2021年09月10日

BRAF遺伝子変異と縁がない

 BRAF遺伝子変異と縁がない。
 どうも大分県内ではほとんどBRAF変異陽性肺がんは見つかっていないらしい。
 現時点で大分県内で3人報告があり、うち2人は1施設に集中していて、ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法を施行中なのだとか。
 あと1人は手術後の検索でたまたま見つかったものの、現時点で術後再発を来していないため、経過観察中なのだとか。

 これまで、BRAF遺伝子変異陽性肺がんについては断片的にしか取り上げたことがない。

・BRAF変異を有する非小細胞肺癌とdabrafenib
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e848365.html

 わざわざ2種類の分子標的薬を併用するのには、理由があるらしい。
 いわゆる増殖シグナル伝達系の垂直阻害である。
・ダブラフェニブ+トラメチニブの作用機序(ノバルティス・ファーマ株式会社のHPへ)
https://novartis-jp.secure.force.com/tflmkn/tflmkn_m_behavior_index

 今回は、BRAF遺伝子変異陽性非小細胞肺がんにおけるダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法の有効性を検証した臨床試験2報をまとめておく。
 前者は初回治療、後者は二次治療以降の患者における臨床試験結果である。
 早い話が、どの時点であれBRAF遺伝子変異があれば本治療を適用しよう、ということである。

 まずは一次治療についての論文。
 公表されたのは、こちらの方が後である。

Dabrafenib plus trametinib in patients with previously untreated BRAF V600E-mutant metastatic non-small-cell lung cancer: an open-label, phase 2 trial

David Planchard et al., Lancet Oncol. 2017 Oct;18(10):1307-1316.
doi: 10.1016/S1470-2045(17)30679-4. Epub 2017 Sep 11.

背景:
 BRAF V600E遺伝子変異は肺腺癌の1-2%に認められるドライバー遺伝子変異である。ダブラフェニブ単剤あるいはダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法は、BRAF V600E遺伝子変異陽性の既治療進行非小細胞肺がんに対して潜在的な抗腫瘍活性を示した。今回はBRAF V600E遺伝子変異陽性未治療進行非小細胞肺がんに対する、ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法の効果と安全性を検証した。

方法:
 今回の第II相・段階的登録・複数コホート・多施設共同・非ランダム化オープンラベル試験では、18歳以上のBRAF V600E遺伝子変異陽性既治療進行非小細胞肺がん患者を、北米、欧州、アジアの8か国19施設から、コホートCとして登録した。対象患者はダブラフェニブ150mg/回を1日2回、トラメチニブ2mgを1日1回、病勢進行に至るか、忍容不能の毒性に至るか、患者の治療同意が撤回されるか、患者が死亡するかするまで内服した。主要評価項目はRECIST ver.1.1に基づいた担当医評価による奏効割合とした。主要評価項目と安全性に関する解析は、intent-to-treat解析で行った。本試験は論文発表時点で継続中だが、患者集積は終了した。

結果:
 2014年4月16日から2015年12月28日までの期間内に、36人の患者を登録し、ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法による初回治療を行った。2017年4月28日のカットオフ時点での追跡期間中央値は15.9ヶ月(四分位間は7.8-22.0)だった。主要評価項目である、担当医評価による奏効割合は64%(95%信頼区間46-79)で、2人(6%)は完全奏効、21人(58%)は部分奏効だった。全ての患者になんらかの有害事象が確認され、69%の患者でgrade 3ないし4の有害事象を認めた。2人以上の患者で認められたgrade 3もしくは4の有害事象は、発熱(11%)、ALT上昇(11%)、高血圧(11%)、嘔吐(8%)だった。2人以上の患者で認められた重篤な有害事象は、ALT上昇(14%)、発熱(11%)、AST上昇(8%)、左室駆出率低下(8%)だった。プロトコール治療と関連性はないと判断されたものの、致死的な有害事象が1件発生した(心肺停止)。

結論:
 ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法は未治療のBRAF V600E遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がんに対し、臨床的に有用な抗腫瘍活性を示すとともに、対処可能な安全性プロファイルを有する治療である。


 続いて、二次治療以降についての論文。
 毒性プロファイルは若干異なるものの、有効性はほとんど変わらない。

Dabrafenib plus trametinib in patients with previously treated BRAF(V600E)-mutant metastatic non-small cell lung cancer: an open-label, multicentre phase 2 trial

David Planchard et al., Lancet Oncol. 2016 Jul;17(7):984-993. 
doi: 10.1016/S1470-2045(16)30146-2. Epub 2016 Jun 6.

背景:
 BRAF遺伝子変異は非小細胞肺がん細胞におけるmitogen-activated protein kinase(MAPK)経路を介したドライバー遺伝子変異である。BRAF阻害により、BRAF V600E遺伝子変異を有する非小細胞肺がんにおいて抗腫瘍活性が確認されている。BRAF V600E遺伝子変異陽性非小細胞肺がんにおいて、BRAF阻害薬とMEK阻害薬を併用してMAPK経路を阻害することにより、BRAF V600E遺伝子変異陽性悪性黒色腫で確認されたように、BRAF阻害薬単剤療法よりも有効である可能性がある。今回はBRAF-V600E遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者を対象に、ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法の有効性と安全性を確認することにした。

方法:
 本試験は第2相多施設共同非ランダム化オープンラベル試験として計画した。対象者は成人(18歳以上)のBRAF V600E遺伝子変異陽性既治療進行非小細胞肺がん患者で、少なくともプラチナ併用化学療法1レジメンは経験済みで、かつ既治療レジメン数は3レジメン以下とされた。BRAF阻害薬もしくはMEK阻害薬の治療歴があるものは除外された。脳転移を有する患者も参加可能とされたが、無症候性で、未治療あるいは局所療法後3週間以上は安定した状態を保っていて、病巣のサイズが1cm以下であることを条件とした。対象患者はダブラフェニブ150mg/回を1日2回、トラメチニブ2mgを1日1回、21日間を1コースとし、病勢進行に至るか、忍容不能の毒性に至るか、患者の治療同意が撤回されるか、患者が死亡するかするまで内服した。主要評価項目はRECIST ver.1.1に基づいた担当医評価による奏効割合とし、intent-to-treat解析で行った。安全性について少なくとも3週間に1回、CTCAE ver. 4.0基準に基づいて評価を行い、主要評価項目と同様の手法で解析を行った。本試験は論文発表時点で継続中だが、患者集積は終了した。

結果:
 2013年12月20日から2015年1月14日にかけて、北米、欧州、アジアの9か国30施設から59人の患者を集積した。2人の患者は治療歴がなかったため不適格とし、残る57人の患者を登録した。主要評価項目である、担当医評価による奏効割合は63.2%(95%信頼区間49.3-75.6)だった。重篤な有害事象は56%の患者で発生し、発熱(16%)、貧血(5%)、混迷(4%)、食欲不振(4%)、喀血(4%)、高カルシウム血症(4%)、嘔気(4%)、皮膚扁平上皮がん合併(4%)が含まれていた。grade 3-4の有害事象の主なものとして、好中球減少(9%)、低ナトリウム血症(7%)、貧血(5%)を認めた。プロトコール治療に直接の関連がない有害事象で4人の患者が死亡し、その内訳は後腹膜空出血、くも膜下出血、急性呼吸不全、急速な病勢進行による死亡だった。

結論:
 ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法は、BRAF V600E変異陽性の既治療非小細胞肺癌に対して、臨床的に有用かつ強固な抗腫瘍活性を示すとともに、対処可能な安全性プロファイルを有する治療である。



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この記事へのコメント
BRAF変異はそもそもPCRベースで高感度で検出できるはずなのに、コンパニオン診断薬でNGSが指定されてしまっているのが不利だなーと思います。術後再発症例ではPS良好なことも多く、検体量も多いのでNGSで調べる余裕もありますが、切除不能症例の場合、検体量やTATの問題で、調べられてないことも多いのではないかと。
AmoyからPCRベースのmultiplexが申請されたようなので、期待してます。本当は大腸癌に利用されているRAS/RAF検査が肺癌にも利用できるのが一番ですが。
Posted by 呼吸器外科医 at 2021年09月13日 00:44
呼吸器外科医さんへ

 コメントありがとうございます。臨床家にとっては、薬の効果が出さえしてくれるなら、診断根拠となる手法はなんでもいいんですけどね。PCRは高感度だけどall in oneというわけには行かず、NGSはall in oneだけど検体準備と感度の点でやや難点がある、と、一長一短がありますね。内科領域では、ALKは免疫染色で確認して、PD-L1はみんな評価して、EGFRはPCRでするか、他も一緒に調べるならまとめてオンコマインDxで、としてしまいがちです。小さな生検検体しかとれない施設では、オンコマインDx提出すら難しいかもしれません。
 中国のAmoy Diagnosticsの4 in 1 PCR kit(EGFR, ALK, ROS1, BRAF)は理研ジェネシスが2021/06/25付で製造販売承認を取得しているようですね。
→https://www.rikengenesis.jp/dcms_media/other/RG_release_20210630.pdf
 保険収載はまだのようですが、こちらが使えるようになると潮目が変わるかも知れませんね。
 LC-SCRUMで採用されているAmoy 9 in 1 kitは、同じくmultiplex PCRで9種(EGFR, KRAS, BRAF, NRAS, HER2, PIK3CA, ALK, ROS1, RET)の変異を同時に検索できるようです。
→http://www.amoydiagnostics.com/productDetail_35.html 
 これが使えるようになると、rare fractionも見つかる頻度が増えるかもしれません。我が国の会社でも、自力でこうしたコンパニオン診断キットを開発してくれるとさらにうれしいのですが。
Posted by taktak at 2021年09月13日 13:22
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