2011年07月25日

腫瘍細胞をiPS細胞化

先日、日本臨床腫瘍学会の年次総会に出席してきました。
学会長の大津敦先生は並々ならぬ意気込みで準備をされたように思われ、米国臨床腫瘍学会を強く意識した構成になっていました。

相変わらず分子標的薬、抗体医薬の議論が活発です。
分子標的薬の側鎖を変えたり、標的分子が複数にわたったり、薬剤耐性を克服するための工夫をしたりと、様々な工夫がなされています。
しかしながら、おそらく臨床医の誰もが、固形癌の治療に対する分子標的薬や抗体医薬の限界を少し感じ始めています。
新しい治療体系を模索し始める時期です。

今回の学会で一番興味深かったのは、大阪大学の森教授の特別講演でした。
丁度同じタイミングで、自治医大の真野先生のEML4-ALKの講演がありましたが、この1年間で何度も拝聴する機会があったので、せっかくの他分野の専門家が集まる臨床腫瘍学会だから、ということで大腸癌がご専門の森教授のお話を伺いに行きました。

森教授は教室員の先生方と二人三脚で、精力的に腫瘍幹細胞の基礎研究を進めておられます。
幹細胞とは、いってみればその系統の細胞の「アダムとイブ」みたいなものです。
手術、放射線、抗がん薬といった治療を行っても、この腫瘍幹細胞が体のどこかに潜んでいる限りは、そこでまた分裂・増殖を繰り返して、いずれ再発・再燃を来たす、というわけです。
概念としては古くからあったものですが、この腫瘍幹細胞と目される細胞がさまざまな癌腫で見出されるようになったのは、つい最近の話です。
森教授と教室員の皆さんの研究によると、大腸癌の腫瘍幹細胞がある種のたんぱく質を細胞表面にもっていて、それを目安に腫瘍幹細胞をみつけられるようになったそうです。

また、結果がどうなるかはともかくとして、大腸癌のがん細胞をiPS細胞化するという試みもされたそうです。
iPS細胞化するということは、腫瘍細胞が多分化能をもって、ありていに言えば普通の腫瘍細胞が腫瘍幹細胞化するであろうことが想像されます。
そうすると腫瘍幹細胞を人工的に造ることができるわけで、今後の研究の一助になるだろうとの予測があったのでしょう。
しかし、結果は予想外のもので、腫瘍細胞をiPS細胞化するとかえって悪性度が弱まったのだそうです。
この事実をどう解釈するかは難しいところですが、森教授はこれをなんとか治療に応用できないものかと頭をひねっておられるようです。

臨床医をしているとどうしても即診断や治療に応用できるような概念、技術、薬を求めてしまいがちですが、森教授のように学問として興味深い分野の研究を地道に推し進めていく努力は、尊いですし、なによりこれからどうなっていくんだろうとワクワクします。
前後のスケジュール調整は大変ですが、学会に行くとこういう刺激があっていいものです。  

Posted by tak at 07:20Comments(0)その他

2011年07月09日

Best of ASCO 2011

7月は日本臨床腫瘍学会主催の大きな行事が2つあります。
ひとつは年次総会、もうひとつは現在開催中のBest of ASCOです。
私も休日返上で横浜に来て参加しています。

毎年5月末から6月初めに開催される、米国臨床腫瘍学会(ASCO)。
その中でもとくに注目度の高い、今後の実地医療を変えうると考えられるテーマを集めたのがBest of ASCOです。
ASCOに参加するとなると、1週間くらい仕事を棒に振って、大金を出してアメリカに行かないといけません。
そういった意味では、日本国内でダイジェストを報告してもらえるBest of ASCOはありがたい存在です。

今日は初日で、消化器癌、泌尿器癌、婦人科癌などがとりあつかわれました。
日ごろ肺癌ばかりをあつかっていると、他癌腫の最新情報にはどうしても疎くなります。
明日いっぱい、一所懸命勉強して帰ろうと思います。
  

Posted by tak at 23:18Comments(0)その他

2011年07月07日

結核

今日は結核のお話を少し。

以前、他の病院で粟粒結核の患者さんを診たことを書きました。
結核は決して珍しい病気ではありません。
むしろ、最近になって遭遇する頻度が増えているようです。
私が学生の頃から既に、再興感染症として結核の話題が出ていました。

私自身、知らないうちに地域医療支援先の病院で結核患者に接触していたため、定期的に接触者健診を受けています。
無症状、もしくは軽度の症状で肺に異常な影があった場合には、検査前の鑑別診断として必ず肺結核を挙げて、患者さんに説明します。
肺癌は人から人へはうつりません(いまのところそういう認識でいいと思います)が、肺結核は人から人へ飛沫伝播しますし、排菌がある状態では隔離が必要な難治性の疾患です。
公衆衛生学的な観点からは、肺癌よりもはるかに慎重にかからねばならない疾患です。

家族に結核の既往があり、検診で胸部異常陰影を指摘された方は、ぜひ早めに二次健診の医療機関を受診してください。  

Posted by tak at 21:53Comments(0)その他