2016年12月25日
医療経済から見た適正な肺がん診療
第57回日本肺癌学会総会から
SP 1-1:
・Malone, J Clin Oncol 2016
医療経済についてのISPORからのステートメント
社会全体にとっての治療選択とは
・医師の難しい立ち位置
“double agent(二重の代理人)”, Blomqvist, 1991
受益者たる患者と、負担者たる納税者の狭間に立たされている
SP 1-2:
・HTA:Health Technology assessment(医療技術評価)
・HTA機関のガイドライン
ESMO、ASCOいずれのガイドラインにも、治療コストについては言及されていない
・EULAR(Europeの関節リウマチ治療ガイドライン)2013年版では、治療コストについての記載がある
・「黒船襲来」
ソバルディ、ハーボニー(HCV感染治療薬)の1ヶ月薬価:100-160万円
ニボルマブの1ヶ月薬価:260万円
レパーサ(脂質異常症治療薬)の1ヶ月薬価:4万円
・ソバルディ、ハーボニーは30%offへ、ニボルマブは50%offへ
・「費用対効果」における・・・
費用=治療介入そのものの費用-将来に見込める医療費削減
効果:健康上のメリット
・QALY
肺癌の場合:症状なしの場合の係数は0.75、症状ありの場合の係数は0.5
ある治療をしたとき、症状なしで0.5年、症状ありで0.5年過ごして亡くなったとしたら
QALY=0.5×0.75+0.5×0.5
・HTA評価で認定されなかったときの救済措置
英国NICEでは
Patient access scheme:企業が「非公開で」値引きし、一定期間後に無償供与
Cancer Drug Funds:国家予算を用いて国が補助する
・日本における費用対効果
費用:国内データを参照
効果:海外データであっても可
QoL:原則的に国内データを用いる
・旧薬の費用対効果が低いとき、はたしてそれと新薬の比較に意味があるのか?
S9-2:
<肺癌診療の医療経済-日本の高額医療>
・HTAは日本では試行的に導入されている
・費用対効果=cost vs QALY(Quality Adjusted Life-Year)
・英NICE(National Institute for Health and Care Excellence):1999年に設立
・一般薬では、20,000-30,000ポンド/QALY以下は推奨
申請のあった249品目中、49%は推奨に採択されていた
・抗がん薬では、50,000ポンド/QALY以下は推奨
申請のあった88品目中、40%が推奨に採択された
・中央社会保健医療協議会内に費用対効果専門部会が設置された
・一般に、ある薬について企業が提出する増分費用効果比(ICER、比較対象よりどれだけ効果が増えるか÷比較対象よりどれだけ費用が増えるか)は、政府が試算したICERより低額になる(そのため、治療が安上がりに見える)ことが多い
例) カナダ政府と製薬企業のやり取り
扁平上皮癌に対するNivolumabの増分費用効果比
企業提出資料:ICER=$151,560
政府見解資料:ICER=$219,660
政府としては、効果が高く保険償還したいと考えているが、より一層ICERが低額になることが条件
S9-3:
<内保連の見解>
・国民皆保険を守るために・・・
1)薬価の見直し(市場拡大再算定、およびその特例)
薬の適応の拡大により治療対象が増えて、企業収益が大きくなったときに、2年に1度の定期薬価改訂よりも早くに薬価を見直して引き下げる
→薬価を安くすることは国民や政府にとっては助かるが、企業の新薬開発意欲を削ぐ
2)適正使用ガイドライン
適切な患者選択
使用可能医師、使用可能医療機関に要件をつける
3)保険収載のあり方の見直し
・当局の介入方法に関する、英国と日本の違い
英国では薬価が決定し、薬が使われ始めてから、保険償還するかしないかの判断の際にNICEが介入する
日本では、薬事申請から製造承認の過程にPMDAが介入するが、薬価の決定、保険償還の是非判断にはPMDAは関わらない
・ICERの限界値
英国:3万ポンド
米国:5万ドル
・仏、英、蘭における新薬審査では、費用対効果は勘案していない
・コスト削減のための政府・医師主導の臨床試験が必要
S9-4:
<ドイツにおける薬事承認>
・EGFR-TKI:ICER=⊿$110,000から$130,000 QALY
・Atezolizumab:ICER=⊿$200,000 QALY(vs docetaxel)
・to consider different insurance system and reimbursement system
・Ramcirumab:additional benefit not proven
ICER=⊿81,566.68 €
・Nintedanib:marginal benefit proven
ICER=⊿38,430.20 €
・Necitumumab:additional benefit not proven
ICER=60,043.66 €
・Osimertinib:additional benefit not proven
ICER=97,696.87 €
・Nivolumab for Squamous cell carcinoma:Significant benefit proven for 90% patients
ICER=106,565.23 €
・”Most effective approach is SMOKING CESSATION.”
S9-5:
<臨床現場での効率化の可能性>
・大腸がんの領域で、bevacizumabの代替にramcirumabがなり得るか?
→治療効果はほぼ同等、値段は3倍(150万円→450万円)
→演者の病院におけるレジメン登録委員会では、全会一致でramcirumabを不採用とした
・PointBreak試験
非小細胞肺癌におけるCBDCA+Pemetrexed+bevacizumabは追加治療効果なく、高額
・Nivolumab has come!
Highly effective, high cost.
→治療効果が高いので、薬価が高いから不採用、という判断はできない
・Pseudo-progressionの問題、ASCO 2016
N=535、414人は病勢進行後は治療中止、121人は病勢進行後も治療継続、121人のうち10人(8%)はその後に部分奏効(PR)に至った
・Nivolumabの治療効果予測因子、ESMO 2016
治療開始後にIL-8が低い患者群では、奏効することが多い
ただし、治療前の予測には役立たない
・二次治療としてのNivolumabについて、JCOGが計画中の臨床試験
二次治療としてNivolumab投与開始→一旦中止して、病勢進行を確認したらNivolumabを再開する群と、中止せずに病勢進行までNivolumabを使い続ける群を比較
・cohort研究でCSPOR
「Pseudoprogressionではない真のPDの患者」を早期に見つけて治療を中止する臨床試験
・JAMA oncology 2016に載っていた金言
「臨床試験における患者の全生存期間は、実地臨床における患者の全生存期間の代替エンドポイントである」
・「この検査結果を踏まえると、この治療は効果が期待できるでしょう」という場合には、患者も医師もその治療を始めるのに迷わない
・「この検査結果を踏まえると、この治療の効果は期待できないでしょう」という場合に、患者が会えてその治療を希望した場合(他に治療選択肢がない場合など)、医師はどう対応するのが適切なのか
→治療効果が期待できず、高額な医療費がかかるとわかっていても、その治療を行うべきなのか
SP 1-1:
・Malone, J Clin Oncol 2016
医療経済についてのISPORからのステートメント
社会全体にとっての治療選択とは
・医師の難しい立ち位置
“double agent(二重の代理人)”, Blomqvist, 1991
受益者たる患者と、負担者たる納税者の狭間に立たされている
SP 1-2:
・HTA:Health Technology assessment(医療技術評価)
・HTA機関のガイドライン
ESMO、ASCOいずれのガイドラインにも、治療コストについては言及されていない
・EULAR(Europeの関節リウマチ治療ガイドライン)2013年版では、治療コストについての記載がある
・「黒船襲来」
ソバルディ、ハーボニー(HCV感染治療薬)の1ヶ月薬価:100-160万円
ニボルマブの1ヶ月薬価:260万円
レパーサ(脂質異常症治療薬)の1ヶ月薬価:4万円
・ソバルディ、ハーボニーは30%offへ、ニボルマブは50%offへ
・「費用対効果」における・・・
費用=治療介入そのものの費用-将来に見込める医療費削減
効果:健康上のメリット
・QALY
肺癌の場合:症状なしの場合の係数は0.75、症状ありの場合の係数は0.5
ある治療をしたとき、症状なしで0.5年、症状ありで0.5年過ごして亡くなったとしたら
QALY=0.5×0.75+0.5×0.5
・HTA評価で認定されなかったときの救済措置
英国NICEでは
Patient access scheme:企業が「非公開で」値引きし、一定期間後に無償供与
Cancer Drug Funds:国家予算を用いて国が補助する
・日本における費用対効果
費用:国内データを参照
効果:海外データであっても可
QoL:原則的に国内データを用いる
・旧薬の費用対効果が低いとき、はたしてそれと新薬の比較に意味があるのか?
S9-2:
<肺癌診療の医療経済-日本の高額医療>
・HTAは日本では試行的に導入されている
・費用対効果=cost vs QALY(Quality Adjusted Life-Year)
・英NICE(National Institute for Health and Care Excellence):1999年に設立
・一般薬では、20,000-30,000ポンド/QALY以下は推奨
申請のあった249品目中、49%は推奨に採択されていた
・抗がん薬では、50,000ポンド/QALY以下は推奨
申請のあった88品目中、40%が推奨に採択された
・中央社会保健医療協議会内に費用対効果専門部会が設置された
・一般に、ある薬について企業が提出する増分費用効果比(ICER、比較対象よりどれだけ効果が増えるか÷比較対象よりどれだけ費用が増えるか)は、政府が試算したICERより低額になる(そのため、治療が安上がりに見える)ことが多い
例) カナダ政府と製薬企業のやり取り
扁平上皮癌に対するNivolumabの増分費用効果比
企業提出資料:ICER=$151,560
政府見解資料:ICER=$219,660
政府としては、効果が高く保険償還したいと考えているが、より一層ICERが低額になることが条件
S9-3:
<内保連の見解>
・国民皆保険を守るために・・・
1)薬価の見直し(市場拡大再算定、およびその特例)
薬の適応の拡大により治療対象が増えて、企業収益が大きくなったときに、2年に1度の定期薬価改訂よりも早くに薬価を見直して引き下げる
→薬価を安くすることは国民や政府にとっては助かるが、企業の新薬開発意欲を削ぐ
2)適正使用ガイドライン
適切な患者選択
使用可能医師、使用可能医療機関に要件をつける
3)保険収載のあり方の見直し
・当局の介入方法に関する、英国と日本の違い
英国では薬価が決定し、薬が使われ始めてから、保険償還するかしないかの判断の際にNICEが介入する
日本では、薬事申請から製造承認の過程にPMDAが介入するが、薬価の決定、保険償還の是非判断にはPMDAは関わらない
・ICERの限界値
英国:3万ポンド
米国:5万ドル
・仏、英、蘭における新薬審査では、費用対効果は勘案していない
・コスト削減のための政府・医師主導の臨床試験が必要
S9-4:
<ドイツにおける薬事承認>
・EGFR-TKI:ICER=⊿$110,000から$130,000 QALY
・Atezolizumab:ICER=⊿$200,000 QALY(vs docetaxel)
・to consider different insurance system and reimbursement system
・Ramcirumab:additional benefit not proven
ICER=⊿81,566.68 €
・Nintedanib:marginal benefit proven
ICER=⊿38,430.20 €
・Necitumumab:additional benefit not proven
ICER=60,043.66 €
・Osimertinib:additional benefit not proven
ICER=97,696.87 €
・Nivolumab for Squamous cell carcinoma:Significant benefit proven for 90% patients
ICER=106,565.23 €
・”Most effective approach is SMOKING CESSATION.”
S9-5:
<臨床現場での効率化の可能性>
・大腸がんの領域で、bevacizumabの代替にramcirumabがなり得るか?
→治療効果はほぼ同等、値段は3倍(150万円→450万円)
→演者の病院におけるレジメン登録委員会では、全会一致でramcirumabを不採用とした
・PointBreak試験
非小細胞肺癌におけるCBDCA+Pemetrexed+bevacizumabは追加治療効果なく、高額
・Nivolumab has come!
Highly effective, high cost.
→治療効果が高いので、薬価が高いから不採用、という判断はできない
・Pseudo-progressionの問題、ASCO 2016
N=535、414人は病勢進行後は治療中止、121人は病勢進行後も治療継続、121人のうち10人(8%)はその後に部分奏効(PR)に至った
・Nivolumabの治療効果予測因子、ESMO 2016
治療開始後にIL-8が低い患者群では、奏効することが多い
ただし、治療前の予測には役立たない
・二次治療としてのNivolumabについて、JCOGが計画中の臨床試験
二次治療としてNivolumab投与開始→一旦中止して、病勢進行を確認したらNivolumabを再開する群と、中止せずに病勢進行までNivolumabを使い続ける群を比較
・cohort研究でCSPOR
「Pseudoprogressionではない真のPDの患者」を早期に見つけて治療を中止する臨床試験
・JAMA oncology 2016に載っていた金言
「臨床試験における患者の全生存期間は、実地臨床における患者の全生存期間の代替エンドポイントである」
・「この検査結果を踏まえると、この治療は効果が期待できるでしょう」という場合には、患者も医師もその治療を始めるのに迷わない
・「この検査結果を踏まえると、この治療の効果は期待できないでしょう」という場合に、患者が会えてその治療を希望した場合(他に治療選択肢がない場合など)、医師はどう対応するのが適切なのか
→治療効果が期待できず、高額な医療費がかかるとわかっていても、その治療を行うべきなのか
医師とカネ
ADAURA試験サブグループ解析・・・術後補助化学療法の有無、病期別の解析結果
進展型小細胞肺がんにおけるIMpower133レジメンとCASPIANレジメン
原料価格よりも安い値段で薬を販売する!?
CheckMate153試験再び・・・こちらはやめられません
Sintilimab
KEYNOTE-604試験・・・統計学的にはほぼ優位だが、臨床的メリットがあると言えるのか
免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ)、いよいよ肺小細胞癌の領域へ
治療1回5000万円・・・、ホンマかいな・・・。
オシメルチニブ、いよいよ一次治療として承認へ
肺癌治療の費用対効果
経済・財政と国民医療
ガイドラインの内容は企業献金で左右される?
オプジーボ、適正使用と価格改定の議論開始
高額なニボルマブ、ついにNHKのクローズアップ現代で取り上げられました。
ニボルマブと経済
肺癌新治療の費用対効果
日本の借金
医療費と治療効果のバランス
ADAURA試験サブグループ解析・・・術後補助化学療法の有無、病期別の解析結果
進展型小細胞肺がんにおけるIMpower133レジメンとCASPIANレジメン
原料価格よりも安い値段で薬を販売する!?
CheckMate153試験再び・・・こちらはやめられません
Sintilimab
KEYNOTE-604試験・・・統計学的にはほぼ優位だが、臨床的メリットがあると言えるのか
免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ)、いよいよ肺小細胞癌の領域へ
治療1回5000万円・・・、ホンマかいな・・・。
オシメルチニブ、いよいよ一次治療として承認へ
肺癌治療の費用対効果
経済・財政と国民医療
ガイドラインの内容は企業献金で左右される?
オプジーボ、適正使用と価格改定の議論開始
高額なニボルマブ、ついにNHKのクローズアップ現代で取り上げられました。
ニボルマブと経済
肺癌新治療の費用対効果
日本の借金
医療費と治療効果のバランス
Posted by tak at 17:08│Comments(0)
│医療経済