2016年05月17日
ニボルマブと経済
よく取りざたされる免疫チェックポイント阻害薬と医療費の問題ですが、「週間医学界新聞」の第3165号(2016年3月7日)に対談が掲載されています。
免疫チェックポイント阻害薬の臨床的特徴と問題点、さらには医療費との関連を考える上で何が問題なのか、よくまとめられています。
現在肺癌に対してニボルマブを使っている患者さんと医療従事者はもちろんのこと、医療経済や我が国の財政に興味がある人には一読を勧めます。
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03165_01
要点をまとめると、以下の通りです。
・免疫チェックポイント阻害薬の嚆矢であるニボルマブが、悪性黒色腫に続いて非小細胞肺癌に対しても使えるようになった
・肺癌を半分よりも小さくする確率は20%程度
・小さくしないまでも、大きくならないようにして患者さんを長生きさせる割合はまだ高いかも知れないが、いまのところはっきりしない
・多彩な副作用が出る可能性があるが、全体としての副作用の割合はそれほど高くない
・一度効いたら効果が長く続く患者がいる
・ニボルマブを1年間使用し続けると、ニボルマブ代だけで3500万円かかる
・医療費の年間自己負担額は最高でも200万円程度で、残る3300万円は国家財政で賄うことになる
・効果予測因子がわかっていないため、使用可能な全ての患者に使わざるを得ない(あなたには効果が期待できませんから使えません、とは現時点では言えない)
・多く見積もっても、ニボルマブによる恩恵を受ける患者は4人に1人
・残る3人に使った3500万円×3=1億500万円は完全に無駄なコストで、有効例1人のために年間1億4000万円を費やすことになる
・現時点では、効いている間はずっと続けなければならない
・現時点では、どの段階で無効として治療を中止していいのかもわからない
・肺癌患者の年間発生数を10万人、手術される患者などを除いてニボルマブの投与対象となる患者数を5万人と見積もる
・5万人全員にニボルマブを使うと1兆7500億円となる
・日本の医療費は現在年間40兆円、薬剤費は10兆円、そこにニボルマブの1兆7500億円が上乗せされる
・単一疾患に対する延命治療のための単一治療の薬代が、国民医療費の5%、国民薬剤費の20%を占めることになる
・我が国の医療者には、コストに対する問題意識はあるものの、それをどうにかしようという行動を起こす人はほぼいない。
・むしろ、「医は仁術であり、コストのことなど語るのは間違っている」という風潮がある
・その結果、コストを度外視した臨床試験が溢れ、費用対効果を検証する仕組みもできていない
・当面ニボルマブの薬価は下がらないだろう
・現在、ニボルマブの効果を見込めない患者を抽出するための臨床試験を計画中だが、難航するだろう
・「ふつうは使えない薬ですが、こういった因子があるからあなたには効果が見込めますよ」だったら誰もが参加するが、「みなさんが普通に使える薬ですが、こういった因子があるからあなたにはこの治療はできませんよ」という臨床試験に誰が参加したがるだろうか
・「一定の年齢を迎えたら対症療法しかしない」のか、「社会全体として経済的に崩壊する」のか、選択しなければならない
これに対して、「国際医薬品情報」誌の2016年4月25日号で、他の先生が反論しています。
要点は以下の通りです。
・オプジーボの費用は1兆7500億円までにはならない
・1500億円を超えるような売り上げの医薬品は最大50%薬価が引き下げられるので、費用は半分の8750億円程度になるのではないか
・ニボルマブの2019年の日本売上高はトムソン・ロイター社が805億円、ブルームバーグ社が1345億円と見積もっている
・ニボルマブが日本経済に与える波及効果も考えておく必要がある
・ニボルマブの2020年の年間世界売上高はトムソン・ロイター社が6兆8200億円、ブルームバーグ社が11兆4000億円と見積もっている
・小野薬品工業は日本・韓国・台湾でしかニボルマブを販売できないが、その他の世界で販売しているブリストル・マイヤーズ・スクイブ社から米国での売り上げの4%、欧州での売り上げの15%をロイヤルティーとして受け取ることになっており、この恩恵は大きい
・・・ということなのですが、どちらかというと前半の話の方が受け入れられる内容のように思います。
「医師は、患者がいて、使える薬があるのなら、その患者が薬代を払えなかったとしても治療せざるを得ない」
「薬代は社会全体で負担しなければならない」
という状況で、さらに我々は、
「既に我が国では、国民一人当たり800万円、国として1000兆円の借金を背負っている」
「この状況で、国は消費税増税を更に先送りしようとしている」
「仮に我が国の経済が好転しても、その反作用を世界のどこかが引き受けることになる」
ということも理解しておかなければなりません。
もはや、経済と医療は決して切り離せない関係になっています。
以前も引用しましたが、以下のリンクに我々日本国民の借金が垣間見えます。
http://www.kh-web.org/fin/
・・・タバコはやめてください。
タバコを吸い続けるのなら、少なくとも心疾患、脳血管疾患、頭頸部・呼吸器・泌尿器関連の悪性腫瘍に関しては自分の資産で賄える範囲の治療だけをして、後の治療は放棄してください。
免疫チェックポイント阻害薬の臨床的特徴と問題点、さらには医療費との関連を考える上で何が問題なのか、よくまとめられています。
現在肺癌に対してニボルマブを使っている患者さんと医療従事者はもちろんのこと、医療経済や我が国の財政に興味がある人には一読を勧めます。
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03165_01
要点をまとめると、以下の通りです。
・免疫チェックポイント阻害薬の嚆矢であるニボルマブが、悪性黒色腫に続いて非小細胞肺癌に対しても使えるようになった
・肺癌を半分よりも小さくする確率は20%程度
・小さくしないまでも、大きくならないようにして患者さんを長生きさせる割合はまだ高いかも知れないが、いまのところはっきりしない
・多彩な副作用が出る可能性があるが、全体としての副作用の割合はそれほど高くない
・一度効いたら効果が長く続く患者がいる
・ニボルマブを1年間使用し続けると、ニボルマブ代だけで3500万円かかる
・医療費の年間自己負担額は最高でも200万円程度で、残る3300万円は国家財政で賄うことになる
・効果予測因子がわかっていないため、使用可能な全ての患者に使わざるを得ない(あなたには効果が期待できませんから使えません、とは現時点では言えない)
・多く見積もっても、ニボルマブによる恩恵を受ける患者は4人に1人
・残る3人に使った3500万円×3=1億500万円は完全に無駄なコストで、有効例1人のために年間1億4000万円を費やすことになる
・現時点では、効いている間はずっと続けなければならない
・現時点では、どの段階で無効として治療を中止していいのかもわからない
・肺癌患者の年間発生数を10万人、手術される患者などを除いてニボルマブの投与対象となる患者数を5万人と見積もる
・5万人全員にニボルマブを使うと1兆7500億円となる
・日本の医療費は現在年間40兆円、薬剤費は10兆円、そこにニボルマブの1兆7500億円が上乗せされる
・単一疾患に対する延命治療のための単一治療の薬代が、国民医療費の5%、国民薬剤費の20%を占めることになる
・我が国の医療者には、コストに対する問題意識はあるものの、それをどうにかしようという行動を起こす人はほぼいない。
・むしろ、「医は仁術であり、コストのことなど語るのは間違っている」という風潮がある
・その結果、コストを度外視した臨床試験が溢れ、費用対効果を検証する仕組みもできていない
・当面ニボルマブの薬価は下がらないだろう
・現在、ニボルマブの効果を見込めない患者を抽出するための臨床試験を計画中だが、難航するだろう
・「ふつうは使えない薬ですが、こういった因子があるからあなたには効果が見込めますよ」だったら誰もが参加するが、「みなさんが普通に使える薬ですが、こういった因子があるからあなたにはこの治療はできませんよ」という臨床試験に誰が参加したがるだろうか
・「一定の年齢を迎えたら対症療法しかしない」のか、「社会全体として経済的に崩壊する」のか、選択しなければならない
これに対して、「国際医薬品情報」誌の2016年4月25日号で、他の先生が反論しています。
要点は以下の通りです。
・オプジーボの費用は1兆7500億円までにはならない
・1500億円を超えるような売り上げの医薬品は最大50%薬価が引き下げられるので、費用は半分の8750億円程度になるのではないか
・ニボルマブの2019年の日本売上高はトムソン・ロイター社が805億円、ブルームバーグ社が1345億円と見積もっている
・ニボルマブが日本経済に与える波及効果も考えておく必要がある
・ニボルマブの2020年の年間世界売上高はトムソン・ロイター社が6兆8200億円、ブルームバーグ社が11兆4000億円と見積もっている
・小野薬品工業は日本・韓国・台湾でしかニボルマブを販売できないが、その他の世界で販売しているブリストル・マイヤーズ・スクイブ社から米国での売り上げの4%、欧州での売り上げの15%をロイヤルティーとして受け取ることになっており、この恩恵は大きい
・・・ということなのですが、どちらかというと前半の話の方が受け入れられる内容のように思います。
「医師は、患者がいて、使える薬があるのなら、その患者が薬代を払えなかったとしても治療せざるを得ない」
「薬代は社会全体で負担しなければならない」
という状況で、さらに我々は、
「既に我が国では、国民一人当たり800万円、国として1000兆円の借金を背負っている」
「この状況で、国は消費税増税を更に先送りしようとしている」
「仮に我が国の経済が好転しても、その反作用を世界のどこかが引き受けることになる」
ということも理解しておかなければなりません。
もはや、経済と医療は決して切り離せない関係になっています。
以前も引用しましたが、以下のリンクに我々日本国民の借金が垣間見えます。
http://www.kh-web.org/fin/
・・・タバコはやめてください。
タバコを吸い続けるのなら、少なくとも心疾患、脳血管疾患、頭頸部・呼吸器・泌尿器関連の悪性腫瘍に関しては自分の資産で賄える範囲の治療だけをして、後の治療は放棄してください。
医師とカネ
ADAURA試験サブグループ解析・・・術後補助化学療法の有無、病期別の解析結果
進展型小細胞肺がんにおけるIMpower133レジメンとCASPIANレジメン
原料価格よりも安い値段で薬を販売する!?
CheckMate153試験再び・・・こちらはやめられません
Sintilimab
KEYNOTE-604試験・・・統計学的にはほぼ優位だが、臨床的メリットがあると言えるのか
免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブ)、いよいよ肺小細胞癌の領域へ
治療1回5000万円・・・、ホンマかいな・・・。
オシメルチニブ、いよいよ一次治療として承認へ
肺癌治療の費用対効果
経済・財政と国民医療
医療経済から見た適正な肺がん診療
ガイドラインの内容は企業献金で左右される?
オプジーボ、適正使用と価格改定の議論開始
高額なニボルマブ、ついにNHKのクローズアップ現代で取り上げられました。
肺癌新治療の費用対効果
日本の借金
医療費と治療効果のバランス
ADAURA試験サブグループ解析・・・術後補助化学療法の有無、病期別の解析結果
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治療1回5000万円・・・、ホンマかいな・・・。
オシメルチニブ、いよいよ一次治療として承認へ
肺癌治療の費用対効果
経済・財政と国民医療
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日本の借金
医療費と治療効果のバランス
Posted by tak at 08:57│Comments(0)
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