2011年02月28日

イレッサ副作用訴訟

EGFR遺伝子変異陽性肺癌患者には大いなる福音であるイレッサですが、副作用訴訟問題で判決が出ました。
詳細は、下記のリンクを参照ください。

http://www.asahi.com/health/news/OSK201102250081.html

読む人によって感じることは様々だと思います。
しかし、私は医療従事者として、今回のことで服用を見合わせて、折角の治療機会を逸する患者さんが増えることが心配です。

1995年に発表された論文とイレッサの国内第III相臨床試験の結果を単純に比べると、寿命が5倍に延長しています。
少なくとも、EGFR遺伝子変異陽性肺癌患者さんには、それだけの意義のある治療です。
それを踏まえた上で、もう一度リンク先の記事を読んでみてください。
製薬会社はきっと、日本での新薬販売を控えたくなります。
結果として日本のドラッグラグは更に加速するでしょう。
悲しいことです。  

Posted by tak at 23:55Comments(0)個別化医療

2011年02月26日

高額医療費貸付制度

昨日、ある製薬会社主催の講演会があって、出席してきました。
主たる内容は薬の効果や副作用に関するものでした。
しかし、1演題だけ、医療経済に関する内容が含まれていました。
私がいつもお世話になっている医療ソーシャルワーカーのKさんがお話ししてくださいました。

以前、とんでもない高額医療の臨床試験が、現在標準治療化を目指して進行中であると書きました。
1ヶ月当たり1250000円が、主な薬価だけでかかります。
健康保険で3割負担に軽減されたとしても375000円です。
1ヶ月40万円も薬代を払える患者さんなんて、どれだけいるでしょうか。
公平を期すならば、臨床試験の患者適格基準として、これだけの経済的負担に耐えうる患者、という項目を加えるべきです。

しかし、我が国は世界に誇る「国民皆保険制度」を敷いています。
国の財政を大きく圧迫しているのも事実ですが、我々は恵まれた環境に置かれています。
さらに、自己負担の最高額には上限があり、一旦支払い後に申請をすればあとから上限額以上の自己負担分は償還をうけることができます。
さらに、一旦支払いをするにあたり、高額医療費貸付制度を利用すれば、かかる医療費総額の80%までは貸付を受けることができるそうです。

ただし、健康保険料の支払いに滞納が無いなど、一定の条件が必要です。
高額な医療が今後も幅を利かせるようになればいずれ国の経済や医療は破綻しますが、患者さんはそうも言っていられません。
癌の治療を受ける患者さんは、一度は病院の窓口もしくは医療相談室などで、支払いに関する相談をされる事をお勧めします。  

Posted by tak at 14:13Comments(0)

2011年02月24日

ガンマナイフの適応

ガンマナイフの適応について、コメントを頂きました。
一般的には「病巣径2cm以内、腫瘍数5個以内」というあたりが基準だったように思います。

ですが、治療後の経過を考えると、出来る限り適用したいというのがホンネです。
最近治療依頼した患者さんは、これまでの4年以上の病歴で20ヶ所以上の脳転移巣をガンマナイフで治療しています。
前回治療してから今回までに2ヶ月とたっていませんが、もう新病巣が出現していました。
全脳照射も考えましたが、この方は3月に初孫の誕生を控えておられます。
できるだけいい状態でお孫さんに会わせて差し上げたいと思い、敢えてガンマナイフを選択しました。

「専門家に相談して、医学的に妥当で、患者さんの幸せにもつながるなら治療適応あり」
であれば、治療適応ありです。
一見手術や放射線治療適応がなさそうな患者さんでも、一度は外科医、放射線科医に熱意を持って相談してみるべきなのと同じです。  

Posted by tak at 22:59Comments(0)その他

2011年02月23日

脳転移の治療

脳転移の治療は、肺癌の治療体系の中でも少し特殊です。
病巣によっては一気に身体能力が悪化し、治療が行き詰ってしまいます。
したがって、迅速な評価と治療戦略の決定が要求されます。
さらに、薬物療法の効果はあまり期待できない(例外もありますが)ので、放射線治療が主役です。

従来は全脳照射という方法がとられてきました。
2週間くらいかけて脳全体に放射線治療を行います。
画像検査では見えない病巣までたたいてくれるのは利点ですが、一生に一度しか行えません。
頭痛や吐き気、認知症の進行の可能性があります。

一方で、ガンマナイフやサイバーナイフといった特殊な放射線治療機械が臨床応用されました。
簡単に言うと、脳の中でも病巣のみを狙い撃ちにして、他の部位への影響はできるだけ軽減したものです。
高額な治療ですが、何度でも反復して行う体力がある限りは、病巣が出るごとに治療を反復できます。

また、予防的全脳照射というものがあります。
もともとは限局型の小細胞癌患者がCRまたはgood PRに至ったときに行います。
脳転移再発の可能性を低くするためです。
しかし、近年の報告では、進展型小細胞癌の患者でも寿命が延びたというような話があります。
同様の内容は、局所進行の非小細胞癌では効果がありませんでした。

分子標的薬も、ときに脳転移や髄膜炎に劇的に効くようです。  

Posted by tak at 23:28Comments(1)その他

2011年02月18日

吐き気止め

抗腫瘍薬と共に、この10年で制吐薬の使用法も変わりました。
高度の吐き気を誘発する化学療法においては、現行の制吐薬ガイドラインでは3種類の薬を併用するように勧めています。
当院では、パロノセトロン(アロキシ)、アプレピタント(イメンド)、デキサメサゾン(デカドロン)を併用することが多いです。

確かに、私が研修医だった1999年-2000年頃に比べると、強い吐き気で悩む患者さんは減少したように思います。
しかし、新しい制吐薬も新しい抗腫瘍薬同様、非常に高いお薬です。
パロノセトロンは治療初日に1バイアル、14522円です。
アプレピタントは初日125mg、2日目、3日目に80mgずつ内服しますが、それぞれ1錠4945円、3380円ですから、3日間で11705円かかります。
デカドロンは1日約8mgを3日間使用したとして、1491円です。
しめて、制吐薬だけで27718円かかります。
抗腫瘍薬の価格に比べると微々たるものと感じられるかもしれません。
ですが、これはあくまで、化学療法に伴う副作用を和らげるための治療です。
必要不可欠な治療ですが、私は大変高価だと感じます。  

Posted by tak at 18:24Comments(0)支持療法

2011年02月09日

過去のレントゲンやCT写真

呼吸器内科医として診療していると
「患者さんの写真を撮ったら影があったので、見てもらえませんか」
と相談を受けることが多々あります。
異常を指摘された際の写真だけだと、いろいろな病気の可能性を考えます。
僕はいつも
「無症状で肺にコインのような影があったら、結核と肺癌の可能性は考えておかないといけませんね」
とお話しすることにしています。

ですが、少なくとも良性か悪性か大雑把に見極めるほう方がひとつあります。
過去の写真と比較することです。
一定期間前の写真と比較して、影に変化がないか、もしくは縮んでいれば、それだけで癌ではないだろうと察しがつきます。
自然に退縮する癌は(全くないとは言いませんが)ほとんどないからです。

肺に影があるといわれたら、詳しい検査を受ける前に、まずは過去の写真を探しましょう。
健康診断のフィルム、他の病気で病院を受診した際のフィルム、なんでもいいです。
手元に集めたら、それを病院に持っていって比較してもらいましょう。

いろんな病院にかかっていると、その分過去のフィルムを集める労力も多くなります。
毎年定例で胸部レントゲンやCTを撮影しておいたり、かかりつけの病院を決めておくと、こんなときに役に立ちます。

  

Posted by tak at 21:50Comments(0)その他

2011年02月03日

適応

病院で仕事をしていると、よく「適応」という言葉が話題に上ります。
一般的には「生物の性質が、その環境下で生きていくのに都合よくできていること、もしくはそうなっていく過程」と理解されています。
しかし、この業界では、「治療や検査など医療行為の正当性、妥当性」という意味で使われます。

「この病巣には関連した気管支がなく、気管支鏡の適応がない」
「初期の肺癌の可能性が高いが脳梗塞後遺症のため寝たきりで、治療はおろか検査の適応も危ぶまれる」
といった具合に用いられます。

この適応の判断が非常に難しい患者さんが少なからずいます。
未だに、毎日苦悩します。
肺癌領域では一般に
「自分の身の回りの世話が自分で出来ないくらい日常生活動作に障害のある患者さんには、抗癌薬投与の適応はない」
とされます。
抗癌薬治療をすることによって、かえって寿命を短くしてしまう可能性が高いことが証明されているからです。

患者さんにとっての本当の幸せは何なのか。
いつでも出発点はそこです。
そこからさかのぼって、いろいろな要因を加味しながら、検査や治療の適応を考えていきます。
  

Posted by tak at 22:38Comments(0)個別化医療

2011年02月01日

電子カルテ

10年前に比べると、電子カルテが医療現場にかなり浸透してきました。
私が医師になった1999年は、まだ検査や薬のオーダリングがパソコンで運用されていた程度でした。
当時は検査ラベルを試験管に貼る機器がしょっちゅう故障して、とても大変でした。
レントゲン等のオーダーは手書きの依頼書で行い、病棟での出張撮影は担当医が行っていました。

当院では、昨年の今頃から本格的に電子カルテ化しました。
それなりの混乱はありましたが、職員はそろそろ取り扱いに慣れてきたようです。

しかし、明らかな弊害もあります。
医師がパソコン画面ばかり見ていて、患者のほうに顔を向けないとの批判がしばしば聞かれます。
カルテばかり見て患者を見ない、という批判はあまり聞いたことがないのですが。
確かに、ディスプレイを見ながらブラインドタッチでカルテを書いてばかりいる医師には、むっとするかもしれません。
しかし、診察をちゃんとしているのであれば、どうか目をつぶってあげてください。
慣れない業務を強いられて、医師も悪戦苦闘しているのです。

9時から5時までの8時間、昼食も摂らずみっちり外来診療したとします。
1人15分の診療時間に抑えたとしても、1日に診察できる患者さんは32人です。
悪い知らせを伝えるための面談や、治療方針を検討する面談が入れば、どんどん診察可能患者数は減ります。
更に、診察する患者さんが全て予約患者さんとは限りません。
予約外で受診した患者さんと、予約時間どおりに来た患者さんの狭間で、どちらを優先するべきか、外来医はいつも苦しんでいます。
主治医が1日に何人の患者さんを診察しているか、あなたは知っていますか。
もし体調が悪くて予約外の受診をするにしても、事前に電話連絡を入れるくらいのエチケットは必要です。
そうすれば、いつ頃受診すればスムーズに診察できるか教えてくれるはずです。
それまで待てないのなら、救急外来を受診するべきでしょう。

電子カルテ導入以前から、上記のような問題は慢性的にあります。
さらに、電子カルテはひとたびパソコンの不具合が起これば完全に診療が滞ります。
実際にしばしばトラブルが起こっており、スタッフも患者さんも結構なストレスにさらされます。  

Posted by tak at 21:03Comments(0)その他