2017年06月10日

Studies Explore Targeted Therapies in Lung Cancer

 HER2関連肺癌とMET exon 14 skipping mutationの話題。
 自分の患者でもそうだったが、HER2陽性肺癌の治療はまだまだ難しいようだ。
 HER2関連肺癌に対しては、抗体医薬でなく小分子化合物が開発されるまではあまり期待できないかもしれない。
 MET exon 14 skipping mutationに対しては、他のDriver oncogene陽性肺癌と同様、よりupfrontに分子標的薬を、抗体医薬は最後の方で、というのがよさそうだ。
 HER2はともかく、MET exon 14 skipping mutationははやく実地臨床で利用できるようになってほしい。



Studies Explore Targeted Therapies in Lung Cancer

June 6, 2017

 6月4日に開催されたASCO2017のClinical Science Symposium "Old Targets, New Drugs: HER2 and MET” で、進行非小細胞肺癌を含む肺がん患者に対する新しいコンセプトの分子標的療法について4つの発表があった。比較的稀な遺伝子異常を対象にした研究であり、共同研究を継続することが重要だと強調されていた。


・HER2を過剰発現した非小細胞肺癌に対するT-DM1療法(ASCO 2017 abst.#8509)
 HER2の免疫染色で2+ / 3+と過剰発現が認められた化学療法既治療の進行非小細胞肺癌患者に対するT-DM1療法の有効性を検証する第II相試験の結果が報告された。
 HER2過剰発現、HER2遺伝子増幅、HER遺伝子変異といったHER2の異常は、非小細胞肺癌患者の一部で認められる。乳癌とは対照的に、非小細胞肺癌におけるHER2遺伝子増幅はいつもHER2過剰発現と相関しているとは限らない。しかしながら、HER2過剰発現は非小細胞肺癌の予後不良因子である。一般に、HER2遺伝子増幅とHER2遺伝子変異は非小細胞肺癌においては相互排他的な現象で、並存することはない。
 非小細胞肺癌におけるHER2異常の頻度は検査手法や判定基準によってさまざまだが、免疫染色で3+と評価される程度の過剰発現や、遺伝子増幅あるいは遺伝子変異は、最高でも6%程度といわれている。
 本研究では393人の患者をHER2免疫染色でスクリーニングして、40人がHER2過剰発現陽性だった。その内訳は、20人がHER2 2+, 20人がHER2 3+だった。それぞれのコホートに対し、T-DM1を3.6mg/kgの投与量で3週間ごとに治療した。
 追跡期間中央値が16ヶ月の段階で評価したところ、奏効割合はHER2 2+のコホートでは0%、HER2 3+のコホートでは20%だった。腫瘍が縮小した患者では、そのほとんどで治療開始後速やかに治療効果が得られた。治療継続期間中央値はそれぞれ1.4ヶ月、2.1ヶ月だった。全体の無増悪生存期間中央値は2.6ヶ月、生存期間中央値は12.2ヶ月だった。想定外の有害事象は認めなかった。
 探索的バイオマーカー研究を行ったところ、HER2 3+で、かつ次世代シーケンサーでHER2遺伝子増幅が確認された患者では治療効果が期待できそうだった。こうした基準を満たした5人の患者のうち、2人でT-DM1が奏効していた。


・HER2遺伝子変異を伴う肺癌に対するT-DM1療法(ASCO 2017 abst.#8510)
 HER2遺伝子増幅あるいは遺伝子変異を伴う進行固形癌患者に対するT-DM1療法の有効性を検証する臓器横断的な第II相basket trialの結果の一部が報告された。このなかにはHER2遺伝子変異を伴う肺癌患者も含まれており、別個に検証された。
 今回の研究はHER2遺伝子変異を有する患者に限定して行われた。対象となった18人の患者の前治療中央値は2レジメンだった。72%の患者は女性で、39%は非喫煙者だった。この患者群において、T-DM1を標準的な方法で投与したところ、奏効割合は44%、無増悪生存期間中央値は4ヶ月だった。奏効持続期間中央値は5ヶ月だった。奏効した患者の中には、奏効の基準を満たすまでに3-4ヶ月かかった患者もいた。
 T-DM1療法が奏効した患者のうち50%は過去にHER2に対する分子標的治療を受けていたが、既往の抗HER2療法とT-DM1療法に対する反応性の間に相関は見られなかった。infusion reactionが想定より多かったことを除いては、安全性のデータはほぼ予想通りだった。
 付随研究を行ったところ、HER2過剰発現は治療反応性に関係していなかった。


・MET遺伝子変異を有する非小細胞肺がん患者に対するMET阻害薬療法(ASCO 2017 abst.#8511)
 MET exon 14遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者に対するMET阻害薬の効果に関するレトロスペクティブ研究の結果が報告された。MET exon 14遺伝子変異は非小細胞肺癌の3%に認められる。こうした患者に対するMET阻害薬の治療効果について、小規模な症例報告はこれまでにされていた。Crizotinibが既に一般臨床に広く浸透していること、試験プロトコールにクロスオーバーや病勢進行後の治療が盛り込まれるのが一般的であるがために、MET exon 14遺伝子変異陽性患者を対象としたランダム化試験で生存期間延長効果を証明するのは難しいだろうと目されている。
 この患者群に対するMETチロシンキナーゼ阻害薬の効果を検証するために、MET exon 14遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌患者61人(34人はMETチロシンキナーゼ阻害薬治療歴なし、27人は治療歴あり)を対象に、レトロスペクティブ研究を行った。使用されたMETチロシンキナーゼ阻害薬は、crizotinib(20人は保険外診療で、4人は臨床試験で使用)、glesatinib(4人)、capmatinib(3人)だった。数人の患者は、複数のチロシンキナーゼ阻害薬を使用していた。患者の57%は女性で、39人は非喫煙者、30%は診断時に既にIV期と診断されていた。
 METチロシンキナーゼ阻害薬を使用した患者の生存期間中央値は24.6ヶ月、使用しなかった患者では8.1ヶ月だった。crizotinibを使用した患者に限って言えば、生存期間中央値は20.5ヶ月、無増悪生存期間中央値は7.4ヶ月だった。
 METチロシンキナーゼ阻害薬を使用した患者では、使用しなかった患者に対して、他の薬物療法を受けた患者が有意に多かった(p<0.001)。また、PD-1阻害薬の投与を受けた患者も、METチロシンキナーゼ阻害薬を使用した患者で有意に多かった(37% vs 9%, p=0.01)。
 

・MET遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の有効性(ASCO 2017 abst.#8512)
 MET exon 14遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者81人を対象に、PD-L1発現状態と免疫チェックポイント阻害薬の効果を検証した。
 81人の解析において、免疫染色でPD-L1の発現を見た患者は54人(67%)だった。その約半数(46%)で、PD-L1を発現しているがん細胞がが50%以上と高発現の状態だった。PD-L1発現細胞が1-49%の患者は19%、PD-L1発現陰性(発現細胞1%未満)の患者は35%だった。PD-L1発現状態とその他の背景因子に相関は見られなかった。 
 78人のMET exon 14遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者と、1,769人の非小細胞肺がん患者コホートとの間でTumor Mutational Burden(TMB)を比較したところ、前者では有意にTMBが低かった(3.8変異/megabase vs 5.7変異/megabase, p=0.0006)。PD-L1発現とTMBの間に有意な相関はなかった。
 MET exon 14遺伝子変異陽性患者で免疫チェックポイント阻害薬の治療を受け、効果判定が出来た患者は15人だった。14人は抗PD-1抗体もしくは抗PD-L1抗体の単剤療法を受け、1人だけは抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体併用療法を受けていた。6人は、過去に治療歴のない患者だった。
 この患者群において、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果は不良(奏効割合は6.7%)で、PD-L1発現は効果予測因子としては役に立たなかった。PD-L1高発現の6人の患者でも、奏効は得られなかった。TMBですら効果予測因子とならず、TMB高値の患者でも奏効は得られなかった。






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