2021年09月22日
HER2遺伝子変異陽性肺がんに対するtrastuzumab deruxtecan
HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がん。
いい思い出がない。
もう6年以上前だが、1人だけ担当したことがある。
もともと他院で診療されていた患者だが、プラチナ併用化学療法と丸山ワクチンを併用したいということで私のもとに来られた。
とにかく、できることは何でもしたい、と本人・ご家族ともに考えておられた。
化学療法も丸山ワクチンも顕著な効果なく、LC-SCRUMに参加したところ、HER2遺伝子変異陽性を指摘された。
当時、確か北大でトラスツズマブの、岡山大でT-DM1の臨床試験が行われていたと記憶しているが、既に参加できるようなPSではなかった。
最終的には、苦し紛れにpan HER inhibitorであるアファチニブを使ったが、全く歯が立たなかった。
今回取り上げる論文冒頭の記載によると、HER2遺伝子変異陽性肺がんは非扁平上皮非小細胞肺がん患者の3%弱に認められ、女性・非喫煙者に多く、予後不良とのこと。
私が担当した患者に見事に特徴が合致する。
・HER2遺伝子変異陽性肺癌
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e808769.html
実際のところ、HER2を治療標的とした初期の臨床試験は、まさに死屍累々たる有様だった。
・Studies Explore Targeted Therapies in Lung Cancer
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e900760.html
・T-DM1 for HER2 positive NSCLC
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e906042.html
そんな中、以下の記事でごくわずかに触れたが、
「抗体-薬物複合体を用いた治療により、HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者では60%以上の奏効割合が、現在進行中の臨床試験で示されている」
という話があり、その結果公表が待っていた。
・あれから20年も、この先10年も
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e982143.html
そして、ようやくその時が来た。
trasutuzumab deruxtecanは乳がんや胃がんで既に有効性が証明されていたが、今回のDESTINY-01試験で非小細胞肺がんにおいても一定の有効性が確認された。
参加した患者の95%がプラチナ併用化学療法施行済み、66%がPD-1 / PD-L1抗体使用済み、20%がドセタキセル使用済み、14%が抗HER2チロシンキナーゼ阻害薬使用済みということ。
経過観察期間中央値はまだわずか13ヶ月だが、奏効割合55%、無増悪生存期間中央値8.2ヶ月、全生存期間中央値17.8ヶ月というのは有望な数字である。
Trastuzumab Deruxtecan in HER2-Mutant Non–Small-Cell Lung Cancer
DESTINY-Lung01 Trial
Bob T. Li,Yasushi Goto, M.D., Ph.D., Kazuhiko Nakagawa, M.D., Hibiki Udagawa, M.D. Misako Nagasaka, M.D., Ryota Shiga, B.Sc. et al.
N Engl J Med September 18, 2021, published online
DOI: 10.1056/NEJMoa2112431
背景:
ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)を標的とした治療は、これまでのところ非小細胞肺がん領域では承認されていない。HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がんに対し、HER2抗体-薬物複合体であるtrastuzumab deruxtecan(以前はDS-8201のコードネームで呼称されていた)を使用した際の有効性、安全性について、これまでのところ国際的に検証されたことはない。
方法:
標準治療に対し耐性となったHER2遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者に対し、trastuzumab deruxtecan(患者体重1kgあたり6.4mg)を投与する国際多施設共同第2相臨床試験を行った。主要評価項目は独立委員会判定による奏効割合とした。副次評価項目には、奏効持続期間、無増悪生存期間、全生存期間、安全性を含めた。バイオマーカーとして、HER2遺伝子変異の多様性についても検討した。
結果:
計91人の患者が登録された。経過観察期間中央値は13.1ヶ月(0.7-29.1)だった。奏効割合は55%(95%信頼区間44-65%)だった。奏効持続期間中央値は9.3ヶ月(95%信頼区間5.7-14.7)だった。無増悪生存期間中央値は8.2ヶ月(95%信頼区間6.0-11.9)、全生存期間中央値は17.8ヶ月(95%信頼区間13.8-22.)だった。安全性プロファイルは、trastuzumab deruxtecanに関連した過去の研究結果で認められたのと同様だった。Grade 3以上の薬剤関連有害事象は患者の46%に認められた。その中でも最も頻度が高かったのは好中球減少症(19%)だった。薬剤性と判定された間質性肺障害は26%の患者に認められ、2人はこれにより死亡した。腫瘍縮小効果はHER2遺伝子変異のどのサブタイプでも同様に認められ、免疫染色によるHER2発現の有無、あるいはHER2増幅の有無と縮小効果の間には関連性は見られなかった。
結論
trasutuzumab deruxtecanは、既治療HER2陽性非小細胞肺がん患者に対して、持続的な抗腫瘍活性を示した。安全性プロファイルの点では、薬剤性肺障害による死亡例が2件発生したが、概ね過去の研究で確認されたのと同様の所見だった。
いい思い出がない。
もう6年以上前だが、1人だけ担当したことがある。
もともと他院で診療されていた患者だが、プラチナ併用化学療法と丸山ワクチンを併用したいということで私のもとに来られた。
とにかく、できることは何でもしたい、と本人・ご家族ともに考えておられた。
化学療法も丸山ワクチンも顕著な効果なく、LC-SCRUMに参加したところ、HER2遺伝子変異陽性を指摘された。
当時、確か北大でトラスツズマブの、岡山大でT-DM1の臨床試験が行われていたと記憶しているが、既に参加できるようなPSではなかった。
最終的には、苦し紛れにpan HER inhibitorであるアファチニブを使ったが、全く歯が立たなかった。
今回取り上げる論文冒頭の記載によると、HER2遺伝子変異陽性肺がんは非扁平上皮非小細胞肺がん患者の3%弱に認められ、女性・非喫煙者に多く、予後不良とのこと。
私が担当した患者に見事に特徴が合致する。
・HER2遺伝子変異陽性肺癌
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e808769.html
実際のところ、HER2を治療標的とした初期の臨床試験は、まさに死屍累々たる有様だった。
・Studies Explore Targeted Therapies in Lung Cancer
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e900760.html
・T-DM1 for HER2 positive NSCLC
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e906042.html
そんな中、以下の記事でごくわずかに触れたが、
「抗体-薬物複合体を用いた治療により、HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者では60%以上の奏効割合が、現在進行中の臨床試験で示されている」
という話があり、その結果公表が待っていた。
・あれから20年も、この先10年も
→http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e982143.html
そして、ようやくその時が来た。
trasutuzumab deruxtecanは乳がんや胃がんで既に有効性が証明されていたが、今回のDESTINY-01試験で非小細胞肺がんにおいても一定の有効性が確認された。
参加した患者の95%がプラチナ併用化学療法施行済み、66%がPD-1 / PD-L1抗体使用済み、20%がドセタキセル使用済み、14%が抗HER2チロシンキナーゼ阻害薬使用済みということ。
経過観察期間中央値はまだわずか13ヶ月だが、奏効割合55%、無増悪生存期間中央値8.2ヶ月、全生存期間中央値17.8ヶ月というのは有望な数字である。
Trastuzumab Deruxtecan in HER2-Mutant Non–Small-Cell Lung Cancer
DESTINY-Lung01 Trial
Bob T. Li,Yasushi Goto, M.D., Ph.D., Kazuhiko Nakagawa, M.D., Hibiki Udagawa, M.D. Misako Nagasaka, M.D., Ryota Shiga, B.Sc. et al.
N Engl J Med September 18, 2021, published online
DOI: 10.1056/NEJMoa2112431
背景:
ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)を標的とした治療は、これまでのところ非小細胞肺がん領域では承認されていない。HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がんに対し、HER2抗体-薬物複合体であるtrastuzumab deruxtecan(以前はDS-8201のコードネームで呼称されていた)を使用した際の有効性、安全性について、これまでのところ国際的に検証されたことはない。
方法:
標準治療に対し耐性となったHER2遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん患者に対し、trastuzumab deruxtecan(患者体重1kgあたり6.4mg)を投与する国際多施設共同第2相臨床試験を行った。主要評価項目は独立委員会判定による奏効割合とした。副次評価項目には、奏効持続期間、無増悪生存期間、全生存期間、安全性を含めた。バイオマーカーとして、HER2遺伝子変異の多様性についても検討した。
結果:
計91人の患者が登録された。経過観察期間中央値は13.1ヶ月(0.7-29.1)だった。奏効割合は55%(95%信頼区間44-65%)だった。奏効持続期間中央値は9.3ヶ月(95%信頼区間5.7-14.7)だった。無増悪生存期間中央値は8.2ヶ月(95%信頼区間6.0-11.9)、全生存期間中央値は17.8ヶ月(95%信頼区間13.8-22.)だった。安全性プロファイルは、trastuzumab deruxtecanに関連した過去の研究結果で認められたのと同様だった。Grade 3以上の薬剤関連有害事象は患者の46%に認められた。その中でも最も頻度が高かったのは好中球減少症(19%)だった。薬剤性と判定された間質性肺障害は26%の患者に認められ、2人はこれにより死亡した。腫瘍縮小効果はHER2遺伝子変異のどのサブタイプでも同様に認められ、免疫染色によるHER2発現の有無、あるいはHER2増幅の有無と縮小効果の間には関連性は見られなかった。
結論
trasutuzumab deruxtecanは、既治療HER2陽性非小細胞肺がん患者に対して、持続的な抗腫瘍活性を示した。安全性プロファイルの点では、薬剤性肺障害による死亡例が2件発生したが、概ね過去の研究で確認されたのと同様の所見だった。
セルペルカチニブ、上市
CLIP1-LTK融合遺伝子の発見・・・LC-SCRUM Asiaから
セルペルカチニブ、2021年12月13日発売予定
セルペルカチニブと過敏症
根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか
脳転移を有する患者集団に対しても、免疫チェックポイント阻害薬は有効なのか
第4世代ALK阻害薬・・・TPX-0131とNVL-655
セルペルカチニブ、製造販売承認
ドライバー遺伝子変異陽性患者におけるPACIFICレジメンの有効性
オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか
EGFR/ALK陽性非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法
ドライバー遺伝子異常検出におけるジレンマとmultiplex PCR
中国人患者におけるRET阻害薬(Selpercatinib, Pralsetinib)の有効性
オシメルチニブによる術前療法・・・NeoADAURAの前哨戦
BRAF遺伝子変異と縁がない
RET阻害薬、セルペルカチニブがやってくる
進行が速い進行肺腺がんに遭遇したらどう振る舞うか
ARROW試験のupdated data...RET肺がんとpralsetinib
EGFRエクソン20挿入変異に対するAmivantamab
EGFRエクソン20挿入変異を有する非小細胞肺がんに対するMobocertinib(TAK-788)再び
CLIP1-LTK融合遺伝子の発見・・・LC-SCRUM Asiaから
セルペルカチニブ、2021年12月13日発売予定
セルペルカチニブと過敏症
根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか
脳転移を有する患者集団に対しても、免疫チェックポイント阻害薬は有効なのか
第4世代ALK阻害薬・・・TPX-0131とNVL-655
セルペルカチニブ、製造販売承認
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オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか
EGFR/ALK陽性非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法
ドライバー遺伝子異常検出におけるジレンマとmultiplex PCR
中国人患者におけるRET阻害薬(Selpercatinib, Pralsetinib)の有効性
オシメルチニブによる術前療法・・・NeoADAURAの前哨戦
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EGFRエクソン20挿入変異に対するAmivantamab
EGFRエクソン20挿入変異を有する非小細胞肺がんに対するMobocertinib(TAK-788)再び