2020年10月27日
各種マスクによる新型コロナウイルス拡散予防効果
気温が下がってきて、そろそろインフルエンザの流行を意識する頃合いになってきた。
毎年のことだけれど、インフルエンザワクチンの入庫量が圧倒的に不足している。
外来をするたびに、我々のところではもうインフルエンザワクチンは接種できないんです、と予約制度のところから説明しなければならない。
ワクチンもそうだが、まずは感染予防策の徹底が基本中の基本。
人込みの中にはなるべく入らない、かぜ症状のある人とはできるだけ距離を置く、外出先から帰ってきたら20秒かけて手を洗ってうがいをする。
凡事徹底、自分にできることを淡々と続けたい。
2020/10/22のNHKニュースで、マスクの効果についての報道があった。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201022/k10012674851000.html
東京大学医科学研究所で行われた実験について。
出典はこちらのよう。
https://msphere.asm.org/content/msph/5/5/e00637-20.full.pdf
人形を用いたモデルで、実際の新型コロナウイルスの飛散を各種のマスクがどれだけ抑えられるかという内容だった。
ウイルスをまき散らす人と、ウイルスをもらってしまう人に分けて検証しているところがありがたい。
使用したマスクは、布マスク、サージカルマスク、N95マスクの3種類。
まず、ウイルスをまき散らす人にマスクをさせると、布マスクでもサージカルマスクでも、70%程度はウイルスの飛散を抑えられたとのこと。
この点については、布マスクにも一定の効果があり、少なくともサージカルマスクと同程度の飛散予防効果があるということだ。
一方、ウイルスをもらってしまう人においては、マスクによって差が出た。
布マスクは17%、サージカルマスクは47%、N95マスクは79%ほど、ウイルスをもらってしまう量を抑えられるとのこと。
ざっくりと言えば、それぞれのウイルス遮断効果は、布マスクが20%、サージカルマスクは50%、N95マスクは80%程度と言えるだろう。
大切なことは、どのマスクを使用しても、それなりのウイルス遮断効果があり、ウイルスをまき散らす人がマスクをしたときがもっとも効果が高いということ。
そして、以下の記事を見る限りでは、サージカルマスクの50%ウイルス遮断効果というのは、どうも再現性がありそうだ、ということ。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e972720.html
感染者には無症状の人もいるわけで、果たして自分がまき散らす側なのか、もらう側なのか、事前に判断することすら難しい。
これからインフルエンザ流行期を迎えるにあたり、凡事徹底のもうひとつとして、外出時にはきちんとマスクをする、ということも付け加えたい。
毎年のことだけれど、インフルエンザワクチンの入庫量が圧倒的に不足している。
外来をするたびに、我々のところではもうインフルエンザワクチンは接種できないんです、と予約制度のところから説明しなければならない。
ワクチンもそうだが、まずは感染予防策の徹底が基本中の基本。
人込みの中にはなるべく入らない、かぜ症状のある人とはできるだけ距離を置く、外出先から帰ってきたら20秒かけて手を洗ってうがいをする。
凡事徹底、自分にできることを淡々と続けたい。
2020/10/22のNHKニュースで、マスクの効果についての報道があった。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201022/k10012674851000.html
東京大学医科学研究所で行われた実験について。
出典はこちらのよう。
https://msphere.asm.org/content/msph/5/5/e00637-20.full.pdf
人形を用いたモデルで、実際の新型コロナウイルスの飛散を各種のマスクがどれだけ抑えられるかという内容だった。
ウイルスをまき散らす人と、ウイルスをもらってしまう人に分けて検証しているところがありがたい。
使用したマスクは、布マスク、サージカルマスク、N95マスクの3種類。
まず、ウイルスをまき散らす人にマスクをさせると、布マスクでもサージカルマスクでも、70%程度はウイルスの飛散を抑えられたとのこと。
この点については、布マスクにも一定の効果があり、少なくともサージカルマスクと同程度の飛散予防効果があるということだ。
一方、ウイルスをもらってしまう人においては、マスクによって差が出た。
布マスクは17%、サージカルマスクは47%、N95マスクは79%ほど、ウイルスをもらってしまう量を抑えられるとのこと。
ざっくりと言えば、それぞれのウイルス遮断効果は、布マスクが20%、サージカルマスクは50%、N95マスクは80%程度と言えるだろう。
大切なことは、どのマスクを使用しても、それなりのウイルス遮断効果があり、ウイルスをまき散らす人がマスクをしたときがもっとも効果が高いということ。
そして、以下の記事を見る限りでは、サージカルマスクの50%ウイルス遮断効果というのは、どうも再現性がありそうだ、ということ。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e972720.html
感染者には無症状の人もいるわけで、果たして自分がまき散らす側なのか、もらう側なのか、事前に判断することすら難しい。
これからインフルエンザ流行期を迎えるにあたり、凡事徹底のもうひとつとして、外出時にはきちんとマスクをする、ということも付け加えたい。
2020年10月22日
粘液産生性腺がんとKRAS遺伝子変異、NRG1融合遺伝子
本日、LC-SCRUMの事務局から、こんな連絡が届いた。
・これまでの登録例から、条件を満たす登録例を選択し、RNAシークエンス解析を実施します。
・特に、NRG1融合遺伝子陽性例を見つけるために、粘液産生型腺癌を優先して解析を行います。
・このRNAシークエンス解析でNRG1融合遺伝子が検出された場合は、HER2/HER3抗体:MCLA-128の治験をご案内します。
・粘液産生型腺癌で主なドライバー遺伝子が陰性のため、治療選択に困っている患者さんが全国にいるのではないかと予測しています。
・実際に先週の登録された粘液産生型腺癌の患者さんにおいて、NRG1融合遺伝子が陽性になっています。
・また、NRG1以外にも、有効な治療薬や治験につながるような遺伝子異常が検出された場合は、その結果をご報告致します。
粘液産生性腺がんは、今年の初めに一度記事として取り上げたことがあるので、以下に紹介しておく。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e969313.html
豊富に産生される粘液とともに、肺胞から肺胞へ、気管支から気管支へと転移することが想定されている厄介な腺がんである。
一見肺炎を思わせるような特徴的な原発巣の画像所見と共に、多発肺内転移が認められたら、可能性が高まる。
分子標的治療の対象となることは少なく、化学療法は効果が薄く、難治性である。
この粘液産生性腺がんについて、2014年に報告された遺伝子変異解析に関する我が国からの論文を引用する。
かなりの確率でKRAS遺伝子変異が認められるとされており、免疫チェックポイント阻害薬や開発中のKRAS G12C阻害薬を検討する余地はありそうだ。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e960030.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e968478.html
また、NRG1はというと、粘液産生性腺がん全体の7%、KRAS遺伝子変異陰性の粘液産生性腺がんの18%を占めており、LC-SCRUM事務局が今回アナウンスを行った背景が垣間見える。
Druggable oncogene fusions in invasive mucinous lung adenocarcinoma
Takashi Nakaoku et al.
Clin Cancer Res. 2014 Jun 15;20(12):3087-93.
doi: 10.1158/1078-0432.CCR-14-0107. Epub 2014 Apr 11.
目的:
肺腺がんの高悪性度な一亜型であり、高率にKRAS遺伝子変異を伴う浸潤型粘液産生性肺腺がん(invasive mucinous adenocarcinoma, IMA)の患者を対象に、治療対象となりうる融合遺伝子異常を特定することを目的とした。
試験デザイン:
56人(62%)のKRAS遺伝子変異陽性IMA、34人(38%)のKRAS遺伝子変異陰性IMAから成る計90人のIMAコホートから、32人(27人のKRAS遺伝子変異陽性者を含む)を抽出してトランスクリプトーム・シーケンス解析を行った。解析結果はがん融合遺伝子同定に使用し、その産物がどのような生物学的機能を持つかを解析した。
結果:
KRAS遺伝子変異とは相互排他的ながん融合遺伝子異常を同定した。すなわち、CD74-NRG1、SLC3A2-NRG1、EZR-ERBB4、TRIM24-BRAF、そしてKIAA1468-RETが確認された。NRG1融合遺伝子はKRAS遺伝子変異陰性IMAの17.6%(34人中6人)を占めた。CD74-NRG1融合遺伝子はHER2/HER3複合体のシグナル伝達を活性化し、一方でEZR-ERBB4やTRIM24-BRAFといった融合遺伝子は、それぞれ恒常的にERBB4キナーゼとBRAFキナーゼを活性化していた。これらの融合遺伝子を発現させたNIH3T3細胞におけるシグナル伝達系の活性化や足場非依存性の増殖/腫瘍化は、既に実臨床で使用されているチロシンキナーゼ阻害薬によって抑制された。
結論:
KRAS遺伝子変異を伴わないIMAにおいて発見されたがん融合遺伝子は、ドライバー遺伝子変異として働いており、IMAに対する治療標的として有望である。
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・これまでの登録例から、条件を満たす登録例を選択し、RNAシークエンス解析を実施します。
・特に、NRG1融合遺伝子陽性例を見つけるために、粘液産生型腺癌を優先して解析を行います。
・このRNAシークエンス解析でNRG1融合遺伝子が検出された場合は、HER2/HER3抗体:MCLA-128の治験をご案内します。
・粘液産生型腺癌で主なドライバー遺伝子が陰性のため、治療選択に困っている患者さんが全国にいるのではないかと予測しています。
・実際に先週の登録された粘液産生型腺癌の患者さんにおいて、NRG1融合遺伝子が陽性になっています。
・また、NRG1以外にも、有効な治療薬や治験につながるような遺伝子異常が検出された場合は、その結果をご報告致します。
粘液産生性腺がんは、今年の初めに一度記事として取り上げたことがあるので、以下に紹介しておく。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e969313.html
豊富に産生される粘液とともに、肺胞から肺胞へ、気管支から気管支へと転移することが想定されている厄介な腺がんである。
一見肺炎を思わせるような特徴的な原発巣の画像所見と共に、多発肺内転移が認められたら、可能性が高まる。
分子標的治療の対象となることは少なく、化学療法は効果が薄く、難治性である。
この粘液産生性腺がんについて、2014年に報告された遺伝子変異解析に関する我が国からの論文を引用する。
かなりの確率でKRAS遺伝子変異が認められるとされており、免疫チェックポイント阻害薬や開発中のKRAS G12C阻害薬を検討する余地はありそうだ。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e960030.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e968478.html
また、NRG1はというと、粘液産生性腺がん全体の7%、KRAS遺伝子変異陰性の粘液産生性腺がんの18%を占めており、LC-SCRUM事務局が今回アナウンスを行った背景が垣間見える。
Druggable oncogene fusions in invasive mucinous lung adenocarcinoma
Takashi Nakaoku et al.
Clin Cancer Res. 2014 Jun 15;20(12):3087-93.
doi: 10.1158/1078-0432.CCR-14-0107. Epub 2014 Apr 11.
目的:
肺腺がんの高悪性度な一亜型であり、高率にKRAS遺伝子変異を伴う浸潤型粘液産生性肺腺がん(invasive mucinous adenocarcinoma, IMA)の患者を対象に、治療対象となりうる融合遺伝子異常を特定することを目的とした。
試験デザイン:
56人(62%)のKRAS遺伝子変異陽性IMA、34人(38%)のKRAS遺伝子変異陰性IMAから成る計90人のIMAコホートから、32人(27人のKRAS遺伝子変異陽性者を含む)を抽出してトランスクリプトーム・シーケンス解析を行った。解析結果はがん融合遺伝子同定に使用し、その産物がどのような生物学的機能を持つかを解析した。
結果:
KRAS遺伝子変異とは相互排他的ながん融合遺伝子異常を同定した。すなわち、CD74-NRG1、SLC3A2-NRG1、EZR-ERBB4、TRIM24-BRAF、そしてKIAA1468-RETが確認された。NRG1融合遺伝子はKRAS遺伝子変異陰性IMAの17.6%(34人中6人)を占めた。CD74-NRG1融合遺伝子はHER2/HER3複合体のシグナル伝達を活性化し、一方でEZR-ERBB4やTRIM24-BRAFといった融合遺伝子は、それぞれ恒常的にERBB4キナーゼとBRAFキナーゼを活性化していた。これらの融合遺伝子を発現させたNIH3T3細胞におけるシグナル伝達系の活性化や足場非依存性の増殖/腫瘍化は、既に実臨床で使用されているチロシンキナーゼ阻害薬によって抑制された。
結論:
KRAS遺伝子変異を伴わないIMAにおいて発見されたがん融合遺伝子は、ドライバー遺伝子変異として働いており、IMAに対する治療標的として有望である。
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2020年10月17日
原料価格よりも安い値段で薬を販売する!?
読書の秋。
ことに土曜日の夜は、本を読みふけるのにぴったり。
とはいえ、本を買ってきては読了し、そのまま本棚に収めると、また無駄な荷物を増やして、といつも妻とけんかになる。
そんなわけで、最近はできるだけ図書館で借りてきた本を読むようにしている。
いまどきの図書館はとても便利で、websiteで所蔵を確認し、誰も借りていなければそのまま借りに行けばいいし、誰かが借りていたら予約をすれば返却され次第メールで連絡が入る。
電子書籍は肌に合わないので、まずは図書館で検索して、所蔵がない本だけを購入するようにしている。
図書館に所蔵されているけれど、予約してから随分と長く待たされた本が、最近ようやく手元に来た。
「ファクトフルネス」という本で、スウェーデンの公衆衛生学者、ハンス・ロスリング先生がご家族とともに著したものだ。
国連が公表しているデータをもとに、自身のフィールドワークの経験を織り交ぜながら、公衆衛生上のデータで誰もが誤解しているものを次々に紹介していく。
その第9章、「犯人捜し本能」という章で、興味深いくだりがあったので引用する。
ほかにも興味深い話が多く、しかも巧妙な構成で飽きさせない、この秋お勧めの本である。
そして、この本をこのブログで扱う理由は、「おわりに」を読めばよくわかるはずだ。
「ビジネスマン」
私はいつも事実を見るように心がけているはいるけれど、それでも先入観に負けてしまうことがある。
ある日ユニセフから依頼を受けて、アンゴラに送るマラリアの薬の入札者について調べることになった。
私はこの製薬会社をあたまから疑ってかかっていた。
価格は妙だったし、詐欺に違いないと意気込んだ。
悪徳企業がユニセフから甘い汁を吸うつもりだな。
いっちょ化けの皮を剥いでやるか。
(中略)
・・・ユニセフは製薬会社と10年契約を結んで薬品を買い入れる。
どの製薬会社にするかは競争入札で決めている。
長期にわたって大量に買い入れてもらえば製薬会社にとってはありがたいので、入札価格はかなり割安になる。
とはいえ今回は、スイスのルガーノにあるリボファームという小さな家族経営の会社が、ありえないほど安い価格で入札していた。
1錠当たりの値段が、「原料価格よりも安かった」のだ。
私は現地に飛んで、内実を調べることになった。
まずチューリッヒに行き、そこから小型機でルガーノの小さな空港に降り立った。
安物の服を着た出迎えの人が待っているだろうくらいに思っていたら、リムジンに乗せられて敷居の高そうな超豪華ホテルに連れて行かれた。
つい、妻に電話して、「シーツが絹だぞ」といってしまったほどだ。
翌朝迎えが来て、私は工場に向かった。工場長と握手を交わした後、すぐに本題に入った。
「ブダペストから減量を買って錠剤を作り、それを放送して箱に入れてコンテナ船に積んで、ジェノバに送り届けるんですよね。」
「どうしたら原料価格より安い値段で、そんなことができるんですか?」
「ハンガリー人から何か特別な割引でももらってるんですか?」
「原料の仕入れ価格は皆さんと同じですよ」と工場長。
「でも、リムジンで迎えてくれたじゃないですか?どこからそんなカネが出るんですか?」
工場長はにっこりした。
「ああ、こういうことなんです。私たちは数年前に、ロボット化によって製薬業界が変わると気づきました。」
「そこで、世界最速の錠剤製造機を自分たちで開発して、ここに小さな工場を建てたんです。」
「製造以外のプロセスも隅々まで自動化しています。」
「大企業の工場も、うちと比べたら手工芸店みたいなものですよ。」
「まず、ブダペストに原料を注文します。月曜に電車で原料が届きます。」
「水曜の午後にはアンゴラ行きの1年分のマラリアの薬が箱詰めされて発送できるようになっています。」
「木曜の朝には薬がジェノバに到着します。」
「ユニセフが薬をチェックして受領書にサインしたら、その日のうちに代金が私たちのチューリッヒの口座に振り込まれます。」
「でも、おかしいじゃありませんか。売値の方が原価より安いんでしょう?」
「おっしゃる通り。でも、原料の仕入れ先への支払いは30日後で、ユニセフは4日後に代金を支払ってくれます。」
「だからおカネが口座に眠っている26日間は金利が稼げるんです。」
そうだったのか。
言葉が見つからなかった。
そんなやり方があるなんて思いもしなかった。
私の頭はすっかり、ユニセフは正義の味方で、製薬会社はあくどいことを考えている敵役ってことになっていた。
小さな企業にそんな革新的な力があるなんて、全く想像がつかなかった。
安上がりなやり方を実現できる、すごい力を持った企業だったのだ。
彼らもまた正義の味方だった。
ことに土曜日の夜は、本を読みふけるのにぴったり。
とはいえ、本を買ってきては読了し、そのまま本棚に収めると、また無駄な荷物を増やして、といつも妻とけんかになる。
そんなわけで、最近はできるだけ図書館で借りてきた本を読むようにしている。
いまどきの図書館はとても便利で、websiteで所蔵を確認し、誰も借りていなければそのまま借りに行けばいいし、誰かが借りていたら予約をすれば返却され次第メールで連絡が入る。
電子書籍は肌に合わないので、まずは図書館で検索して、所蔵がない本だけを購入するようにしている。
図書館に所蔵されているけれど、予約してから随分と長く待たされた本が、最近ようやく手元に来た。
「ファクトフルネス」という本で、スウェーデンの公衆衛生学者、ハンス・ロスリング先生がご家族とともに著したものだ。
国連が公表しているデータをもとに、自身のフィールドワークの経験を織り交ぜながら、公衆衛生上のデータで誰もが誤解しているものを次々に紹介していく。
その第9章、「犯人捜し本能」という章で、興味深いくだりがあったので引用する。
ほかにも興味深い話が多く、しかも巧妙な構成で飽きさせない、この秋お勧めの本である。
そして、この本をこのブログで扱う理由は、「おわりに」を読めばよくわかるはずだ。
「ビジネスマン」
私はいつも事実を見るように心がけているはいるけれど、それでも先入観に負けてしまうことがある。
ある日ユニセフから依頼を受けて、アンゴラに送るマラリアの薬の入札者について調べることになった。
私はこの製薬会社をあたまから疑ってかかっていた。
価格は妙だったし、詐欺に違いないと意気込んだ。
悪徳企業がユニセフから甘い汁を吸うつもりだな。
いっちょ化けの皮を剥いでやるか。
(中略)
・・・ユニセフは製薬会社と10年契約を結んで薬品を買い入れる。
どの製薬会社にするかは競争入札で決めている。
長期にわたって大量に買い入れてもらえば製薬会社にとってはありがたいので、入札価格はかなり割安になる。
とはいえ今回は、スイスのルガーノにあるリボファームという小さな家族経営の会社が、ありえないほど安い価格で入札していた。
1錠当たりの値段が、「原料価格よりも安かった」のだ。
私は現地に飛んで、内実を調べることになった。
まずチューリッヒに行き、そこから小型機でルガーノの小さな空港に降り立った。
安物の服を着た出迎えの人が待っているだろうくらいに思っていたら、リムジンに乗せられて敷居の高そうな超豪華ホテルに連れて行かれた。
つい、妻に電話して、「シーツが絹だぞ」といってしまったほどだ。
翌朝迎えが来て、私は工場に向かった。工場長と握手を交わした後、すぐに本題に入った。
「ブダペストから減量を買って錠剤を作り、それを放送して箱に入れてコンテナ船に積んで、ジェノバに送り届けるんですよね。」
「どうしたら原料価格より安い値段で、そんなことができるんですか?」
「ハンガリー人から何か特別な割引でももらってるんですか?」
「原料の仕入れ価格は皆さんと同じですよ」と工場長。
「でも、リムジンで迎えてくれたじゃないですか?どこからそんなカネが出るんですか?」
工場長はにっこりした。
「ああ、こういうことなんです。私たちは数年前に、ロボット化によって製薬業界が変わると気づきました。」
「そこで、世界最速の錠剤製造機を自分たちで開発して、ここに小さな工場を建てたんです。」
「製造以外のプロセスも隅々まで自動化しています。」
「大企業の工場も、うちと比べたら手工芸店みたいなものですよ。」
「まず、ブダペストに原料を注文します。月曜に電車で原料が届きます。」
「水曜の午後にはアンゴラ行きの1年分のマラリアの薬が箱詰めされて発送できるようになっています。」
「木曜の朝には薬がジェノバに到着します。」
「ユニセフが薬をチェックして受領書にサインしたら、その日のうちに代金が私たちのチューリッヒの口座に振り込まれます。」
「でも、おかしいじゃありませんか。売値の方が原価より安いんでしょう?」
「おっしゃる通り。でも、原料の仕入れ先への支払いは30日後で、ユニセフは4日後に代金を支払ってくれます。」
「だからおカネが口座に眠っている26日間は金利が稼げるんです。」
そうだったのか。
言葉が見つからなかった。
そんなやり方があるなんて思いもしなかった。
私の頭はすっかり、ユニセフは正義の味方で、製薬会社はあくどいことを考えている敵役ってことになっていた。
小さな企業にそんな革新的な力があるなんて、全く想像がつかなかった。
安上がりなやり方を実現できる、すごい力を持った企業だったのだ。
彼らもまた正義の味方だった。
2020年10月16日
EGFR遺伝子変異の国別地方分布
webセミナーを眺めていたら、面白い論文が紹介されていた。
Worldwide Frequency of Commonly Detected EGFR Mutations
Rondell P. Graham et al., Arch Pathol Lab Med. 2018;142:163–167
doi: 10.5858/arpa.2016-0579-CP
EGFR遺伝子変異の国別分布。
論文中では、南アジアでEGFR遺伝子変異の出現頻度が最も高かったとのこと。
南北アメリカでは9.1%だが、中国・日本・大韓民国の東北アジアでは29.8%、これが南アジアとなると、実に45.6%にも上る。
これだけ出現頻度が変わると、自ずと治療戦略も変わってくる。
しかし、こうして眺めていると、中国・香港・シンガポール・台湾を1グループにすると、民族的背景から考えてもしっくりくるような気がする。
数字だけ見れば、日本・大韓民国・インドがとても近い。

いずれまた、別の切り口からもこの論文のデータを取り上げてみたい。
Worldwide Frequency of Commonly Detected EGFR Mutations
Rondell P. Graham et al., Arch Pathol Lab Med. 2018;142:163–167
doi: 10.5858/arpa.2016-0579-CP
EGFR遺伝子変異の国別分布。
論文中では、南アジアでEGFR遺伝子変異の出現頻度が最も高かったとのこと。
南北アメリカでは9.1%だが、中国・日本・大韓民国の東北アジアでは29.8%、これが南アジアとなると、実に45.6%にも上る。
これだけ出現頻度が変わると、自ずと治療戦略も変わってくる。
しかし、こうして眺めていると、中国・香港・シンガポール・台湾を1グループにすると、民族的背景から考えてもしっくりくるような気がする。
数字だけ見れば、日本・大韓民国・インドがとても近い。

いずれまた、別の切り口からもこの論文のデータを取り上げてみたい。
2020年10月15日
CheckMate816試験・・・まだまだこれから
2020/10/08付で、小野薬品工業が以下のプレスリリースを発出した。
オプジーボと化学療法の併用療法が、切除可能な非小細胞肺がんの術前補助療法での第Ⅲ相 CheckMate -816 試験において統計学的に有意な病理学的完全奏効の改善を示す
https://www.ono.co.jp/jpnw/PDF/n20_1008.pdf
ポイントを抜粋すると、
・Checkmate -816 試験は、切除可能な非小細胞肺がん患者の術前補助療法として、オプジーボと化学療法の併用療法を化学療法と比較評価した多施設共同無作為化非盲検第Ⅲ相試験です
・一次解析には、患者約 358 例が登録され、オプジーボ 360 mg と組織型に基づくプラチナ製剤を含む化学療法 2 剤との併用療法を 3 週間間隔で最大 3 回投与する群、またはプラチナ製剤を含む化学療法 2 剤を 3 週間間隔で最大 3 回投与する群のいずれかに無作為に割り付けられ、その後、手術が施行されました
・本試験の主要評価項目は、病理学的完全奏効(pCR)=切除組織にがん細胞を認めないこと、および無イベント生存期間です
・主要な副次評価項目は、全生存期間(OS)、Major Pathological Response(MPR)および死亡または遠隔転移までの期間です
・本試験において、術前にオプジーボ(一般名:ニボルマブ)と化学療法の併用療法を受けた患者群では、化学療法を受けた患者群と比較し
て、切除組織にがん細胞を認めない患者数が有意に多かったことを示しました
・CheckMate -816試験は、非進行 NSCLC の術前補助療法で、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法がベネフィットを示した初めてで唯一の第Ⅲ相試験です
古典的な考え方をすれば、肺がん治療における唯一絶対の評価項目は、全生存期間である。
早い話が、長生きが目的ですよということ。
しかし、全生存期間の評価には、時間もかかれば手間もかかる。
そのため、全生存期間に代わる代替エンドポイントとして、無再発もしくは無増悪生存期間が主要評価項目として用いられることが近年著しく多くなった。
本試験ではさらに一歩進んで、切除された病巣を顕微鏡で確認し、どの程度の腫瘍細胞が死滅せずに残っているか、という調査を行った。
今のところはニボルマブ+化学療法の組み合わせでpCR率が上がるかどうかのデータしかなく、これだけで何かの結論を出すのは拙速と言わざるをえない。
無イベント生存期間と全生存期間のデータが明らかにされて、初めて本試験の意義が示されるだろう。
pCR率の向上、果たして長生きにつながるのか。
オプジーボと化学療法の併用療法が、切除可能な非小細胞肺がんの術前補助療法での第Ⅲ相 CheckMate -816 試験において統計学的に有意な病理学的完全奏効の改善を示す
https://www.ono.co.jp/jpnw/PDF/n20_1008.pdf
ポイントを抜粋すると、
・Checkmate -816 試験は、切除可能な非小細胞肺がん患者の術前補助療法として、オプジーボと化学療法の併用療法を化学療法と比較評価した多施設共同無作為化非盲検第Ⅲ相試験です
・一次解析には、患者約 358 例が登録され、オプジーボ 360 mg と組織型に基づくプラチナ製剤を含む化学療法 2 剤との併用療法を 3 週間間隔で最大 3 回投与する群、またはプラチナ製剤を含む化学療法 2 剤を 3 週間間隔で最大 3 回投与する群のいずれかに無作為に割り付けられ、その後、手術が施行されました
・本試験の主要評価項目は、病理学的完全奏効(pCR)=切除組織にがん細胞を認めないこと、および無イベント生存期間です
・主要な副次評価項目は、全生存期間(OS)、Major Pathological Response(MPR)および死亡または遠隔転移までの期間です
・本試験において、術前にオプジーボ(一般名:ニボルマブ)と化学療法の併用療法を受けた患者群では、化学療法を受けた患者群と比較し
て、切除組織にがん細胞を認めない患者数が有意に多かったことを示しました
・CheckMate -816試験は、非進行 NSCLC の術前補助療法で、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法がベネフィットを示した初めてで唯一の第Ⅲ相試験です
古典的な考え方をすれば、肺がん治療における唯一絶対の評価項目は、全生存期間である。
早い話が、長生きが目的ですよということ。
しかし、全生存期間の評価には、時間もかかれば手間もかかる。
そのため、全生存期間に代わる代替エンドポイントとして、無再発もしくは無増悪生存期間が主要評価項目として用いられることが近年著しく多くなった。
本試験ではさらに一歩進んで、切除された病巣を顕微鏡で確認し、どの程度の腫瘍細胞が死滅せずに残っているか、という調査を行った。
今のところはニボルマブ+化学療法の組み合わせでpCR率が上がるかどうかのデータしかなく、これだけで何かの結論を出すのは拙速と言わざるをえない。
無イベント生存期間と全生存期間のデータが明らかにされて、初めて本試験の意義が示されるだろう。
pCR率の向上、果たして長生きにつながるのか。
2020年10月14日
肺がん患者とメディア
大上段に構えたようなタイトルだが、内容は他愛ない。
夕食をとってしばらくし、世間の流れを掴もうとうずたかく積まれた未読の新聞をめくっていたら、妻がおもむろに以下の記事を読んでごらんと言ってiPadをよこした。
【コロナ禍のがん闘病記〜ステージIVからの生還】ステージIVの肺がんで高熱と意識障害…突然の危篤状態に
https://news.goo.ne.jp/article/fuji/life/fuji-hea2010130002.html
IV期肺がんの薬物療法中、敗血症を合併して、かかりつけの病院に緊急搬送され、治療を受けたとのこと。
新型コロナウイルス流行のさなかとは言え、かかりつけ病院として当然の対応をしたまでだろう。
これで救急診療受け入れを断るようなら、その病院ではがん薬物療法をするべきではない。
5回シリーズということなので、次の展開を期待したい。
夕食をとってしばらくし、世間の流れを掴もうとうずたかく積まれた未読の新聞をめくっていたら、妻がおもむろに以下の記事を読んでごらんと言ってiPadをよこした。
【コロナ禍のがん闘病記〜ステージIVからの生還】ステージIVの肺がんで高熱と意識障害…突然の危篤状態に
https://news.goo.ne.jp/article/fuji/life/fuji-hea2010130002.html
IV期肺がんの薬物療法中、敗血症を合併して、かかりつけの病院に緊急搬送され、治療を受けたとのこと。
新型コロナウイルス流行のさなかとは言え、かかりつけ病院として当然の対応をしたまでだろう。
これで救急診療受け入れを断るようなら、その病院ではがん薬物療法をするべきではない。
5回シリーズということなので、次の展開を期待したい。
2020年10月10日
2019年の死亡統計
日本人の死因と言えば、自分自身が医学生だったころから、1位は悪性新生物、2位は心疾患、3位は脳血管疾患と相場が決まっていた。
これがここ数年で頻繁に入れ替わっている。
まず、肺炎が脳血管疾患を抑えて3位になった。
そうかと思いきや、肺炎が亜分類され、肺炎と誤嚥性肺炎に分けて処理されるようになり、2017年からは脳血管疾患が3位に返り咲いた。
肺炎と誤嚥性肺炎を合計すると、いまでも3位である。
やれやれと思っていたら、老衰が脳血管疾患より上位に来るようになった。
そもそも、我々は死亡診断書に「心不全」とか、「老衰」とか書いてはならないと教育されて生きてきた。
その老衰が死因のトップ3に入っていいのかよ、と愚痴りたくなってしまう。
しかしながら、超高齢者の診療をしていると、どうしても老衰としか表現できないような患者さんに遭遇する。
何となく元気がなくなり、何となく食事を食べなくなり、何となく弱って、文字通りともしびが消えるように亡くなっていく。
入院中で各種検査が可能な患者さんですらそうした経過を取り得るので、在宅診療となれば、老衰としか診断できない患者さんは相当数いらっしゃるだろう。
老衰が3位に入ったのは、在宅診療が我が国に根付きつつあるひとつの傍証なのではないかと、個人的に感じている。
悪性新生物が不動の死因第1位であることはゆるぎないが、その中でも部位別にみていくと、肺がんは堂々の第1位である。
全体で1位、男性で1位、女性でも1位であり、全く他の追随を許さない。
それから、膵がんがこんなに上位に来ているとは知らなかった。



これがここ数年で頻繁に入れ替わっている。
まず、肺炎が脳血管疾患を抑えて3位になった。
そうかと思いきや、肺炎が亜分類され、肺炎と誤嚥性肺炎に分けて処理されるようになり、2017年からは脳血管疾患が3位に返り咲いた。
肺炎と誤嚥性肺炎を合計すると、いまでも3位である。
やれやれと思っていたら、老衰が脳血管疾患より上位に来るようになった。
そもそも、我々は死亡診断書に「心不全」とか、「老衰」とか書いてはならないと教育されて生きてきた。
その老衰が死因のトップ3に入っていいのかよ、と愚痴りたくなってしまう。
しかしながら、超高齢者の診療をしていると、どうしても老衰としか表現できないような患者さんに遭遇する。
何となく元気がなくなり、何となく食事を食べなくなり、何となく弱って、文字通りともしびが消えるように亡くなっていく。
入院中で各種検査が可能な患者さんですらそうした経過を取り得るので、在宅診療となれば、老衰としか診断できない患者さんは相当数いらっしゃるだろう。
老衰が3位に入ったのは、在宅診療が我が国に根付きつつあるひとつの傍証なのではないかと、個人的に感じている。
悪性新生物が不動の死因第1位であることはゆるぎないが、その中でも部位別にみていくと、肺がんは堂々の第1位である。
全体で1位、男性で1位、女性でも1位であり、全く他の追随を許さない。
それから、膵がんがこんなに上位に来ているとは知らなかった。



2020年10月09日
ニボルマブも4週間ごとの長期投与可能に
以前、ペンブロリズマブが6週間ごとの投与が可能になったと記した。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e978519.html
2020/09/25付で、ニボルマブも4週間ごとの投与が可能になったらしい。
https://www.opdivo.jp/
4週ごとであれ、6週ごとであれ、投与間隔が長くなって患者・家族・医療関係者すべての負担が軽くなることは喜ばしい。
もちろん、病状の悪化、副作用の出現など、必要なときにはためらわずに早く受診するべきなのは、言うまでもない。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e978519.html
2020/09/25付で、ニボルマブも4週間ごとの投与が可能になったらしい。
https://www.opdivo.jp/
4週ごとであれ、6週ごとであれ、投与間隔が長くなって患者・家族・医療関係者すべての負担が軽くなることは喜ばしい。
もちろん、病状の悪化、副作用の出現など、必要なときにはためらわずに早く受診するべきなのは、言うまでもない。
2020年10月03日
ACTIVE試験:Apatinib+ゲフィチニブ併用療法...無増悪生存期間は延長したけれど
以下の記事で取り扱った、EGFR-TKI+血管新生阻害薬の話題の延長に、このACTIVE試験ものっかってくる。
ApatinibがVEGFR2を阻害する小分子化合物であるというところが、ベバシズマブやラムシルマブといった抗体医薬とは異なり、新しい。
経口薬であるということは、治療の受け入れやすさという点ではメリットかもしれない。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e980326.html
今回のESMOでは、Apatinib+ゲフィチニブ併用療法がゲフィチニブ単剤療法よりも有意に無増悪生存期間を延長したとのこと。
さて、副次評価項目とはいいながら、全生存期間がどのような結果になるのか。
また、治療効果予測因子としてTP53遺伝子変異が有望、というのは目新しい視点である。
TP53エクソン8遺伝子変異があると、Apatinib併用の方が有意にPFSを改善したとのこと。
ACTIVE: Apatinib plus gefitinib versus placebo plus gefitinib as first-line treatment for advanced epidermal growth factor receptor-mutant (EGFRm) non-small-cell lung cancer (NSCLC): A multicentered, randomized, double-blind, placebo-controlled phase III trial (CTONG1706)
Li Zhang et al., ESMO2020 Abst.#LBA50
背景:
血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)経路を阻害することにより、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんに対してEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の効果を高めることができる。ACTIVE試験は、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者に対する初回治療として、経口小分子VEGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるapatinibとゲフィチニブの併用療法の有効性を検証したプラセボ対照第III相臨床試験である。
方法:
治療歴のない古典的EGFR遺伝子変異(エクソン19欠失変異もしくはエクソン21-L858R点突然変異)陽性の患者を、apatinib 500mg/日+ゲフィチニブ250mg/日併用療法群(AG群)とプラセボ+ゲフィチニブ250mg/日併用療法群(G群)に1:1の割合で無作為に割り付けた。割付調整因子は、EGFR遺伝子変異タイプ、性別、PS(0または1)とした。主要評価項目は中央判定(IRRC)による無増悪生存期間(PFS)とした。副次評価項目は、担当医評価によるPFS、全生存期間、奏効割合、病勢コントロール割合、奏効持続期間、病勢進行までの期間、QoL、安全性とした。次世代シーケンサーを用いて治療開始前および病勢進行後の病巣サンプルを調べ、効果予測因子や耐性機序を検索した。
結果:
313人の患者が登録された(AG群 157人、G群 156人)。追跡期間中央値は15.8ヶ月(四分位間は12.6-20.4ヶ月)だった。主要評価項目であるIRRCによるPFSはAG群13.7ヶ月、G群10.2ヶ月で、AG群で有意に延長していた(ハザード比0.71、95%信頼区間0.54-0.95、p=0.0189)。担当医評価でもAG群の方が優位にPFSが延長していた(ハザード比0.71、95%信頼区間0.53-0.95)。全生存期間のデータは、データカットオフ時点では未成熟だった(有効イベント発生割合は29.4%)。奏効割合はAG群で77.1%、G群で73.7%と、有意差を認めなかった(p=0.5572)。エクソン19欠失変異患者(ハザード比0.67、95%信頼区間0.45-0.99)の方が、エクソン21点突然変異患者(ハザード比0.72、95%信頼区間0.48-1.09)よりハザード比がよかった。次世代シーケンサーによる解析では、TP53遺伝子変異陽性の患者において、ギリギリの優位さでPFSが良好だった(ハザード比0.56、95%信頼区間0.31-1.01) 。TP53エクソン8変異の患者では、apatinib+ゲフィチニブ併用療法で有意にPFSが改善していた(ハザード比0.24、95%信頼区間0.06-0.91)。Grade 3-4の有害事象は両群ともに同様であった。しかし、AG群では、高血圧(46.5%)と蛋白尿(17.8%)が見られた。
ApatinibがVEGFR2を阻害する小分子化合物であるというところが、ベバシズマブやラムシルマブといった抗体医薬とは異なり、新しい。
経口薬であるということは、治療の受け入れやすさという点ではメリットかもしれない。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e980326.html
今回のESMOでは、Apatinib+ゲフィチニブ併用療法がゲフィチニブ単剤療法よりも有意に無増悪生存期間を延長したとのこと。
さて、副次評価項目とはいいながら、全生存期間がどのような結果になるのか。
また、治療効果予測因子としてTP53遺伝子変異が有望、というのは目新しい視点である。
TP53エクソン8遺伝子変異があると、Apatinib併用の方が有意にPFSを改善したとのこと。
ACTIVE: Apatinib plus gefitinib versus placebo plus gefitinib as first-line treatment for advanced epidermal growth factor receptor-mutant (EGFRm) non-small-cell lung cancer (NSCLC): A multicentered, randomized, double-blind, placebo-controlled phase III trial (CTONG1706)
Li Zhang et al., ESMO2020 Abst.#LBA50
背景:
血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)経路を阻害することにより、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんに対してEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の効果を高めることができる。ACTIVE試験は、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者に対する初回治療として、経口小分子VEGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるapatinibとゲフィチニブの併用療法の有効性を検証したプラセボ対照第III相臨床試験である。
方法:
治療歴のない古典的EGFR遺伝子変異(エクソン19欠失変異もしくはエクソン21-L858R点突然変異)陽性の患者を、apatinib 500mg/日+ゲフィチニブ250mg/日併用療法群(AG群)とプラセボ+ゲフィチニブ250mg/日併用療法群(G群)に1:1の割合で無作為に割り付けた。割付調整因子は、EGFR遺伝子変異タイプ、性別、PS(0または1)とした。主要評価項目は中央判定(IRRC)による無増悪生存期間(PFS)とした。副次評価項目は、担当医評価によるPFS、全生存期間、奏効割合、病勢コントロール割合、奏効持続期間、病勢進行までの期間、QoL、安全性とした。次世代シーケンサーを用いて治療開始前および病勢進行後の病巣サンプルを調べ、効果予測因子や耐性機序を検索した。
結果:
313人の患者が登録された(AG群 157人、G群 156人)。追跡期間中央値は15.8ヶ月(四分位間は12.6-20.4ヶ月)だった。主要評価項目であるIRRCによるPFSはAG群13.7ヶ月、G群10.2ヶ月で、AG群で有意に延長していた(ハザード比0.71、95%信頼区間0.54-0.95、p=0.0189)。担当医評価でもAG群の方が優位にPFSが延長していた(ハザード比0.71、95%信頼区間0.53-0.95)。全生存期間のデータは、データカットオフ時点では未成熟だった(有効イベント発生割合は29.4%)。奏効割合はAG群で77.1%、G群で73.7%と、有意差を認めなかった(p=0.5572)。エクソン19欠失変異患者(ハザード比0.67、95%信頼区間0.45-0.99)の方が、エクソン21点突然変異患者(ハザード比0.72、95%信頼区間0.48-1.09)よりハザード比がよかった。次世代シーケンサーによる解析では、TP53遺伝子変異陽性の患者において、ギリギリの優位さでPFSが良好だった(ハザード比0.56、95%信頼区間0.31-1.01) 。TP53エクソン8変異の患者では、apatinib+ゲフィチニブ併用療法で有意にPFSが改善していた(ハザード比0.24、95%信頼区間0.06-0.91)。Grade 3-4の有害事象は両群ともに同様であった。しかし、AG群では、高血圧(46.5%)と蛋白尿(17.8%)が見られた。
2020年10月01日
オシメルチニブ+ベバシズマブ併用療法:既治療T790M陽性肺腺がんでは優越性を示せず
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬と血管増殖因子阻害薬の併用と聞いて想起されるのは、JO25567試験、NEJ026試験、RELAY試験といったところだろうか。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e944390.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e974779.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e960414.html
エルロチニブを基軸として、血管増殖因子阻害薬はベバシズマブを使うか、ラムシルマブを使うか。
こうした臨床試験結果をまとめたのがこちらの一覧。

一方、未治療進行EGFR変異陽性非小細胞肺がんに対し、初回単剤治療を行うならば現時点で最強なのはオシメルチニブであることは論を待たないだろう。
じゃあ、そのオシメルチニブにベバシズマブやラムシルマブを併用したらどうか、という発想は当然出てくる。
オシメルチニブとベバシズマブ併用療法を検証する第III相試験がEA5182試験。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04181060

オシメルチニブとラムシルマブ併用療法を検証するランダム化第II相試験がTORG1833試験である。
TORG1833試験は既に患者登録が終わっており、現在追跡調査中とのことである。
さて、以上の臨床試験群は、いずれも治療歴のない患者が対象だった。
今回ESMO2020の演題から取り上げるのは、既治療進行EGFR陽性肺腺がんのうち、再生検でT790M陽性が確認された患者を対象として、オシメルチニブとベバシズマブ併用療法の有効性と安全性を検証したものだった。
意外なことに、少なくとも無増悪生存期間、治療打ち切りまでの期間はオシメルチニブ単剤と比較して有意に劣っており、全生存期間でようやっと引き分けという有様だった。
既治療の患者にはあまり有効な治療戦略ではないのかもしれない。
A randomized phase II study of osimertinib with or without bevacizumab in advanced lung adenocarcinoma patients with EGFR T790M mutation (West Japan Oncology Group 8715L)
Yukihiro Toi et al., ESMO 2020 Abst.#1259O
背景:
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬と血管増殖因子阻害薬の併用療法が、EGFR遺伝子変異陽性肺腺がんの患者に対して有望な治療戦略であることは数件の臨床試験で示されていたが、これらは全て第1世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に関するエビデンスだった。前臨床試験では、EGFR T790M変異モデルにおいてもこうした併用療法が有効である可能性が示されていた。そのため、T790M変異陽性進行肺腺がん患者に対して、オシメルチニブ+ベバシズマブ併用療法を行って有効性と安全性を検証することは興味深い。
方法:
第3世代以外のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬で治療をした後に病勢進行に至った進行肺腺がん患者で、T790M変異陽性が確認されたものを対象として、オシメルチニブ単剤(80mg/日)投与群(=O群)と、オシメルチニブ+ベバシズマブ(15mg/kgを3週間ごとに点滴投与)併用療法群(=OB群)に1:1の割合で割り付けた。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)とした。副次評価項目は奏効割合(ORR)、治療打ち切りまでの期間(TTF)、全生存期間(OS)、安全性とした。O群の無増悪生存期間中央値を9ヶ月と見積もり、OB群がハザード比0.55でO群を上回ると仮定して、80%の検出率、両側検定での有意水準を0.20と設定し、サンプルサイズは80人とした。
結果:
2017年8月から2018年9月の期間に、81人の患者を集積し、無作為割付した(O群41人、OB群40人)。年齢中央値は68歳(41-82歳)、男性が41%、III期 / IV期 / 術後再発がそれぞれ7% / 70% / 22%だった。PS 0 / 1は46% / 54%だった。脳転移合併は26%だった。化学療法の前治療歴がある患者は21%だった。患者背景は両群で同様だった。奏効割合はOB群の方がよかった(OB群 68% vs O群54%)が、PFS中央値はOB群で短縮していた(OB群 9.4ヶ月 vs O群 13.5ヶ月、ハザード比 1.44、95%信頼区間は1.00-2.08, p=0.20)。TTF中央値もまた、OB群で短縮していた(OB群 8.4ヶ月 vs O群 11.2ヶ月, ハザード比 1.54, p=0.12)。OS中央値は両群で同等だった(OB群 未到達 vs O群 22.1ヶ月, p=0.96)。OB群で高頻度だったGrade 3以上の有害事象は、蛋白尿(23%)、高血圧(20%)、感染症(10%)だった。
結論:
O群と比較して、OB群はT790M変異陽性の進行肺腺がん患者のPFSを延長することはできなかった。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e944390.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e974779.html
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e960414.html
エルロチニブを基軸として、血管増殖因子阻害薬はベバシズマブを使うか、ラムシルマブを使うか。
こうした臨床試験結果をまとめたのがこちらの一覧。

一方、未治療進行EGFR変異陽性非小細胞肺がんに対し、初回単剤治療を行うならば現時点で最強なのはオシメルチニブであることは論を待たないだろう。
じゃあ、そのオシメルチニブにベバシズマブやラムシルマブを併用したらどうか、という発想は当然出てくる。
オシメルチニブとベバシズマブ併用療法を検証する第III相試験がEA5182試験。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04181060

オシメルチニブとラムシルマブ併用療法を検証するランダム化第II相試験がTORG1833試験である。
TORG1833試験は既に患者登録が終わっており、現在追跡調査中とのことである。
さて、以上の臨床試験群は、いずれも治療歴のない患者が対象だった。
今回ESMO2020の演題から取り上げるのは、既治療進行EGFR陽性肺腺がんのうち、再生検でT790M陽性が確認された患者を対象として、オシメルチニブとベバシズマブ併用療法の有効性と安全性を検証したものだった。
意外なことに、少なくとも無増悪生存期間、治療打ち切りまでの期間はオシメルチニブ単剤と比較して有意に劣っており、全生存期間でようやっと引き分けという有様だった。
既治療の患者にはあまり有効な治療戦略ではないのかもしれない。
A randomized phase II study of osimertinib with or without bevacizumab in advanced lung adenocarcinoma patients with EGFR T790M mutation (West Japan Oncology Group 8715L)
Yukihiro Toi et al., ESMO 2020 Abst.#1259O
背景:
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬と血管増殖因子阻害薬の併用療法が、EGFR遺伝子変異陽性肺腺がんの患者に対して有望な治療戦略であることは数件の臨床試験で示されていたが、これらは全て第1世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に関するエビデンスだった。前臨床試験では、EGFR T790M変異モデルにおいてもこうした併用療法が有効である可能性が示されていた。そのため、T790M変異陽性進行肺腺がん患者に対して、オシメルチニブ+ベバシズマブ併用療法を行って有効性と安全性を検証することは興味深い。
方法:
第3世代以外のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬で治療をした後に病勢進行に至った進行肺腺がん患者で、T790M変異陽性が確認されたものを対象として、オシメルチニブ単剤(80mg/日)投与群(=O群)と、オシメルチニブ+ベバシズマブ(15mg/kgを3週間ごとに点滴投与)併用療法群(=OB群)に1:1の割合で割り付けた。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)とした。副次評価項目は奏効割合(ORR)、治療打ち切りまでの期間(TTF)、全生存期間(OS)、安全性とした。O群の無増悪生存期間中央値を9ヶ月と見積もり、OB群がハザード比0.55でO群を上回ると仮定して、80%の検出率、両側検定での有意水準を0.20と設定し、サンプルサイズは80人とした。
結果:
2017年8月から2018年9月の期間に、81人の患者を集積し、無作為割付した(O群41人、OB群40人)。年齢中央値は68歳(41-82歳)、男性が41%、III期 / IV期 / 術後再発がそれぞれ7% / 70% / 22%だった。PS 0 / 1は46% / 54%だった。脳転移合併は26%だった。化学療法の前治療歴がある患者は21%だった。患者背景は両群で同様だった。奏効割合はOB群の方がよかった(OB群 68% vs O群54%)が、PFS中央値はOB群で短縮していた(OB群 9.4ヶ月 vs O群 13.5ヶ月、ハザード比 1.44、95%信頼区間は1.00-2.08, p=0.20)。TTF中央値もまた、OB群で短縮していた(OB群 8.4ヶ月 vs O群 11.2ヶ月, ハザード比 1.54, p=0.12)。OS中央値は両群で同等だった(OB群 未到達 vs O群 22.1ヶ月, p=0.96)。OB群で高頻度だったGrade 3以上の有害事象は、蛋白尿(23%)、高血圧(20%)、感染症(10%)だった。
結論:
O群と比較して、OB群はT790M変異陽性の進行肺腺がん患者のPFSを延長することはできなかった。