2016年01月27日
Rociletinib(CO1686)後のOsimertinib(AZD9291)
少数の報告ではありますが、Rociletinib治療後のOsimertinibの効果について、JAMA oncologyに報告がされています。
Osimertinib Responses After Disease Progression in Patients Who Had Been Receiving Rociletinib
Lecia V. Sequist, MD, MPH; Zofia Piotrowska, MD; Matthew J. Niederst, PhD; Rebecca S. Heist, MD, MPH; Subba Digumarthy, MD; Alice T. Shaw, MD, PhD; Jeffrey A. Engelman, MD, PhD
JAMA Oncol. Published online December 17, 2015.
今回報告された9人の患者は全て、マサチューセッツ総合病院でRociletinibの臨床試験に参加した後に、引き続き別個にOsimertinibの臨床試験に参加した患者である。うち7人では、Rociletinib開始前にT790M耐性遺伝子変異陽性であることが確認されており、同様にうち8人では、Osimertinib開始前にT790M陽性であることが確認されていた。Rociletinibは全ての患者で病勢進行確認後に中止されており、6人ではRociletinib中止後その他の治療をはさまずにOsimertinibが開始されていた。
Rociletinibは500-1000mgを1日2回で使用され、6人で用量減量が必要だった。Osimertinibは80-160mgを1日1回で使用され、用量減量は不要だった。Rociletinibの最良効果は部分奏効(PR)で2人で認められ、病勢安定(SD)は3人で、病勢進行(PD)は4人で認められた。
続いて使用されたOsimertinibの最良効果はPRで3人に認められ、SDは4人で、PDは2人で認められた。無増悪生存期間中央値は208日間だった。他の治療をはさまずにOsimertinibが使用された6人のうち、3人はPR、3人はSD、それぞれの無増悪生存期間中央値は207日間および375日間だった。Rociletinibによる最良効果がPDだった4人のうち、2人はOsimertinibでもPD、2人はSDで、それぞれの無増悪生存期間中央値は208日間および375日間だった。Rociletinib治療中に新規の脳転移が出現した3人の患者において、Osimertinibによる治療効果が確認された。
なにぶん対象となっている患者数が少ないので、
「ふーん、そんなこともあるかもね」
という印象を受けるのみです。
そのうち、「Osimertinib後のRociletinibの効果」なんて報告があるかもしれません。
要約を読んでいて気になったのは、腫瘍縮小効果が得られた患者がかならずしも無増悪生存期間が長いわけではない、ということです。
腫瘍が小さくはなるけれど、それが元よりも大きくなるまでの時期はかえって早く訪れる、となったら、それはより優れた治療といえるのでしょうか。

個別の患者さんのデータを見ると、いかにT790M陽性であろうと、Rociletinibによる最良効果がPDだった場合にはOsimertinibでも腫瘍縮小は得られず、1ヶ月未満でOsimertinibも中止されています。
第3世代EGFR阻害薬による最良効果がPDのときには、他の第3世代に移行するよりは他の耐性機構を探したほうが言いということでしょうか。

Spider plotを見る限り、病勢の動きがもともと緩やかな患者さんでは、第3世代EGFR阻害薬のswitch therapyは意味がありそうです。
Osimertinib Responses After Disease Progression in Patients Who Had Been Receiving Rociletinib
Lecia V. Sequist, MD, MPH; Zofia Piotrowska, MD; Matthew J. Niederst, PhD; Rebecca S. Heist, MD, MPH; Subba Digumarthy, MD; Alice T. Shaw, MD, PhD; Jeffrey A. Engelman, MD, PhD
JAMA Oncol. Published online December 17, 2015.
今回報告された9人の患者は全て、マサチューセッツ総合病院でRociletinibの臨床試験に参加した後に、引き続き別個にOsimertinibの臨床試験に参加した患者である。うち7人では、Rociletinib開始前にT790M耐性遺伝子変異陽性であることが確認されており、同様にうち8人では、Osimertinib開始前にT790M陽性であることが確認されていた。Rociletinibは全ての患者で病勢進行確認後に中止されており、6人ではRociletinib中止後その他の治療をはさまずにOsimertinibが開始されていた。
Rociletinibは500-1000mgを1日2回で使用され、6人で用量減量が必要だった。Osimertinibは80-160mgを1日1回で使用され、用量減量は不要だった。Rociletinibの最良効果は部分奏効(PR)で2人で認められ、病勢安定(SD)は3人で、病勢進行(PD)は4人で認められた。
続いて使用されたOsimertinibの最良効果はPRで3人に認められ、SDは4人で、PDは2人で認められた。無増悪生存期間中央値は208日間だった。他の治療をはさまずにOsimertinibが使用された6人のうち、3人はPR、3人はSD、それぞれの無増悪生存期間中央値は207日間および375日間だった。Rociletinibによる最良効果がPDだった4人のうち、2人はOsimertinibでもPD、2人はSDで、それぞれの無増悪生存期間中央値は208日間および375日間だった。Rociletinib治療中に新規の脳転移が出現した3人の患者において、Osimertinibによる治療効果が確認された。
なにぶん対象となっている患者数が少ないので、
「ふーん、そんなこともあるかもね」
という印象を受けるのみです。
そのうち、「Osimertinib後のRociletinibの効果」なんて報告があるかもしれません。
要約を読んでいて気になったのは、腫瘍縮小効果が得られた患者がかならずしも無増悪生存期間が長いわけではない、ということです。
腫瘍が小さくはなるけれど、それが元よりも大きくなるまでの時期はかえって早く訪れる、となったら、それはより優れた治療といえるのでしょうか。

個別の患者さんのデータを見ると、いかにT790M陽性であろうと、Rociletinibによる最良効果がPDだった場合にはOsimertinibでも腫瘍縮小は得られず、1ヶ月未満でOsimertinibも中止されています。
第3世代EGFR阻害薬による最良効果がPDのときには、他の第3世代に移行するよりは他の耐性機構を探したほうが言いということでしょうか。

Spider plotを見る限り、病勢の動きがもともと緩やかな患者さんでは、第3世代EGFR阻害薬のswitch therapyは意味がありそうです。
2016年01月22日
進行期肺癌の骨転移合併頻度
癌の骨転移は、厄介な病態です。
痛みはもちろんですが、骨転移が起こる部位によっては、患者さんのQOLが著しく阻害されるとともに、動くことができなくなってしまったら薬物療法そのものができなくなる危険性があります。
背骨の転移が大きくなったら脊髄を圧迫して両下肢麻痺になることがありますし、大腿骨の転移がもとで骨が折れてしまったら、大腿骨頸部骨折を起こした高齢者さながらに歩けなくなります。
「骨折予防のために車いすで生活してください」と患者さんにお願いすることもしばしばですが、これって日常生活を送るうえで、大きな負担ですよね。
今回は、骨転移に関する論文を取り上げます。
進行肺癌ではどこかに転移巣があるものですが、半数を骨転移が占めているとまでは感じていませんでした。
J Thorac Oncol. 2014;9: 231–238
Prospective Study on the Incidence of Bone Metastasis(BM) and Skeletal-Related Events (SREs) in Patients (pts) with Stage IIIB and IV Lung Cancer—CSP-HOR 13
Nobuyuki Katakami, MD, PhD,* Hiroshi Kunikane, MD, PhD,† Koji Takeda, MD,‡Koichi Takayama, MD, PhD,§ Toshiyuki Sawa, MD, PhD,║ Hiroshi Saito, MD, PhD,¶Masao Harada, MD, PhD,# Soichiro Yokota, MD, PhD,** Kiyoshi Ando, MD, PhD,†† Yuko Saito, MS,‡‡Isao Yokota, MPH,§§ Yasuo Ohashi, PhD,§§ and Kenji Eguchi, MD, PhD║║
背景:骨転移は進行期肺癌において頻繁に見られる合併症であり、骨関連イベント(骨折、疼痛など)を引き起こす。今回は、進行肺癌における骨転移の合併率、骨関連イベントの種類、骨転移や骨関連イベントに関わる予測因子を前向き調査することを目的とした。
方法:新規に診断された進行非小細胞肺癌もしくは小細胞肺癌の患者を対象とした。患者は4週間ごとに骨関連イベント発生についてモニタリングされた。肺癌に対する治療は担当医判断に委ねられた。
結果:2007年4月から2009年12月の間に、12施設から274人の患者が登録された。77人の小細胞がん患者と197人の非小細胞癌患者(stage IIIB 73人、stage IV 124人)が含まれていた。観察期間中央値は13.8ヶ月だった。初回診断時の骨転移合併率はstage IVの非小細胞肺癌で48%、進展型小細胞肺癌で40%だった。初回診断時には骨転移がなく、経過中に骨転移を認めた患者の45%で骨関連イベントが発生し、病的骨折(4.7%)、骨への放射線照射(15.3%)、脊髄圧迫(1.1%)、高カルシウム血症(2.2%)を含んでいた。多変量解析では、骨転移の予測因子はIV期であること、Performance status>1であること、非小細胞肺癌患者においてALPが高値であること、LDHが高値であること、小細胞肺癌患者において副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)が低値であること、だった。骨関連イベントの予測因子はIV期であること、64歳以下であること、非小細胞肺癌患者においてアルブミンが低値であること、だった。
結論:今回抽出された骨転移、骨関連イベントの予測因子は、今後行われる無作為化比較試験においては評価が検討されるべきであろう。
抽出されている予測因子が多岐にわたり、多重性の問題について適切に補正されているかどうかは気になるところです。
より若い患者さんに骨関連イベントが多い=QOLが阻害されやすい、というのは意外でした。
たとえ無症状であっても、実に進行期非小細胞肺癌の50%、進展型小細胞肺癌の40%を占める骨転移を有する患者さんにおいては、抗がん薬や分子標的薬のみならず、骨転移に対する薬物療法(ゾレドロン酸やデノスマブ)とカルシウム・ビタミンD補充、顎骨壊死予防対策としての口腔衛生に気を配らなければなりません。
痛みはもちろんですが、骨転移が起こる部位によっては、患者さんのQOLが著しく阻害されるとともに、動くことができなくなってしまったら薬物療法そのものができなくなる危険性があります。
背骨の転移が大きくなったら脊髄を圧迫して両下肢麻痺になることがありますし、大腿骨の転移がもとで骨が折れてしまったら、大腿骨頸部骨折を起こした高齢者さながらに歩けなくなります。
「骨折予防のために車いすで生活してください」と患者さんにお願いすることもしばしばですが、これって日常生活を送るうえで、大きな負担ですよね。
今回は、骨転移に関する論文を取り上げます。
進行肺癌ではどこかに転移巣があるものですが、半数を骨転移が占めているとまでは感じていませんでした。
J Thorac Oncol. 2014;9: 231–238
Prospective Study on the Incidence of Bone Metastasis(BM) and Skeletal-Related Events (SREs) in Patients (pts) with Stage IIIB and IV Lung Cancer—CSP-HOR 13
Nobuyuki Katakami, MD, PhD,* Hiroshi Kunikane, MD, PhD,† Koji Takeda, MD,‡Koichi Takayama, MD, PhD,§ Toshiyuki Sawa, MD, PhD,║ Hiroshi Saito, MD, PhD,¶Masao Harada, MD, PhD,# Soichiro Yokota, MD, PhD,** Kiyoshi Ando, MD, PhD,†† Yuko Saito, MS,‡‡Isao Yokota, MPH,§§ Yasuo Ohashi, PhD,§§ and Kenji Eguchi, MD, PhD║║
背景:骨転移は進行期肺癌において頻繁に見られる合併症であり、骨関連イベント(骨折、疼痛など)を引き起こす。今回は、進行肺癌における骨転移の合併率、骨関連イベントの種類、骨転移や骨関連イベントに関わる予測因子を前向き調査することを目的とした。
方法:新規に診断された進行非小細胞肺癌もしくは小細胞肺癌の患者を対象とした。患者は4週間ごとに骨関連イベント発生についてモニタリングされた。肺癌に対する治療は担当医判断に委ねられた。
結果:2007年4月から2009年12月の間に、12施設から274人の患者が登録された。77人の小細胞がん患者と197人の非小細胞癌患者(stage IIIB 73人、stage IV 124人)が含まれていた。観察期間中央値は13.8ヶ月だった。初回診断時の骨転移合併率はstage IVの非小細胞肺癌で48%、進展型小細胞肺癌で40%だった。初回診断時には骨転移がなく、経過中に骨転移を認めた患者の45%で骨関連イベントが発生し、病的骨折(4.7%)、骨への放射線照射(15.3%)、脊髄圧迫(1.1%)、高カルシウム血症(2.2%)を含んでいた。多変量解析では、骨転移の予測因子はIV期であること、Performance status>1であること、非小細胞肺癌患者においてALPが高値であること、LDHが高値であること、小細胞肺癌患者において副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)が低値であること、だった。骨関連イベントの予測因子はIV期であること、64歳以下であること、非小細胞肺癌患者においてアルブミンが低値であること、だった。
結論:今回抽出された骨転移、骨関連イベントの予測因子は、今後行われる無作為化比較試験においては評価が検討されるべきであろう。
抽出されている予測因子が多岐にわたり、多重性の問題について適切に補正されているかどうかは気になるところです。
より若い患者さんに骨関連イベントが多い=QOLが阻害されやすい、というのは意外でした。
たとえ無症状であっても、実に進行期非小細胞肺癌の50%、進展型小細胞肺癌の40%を占める骨転移を有する患者さんにおいては、抗がん薬や分子標的薬のみならず、骨転移に対する薬物療法(ゾレドロン酸やデノスマブ)とカルシウム・ビタミンD補充、顎骨壊死予防対策としての口腔衛生に気を配らなければなりません。
2016年01月22日
pseudo-progression?
ニボルマブを開始されたある肺癌患者さん、開始1週間後の段階では、患者さんはピンピンしていて何事も起こっていないようです。
一方、胸部レントゲンで見る限り、わずかながら腫瘍が大きくなっているようでした。
これまでの経過からすると腫瘍そのものの増大よりも、ニボルマブによるいわゆる「pseudo-progression」と思いたいところですが・・・。
効果判定CTを撮影する時期には縮小していることを祈ります。
ニボルマブの適正使用に関するステートメントが日本臨床腫瘍学会から公表されています。
http://www.jsmo.or.jp/
また、それに関する一般向けの解説が以下に掲載されています。
http://オンコロジー.com/news/160120k01
ニボルマブを使っている、もしくは使おうとしている患者さん、ご家族、医療従事者は是非ご一読を。
一方、胸部レントゲンで見る限り、わずかながら腫瘍が大きくなっているようでした。
これまでの経過からすると腫瘍そのものの増大よりも、ニボルマブによるいわゆる「pseudo-progression」と思いたいところですが・・・。
効果判定CTを撮影する時期には縮小していることを祈ります。
ニボルマブの適正使用に関するステートメントが日本臨床腫瘍学会から公表されています。
http://www.jsmo.or.jp/
また、それに関する一般向けの解説が以下に掲載されています。
http://オンコロジー.com/news/160120k01
ニボルマブを使っている、もしくは使おうとしている患者さん、ご家族、医療従事者は是非ご一読を。
2016年01月19日
化学療法による末梢神経障害とその後の生活について
肺癌のみならず、抗がん薬による化学療法はしばしば手足のしびれを主な症状とする末梢神経障害を引き起こします。
実地医療では漢方薬や抗けいれん薬などを使うことにより、神経性の痛みを緩和する試みがなされますが、感覚障害そのものを改善する治療はほぼありません。
女性の「がんサバイバー」を対象とした調査報告が、先だってカリフォルニア州サンフランシスコで行われた「がんサバイバーシップシンポジウム2016」でありました。
この報告によると、
・抗がん薬治療の種類にもよるが、治療を受けた患者のうち概ね57-83%が治療中もしくは治療終了後に化学療法による末梢神経障害の症状を示す
・どの患者が治療に関連した末梢神経障害に見舞われるか、その症状がどの程度続くのかを予測するすべはない。
・実地臨床において、治療に関連した末梢神経障害を早期に検出する有用な診断ツールはない。
・今回は、女性のがんサバイバー462人を対象にして、転倒や骨折の予防を目的としたがんリハビリテーションの介入効果を見るための検討を行った。
・参加者のうち71%は乳がんの患者さんで、ほかには肺がん、大腸がん、卵巣がん、血液腫瘍の患者さんが含まれていた。
・がんと診断されてからの経過年数は、平均6年だった。
・45%の患者さんは、手足の感覚障害といったがん薬物療法に起因する末梢神経障害の症状を訴えていた。
・末梢神経障害の有無は、身体機能の低下や、料理や買い物といった日常生活に難がある、という点で有意に相関していた。
・末梢神経障害を有する患者さんでは歩行パターンに変化が見られ、末梢神経障害のない患者さんと比較して約2倍の転倒リスクがあった。
・がん薬物療法による末梢神経障害を抱えた患者さんのリハビリテーションでは、加齢やその他の疾患で身体機能が衰えた患者さんとは違ったアプローチが必要である。
・これらの患者さんでは筋力低下をあまり認めないが、動作や歩行のパターンに配慮する必要がある。
・これらの患者さんの中には椅子からの立ち上がり動作が難しい人がいるが、足から中枢神経への間隔入力が損なわれているために、どのくらいの速さで、どのくらいの力を入れて立ち上がればいいのかがわからないのだろう。
・具体的なリハビリテーションの内容を挙げると・・・
-転倒のリスクが高いため、屋外歩行よりも屋内での手すり付き歩行器訓練の方が安全である。
-筋力トレーニングよりも、立位バランス訓練などにより重きを置くべきである。
・・・といったことが議論されたようです。
国民の半分ががんにかかる我が国。
当院は多数のリハビリ患者さんを受け入れていますが、確かに考えてみると、がん治療を経験した患者さんには手足のしびれを伴っている方が多いかも知れません。
がんリハビリに取り組む病院は増えましたが、がんの患者さんに特化したリハビリを行っているわけではないので、こうした知見にアンテナを張っておくことは必要ですね。
実地医療では漢方薬や抗けいれん薬などを使うことにより、神経性の痛みを緩和する試みがなされますが、感覚障害そのものを改善する治療はほぼありません。
女性の「がんサバイバー」を対象とした調査報告が、先だってカリフォルニア州サンフランシスコで行われた「がんサバイバーシップシンポジウム2016」でありました。
この報告によると、
・抗がん薬治療の種類にもよるが、治療を受けた患者のうち概ね57-83%が治療中もしくは治療終了後に化学療法による末梢神経障害の症状を示す
・どの患者が治療に関連した末梢神経障害に見舞われるか、その症状がどの程度続くのかを予測するすべはない。
・実地臨床において、治療に関連した末梢神経障害を早期に検出する有用な診断ツールはない。
・今回は、女性のがんサバイバー462人を対象にして、転倒や骨折の予防を目的としたがんリハビリテーションの介入効果を見るための検討を行った。
・参加者のうち71%は乳がんの患者さんで、ほかには肺がん、大腸がん、卵巣がん、血液腫瘍の患者さんが含まれていた。
・がんと診断されてからの経過年数は、平均6年だった。
・45%の患者さんは、手足の感覚障害といったがん薬物療法に起因する末梢神経障害の症状を訴えていた。
・末梢神経障害の有無は、身体機能の低下や、料理や買い物といった日常生活に難がある、という点で有意に相関していた。
・末梢神経障害を有する患者さんでは歩行パターンに変化が見られ、末梢神経障害のない患者さんと比較して約2倍の転倒リスクがあった。
・がん薬物療法による末梢神経障害を抱えた患者さんのリハビリテーションでは、加齢やその他の疾患で身体機能が衰えた患者さんとは違ったアプローチが必要である。
・これらの患者さんでは筋力低下をあまり認めないが、動作や歩行のパターンに配慮する必要がある。
・これらの患者さんの中には椅子からの立ち上がり動作が難しい人がいるが、足から中枢神経への間隔入力が損なわれているために、どのくらいの速さで、どのくらいの力を入れて立ち上がればいいのかがわからないのだろう。
・具体的なリハビリテーションの内容を挙げると・・・
-転倒のリスクが高いため、屋外歩行よりも屋内での手すり付き歩行器訓練の方が安全である。
-筋力トレーニングよりも、立位バランス訓練などにより重きを置くべきである。
・・・といったことが議論されたようです。
国民の半分ががんにかかる我が国。
当院は多数のリハビリ患者さんを受け入れていますが、確かに考えてみると、がん治療を経験した患者さんには手足のしびれを伴っている方が多いかも知れません。
がんリハビリに取り組む病院は増えましたが、がんの患者さんに特化したリハビリを行っているわけではないので、こうした知見にアンテナを張っておくことは必要ですね。
2016年01月13日
ニボルマブ、DPC病院でも使いやすくなりました。
ニボルマブ、非小細胞肺癌で使えるようになったはいいものの、入院治療費が病名によって包括(まるめ)算定される仕組みのDPC対象病院ではどうやって使用するべきか、このところ問題になっていました。
治療者はできるだけ安全に使用するために、患者さんに入院して頂いて治療したかったのですが、実際に入院して頂くと、病院経営上はあまりにもニボルマブの薬剤費用が高すぎて、治療すればするほど病院が赤字になってしまうというジレンマに陥っていました。
本日の中央社会保険医療審議会において、ニボルマブの薬剤費用についてのみ特例的に包括算定の対象から外すことになったようです。
以下のリンクに詳しいので、興味のある方はご覧ください。
http://オンコロジー.com/news/160113k01
少なくともこれで、治療すればするほど病院経営が圧迫されるという事態は回避されましたが、要は病院経営に悪影響を及ぼすくらい(病院をつぶしてしまいかねないくらい)の薬価負担が、病院ではなくて国民全体にのしかかるということです。
病院が払わなくてよくなった分を、国民が払うということです。
これからニボルマブを使うなら、もしくはこれからの人生で病気になったときにニボルマブを使いたいならば、タバコを吸うのはやめましょう。
あるいは、タバコを吸ってもいいから、ニボルマブ代は自分で払えるくらいの財を築きましょう。
治療者はできるだけ安全に使用するために、患者さんに入院して頂いて治療したかったのですが、実際に入院して頂くと、病院経営上はあまりにもニボルマブの薬剤費用が高すぎて、治療すればするほど病院が赤字になってしまうというジレンマに陥っていました。
本日の中央社会保険医療審議会において、ニボルマブの薬剤費用についてのみ特例的に包括算定の対象から外すことになったようです。
以下のリンクに詳しいので、興味のある方はご覧ください。
http://オンコロジー.com/news/160113k01
少なくともこれで、治療すればするほど病院経営が圧迫されるという事態は回避されましたが、要は病院経営に悪影響を及ぼすくらい(病院をつぶしてしまいかねないくらい)の薬価負担が、病院ではなくて国民全体にのしかかるということです。
病院が払わなくてよくなった分を、国民が払うということです。
これからニボルマブを使うなら、もしくはこれからの人生で病気になったときにニボルマブを使いたいならば、タバコを吸うのはやめましょう。
あるいは、タバコを吸ってもいいから、ニボルマブ代は自分で払えるくらいの財を築きましょう。
2016年01月13日
髄液移行性の良いEGFRチロシンキナーゼ阻害薬
今朝は半日の院外出張で、少し勉強する時間があったので雑誌を読んできました。
近畿大学の小林先生、光冨先生共著の文章に、脳転移を有する患者さんの治療戦略について記載がありました。
2015年の米国臨床腫瘍学会での報告から2題が取り上げられていました。
一報は新規治療薬候補であるAZD3759について、もう一報はErlotinibのパルス療法についてでした。
今回は、AZD3759の報告について少し触れます。
AZD3759は、脳転移および髄膜播種に対して、脳血液関門を通過して作用するように開発されたEGFRチロシンキナーゼ阻害薬です。髄液移行性が極めて高く、血清中の濃度とほぼ遜色ないくらいの移行性が得られるそうです。
AZD3759, an EGFR inhibitor with blood brain barrier (BBB) penetration for the treatment of non-small cell lung cancer (NSCLC) with brain metastasis (BM): Preclinical evidence and clinical cases.
Poster Discussion Session, Lung Cancer—Non-Small Cell Metastatic.
Abst. #8016
(前臨床試験の結果は割愛します)
背景:脳転移を有するEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者の報告が増えつつある一方で、現在実地臨床で使用できるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は髄液移行性が乏しく、有効な治療法がない。今回、髄液移行性の良い治療薬候補であるAZD3759について、脳転移に対する治療としての初期段階の報告をする。
方法:EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌患者を対象とした、AZD3259の安全性・忍容性を調べるオープンラベル第I相試験(NCT02228369)が現在進行中であるが、その一部を報告する。
結果:今日までに、測定可能な脳転移を有する4人の患者が登録された。脳転移巣の治療後評価が可能だった2人のうち、1人では奏効(PR)、1人では病勢安定(SD)の状態だった。これらの患者における脳脊髄液中のAZD3759のトラフ値はそれぞれ7.7nMおよび6nMだった。これまでのところ、用量制限毒性に至る有害事象報告はなく、Grade 1の皮疹が2人に認められたのみだった。
要旨の中に出てくるNCT02228369試験については、下記のリンクに概要が記載されています。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02228369
ざっと見てみると、EGFR遺伝子変異はExon 19もしくはExon 21のいわゆるcommon mutationを有する患者さんを対象としていて、前治療歴としてEGFRチロシンキナーゼ阻害薬と化学療法、それぞれ少なくとも1種類ずつの治療歴が必要とされています。
AZD3759の安全性と忍容性を見るための第I相試験と銘打っていますが、そう単純な設定ではなさそうです。
初期段階(Part A)は古典的な第I相試験のようですが、Part Bでは脳転移もしくは腰椎穿刺で病理学的に証明された髄膜播種症の患者さんを対象に、AZD3759およびAZD9291の有効性、安全性、髄液移行性を検討する、ランダム化第II相試験を思わせるような設定になっています。
Part Aの段階で
米国、オーストラリア、韓国、台湾の施設が参加しているようですが、患者登録が開始されたのはオーストラリア、韓国、台湾のようです。
18歳以上の患者さんが対象とされていますが、「日本人は20歳以上」との但し書きがわざわざされているのは、韓国や台湾の施設で日本人の患者さんが参加することも考慮してのことでしょうか。
2016年内いっぱいで患者さんの集積を終了する予定だそうですから、2017年後半から2018年前半にはなんらかの報告が出始めるかもしれませんね。
近畿大学の小林先生、光冨先生共著の文章に、脳転移を有する患者さんの治療戦略について記載がありました。
2015年の米国臨床腫瘍学会での報告から2題が取り上げられていました。
一報は新規治療薬候補であるAZD3759について、もう一報はErlotinibのパルス療法についてでした。
今回は、AZD3759の報告について少し触れます。
AZD3759は、脳転移および髄膜播種に対して、脳血液関門を通過して作用するように開発されたEGFRチロシンキナーゼ阻害薬です。髄液移行性が極めて高く、血清中の濃度とほぼ遜色ないくらいの移行性が得られるそうです。
AZD3759, an EGFR inhibitor with blood brain barrier (BBB) penetration for the treatment of non-small cell lung cancer (NSCLC) with brain metastasis (BM): Preclinical evidence and clinical cases.
Poster Discussion Session, Lung Cancer—Non-Small Cell Metastatic.
Abst. #8016
(前臨床試験の結果は割愛します)
背景:脳転移を有するEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者の報告が増えつつある一方で、現在実地臨床で使用できるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は髄液移行性が乏しく、有効な治療法がない。今回、髄液移行性の良い治療薬候補であるAZD3759について、脳転移に対する治療としての初期段階の報告をする。
方法:EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌患者を対象とした、AZD3259の安全性・忍容性を調べるオープンラベル第I相試験(NCT02228369)が現在進行中であるが、その一部を報告する。
結果:今日までに、測定可能な脳転移を有する4人の患者が登録された。脳転移巣の治療後評価が可能だった2人のうち、1人では奏効(PR)、1人では病勢安定(SD)の状態だった。これらの患者における脳脊髄液中のAZD3759のトラフ値はそれぞれ7.7nMおよび6nMだった。これまでのところ、用量制限毒性に至る有害事象報告はなく、Grade 1の皮疹が2人に認められたのみだった。
要旨の中に出てくるNCT02228369試験については、下記のリンクに概要が記載されています。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02228369
ざっと見てみると、EGFR遺伝子変異はExon 19もしくはExon 21のいわゆるcommon mutationを有する患者さんを対象としていて、前治療歴としてEGFRチロシンキナーゼ阻害薬と化学療法、それぞれ少なくとも1種類ずつの治療歴が必要とされています。
AZD3759の安全性と忍容性を見るための第I相試験と銘打っていますが、そう単純な設定ではなさそうです。
初期段階(Part A)は古典的な第I相試験のようですが、Part Bでは脳転移もしくは腰椎穿刺で病理学的に証明された髄膜播種症の患者さんを対象に、AZD3759およびAZD9291の有効性、安全性、髄液移行性を検討する、ランダム化第II相試験を思わせるような設定になっています。
Part Aの段階で
米国、オーストラリア、韓国、台湾の施設が参加しているようですが、患者登録が開始されたのはオーストラリア、韓国、台湾のようです。
18歳以上の患者さんが対象とされていますが、「日本人は20歳以上」との但し書きがわざわざされているのは、韓国や台湾の施設で日本人の患者さんが参加することも考慮してのことでしょうか。
2016年内いっぱいで患者さんの集積を終了する予定だそうですから、2017年後半から2018年前半にはなんらかの報告が出始めるかもしれませんね。
2016年01月08日
悪性胸膜中皮腫とベバシツマブ
昨年の米国臨床腫瘍学会で発表された、悪性胸膜中皮腫に対するシスプラチン+ペメトレキセド+ベバシツマブ併用療法の報告(IFCT-GFPC 0701試験)が、The Lancet誌に発表されていました。
関連記事は以下に記してありますが、改めて論文の要約を以下に記します。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e803955.html
Bevacizumab for newly diagnosed pleural mesothelioma in the Mesothelioma Avastin Cisplatin Pemetrexed Study (MAPS): a randomised, controlled, open-label, phase 3 trial
Prof Gérard Zalcman, Prof Julien Mazieres, MD, Jacques Margery, MD, Laurent Greillier, MD, Clarisse Audigier-Valette, MD, Prof Denis Moro-Sibilot, MD, Olivier Molinier, MD, Romain Corre, MD, Isabelle Monnet, MD, Valérie Gounant, MD, Frédéric Rivière, MD, Henri Janicot, MD, Radj Gervais, MD, Chrystèle Locher, MD, Bernard Milleron, MD, Quan Tran, MSc, Marie-Paule Lebitasy, MD, Franck Morin, MSc, Christian Creveuil, PhD, Prof Jean-Jacques Parienti, PhD, Prof Arnaud Scherpereel, MD on behalf of the French Cooperative Thoracic Intergroup (IFCT)
Lancet, Published Online: 21 December 2015
背景:悪性胸膜中皮腫は悪性度の高い予後不良の疾患であり、職業的アスベスト暴露と関連している。血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor, VEGF)は胸膜中皮腫細胞の細胞分裂のキーとなる要素であり、VEGFを標的とした治療が効果的かもしれない。今回は、進行悪性胸膜中皮腫の初回標準治療であるシスプラチン+ペメトレキセド療法にベバシツマブを上乗せすることにより、生存期間延長に寄与するかどうかを調べることを目的とした。
方法:今回の無作為化オープンラベル第III相試験では、18歳から75歳、PS0-2、心合併症なし、少なくとも一項目のCTで評価可能な病変(胸水もしくは測定可能な胸膜病変)を有し、12週間以上の生存が見込める未治療、切除不能悪性胸膜中皮腫患者を対象に、フランス国内の73施設から患者を集積した。除外基準は、中枢神経系への転移、抗血小板療法施行中(アスピリン>325mg/日、クロピドグレル、チクロピジン、ジピリダモール)、治療量としてビタミンK阻害薬を服用中、治療量として低分子量ヘパリンを使用中、非ステロイド性消炎鎮痛薬使用中、の各項目とした。組織型(上皮型 vs 肉腫型もしくは混合型)、PS(0-1 vs 2)、登録施設、喫煙歴(非喫煙者 vs 喫煙者)を割付調整因子として、1:1の割合でシスプラチン+ペメトレキセド+ベバシツマブ(PCB)群もしくはシスプラチン+ペメトレキセド群(PC群)に患者を割り付けた。シスプラチンは75mg/㎡、ペメトレキセドは500mg/㎡、ベバシツマブは15mg/kgの投与量で、21日サイクルで投与し、病勢進行もしくは忍容不能な毒性により中止となるまでは、最大6コースまで治療を行うこととした。PCB群では6コース終了後、ベバシツマブの維持投与ができることとした。主要評価項目は全生存期間で、解析はintention-to treat(実際の治療内容ごとではなく、割付時の治療群ごとに解析を行う)に基づいて行った。
結果:2008年2月13日から2014年1月5日までに、448人の患者を無作為割付した(PCB群:223人、PC群:225人)。全生存期間はPCB群において有意に延長していた(生存期間中央値はPCB群で18.8ヶ月(95%信頼区間15.9ヶ月-22.6ヶ月)、PC群で16.1ヶ月(95%信頼区間14.0ヶ月-17.9ヶ月)、ハザード比0.77(95%信頼区間0.62-0.95)、p=0.0167)。無増悪生存期間(中央値はPCB群で9.2ヶ月(8.5-10.5ヶ月)、PC群で7.3ヶ月(6.7-8.0)、ハザード比0.61(0.50-0.75)、p<0.0001)もPCB群で有意に延長していた。PCB療法が行われた222人のうち158人(71%)で、PC療法が行われた224人のうち139人(62%)でgrade 3-4の有害事象を認めた。Grade 3以上の高血圧(PCB群で23%、PC群で0%)と血栓症(PCB群で6%、PC群で1%)がPCB群で有意に多かった。
結論:予測でき、治療対応可能な有害事象と引き換えではあるが、シスプラチン+ペメトレキセド療法にベバシツマブを上乗せすることにより、悪性胸膜中皮腫患者の全生存期間が有意に改善した。
ベバシツマブは当初から致死的合併症として喀血が取りざたされてきましたが、もともと悪性胸膜中皮腫は肺実質へ進展しない限りは喀血のリスクを考えなくてよいはずです。
また、ベバシツマブが胸水コントロールに有効なことも、非小細胞肺癌の領域ではいくつかの報告で示されています。
術後再発の患者さんには不向きかもしれませんが、進行期の患者さんの治療としては、我が国でも積極的に考えていい治療だと思います。
一次治療のみならず、二次治療以降でも併用を検討してよいのではないでしょうか。
関連記事は以下に記してありますが、改めて論文の要約を以下に記します。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e803955.html
Bevacizumab for newly diagnosed pleural mesothelioma in the Mesothelioma Avastin Cisplatin Pemetrexed Study (MAPS): a randomised, controlled, open-label, phase 3 trial
Prof Gérard Zalcman, Prof Julien Mazieres, MD, Jacques Margery, MD, Laurent Greillier, MD, Clarisse Audigier-Valette, MD, Prof Denis Moro-Sibilot, MD, Olivier Molinier, MD, Romain Corre, MD, Isabelle Monnet, MD, Valérie Gounant, MD, Frédéric Rivière, MD, Henri Janicot, MD, Radj Gervais, MD, Chrystèle Locher, MD, Bernard Milleron, MD, Quan Tran, MSc, Marie-Paule Lebitasy, MD, Franck Morin, MSc, Christian Creveuil, PhD, Prof Jean-Jacques Parienti, PhD, Prof Arnaud Scherpereel, MD on behalf of the French Cooperative Thoracic Intergroup (IFCT)
Lancet, Published Online: 21 December 2015
背景:悪性胸膜中皮腫は悪性度の高い予後不良の疾患であり、職業的アスベスト暴露と関連している。血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor, VEGF)は胸膜中皮腫細胞の細胞分裂のキーとなる要素であり、VEGFを標的とした治療が効果的かもしれない。今回は、進行悪性胸膜中皮腫の初回標準治療であるシスプラチン+ペメトレキセド療法にベバシツマブを上乗せすることにより、生存期間延長に寄与するかどうかを調べることを目的とした。
方法:今回の無作為化オープンラベル第III相試験では、18歳から75歳、PS0-2、心合併症なし、少なくとも一項目のCTで評価可能な病変(胸水もしくは測定可能な胸膜病変)を有し、12週間以上の生存が見込める未治療、切除不能悪性胸膜中皮腫患者を対象に、フランス国内の73施設から患者を集積した。除外基準は、中枢神経系への転移、抗血小板療法施行中(アスピリン>325mg/日、クロピドグレル、チクロピジン、ジピリダモール)、治療量としてビタミンK阻害薬を服用中、治療量として低分子量ヘパリンを使用中、非ステロイド性消炎鎮痛薬使用中、の各項目とした。組織型(上皮型 vs 肉腫型もしくは混合型)、PS(0-1 vs 2)、登録施設、喫煙歴(非喫煙者 vs 喫煙者)を割付調整因子として、1:1の割合でシスプラチン+ペメトレキセド+ベバシツマブ(PCB)群もしくはシスプラチン+ペメトレキセド群(PC群)に患者を割り付けた。シスプラチンは75mg/㎡、ペメトレキセドは500mg/㎡、ベバシツマブは15mg/kgの投与量で、21日サイクルで投与し、病勢進行もしくは忍容不能な毒性により中止となるまでは、最大6コースまで治療を行うこととした。PCB群では6コース終了後、ベバシツマブの維持投与ができることとした。主要評価項目は全生存期間で、解析はintention-to treat(実際の治療内容ごとではなく、割付時の治療群ごとに解析を行う)に基づいて行った。
結果:2008年2月13日から2014年1月5日までに、448人の患者を無作為割付した(PCB群:223人、PC群:225人)。全生存期間はPCB群において有意に延長していた(生存期間中央値はPCB群で18.8ヶ月(95%信頼区間15.9ヶ月-22.6ヶ月)、PC群で16.1ヶ月(95%信頼区間14.0ヶ月-17.9ヶ月)、ハザード比0.77(95%信頼区間0.62-0.95)、p=0.0167)。無増悪生存期間(中央値はPCB群で9.2ヶ月(8.5-10.5ヶ月)、PC群で7.3ヶ月(6.7-8.0)、ハザード比0.61(0.50-0.75)、p<0.0001)もPCB群で有意に延長していた。PCB療法が行われた222人のうち158人(71%)で、PC療法が行われた224人のうち139人(62%)でgrade 3-4の有害事象を認めた。Grade 3以上の高血圧(PCB群で23%、PC群で0%)と血栓症(PCB群で6%、PC群で1%)がPCB群で有意に多かった。
結論:予測でき、治療対応可能な有害事象と引き換えではあるが、シスプラチン+ペメトレキセド療法にベバシツマブを上乗せすることにより、悪性胸膜中皮腫患者の全生存期間が有意に改善した。
ベバシツマブは当初から致死的合併症として喀血が取りざたされてきましたが、もともと悪性胸膜中皮腫は肺実質へ進展しない限りは喀血のリスクを考えなくてよいはずです。
また、ベバシツマブが胸水コントロールに有効なことも、非小細胞肺癌の領域ではいくつかの報告で示されています。
術後再発の患者さんには不向きかもしれませんが、進行期の患者さんの治療としては、我が国でも積極的に考えていい治療だと思います。
一次治療のみならず、二次治療以降でも併用を検討してよいのではないでしょうか。
2016年01月07日
再生検は臨床試験参加への大きな壁になっている
このところ、病勢進行後の再生検が取りざたされることが多く、私自身も興味を以て本ブログでよく取り上げています。
病勢進行時の病状を把握するうえで意義ある取り組みであることは論を待ちませんが、技術的な問題や、今回取り上げるような臨床試験参加上の障害になっていることも事実です。
それにしても、単施設での報告とはいいながら、再生検を義務付けられた臨床試験において、同意を得た患者さんのうち治療までたどり着いた方が4割にも満たないこと、半数の患者さんは試験参加に同意してから治療開始までに2ヶ月弱も待たされていることは、ちょっと衝撃です。裏を返せば、6割の患者さんは再生検の結果が判明するまで治療もできずに待たされており、参加できた患者さんでも半数は2ヶ月以上治療できずに待たされているということです。これでは確かに、「期待できる生命予後3ヶ月以上」ないと試験参加なんてできません。
Patients with Advanced Non–Small Cell Lung Cancer: Are Research Biopsies a Barrier to Participation in Clinical Trials?
Charles Lim, MD, Mike Sung, BSc, Frances A. Shepherd, MD, Nazanin Nouriany, RN,Magdalena Sawczak, RN, Tuhina Paul, RN, Nicole Perera-Low, RN,Andrea Foster, RN, Dianne Zawisza, RN, Ronald Feld, MD, Geoffrey Liu, MD, MSc,Natasha B. Leighl, MD, MMSc*
Journal of Thoracic Oncology Vol. 11 No. 1: 79-84
背景:非小細胞肺癌の臨床試験においては、(個別化あるいは最適化医療の時代となって、腫瘍細胞内の特定の遺伝子・蛋白変化をバイオマーカーとした分子標的薬等の臨床試験が増えたことに対応して)患者登録時に腫瘍組織サンプルや検査目的の生検検体の提出が義務付けられることが増えており、このことが試験参加を妨げる潜在的な障壁になっている。今回、進行非小細胞肺癌患者の臨床試験参加登録における検体提出義務付けが、どのような影響を及ぼしているかを調査した。
方法:プリンセス・マーガレットがんセンターにおいて、2007年1月から2015年3月までに行われた薬物療法臨床試験に関連して精査を受けた進行非小細胞肺癌患者を対象に調査した。
結果:55の臨床試験がスクリーニングされたが、38件で腫瘍組織サンプルの提出が登録時に義務付けられていた。6件では再生検が必須とされており、一方で32件では(過去の診断時の)保存されていた腫瘍サンプルでも可とされていた。のべ940回の臨床試験参加機会において、636人の患者に臨床試験参加が打診されており、一部の患者は複数の臨床試験に参加していた。治療目的の臨床試験参加を打診された機会はのべ549回だったが、実際に試験治療を受けたのはその60%だった。組織サンプル提出を義務付けない臨床試験においては、義務付けのある臨床試験に対して、より多くの患者が試験治療を受け(83% vs 55%, p<0.0001)、試験参加同意が得られてから試験治療が開始されるまでの期間もより早かった(9日後 vs 16日後、p=0.002)。同様の傾向が、保存組織サンプルでよしとする臨床試験と再生検を義務付ける臨床試験の間にも認められた(59% vs 38%、p<0.001)(14日後 vs 54日後、p<0.001)。臨床試験参加上で問題となった主な障壁は、試験参加上で必要なバイオマーカーが陰性もしくは欠如していたこと(34%)、試験参加同意の取り下げ(20%)、病状悪化もしくは患者死亡(17%)、その他の除外項目該当(15%)、生検組織検体の検体不良(10%)だった。
結論:非小細胞肺癌の臨床試験において、適格基準に該当するかどうかを判断するうえで腫瘍組織サンプル提出が義務付けられることが増えつつあるが、これは参加を阻む有意な障壁となっている。バイオマーカー検索における必要サンプルをより入手しやすいもの(細胞診検体など)まで幅を広げる、末梢血液検体で検索可能な分子マーカーを利用する、中央検査施設における検査期間を短縮する、(初回診断時の検体をルーチンで組織バンクに保管する)、(より低侵襲に)より早い段階で生検ができる手法を開発するなどの取り組みが必要だろう。
病勢進行時の病状を把握するうえで意義ある取り組みであることは論を待ちませんが、技術的な問題や、今回取り上げるような臨床試験参加上の障害になっていることも事実です。
それにしても、単施設での報告とはいいながら、再生検を義務付けられた臨床試験において、同意を得た患者さんのうち治療までたどり着いた方が4割にも満たないこと、半数の患者さんは試験参加に同意してから治療開始までに2ヶ月弱も待たされていることは、ちょっと衝撃です。裏を返せば、6割の患者さんは再生検の結果が判明するまで治療もできずに待たされており、参加できた患者さんでも半数は2ヶ月以上治療できずに待たされているということです。これでは確かに、「期待できる生命予後3ヶ月以上」ないと試験参加なんてできません。
Patients with Advanced Non–Small Cell Lung Cancer: Are Research Biopsies a Barrier to Participation in Clinical Trials?
Charles Lim, MD, Mike Sung, BSc, Frances A. Shepherd, MD, Nazanin Nouriany, RN,Magdalena Sawczak, RN, Tuhina Paul, RN, Nicole Perera-Low, RN,Andrea Foster, RN, Dianne Zawisza, RN, Ronald Feld, MD, Geoffrey Liu, MD, MSc,Natasha B. Leighl, MD, MMSc*
Journal of Thoracic Oncology Vol. 11 No. 1: 79-84
背景:非小細胞肺癌の臨床試験においては、(個別化あるいは最適化医療の時代となって、腫瘍細胞内の特定の遺伝子・蛋白変化をバイオマーカーとした分子標的薬等の臨床試験が増えたことに対応して)患者登録時に腫瘍組織サンプルや検査目的の生検検体の提出が義務付けられることが増えており、このことが試験参加を妨げる潜在的な障壁になっている。今回、進行非小細胞肺癌患者の臨床試験参加登録における検体提出義務付けが、どのような影響を及ぼしているかを調査した。
方法:プリンセス・マーガレットがんセンターにおいて、2007年1月から2015年3月までに行われた薬物療法臨床試験に関連して精査を受けた進行非小細胞肺癌患者を対象に調査した。
結果:55の臨床試験がスクリーニングされたが、38件で腫瘍組織サンプルの提出が登録時に義務付けられていた。6件では再生検が必須とされており、一方で32件では(過去の診断時の)保存されていた腫瘍サンプルでも可とされていた。のべ940回の臨床試験参加機会において、636人の患者に臨床試験参加が打診されており、一部の患者は複数の臨床試験に参加していた。治療目的の臨床試験参加を打診された機会はのべ549回だったが、実際に試験治療を受けたのはその60%だった。組織サンプル提出を義務付けない臨床試験においては、義務付けのある臨床試験に対して、より多くの患者が試験治療を受け(83% vs 55%, p<0.0001)、試験参加同意が得られてから試験治療が開始されるまでの期間もより早かった(9日後 vs 16日後、p=0.002)。同様の傾向が、保存組織サンプルでよしとする臨床試験と再生検を義務付ける臨床試験の間にも認められた(59% vs 38%、p<0.001)(14日後 vs 54日後、p<0.001)。臨床試験参加上で問題となった主な障壁は、試験参加上で必要なバイオマーカーが陰性もしくは欠如していたこと(34%)、試験参加同意の取り下げ(20%)、病状悪化もしくは患者死亡(17%)、その他の除外項目該当(15%)、生検組織検体の検体不良(10%)だった。
結論:非小細胞肺癌の臨床試験において、適格基準に該当するかどうかを判断するうえで腫瘍組織サンプル提出が義務付けられることが増えつつあるが、これは参加を阻む有意な障壁となっている。バイオマーカー検索における必要サンプルをより入手しやすいもの(細胞診検体など)まで幅を広げる、末梢血液検体で検索可能な分子マーカーを利用する、中央検査施設における検査期間を短縮する、(初回診断時の検体をルーチンで組織バンクに保管する)、(より低侵襲に)より早い段階で生検ができる手法を開発するなどの取り組みが必要だろう。
2016年01月05日
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による術後補助療法
昨年の日本肺癌学会総会の抄録を整理していて、まだブログに記載していない話題が山のように残っていたことに気づきました。
テーマは様々あるのですが、今日はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による術後補助療法について触れます。
既に報告されている第III相試験の論文が2報あります。
ひとつめは、IB-IIIA期の全ての完全切除後非小細胞肺癌患者さんを対象にして、gefitinibの有効性を検証したBR.19試験で、残念ながらというべきか、賢明にもというべきか、患者集積を試験途中で中止しています。
ふたつめは、免疫染色もしくはFISHでEGFR発現もしくはEGFR増幅が確認された患者さんに対象を絞り込んで、Erlotinibの有効性を検証したRADIANT試験です。
以下に、各論文の要旨を記載します。
Gefitinib Versus Placebo in Completely Resected Non–Small-Cell Lung Cancer: Results of the NCIC CTG BR19 Study
Glenwood D. Goss, Chris O’Callaghan, Ian Lorimer, Ming-Sound Tsao, Gregory A. Masters, James Jett, Martin J. Edelman, Rogerio Lilenbaum, Hak Choy, Fadlo Khuri, Katherine Pisters, David Gandara, Kemp Kernstine, Charles Butts, Jonathan Noble, Thomas A. Hensing, Kendrith Rowland, Joan Schiller, Keyue Ding, and Frances A. Shepherd
J Clin Oncol 31:3320-3326.2013
背景:完全切除後非小細胞肺癌の生命予後は、満足できるものとは言えない。この第III相臨床試験では、gefitinibによる術後補助療法について検討した。
方法:病理病期IB,II,IIIA期の完全切除後非小細胞肺癌の患者を対象に、病理病期、組織型、性別、術後放射線療法の有無、術後補助化学療法の有無を割付調整因子として、1:1の割合でgefitinib群もしくはプラセボ群に割り付けて、2年間治療した。評価項目は全生存期間、無病生存期間、毒性とした。
結果:進行非小細胞肺癌の患者を対象にプラセボ群に対するgefitinib群の優越性を検証したISEL試験と、局所進行非小細胞肺癌の患者を対象に放射線化学療法後のgefitinib維持療法の有効性を検証したS0023試験がいずれもnegative studyであったことから、効果安全性評価委員会の勧告を受け入れて、当初の計画だった1242人のうち503人を無作為割付(gefitinib群:251人、プラセボ群:252人)した段階で登録を打ち切った。両群の患者背景に差はなく、観察期間中央値4.7年(範囲は0.1-6.3年)の段階で、全生存期間(ハザード比1.24、95%信頼区間0.94-1.64, p=0.14)、無病生存期間(ハザード比1.22、95%信頼区間0.93-1.61, p=0.15)のいずれにも有意差がつかなかった。探索的解析では、EGFR遺伝子が野生型の344人においては、無病生存期間(ハザード比1.28、95%信頼区間0.92-1.76、p=0.14)および全生存期間(ハザード比1.24、95%信頼区間0.90-1.71、p=0.18)のいずれにも有意差はつかなかった。同様に、15人のEGFR遺伝子変異陽性患者においても、無病生存期間(ハザード比1.84、95%信頼区間0.44-7.73、p=0.395)および全生存期間(ハザード比3.16、95%信頼区間0.61-16.45、p=0.15)のいずれにも有意差はつかなかった。有害事象はEGFR阻害薬で一般に認められるものが発生し、重篤なものは感染症、疲労、疼痛を除いて5%程度の患者に認めた。各群1人ずつ、致死性の肺臓炎が発生した。
結論:本試験は早期終了したため、gefitinibによる術後療法の有効性について言及できないが、解析結果を見る限りでは有益とはいいがたい。
Adjuvant Erlotinib Versus Placebo in Patients With Stage IB-IIIA Non–Small-Cell Lung Cancer (RADIANT): A Randomized, Double-Blind, Phase III Trial
Karen Kelly, Nasser K. Altorki, Wilfried E.E. Eberhardt, Mary E.R. O’Brien, David R. Spigel, Lucio Crinò,Chun-Ming Tsai, Joo-Hang Kim, Eun Kyung Cho, Philip C. Hoffman, Sergey V. Orlov, Piotr Serwatowski, Jiuzhou Wang, Margaret A. Foley, Julie D. Horan, and Frances A. Shepherd
J Clin Oncol 33:4007-4014.2015
背景:EGFRチロシンキナーゼ阻害薬は、進行非小細胞肺癌における有用性が示されている。術後補助化学療法においてもEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は有用であるとの仮説を検証する。
方法:免疫染色によってEGFR蛋白発現が確認された、あるいはFISHによってEGFR遺伝子増幅が確認された病理病期IB-IIIA期の完全切除後非小細胞肺癌患者を対象に、国際プラセボ対象二重盲検ランダム化比較試験を計画した。患者はErlotinib 150mg/日を服用する群(Erlotinib群)もしくはプラセボ群に、2:1の比率で割り付けられ、2年間治療を継続した。割付調整因子は病理病期、組織型、先行して行われた術後補助化学療法、喫煙歴、EGFR増幅の状態、参加国とした。主要評価項目は無病生存期間で、副次評価項目は全生存期間、EGFR遺伝子変異を有する患者における無病生存期間および全生存期間とした。
結果:2007年11月26日から2010年7月7日までに、973人の患者が無作為に割り付けられた。両群間に、無病生存期間の有意な差を認めなかった(無病生存期間中央値はErlotinib群で50.5ヶ月、プラセボ群で48.2ヶ月、ハザード比0.90、95%信頼区間0.74-1.10, p=0.324)。一方、EGFR遺伝子変異陽性のサブグループ(161人、全体の16.5%)では、無病生存期間はErlotinib群でよい傾向(中央値はErlotinib群で46.4ヶ月、プラセボ群で28.5ヶ月、ハザード比0.61、95%信頼区間 0.38-0.98、p=0.039)だったが、解析の多重性を考慮すると統計学的有意とは断定できない差だった。全生存期間のデータは本論文発表時点では追跡期間不十分である。
結論:Erlotinibによる術後補助療法は、EGFR蛋白を発現している、もしくはEGFR遺伝子変異有する患者を対象とした場合、いずれにおいても無病生存期間を改善しなかった。EGFR遺伝子変異陽性患者を対象に、更なる検討が必要である。
今から考えると、両試験とも対象患者の絞り込みがピンボケで、そのためかどちらもnegative studyです。
BR.19試験ではEGFR遺伝子変異陽性患者がわずか15人しか含まれていなかったためにサブグループ解析からも何もわかりませんでした。
しかし、RADIANT試験では161人のEGFR遺伝子変異陽性患者が含まれており、そのサブグループ解析では無病生存期間中央値および2年無病生存割合がErlotinib群で46.4ヶ月、75%に対し、プラセボ群で28.5ヶ月、54%と、有意差こそついていないものの、かなり有望な結果が得られています。
また興味深いことに、追跡期間中に再発したEGFR遺伝子変異陽性患者の再発形式を見てみると、Erlotinib群では脳転移再発例が多く(Erlotinib群13人、37.1%に対し、プラセボ群4人、1.9%)、プラセボ群では骨転移再発例が多い(Erlotinib群5人、14.3%に対し、プラセボ群9人、29.0%)ことがわかっています。
現在、我が国ではWJOG6410L studyとして、中国ではCTONG1104 studyとして、EGFR遺伝子変異を有する完全切除後非小細胞肺癌の患者さんを対象に、gefitinib群とシスプラチン+ビノレルビン併用化学療法群を比較する臨床試験が行われています。前者は2015年12月末日まで、224人を目標患者数として行われ、後者は2015年11月の段階で既に患者集積が終わったとのことでした。また、米国で行われているALCHEMIST studyでは、IB-IIIA期の非小細胞・非扁平上皮癌患者さんの癌組織をスクリーニングし、EGFR遺伝子変異が認められた場合にはErlotinib内服2年間 vs プラセボの第III相比較試験(上記RADIANT studyの次のステップですね)へ、ALK遺伝子再構成が認められた場合にはCrizotinib内服2年間 vs プラセボの第III相比較試験へ進む、とする取り組みが行われています。

テーマは様々あるのですが、今日はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による術後補助療法について触れます。
既に報告されている第III相試験の論文が2報あります。
ひとつめは、IB-IIIA期の全ての完全切除後非小細胞肺癌患者さんを対象にして、gefitinibの有効性を検証したBR.19試験で、残念ながらというべきか、賢明にもというべきか、患者集積を試験途中で中止しています。
ふたつめは、免疫染色もしくはFISHでEGFR発現もしくはEGFR増幅が確認された患者さんに対象を絞り込んで、Erlotinibの有効性を検証したRADIANT試験です。
以下に、各論文の要旨を記載します。
Gefitinib Versus Placebo in Completely Resected Non–Small-Cell Lung Cancer: Results of the NCIC CTG BR19 Study
Glenwood D. Goss, Chris O’Callaghan, Ian Lorimer, Ming-Sound Tsao, Gregory A. Masters, James Jett, Martin J. Edelman, Rogerio Lilenbaum, Hak Choy, Fadlo Khuri, Katherine Pisters, David Gandara, Kemp Kernstine, Charles Butts, Jonathan Noble, Thomas A. Hensing, Kendrith Rowland, Joan Schiller, Keyue Ding, and Frances A. Shepherd
J Clin Oncol 31:3320-3326.2013
背景:完全切除後非小細胞肺癌の生命予後は、満足できるものとは言えない。この第III相臨床試験では、gefitinibによる術後補助療法について検討した。
方法:病理病期IB,II,IIIA期の完全切除後非小細胞肺癌の患者を対象に、病理病期、組織型、性別、術後放射線療法の有無、術後補助化学療法の有無を割付調整因子として、1:1の割合でgefitinib群もしくはプラセボ群に割り付けて、2年間治療した。評価項目は全生存期間、無病生存期間、毒性とした。
結果:進行非小細胞肺癌の患者を対象にプラセボ群に対するgefitinib群の優越性を検証したISEL試験と、局所進行非小細胞肺癌の患者を対象に放射線化学療法後のgefitinib維持療法の有効性を検証したS0023試験がいずれもnegative studyであったことから、効果安全性評価委員会の勧告を受け入れて、当初の計画だった1242人のうち503人を無作為割付(gefitinib群:251人、プラセボ群:252人)した段階で登録を打ち切った。両群の患者背景に差はなく、観察期間中央値4.7年(範囲は0.1-6.3年)の段階で、全生存期間(ハザード比1.24、95%信頼区間0.94-1.64, p=0.14)、無病生存期間(ハザード比1.22、95%信頼区間0.93-1.61, p=0.15)のいずれにも有意差がつかなかった。探索的解析では、EGFR遺伝子が野生型の344人においては、無病生存期間(ハザード比1.28、95%信頼区間0.92-1.76、p=0.14)および全生存期間(ハザード比1.24、95%信頼区間0.90-1.71、p=0.18)のいずれにも有意差はつかなかった。同様に、15人のEGFR遺伝子変異陽性患者においても、無病生存期間(ハザード比1.84、95%信頼区間0.44-7.73、p=0.395)および全生存期間(ハザード比3.16、95%信頼区間0.61-16.45、p=0.15)のいずれにも有意差はつかなかった。有害事象はEGFR阻害薬で一般に認められるものが発生し、重篤なものは感染症、疲労、疼痛を除いて5%程度の患者に認めた。各群1人ずつ、致死性の肺臓炎が発生した。
結論:本試験は早期終了したため、gefitinibによる術後療法の有効性について言及できないが、解析結果を見る限りでは有益とはいいがたい。
Adjuvant Erlotinib Versus Placebo in Patients With Stage IB-IIIA Non–Small-Cell Lung Cancer (RADIANT): A Randomized, Double-Blind, Phase III Trial
Karen Kelly, Nasser K. Altorki, Wilfried E.E. Eberhardt, Mary E.R. O’Brien, David R. Spigel, Lucio Crinò,Chun-Ming Tsai, Joo-Hang Kim, Eun Kyung Cho, Philip C. Hoffman, Sergey V. Orlov, Piotr Serwatowski, Jiuzhou Wang, Margaret A. Foley, Julie D. Horan, and Frances A. Shepherd
J Clin Oncol 33:4007-4014.2015
背景:EGFRチロシンキナーゼ阻害薬は、進行非小細胞肺癌における有用性が示されている。術後補助化学療法においてもEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は有用であるとの仮説を検証する。
方法:免疫染色によってEGFR蛋白発現が確認された、あるいはFISHによってEGFR遺伝子増幅が確認された病理病期IB-IIIA期の完全切除後非小細胞肺癌患者を対象に、国際プラセボ対象二重盲検ランダム化比較試験を計画した。患者はErlotinib 150mg/日を服用する群(Erlotinib群)もしくはプラセボ群に、2:1の比率で割り付けられ、2年間治療を継続した。割付調整因子は病理病期、組織型、先行して行われた術後補助化学療法、喫煙歴、EGFR増幅の状態、参加国とした。主要評価項目は無病生存期間で、副次評価項目は全生存期間、EGFR遺伝子変異を有する患者における無病生存期間および全生存期間とした。
結果:2007年11月26日から2010年7月7日までに、973人の患者が無作為に割り付けられた。両群間に、無病生存期間の有意な差を認めなかった(無病生存期間中央値はErlotinib群で50.5ヶ月、プラセボ群で48.2ヶ月、ハザード比0.90、95%信頼区間0.74-1.10, p=0.324)。一方、EGFR遺伝子変異陽性のサブグループ(161人、全体の16.5%)では、無病生存期間はErlotinib群でよい傾向(中央値はErlotinib群で46.4ヶ月、プラセボ群で28.5ヶ月、ハザード比0.61、95%信頼区間 0.38-0.98、p=0.039)だったが、解析の多重性を考慮すると統計学的有意とは断定できない差だった。全生存期間のデータは本論文発表時点では追跡期間不十分である。
結論:Erlotinibによる術後補助療法は、EGFR蛋白を発現している、もしくはEGFR遺伝子変異有する患者を対象とした場合、いずれにおいても無病生存期間を改善しなかった。EGFR遺伝子変異陽性患者を対象に、更なる検討が必要である。
今から考えると、両試験とも対象患者の絞り込みがピンボケで、そのためかどちらもnegative studyです。
BR.19試験ではEGFR遺伝子変異陽性患者がわずか15人しか含まれていなかったためにサブグループ解析からも何もわかりませんでした。
しかし、RADIANT試験では161人のEGFR遺伝子変異陽性患者が含まれており、そのサブグループ解析では無病生存期間中央値および2年無病生存割合がErlotinib群で46.4ヶ月、75%に対し、プラセボ群で28.5ヶ月、54%と、有意差こそついていないものの、かなり有望な結果が得られています。
また興味深いことに、追跡期間中に再発したEGFR遺伝子変異陽性患者の再発形式を見てみると、Erlotinib群では脳転移再発例が多く(Erlotinib群13人、37.1%に対し、プラセボ群4人、1.9%)、プラセボ群では骨転移再発例が多い(Erlotinib群5人、14.3%に対し、プラセボ群9人、29.0%)ことがわかっています。
現在、我が国ではWJOG6410L studyとして、中国ではCTONG1104 studyとして、EGFR遺伝子変異を有する完全切除後非小細胞肺癌の患者さんを対象に、gefitinib群とシスプラチン+ビノレルビン併用化学療法群を比較する臨床試験が行われています。前者は2015年12月末日まで、224人を目標患者数として行われ、後者は2015年11月の段階で既に患者集積が終わったとのことでした。また、米国で行われているALCHEMIST studyでは、IB-IIIA期の非小細胞・非扁平上皮癌患者さんの癌組織をスクリーニングし、EGFR遺伝子変異が認められた場合にはErlotinib内服2年間 vs プラセボの第III相比較試験(上記RADIANT studyの次のステップですね)へ、ALK遺伝子再構成が認められた場合にはCrizotinib内服2年間 vs プラセボの第III相比較試験へ進む、とする取り組みが行われています。

2016年01月04日
HASAT(HAnshin-SAga T790M) study
あけましておめでとうございます。
今日は、EGFR遺伝子変異を血液検査で調べようという、いわゆる「リキッド・バイオプシー」の話題です。
第3世代EGFR阻害薬使用前に、T790M変異の有無を確認するには再生検が必要、という話題をこのところしばしば取り上げていましたが、血液検査でT790M変異が検出できることがあり、再生検が不能、もしくは再生検で陰性であっても血液検査で陽性となることがあり、しかも再生検か血液検査のどちらかで陽性であれば第3世代EGFR阻害薬の効果が期待できる、ということが報告されています。
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e803995.html
上記は、Rociletinib(CO1686)の臨床試験時に使用された「BEAMing法」のデータですが、今回取り上げる論文は、佐賀大学の先生のグループが開発されたMBP-QP法に関するものです。
まだ要約しか参照できませんが、興味深い報告なので以下に記載します。
Monitoring EGFR T790M with plasma DNA from lung cancer patients in a prospective observational study
Naoko Sueoka-Aragane, Nobuyuki Katakami, Miyako Satouchi, Soichiro Yokota, Keisuke Aoe, Kentaro Iwanaga, Kojiro Otsuka, Satoshi Morita, Shinya Kimura, Shunichi Negoro, The Hanshin-Saga Collaborative Cancer Study Group
Cancer Sci, DOI: 10.1111/cas.12847
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cas.12847/abstract
血漿中のDNAを用いて遺伝子変異を検出する手法は、「リキッド・バイオプシー」として広く知られている。EGFR T790M変異はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に対して獲得耐性となった肺癌患者の半数に認められる。EFGRチロシンキナーゼ治療中に血漿中のDNAを用いて行うT790Mモニタリングシステムの有効性は、いわゆる「再生検」と同等と言えるところまでは確立されていない。今回、L858RもしくはExon 19欠失変異を有し、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療を受けた非小細胞肺癌患者を対象に、前向き多施設観察研究を行った。主要評価項目は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療中に病勢進行を示した患者において、血漿DNAでT790Mが検出できるか否か、とした。遺伝子変異検出には佐賀大学医学部血液・呼吸器・腫瘍内科で開発した高感度・全自動のMBP-QP(Mutation-Biased PCR and Quenching Probe)法を用いた。日本国内の7施設から、89人の非小細胞肺癌患者が参加した。病勢進行となった患者の40%から、血漿中DNAにT790M変異が確認された。 L858RやExon 19欠失変異といったEGFRチロシンキナーゼ感受性の遺伝子変異は同様に40%の患者で認め、T790Mもしくは感受性変異のどれか、ということになると全体の62%で変異が検出された。 検体採取時期を①病勢進行になる前、②病勢進行確認時、③EGFRチロシンキナーゼ阻害薬中止時、④それ以降の4区分で見ていくと、T790Mは①10%、②19%、③24%、④27%で認められた。喫煙者、男性、Exon 19欠失変異陽性患者、新病巣が確認された患者では、血漿DNA中でT790Mが陽性となる患者が有意に多かった。MBP-QP法を用いた血漿DNA中T790M変異モニタリングは、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療中の肺癌患者の臨床経過を反映していた。血漿DNAを用いたT790M検出は、EGFR遺伝子変異型(Exon 19欠失変異)や病勢の進行と有意に相関していた。一方、再生検は病勢進行した患者の14%でしか施行できず、実地臨床において再生検で検体を得ることの難しさも示された。血漿DNAを用いたT790Mモニタリングは臨床経過を反映し、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療後の治療戦略を考える上で有用な手法かも知れない。
MBP-QP法について、佐賀大学の木村先生の記載を引用すると・・・(生物試料分析Vol.35 No.1 2012)
「われわれは、微量の全血またはDNAから60-90分で点突然変異を全自動・高感度(3%)に点突然変異の検出を可能とするquenching probe(QP)法の開発を行ってきた。QP法の原理は、PCRで点突然変異含有領域の増幅→増幅産物に対する相補的な蛍光標識グアニン消光プローブ(Q-probe)の結合(変異産物に完全マッチするプローブ)→温度上昇による野生型からのQ-probe乖離・発光→さらなる温度上昇による変異型からのQ-probe解離・発光→蛍光発色温度の差異測定による点突然変異検出、である。われわれは、これまでにQP法を用い、BCRABL、JAK2、KRASなどの点突然変異検出系を構築してきた。最近、PCR反応を変異DNAを優先的に増幅するmutaition biased PCR(MBP)に置き換えることで、より高感度(0.1-0.3%)の全自動点突然変異測定系MBP-QP法の開発に成功した。より高感度になったため、ん細胞由来の血漿中に遊離しているDNAの点突然変異も測定可能ではないかと考えた。」
ということで、さらに極端に短くまとめると、
「微量の全血またはDNAから60-90分で全自動・より高感度(0.1-0.3%)に点突然変異の検出を可能とする方法」
ということになりますね。
EGFR遺伝子異常を有する患者さんでは、しばしば状態が悪く、生検も危ぶまれる場合があります。
現在私が拝見している88歳女性の患者さんも、気管支鏡で腺癌と診断がついたはいいものの、検査中の出血で十分な組織検体が取れなかったためかEGFR変異検査は3回再検しても核酸増幅不良となってしまい、今のところお蔵入りです。
PS4のため、気管支鏡再トライをするか、ギブアップしてしまうか、悩んでいるところです。
非喫煙者なので、このまま諦めるのはもったいないと思っています。
こんなケースでは、T790M検出目的でなく、単にEGFR遺伝子変異検索目的でも、リキッド・バイオプシーを行いたいですね。
今日は、EGFR遺伝子変異を血液検査で調べようという、いわゆる「リキッド・バイオプシー」の話題です。
第3世代EGFR阻害薬使用前に、T790M変異の有無を確認するには再生検が必要、という話題をこのところしばしば取り上げていましたが、血液検査でT790M変異が検出できることがあり、再生検が不能、もしくは再生検で陰性であっても血液検査で陽性となることがあり、しかも再生検か血液検査のどちらかで陽性であれば第3世代EGFR阻害薬の効果が期待できる、ということが報告されています。
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e803995.html
上記は、Rociletinib(CO1686)の臨床試験時に使用された「BEAMing法」のデータですが、今回取り上げる論文は、佐賀大学の先生のグループが開発されたMBP-QP法に関するものです。
まだ要約しか参照できませんが、興味深い報告なので以下に記載します。
Monitoring EGFR T790M with plasma DNA from lung cancer patients in a prospective observational study
Naoko Sueoka-Aragane, Nobuyuki Katakami, Miyako Satouchi, Soichiro Yokota, Keisuke Aoe, Kentaro Iwanaga, Kojiro Otsuka, Satoshi Morita, Shinya Kimura, Shunichi Negoro, The Hanshin-Saga Collaborative Cancer Study Group
Cancer Sci, DOI: 10.1111/cas.12847
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cas.12847/abstract
血漿中のDNAを用いて遺伝子変異を検出する手法は、「リキッド・バイオプシー」として広く知られている。EGFR T790M変異はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に対して獲得耐性となった肺癌患者の半数に認められる。EFGRチロシンキナーゼ治療中に血漿中のDNAを用いて行うT790Mモニタリングシステムの有効性は、いわゆる「再生検」と同等と言えるところまでは確立されていない。今回、L858RもしくはExon 19欠失変異を有し、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療を受けた非小細胞肺癌患者を対象に、前向き多施設観察研究を行った。主要評価項目は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療中に病勢進行を示した患者において、血漿DNAでT790Mが検出できるか否か、とした。遺伝子変異検出には佐賀大学医学部血液・呼吸器・腫瘍内科で開発した高感度・全自動のMBP-QP(Mutation-Biased PCR and Quenching Probe)法を用いた。日本国内の7施設から、89人の非小細胞肺癌患者が参加した。病勢進行となった患者の40%から、血漿中DNAにT790M変異が確認された。 L858RやExon 19欠失変異といったEGFRチロシンキナーゼ感受性の遺伝子変異は同様に40%の患者で認め、T790Mもしくは感受性変異のどれか、ということになると全体の62%で変異が検出された。 検体採取時期を①病勢進行になる前、②病勢進行確認時、③EGFRチロシンキナーゼ阻害薬中止時、④それ以降の4区分で見ていくと、T790Mは①10%、②19%、③24%、④27%で認められた。喫煙者、男性、Exon 19欠失変異陽性患者、新病巣が確認された患者では、血漿DNA中でT790Mが陽性となる患者が有意に多かった。MBP-QP法を用いた血漿DNA中T790M変異モニタリングは、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療中の肺癌患者の臨床経過を反映していた。血漿DNAを用いたT790M検出は、EGFR遺伝子変異型(Exon 19欠失変異)や病勢の進行と有意に相関していた。一方、再生検は病勢進行した患者の14%でしか施行できず、実地臨床において再生検で検体を得ることの難しさも示された。血漿DNAを用いたT790Mモニタリングは臨床経過を反映し、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬治療後の治療戦略を考える上で有用な手法かも知れない。
MBP-QP法について、佐賀大学の木村先生の記載を引用すると・・・(生物試料分析Vol.35 No.1 2012)
「われわれは、微量の全血またはDNAから60-90分で点突然変異を全自動・高感度(3%)に点突然変異の検出を可能とするquenching probe(QP)法の開発を行ってきた。QP法の原理は、PCRで点突然変異含有領域の増幅→増幅産物に対する相補的な蛍光標識グアニン消光プローブ(Q-probe)の結合(変異産物に完全マッチするプローブ)→温度上昇による野生型からのQ-probe乖離・発光→さらなる温度上昇による変異型からのQ-probe解離・発光→蛍光発色温度の差異測定による点突然変異検出、である。われわれは、これまでにQP法を用い、BCRABL、JAK2、KRASなどの点突然変異検出系を構築してきた。最近、PCR反応を変異DNAを優先的に増幅するmutaition biased PCR(MBP)に置き換えることで、より高感度(0.1-0.3%)の全自動点突然変異測定系MBP-QP法の開発に成功した。より高感度になったため、ん細胞由来の血漿中に遊離しているDNAの点突然変異も測定可能ではないかと考えた。」
ということで、さらに極端に短くまとめると、
「微量の全血またはDNAから60-90分で全自動・より高感度(0.1-0.3%)に点突然変異の検出を可能とする方法」
ということになりますね。
EGFR遺伝子異常を有する患者さんでは、しばしば状態が悪く、生検も危ぶまれる場合があります。
現在私が拝見している88歳女性の患者さんも、気管支鏡で腺癌と診断がついたはいいものの、検査中の出血で十分な組織検体が取れなかったためかEGFR変異検査は3回再検しても核酸増幅不良となってしまい、今のところお蔵入りです。
PS4のため、気管支鏡再トライをするか、ギブアップしてしまうか、悩んでいるところです。
非喫煙者なので、このまま諦めるのはもったいないと思っています。
こんなケースでは、T790M検出目的でなく、単にEGFR遺伝子変異検索目的でも、リキッド・バイオプシーを行いたいですね。