2015年07月13日
HER2遺伝子変異陽性肺癌
最近、職場での出来事を書いていなかったので、久し振りに報告します。
LC-scrum Japanへの登録を目指していた患者さんのその後の話です。
前回の内容は以下を参照のこと。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e799772.html
結局、その後気管支鏡下縦隔リンパ節生検をやりました。
併せて、病勢進行により悪性胸水も合併したため、胸水も採取しました。
これらをひとまとめにして、ようやく6月中旬に患者登録、検体提出にこぎつけました。
ちょうど臨床試験計画の改訂に伴い、登録ができない期間に当たってしまったり、なんやかんやと躓きましたが、諦めなくてよかった。
この場をお借りして、大分大学病院、国立がん研究センター東病院、SRLの諸氏に厚く御礼申し上げます。
LC-scrum Japanへの提出を目指し始めてからこれまでに、患者さんには劇的な変化が起こりました。
とにかく病勢進行が速い。
病勢悪化を確認したのは4月の段階のCTで、明らかな他臓器転移は左副腎のみでした。
5月に再検査したところ、肺内多発転移、骨多発転移、皮下多発転移、筋多発転移、左胸水、心嚢液貯留、脳多発転移と、わずか1ヶ月であっという間に全身に広がってしまいました。
これはLC-scrum Japanの結果が出るまで待っていられないと、ドセタキセルによる二次治療を行いました。
有害事象はそれほど強くありませんでしたが、まったく効果は得られず、①コースで終了しました。
その後は患者さんの状態が日に日に悪くなるのを眺めつつ、結果が返ってくるのを待つしかありませんでした。
結果は6月下旬からポツリポツリ帰ってき始めて、最終結果が戻ってきたのが先週末でした。
RET陰性、ROS1はコメント付きながら陰性、そして最後に唯一帰ってきたのが・・・HER2遺伝子変異陽性という結果でした。
HER2遺伝子変異が肺癌でも認められる、というのはなんとなく知っていましたが、自分の患者さんとして経験するのは初めてです。
目の前では当の患者さんが車椅子に乗って酸素吸入をしながら、PS3-4の状態でフウフウ言っています。
腰砕けになりながら、わらをもつかむ思いでいろいろと調べ始めました。
HER2と言えば、乳癌の領域では非常によく知られています。
EGFRと同じERBB膜蛋白グループに属します(EGFRは別名ERBB1, HER2は別名ERBB2です)。
肺癌でHER2遺伝子変異が認められると最初に報告したのは、2004年におけるこのNatureの論文ではないでしょうか。
120人の肺癌を集め、その4%にHER2遺伝子変異を認め、対象を腺癌に絞ると実に10%にHER2遺伝子変異が見られたと言います。
http://www.nature.com/nature/journal/v431/n7008/full/431525b.html
岡山大学のShigematsu先生は、日本、台湾、オーストラリアのHER2陽性肺癌患者さんについて、以下のように報告しています。
http://cancerres.aacrjournals.org/content/65/5/1642.long

非小細胞肺癌の6-35%にはHER2蛋白の過剰発現が、10-20%にはHER2遺伝子増幅が見られるとされています。
一方、HER2遺伝子変異は非小細胞肺がん全体の2-4%に留まると言われています。
HER2過剰発現や遺伝子増幅を有する患者さんを対象に、抗がん薬+トラスツズマブ併用療法の臨床試験が組まれましたが、残念ながらこれはnegative studyでした。
しかしながら、Cappuzo先生は以下のように、一部のHER2陽性肺癌患者にトラスツズマブがよく効くという事例を報告しています。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc060020

そんななか、HER2遺伝子変異に対してAfatinibを使う報告もちらちらと出始めます。
こちらは、ベルギーのDe Greve先生の症例報告です。
http://www.lungcancerjournal.info/article/S0169-5002(12)00021-9/pdf
HER2遺伝子変異陽性で、Afatinibを使って効果が得られた3症例を取り扱っています。
こちらはスペインのMazieres先生の論文。
3800人の患者さんをスクリーニングして、HER2遺伝子変異を証明できたのは65人(1.7%)。
http://jco.ascopubs.org/content/31/16/1997.long



生存曲線を見る限り、IV期であっても生存期間中央値は2年前後のようです。
何らかの形で、ほぼ全てのIV期HER2遺伝子変異陽性患者さんが、HER2阻害薬を使われています。
トラスツズマブを使われた15人の病勢コントロール割合は96%、Afatinibを使われた4人の病勢コントロール割合は100%でした。
最後にもう一度、ベルギーのDe Greve先生の最近の論文から。
第II相臨床試験として、HER2遺伝子変異陽性肺癌患者さんに、Afatnibを使用しました。
一連の資料の中では、Cohort3というのが、Afatinibを服用したグループです。



完全奏効、部分奏効には至っていませんが、病勢コントロール割合は71%でした。
文献を見ると、EGFR遺伝子変異に対するEGFR阻害薬だとか、ALK再構成肺癌に対するALK阻害薬ほどには劇的な効果を示さなさそうです。
最後に、日経メディカルからこんな話題も。
2014年5月16日の記事から抜粋です。
<HER2変異のある固形癌対象のPB272(neratinib)のフェーズ2試験が順調、コホート拡大に>
米Puma Biotechnology社は、5月14日、HER2変異を有する固形癌患者の単剤療法として、PB272(neratinib)を検討するフェーズ2試験(baske試験)で、最初に登録を始めたコホートの拡大を行ったと発表した。拡大されたコホートには、HER2陰性(HER2遺伝子増幅やHER2過剰発現がない)だが、HER2変異を有する転移性乳癌患者が含まれている。
basket試験は国際的な多施設共同オープンラベル試験で、2013年10月に開始された。HER2変異を有する固形癌患者を対象に、PB272の連日投与における安全性と有効性を評価する。
試験コホートは、(1) 膀胱/尿路癌、(2) 結腸/直腸癌、(3) 子宮体癌、(4) 胃/食道癌、 (5) 卵巣癌、(6) EGFR変異および/またはEGFR増幅の原発性脳腫瘍、 (7) HER3変異を有する固形癌、(8) HER2変異を有する他の全ての固形癌、に分けられている。
私の患者さんにとっては、このneratinibの臨床試験に参加するのがベストの選択肢のように思われますが、残念ながらそこまでの体力は残されていないようです。
LC-scrum Japanへの登録を目指していた患者さんのその後の話です。
前回の内容は以下を参照のこと。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e799772.html
結局、その後気管支鏡下縦隔リンパ節生検をやりました。
併せて、病勢進行により悪性胸水も合併したため、胸水も採取しました。
これらをひとまとめにして、ようやく6月中旬に患者登録、検体提出にこぎつけました。
ちょうど臨床試験計画の改訂に伴い、登録ができない期間に当たってしまったり、なんやかんやと躓きましたが、諦めなくてよかった。
この場をお借りして、大分大学病院、国立がん研究センター東病院、SRLの諸氏に厚く御礼申し上げます。
LC-scrum Japanへの提出を目指し始めてからこれまでに、患者さんには劇的な変化が起こりました。
とにかく病勢進行が速い。
病勢悪化を確認したのは4月の段階のCTで、明らかな他臓器転移は左副腎のみでした。
5月に再検査したところ、肺内多発転移、骨多発転移、皮下多発転移、筋多発転移、左胸水、心嚢液貯留、脳多発転移と、わずか1ヶ月であっという間に全身に広がってしまいました。
これはLC-scrum Japanの結果が出るまで待っていられないと、ドセタキセルによる二次治療を行いました。
有害事象はそれほど強くありませんでしたが、まったく効果は得られず、①コースで終了しました。
その後は患者さんの状態が日に日に悪くなるのを眺めつつ、結果が返ってくるのを待つしかありませんでした。
結果は6月下旬からポツリポツリ帰ってき始めて、最終結果が戻ってきたのが先週末でした。
RET陰性、ROS1はコメント付きながら陰性、そして最後に唯一帰ってきたのが・・・HER2遺伝子変異陽性という結果でした。
HER2遺伝子変異が肺癌でも認められる、というのはなんとなく知っていましたが、自分の患者さんとして経験するのは初めてです。
目の前では当の患者さんが車椅子に乗って酸素吸入をしながら、PS3-4の状態でフウフウ言っています。
腰砕けになりながら、わらをもつかむ思いでいろいろと調べ始めました。
HER2と言えば、乳癌の領域では非常によく知られています。
EGFRと同じERBB膜蛋白グループに属します(EGFRは別名ERBB1, HER2は別名ERBB2です)。
肺癌でHER2遺伝子変異が認められると最初に報告したのは、2004年におけるこのNatureの論文ではないでしょうか。
120人の肺癌を集め、その4%にHER2遺伝子変異を認め、対象を腺癌に絞ると実に10%にHER2遺伝子変異が見られたと言います。
http://www.nature.com/nature/journal/v431/n7008/full/431525b.html
岡山大学のShigematsu先生は、日本、台湾、オーストラリアのHER2陽性肺癌患者さんについて、以下のように報告しています。
http://cancerres.aacrjournals.org/content/65/5/1642.long

非小細胞肺癌の6-35%にはHER2蛋白の過剰発現が、10-20%にはHER2遺伝子増幅が見られるとされています。
一方、HER2遺伝子変異は非小細胞肺がん全体の2-4%に留まると言われています。
HER2過剰発現や遺伝子増幅を有する患者さんを対象に、抗がん薬+トラスツズマブ併用療法の臨床試験が組まれましたが、残念ながらこれはnegative studyでした。
しかしながら、Cappuzo先生は以下のように、一部のHER2陽性肺癌患者にトラスツズマブがよく効くという事例を報告しています。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc060020

そんななか、HER2遺伝子変異に対してAfatinibを使う報告もちらちらと出始めます。
こちらは、ベルギーのDe Greve先生の症例報告です。
http://www.lungcancerjournal.info/article/S0169-5002(12)00021-9/pdf
HER2遺伝子変異陽性で、Afatinibを使って効果が得られた3症例を取り扱っています。
こちらはスペインのMazieres先生の論文。
3800人の患者さんをスクリーニングして、HER2遺伝子変異を証明できたのは65人(1.7%)。
http://jco.ascopubs.org/content/31/16/1997.long



生存曲線を見る限り、IV期であっても生存期間中央値は2年前後のようです。
何らかの形で、ほぼ全てのIV期HER2遺伝子変異陽性患者さんが、HER2阻害薬を使われています。
トラスツズマブを使われた15人の病勢コントロール割合は96%、Afatinibを使われた4人の病勢コントロール割合は100%でした。
最後にもう一度、ベルギーのDe Greve先生の最近の論文から。
第II相臨床試験として、HER2遺伝子変異陽性肺癌患者さんに、Afatnibを使用しました。
一連の資料の中では、Cohort3というのが、Afatinibを服用したグループです。



完全奏効、部分奏効には至っていませんが、病勢コントロール割合は71%でした。
文献を見ると、EGFR遺伝子変異に対するEGFR阻害薬だとか、ALK再構成肺癌に対するALK阻害薬ほどには劇的な効果を示さなさそうです。
最後に、日経メディカルからこんな話題も。
2014年5月16日の記事から抜粋です。
<HER2変異のある固形癌対象のPB272(neratinib)のフェーズ2試験が順調、コホート拡大に>
米Puma Biotechnology社は、5月14日、HER2変異を有する固形癌患者の単剤療法として、PB272(neratinib)を検討するフェーズ2試験(baske試験)で、最初に登録を始めたコホートの拡大を行ったと発表した。拡大されたコホートには、HER2陰性(HER2遺伝子増幅やHER2過剰発現がない)だが、HER2変異を有する転移性乳癌患者が含まれている。
basket試験は国際的な多施設共同オープンラベル試験で、2013年10月に開始された。HER2変異を有する固形癌患者を対象に、PB272の連日投与における安全性と有効性を評価する。
試験コホートは、(1) 膀胱/尿路癌、(2) 結腸/直腸癌、(3) 子宮体癌、(4) 胃/食道癌、 (5) 卵巣癌、(6) EGFR変異および/またはEGFR増幅の原発性脳腫瘍、 (7) HER3変異を有する固形癌、(8) HER2変異を有する他の全ての固形癌、に分けられている。
私の患者さんにとっては、このneratinibの臨床試験に参加するのがベストの選択肢のように思われますが、残念ながらそこまでの体力は残されていないようです。
セルペルカチニブ、上市
CLIP1-LTK融合遺伝子の発見・・・LC-SCRUM Asiaから
セルペルカチニブ、2021年12月13日発売予定
進行非小細胞肺がんオリゴ転移巣に対する定位照射のランダム化第II相比較試験
セルペルカチニブと過敏症
根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか
HER2エクソン20挿入変異陽性非小細胞肺がんに対するpoziotinib
セルペルカチニブの添付文書
第4世代ALK阻害薬・・・TPX-0131とNVL-655
セルペルカチニブ、製造販売承認
HER2遺伝子変異陽性肺がんに対するtrastuzumab deruxtecan
オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか
EGFR/ALK陽性非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法
ドライバー遺伝子異常検出におけるジレンマとmultiplex PCR
中国人患者におけるRET阻害薬(Selpercatinib, Pralsetinib)の有効性
オシメルチニブによる術前療法・・・NeoADAURAの前哨戦
病勢進行後の治療をどう考えるか
BRAF遺伝子変異と縁がない
RET阻害薬、セルペルカチニブがやってくる
進行が速い進行肺腺がんに遭遇したらどう振る舞うか
CLIP1-LTK融合遺伝子の発見・・・LC-SCRUM Asiaから
セルペルカチニブ、2021年12月13日発売予定
進行非小細胞肺がんオリゴ転移巣に対する定位照射のランダム化第II相比較試験
セルペルカチニブと過敏症
根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか
HER2エクソン20挿入変異陽性非小細胞肺がんに対するpoziotinib
セルペルカチニブの添付文書
第4世代ALK阻害薬・・・TPX-0131とNVL-655
セルペルカチニブ、製造販売承認
HER2遺伝子変異陽性肺がんに対するtrastuzumab deruxtecan
オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか
EGFR/ALK陽性非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法
ドライバー遺伝子異常検出におけるジレンマとmultiplex PCR
中国人患者におけるRET阻害薬(Selpercatinib, Pralsetinib)の有効性
オシメルチニブによる術前療法・・・NeoADAURAの前哨戦
病勢進行後の治療をどう考えるか
BRAF遺伝子変異と縁がない
RET阻害薬、セルペルカチニブがやってくる
進行が速い進行肺腺がんに遭遇したらどう振る舞うか
Posted by tak at 23:45│Comments(0)
│個別化医療