2015年04月24日
ドライバー遺伝子変異検索 / LC-scrum Japan
最近になって病勢進行と判定してしまった患者さんがいて、二次治療をどうしようか悩んでいます。
壮年の女性、IV期の原発性肺腺癌で、シスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法から、ペメトレキセド維持療法に進んでいました。
維持療法③コースを終えたところで、多発肺内転移、副腎転移が新たに見つかってしまいました。
非喫煙者の、比較的若年の女性でありながら、EGFR遺伝子変異、ALK遺伝子再構成もなく、どうも釈然としません。
このまま標準二次治療のドセタキセルに進むのが普通の流れですが、LC-scrum Japanの枠組みで遺伝子変異を網羅的に調べるように画策しています。
なんらかの分子標的薬の適応があれば、治療効果もQoLも格段に違ってきます。
LC-scrum Japanは、希少なドライバー遺伝子変異を次世代遺伝子シーケンサー等で検出する臨床研究です。もともとはRET遺伝子再構成陽性患者さんを見つけて、RET阻害活性のあるバンデタニブの臨床試験参加を目指す目的だったのですが、その他ROS1、BRAF,ERBB2,KRAS,NRAS,PIK3CA等々、網羅的に検索することになっているようです。
EGFR遺伝子変異陰性が確認された非小細胞肺癌患者さんが対象で、がん病巣の生検検体もしくは手術標本を凍結して国立がん研究センター東病院に送って検索していただく流れになっています。
http://www.47news.jp/feature/medical/2014/12/post-1212.html
幸いこの患者さんは原発巣、縦隔リンパ節いずれからも生検が可能な状態なため、遺伝子変異スクリーニングを目指すことにしました。
壮年の女性、IV期の原発性肺腺癌で、シスプラチン+ペメトレキセド併用化学療法から、ペメトレキセド維持療法に進んでいました。
維持療法③コースを終えたところで、多発肺内転移、副腎転移が新たに見つかってしまいました。
非喫煙者の、比較的若年の女性でありながら、EGFR遺伝子変異、ALK遺伝子再構成もなく、どうも釈然としません。
このまま標準二次治療のドセタキセルに進むのが普通の流れですが、LC-scrum Japanの枠組みで遺伝子変異を網羅的に調べるように画策しています。
なんらかの分子標的薬の適応があれば、治療効果もQoLも格段に違ってきます。
LC-scrum Japanは、希少なドライバー遺伝子変異を次世代遺伝子シーケンサー等で検出する臨床研究です。もともとはRET遺伝子再構成陽性患者さんを見つけて、RET阻害活性のあるバンデタニブの臨床試験参加を目指す目的だったのですが、その他ROS1、BRAF,ERBB2,KRAS,NRAS,PIK3CA等々、網羅的に検索することになっているようです。
EGFR遺伝子変異陰性が確認された非小細胞肺癌患者さんが対象で、がん病巣の生検検体もしくは手術標本を凍結して国立がん研究センター東病院に送って検索していただく流れになっています。
http://www.47news.jp/feature/medical/2014/12/post-1212.html
幸いこの患者さんは原発巣、縦隔リンパ節いずれからも生検が可能な状態なため、遺伝子変異スクリーニングを目指すことにしました。
2015年04月21日
ニボルマブ、非扁平非小細胞肺癌でも有効
2015年度日本呼吸器学会総会の際に取り上げられていましたが、学会会期中の17日、ニボルマブが非扁平非小細胞肺癌でも有効であることが確認されたと、ブリストルマイヤーズスクイブ社がプレスリリースで発表しました。
扁平上皮癌(第III相CheckMate-017試験)に関するプレスリリースが発表されたのが2015年1月11日。
→http://news.bms.com/press-release/checkmate-017-phase-3-study-opdivo-nivolumab-compared-docetaxel-patients-second-line-s
それからFDAが承認したのが2015年3月4日。
→http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm436534.htm
今回の非扁平非小細胞肺癌(第III相CheckMate-057試験)に関するプレスリリースが発表されたのが2015年4月17日。
→http://news.bms.com/press-release/checkmate-057-pivotal-phase-iii-opdivo-nivolumab-lung-cancer-trial-stopped-early
・・・ということは、2か月後くらいには非扁平非小細胞肺癌でもFDAの承認が下りるかもしれません。
扁平上皮癌(第III相CheckMate-017試験)に関するプレスリリースが発表されたのが2015年1月11日。
→http://news.bms.com/press-release/checkmate-017-phase-3-study-opdivo-nivolumab-compared-docetaxel-patients-second-line-s
それからFDAが承認したのが2015年3月4日。
→http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm436534.htm
今回の非扁平非小細胞肺癌(第III相CheckMate-057試験)に関するプレスリリースが発表されたのが2015年4月17日。
→http://news.bms.com/press-release/checkmate-057-pivotal-phase-iii-opdivo-nivolumab-lung-cancer-trial-stopped-early
・・・ということは、2か月後くらいには非扁平非小細胞肺癌でもFDAの承認が下りるかもしれません。
2015年04月19日
EGFR阻害薬の使い方
今年の日本呼吸器学会総会では、この話題も頻繁に取り扱われていました。
ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブをどう使い分けるのか。
それぞれの特性を踏まえて使いましょうね、ということのようです。
簡単にまとめてみます。
なお、それぞれのEGFR阻害薬の毒性については、以下の論文にまとめられた統合解析の結果がよく話題にあがっていました。
Pooled safety analysis of EGFR-TKI treatment for EGFR mutation-positive non-small cell lung cancer.
Takeda M et al., Lung Cancer. 2015 Apr;88(1):74-9.
1)ゲフィチニブ
・最も歴史が古く、わが国発のものも含めてエビデンスが豊富
・QOLを低下させる毒性はもっとも軽い
・肝障害が問題
・用量が低めに設定されているためか、無増悪生存期間は他の二薬剤よりやや劣る
・脳転移にも有効で、ちゃんと臨床試験で証明されてもいるが、有効性が長続きしないきらいがある
・化学療法との同時併用(NEJ005/TCOG0902第II相試験:奏効割合87.8%、無増悪生存期間中央値18.3ヶ月、全生存期間中央値41.9ヶ月)、(近畿中央胸部疾患研究センターのCBDCA+S1+ゲフィチニブ第II相試験:奏効割合85.7%、無増悪生存期間中央値17.6ヶ月)、逐次併用(国立がん研究センターでの第II相試験、無増悪生存期間中央値19.5ヶ月)で有望な結果が報告されている
→Randomized phase II study of concurrent versus sequential alternating gefitinib and chemotherapy in previously untreated non-small cell lung cancer with sensitive EGFR mutations: NEJ005/TCOG0902. Sugawara S et al., Ann Oncol. 2015 Feb 10. pii: mdv063. [Epub ahead of print]
・ゲフィチニブと化学療法同時併用の第III相試験(NEJ009)は2014年9月に340人の患者集積が終了し、現在追跡調査期間中、あと2.5年は結論が出ないだろう
・PS不良例、高齢者に対する効果も第II相臨床試験で報告されている
・岡山大学のグループから、ゲフィチニブ+ベバシツマブ併用療法の第II相試験で、奏効割合73.8%、無増悪生存期間中央値14.4ヶ月(エクソン19変異では18ヶ月、エクソン21変異では9.4ヶ月)と有望な結果が報告されている
→Phase II trial of gefitinib in combination with bevacizumab as first-line therapy for advanced non-small cell lung cancer with activating EGFR gene mutations: the Okayama Lung Cancer Study Group Trial 1001. Ichihara E et al., J Thorac Oncol. 2015 Mar;10(3):486-91
・IMPRESS studyの結果を見る限り、ゲフィチニブで病勢進行となった後にbeyond PDで抗がん薬治療を上乗せしても奏効割合、病勢コントロール割合、無増悪生存期間は変わらず、全生存期間はむしろ劣っていた
2)エルロチニブ
・世界標準の治療で、海外のエビデンスが豊富
・EGFR遺伝子変異陰性の場合でも、二次、三次治療のエビデンスがある
・国内第II相試験(JO22903)での全生存期間は36.3ヶ月
・髄液移行性がゲフィチニブより優れることが示されており、脳転移や癌性髄膜炎の際にはより推奨される傾向にある
・脳転移で病勢進行となる割合は、JO22903試験では4%、ASPIRATION試験では4.3%と低率だった。
・皮膚や爪の毒性が強い
・きめ細かな減量に対応できるような製品ラインナップ
・無増悪生存期間はゲフィチニブよりやや優れ、アファチニブとほぼ同等
・欧州臨床試験では、高齢者に対するプラチナ併用化学療法後の維持療法として採用された
・エルロチニブ+ベバシツマブ併用療法の第II相試験(JO25567 study)で奏効割合69%、無増悪生存期間中央値16ヶ月と有望な結果が報告され、エクソン19、エクソン21どちらの患者群でも有効だった
→Erlotinib alone or with bevacizumab as first-line therapy in patients with advanced non-squamous non-small-cell lung cancer harbouring EGFR mutations (JO25567): an open-label, randomised, multicentre, phase 2 study. Seto T et al., Lancet Oncol. 2014 Oct;15(11):1236-44
・エルロチニブ+ベバシツマブ併用療法を第III相試験で検証することが望まれていたが、今学会期間中にNEJ026試験として正式に開始され、脳転移症例も組み入れること、病勢進行後に血中の腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell, CTC)をトラップして評価するliquid biopsyを行うこと、病勢進行後の治療もあらかじめ規定し、その後さらに病勢進行に至るまでの期間も解析することが決まった
3)アファチニブ
・現在日本で使うことのできる最強のEGFR阻害薬(第II世代のEGFR阻害薬)
・LUX-Lung 3と6の統合解析により、EGFR阻害薬が全生存期間を延長することが初めて証明された
・エクソン19変異ではより有効であることがわかった
・毒性が強く、これまでの治療概念とは異なる有害事象対策が必要
・ゲフィチニブ、エルロチニブと比較して、エクソン20(T790M)の耐性遺伝子変異に対してもある程度は有効性が期待できる
→LUX-Lung 1/4において、奏効割合7.7%、無増悪生存期間3.3ヶ月
・T790Mに対してアファチニブ+セツキシマブ併用療法を行うと、奏効割合30%以上、無増悪生存期間4.7ヶ月だった
・他の薬剤との併用療法についてはこれからの検討課題だが、LUX-Lung 5においてパクリタキセルとの併用効果が示されている
・エクソン19、エクソン21以外のいわゆるマイナー変異に対しても、奏効割合70%以上で、日本人サブグループ解析では全生存期間が46.9ヶ月だった
さらに、EGFR阻害薬全体を通してよく話されていたのは
・より長い生存期間を求めるならば、治療経過のどこかで抗がん薬治療が必要
・EGFR阻害薬とともに抗がん薬やベバシツマブを同時併用すると、初期耐性例(EGFR遺伝子変異を有するにも拘らずEGFR阻害薬開始後も改善が見られない症例、全体の30%程度)がほとんど見られない
・初期耐性例にはBIM遺伝子多型が関わっているとの報告があり、金沢大学でEGFR阻害薬とボリノスタットを併用した臨床試験が進行中
・皮膚障害は日焼け止め、ステロイド外用、抗菌薬予防内服によりかなり抑制できるので、セルフケアが期待できる患者さんには積極的にエルロチニブやアファチニブを勧めた方がいいかもしれない
・RECIST上の病勢進行となっても臨床的病勢進行になるまでに3-4ヶ月は時間的猶予がある
ここに第III世代のEGFR阻害薬、PD-1抗体、PD-L1抗体、ニンテダニブ、ラムシルマブなどが関わってくると、さらに複雑な治療体系になりそうです。
ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブをどう使い分けるのか。
それぞれの特性を踏まえて使いましょうね、ということのようです。
簡単にまとめてみます。
なお、それぞれのEGFR阻害薬の毒性については、以下の論文にまとめられた統合解析の結果がよく話題にあがっていました。
Pooled safety analysis of EGFR-TKI treatment for EGFR mutation-positive non-small cell lung cancer.
Takeda M et al., Lung Cancer. 2015 Apr;88(1):74-9.
1)ゲフィチニブ
・最も歴史が古く、わが国発のものも含めてエビデンスが豊富
・QOLを低下させる毒性はもっとも軽い
・肝障害が問題
・用量が低めに設定されているためか、無増悪生存期間は他の二薬剤よりやや劣る
・脳転移にも有効で、ちゃんと臨床試験で証明されてもいるが、有効性が長続きしないきらいがある
・化学療法との同時併用(NEJ005/TCOG0902第II相試験:奏効割合87.8%、無増悪生存期間中央値18.3ヶ月、全生存期間中央値41.9ヶ月)、(近畿中央胸部疾患研究センターのCBDCA+S1+ゲフィチニブ第II相試験:奏効割合85.7%、無増悪生存期間中央値17.6ヶ月)、逐次併用(国立がん研究センターでの第II相試験、無増悪生存期間中央値19.5ヶ月)で有望な結果が報告されている
→Randomized phase II study of concurrent versus sequential alternating gefitinib and chemotherapy in previously untreated non-small cell lung cancer with sensitive EGFR mutations: NEJ005/TCOG0902. Sugawara S et al., Ann Oncol. 2015 Feb 10. pii: mdv063. [Epub ahead of print]
・ゲフィチニブと化学療法同時併用の第III相試験(NEJ009)は2014年9月に340人の患者集積が終了し、現在追跡調査期間中、あと2.5年は結論が出ないだろう
・PS不良例、高齢者に対する効果も第II相臨床試験で報告されている
・岡山大学のグループから、ゲフィチニブ+ベバシツマブ併用療法の第II相試験で、奏効割合73.8%、無増悪生存期間中央値14.4ヶ月(エクソン19変異では18ヶ月、エクソン21変異では9.4ヶ月)と有望な結果が報告されている
→Phase II trial of gefitinib in combination with bevacizumab as first-line therapy for advanced non-small cell lung cancer with activating EGFR gene mutations: the Okayama Lung Cancer Study Group Trial 1001. Ichihara E et al., J Thorac Oncol. 2015 Mar;10(3):486-91
・IMPRESS studyの結果を見る限り、ゲフィチニブで病勢進行となった後にbeyond PDで抗がん薬治療を上乗せしても奏効割合、病勢コントロール割合、無増悪生存期間は変わらず、全生存期間はむしろ劣っていた
2)エルロチニブ
・世界標準の治療で、海外のエビデンスが豊富
・EGFR遺伝子変異陰性の場合でも、二次、三次治療のエビデンスがある
・国内第II相試験(JO22903)での全生存期間は36.3ヶ月
・髄液移行性がゲフィチニブより優れることが示されており、脳転移や癌性髄膜炎の際にはより推奨される傾向にある
・脳転移で病勢進行となる割合は、JO22903試験では4%、ASPIRATION試験では4.3%と低率だった。
・皮膚や爪の毒性が強い
・きめ細かな減量に対応できるような製品ラインナップ
・無増悪生存期間はゲフィチニブよりやや優れ、アファチニブとほぼ同等
・欧州臨床試験では、高齢者に対するプラチナ併用化学療法後の維持療法として採用された
・エルロチニブ+ベバシツマブ併用療法の第II相試験(JO25567 study)で奏効割合69%、無増悪生存期間中央値16ヶ月と有望な結果が報告され、エクソン19、エクソン21どちらの患者群でも有効だった
→Erlotinib alone or with bevacizumab as first-line therapy in patients with advanced non-squamous non-small-cell lung cancer harbouring EGFR mutations (JO25567): an open-label, randomised, multicentre, phase 2 study. Seto T et al., Lancet Oncol. 2014 Oct;15(11):1236-44
・エルロチニブ+ベバシツマブ併用療法を第III相試験で検証することが望まれていたが、今学会期間中にNEJ026試験として正式に開始され、脳転移症例も組み入れること、病勢進行後に血中の腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell, CTC)をトラップして評価するliquid biopsyを行うこと、病勢進行後の治療もあらかじめ規定し、その後さらに病勢進行に至るまでの期間も解析することが決まった
3)アファチニブ
・現在日本で使うことのできる最強のEGFR阻害薬(第II世代のEGFR阻害薬)
・LUX-Lung 3と6の統合解析により、EGFR阻害薬が全生存期間を延長することが初めて証明された
・エクソン19変異ではより有効であることがわかった
・毒性が強く、これまでの治療概念とは異なる有害事象対策が必要
・ゲフィチニブ、エルロチニブと比較して、エクソン20(T790M)の耐性遺伝子変異に対してもある程度は有効性が期待できる
→LUX-Lung 1/4において、奏効割合7.7%、無増悪生存期間3.3ヶ月
・T790Mに対してアファチニブ+セツキシマブ併用療法を行うと、奏効割合30%以上、無増悪生存期間4.7ヶ月だった
・他の薬剤との併用療法についてはこれからの検討課題だが、LUX-Lung 5においてパクリタキセルとの併用効果が示されている
・エクソン19、エクソン21以外のいわゆるマイナー変異に対しても、奏効割合70%以上で、日本人サブグループ解析では全生存期間が46.9ヶ月だった
さらに、EGFR阻害薬全体を通してよく話されていたのは
・より長い生存期間を求めるならば、治療経過のどこかで抗がん薬治療が必要
・EGFR阻害薬とともに抗がん薬やベバシツマブを同時併用すると、初期耐性例(EGFR遺伝子変異を有するにも拘らずEGFR阻害薬開始後も改善が見られない症例、全体の30%程度)がほとんど見られない
・初期耐性例にはBIM遺伝子多型が関わっているとの報告があり、金沢大学でEGFR阻害薬とボリノスタットを併用した臨床試験が進行中
・皮膚障害は日焼け止め、ステロイド外用、抗菌薬予防内服によりかなり抑制できるので、セルフケアが期待できる患者さんには積極的にエルロチニブやアファチニブを勧めた方がいいかもしれない
・RECIST上の病勢進行となっても臨床的病勢進行になるまでに3-4ヶ月は時間的猶予がある
ここに第III世代のEGFR阻害薬、PD-1抗体、PD-L1抗体、ニンテダニブ、ラムシルマブなどが関わってくると、さらに複雑な治療体系になりそうです。
2015年04月19日
CPFE合併肺癌
今回の日本呼吸器学会総会では、いつもに増して肺がんと間質性肺炎の領域に関わる話題が多かったような気がします。
抗線維化薬のピルフェニドンに対する評価が世界的にも安定したこと、間質性肺炎合併肺癌患者さんを対象にピルフェニドンの術後急性増悪合併抑制効果を検証した第II相試験(WJOG6711L study)で有望な結果が得られたこと、抗線維化・抗腫瘍抗体医薬であるニンテダニブの実用化に一定の見通しが立ったことなど、この領域でよい話題が多かったためかも知れません。
内科系の話題として、日本医科大学の峰岸先生の論文が引用されることが多かったですが、今回は肺気腫合併肺線維症(CPFE)について、以下の論文要旨を紹介します。肺気腫合併肺癌、肺線維症合併肺癌、いずれも厳しい病態であるのに、どっちも合併したらそりゃあきついでしょう、と容易に想像できますが、それをちゃんと論文にしてちょっと意外な結論を明らかにしているところがすばらしいと思います。ちなみに、肺気腫、肺線維症、肺がん、いずれも喫煙が密接に関わっている病気です。
Clinical features, anti-cancer treatments and outcomes of lung cancer patients with combined pulmonary fibrosis and emphysema.
Minegishi Y et al., Lung Cancer. 2014 Aug;85(2):258-63.
背景:CPFE患者は肺気腫の患者、もしくは肺線維症の患者と比べて有意に肺がんのリスクが高いかもしれない。抗腫瘍治療中の間質性肺炎急性増悪は、日本の肺癌患者にとっては致死的な合併症の最たるものである。にも拘らず、肺癌患者において特発性間質性肺炎のみを合併した患者に対してCPFEの患者がどのような臨床的特徴を有しているのか、よくわかっていない。
方法:1998年3月から2011年10月までに日本医科大学病院で診療した1536人の肺癌患者を後方視的に検討した。特発性間質性肺炎を合併した患者を以下の二群に分類した。(1)CPFE群:肺気腫を合併した特発性間質性肺炎患者、(2)non-CPFE群:肺気腫を合併しない特発性間質性肺炎患者。臨床的特徴、抗がん治療、予後について両群を比較した。
結果:肺がんを合併したCPFE群88人(5.7%)ととnon-CPFE群63人(4.1%)を抽出した。初回治療時に急性増悪を合併した患者はCPFE群で22人(25%)、non-CPFE群で8人(12.7%)だった。生存期間中央値はCPFE群で23.7ヶ月、non-CPFE群で20.3ヶ月だった(p=0.627で有意差なし)。 83人の患者に化学療法が行われた。進行肺癌に対する化学療法により急性増悪をきたした患者は、CPFE群44人中6人(13.6%)、non-CPFE群39人中5人(12.8%)だった。また、化学療法を行った進行肺癌患者における生存期間中央値はCPFE群で14.9ヶ月、non-CPFE群で21.6ヶ月だった(p=0.679で有意差なし)。
結論:CPFEは、間質性肺炎患者における急性増悪のリスク因子でも、予後不良因子でもなかった。そのため、CPFE患者においては特発性間質性肺炎患者同様にできる限りの抗がん治療が必要である。
ちょっと生存期間の成績がよすぎる(特に進行肺癌の解析についてはそう感じます)気がしますが、日本医科大学の実地臨床が優れているということなのでしょうね。
CPFE、肺線維症どちらの病態でも、ピルフェニドンやニンテダニブといった抗線維化薬を併用しながら化学療法をすると、急性増悪のリスク抑制や治療効果の向上に役立つかもしれません。
抗線維化薬のピルフェニドンに対する評価が世界的にも安定したこと、間質性肺炎合併肺癌患者さんを対象にピルフェニドンの術後急性増悪合併抑制効果を検証した第II相試験(WJOG6711L study)で有望な結果が得られたこと、抗線維化・抗腫瘍抗体医薬であるニンテダニブの実用化に一定の見通しが立ったことなど、この領域でよい話題が多かったためかも知れません。
内科系の話題として、日本医科大学の峰岸先生の論文が引用されることが多かったですが、今回は肺気腫合併肺線維症(CPFE)について、以下の論文要旨を紹介します。肺気腫合併肺癌、肺線維症合併肺癌、いずれも厳しい病態であるのに、どっちも合併したらそりゃあきついでしょう、と容易に想像できますが、それをちゃんと論文にしてちょっと意外な結論を明らかにしているところがすばらしいと思います。ちなみに、肺気腫、肺線維症、肺がん、いずれも喫煙が密接に関わっている病気です。
Clinical features, anti-cancer treatments and outcomes of lung cancer patients with combined pulmonary fibrosis and emphysema.
Minegishi Y et al., Lung Cancer. 2014 Aug;85(2):258-63.
背景:CPFE患者は肺気腫の患者、もしくは肺線維症の患者と比べて有意に肺がんのリスクが高いかもしれない。抗腫瘍治療中の間質性肺炎急性増悪は、日本の肺癌患者にとっては致死的な合併症の最たるものである。にも拘らず、肺癌患者において特発性間質性肺炎のみを合併した患者に対してCPFEの患者がどのような臨床的特徴を有しているのか、よくわかっていない。
方法:1998年3月から2011年10月までに日本医科大学病院で診療した1536人の肺癌患者を後方視的に検討した。特発性間質性肺炎を合併した患者を以下の二群に分類した。(1)CPFE群:肺気腫を合併した特発性間質性肺炎患者、(2)non-CPFE群:肺気腫を合併しない特発性間質性肺炎患者。臨床的特徴、抗がん治療、予後について両群を比較した。
結果:肺がんを合併したCPFE群88人(5.7%)ととnon-CPFE群63人(4.1%)を抽出した。初回治療時に急性増悪を合併した患者はCPFE群で22人(25%)、non-CPFE群で8人(12.7%)だった。生存期間中央値はCPFE群で23.7ヶ月、non-CPFE群で20.3ヶ月だった(p=0.627で有意差なし)。 83人の患者に化学療法が行われた。進行肺癌に対する化学療法により急性増悪をきたした患者は、CPFE群44人中6人(13.6%)、non-CPFE群39人中5人(12.8%)だった。また、化学療法を行った進行肺癌患者における生存期間中央値はCPFE群で14.9ヶ月、non-CPFE群で21.6ヶ月だった(p=0.679で有意差なし)。
結論:CPFEは、間質性肺炎患者における急性増悪のリスク因子でも、予後不良因子でもなかった。そのため、CPFE患者においては特発性間質性肺炎患者同様にできる限りの抗がん治療が必要である。
ちょっと生存期間の成績がよすぎる(特に進行肺癌の解析についてはそう感じます)気がしますが、日本医科大学の実地臨床が優れているということなのでしょうね。
CPFE、肺線維症どちらの病態でも、ピルフェニドンやニンテダニブといった抗線維化薬を併用しながら化学療法をすると、急性増悪のリスク抑制や治療効果の向上に役立つかもしれません。
2015年04月17日
2015年度日本呼吸器学会総会 間質性肺炎と肺癌
学会で聞いたことの備忘録です。
<座長挨拶>
・間質性肺炎の死因の第一位は呼吸不全、第二位は肺癌である
<東京女子医科大学八千代医療センター呼吸器外科 関根康雄先生>
・肺気腫合併肺線維症(CPFE)は予後不良
・2000年から2005年の間で、肺線維症合併肺癌切除患者28人のうち、術後急性肺障害を合併したのは9人(32%)だった
・術後急性肺障害を起こしたグループでは、手術対側肺の線維化が強かった
・CYFRAが急性肺障害の予測に役立ちそうだった
・2008年から2012年の間に肺癌切除を行った250人を、正常群(124人、49.6%)、肺気腫群(108人、43.2%)、肺線維症群(7人、2.8%)、CPFE群(11人、4.4%)に分類した
・CPFE群では有意に男性、扁平上皮癌患者が多かった
・5年生存率は正常群77.1%、肺気腫群66.1%、肺線維症群40%、CPFE群25%だった
・CPFE群では呼吸不全関連死が多かった
・CPFE肺がんは再発が多い
・CPFE合併肺がんでは扁平上皮癌が63.6%、肺気腫合併肺がんでは扁平上皮癌が50%、肺線維症合併肺がんでは扁平上皮癌が25%
<日本医科大学呼吸器内科学 吾妻安良太先生>
・平成26年度のびまん性肺疾患研究班による北海道スタディーでは、間質性肺炎の年間発生率は人口10万人対2.7人、有病率は人口10万人対10人
・ピルフェニドン投与中の肺癌死亡率は通常よりも低く、2%台
・間質性肺炎の肺癌合併割合は経年的に増加、全体としては20.4%、1年間では3.3%、5年間では15.4%、10年間では54.7%
・Wnt signalとCTHRC1
<京都大学呼吸器外科>
・2011年に行った呼吸器外科学会のまとめでは、手術27881人のうち在院死にいたったのは248人(0.9%)で、そのうち63人(27.3%)は間質性肺炎によるものだった
・全国から1763人の間質性肺炎合併肺癌患者を集積し、術後急性増悪を発症したものを調べると164人(9.3%)だった
・発症時期は術後10日目までがほとんどで、ピークは4日目
・周術期ウリナスタチン投与で予後改善?
・間質性肺炎合併肺癌の5年生存割合は47%
・肺葉切除に比べて、区域切除のメリットは乏しい
<千葉大学呼吸器病態外科学、吉野一郎先生>
・周術期にピルフェニドンを投与して術後30日間の急性肺障害発症割合の低減を目指したWJOG6711L試験(PEOPLE study)では、プロトコール完遂症例で急性肺障害発症割合は2.8%だった
・ピルフェニドン開始後の手術実施割合は95.3%で、周術期の忍容性は良好
<虎の門病院呼吸器センター内科 岸 一馬先生>
・イリノテカン、アムルビシン、ジェムシタビンは間質性肺炎合併肺癌では禁忌とされている
・平成24年度の厚生労働省班研究では、間質性肺炎合併肺癌の二次治療としてはドセタキセルが全体の25.9%を占め、そのうち間質性肺炎急性増悪に至ったのは15.3%、ペメトレキセドは7.6%で、そのうち間質性肺炎急性増悪に至ったのは25%
・日本医科大学の峰岸先生が間質性肺炎を合併した非小細胞肺癌、小細胞肺癌それぞれのまとめをしているが、抗がん薬治療に関連した間質性肺炎急性増悪は5.6-5.8%で、抗がん薬治療開始後の全経過中での急性増悪は29.6%だったとのこと。
→The safety and efficacy of weekly paclitaxel in combination with carboplatin for advanced non-small cell lung cancer with idiopathic interstitial pneumonias. Minegishi Y et al., Lung Cancer. 2011 Jan;71(1):70-4.
→The feasibility study of Carboplatin plus Etoposide for advanced small cell lung cancer with idiopathic interstitial pneumonias. Minegishi Y et al., J Thorac Oncol. 2011 Apr;6(4):801-7
・間質性肺炎が肺底部、背側といった低酸素、高血流の部位に好発し、正常肺と線維化肺の境界領域に肺癌病巣が発生しやすいことを踏まえると、今後は抗VEGF療法(ベバシツマブ、ニンテダニブ→今秋頃に間質性肺炎に対して適応承認される予定、ラムシルマブ→胃癌に対しては近日中に承認、肺癌に対しては来年度承認を見込んでいる)についても積極的に検討する必要があるのでは?
<座長挨拶>
・間質性肺炎の死因の第一位は呼吸不全、第二位は肺癌である
<東京女子医科大学八千代医療センター呼吸器外科 関根康雄先生>
・肺気腫合併肺線維症(CPFE)は予後不良
・2000年から2005年の間で、肺線維症合併肺癌切除患者28人のうち、術後急性肺障害を合併したのは9人(32%)だった
・術後急性肺障害を起こしたグループでは、手術対側肺の線維化が強かった
・CYFRAが急性肺障害の予測に役立ちそうだった
・2008年から2012年の間に肺癌切除を行った250人を、正常群(124人、49.6%)、肺気腫群(108人、43.2%)、肺線維症群(7人、2.8%)、CPFE群(11人、4.4%)に分類した
・CPFE群では有意に男性、扁平上皮癌患者が多かった
・5年生存率は正常群77.1%、肺気腫群66.1%、肺線維症群40%、CPFE群25%だった
・CPFE群では呼吸不全関連死が多かった
・CPFE肺がんは再発が多い
・CPFE合併肺がんでは扁平上皮癌が63.6%、肺気腫合併肺がんでは扁平上皮癌が50%、肺線維症合併肺がんでは扁平上皮癌が25%
<日本医科大学呼吸器内科学 吾妻安良太先生>
・平成26年度のびまん性肺疾患研究班による北海道スタディーでは、間質性肺炎の年間発生率は人口10万人対2.7人、有病率は人口10万人対10人
・ピルフェニドン投与中の肺癌死亡率は通常よりも低く、2%台
・間質性肺炎の肺癌合併割合は経年的に増加、全体としては20.4%、1年間では3.3%、5年間では15.4%、10年間では54.7%
・Wnt signalとCTHRC1
<京都大学呼吸器外科>
・2011年に行った呼吸器外科学会のまとめでは、手術27881人のうち在院死にいたったのは248人(0.9%)で、そのうち63人(27.3%)は間質性肺炎によるものだった
・全国から1763人の間質性肺炎合併肺癌患者を集積し、術後急性増悪を発症したものを調べると164人(9.3%)だった
・発症時期は術後10日目までがほとんどで、ピークは4日目
・周術期ウリナスタチン投与で予後改善?
・間質性肺炎合併肺癌の5年生存割合は47%
・肺葉切除に比べて、区域切除のメリットは乏しい
<千葉大学呼吸器病態外科学、吉野一郎先生>
・周術期にピルフェニドンを投与して術後30日間の急性肺障害発症割合の低減を目指したWJOG6711L試験(PEOPLE study)では、プロトコール完遂症例で急性肺障害発症割合は2.8%だった
・ピルフェニドン開始後の手術実施割合は95.3%で、周術期の忍容性は良好
<虎の門病院呼吸器センター内科 岸 一馬先生>
・イリノテカン、アムルビシン、ジェムシタビンは間質性肺炎合併肺癌では禁忌とされている
・平成24年度の厚生労働省班研究では、間質性肺炎合併肺癌の二次治療としてはドセタキセルが全体の25.9%を占め、そのうち間質性肺炎急性増悪に至ったのは15.3%、ペメトレキセドは7.6%で、そのうち間質性肺炎急性増悪に至ったのは25%
・日本医科大学の峰岸先生が間質性肺炎を合併した非小細胞肺癌、小細胞肺癌それぞれのまとめをしているが、抗がん薬治療に関連した間質性肺炎急性増悪は5.6-5.8%で、抗がん薬治療開始後の全経過中での急性増悪は29.6%だったとのこと。
→The safety and efficacy of weekly paclitaxel in combination with carboplatin for advanced non-small cell lung cancer with idiopathic interstitial pneumonias. Minegishi Y et al., Lung Cancer. 2011 Jan;71(1):70-4.
→The feasibility study of Carboplatin plus Etoposide for advanced small cell lung cancer with idiopathic interstitial pneumonias. Minegishi Y et al., J Thorac Oncol. 2011 Apr;6(4):801-7
・間質性肺炎が肺底部、背側といった低酸素、高血流の部位に好発し、正常肺と線維化肺の境界領域に肺癌病巣が発生しやすいことを踏まえると、今後は抗VEGF療法(ベバシツマブ、ニンテダニブ→今秋頃に間質性肺炎に対して適応承認される予定、ラムシルマブ→胃癌に対しては近日中に承認、肺癌に対しては来年度承認を見込んでいる)についても積極的に検討する必要があるのでは?
2015年04月16日
質疑応答
先だって2nd opinionでお越しになった方との質疑応答です。
ちょっと長いのですが、できるだけ多くの方と共有した方がよいかと思い、掲載します。
この方は、EGFR遺伝子変異陽性の進行腺癌で、エルロチニブで初回治療を開始されて一旦効果が見られたものの、最近腫瘍マーカーが上昇傾向とのこと。
EGFR阻害薬を変更するにしても、抗癌薬治療に移行するにしてもなかなか一歩が踏み出せず、補完医療や癌ワクチン療法の臨床試験への参加も検討しておられるらしく、そういった流れの中で私のところにも相談に来られたようです。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
「再生検」については、昨日、担当の先生に「再生検」ができるかお聞きしましたが、次回までにできるか調べておきますとのこ
とでした。
ただ、それをしたとして、その結果によって、現状で使える有効な二次治療薬が変わってくるのでしょうか?
①T790M変異が出現していたら→ジオトリフが効きますよね。また、現在、次の第3世代の「AZD9291」は使えるのでしょうか?
→T790Mの変異が認められたら、タルセバよりはジオトリフの方がより効果が期待できると思います。
AZD9291をはじめとした第3世代のEGFR阻害薬はまだ実地臨床では使用できません。
昨年の今頃に臨床試験の話題で盛り上がっていましたが、おそらく今は、参加者を締め切って効果の確認をしている段階だと思われます
。
つまるところ、臨床試験は締め切り後、実地臨床では導入前の、ちょうど端境期にあたります。
②METが出現していたら→まだ薬はないのですよね。
→昨年の米国臨床腫瘍学会でMET阻害薬のonartuzumabの報告がありましたが、タルセバへの上乗せ効果は証明されませんでした。
→http://www.chugai-pharm.co.jp/hc/ss/downloads/140303jOnartuzumab.pdf?blobheader=application%2Fpdf&blobheadername1=conten
t-disposition&blobheadervalue1=inline%3Bfilename%3D140303jOnartuzumab.pdf&blobwhere=1396858136187&ssbinary=true
ですので、MET増幅があった場合には、今のところ有効な分子標的薬はない、ということになります。
また、現状では保険診療でMET増幅を調べることはできないと思います。
③それとも、EFGR変異がALKに変化しているかもしれない?→ザーコリが効きますよね。…担当の先生からは、そんなことはありえないとは言われましたが。
→確率は低いかもしれませんが、もしALK陽性が確認されれば、ザーコリやアレセンサといった選択肢が出てきます。
なくてあたりまえ、あったら一発大逆転、という話なのですが、調べるか調べないかは自由です。
私は先日自分の患者さんで調べて、残念ながらはずれでした。
④ブログの「メタモルファーゼ」ということですが、私は「腺がんの非小細胞」と言われているが、もしかしたら「小細胞だったかも
しれない」、または、「小細胞」に変化しているかもしれない、ということですかね?
その場合、小細胞だったとすると、小細胞の治療に変えるべき、ということなのでしょうか?
→慣習的に、肺がんは「小細胞癌」と「非小細胞癌」に区別されることが多いです。
その「非小細胞癌」の中に、「腺癌」と「扁平上皮癌」が含まれます。
ときにいくつかの型の癌がひとつの病巣の中に混在して見られることがあります。
たとえば、腺癌と扁平上皮癌が混在する癌は「腺扁平上皮癌」といわれます。
また、小細胞癌と腺癌、小細胞癌と扁平上皮癌が混在していたら、「混合型小細胞癌」といわれます。
まだ詳しいことはわかっていませんが、「メタモルフォーゼ」はもともとは混合型小細胞癌なのに、生検で腺癌の部分のみが取れてきた
ために当初は腺癌と診断されたのではないかと想像しています。
腺癌に対する分子標的治療で腺癌成分のみが抑えられて、経過とともに多数派となった小細胞癌の細胞が再生検で検出されたのではない
かと。
小細胞癌はその90%以上が喫煙者に発症するものなので、あなたが非喫煙者ならば、可能性はぐっと小さくなると思います。
私がなぜ再生検を勧めるかというと、その後の治療方針が整理しやすくなるからです。
万が一小細胞癌に変わっていたら、その後どんなに分子標的薬を継続しても効くはずがありません。
T790Mの二次性変異が起こっていれば、ジオトリフをつかって凌ぎながら第3世代の阻害薬の登場を待つというシナリオが描けます。
ただ、再生検をするにあたっては、生検可能な場所に病巣がないと、我々としては手も足も出ません。
再生検については、「自分ならこうする」という程度のもので、一般的にはやらない先生のほうが多いでしょう。
あなたも担当医の先生も気が進まなければ、無理にやる必要はありません。
一方、国内で行われたイレッサvs抗がん薬の臨床試験では、その後の解析において、最終的にイレッサ、抗がん薬どちらも一度は使った
人のほうが、イレッサしか使わなかった人より長生きする傾向にあったとされています。
また、クリゾチニブの臨床試験の事後解析では、治療開始前に脳転移があることがわかっていたら、放射線治療をしてからクリゾチニブ
を開始した方が、放射線治療をせずにクリゾチニブを開始するより成績がいい、ということも報告されています。
これらの事実を理解した上で、今後の治療を組み立てられてください。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
再生検」のお話の最後に、「再生検をするにあたっては、生検可能な場所に病巣がないと、我々としては手も足も出ません。」と言われ
ていますが、これがよく理解ができませんでしたので、質問させていただきます。
①「生検可能な場所に病巣があるか、ないか」とはどういう状況でしょうか。
私の場合でいえば、先生にお渡しした画像では、生検が可能な場所なのかどうかは判断できないのでしょうか。
最初に気管支で生検した場所から移動したり、変化している場合、ということでしょうか。
たしかに、最初の生検では、若い先生がベテランの先生の指導を受けながら四苦八苦されて、最後は「とれません~」なんて言われていた
のですが。
今の私の腫瘍が残っていることは事実ですが、その場所によるということでしょうか。また、それは、CTの画像では、可能かどうかわから
ない、してみなければ、ということでしょうか?
→肺生検には、3通りの方法があります。
1)我々内科医がよくやる気管支鏡を使った生検
2)放射線科医に依頼することが多いCTガイド下肺針生検
3)外科医による生検目的の手術
です。
生検である以上は患者さんの負担が少ないほうがよいので、1)>2)>3)の順に優先して行われる傾向があります。
1)は、病巣に入り込んでいる気管支が見つけられない限りはうまくいきません。
術者の技量にもよりますが、病巣が正しく採取できる確率はおおむね60-70%というところでしょうか。
日頃から検査をしていると、この病巣ならうまくいきそう、この病巣ではちょっと難しそう、というある程度の判断が事前にできると思
います。
私がやればどうか、なんてことはトラブルの元なので言いませんが、主治医の先生に気管支鏡下の生検が可能かどうか聞いてみるといい
でしょう。
また、2)、3)の方が、確実に病巣を取れるのですが、合併症等のリスクも考慮して検討しなければなりません。
②「我々としては手が出せない」という表現ですが、それは、「主治医ではない我々が…」ということでしょうか?現在治療中の病院でも、そういった病状であれば、再生検は不可能ということでしょうか。
→2)、3)が我々内科医にできない以上は、気管支鏡で診断できる部位に病巣がなければ、我々としては手も足も出せない、という意味
です。
それでもどうしても生検が必要なら、放射線科医や外科医に相談することになります。
質問2-イレッサと抗がん剤の併用をしたほうが予後が長かった臨床データーがある」とのことですが、それは、「タルセバ」も同じと考
えてよいのでしょうか。また、タルセバからジオトリフへと移行するときにも言えることなのでしょうか。また、予後が長いとことは、QOLも高かったのでしょうか。
→FASTACT-2という臨床試験の結果が既に報告されています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23782814
これは、EGFR遺伝子変異の有り無しに関わらず、シスプラチン/カルボプラチン+ジェムシタビンの化学療法とエルロチニブ(タルセバ)
を交互に使ったときにどうなるか、というのを、化学療法+エルロチニブ群と化学療法+プラセボ(偽薬、効果のまったくない薬)群の2
群に分けて比較した試験です。結論としては、化学療法+エルロチニブ群の方が成績がよかったようです。ことに、EGFR遺伝子変異を有す
る患者さんのみで解析したところ、かなり大きな差を以って化学療法+エルロチニブ群の成績がよかったようです。しかしながら、この試
験は併用することがいいことなのか、ただ単にエルロチニブがプラセボに勝っていることが証明されただけなのか、判断に迷います。実際
のところ、実地臨床でこの治療が行われているという話はあまり聞きません。
参考までに、試験の概略を別のブログ記事にまとめておきますので、参照ください。
一方、関東・東北の臨床試験グループでは、EGFR遺伝子変異陽性の患者さんを対象に、シスプラチン/カルボプラチン+ペメトレキセド+
ゲフィチニブ(イレッサ)の同時併用療法の効果を見る臨床試験が行われています。これはまだ結論が出ていませんが、注目を集めていま
す。
ジオトリフに関しては、こういった併用療法のデータはまだないと思います。
QOLに関しては、現在東京出張中なので、いまここにデータを持ち合わせません。
私は初診のときに、「肺がんの非小細胞、腺癌は抗がん 剤が効きにくい」といわれていたのですが、異動により新たに担当となった今の先生は、「そんなことはないですよ」といわれています。その点はいかがでしょうか。若い人と私の年代では進行具合も違うので、一概にはいえないでしょうが。
→小細胞癌に比べると、非小細胞癌の方が抗がん薬が効きにくい、というのは確かです。
ただし、それは腫瘍が小さくなるかどうか、という点に関してだけです。
生存期間延長効果について言えば、小細胞癌よりも非小細胞癌の方が効果を期待できますし、腺癌ならなおのことです。
75歳以下で、日常生活ができている方で、少しでも長生きしたい、と思われている方には、迷わず抗がん薬治療に臨むことを勧めます
。
長生きしなくてもいいから好きなように残った人生を過ごしたい、抗がん薬は使いたくない、という方には、勧めません。
ちょっと長いのですが、できるだけ多くの方と共有した方がよいかと思い、掲載します。
この方は、EGFR遺伝子変異陽性の進行腺癌で、エルロチニブで初回治療を開始されて一旦効果が見られたものの、最近腫瘍マーカーが上昇傾向とのこと。
EGFR阻害薬を変更するにしても、抗癌薬治療に移行するにしてもなかなか一歩が踏み出せず、補完医療や癌ワクチン療法の臨床試験への参加も検討しておられるらしく、そういった流れの中で私のところにも相談に来られたようです。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
「再生検」については、昨日、担当の先生に「再生検」ができるかお聞きしましたが、次回までにできるか調べておきますとのこ
とでした。
ただ、それをしたとして、その結果によって、現状で使える有効な二次治療薬が変わってくるのでしょうか?
①T790M変異が出現していたら→ジオトリフが効きますよね。また、現在、次の第3世代の「AZD9291」は使えるのでしょうか?
→T790Mの変異が認められたら、タルセバよりはジオトリフの方がより効果が期待できると思います。
AZD9291をはじめとした第3世代のEGFR阻害薬はまだ実地臨床では使用できません。
昨年の今頃に臨床試験の話題で盛り上がっていましたが、おそらく今は、参加者を締め切って効果の確認をしている段階だと思われます
。
つまるところ、臨床試験は締め切り後、実地臨床では導入前の、ちょうど端境期にあたります。
②METが出現していたら→まだ薬はないのですよね。
→昨年の米国臨床腫瘍学会でMET阻害薬のonartuzumabの報告がありましたが、タルセバへの上乗せ効果は証明されませんでした。
→http://www.chugai-pharm.co.jp/hc/ss/downloads/140303jOnartuzumab.pdf?blobheader=application%2Fpdf&blobheadername1=conten
t-disposition&blobheadervalue1=inline%3Bfilename%3D140303jOnartuzumab.pdf&blobwhere=1396858136187&ssbinary=true
ですので、MET増幅があった場合には、今のところ有効な分子標的薬はない、ということになります。
また、現状では保険診療でMET増幅を調べることはできないと思います。
③それとも、EFGR変異がALKに変化しているかもしれない?→ザーコリが効きますよね。…担当の先生からは、そんなことはありえないとは言われましたが。
→確率は低いかもしれませんが、もしALK陽性が確認されれば、ザーコリやアレセンサといった選択肢が出てきます。
なくてあたりまえ、あったら一発大逆転、という話なのですが、調べるか調べないかは自由です。
私は先日自分の患者さんで調べて、残念ながらはずれでした。
④ブログの「メタモルファーゼ」ということですが、私は「腺がんの非小細胞」と言われているが、もしかしたら「小細胞だったかも
しれない」、または、「小細胞」に変化しているかもしれない、ということですかね?
その場合、小細胞だったとすると、小細胞の治療に変えるべき、ということなのでしょうか?
→慣習的に、肺がんは「小細胞癌」と「非小細胞癌」に区別されることが多いです。
その「非小細胞癌」の中に、「腺癌」と「扁平上皮癌」が含まれます。
ときにいくつかの型の癌がひとつの病巣の中に混在して見られることがあります。
たとえば、腺癌と扁平上皮癌が混在する癌は「腺扁平上皮癌」といわれます。
また、小細胞癌と腺癌、小細胞癌と扁平上皮癌が混在していたら、「混合型小細胞癌」といわれます。
まだ詳しいことはわかっていませんが、「メタモルフォーゼ」はもともとは混合型小細胞癌なのに、生検で腺癌の部分のみが取れてきた
ために当初は腺癌と診断されたのではないかと想像しています。
腺癌に対する分子標的治療で腺癌成分のみが抑えられて、経過とともに多数派となった小細胞癌の細胞が再生検で検出されたのではない
かと。
小細胞癌はその90%以上が喫煙者に発症するものなので、あなたが非喫煙者ならば、可能性はぐっと小さくなると思います。
私がなぜ再生検を勧めるかというと、その後の治療方針が整理しやすくなるからです。
万が一小細胞癌に変わっていたら、その後どんなに分子標的薬を継続しても効くはずがありません。
T790Mの二次性変異が起こっていれば、ジオトリフをつかって凌ぎながら第3世代の阻害薬の登場を待つというシナリオが描けます。
ただ、再生検をするにあたっては、生検可能な場所に病巣がないと、我々としては手も足も出ません。
再生検については、「自分ならこうする」という程度のもので、一般的にはやらない先生のほうが多いでしょう。
あなたも担当医の先生も気が進まなければ、無理にやる必要はありません。
一方、国内で行われたイレッサvs抗がん薬の臨床試験では、その後の解析において、最終的にイレッサ、抗がん薬どちらも一度は使った
人のほうが、イレッサしか使わなかった人より長生きする傾向にあったとされています。
また、クリゾチニブの臨床試験の事後解析では、治療開始前に脳転移があることがわかっていたら、放射線治療をしてからクリゾチニブ
を開始した方が、放射線治療をせずにクリゾチニブを開始するより成績がいい、ということも報告されています。
これらの事実を理解した上で、今後の治療を組み立てられてください。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
再生検」のお話の最後に、「再生検をするにあたっては、生検可能な場所に病巣がないと、我々としては手も足も出ません。」と言われ
ていますが、これがよく理解ができませんでしたので、質問させていただきます。
①「生検可能な場所に病巣があるか、ないか」とはどういう状況でしょうか。
私の場合でいえば、先生にお渡しした画像では、生検が可能な場所なのかどうかは判断できないのでしょうか。
最初に気管支で生検した場所から移動したり、変化している場合、ということでしょうか。
たしかに、最初の生検では、若い先生がベテランの先生の指導を受けながら四苦八苦されて、最後は「とれません~」なんて言われていた
のですが。
今の私の腫瘍が残っていることは事実ですが、その場所によるということでしょうか。また、それは、CTの画像では、可能かどうかわから
ない、してみなければ、ということでしょうか?
→肺生検には、3通りの方法があります。
1)我々内科医がよくやる気管支鏡を使った生検
2)放射線科医に依頼することが多いCTガイド下肺針生検
3)外科医による生検目的の手術
です。
生検である以上は患者さんの負担が少ないほうがよいので、1)>2)>3)の順に優先して行われる傾向があります。
1)は、病巣に入り込んでいる気管支が見つけられない限りはうまくいきません。
術者の技量にもよりますが、病巣が正しく採取できる確率はおおむね60-70%というところでしょうか。
日頃から検査をしていると、この病巣ならうまくいきそう、この病巣ではちょっと難しそう、というある程度の判断が事前にできると思
います。
私がやればどうか、なんてことはトラブルの元なので言いませんが、主治医の先生に気管支鏡下の生検が可能かどうか聞いてみるといい
でしょう。
また、2)、3)の方が、確実に病巣を取れるのですが、合併症等のリスクも考慮して検討しなければなりません。
②「我々としては手が出せない」という表現ですが、それは、「主治医ではない我々が…」ということでしょうか?現在治療中の病院でも、そういった病状であれば、再生検は不可能ということでしょうか。
→2)、3)が我々内科医にできない以上は、気管支鏡で診断できる部位に病巣がなければ、我々としては手も足も出せない、という意味
です。
それでもどうしても生検が必要なら、放射線科医や外科医に相談することになります。
質問2-イレッサと抗がん剤の併用をしたほうが予後が長かった臨床データーがある」とのことですが、それは、「タルセバ」も同じと考
えてよいのでしょうか。また、タルセバからジオトリフへと移行するときにも言えることなのでしょうか。また、予後が長いとことは、QOLも高かったのでしょうか。
→FASTACT-2という臨床試験の結果が既に報告されています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23782814
これは、EGFR遺伝子変異の有り無しに関わらず、シスプラチン/カルボプラチン+ジェムシタビンの化学療法とエルロチニブ(タルセバ)
を交互に使ったときにどうなるか、というのを、化学療法+エルロチニブ群と化学療法+プラセボ(偽薬、効果のまったくない薬)群の2
群に分けて比較した試験です。結論としては、化学療法+エルロチニブ群の方が成績がよかったようです。ことに、EGFR遺伝子変異を有す
る患者さんのみで解析したところ、かなり大きな差を以って化学療法+エルロチニブ群の成績がよかったようです。しかしながら、この試
験は併用することがいいことなのか、ただ単にエルロチニブがプラセボに勝っていることが証明されただけなのか、判断に迷います。実際
のところ、実地臨床でこの治療が行われているという話はあまり聞きません。
参考までに、試験の概略を別のブログ記事にまとめておきますので、参照ください。
一方、関東・東北の臨床試験グループでは、EGFR遺伝子変異陽性の患者さんを対象に、シスプラチン/カルボプラチン+ペメトレキセド+
ゲフィチニブ(イレッサ)の同時併用療法の効果を見る臨床試験が行われています。これはまだ結論が出ていませんが、注目を集めていま
す。
ジオトリフに関しては、こういった併用療法のデータはまだないと思います。
QOLに関しては、現在東京出張中なので、いまここにデータを持ち合わせません。
私は初診のときに、「肺がんの非小細胞、腺癌は抗がん 剤が効きにくい」といわれていたのですが、異動により新たに担当となった今の先生は、「そんなことはないですよ」といわれています。その点はいかがでしょうか。若い人と私の年代では進行具合も違うので、一概にはいえないでしょうが。
→小細胞癌に比べると、非小細胞癌の方が抗がん薬が効きにくい、というのは確かです。
ただし、それは腫瘍が小さくなるかどうか、という点に関してだけです。
生存期間延長効果について言えば、小細胞癌よりも非小細胞癌の方が効果を期待できますし、腺癌ならなおのことです。
75歳以下で、日常生活ができている方で、少しでも長生きしたい、と思われている方には、迷わず抗がん薬治療に臨むことを勧めます
。
長生きしなくてもいいから好きなように残った人生を過ごしたい、抗がん薬は使いたくない、という方には、勧めません。
2015年04月16日
分子標的薬と抗がん薬の併用療法
分子標的薬花盛りとなり、相対的に従来の抗がん薬治療の立ち位置も変わってきたように思います。
最近2nd opinionで受診された方、診断以来ずっと分子標的薬を服用しているおばあちゃん、二人とも
「抗がん薬はいやだな・・・」
とおっしゃって、既に分子標的薬耐性になっているにも拘らず、今のところ抗がん薬治療への移行を見合わせています。
仮にEGFR遺伝子変異陽性であっても、分子標的薬と抗がん薬を両方上手に使えば治療成績がよいことは、治療する側からすると常識となっています。
ですが、分子標的薬から治療を開始した場合、最適のタイミングで抗がん薬治療に切り替えるのは、決して簡単ではありません。
EGFR阻害薬と抗がん薬の同時併用療法、EGFR阻害薬とVEGF阻害薬の同時併用療法が試みられるようになり、おそらく近い将来、EGFR阻害薬と抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体、ALK阻害薬と抗がん薬の同時併用療法、ALK阻害薬とVEGF阻害薬の同時併用療法、ALK阻害薬と抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体療法など、さまざまな組み合わせの治療が試されることになるでしょう。
そしてその分だけ、有害事象も複雑化し、治療費も高騰することになるでしょうね。
当初、EGFR阻害薬と抗がん薬の併用療法は意味がない、と結論されました(INTACT1/INTACT2 study)。
http://jco.ascopubs.org/content/22/5/777.long
http://jco.ascopubs.org/content/22/5/785.long
しかし、これらはEGFR遺伝子変異とEGFR阻害薬の関係が確認されていなかった初期の臨床試験です。
あまり実地臨床には反映されていませんが、FASTACT-2試験の結果は、サブグループ解析ながらEGFR遺伝子変異陽性患者さんにおける抗がん薬とエルロチニブの交代療法の有効性を示した、この分野のbreakthroughと言っていいものだと思います。
結果が公表されてしばらくたちますが、復習します。
Wu YL et al., Lancet Oncol. 2013 Jul;14(8):777-86.
Intercalated combination of chemotherapy and erlotinib for patients with advanced stage non-small-cell lung cancer (FASTACT-2): a randomised, double-blind trial.
背景:プラセボ対照ランダム化第II相試験であるFASTACT試験の結果、抗がん薬治療とエルロチニブの交代療法は進行非小細胞肺癌患者において有意に無増悪生存期間を延長することが示された。今回我々は、同様の患者を対象として、第III相試験であるFASTACT-2試験を行った。
方法:今回の第III相試験では、未治療のIIIB/IV期の非小細胞肺癌患者を対象とし、病期、腫瘍組織型、喫煙歴、抗がん薬レジメンを割付調整因子として、インターネットを利用した最小化法を用い、1コースを4週間として、最大6コースのジェムシタビン(1250mg/㎡、day1, day8)とプラチナ製剤(カルボプラチン5AUCもしくはシスプラチン75mg/㎡、day1)の併用療法に加え、エルロチニブを交互併用する群(エルロチニブ150mg/日、15日目から28日目に内服)もしくはプラセボを交互併用する群(プラセボを同様に15日目から28日目に内服)に1:1の比率で割り付けた。効果安全性評価委員会を除いては、全ての関係者に対して割り付け内容が秘匿された。病勢進行もしくは耐容不能な有害事象もしくは死亡にいたるまではエルロチニブもしくはプラセボの内服を継続し、全てのプラセボ群の患者で病勢進行時にエルロチニブの二次治療を提示することとした。腫瘍評価項目は無増悪生存期間とし、intent-to-treat解析を行った。
結果:2009年4月29日から2010年9月9日までに、451人の患者がエルロチニブ群(n=226)とプラセボ群(n=225)に割り付けられた。無増悪生存期間は有意にエルロチニブ群で良好であった(エルロチニブ群7.6ヶ月(95%信頼区間7.2-8.3ヶ月)対プラセボ群6.0ヶ月(5.6-7.1ヶ月)、ハザード比0.57(0.47-0.69)、p<0.001)。生存期間中央値はエルロチニブ群で18.3ヶ月(16.3-20.8ヶ月)、プラセボ群で15.2ヶ月( 12.7-17.5ヶ月)で、ハザード比は0.79(0.64-0.99)、p=0.0420だった。EGFR遺伝子変異の有無でサブグループ解析すると、陽性の患者でのみエルロチニブ併用効果が見られ(無増悪生存期間中央値16.8ヶ月(12.9-20.4ヶ月)対6.9ヶ月(5.3-7.6ヶ月)、ハザード比0.25(0.16-9.39)、p<0.0001、生存期間中央値は31.4ヶ月(22.2ヶ月以上)対20.6ヶ月(14.2-26.9ヶ月)、ハザード比0.48(0.27-0.84)、p=0.0092)であった。重篤な有害事象はプラセボ群の76人(34%)、エルロチニブ群の69人(31%)で認められた。高頻度だったGrade 3以上の有害事象は好中球減少(それぞれ65人(29%)と55人(25%))、血小板減少(それぞれ32人(14%)と31人(14%))、貧血(それぞれ26人(12%)と21人(9%))だった。
結論:抗がん薬とエルロチニブの交代療法はEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌患者と、一部のEGFR遺伝子変異状態不詳の患者の一次治療の選択肢と考えられる。
この臨床試験は、患者条件にEGFR遺伝子変異陽性という項目を加えなかったため、わかりにくい結論になってしまいました。
こういった分子標的薬を使った臨床試験は、今後遺伝子変異陽性者に限って行った方が結論がすっきりしますね。
ですが、無増悪生存期間約17ヶ月、全生存期間31ヶ月強という結果は、かなり有望だと思いますし、実地臨床で応用しようという医師が周りにあまりいないことはちょっと不思議な気がします。
ペメトレキセドやベバシツマブを上手に併用したら、あるいは近い将来ラムシルマブを併用したら、もっといい結果が得られるかもしれません。
最近2nd opinionで受診された方、診断以来ずっと分子標的薬を服用しているおばあちゃん、二人とも
「抗がん薬はいやだな・・・」
とおっしゃって、既に分子標的薬耐性になっているにも拘らず、今のところ抗がん薬治療への移行を見合わせています。
仮にEGFR遺伝子変異陽性であっても、分子標的薬と抗がん薬を両方上手に使えば治療成績がよいことは、治療する側からすると常識となっています。
ですが、分子標的薬から治療を開始した場合、最適のタイミングで抗がん薬治療に切り替えるのは、決して簡単ではありません。
EGFR阻害薬と抗がん薬の同時併用療法、EGFR阻害薬とVEGF阻害薬の同時併用療法が試みられるようになり、おそらく近い将来、EGFR阻害薬と抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体、ALK阻害薬と抗がん薬の同時併用療法、ALK阻害薬とVEGF阻害薬の同時併用療法、ALK阻害薬と抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体療法など、さまざまな組み合わせの治療が試されることになるでしょう。
そしてその分だけ、有害事象も複雑化し、治療費も高騰することになるでしょうね。
当初、EGFR阻害薬と抗がん薬の併用療法は意味がない、と結論されました(INTACT1/INTACT2 study)。
http://jco.ascopubs.org/content/22/5/777.long
http://jco.ascopubs.org/content/22/5/785.long
しかし、これらはEGFR遺伝子変異とEGFR阻害薬の関係が確認されていなかった初期の臨床試験です。
あまり実地臨床には反映されていませんが、FASTACT-2試験の結果は、サブグループ解析ながらEGFR遺伝子変異陽性患者さんにおける抗がん薬とエルロチニブの交代療法の有効性を示した、この分野のbreakthroughと言っていいものだと思います。
結果が公表されてしばらくたちますが、復習します。
Wu YL et al., Lancet Oncol. 2013 Jul;14(8):777-86.
Intercalated combination of chemotherapy and erlotinib for patients with advanced stage non-small-cell lung cancer (FASTACT-2): a randomised, double-blind trial.
背景:プラセボ対照ランダム化第II相試験であるFASTACT試験の結果、抗がん薬治療とエルロチニブの交代療法は進行非小細胞肺癌患者において有意に無増悪生存期間を延長することが示された。今回我々は、同様の患者を対象として、第III相試験であるFASTACT-2試験を行った。
方法:今回の第III相試験では、未治療のIIIB/IV期の非小細胞肺癌患者を対象とし、病期、腫瘍組織型、喫煙歴、抗がん薬レジメンを割付調整因子として、インターネットを利用した最小化法を用い、1コースを4週間として、最大6コースのジェムシタビン(1250mg/㎡、day1, day8)とプラチナ製剤(カルボプラチン5AUCもしくはシスプラチン75mg/㎡、day1)の併用療法に加え、エルロチニブを交互併用する群(エルロチニブ150mg/日、15日目から28日目に内服)もしくはプラセボを交互併用する群(プラセボを同様に15日目から28日目に内服)に1:1の比率で割り付けた。効果安全性評価委員会を除いては、全ての関係者に対して割り付け内容が秘匿された。病勢進行もしくは耐容不能な有害事象もしくは死亡にいたるまではエルロチニブもしくはプラセボの内服を継続し、全てのプラセボ群の患者で病勢進行時にエルロチニブの二次治療を提示することとした。腫瘍評価項目は無増悪生存期間とし、intent-to-treat解析を行った。
結果:2009年4月29日から2010年9月9日までに、451人の患者がエルロチニブ群(n=226)とプラセボ群(n=225)に割り付けられた。無増悪生存期間は有意にエルロチニブ群で良好であった(エルロチニブ群7.6ヶ月(95%信頼区間7.2-8.3ヶ月)対プラセボ群6.0ヶ月(5.6-7.1ヶ月)、ハザード比0.57(0.47-0.69)、p<0.001)。生存期間中央値はエルロチニブ群で18.3ヶ月(16.3-20.8ヶ月)、プラセボ群で15.2ヶ月( 12.7-17.5ヶ月)で、ハザード比は0.79(0.64-0.99)、p=0.0420だった。EGFR遺伝子変異の有無でサブグループ解析すると、陽性の患者でのみエルロチニブ併用効果が見られ(無増悪生存期間中央値16.8ヶ月(12.9-20.4ヶ月)対6.9ヶ月(5.3-7.6ヶ月)、ハザード比0.25(0.16-9.39)、p<0.0001、生存期間中央値は31.4ヶ月(22.2ヶ月以上)対20.6ヶ月(14.2-26.9ヶ月)、ハザード比0.48(0.27-0.84)、p=0.0092)であった。重篤な有害事象はプラセボ群の76人(34%)、エルロチニブ群の69人(31%)で認められた。高頻度だったGrade 3以上の有害事象は好中球減少(それぞれ65人(29%)と55人(25%))、血小板減少(それぞれ32人(14%)と31人(14%))、貧血(それぞれ26人(12%)と21人(9%))だった。
結論:抗がん薬とエルロチニブの交代療法はEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌患者と、一部のEGFR遺伝子変異状態不詳の患者の一次治療の選択肢と考えられる。
この臨床試験は、患者条件にEGFR遺伝子変異陽性という項目を加えなかったため、わかりにくい結論になってしまいました。
こういった分子標的薬を使った臨床試験は、今後遺伝子変異陽性者に限って行った方が結論がすっきりしますね。
ですが、無増悪生存期間約17ヶ月、全生存期間31ヶ月強という結果は、かなり有望だと思いますし、実地臨床で応用しようという医師が周りにあまりいないことはちょっと不思議な気がします。
ペメトレキセドやベバシツマブを上手に併用したら、あるいは近い将来ラムシルマブを併用したら、もっといい結果が得られるかもしれません。
2015年04月08日
ご家族もケアするということ
今日はちょっと愚痴っちゃいます。
治癒不能の悪性腫瘍と言われたら、一般の医療以外にもなにか有効なものはないかとみんな探します。
アガリクス。
メシマコブ。
サメ脂。
ノニジュース。
ゴマエキス。
大豆イソフラボン。
緑茶カテキン。
コーヒー。
養命酒。
一般のクリニックでされている免疫療法。
有名大学病院でされている免疫療法。
癌に効くという入浴療法。
食事療法。
漢方薬。
神さま。
仏さま。
稲尾さま。
鍼治療。
丸山ワクチン。
治験薬。
どれだってみんな選択肢ですし、患者さんの自由です。
でもね、あくまで患者さんが納得して選ぶからこそのものだと思うんです。
患者さん本人が納得していないのに、ご家族が先走ってしまうのはどうかと思います。
どんな治療でもそうですが、本人の意思を尊重しながら、みんなが納得して進めていかないと、いやな結果になった時に誰もが不幸になってしまいます。
「転移巣も含めた正確な病状を本人に伝えるのはいやだ、転移のことは隠して今後の診療を続けてほしい・・・」
転移巣に対する特異的な治療があるにもかかわらず、その説明ができていないがためにその治療機会を逸してしまう。
それを我慢して診療を続けなければならないのは、主治医としてつらいです。
セカンドオピニオンの紹介状を書いてほしいということで作成したら、
「本人に渡すと開封するかもしれないので、郵送するなど、本人の手に渡らないように手配してほしい」
開封されてはならないような内容は書いていませんし、本人が開封するなんてことは患者・医師関係からしてはなから考えません。
ご自身で開封するのなら、それはご自身とご家族の責任でなされることであり、私としては開封されても全く構いません。
既に開封された紹介状を受け取った医師の方では、患者さんやご家族の常識に不安を抱くかもしれませんが。
発送しても受診予定日には先方に届かないタイミングで上記のような依頼があったため、私自身もご家族の常識を疑ってしまいました。
本人・家族・医療スタッフが同じ情報を共有して、それに基づいて意思決定を行っていかないと、いつかはおかしな方向に向かい始めます。
この患者さんはまさにそういった岐路に立ちつつあるところで、今度の効果判定の際に、本人・ご家族と胸襟を開いて話し合おうと思っています。
治癒不能の悪性腫瘍と言われたら、一般の医療以外にもなにか有効なものはないかとみんな探します。
アガリクス。
メシマコブ。
サメ脂。
ノニジュース。
ゴマエキス。
大豆イソフラボン。
緑茶カテキン。
コーヒー。
養命酒。
一般のクリニックでされている免疫療法。
有名大学病院でされている免疫療法。
癌に効くという入浴療法。
食事療法。
漢方薬。
神さま。
仏さま。
稲尾さま。
鍼治療。
丸山ワクチン。
治験薬。
どれだってみんな選択肢ですし、患者さんの自由です。
でもね、あくまで患者さんが納得して選ぶからこそのものだと思うんです。
患者さん本人が納得していないのに、ご家族が先走ってしまうのはどうかと思います。
どんな治療でもそうですが、本人の意思を尊重しながら、みんなが納得して進めていかないと、いやな結果になった時に誰もが不幸になってしまいます。
「転移巣も含めた正確な病状を本人に伝えるのはいやだ、転移のことは隠して今後の診療を続けてほしい・・・」
転移巣に対する特異的な治療があるにもかかわらず、その説明ができていないがためにその治療機会を逸してしまう。
それを我慢して診療を続けなければならないのは、主治医としてつらいです。
セカンドオピニオンの紹介状を書いてほしいということで作成したら、
「本人に渡すと開封するかもしれないので、郵送するなど、本人の手に渡らないように手配してほしい」
開封されてはならないような内容は書いていませんし、本人が開封するなんてことは患者・医師関係からしてはなから考えません。
ご自身で開封するのなら、それはご自身とご家族の責任でなされることであり、私としては開封されても全く構いません。
既に開封された紹介状を受け取った医師の方では、患者さんやご家族の常識に不安を抱くかもしれませんが。
発送しても受診予定日には先方に届かないタイミングで上記のような依頼があったため、私自身もご家族の常識を疑ってしまいました。
本人・家族・医療スタッフが同じ情報を共有して、それに基づいて意思決定を行っていかないと、いつかはおかしな方向に向かい始めます。
この患者さんはまさにそういった岐路に立ちつつあるところで、今度の効果判定の際に、本人・ご家族と胸襟を開いて話し合おうと思っています。
2015年04月06日
クリゾチニブ講演会(おまけ)
最後のパネルディスカッションの際に触れられていた論文について、ちょっとだけ紹介します。
Progression-Free and Overall Survival in ALK-Positive NSCLC Patients Treated with Sequential Crizotinib and Ceritinib. Gainor JF et al., Clin Cancer Res. 2015 Feb 27. [Epub ahead of print]
目的:ALK再構成は非小細胞肺癌における重要な治療標的であり、ALK阻害薬であるクリゾチニブやセリチニブが有効である。クリゾチニブとセリチニブによる逐次併用療法の臨床効果を明らかにするため、両治療が行われたALK陽性患者をレトロスペクティブに検討した。
方法:4ヶ所の施設において、クリゾチニブとそれに引き続くセリチニブの治療が行われた73人のALK陽性非小細胞肺がん患者を対象にした。全生存期間と無増悪生存期間を調べるためにカルテを参照した。
結果:73人のALK陽性患者において、クリゾチニブの無増悪生存期間中央値は8.2ヶ月(95%信頼区間は7.4-10.6ヶ月)だった。クリゾチニブ中止後にセリチニブを開始するまでの間隔の中央値は25日間(範囲は1日-694日)だった。セリチニブの無増悪生存期間中央値は7.8ヶ月(95%信頼区間は6.5-9.1ヶ月)だった。クリゾチニブとセリチニブの間に他の治療を併用していない患者53人で検討しても、セリチニブの無増悪生存期間中央値は同様に7.8ヶ月(95%信頼区間は5.4-9.8ヶ月)だった。クリゾチニブとセリチニブの逐次併用による無増悪生存期間中央値は17.4ヶ月(95%信頼区間は15.5-19.4ヶ月)だった。クリゾチニブ中止後、セリチニブ開始前に再生検を受けた患者は23人で、ALK耐性変異を認めた患者と認めない患者の間に無増悪生存期間の差は認めなかった(それぞれ5.8ヶ月 vs 6.5ヶ月で、p=0.510)。対象患者全体の全生存期間中央値は49.4ヶ月(95%信頼区間は35.5-63.1ヶ月)だった。
結論:セリチニブはALK陽性非小細胞肺癌に対して有意な抗腫瘍活性を有し、直前までクリゾチニブが使用されている状況でも効果を認めた(逐次併用療法による無増悪生存期間中央値は17ヶ月)。セリチニブの効果持続に関して特定のALK耐性変異が関与しているかどうかを明らかにするために、更なる検討が必要である。
細かい内容は忘れてしまいましたが、アレクチニブもセリチニブも、様々な耐性化ALKに対応できるようですね。
Progression-Free and Overall Survival in ALK-Positive NSCLC Patients Treated with Sequential Crizotinib and Ceritinib. Gainor JF et al., Clin Cancer Res. 2015 Feb 27. [Epub ahead of print]
目的:ALK再構成は非小細胞肺癌における重要な治療標的であり、ALK阻害薬であるクリゾチニブやセリチニブが有効である。クリゾチニブとセリチニブによる逐次併用療法の臨床効果を明らかにするため、両治療が行われたALK陽性患者をレトロスペクティブに検討した。
方法:4ヶ所の施設において、クリゾチニブとそれに引き続くセリチニブの治療が行われた73人のALK陽性非小細胞肺がん患者を対象にした。全生存期間と無増悪生存期間を調べるためにカルテを参照した。
結果:73人のALK陽性患者において、クリゾチニブの無増悪生存期間中央値は8.2ヶ月(95%信頼区間は7.4-10.6ヶ月)だった。クリゾチニブ中止後にセリチニブを開始するまでの間隔の中央値は25日間(範囲は1日-694日)だった。セリチニブの無増悪生存期間中央値は7.8ヶ月(95%信頼区間は6.5-9.1ヶ月)だった。クリゾチニブとセリチニブの間に他の治療を併用していない患者53人で検討しても、セリチニブの無増悪生存期間中央値は同様に7.8ヶ月(95%信頼区間は5.4-9.8ヶ月)だった。クリゾチニブとセリチニブの逐次併用による無増悪生存期間中央値は17.4ヶ月(95%信頼区間は15.5-19.4ヶ月)だった。クリゾチニブ中止後、セリチニブ開始前に再生検を受けた患者は23人で、ALK耐性変異を認めた患者と認めない患者の間に無増悪生存期間の差は認めなかった(それぞれ5.8ヶ月 vs 6.5ヶ月で、p=0.510)。対象患者全体の全生存期間中央値は49.4ヶ月(95%信頼区間は35.5-63.1ヶ月)だった。
結論:セリチニブはALK陽性非小細胞肺癌に対して有意な抗腫瘍活性を有し、直前までクリゾチニブが使用されている状況でも効果を認めた(逐次併用療法による無増悪生存期間中央値は17ヶ月)。セリチニブの効果持続に関して特定のALK耐性変異が関与しているかどうかを明らかにするために、更なる検討が必要である。
細かい内容は忘れてしまいましたが、アレクチニブもセリチニブも、様々な耐性化ALKに対応できるようですね。
2015年04月06日
クリゾチニブ講演会にて(最後)
すっかり作成がずれ込んでしまいましたが、最後の項です。
6) 兵庫県立がんセンター 里内美弥子先生-日本におけるALK-TKI使用経験と治療戦略
・ALK陽性肺癌を対象とした無作為化試験が日本(JALEX試験)および世界(ALEX試験)で進行中で、いずれもクリゾチニブとアレクチニブの比較試験である
・海外で行われたアレクチニブの第II相臨床試験結果も既に論文化されている
→Safety and activity of alectinib against systemic disease and brain metastases in patients with crizotinib-resistant ALK-rearranged non-small-cell lung cancer (AF-002JG): results from the dose-finding portion of a phase 1/2 study. Gadgeel SM et al., Lancet Oncol. 2014 Sep;15(10):1119-28
7) 九州大学病院 岡本勇先生-ザーコリの安全性プロファイル
・2014年10月にザーコリ市販後臨床調査2000例の登録完了
・892人の安全性解析が終了
→年齢中央値は60歳
→非喫煙者が57.4%
→女性が57.0%
→PS 0-1が79%
→FISH法とALK-IHC法を併用して診断されたのが51.7%
→FISH法のみで診断されたのが32.2%
→IHC法のみで診断されたのが3.6%
→治療経過中に減量されたのが33.5%
→間質性肺疾患(ILD)を合併したのが52人(全体の5.8%)
→死亡したのが10人(全体の1.1%、ILD発症患者中の19.2%)
→ILD発症後回復もしくは軽快したのは65.4%
→PS 0-1の患者のうちILDを発症したのは4.4%
→PS 2-4の患者のうちILDを発症したのは11.2%
→非喫煙者のうちILDを発症したのは4.5%
→元喫煙者のうちILDを発症したのは6.5%
→喫煙者のうちILDを発症したのは17.9%


→クリゾチニブ投与継続期間に関する生存曲線を描くと、PS0-1とPS2-4で明らかに区別される

6) 兵庫県立がんセンター 里内美弥子先生-日本におけるALK-TKI使用経験と治療戦略
・ALK陽性肺癌を対象とした無作為化試験が日本(JALEX試験)および世界(ALEX試験)で進行中で、いずれもクリゾチニブとアレクチニブの比較試験である
・海外で行われたアレクチニブの第II相臨床試験結果も既に論文化されている
→Safety and activity of alectinib against systemic disease and brain metastases in patients with crizotinib-resistant ALK-rearranged non-small-cell lung cancer (AF-002JG): results from the dose-finding portion of a phase 1/2 study. Gadgeel SM et al., Lancet Oncol. 2014 Sep;15(10):1119-28
7) 九州大学病院 岡本勇先生-ザーコリの安全性プロファイル
・2014年10月にザーコリ市販後臨床調査2000例の登録完了
・892人の安全性解析が終了
→年齢中央値は60歳
→非喫煙者が57.4%
→女性が57.0%
→PS 0-1が79%
→FISH法とALK-IHC法を併用して診断されたのが51.7%
→FISH法のみで診断されたのが32.2%
→IHC法のみで診断されたのが3.6%
→治療経過中に減量されたのが33.5%
→間質性肺疾患(ILD)を合併したのが52人(全体の5.8%)
→死亡したのが10人(全体の1.1%、ILD発症患者中の19.2%)
→ILD発症後回復もしくは軽快したのは65.4%
→PS 0-1の患者のうちILDを発症したのは4.4%
→PS 2-4の患者のうちILDを発症したのは11.2%
→非喫煙者のうちILDを発症したのは4.5%
→元喫煙者のうちILDを発症したのは6.5%
→喫煙者のうちILDを発症したのは17.9%


→クリゾチニブ投与継続期間に関する生存曲線を描くと、PS0-1とPS2-4で明らかに区別される

2015年04月03日
クリゾチニブ講演会にて(続き)
標記内容について、前回の続きです。
5) Ospedale Civile di Livorno Department of Medical OncologyよりFederico Cappuzo先生
・日本に比べると、欧米諸国ではEGFR遺伝子変異を有する肺がんは少なく、K-ras遺伝子変異を有する患者は多い
・ALK陽性患者は、と言えば、日本と同じくらい(3-4%)
・一般に、化学療法に対する感受性はALK陽性でも陰性でも変わりない→ALK陽性だからと言って、化学療法の選択肢を避ける必要はない
・クリゾチニブが薬として誕生したのは2005年、肺癌におけるEML4-ALK転座が発見されたのが2007年、今はもう一般臨床で使用できる薬としてゆるぎない位置を占めている→創薬から臨床応用へのスピードが速い
・PROFILE 1007(ALK陽性肺癌二次治療において、クリゾチニブがペメトレキセド、ドセタキセルに対して無増悪生存期間を延長した試験)、PROFILE 1014(ALK陽性肺癌一次治療において、クリゾチニブがシスプラチン+ペメトレキセドもしくはカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法に対して無増悪生存期間を延長した試験)のいずれにおいても、全生存期間の延長は認められない
・PROFILE1007においては、無増悪生存期間はクリゾチニブで7.7ヶ月、ペメトレキセドで4.2ヶ月、ドセタキセルで2.6ヶ月と、ペメトレキセドとドセタキセルの間にも差がありそう
・脳転移を有する患者についてPROFILE1005とPROFILE1007を統合解析した報告によると、脳転移を見つけたらまずはクリゾチニブよりも全脳照射もしくはガンマナイフ・サイバーナイフのような定位照射を優先すべきで、これら治療を後回しにしてクリゾチニブを開始すると治療成績が悪くなる
→Clinical Experience With Crizotinib in Patients With Advanced ALK-Rearranged Non-Small-Cell Lung Cancer and Brain Metastases. Costa DB et al., JCO 2015 (Epub ahead of print)
・ALK耐性機序は大きく分けて2通り
→ALK融合蛋白そのものに構造的な二次的変化が起こるか、ALK融合蛋白の増幅が起こるかで、この場合は病勢の進行がゆるやか
→ALK融合蛋白以外に二次的変化が起こる(たとえば、KitやKras,EGFRの遺伝子変異が新たに加わる)場合で、病勢の進行が速い
・クリゾチニブを病勢進行後も継続すると、継続しなかった場合より予後がよかったとする報告あり(crizotinib beyond PD)
→Clinical benefit of continuing ALK inhibition with crizotinib beyond initial disease progression in patients with advanced ALK-positive NSCLC. Ou SH et al., Ann Oncol. 2014 Feb;25(2):415-22
・第二世代のALK阻害薬として、ceritinibが登場した
→Ceritinib in ALK-rearranged non-small-cell lung cancer. Shaw AT et al., N Engl J Med. 2014 Jun 26;370(26):2537-9.
・イタリアでのALK検索率は対象患者の30%程度と低く、まだまだ十分でない
・EGFR, ALKに加えて、KRAS, BRAF, ROS1も一部の施設ではルーチンとして調べている
・ROS1陽性ならとにかくやたらとクリゾチニブが効く
・I1171NのALK二次的変異例に対して、クリゾチニブ耐性後アレクチニブが有効で、それが耐性になってからもCeritinibが有効だったとする報告あり
→I1171 missense mutation (particularly I1171N) is a common resistance mutation in ALK-positive NSCLC patients who have progressive disease while on alectinib and is sensitive to ceritinib. Ou SH et al., Lung Cancer. 2015 Feb 12. pii: S0169-5002(15)00093-8.
あともう一息なんですが、午後の外来が始まるのでまた改めて。
5) Ospedale Civile di Livorno Department of Medical OncologyよりFederico Cappuzo先生
・日本に比べると、欧米諸国ではEGFR遺伝子変異を有する肺がんは少なく、K-ras遺伝子変異を有する患者は多い
・ALK陽性患者は、と言えば、日本と同じくらい(3-4%)
・一般に、化学療法に対する感受性はALK陽性でも陰性でも変わりない→ALK陽性だからと言って、化学療法の選択肢を避ける必要はない
・クリゾチニブが薬として誕生したのは2005年、肺癌におけるEML4-ALK転座が発見されたのが2007年、今はもう一般臨床で使用できる薬としてゆるぎない位置を占めている→創薬から臨床応用へのスピードが速い
・PROFILE 1007(ALK陽性肺癌二次治療において、クリゾチニブがペメトレキセド、ドセタキセルに対して無増悪生存期間を延長した試験)、PROFILE 1014(ALK陽性肺癌一次治療において、クリゾチニブがシスプラチン+ペメトレキセドもしくはカルボプラチン+ペメトレキセド併用療法に対して無増悪生存期間を延長した試験)のいずれにおいても、全生存期間の延長は認められない
・PROFILE1007においては、無増悪生存期間はクリゾチニブで7.7ヶ月、ペメトレキセドで4.2ヶ月、ドセタキセルで2.6ヶ月と、ペメトレキセドとドセタキセルの間にも差がありそう
・脳転移を有する患者についてPROFILE1005とPROFILE1007を統合解析した報告によると、脳転移を見つけたらまずはクリゾチニブよりも全脳照射もしくはガンマナイフ・サイバーナイフのような定位照射を優先すべきで、これら治療を後回しにしてクリゾチニブを開始すると治療成績が悪くなる
→Clinical Experience With Crizotinib in Patients With Advanced ALK-Rearranged Non-Small-Cell Lung Cancer and Brain Metastases. Costa DB et al., JCO 2015 (Epub ahead of print)
・ALK耐性機序は大きく分けて2通り
→ALK融合蛋白そのものに構造的な二次的変化が起こるか、ALK融合蛋白の増幅が起こるかで、この場合は病勢の進行がゆるやか
→ALK融合蛋白以外に二次的変化が起こる(たとえば、KitやKras,EGFRの遺伝子変異が新たに加わる)場合で、病勢の進行が速い
・クリゾチニブを病勢進行後も継続すると、継続しなかった場合より予後がよかったとする報告あり(crizotinib beyond PD)
→Clinical benefit of continuing ALK inhibition with crizotinib beyond initial disease progression in patients with advanced ALK-positive NSCLC. Ou SH et al., Ann Oncol. 2014 Feb;25(2):415-22
・第二世代のALK阻害薬として、ceritinibが登場した
→Ceritinib in ALK-rearranged non-small-cell lung cancer. Shaw AT et al., N Engl J Med. 2014 Jun 26;370(26):2537-9.
・イタリアでのALK検索率は対象患者の30%程度と低く、まだまだ十分でない
・EGFR, ALKに加えて、KRAS, BRAF, ROS1も一部の施設ではルーチンとして調べている
・ROS1陽性ならとにかくやたらとクリゾチニブが効く
・I1171NのALK二次的変異例に対して、クリゾチニブ耐性後アレクチニブが有効で、それが耐性になってからもCeritinibが有効だったとする報告あり
→I1171 missense mutation (particularly I1171N) is a common resistance mutation in ALK-positive NSCLC patients who have progressive disease while on alectinib and is sensitive to ceritinib. Ou SH et al., Lung Cancer. 2015 Feb 12. pii: S0169-5002(15)00093-8.
あともう一息なんですが、午後の外来が始まるのでまた改めて。
2015年04月02日
クリゾチニブ講演会にて
2015年3月28日に行われた上記講演会の覚書。
備忘録として記載します。
まずは前半部分について。
1) 和歌山県立医大 山本信之先生-エビデンスに基づくガイドラインの意義
・我が国独自のエビデンスを尊重する
・論文報告のみならず、学会報告も取り入れて、新しい知見ができるだけ早く実地臨床に活かせるようにする
・2014年の改訂では、遺伝子異常があれば化学療法よりも分子標的薬導入を優先することにした
EGFR遺伝子変異陽性→EGFR阻害薬がGrade A、プラチナ併用化学療法はGrade B
ALK遺伝子再構成陽性→クリゾチニブがGrade A、プラチナ併用化学療法がGrade B(ただしこの場合は、PS2までが対象)
・今後、ALK遺伝子再構成陽性のような希少肺癌においては第III相臨床試験でのエビデンス構築は困難と予想される
2) 愛知県がんセンター中央病院 谷田部恭先生-ALK診断の現状
・ALK免疫染色とALK-FISHの結果の相違:2-4%程度
・ALK免疫染色で偽陽性となるもの:神経内分泌腫瘍(小細胞癌や大細胞神経内分泌癌)
・ALK免疫染色で偽陰性となるもの:印鑑細胞癌型の腺癌
・ALK免疫染色とALK-FISHの結果が相違したのは4%で、RT-PCRで確認すると全て陰性だったという報告が最近もたらされた
→ Discrepancies between FISH and immunohistochemistry for assessment of the ALK status are associated with ALK 'borderline'-positive rearrangements or a high copy number: a potential major issue for anti-ALK therapeutic strategies. Ilie MI et al.,Ann Oncol. 2015 Jan;26(1):238-44
3) 奈良県立医科大学 大林千穂先生-ALK肺がん治療における診断の役割
・形態的に非典型例と思われる症例は、無理に組織診断せず、NOS(not otherwise specified)に留め、免疫染色や遺伝子変異検索の道を残す
・免疫染色のマーカーとして
TTF-1:腺癌のマーカー
Napsin A:腺癌のマーカー、感度は高くないものの、神経内分泌腫瘍の除外に有効
CK5/6:扁平上皮癌のマーカー
p40:扁平上皮癌のマーカー(従来用いられていたp63は腺癌で陽性となることが多く、勧められない)
・小細胞癌の2.9%(2/69)、大細胞神経内分泌癌の(1/106)0.9%でALK免疫染色陽性だったとする報告がある。
→Aberrant anaplastic lymphoma kinase expression in high-grade pulmonary neuroendocrine carcinoma. Nakamura H et al.,J Clin Pathol. 2013 Aug;66(8):705-7
・組織から診断用プレパラートを作成するまでの過程が、ALK免疫染色の結果を大きく左右する
4)パネルディスカッション第一部-最適なファーストライン治療選択のためのALK診断
・手術後に再発した腺扁平上皮癌の50台女性、重喫煙歴あり、2レジメンのプラチナ併用化学療法後に病勢進行となった
・手術標本を調べたところ、ALK免疫染色で陽性、ALK-FISHで陽性と結果の相違があった。
・RT-PCRで再確認したところ陽性判定
・クリゾチニブを投与したところ完全奏効し、3.5年その状態を維持している
・喫煙者がクリゾチニブを服用したときに間質性肺炎を発症する割合は17.9%、やはり安易に使うべきではないのでは?