21で治療を分けるべき(68%)、分けなくてもよい(32%)
・Ex.19陽性、PS 0-1、年齢75歳未満の患者で選ぶ治療は?
gefitinib:21%
erlotinib:15%
afatinib:57%
erlotinib+bevacizumab:3%
chemotherapy:4%
・Ex.21陽性、PS 0-1、年齢75歳未満の患者で選ぶ治療は?
gefitinib:56%
erlotinib:19%
afatinib:9%
erlotinib+bevacizumab:8%
chemotherapy:7%
others:1%
・LUX-Lung 3:日本人サブグループ解析:Ex.19(+)
全生存期間 afatinib群 46.9ヶ月 vs chemotherapy群 35.0ヶ月
無増悪生存期間 afatinib群 16.4ヶ月 vs chemotherapy群 13.7ヶ月
・LUX-Lung 3 日本人サブグループ解析:Ex. 21(+)
全生存期間 afatinib群 41.7ヶ月 vs chemotherapy群 40.3ヶ月
・ LUX-Lung 3 サブグループ解析:chemotherapy群を遺伝子変異タイプ別に解析
無増悪生存期間 Ex. 19(+)群 5.6ヶ月 vs Ex.21(+)群 8.1ヶ月
・LUX-Lung 3 日本人サブグループ解析
無増悪生存期間 Ex.19(+)群 3.1ヶ月 vs Ex.21(+)群 8.3ヶ月
・Ex.21(+)群ではchemotherapyの感受性がやや高い。
・もはや、Ex.19(+)肺癌とEx.21(+)肺癌は別々の疾患単位として認識すべきでは。
・Ex. 19(+)の方が、生物学的活性が高い、多発転移巣の転移個数が多く、脳転移巣の周辺の浮腫は比較的軽い。
・各エキスパートに治療方針を伺ったところ
井上彰先生(東北大学緩和医療学分野 教授) Ex.19(+):afatinib, Ex.21(+):gefitinib
里内美弥子(兵庫県立がんセンター 呼吸器内科 部長) いずれも同様に扱う(多分gefitinibを使う)
岡本 勇先生(九州大学病院 呼吸器科 ARO次世代医療センター 准教授) Ex.19(+):afatinib, Ex21.(+)可能ならafatinib
・LUX-Lung 7(Afatinib vs Gefitinib for EGFRm pt. randomized phase IIb)の結果を待ちたい。
・来年のASCOでは、LUX-Lung 7の結果が出るだろう。
・LUX-Lung 7の主要評価項目は、全参加者を対象とした無増悪生存期間と12ヶ月病勢コントロール割合。
・LUX-Lung 7で遺伝子変異タイプ別に治療効果がどうなるか、はこれまたサブグループ解析に過ぎず、どんな結果になっても議論を醸すだろう。
<和歌山県立医大、山本信之先生のコメント>
・まず、特定の会社に有利なコメントはしない、ということを最初にお断りする。
・LUX-Lung 3および6試験の統合解析で、化学療法に対してAfatinibが全生存期間を延長した、と喧伝されているが、厳密にいうと正しくない。
・もともと、LUX-Lung 3と6は、EGFR遺伝子変異患者すべてを対象として開始された試験だが、これら全ての患者を解析対象とすると、全生存期間の延長は証明できなかった。この点は、GefitinibやErlotinibと何ら変わりない。

・Ex.19およびEx.21の"common mutation"に限って解析すると、各試験単独では統計学的に有意な全生存期間延長効果は証明できなかったものの、統合解析では「ギリギリ」有意差を以て証明することができた。

・患者全体を対象としたら有意差が得られず、患者を限定したらギリギリ有意差を検出できた、という成り行きは、いかにも作為的な印象を与えやすい。
・さらに、common mutationの中でも、Ex.19とEx.21で別々に解析したところ、既によく知られているようにEx.19ではLUX-Lung 3, LUX-Lung 6, 両者の統合解析のいずれでも有意な全生存期間延長が示され、Ex.21では有意差はなく、むしろ生存曲線は化学療法群がAfatinib群を上回るような結果だった。

・サブグループ解析の結果は、そのまま受け入れられることはあまりない。
・しかし、今回のEx.19に関する全生存期間延長効果は、異なる2つの臨床試験において、再現性(一貫性)をもって示されており、更には事前に規定された解析だったため、信頼性は高い。
・もちろん、Ex.19陽性の患者のみを対象として新たな臨床試験を計画するのが王道だが、自分自身の実地臨床ではEx.19陽性患者にはAfatinibを積極的に使用したい。
・少なくとも、Ex.19陽性の患者を対象とした臨床試験が今後計画されたとして、コントロール群にGefitinibやErlotinibが設定されたなら、自分はその臨床試験には参加しないだろう。
・実地臨床上、第3世代TKIが上市されたら、という過程で言えば、次のような使い分けまでは妥当なところではないだろうか。

・・・長くなってしまったので、続きのテーマはまた改めて。
2015年06月27日
Boehringer Ingelheim Lung Cancer Conference 2015(その1)
今日は早起きして、東京にやってきました。
標記の講演会に出席するためです。
企業主催の講演会なので、やや講演内容に偏りがありますが、少なくとも半分は企業の製品と余り関わりのないお話で、勉強させていただきました。
例によって、備忘録です。
<The latest topics of translational research>近畿大学医学部 ゲノム生物学教室 教授 西尾和人先生
・分子標的薬に耐性化した場合、機序は大きく2通りに分けられる。
・M-class:特定の分子に二次的な変異が生じて耐性化する(mutation addicted)。
・C-class:特定の分子のコピー数が増幅される(copy number amplification depended)。
・afatinibは、Ex. 19、Ex.18、HER3 mediated resistanceいずれにも有効で、Ex.21にもある程度(少なくとも他のEGFR阻害薬と同程度)有効
<EGFR遺伝子変異陽性肺癌における治療戦略-mutation subtype毎に個別の治療戦略は必要か?->
・参加者全員で投票:Ex.19とEx.21で治療を分けるべき(68%)、分けなくてもよい(32%)
・Ex.19陽性、PS 0-1、年齢75歳未満の患者で選ぶ治療は?
gefitinib:21%
erlotinib:15%
afatinib:57%
erlotinib+bevacizumab:3%
chemotherapy:4%
・Ex.21陽性、PS 0-1、年齢75歳未満の患者で選ぶ治療は?
gefitinib:56%
erlotinib:19%
afatinib:9%
erlotinib+bevacizumab:8%
chemotherapy:7%
others:1%
・LUX-Lung 3:日本人サブグループ解析:Ex.19(+)
全生存期間 afatinib群 46.9ヶ月 vs chemotherapy群 35.0ヶ月
無増悪生存期間 afatinib群 16.4ヶ月 vs chemotherapy群 13.7ヶ月
・LUX-Lung 3 日本人サブグループ解析:Ex. 21(+)
全生存期間 afatinib群 41.7ヶ月 vs chemotherapy群 40.3ヶ月
・ LUX-Lung 3 サブグループ解析:chemotherapy群を遺伝子変異タイプ別に解析
無増悪生存期間 Ex. 19(+)群 5.6ヶ月 vs Ex.21(+)群 8.1ヶ月
・LUX-Lung 3 日本人サブグループ解析
無増悪生存期間 Ex.19(+)群 3.1ヶ月 vs Ex.21(+)群 8.3ヶ月
・Ex.21(+)群ではchemotherapyの感受性がやや高い。
・もはや、Ex.19(+)肺癌とEx.21(+)肺癌は別々の疾患単位として認識すべきでは。
・Ex. 19(+)の方が、生物学的活性が高い、多発転移巣の転移個数が多く、脳転移巣の周辺の浮腫は比較的軽い。
・各エキスパートに治療方針を伺ったところ
井上彰先生(東北大学緩和医療学分野 教授) Ex.19(+):afatinib, Ex.21(+):gefitinib
里内美弥子(兵庫県立がんセンター 呼吸器内科 部長) いずれも同様に扱う(多分gefitinibを使う)
岡本 勇先生(九州大学病院 呼吸器科 ARO次世代医療センター 准教授) Ex.19(+):afatinib, Ex21.(+)可能ならafatinib
・LUX-Lung 7(afatinib vs gefitinib for EGFRm, randomized phase IIb)の結果を待たねばならない。
眠くなったので、まずはここまでで。
標記の講演会に出席するためです。
企業主催の講演会なので、やや講演内容に偏りがありますが、少なくとも半分は企業の製品と余り関わりのないお話で、勉強させていただきました。
例によって、備忘録です。
<The latest topics of translational research>近畿大学医学部 ゲノム生物学教室 教授 西尾和人先生
・分子標的薬に耐性化した場合、機序は大きく2通りに分けられる。
・M-class:特定の分子に二次的な変異が生じて耐性化する(mutation addicted)。
・C-class:特定の分子のコピー数が増幅される(copy number amplification depended)。
・afatinibは、Ex. 19、Ex.18、HER3 mediated resistanceいずれにも有効で、Ex.21にもある程度(少なくとも他のEGFR阻害薬と同程度)有効
<EGFR遺伝子変異陽性肺癌における治療戦略-mutation subtype毎に個別の治療戦略は必要か?->
・参加者全員で投票:Ex.19とEx.21で治療を分けるべき(68%)、分けなくてもよい(32%)
・Ex.19陽性、PS 0-1、年齢75歳未満の患者で選ぶ治療は?
gefitinib:21%
erlotinib:15%
afatinib:57%
erlotinib+bevacizumab:3%
chemotherapy:4%
・Ex.21陽性、PS 0-1、年齢75歳未満の患者で選ぶ治療は?
gefitinib:56%
erlotinib:19%
afatinib:9%
erlotinib+bevacizumab:8%
chemotherapy:7%
others:1%
・LUX-Lung 3:日本人サブグループ解析:Ex.19(+)
全生存期間 afatinib群 46.9ヶ月 vs chemotherapy群 35.0ヶ月
無増悪生存期間 afatinib群 16.4ヶ月 vs chemotherapy群 13.7ヶ月
・LUX-Lung 3 日本人サブグループ解析:Ex. 21(+)
全生存期間 afatinib群 41.7ヶ月 vs chemotherapy群 40.3ヶ月
・ LUX-Lung 3 サブグループ解析:chemotherapy群を遺伝子変異タイプ別に解析
無増悪生存期間 Ex. 19(+)群 5.6ヶ月 vs Ex.21(+)群 8.1ヶ月
・LUX-Lung 3 日本人サブグループ解析
無増悪生存期間 Ex.19(+)群 3.1ヶ月 vs Ex.21(+)群 8.3ヶ月
・Ex.21(+)群ではchemotherapyの感受性がやや高い。
・もはや、Ex.19(+)肺癌とEx.21(+)肺癌は別々の疾患単位として認識すべきでは。
・Ex. 19(+)の方が、生物学的活性が高い、多発転移巣の転移個数が多く、脳転移巣の周辺の浮腫は比較的軽い。
・各エキスパートに治療方針を伺ったところ
井上彰先生(東北大学緩和医療学分野 教授) Ex.19(+):afatinib, Ex.21(+):gefitinib
里内美弥子(兵庫県立がんセンター 呼吸器内科 部長) いずれも同様に扱う(多分gefitinibを使う)
岡本 勇先生(九州大学病院 呼吸器科 ARO次世代医療センター 准教授) Ex.19(+):afatinib, Ex21.(+)可能ならafatinib
・LUX-Lung 7(afatinib vs gefitinib for EGFRm, randomized phase IIb)の結果を待たねばならない。
眠くなったので、まずはここまでで。
2015年06月23日
TATTON trial
ASCO2015 Abst. #225 (Poster) Preliminary results of TATTON, a multi-arm Phase Ib trial of AZD9291 combined with MEDI4736, AZD6094(Savolitinib) or selumetinib in EGFR-mutant lung cancer
1-2年前、確かBest of ASCO in Japanの壇上で、ある演者がおっしゃっていたように思いますが、分子標的薬治療の考え方が一歩進んで、"dual inhibit"という概念が出てきているようです。
単一の標的分子だけでなく、複数の標的分子を同時に阻害するという戦略です。
例えば、sunitinibやsorafenib, crizotinibのように、単一の薬剤が複数の標的分子を阻害することもありますが、今回取り上げるのは単一の分子を標的にした薬を複数使って、治療効果を上げようとするものです。
しばしば取り上げている第三世代のEGFR阻害薬であるAZD9291は、T790M変異を有さないEGFR変異陽性肺癌にも有効であり、毒性も軽いようです。
一方、EGFR阻害薬への耐性機序はT790M変異以外にも、他の増殖因子を介した新たな細胞増殖刺激(MET増幅、HER2増幅、IGF1R刺激)、シグナル伝達系のより下流の二次的変異(BRAF変異、PIK3CA変異、PTEN欠失、MAPK1増幅、MEK増幅)、小細胞肺癌への転化が知られています。
また、免疫チェックポイント分子を介した免疫寛容ががん細胞の生存に関わっており、PD-1、PD-L1、CTLA-4を標的とした治療が臨床腫瘍学の世界を席巻しているのは周知の事実です。
こうした背景を踏まえ、今回のTATTON studyでは、以下の併用療法について検討しています。
・AZD9291+MEDI4736(抗PD-L1抗体)
・AZD9291+Savolitinib(MET阻害薬)
・AZD9291+Selumetinib(MEK1/2阻害薬)
どういう治療戦略かは、シグナル伝達系や耐性機序を見ながらの方が整理しやすいので、拙いながらもシェーマを作ったので以下に示しておきます。

今回は毒性を確認し、治療推奨用量を設定するための試験なので、EGFR遺伝子変異を有し、EGFR阻害薬治療後に病勢が進行し、臓器機能やPSが保たれている患者さん全てを対象にしています。患者さんの耐性機序を明らかにしてから、それに符合した併用療法を行った、というわけではないようです。
Grade3以上の高度な毒性は、どの併用療法でもあまり見られていないようです。
一方、効果は以下の図表に示す通りです。
第I相試験はあくまで毒性を確認するための試験なのですが、分子標的薬の領域では、crizotinibの有効性が確認されてからというもの、むしろ効果の面がクローズアップされ、第II相試験でそれを確認して薬事承認に持っていく、という趨勢が主流になってきたように思います。

第II相試験以降では、再生検で耐性機序を明らかにして、それに見合った併用療法を選択する、という図式になるのではないでしょうか。
1-2年前、確かBest of ASCO in Japanの壇上で、ある演者がおっしゃっていたように思いますが、分子標的薬治療の考え方が一歩進んで、"dual inhibit"という概念が出てきているようです。
単一の標的分子だけでなく、複数の標的分子を同時に阻害するという戦略です。
例えば、sunitinibやsorafenib, crizotinibのように、単一の薬剤が複数の標的分子を阻害することもありますが、今回取り上げるのは単一の分子を標的にした薬を複数使って、治療効果を上げようとするものです。
しばしば取り上げている第三世代のEGFR阻害薬であるAZD9291は、T790M変異を有さないEGFR変異陽性肺癌にも有効であり、毒性も軽いようです。
一方、EGFR阻害薬への耐性機序はT790M変異以外にも、他の増殖因子を介した新たな細胞増殖刺激(MET増幅、HER2増幅、IGF1R刺激)、シグナル伝達系のより下流の二次的変異(BRAF変異、PIK3CA変異、PTEN欠失、MAPK1増幅、MEK増幅)、小細胞肺癌への転化が知られています。
また、免疫チェックポイント分子を介した免疫寛容ががん細胞の生存に関わっており、PD-1、PD-L1、CTLA-4を標的とした治療が臨床腫瘍学の世界を席巻しているのは周知の事実です。
こうした背景を踏まえ、今回のTATTON studyでは、以下の併用療法について検討しています。
・AZD9291+MEDI4736(抗PD-L1抗体)
・AZD9291+Savolitinib(MET阻害薬)
・AZD9291+Selumetinib(MEK1/2阻害薬)
どういう治療戦略かは、シグナル伝達系や耐性機序を見ながらの方が整理しやすいので、拙いながらもシェーマを作ったので以下に示しておきます。

今回は毒性を確認し、治療推奨用量を設定するための試験なので、EGFR遺伝子変異を有し、EGFR阻害薬治療後に病勢が進行し、臓器機能やPSが保たれている患者さん全てを対象にしています。患者さんの耐性機序を明らかにしてから、それに符合した併用療法を行った、というわけではないようです。
Grade3以上の高度な毒性は、どの併用療法でもあまり見られていないようです。
一方、効果は以下の図表に示す通りです。
第I相試験はあくまで毒性を確認するための試験なのですが、分子標的薬の領域では、crizotinibの有効性が確認されてからというもの、むしろ効果の面がクローズアップされ、第II相試験でそれを確認して薬事承認に持っていく、という趨勢が主流になってきたように思います。

第II相試験以降では、再生検で耐性機序を明らかにして、それに見合った併用療法を選択する、という図式になるのではないでしょうか。
2015年06月23日
シスプラチン+S1+根治的胸部放射線照射
局所進行非小細胞肺癌に対する最適な治療法は何か。
誰もが納得する標準治療がなかなか定まらない、難しい分野です。
今回のASCO2015では、CDDP+S-1+根治的胸部放射線療法とCDDP+VNR+根治的胸部放射線療法の無作為化第II相臨床試験の結果が報告されました。
Abst.#7512 CDDP+S-1+TRT(CS) vs CDDP+VNR+TRT(CV) for locally advanced NSCLC
主要評価項目:2年全生存割合

効果は同等ですが、毒性はおしなべてCS群の方が軽いようです。
誰もが納得する標準治療がなかなか定まらない、難しい分野です。
今回のASCO2015では、CDDP+S-1+根治的胸部放射線療法とCDDP+VNR+根治的胸部放射線療法の無作為化第II相臨床試験の結果が報告されました。
Abst.#7512 CDDP+S-1+TRT(CS) vs CDDP+VNR+TRT(CV) for locally advanced NSCLC
主要評価項目:2年全生存割合

効果は同等ですが、毒性はおしなべてCS群の方が軽いようです。
2015年06月22日
進行非小細胞肺癌二次もしくは三次治療のアムルビシン単剤療法
先日、肺扁平上皮癌の薬物療法について書いた際に、2014年の欧州臨床腫瘍学会年次総会でアムルビシンの二次もしくは三次化学療法についての第III相臨床試験の結果が報告されているので、勉強するようにとご指摘を頂きました。
かなり昔の話ですが、和歌山県立医大の山本信之先生が、
「アムルビシンは日本で開発された薬だし、きちんと非小細胞肺癌での有効性を評価しておきたい」
とおっしゃって、アムルビシンの二次化学療法の臨床試験の計画について言及されていました。
実際、この発表にも共同演者として名を連ねておられます。
発表の要旨しか手に入りませんでしたが、記録を残します。
ESMO 2014 Abst.1236P - Amrubicin (AMR) versus docetaxel (DTX) as second- or third-line treatment for non-small cell lung cancer (NSCLC): A randomized phase III trial
N. Katakami (Kobe, Japan) , H. Yoshioka (Kurashiki, Japan) , H. Okamoto (Yokohama, Japan) , Y. Iwamoto (Hiroshima, Japan) , T. Seto (Fukuoka, Japan) , T. Takahashi (Shizuoka, Japan) , N. Sunaga (Maebashi, Japan) , S. Kudoh (Osaka, Japan) , K. Chikamori (Ube, Japan) , M. Harada (Sapporo, Japan) , H. Tanaka (Niigata, Japan) , H. Saka (Nagoya, Japan) , K. Takeda (Osaka, Japan) , N. Nogami (Matsuyama, Japan) , N. Masuda (Sagamihara, Japan) , T. Harada (Sapporo, Japan) , N. Yamamoto (Wakayama, Japan) , K. Nakagawa (Osakasayama, Japan)
背景:ドセタキセル単剤化学療法は既治療非小細胞肺癌の標準治療のひとつである。しかし、その有効性は十分とは言えない。非小細胞肺癌に対するアムルビシンの有効性は既に報告されている。そのため、今回我々は大日本住友製薬の協力を得て、既治療非小細胞肺癌に対するアムルビシンとドセタキセルの有効性を比較する無作為化第III相臨床試験を行った。
方法:ECOG-PS 0もしくは1、二次もしくは三次化学療法予定、20歳から74歳の非小細胞肺癌患者を登録対象とした。割付調整因子は組織型、既治療の内容、治療施設とし、1対1の比率で、アムルビシン群(35mg/㎡、day1,2,3に投与、3週間ごと)もしくはドセタキセル群(60mg/㎡、day1に投与、3週間ごと)に割り付けた。各群100人ずつのサンプルサイズで、αエラーは5%、検出力は90%に設定した。アムルビシン群、ドセタキセル群の無増悪生存期間中央値をそれぞれ3.3ヶ月、2.0ヶ月と仮定した。主要評価項目は無増悪生存期間とし、副次評価項目には全生存期間、奏効割合、病勢コントロール割合、有害事象を設定した。
結果:2010年10月から2012年6月までに、32施設から202人の患者が登録された。患者背景は均等に両群に割り付けられた。フォローアップ期間中央値13.5ヶ月の段階で全生存期間の算出を行った。無増悪生存期間中央値はアムルビシン群で3.6ヶ月、ドセタキセル群で3ヶ月(ハザード比 0.96, 95%信頼区間は0.69-1.34, p=0.831)だった。生存期間中央値はアムルビシン群で14.6ヶ月、ドセタキセル群で13.5ヶ月(ハザード比1.02, 95%信頼区間0.72-1.43, p=0.933)だった。奏効割合はアムルビシン群で14.8%、ドセタキセル群で18.8%(p=0.544)だった。病勢コントロール率はアムルビシン群、ドセタキセル群ともに55.7%だった。最も高頻度なGrade 3以上の有害事象は、好中球減少(アムルビシン群82.7%、ドセタキセル群78.8%)、白血球減少(アムルビシン群で63.3%、ドセタキセル群で70.7%)だった。ドセタキセル群で2人の治療関連死が報告され、1人は間質性肺炎、1人は入浴中の溺水だった。
結論:無増悪生存期間についてアムルビシンの優越性は証明できなかったが、今回の試験結果から、既治療非小細胞肺癌の治療選択肢として、アムルビシンの有効性が示唆された。
本当は肺扁平上皮癌に関するサブグループ解析の結果があればなおよいのですが、手に入りませんでした。
結論としてアムルビシンの優越性は証明されず、かといって試験デザインからは非劣性も証明されず、臨床試験の原則から言うと、肺扁平上皮癌の二次治療、非扁平非小細胞肺癌の二次治療以降の標準治療がドセタキセルのまま残った、ということで、アムルビシンはどこにも立ち位置が定まらなかったということになります。しかし、数字だけ見ると、アムルビシンはドセタキセルと遜色ない結果を残しており、実地臨床として扁平上皮癌の三次治療では試してみる価値があるかも知れません。
LUX-Lung 8の結果を踏まえて、アファチニブを先に使うか、アムルビシンを先に使うか、考え方が分かれそうです。
かなり昔の話ですが、和歌山県立医大の山本信之先生が、
「アムルビシンは日本で開発された薬だし、きちんと非小細胞肺癌での有効性を評価しておきたい」
とおっしゃって、アムルビシンの二次化学療法の臨床試験の計画について言及されていました。
実際、この発表にも共同演者として名を連ねておられます。
発表の要旨しか手に入りませんでしたが、記録を残します。
ESMO 2014 Abst.1236P - Amrubicin (AMR) versus docetaxel (DTX) as second- or third-line treatment for non-small cell lung cancer (NSCLC): A randomized phase III trial
N. Katakami (Kobe, Japan) , H. Yoshioka (Kurashiki, Japan) , H. Okamoto (Yokohama, Japan) , Y. Iwamoto (Hiroshima, Japan) , T. Seto (Fukuoka, Japan) , T. Takahashi (Shizuoka, Japan) , N. Sunaga (Maebashi, Japan) , S. Kudoh (Osaka, Japan) , K. Chikamori (Ube, Japan) , M. Harada (Sapporo, Japan) , H. Tanaka (Niigata, Japan) , H. Saka (Nagoya, Japan) , K. Takeda (Osaka, Japan) , N. Nogami (Matsuyama, Japan) , N. Masuda (Sagamihara, Japan) , T. Harada (Sapporo, Japan) , N. Yamamoto (Wakayama, Japan) , K. Nakagawa (Osakasayama, Japan)
背景:ドセタキセル単剤化学療法は既治療非小細胞肺癌の標準治療のひとつである。しかし、その有効性は十分とは言えない。非小細胞肺癌に対するアムルビシンの有効性は既に報告されている。そのため、今回我々は大日本住友製薬の協力を得て、既治療非小細胞肺癌に対するアムルビシンとドセタキセルの有効性を比較する無作為化第III相臨床試験を行った。
方法:ECOG-PS 0もしくは1、二次もしくは三次化学療法予定、20歳から74歳の非小細胞肺癌患者を登録対象とした。割付調整因子は組織型、既治療の内容、治療施設とし、1対1の比率で、アムルビシン群(35mg/㎡、day1,2,3に投与、3週間ごと)もしくはドセタキセル群(60mg/㎡、day1に投与、3週間ごと)に割り付けた。各群100人ずつのサンプルサイズで、αエラーは5%、検出力は90%に設定した。アムルビシン群、ドセタキセル群の無増悪生存期間中央値をそれぞれ3.3ヶ月、2.0ヶ月と仮定した。主要評価項目は無増悪生存期間とし、副次評価項目には全生存期間、奏効割合、病勢コントロール割合、有害事象を設定した。
結果:2010年10月から2012年6月までに、32施設から202人の患者が登録された。患者背景は均等に両群に割り付けられた。フォローアップ期間中央値13.5ヶ月の段階で全生存期間の算出を行った。無増悪生存期間中央値はアムルビシン群で3.6ヶ月、ドセタキセル群で3ヶ月(ハザード比 0.96, 95%信頼区間は0.69-1.34, p=0.831)だった。生存期間中央値はアムルビシン群で14.6ヶ月、ドセタキセル群で13.5ヶ月(ハザード比1.02, 95%信頼区間0.72-1.43, p=0.933)だった。奏効割合はアムルビシン群で14.8%、ドセタキセル群で18.8%(p=0.544)だった。病勢コントロール率はアムルビシン群、ドセタキセル群ともに55.7%だった。最も高頻度なGrade 3以上の有害事象は、好中球減少(アムルビシン群82.7%、ドセタキセル群78.8%)、白血球減少(アムルビシン群で63.3%、ドセタキセル群で70.7%)だった。ドセタキセル群で2人の治療関連死が報告され、1人は間質性肺炎、1人は入浴中の溺水だった。
結論:無増悪生存期間についてアムルビシンの優越性は証明できなかったが、今回の試験結果から、既治療非小細胞肺癌の治療選択肢として、アムルビシンの有効性が示唆された。
本当は肺扁平上皮癌に関するサブグループ解析の結果があればなおよいのですが、手に入りませんでした。
結論としてアムルビシンの優越性は証明されず、かといって試験デザインからは非劣性も証明されず、臨床試験の原則から言うと、肺扁平上皮癌の二次治療、非扁平非小細胞肺癌の二次治療以降の標準治療がドセタキセルのまま残った、ということで、アムルビシンはどこにも立ち位置が定まらなかったということになります。しかし、数字だけ見ると、アムルビシンはドセタキセルと遜色ない結果を残しており、実地臨床として扁平上皮癌の三次治療では試してみる価値があるかも知れません。
LUX-Lung 8の結果を踏まえて、アファチニブを先に使うか、アムルビシンを先に使うか、考え方が分かれそうです。
2015年06月14日
進行肺扁平上皮癌に対するネダプラチン+ドセタキセル併用療法
ASCO2015 Abst.#8004 未治療進行肺扁平上皮癌に対するネダプラチン+ドセタキセル併用化学療法の第III相試験
第II相臨床試験では非常に有望な成績を残した(奏効割合62%、全生存期間中央値16.1ヶ月、無増悪生存期間中央値7.4ヶ月)。
その後、WJOG5208L試験として、第III相臨床試験として運用されていた。
治療対象は、未治療進行肺扁平上皮癌。
標準治療群としてシスプラチン+ドセタキセル併用療法群(CD群)、試験治療群としてネダプラチン+ドセタキセル併用療法群(ND群)を設定。
実質はシスプラチンとネダプラチンの効果を比較する試験といってもよく、プラチナ製剤同士の効果比較を行うという意味ではかなり珍しいセッティング。

以下、CD群、ND群の順にデータを提示。
全生存期間中央値:11.4ヶ月、13.6ヶ月(HR 0.81(0.67-0.98)、p=0.037)

無増悪生存期間中央値:4.5ヶ月、4.9ヶ月(HR 0.83(0.69-1.00)、p=0.05)

奏効割合:53.0%、55.8%
病勢コントロール割合:81.0%、84.9%

血液毒性はND群がやや高度で、血小板減少は有意にND群で多かった(14.9%、42.4%)。

今となってはあまり知られていないかも、ですが、治癒不能非小細胞肺癌に対するプラチナ併用化学療法のエビデンスはあまり確固たるものではありません。
複数のプラチナ併用化学療法を比較したECOG1593試験、FACS試験、いずれの試験においても、どの治療群も非劣勢、優越性のいずれも示せませんでした。
やむを得ず、どの治療も同等だろう、という「みなし標準」治療がまかり通ってきました。
その後開発されたシスプラチン+ペメトレキセド併用療法は「みなし標準」のシスプラチン+ジェムシタビン併用療法との非劣勢が証明され、カルボプラチン+S1併用療法は「みなし標準」のカルボプラチン+パクリタキセル併用療法との非劣勢が証明され、それぞれ標準治療のひとつと位置づけられています。
一方、今回標準治療群とされたシスプラチン+ドセタキセル併用療法は、国内第III相臨床試験でシスプラチン+ビンデシン併用療法に対して優越性が確認された由緒正しい治療レジメンです。
それに対して、今回ネダプラチン+ドセタキセル併用療法の優越性がはっきりと確認されたのは、この分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬隆盛の時代にあっては、珍事といってもいいくらいの出来事です。
以下、今後の治癒不能肺扁平上皮癌の治療体系について私見を述べます。
一次治療の選択肢
・ネダプラチン+ドセタキセル併用化学療法
・カルボプラチン+パクリタキセル併用化学療法
・カルボプラチン+ナブパクリタキセル併用化学療法
・カルボプラチン+S1併用化学療法
・シスプラチン+ジェムシタビン併用化学療法
・シスプラチン+S1併用化学療法
・シスプラチン+ビノレルビン併用化学療法
(・シスプラチン+ジェムシタビン+ネシツムマブ併用化学療法)
二次治療の選択肢
・ドセタキセル単剤化学療法
・エルロチニブ単剤治療
(・アファチニブ単剤治療)
(・ニボルマブ単剤治療)
三次治療の選択肢
・エルロチニブ単剤治療
このうち、現時点でどれかを選べといわれれば、
一次治療:ネダプラチン+ドセタキセル併用化学療法
二次治療:ドセタキセル単剤化学療法
三次治療:エルロチニブ単剤治療(アファチニブでもいいかも)
ですね。
三次治療まで迷わず選べるようになったというのは、今年の大きな収穫です。
ASCOでは「ネダプラチンなんて薬、聞いたこともないし、今回の結果を受けても標準治療は変わらない」と冷たい評価だったようですが、まあそれはそれとしてひとつの海外からの評価として受け止めておきましょう。
第II相臨床試験では非常に有望な成績を残した(奏効割合62%、全生存期間中央値16.1ヶ月、無増悪生存期間中央値7.4ヶ月)。
その後、WJOG5208L試験として、第III相臨床試験として運用されていた。
治療対象は、未治療進行肺扁平上皮癌。
標準治療群としてシスプラチン+ドセタキセル併用療法群(CD群)、試験治療群としてネダプラチン+ドセタキセル併用療法群(ND群)を設定。
実質はシスプラチンとネダプラチンの効果を比較する試験といってもよく、プラチナ製剤同士の効果比較を行うという意味ではかなり珍しいセッティング。

以下、CD群、ND群の順にデータを提示。
全生存期間中央値:11.4ヶ月、13.6ヶ月(HR 0.81(0.67-0.98)、p=0.037)

無増悪生存期間中央値:4.5ヶ月、4.9ヶ月(HR 0.83(0.69-1.00)、p=0.05)

奏効割合:53.0%、55.8%
病勢コントロール割合:81.0%、84.9%

血液毒性はND群がやや高度で、血小板減少は有意にND群で多かった(14.9%、42.4%)。

今となってはあまり知られていないかも、ですが、治癒不能非小細胞肺癌に対するプラチナ併用化学療法のエビデンスはあまり確固たるものではありません。
複数のプラチナ併用化学療法を比較したECOG1593試験、FACS試験、いずれの試験においても、どの治療群も非劣勢、優越性のいずれも示せませんでした。
やむを得ず、どの治療も同等だろう、という「みなし標準」治療がまかり通ってきました。
その後開発されたシスプラチン+ペメトレキセド併用療法は「みなし標準」のシスプラチン+ジェムシタビン併用療法との非劣勢が証明され、カルボプラチン+S1併用療法は「みなし標準」のカルボプラチン+パクリタキセル併用療法との非劣勢が証明され、それぞれ標準治療のひとつと位置づけられています。
一方、今回標準治療群とされたシスプラチン+ドセタキセル併用療法は、国内第III相臨床試験でシスプラチン+ビンデシン併用療法に対して優越性が確認された由緒正しい治療レジメンです。
それに対して、今回ネダプラチン+ドセタキセル併用療法の優越性がはっきりと確認されたのは、この分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬隆盛の時代にあっては、珍事といってもいいくらいの出来事です。
以下、今後の治癒不能肺扁平上皮癌の治療体系について私見を述べます。
一次治療の選択肢
・ネダプラチン+ドセタキセル併用化学療法
・カルボプラチン+パクリタキセル併用化学療法
・カルボプラチン+ナブパクリタキセル併用化学療法
・カルボプラチン+S1併用化学療法
・シスプラチン+ジェムシタビン併用化学療法
・シスプラチン+S1併用化学療法
・シスプラチン+ビノレルビン併用化学療法
(・シスプラチン+ジェムシタビン+ネシツムマブ併用化学療法)
二次治療の選択肢
・ドセタキセル単剤化学療法
・エルロチニブ単剤治療
(・アファチニブ単剤治療)
(・ニボルマブ単剤治療)
三次治療の選択肢
・エルロチニブ単剤治療
このうち、現時点でどれかを選べといわれれば、
一次治療:ネダプラチン+ドセタキセル併用化学療法
二次治療:ドセタキセル単剤化学療法
三次治療:エルロチニブ単剤治療(アファチニブでもいいかも)
ですね。
三次治療まで迷わず選べるようになったというのは、今年の大きな収穫です。
ASCOでは「ネダプラチンなんて薬、聞いたこともないし、今回の結果を受けても標準治療は変わらない」と冷たい評価だったようですが、まあそれはそれとしてひとつの海外からの評価として受け止めておきましょう。
2015年06月13日
進行肺扁平上皮癌二次治療でのEGFR阻害薬
ASCO2015 Abst.#8002 進行肺扁平上皮癌の二次治療におけるafatinib、erlotinibの無作為化比較第III相試験(LUX-Lung 8試験)
日本で実地臨床に携わっている立場からするとちょっと違和感を覚える臨床試験。
世界的には、EGFR遺伝子変異の有無を問わずerlotinibは進行非小細胞肺癌の二次、三次治療として標準治療のひとつと認識されている。
今回の治療対象は、EGFR遺伝子変異については規定されていない。
このセッティングで、これだけの大規模臨床試験をやるんかい、というくらい意外な臨床試験。

以下、afatinib群、erlotinib群の順にデータ提示。
生存期間中央値:7.9ヶ月、6.8ヶ月(HR 0.81(0.68-0.95)、p=0.0077)


無増悪生存期間中央値:2.6ヶ月、1.9ヶ月(HR 0.81(0.69-0.96)、p=0.0103)

奏効割合:5.5%、2.8%
病勢コントロール割合:50.5%、39.5%

毒性はafatinibの方がきつそう。

・・・扁平上皮癌の治療体系が大きく変わってしまいそうだ。
日本で実地臨床に携わっている立場からするとちょっと違和感を覚える臨床試験。
世界的には、EGFR遺伝子変異の有無を問わずerlotinibは進行非小細胞肺癌の二次、三次治療として標準治療のひとつと認識されている。
今回の治療対象は、EGFR遺伝子変異については規定されていない。
このセッティングで、これだけの大規模臨床試験をやるんかい、というくらい意外な臨床試験。

以下、afatinib群、erlotinib群の順にデータ提示。
生存期間中央値:7.9ヶ月、6.8ヶ月(HR 0.81(0.68-0.95)、p=0.0077)


無増悪生存期間中央値:2.6ヶ月、1.9ヶ月(HR 0.81(0.69-0.96)、p=0.0103)

奏効割合:5.5%、2.8%
病勢コントロール割合:50.5%、39.5%

毒性はafatinibの方がきつそう。

・・・扁平上皮癌の治療体系が大きく変わってしまいそうだ。
2015年06月13日
前治療歴を有するT790M陽性進行非小細胞肺癌に対するCO1686(rociletinib)
ASCO2015 Abst.#8001 前治療歴を有するEGFR遺伝子変異および耐性変異(Exon 20 T790M)陽性進行非小細胞肺癌に対するCO1686(rociletinib)の第II相試験
脳転移を有する患者も対象とした。
奏効割合は53%。
推奨用量の500mg/日群では奏効割合60%、病勢コントロール割合は90%。

無増悪生存期間中央値は8.0ヶ月、脳転移のない患者に限ると10.3ヶ月。

毒性は下痢、嘔気、倦怠感、筋痙攣、食欲不振など見られるが、特徴的なのは高血糖で全体の35%、500mg/日群では17%に認めた。

組織検体でT790M陽性と判定された患者をリキッド・バイオプシーでT790M陽性と判定できたのは81%。
組織検体でEGFR遺伝子変異陽性と判定された患者をリキッド・バイオプシーでEGFR遺伝子変異陽性と判定できたのは87%。
組織検体でT790M陰性と判定された患者をリキッド・バイオプシーでT790M陽性と判定したのは66%。
組織検体で評価不能と判定された患者をリキッド・バイオプシーでT790M陽性と判定したのは60%。

組織検体とリキッド・バイオプシー両方でT790M陽性と判定された患者の奏効割合は55%。
組織検体でT790M陽性と判定された患者全体の奏効割合は53%。
リキッド・バイオプシーでT790M陽性と判定された患者全体の奏効割合は53%。

組織検体でT790M陰性と判定された患者の奏効割合は37%。

感想は3つ。
今回採用されたリキッド・バイオプシーの検査系、BEAMing法(Sysmex社)は優秀そうで実地臨床に耐えうるレベル。
T790M陰性でも37%と抗がん薬治療を凌駕する奏効割合が得られており、未治療患者やT790M陰性患者でも十分治療対象になりうる。
肺癌診療に携わる医師は、糖尿病の対応くらいできないと治療する資格がない。
最近は糖尿病の薬もいろいろと新しいものが出てきていますので、この機会に学習しなければ。
脳転移を有する患者も対象とした。
奏効割合は53%。
推奨用量の500mg/日群では奏効割合60%、病勢コントロール割合は90%。

無増悪生存期間中央値は8.0ヶ月、脳転移のない患者に限ると10.3ヶ月。

毒性は下痢、嘔気、倦怠感、筋痙攣、食欲不振など見られるが、特徴的なのは高血糖で全体の35%、500mg/日群では17%に認めた。

組織検体でT790M陽性と判定された患者をリキッド・バイオプシーでT790M陽性と判定できたのは81%。
組織検体でEGFR遺伝子変異陽性と判定された患者をリキッド・バイオプシーでEGFR遺伝子変異陽性と判定できたのは87%。
組織検体でT790M陰性と判定された患者をリキッド・バイオプシーでT790M陽性と判定したのは66%。
組織検体で評価不能と判定された患者をリキッド・バイオプシーでT790M陽性と判定したのは60%。

組織検体とリキッド・バイオプシー両方でT790M陽性と判定された患者の奏効割合は55%。
組織検体でT790M陽性と判定された患者全体の奏効割合は53%。
リキッド・バイオプシーでT790M陽性と判定された患者全体の奏効割合は53%。

組織検体でT790M陰性と判定された患者の奏効割合は37%。

感想は3つ。
今回採用されたリキッド・バイオプシーの検査系、BEAMing法(Sysmex社)は優秀そうで実地臨床に耐えうるレベル。
T790M陰性でも37%と抗がん薬治療を凌駕する奏効割合が得られており、未治療患者やT790M陰性患者でも十分治療対象になりうる。
肺癌診療に携わる医師は、糖尿病の対応くらいできないと治療する資格がない。
最近は糖尿病の薬もいろいろと新しいものが出てきていますので、この機会に学習しなければ。
2015年06月13日
未治療EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌に対するAZD9291
ASCO2015 Abst.#8000 AURA study(第I相試験)
今回は未治療患者を対象としたコホートについて報告。
用量は80mg/日と160mg/日の2群。
間質性肺炎合併例や症候性脳転移は除外。
以下、80mg群、160mg群、両群併せたデータの順にデータ提示。
奏効割合:63%、83%、73%
病勢コントロール割合:93%、100%、97%
1年無増悪生存割合:73%、データなし(9ヶ月追跡時点で80%が無増悪生存)、72%

毒性はおしなべて軽め。

現在、未治療EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌患者を対象としたFLAURA試験が進行中。

AZD9291群とイレッサ/タルセバ群で無作為化比較。
これでAZD9291が勝ってしまったら、イレッサ/タルセバは実地臨床から消え去ってしまうかも・・・。
今回は未治療患者を対象としたコホートについて報告。
用量は80mg/日と160mg/日の2群。
間質性肺炎合併例や症候性脳転移は除外。
以下、80mg群、160mg群、両群併せたデータの順にデータ提示。
奏効割合:63%、83%、73%
病勢コントロール割合:93%、100%、97%
1年無増悪生存割合:73%、データなし(9ヶ月追跡時点で80%が無増悪生存)、72%

毒性はおしなべて軽め。

現在、未治療EGFR遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌患者を対象としたFLAURA試験が進行中。

AZD9291群とイレッサ/タルセバ群で無作為化比較。
これでAZD9291が勝ってしまったら、イレッサ/タルセバは実地臨床から消え去ってしまうかも・・・。
2015年06月13日
進行小細胞肺癌とニボルマブ+イピリムマブ併用療法
ASCO2015 Abst.#7503 CHECKMATE-032試験
一次治療でのプラチナ併用化学療法を含む前治療歴を1レジメン以上有する進行小細胞肺癌患者が対象。
ニボルマブ単剤化学療法群と、異なる用量でのニボルマブ+イピリムマブ併用療法(三群)の四群並列の第I/II相試験。
併用療法は、最大4コースまで。
どの治療群も4コース終了後はニボルマブ単剤療法に移行する。

以下、ニボルマブ群、ニボルマブ+イピリムマブ群の順にデータ提示。
奏効割合(主要評価項目):18%、17%
完全奏効割合:0%、2.2%
病勢コントロール割合:38%、54%
全生存期間中央値:4.4ヶ月、8.2ヶ月
効果はPD-L1発現状態とあまり変わらなかった。




毒性はおしなべて併用療法の方が強かった。

PD-L1の発現状態を確認できたのは参加90人中40人のみであり、これだけでPD-L1が効果予測因子として利用できないと断じることはできない気がする。
次の臨床試験では、PD-L1発現状態の確認を必須として、ペンブロリズマブとの比較検討ができるようにしてほしい。
一次治療でのプラチナ併用化学療法を含む前治療歴を1レジメン以上有する進行小細胞肺癌患者が対象。
ニボルマブ単剤化学療法群と、異なる用量でのニボルマブ+イピリムマブ併用療法(三群)の四群並列の第I/II相試験。
併用療法は、最大4コースまで。
どの治療群も4コース終了後はニボルマブ単剤療法に移行する。

以下、ニボルマブ群、ニボルマブ+イピリムマブ群の順にデータ提示。
奏効割合(主要評価項目):18%、17%
完全奏効割合:0%、2.2%
病勢コントロール割合:38%、54%
全生存期間中央値:4.4ヶ月、8.2ヶ月
効果はPD-L1発現状態とあまり変わらなかった。




毒性はおしなべて併用療法の方が強かった。

PD-L1の発現状態を確認できたのは参加90人中40人のみであり、これだけでPD-L1が効果予測因子として利用できないと断じることはできない気がする。
次の臨床試験では、PD-L1発現状態の確認を必須として、ペンブロリズマブとの比較検討ができるようにしてほしい。
2015年06月13日
進行小細胞肺癌とPembrolizumab
ASCO2015 Abst.#7502 KEYNOTE-028試験
種々の固形がん患者を対象とした第Ib相試験のうち、進行小細胞肺癌患者に関する解析。
標準治療施行後に病勢進行に至った進行小細胞肺癌患者が対象。

自己免疫疾患や間質性肺炎を合併している患者は除外。
Pembrolizumabを10mg/kg、2週間に1回投与。
登録された対象者は計157人。
腫瘍のPD-L1発現状態についてスクリーニングを受けたのが147人。
PD-L1陽性だったのが42人(28.6%)。
実際にPembrolizumabの投与を受けたのは20人。
そのうち部分奏効にいたったのが7人で、奏効割合は35%。
部分奏効7人のうち、6人は解析時点でも効果が持続しており、治療継続中。


PD-L1陽性者に限られるものの、標準治療施行後の治療成績としては有望。
種々の固形がん患者を対象とした第Ib相試験のうち、進行小細胞肺癌患者に関する解析。
標準治療施行後に病勢進行に至った進行小細胞肺癌患者が対象。

自己免疫疾患や間質性肺炎を合併している患者は除外。
Pembrolizumabを10mg/kg、2週間に1回投与。
登録された対象者は計157人。
腫瘍のPD-L1発現状態についてスクリーニングを受けたのが147人。
PD-L1陽性だったのが42人(28.6%)。
実際にPembrolizumabの投与を受けたのは20人。
そのうち部分奏効にいたったのが7人で、奏効割合は35%。
部分奏効7人のうち、6人は解析時点でも効果が持続しており、治療継続中。


PD-L1陽性者に限られるものの、標準治療施行後の治療成績としては有望。
2015年06月13日
悪性胸膜中皮腫とベバシツマブ
ASCO 2015 Abst.#7500
未治療進行悪性胸膜中皮腫に対するシスプラチン+ペメトレキセド併用療法へのベバシツマブ上乗せ効果を検証する第III相試験(IFCT-GFPC-0701試験)
コントロール群:シスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法(n=224)
試験治療群:シスプラチン+ペメトレキセド+ベバシツマブ併用化学療法→ベバシツマブ維持療法(n=222)

全生存期間
コントロール群 16.07ヶ月
試験治療群 18.82ヶ月
p=0.0127
HR=0.76(0.61-0.94)

無増悪生存期間
コントロール群 7.48ヶ月
試験治療群 9.59ヶ月
p<0.0001
HR 0.61(0.50-0.75)

毒性
なぜかコントロール群で有意に貧血が多かった

血清クレアチニン上昇、高血圧、血栓塞栓症、出血性合併症は予想通りベバシツマブ併用群で有意に多かった。

どうみても圧倒的に試験治療群が優位で、禁忌でない限りは今後シスプラチン+ペメトレキセド+アバスチンが標準治療
患者数の少なさから考えると、国内第II相試験で検証するのは現実的でない気がする
未治療進行悪性胸膜中皮腫に対するシスプラチン+ペメトレキセド併用療法へのベバシツマブ上乗せ効果を検証する第III相試験(IFCT-GFPC-0701試験)
コントロール群:シスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法(n=224)
試験治療群:シスプラチン+ペメトレキセド+ベバシツマブ併用化学療法→ベバシツマブ維持療法(n=222)

全生存期間
コントロール群 16.07ヶ月
試験治療群 18.82ヶ月
p=0.0127
HR=0.76(0.61-0.94)

無増悪生存期間
コントロール群 7.48ヶ月
試験治療群 9.59ヶ月
p<0.0001
HR 0.61(0.50-0.75)

毒性
なぜかコントロール群で有意に貧血が多かった

血清クレアチニン上昇、高血圧、血栓塞栓症、出血性合併症は予想通りベバシツマブ併用群で有意に多かった。

どうみても圧倒的に試験治療群が優位で、禁忌でない限りは今後シスプラチン+ペメトレキセド+アバスチンが標準治療
患者数の少なさから考えると、国内第II相試験で検証するのは現実的でない気がする
2015年06月13日
EGFR遺伝子変異陽性肺癌の治療戦略
・最近は、Evidence Baced Medicineやテーラーメイド医療という言葉があまり使われなくなってきた。
・考えてみれば、根拠に基づいた治療、個々の患者さんに合わせた医療を行うのは当たり前のことで、とりたてて声高に叫ぶものではない。
・Precision Medicineという言葉が、代わってよく使われるようになったが、あえて訳すなら「高精度医療」というところだろうか。
・ジェローム・グループマンという方の、「医者は現場でどう考えるか」(石風社、2011年)という本を読んだ。
・マニュアルばかりを見て、自分の頭で考えようとしない医師が増えた、とかいてあった。
・今年度のASCOは、ほとんど免疫チェックポイント阻害薬の話題一色で、分子標的薬や抗がん薬の話題はほとんど脇に追いやられていた。
・一方で、医療にかかるコストの話題もあちこちで真剣に討議されていた。
・nivolumabやpembrolizumabの治療では、1コースの治療で数百万円、これを続けていくと年間で1億円を超える薬価が一人の患者さんに必要になる。
・米国では、1年間に150万人が破産しているが、ほとんどが中産階級の人たちで、がん治療などにかかる医療費で生活が破綻している。
・Value based Medicine(=治療により得られる利益÷(治療にかかる費用+有害事象))という見方も必要。
・医療が持続不能(unsastainable)なくらいに医療費が高くなると、経済に刺激を与えて費用を捻出するために戦争が起こる(戦争を起こす)ような事態に陥りかねない。
・CheckMate057試験では、進行肺扁平上皮癌に対する二次治療としてnivolumabとdocetaxelを比較し、生存期間中央値12.2ヶ月vs9.4ヶ月と有意にnivolumabが優れる結果だった。
・この試験結果を受けてFDAに薬事申請が行われ、翌日には承認されるというスピード承認だった。
・一方、EGFR遺伝子変異陽性の患者さんには、あまりnivolumabは有効でなさそうだった。
・肺扁平上皮癌は喫煙などの刺激を受けた多段階発癌の機序が関わっているとされるので、nivolumabはさまざまな遺伝子変異が関与する多段階発癌の癌種に有効なのかもしれない。
・世界的に見ると、進行非小細胞肺癌患者さんの20%は、EGFR遺伝子変異の検索を受けていない(Spicer et al, ELCC 2015)
・EGFR遺伝子変異要請肺癌患者さんに対するEGFR阻害薬は、臨床試験のデザイン上全生存期間を延長する効果はあまり示されていないが、その代替エンドポイントである無増悪生存期間は一貫して改善しており、QoLも改善している。
・EGFR阻害薬は以下の三種類に分類される。
→第一世代:可逆的EGFR阻害薬(gefitinib, erlotinib)
→第二世代:非可逆的ErbB family(EGFRとその類縁膜蛋白をまとめて阻害)阻害薬(afatinib, dacomitinib, neratinib)
→第三世代:耐性変異(Exon 20 T790M)選択的EGFR阻害薬(CO1686, AZD9291)
・LUX-Lung3はEGFR遺伝子変異陽性患者さんを対象に、一次治療のafatinibとシスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法を比較した試験
・そもそも、シスプラチン+ペメトレキセド併用療法は、原発性肺腺癌に対しては最強とされる化学療法
・LUX-Lung3試験では、afatinibがシスプラチン+ペメトレキセドに対して優越性を証明した。
・LUX-Lung3試験における無増悪生存期間は、Afatinib群でExon 19変異だった人で13.7ヶ月、Afatinib群でExon 21変異だった人で10.8ヶ月、シスプラチン+ペメトレキセド群でExon 19変異だった人で5.6ヶ月、シスプラチン+ペメトレキセド群でExon 21変異だった人で8.1ヶ月だった。
・さらに、日本人だけを解析(n=50人)すると無増悪生存期間は、Afatinib群でExon 19変異だった人で16.4ヶ月、Afatinib群でExon 21変異だった人で13.7ヶ月、シスプラチン+ペメトレキセド群でExon 19変異だった人で3.1ヶ月、シスプラチン+ペメトレキセド群でExon 21変異だった人で8.3ヶ月だった。
・LUX-Lung3と6を統合解析したところ、無増悪生存期間はAfatinib>シスプラチン+ペメトレキセド>シスプラチン+ジェムシタビンの順で良好だった。
・同様に、全生存期間はAfatinibが化学療法全般(シスプラチン+ペメトレキセド / シスプラチン+ジェムシタビン)より良好だった。
・afatinibは毒性が強いとされるが、毒性に応じて早期に減量していくと忍容性が得られ、20mg/日程度の用量なら継続可能である。
・afatinibの減量に関する発表も今回のASCOで行われていた(Abst.#8073, James Yang, et al)
・afatinib開始後1週間で下痢、2週間で発疹、6-8週間で爪周囲炎、それ以後は乾皮症が発現し、マネジメントが必要になる。
・下痢のマネジメントはASCOからガイドラインが出されていて参考になる。
EGFR遺伝子変異、Exon 19か21かで、化学療法の感受性も異なっているような印象がありますね。
EGFR阻害薬と化学療法を併用するNEJ009のような治療だと、この辺の薬剤感受性の違いが平均化されるかも知れませんね。
Exon 19と21を区別して治療戦略を立てることが、今後のPrecision Medicineにつながっていくような予感があります。
・考えてみれば、根拠に基づいた治療、個々の患者さんに合わせた医療を行うのは当たり前のことで、とりたてて声高に叫ぶものではない。
・Precision Medicineという言葉が、代わってよく使われるようになったが、あえて訳すなら「高精度医療」というところだろうか。
・ジェローム・グループマンという方の、「医者は現場でどう考えるか」(石風社、2011年)という本を読んだ。
・マニュアルばかりを見て、自分の頭で考えようとしない医師が増えた、とかいてあった。
・今年度のASCOは、ほとんど免疫チェックポイント阻害薬の話題一色で、分子標的薬や抗がん薬の話題はほとんど脇に追いやられていた。
・一方で、医療にかかるコストの話題もあちこちで真剣に討議されていた。
・nivolumabやpembrolizumabの治療では、1コースの治療で数百万円、これを続けていくと年間で1億円を超える薬価が一人の患者さんに必要になる。
・米国では、1年間に150万人が破産しているが、ほとんどが中産階級の人たちで、がん治療などにかかる医療費で生活が破綻している。
・Value based Medicine(=治療により得られる利益÷(治療にかかる費用+有害事象))という見方も必要。
・医療が持続不能(unsastainable)なくらいに医療費が高くなると、経済に刺激を与えて費用を捻出するために戦争が起こる(戦争を起こす)ような事態に陥りかねない。
・CheckMate057試験では、進行肺扁平上皮癌に対する二次治療としてnivolumabとdocetaxelを比較し、生存期間中央値12.2ヶ月vs9.4ヶ月と有意にnivolumabが優れる結果だった。
・この試験結果を受けてFDAに薬事申請が行われ、翌日には承認されるというスピード承認だった。
・一方、EGFR遺伝子変異陽性の患者さんには、あまりnivolumabは有効でなさそうだった。
・肺扁平上皮癌は喫煙などの刺激を受けた多段階発癌の機序が関わっているとされるので、nivolumabはさまざまな遺伝子変異が関与する多段階発癌の癌種に有効なのかもしれない。
・世界的に見ると、進行非小細胞肺癌患者さんの20%は、EGFR遺伝子変異の検索を受けていない(Spicer et al, ELCC 2015)
・EGFR遺伝子変異要請肺癌患者さんに対するEGFR阻害薬は、臨床試験のデザイン上全生存期間を延長する効果はあまり示されていないが、その代替エンドポイントである無増悪生存期間は一貫して改善しており、QoLも改善している。
・EGFR阻害薬は以下の三種類に分類される。
→第一世代:可逆的EGFR阻害薬(gefitinib, erlotinib)
→第二世代:非可逆的ErbB family(EGFRとその類縁膜蛋白をまとめて阻害)阻害薬(afatinib, dacomitinib, neratinib)
→第三世代:耐性変異(Exon 20 T790M)選択的EGFR阻害薬(CO1686, AZD9291)
・LUX-Lung3はEGFR遺伝子変異陽性患者さんを対象に、一次治療のafatinibとシスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法を比較した試験
・そもそも、シスプラチン+ペメトレキセド併用療法は、原発性肺腺癌に対しては最強とされる化学療法
・LUX-Lung3試験では、afatinibがシスプラチン+ペメトレキセドに対して優越性を証明した。
・LUX-Lung3試験における無増悪生存期間は、Afatinib群でExon 19変異だった人で13.7ヶ月、Afatinib群でExon 21変異だった人で10.8ヶ月、シスプラチン+ペメトレキセド群でExon 19変異だった人で5.6ヶ月、シスプラチン+ペメトレキセド群でExon 21変異だった人で8.1ヶ月だった。
・さらに、日本人だけを解析(n=50人)すると無増悪生存期間は、Afatinib群でExon 19変異だった人で16.4ヶ月、Afatinib群でExon 21変異だった人で13.7ヶ月、シスプラチン+ペメトレキセド群でExon 19変異だった人で3.1ヶ月、シスプラチン+ペメトレキセド群でExon 21変異だった人で8.3ヶ月だった。
・LUX-Lung3と6を統合解析したところ、無増悪生存期間はAfatinib>シスプラチン+ペメトレキセド>シスプラチン+ジェムシタビンの順で良好だった。
・同様に、全生存期間はAfatinibが化学療法全般(シスプラチン+ペメトレキセド / シスプラチン+ジェムシタビン)より良好だった。
・afatinibは毒性が強いとされるが、毒性に応じて早期に減量していくと忍容性が得られ、20mg/日程度の用量なら継続可能である。
・afatinibの減量に関する発表も今回のASCOで行われていた(Abst.#8073, James Yang, et al)
・afatinib開始後1週間で下痢、2週間で発疹、6-8週間で爪周囲炎、それ以後は乾皮症が発現し、マネジメントが必要になる。
・下痢のマネジメントはASCOからガイドラインが出されていて参考になる。
EGFR遺伝子変異、Exon 19か21かで、化学療法の感受性も異なっているような印象がありますね。
EGFR阻害薬と化学療法を併用するNEJ009のような治療だと、この辺の薬剤感受性の違いが平均化されるかも知れませんね。
Exon 19と21を区別して治療戦略を立てることが、今後のPrecision Medicineにつながっていくような予感があります。
2015年06月11日
肺癌の新しい病理分類(WHO分類2015)のポイントbyがん研Dr石川
肺癌の病理分類に関するルールブック、WHO分類2015がこの3月に刊行されました。
11年ぶりの改訂であり、私も本そのものはアマゾンから購入しましたが(学会場で買うより5000円くらい安かった)、恥ずかしながらまだ子細に中身を見ていません。
日本呼吸器内視鏡学会総会の教育講演で、以前神経内分泌腫瘍に関する班会議活動の際にお世話になったがん研究所有明病院の石川雄一先生が講演されていたので、拝聴してきました。
以下、その備忘録です。
・4大組織型の定義が変わった!
→腺癌、扁平上皮癌、神経内分泌腫瘍、大細胞癌となり、4大組織型から小細胞癌がなくなった!・・・ように見える。
→神経内分泌腫瘍には、小細胞癌、大細胞神経内分泌癌、カルチノイド、DIPNECHが含まれる。
→もはや「非小細胞肺癌」という呼称は時代遅れになってしまった。
・腺癌:「浸潤」に関する定義が変わった。
→細気管支肺胞上皮癌(Bronchiolo-Alveolar carcinoma, BAC)の呼称を廃止した。
→浸潤度によって、Adenocarcinoma in situ(AIS) / minimally invasive Adenocarcinoa(MIA) / invasive Adenocarcinomaと再定義した。
→浸潤径(invasive size)は病巣全体からlepidic growthの部分を除いたものの直径を当てる。
→異型腺腫様過形成(AAH)は異型細胞同士の間隔がかなり空いている。
→AISでは異型細胞同士の間隔が密になっている。
→免疫染色ではTTF-1, Napsin Aを用いる。
・扁平上皮癌は核化型、非核化型、基底細胞様、Squamous cell carcinoma in situと分類される。
・p40が重要な免疫染色のマーカーで、p63同様に基底細胞のマーカーであり、他にCK 5 / 6、CK34βE12がある。
11年ぶりの改訂であり、私も本そのものはアマゾンから購入しましたが(学会場で買うより5000円くらい安かった)、恥ずかしながらまだ子細に中身を見ていません。
日本呼吸器内視鏡学会総会の教育講演で、以前神経内分泌腫瘍に関する班会議活動の際にお世話になったがん研究所有明病院の石川雄一先生が講演されていたので、拝聴してきました。
以下、その備忘録です。
・4大組織型の定義が変わった!
→腺癌、扁平上皮癌、神経内分泌腫瘍、大細胞癌となり、4大組織型から小細胞癌がなくなった!・・・ように見える。
→神経内分泌腫瘍には、小細胞癌、大細胞神経内分泌癌、カルチノイド、DIPNECHが含まれる。
→もはや「非小細胞肺癌」という呼称は時代遅れになってしまった。
・腺癌:「浸潤」に関する定義が変わった。
→細気管支肺胞上皮癌(Bronchiolo-Alveolar carcinoma, BAC)の呼称を廃止した。
→浸潤度によって、Adenocarcinoma in situ(AIS) / minimally invasive Adenocarcinoa(MIA) / invasive Adenocarcinomaと再定義した。
→浸潤径(invasive size)は病巣全体からlepidic growthの部分を除いたものの直径を当てる。
→異型腺腫様過形成(AAH)は異型細胞同士の間隔がかなり空いている。
→AISでは異型細胞同士の間隔が密になっている。
→免疫染色ではTTF-1, Napsin Aを用いる。
・扁平上皮癌は核化型、非核化型、基底細胞様、Squamous cell carcinoma in situと分類される。
・p40が重要な免疫染色のマーカーで、p63同様に基底細胞のマーカーであり、他にCK 5 / 6、CK34βE12がある。
2015年06月11日
再生検の話題
今回の日本呼吸器内視鏡学会総会では、「再生検 / re-biopsy」についてもしばしば取り上げられています。
印象的だったお話を以下に取り上げます。
1)肺癌薬物療法の進歩と呼吸器内視鏡によるRe-biopsyの役割 - 国立がん研究センターの桐田圭輔先生より
・国立がん研究センター中央病院で2013年1月から2014年12月までに、呼吸器内視鏡を用いてがん薬物療法増悪後に再生検を行ったIV期、再発非小細胞肺癌患者さん計75人を対象とし、解析した。
・年齢中央値64歳、女性59%、ブリンクマン指数<200(=非喫煙 / 軽喫煙者)、腺癌89%と、一般的な非小細胞肺癌患者さんの臨床背景よりドライバー遺伝子変異を有する可能性が高い人が対象となっていた。
・検査はガイドシース併用超音波ガイド下経気管支肺生検が52人、超音波ガイド下経気管支リンパ節生検が18人、局所麻酔下胸腔鏡下生検が5人で、それぞれ83%、100%、100%で悪性細胞を採取できた(病理学的診断がついた)=全体の病理診断率は88%だった。
・組織型別のうちわけは、腺癌67人、扁平上皮癌6人、腺扁平上皮癌2人だった。
・EGFR遺伝子変異は49人(65.3%)にもともと認められており、変異型別に見るとEx.19del / Ex.21L858R / minor mutation=30 / 18 / 1だった。
・Ex.19del(+) and Ex.20 T790M(+) / Ex.19del(+) and Ex.20 T790M(-) = 13 / 8
・Ex.21(+) and Ex.10 T790M(+) / Ex.21(+) and Ex.10 T790M(-)=5 / 7
・小細胞癌に形質転換した患者さんが1人いた
・ALK陽性が認められた患者さんが2人いた
・その他のrare genetic mutationが認められた患者さんが2人いた。
→もともとEGFR遺伝子変異を有していた49人中23人で、なんらかの二次的変化が見られた。
→49人中2人はALK陽性が新たに発覚し、EGFR遺伝子変異とALK再構成は必ず相互排他的、というわけでもなさそう。
4%とはいえ、もともとEGFR遺伝子変異陽性だった肺癌患者さんに、治療後二次的にALK再構成が出現するのは、ちょっとした驚きです。
頻度的には、Ex.20 T790Mよりも遥かに少ないですが、もともとEGFR遺伝子変異陽性だったからといって再生検時に相互排他的とされているALK他の遺伝子変異を見合わせてよい、ということにはならなさそうです。
印象的だったお話を以下に取り上げます。
1)肺癌薬物療法の進歩と呼吸器内視鏡によるRe-biopsyの役割 - 国立がん研究センターの桐田圭輔先生より
・国立がん研究センター中央病院で2013年1月から2014年12月までに、呼吸器内視鏡を用いてがん薬物療法増悪後に再生検を行ったIV期、再発非小細胞肺癌患者さん計75人を対象とし、解析した。
・年齢中央値64歳、女性59%、ブリンクマン指数<200(=非喫煙 / 軽喫煙者)、腺癌89%と、一般的な非小細胞肺癌患者さんの臨床背景よりドライバー遺伝子変異を有する可能性が高い人が対象となっていた。
・検査はガイドシース併用超音波ガイド下経気管支肺生検が52人、超音波ガイド下経気管支リンパ節生検が18人、局所麻酔下胸腔鏡下生検が5人で、それぞれ83%、100%、100%で悪性細胞を採取できた(病理学的診断がついた)=全体の病理診断率は88%だった。
・組織型別のうちわけは、腺癌67人、扁平上皮癌6人、腺扁平上皮癌2人だった。
・EGFR遺伝子変異は49人(65.3%)にもともと認められており、変異型別に見るとEx.19del / Ex.21L858R / minor mutation=30 / 18 / 1だった。
・Ex.19del(+) and Ex.20 T790M(+) / Ex.19del(+) and Ex.20 T790M(-) = 13 / 8
・Ex.21(+) and Ex.10 T790M(+) / Ex.21(+) and Ex.10 T790M(-)=5 / 7
・小細胞癌に形質転換した患者さんが1人いた
・ALK陽性が認められた患者さんが2人いた
・その他のrare genetic mutationが認められた患者さんが2人いた。
→もともとEGFR遺伝子変異を有していた49人中23人で、なんらかの二次的変化が見られた。
→49人中2人はALK陽性が新たに発覚し、EGFR遺伝子変異とALK再構成は必ず相互排他的、というわけでもなさそう。
4%とはいえ、もともとEGFR遺伝子変異陽性だった肺癌患者さんに、治療後二次的にALK再構成が出現するのは、ちょっとした驚きです。
頻度的には、Ex.20 T790Mよりも遥かに少ないですが、もともとEGFR遺伝子変異陽性だったからといって再生検時に相互排他的とされているALK他の遺伝子変異を見合わせてよい、ということにはならなさそうです。
2015年06月11日
ALK肺がんの最近の話題byがん研Dr西尾
日本呼吸器内視鏡学会総会1日目、ランチョンセミナーで、がん研究所有明病院の西尾誠人先生のお話をうかがってきました。
中外製薬主催の会で、最近のALK肺がんの話題というテーマだったので、アレクチニブ寄りのお話でしたが、以下備忘録です。
・ALK肺がん治療薬の嚆矢はクリゾチニブ
・PROFILE1007試験-化学療法歴を有するALK陽性肺がんに対するクリゾチニブの有効性を確認。
→無増悪生存期間中央値は7.7ヶ月
・PROFILE1014試験-化学療法歴のないALK陽性肺がんに対するクリゾチニブの有効性を確認。
→無増悪生存期間中央値は10.9ヶ月
・クリゾチニブに関連した主な有害事象は視覚障害59%、下痢53%、悪心52%、嘔吐44%
・クリゾチニブは対象とする標的分子が多い。
→ALK、ROS1、METなど
・アレクチニブはALKに対して選択性が高く、ALK阻害活性もクリゾチニブより強い。
・アレクチニブに関する国内第I/II相試験(AF-001JP試験)の結果は、国内外に衝撃を与えた。
→奏効割合は90%以上、しかも効果発現が早く、その約90%が3週間以内に部分奏効にいたる。
・アレクチニブを開始する前は寝たり起きたりだった人が、投与開始1週間後には秋葉原まで外出し、筋肉痛になるほどジョギングして血清クレアチンキナーゼが4桁になってGrade3の有害事象として報告せざるを得なくなり、しばらくしたら東京マラソンを完走した。
・論文報告時の無増悪生存期間中央値は27.7ヶ月。
・今年の米国臨床腫瘍学会でAF-001JP試験のupdate dataが報告された。
→フォローアップ期間の中央値は30ヶ月
→奏効割合は93.5%
→無増悪生存期間中央値は算出できず(半分以上の患者が増悪なく治療継続中)で、少なくとも30ヶ月以上
→2年間無増悪生存割合は76%
→治療開始前から脳転移を有していた患者も効果が持続している
→脳転移による病勢進行と判定された患者は、これまでに2人のみ
・海外第I/II試験(AF002JG試験)についても最近論文化された。
→クリゾチニブ投与後病勢進行となった患者も含んでいる
→奏効割合は24/44=55%だった
・もうひとつ、海外第II相試験が今回の米国臨床腫瘍学会で報告された(NP28673試験)
→奏効割合は61/122=50%
→化学療法歴を有する患者でも奏効割合は40%以上
→脳転移を有する患者が84人含まれていて、そのうち測定可能な脳転移巣があった患者が35人
→上記35人における奏効割合は57.1%
・ALK陽性肺癌において、ALK阻害薬投与後耐性化する機序がわかってきた
→ALK再構成そのものの二次的な変異
→ALK再構成の増幅
→新たにEGFR遺伝子変異
→新たにKIT遺伝子変異
→新たにcMET増幅
・クリゾチニブ耐性後にはさまざまな二次的ALK変異が出現するが、アレクチニブ耐性後はあまり種類がない。
・どのALK阻害薬でも、耐性化後にG1202R変異が出現しうるため、本変異は高度耐性化変異と呼ばれている。
・第3世代ALK阻害薬として開発されているPF06463922は、G1202R変異にも有効性を示すとして期待されている。
・アレクチニブは、クリゾチニブに対して毒性も少ない。
・もはや、ALK陽性肺癌に対してALK阻害薬を使わないということはありえない。
・エビデンスベース医療として考えれば、いまのところはアレクチニブよりもクリゾチニブを優先的に使うべき。
・気持ちとしては、アレクチニブを先に使いたいが、現在進行中のアレクチニブとクリゾチニブの直接比較第III相試験(ALEX, J-ALEX)の結果を待って判断するのが王道。
・アレクチニブは、バンデタニブやカボザンチニブと同様に、RET再構成に対しても高い阻害活性を示す。
・金沢大学の矢野聖二先生が、RET陽性肺癌に対するアレクチニブ投与の医師主導治験を計画しようと奮闘している。
データだけ見れば、クリゾチニブよりもアレクチニブの方が、毒性は軽いし、効果持続期間は長いし、効果発現も早いし、脳転移に対しても有効そうだし、明らかに優れているように見えます。
ただし、大規模比較試験で直接比較しないと結論が出ない、というのが臨床試験原理主義者としての立場であり、高名な先生であればあるほどこの立場を取らざるを得ないでしょうね。
中外製薬主催の会で、最近のALK肺がんの話題というテーマだったので、アレクチニブ寄りのお話でしたが、以下備忘録です。
・ALK肺がん治療薬の嚆矢はクリゾチニブ
・PROFILE1007試験-化学療法歴を有するALK陽性肺がんに対するクリゾチニブの有効性を確認。
→無増悪生存期間中央値は7.7ヶ月
・PROFILE1014試験-化学療法歴のないALK陽性肺がんに対するクリゾチニブの有効性を確認。
→無増悪生存期間中央値は10.9ヶ月
・クリゾチニブに関連した主な有害事象は視覚障害59%、下痢53%、悪心52%、嘔吐44%
・クリゾチニブは対象とする標的分子が多い。
→ALK、ROS1、METなど
・アレクチニブはALKに対して選択性が高く、ALK阻害活性もクリゾチニブより強い。
・アレクチニブに関する国内第I/II相試験(AF-001JP試験)の結果は、国内外に衝撃を与えた。
→奏効割合は90%以上、しかも効果発現が早く、その約90%が3週間以内に部分奏効にいたる。
・アレクチニブを開始する前は寝たり起きたりだった人が、投与開始1週間後には秋葉原まで外出し、筋肉痛になるほどジョギングして血清クレアチンキナーゼが4桁になってGrade3の有害事象として報告せざるを得なくなり、しばらくしたら東京マラソンを完走した。
・論文報告時の無増悪生存期間中央値は27.7ヶ月。
・今年の米国臨床腫瘍学会でAF-001JP試験のupdate dataが報告された。
→フォローアップ期間の中央値は30ヶ月
→奏効割合は93.5%
→無増悪生存期間中央値は算出できず(半分以上の患者が増悪なく治療継続中)で、少なくとも30ヶ月以上
→2年間無増悪生存割合は76%
→治療開始前から脳転移を有していた患者も効果が持続している
→脳転移による病勢進行と判定された患者は、これまでに2人のみ
・海外第I/II試験(AF002JG試験)についても最近論文化された。
→クリゾチニブ投与後病勢進行となった患者も含んでいる
→奏効割合は24/44=55%だった
・もうひとつ、海外第II相試験が今回の米国臨床腫瘍学会で報告された(NP28673試験)
→奏効割合は61/122=50%
→化学療法歴を有する患者でも奏効割合は40%以上
→脳転移を有する患者が84人含まれていて、そのうち測定可能な脳転移巣があった患者が35人
→上記35人における奏効割合は57.1%
・ALK陽性肺癌において、ALK阻害薬投与後耐性化する機序がわかってきた
→ALK再構成そのものの二次的な変異
→ALK再構成の増幅
→新たにEGFR遺伝子変異
→新たにKIT遺伝子変異
→新たにcMET増幅
・クリゾチニブ耐性後にはさまざまな二次的ALK変異が出現するが、アレクチニブ耐性後はあまり種類がない。
・どのALK阻害薬でも、耐性化後にG1202R変異が出現しうるため、本変異は高度耐性化変異と呼ばれている。
・第3世代ALK阻害薬として開発されているPF06463922は、G1202R変異にも有効性を示すとして期待されている。
・アレクチニブは、クリゾチニブに対して毒性も少ない。
・もはや、ALK陽性肺癌に対してALK阻害薬を使わないということはありえない。
・エビデンスベース医療として考えれば、いまのところはアレクチニブよりもクリゾチニブを優先的に使うべき。
・気持ちとしては、アレクチニブを先に使いたいが、現在進行中のアレクチニブとクリゾチニブの直接比較第III相試験(ALEX, J-ALEX)の結果を待って判断するのが王道。
・アレクチニブは、バンデタニブやカボザンチニブと同様に、RET再構成に対しても高い阻害活性を示す。
・金沢大学の矢野聖二先生が、RET陽性肺癌に対するアレクチニブ投与の医師主導治験を計画しようと奮闘している。
データだけ見れば、クリゾチニブよりもアレクチニブの方が、毒性は軽いし、効果持続期間は長いし、効果発現も早いし、脳転移に対しても有効そうだし、明らかに優れているように見えます。
ただし、大規模比較試験で直接比較しないと結論が出ない、というのが臨床試験原理主義者としての立場であり、高名な先生であればあるほどこの立場を取らざるを得ないでしょうね。
2015年06月09日
検査・治療同意書
診療業務をしていると、検査や治療の同意書にサインしていただくことがしばしばです。
法的拘束力がある書類、というよりは、事前に適切な説明を患者さんと家族にしているかどうかのめやす、と個人的には捉えています。
あとから振り返って見直せる、という意味では、口頭での説明よりはるかに良いです。
同意書だけでなく、大切な面談の内容もできるだけ紙に書いて、お渡しするように心がけています。
最近、三島由紀夫の「若きサムライのために」という本を通勤途中の電車の中で読んでいます。
これまで三島由紀夫の作品は文学小説しか読んだことがなかったのですが、この本を読むとこの作家の人相風体が見えてくるような気がします。
「信義について」という項に、以下のようなくだりがあるので引用します。
若者が時間にルーズであきれるほかない、といった書き出しから始まる文で、軍人が時間に正確なのは時間を守らないと負けてしまうからだ・・・などなど述べられた後に、以下のように続きます。
「日本では契約がこうるさいのは、借家人の契約や、アパートの賃貸契約だけであるが、同じ本を出すのにも、私どもと日本の出版社との約束は口約束だけで済むものが、アメリカでは何ページにもわたってアリのはうような細かい活字を連ねた煩瑣な契約書が、起こり得るあらゆる危険、あらゆる裏切り、あらゆる背信行為を予定して書き留められている。そもそも契約書がいらないような社会は天国なのである。契約書は人を疑い、人間を悪人と規定するところから生まれてくる。
そして相手の人間に考えられるところのあらゆる悪の可能性を初めから約束によって封じて、しかしその約束の範囲内ならば、どんな悪いことも許されるというのは、契約や法律の本旨である。ところが別の考え方もあるので、ほんとうの近代的な契約社会は、何も紙をとりかわさなくても、お互いの応諾の意思が発表された時期に契約が成立するのだという学説もあるくらいである。すなわち、契約社会の理想は、何も紙をとりかわさなくても人間が契約を守るという根本精神が行きわたれば、それだけで安全に運行してゆくのであるが、そんなりっぱな人間ばかりでないところからむずかしい問題が生ずるのである。」
・・・世の中、りっぱな人ばかりではありません。
医師も患者も家族もみな人間で個性があり、いろんな人がいます。
契約論はともかくとして、お互いの認識をそろえる、という意味では、やはり書類はあった方がいいと思います。
昨日丸山ワクチンの相談でお越しになった患者さんにも、A4用紙で計6枚程度の説明を手書きで書いて、お渡ししました。
費用、手間、予測される効果、今後の見通しををお伝えし、あまりお勧めしませんでした。
法的拘束力がある書類、というよりは、事前に適切な説明を患者さんと家族にしているかどうかのめやす、と個人的には捉えています。
あとから振り返って見直せる、という意味では、口頭での説明よりはるかに良いです。
同意書だけでなく、大切な面談の内容もできるだけ紙に書いて、お渡しするように心がけています。
最近、三島由紀夫の「若きサムライのために」という本を通勤途中の電車の中で読んでいます。
これまで三島由紀夫の作品は文学小説しか読んだことがなかったのですが、この本を読むとこの作家の人相風体が見えてくるような気がします。
「信義について」という項に、以下のようなくだりがあるので引用します。
若者が時間にルーズであきれるほかない、といった書き出しから始まる文で、軍人が時間に正確なのは時間を守らないと負けてしまうからだ・・・などなど述べられた後に、以下のように続きます。
「日本では契約がこうるさいのは、借家人の契約や、アパートの賃貸契約だけであるが、同じ本を出すのにも、私どもと日本の出版社との約束は口約束だけで済むものが、アメリカでは何ページにもわたってアリのはうような細かい活字を連ねた煩瑣な契約書が、起こり得るあらゆる危険、あらゆる裏切り、あらゆる背信行為を予定して書き留められている。そもそも契約書がいらないような社会は天国なのである。契約書は人を疑い、人間を悪人と規定するところから生まれてくる。
そして相手の人間に考えられるところのあらゆる悪の可能性を初めから約束によって封じて、しかしその約束の範囲内ならば、どんな悪いことも許されるというのは、契約や法律の本旨である。ところが別の考え方もあるので、ほんとうの近代的な契約社会は、何も紙をとりかわさなくても、お互いの応諾の意思が発表された時期に契約が成立するのだという学説もあるくらいである。すなわち、契約社会の理想は、何も紙をとりかわさなくても人間が契約を守るという根本精神が行きわたれば、それだけで安全に運行してゆくのであるが、そんなりっぱな人間ばかりでないところからむずかしい問題が生ずるのである。」
・・・世の中、りっぱな人ばかりではありません。
医師も患者も家族もみな人間で個性があり、いろんな人がいます。
契約論はともかくとして、お互いの認識をそろえる、という意味では、やはり書類はあった方がいいと思います。
昨日丸山ワクチンの相談でお越しになった患者さんにも、A4用紙で計6枚程度の説明を手書きで書いて、お渡ししました。
費用、手間、予測される効果、今後の見通しををお伝えし、あまりお勧めしませんでした。
2015年06月05日
高額なニボルマブ
現在入院中の扁平上皮癌患者さんにニボルマブの話をしたら、
「効果が高くて副作用が少ないのなら、是非試してみたい。」
と言われました。
「いまのところ保険診療上は使えない薬なので、なんとしてでも、と言われたら自由診療として使うしかない、その際は全ての医療費が自己負担になる」
とお答えすると、
「幸いなことにリーマンショック後に購入した株が高騰して、手元には数百万円の自由にできるお金がある。薬価だけでも調べてもらえないか。」
とのこと。
今回のアブラキサン投与があっという間に頓挫して、切実な気持ちは私も同じなので、調べてみました。
ニボルマブの薬価ですが、20mg/本の瓶で150,200円、100mg/本の瓶で729,849円です。
この患者さんは体重56kgでしたから、3mg/kgだと168mg、ですから、1回あたり20mg/本の瓶を4瓶、100mg/本の瓶を1本使います。
これを2週間に1回行うので、1ヶ月では20mg/本の瓶を8瓶、100mg/本の瓶を2瓶使います。
それでは、1ヶ月に必要な薬代はいくらでしょうか・・・うちの子供が小学校でやっているような計算問題です。
答えは、150,200×8+729,849×2=2,661,298円です。
今回のCheck Mate 017試験で示されたデータでは、ニボルマブを使った患者さんの平均使用回数(正確には投与回数中央値)は8回、すなわち4か月ということですから、平均的な経過を辿ったとしたら4か月分の薬代が必要で、そうすると
2,661,298×4=10,645,192円が必要です。
・・・高い。
とりあえず、結果は患者さんにお話ししてみます。
ちなみに、最も多く使った患者さんは48回、すなわち24か月にわたり使用したそうです。
素晴らしい治療効果ですが、薬代として64,000,000円程度は必要だったことになりますね。
「効果が高くて副作用が少ないのなら、是非試してみたい。」
と言われました。
「いまのところ保険診療上は使えない薬なので、なんとしてでも、と言われたら自由診療として使うしかない、その際は全ての医療費が自己負担になる」
とお答えすると、
「幸いなことにリーマンショック後に購入した株が高騰して、手元には数百万円の自由にできるお金がある。薬価だけでも調べてもらえないか。」
とのこと。
今回のアブラキサン投与があっという間に頓挫して、切実な気持ちは私も同じなので、調べてみました。
ニボルマブの薬価ですが、20mg/本の瓶で150,200円、100mg/本の瓶で729,849円です。
この患者さんは体重56kgでしたから、3mg/kgだと168mg、ですから、1回あたり20mg/本の瓶を4瓶、100mg/本の瓶を1本使います。
これを2週間に1回行うので、1ヶ月では20mg/本の瓶を8瓶、100mg/本の瓶を2瓶使います。
それでは、1ヶ月に必要な薬代はいくらでしょうか・・・うちの子供が小学校でやっているような計算問題です。
答えは、150,200×8+729,849×2=2,661,298円です。
今回のCheck Mate 017試験で示されたデータでは、ニボルマブを使った患者さんの平均使用回数(正確には投与回数中央値)は8回、すなわち4か月ということですから、平均的な経過を辿ったとしたら4か月分の薬代が必要で、そうすると
2,661,298×4=10,645,192円が必要です。
・・・高い。
とりあえず、結果は患者さんにお話ししてみます。
ちなみに、最も多く使った患者さんは48回、すなわち24か月にわたり使用したそうです。
素晴らしい治療効果ですが、薬代として64,000,000円程度は必要だったことになりますね。
2015年06月03日
扁平上皮癌に対するニボルマブ二次治療
今年のASCOでも、免疫チェックポイント阻害薬の話があちこちで盛り上がっているようです。
抗腫瘍薬としては全く新しいカテゴリーの薬として、まずは悪性黒色腫の領域で輝きを放ったのですが、ここにきて他の癌腫でもエビデンスが揃い始めました。
肺扁平上皮癌の領域では、2015年3月の段階で「来ました、ニボルマブ!」として記事に取り上げましたが、今回のASCO発表に合わせて、論文化されています。
「来ました、ニボルマブ!」:http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e786817.html
New england Journal of Medicine:http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1504627?query=OF
Nivolumab versus Docetaxel in Advanced Squamous-Cell Non–Small-Cell Lung Cancer
Julie Brahmer, M.D., Karen L. Reckamp, M.D., Paul Baas, M.D., Lucio Crinò, M.D., Wilfried E.E. Eberhardt, M.D., Elena Poddubskaya, M.D., Scott Antonia, M.D., Ph.D., Adam Pluzanski, M.D., Ph.D., Everett E. Vokes, M.D., Esther Holgado, M.D., Ph.D., David Waterhouse, M.D., Neal Ready, M.D., Justin Gainor, M.D., Osvaldo Arén Frontera, M.D., Libor Havel, M.D., Martin Steins, M.D., Marina C. Garassino, M.D., Joachim G. Aerts, M.D., Manuel Domine, M.D., Luis Paz-Ares, M.D., Martin Reck, M.D., Christine Baudelet, Ph.D., Christopher T. Harbison, Ph.D., Brian Lestini, M.D., Ph.D., and David R. Spigel, M.D.
May 31, 2015
背景:一次治療中もしくは一次治療終了後に病勢が進行した進行肺扁平上皮癌の患者では、その後の治療選択肢は限られている。今回の無作為化オープンラベル第III相臨床試験において、完全ヒト化IgG4抗PD-1免疫チェックポイント阻害抗体であるニボルマブの効果・安全性を、二次治療の標準治療とされるドセタキセルと比較した。
方法:272人の患者を対象に、ニボルマブ3mg/(患者体重)kgの用量で2週間ごと投与する群(N群)と、ドセタキセル75mg/(患者体表面積)㎡の用量で3週間ごとに投与する群(D群)に割り付けた。主要評価項目は全生存期間とした。
結果:全生存期間中央値はN群で9.2ヶ月(95%信頼区間は7.3-13.3ヶ月)、D群で6.0ヶ月(5.1ヶ月から7.3ヶ月)だった。死亡リスクはD群に対してN群で41%低下した(ハザード比:0.59, 95%信頼区間は0.44-0.79, p<0.001)。1年生存割合はN群で42%(34-50%)、D群で24%(17-31%)だった。奏効割合はN群で20%、D群で9%(p=0.008)だった。無増悪生存期間中央値はN群で3.5ヶ月、D群で2.8ヶ月(ハザード比0.62、95%信頼区間は0.47-0.81, p<0.001)だった。腫瘍のPD-L1発現状態を検索したが、予後因子としても効果予測因子としても有意ではなかった。Grade 3/4の治療関連有害事象は、N群で7%、D群で55%だった。


結論:既治療進行肺扁平上皮癌患者において、ニボルマブはドセタキセルと比較して、全生存期間、奏効割合、無増悪生存期間いずれにおいても、PD-L1の発現状態に関わらず有意に優れていた。
(Funded by Bristol-Myers Squibb; CheckMate 017 ClinicalTrials.gov number, NCT01642004.)
「ニボルマブは、使い始めはフレア現象のように腫瘍が一時的に増大し、効果が見られる場合にはその後縮小する。縮小後は一定の大きさを保ちながら、比較的長いあいだ効き続ける」
という使用感を講演会でしばしば耳にしますが、今回の図表を見るとその様子がよく分かります。
なんにせよ、扁平上皮癌の領域でこれだけ圧倒的な差をもって新規薬品が標準治療を凌駕したのは、ちょっと思い出せないくらい稀な出来事です。
いま入院管理している二人の患者さん、ひとりは既に5次治療後の病勢進行、ひとりは一次治療後の再燃であり、早速にでも使いたいくらいです。
国内でも既に悪性黒色腫には認可されていて、薬品は手に入る状況にあります。
患者さんにとっても、ご家族にとっても、臨床医にとっても、効果が確認された薬品が手に入るところにあるのに使えない、というのは、切迫していればいるほどつらいです。
抗腫瘍薬としては全く新しいカテゴリーの薬として、まずは悪性黒色腫の領域で輝きを放ったのですが、ここにきて他の癌腫でもエビデンスが揃い始めました。
肺扁平上皮癌の領域では、2015年3月の段階で「来ました、ニボルマブ!」として記事に取り上げましたが、今回のASCO発表に合わせて、論文化されています。
「来ました、ニボルマブ!」:http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e786817.html
New england Journal of Medicine:http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1504627?query=OF
Nivolumab versus Docetaxel in Advanced Squamous-Cell Non–Small-Cell Lung Cancer
Julie Brahmer, M.D., Karen L. Reckamp, M.D., Paul Baas, M.D., Lucio Crinò, M.D., Wilfried E.E. Eberhardt, M.D., Elena Poddubskaya, M.D., Scott Antonia, M.D., Ph.D., Adam Pluzanski, M.D., Ph.D., Everett E. Vokes, M.D., Esther Holgado, M.D., Ph.D., David Waterhouse, M.D., Neal Ready, M.D., Justin Gainor, M.D., Osvaldo Arén Frontera, M.D., Libor Havel, M.D., Martin Steins, M.D., Marina C. Garassino, M.D., Joachim G. Aerts, M.D., Manuel Domine, M.D., Luis Paz-Ares, M.D., Martin Reck, M.D., Christine Baudelet, Ph.D., Christopher T. Harbison, Ph.D., Brian Lestini, M.D., Ph.D., and David R. Spigel, M.D.
May 31, 2015
背景:一次治療中もしくは一次治療終了後に病勢が進行した進行肺扁平上皮癌の患者では、その後の治療選択肢は限られている。今回の無作為化オープンラベル第III相臨床試験において、完全ヒト化IgG4抗PD-1免疫チェックポイント阻害抗体であるニボルマブの効果・安全性を、二次治療の標準治療とされるドセタキセルと比較した。
方法:272人の患者を対象に、ニボルマブ3mg/(患者体重)kgの用量で2週間ごと投与する群(N群)と、ドセタキセル75mg/(患者体表面積)㎡の用量で3週間ごとに投与する群(D群)に割り付けた。主要評価項目は全生存期間とした。
結果:全生存期間中央値はN群で9.2ヶ月(95%信頼区間は7.3-13.3ヶ月)、D群で6.0ヶ月(5.1ヶ月から7.3ヶ月)だった。死亡リスクはD群に対してN群で41%低下した(ハザード比:0.59, 95%信頼区間は0.44-0.79, p<0.001)。1年生存割合はN群で42%(34-50%)、D群で24%(17-31%)だった。奏効割合はN群で20%、D群で9%(p=0.008)だった。無増悪生存期間中央値はN群で3.5ヶ月、D群で2.8ヶ月(ハザード比0.62、95%信頼区間は0.47-0.81, p<0.001)だった。腫瘍のPD-L1発現状態を検索したが、予後因子としても効果予測因子としても有意ではなかった。Grade 3/4の治療関連有害事象は、N群で7%、D群で55%だった。


結論:既治療進行肺扁平上皮癌患者において、ニボルマブはドセタキセルと比較して、全生存期間、奏効割合、無増悪生存期間いずれにおいても、PD-L1の発現状態に関わらず有意に優れていた。
(Funded by Bristol-Myers Squibb; CheckMate 017 ClinicalTrials.gov number, NCT01642004.)
「ニボルマブは、使い始めはフレア現象のように腫瘍が一時的に増大し、効果が見られる場合にはその後縮小する。縮小後は一定の大きさを保ちながら、比較的長いあいだ効き続ける」
という使用感を講演会でしばしば耳にしますが、今回の図表を見るとその様子がよく分かります。
なんにせよ、扁平上皮癌の領域でこれだけ圧倒的な差をもって新規薬品が標準治療を凌駕したのは、ちょっと思い出せないくらい稀な出来事です。
いま入院管理している二人の患者さん、ひとりは既に5次治療後の病勢進行、ひとりは一次治療後の再燃であり、早速にでも使いたいくらいです。
国内でも既に悪性黒色腫には認可されていて、薬品は手に入る状況にあります。
患者さんにとっても、ご家族にとっても、臨床医にとっても、効果が確認された薬品が手に入るところにあるのに使えない、というのは、切迫していればいるほどつらいです。