2016年10月17日
既治療非小細胞肺がんへのS-1はドセタキセルに「劣らない」
今年の欧州臨床腫瘍学会は注目される発表が多かったようだが、まずは我が国の実地臨床へのインパクトが大きいものとして、あえてS-1を取り上げたい。
S-1は内服の殺細胞性抗腫瘍薬でありながら有効な薬であり、これまでは初回化学療法での治療開発が主だった。
ぱっと思いつくのは、進行・再発非小細胞肺がんに対する初回化学療法としてのシスプラチン+S-1併用化学療法(CATS trial)、カルボプラチン+S-1併用化学療法(LETS trial)、局所進行非小細胞肺がんに対するシスプラチン+S-1+根治的胸部放射線療法(九州がんセンターの第II相試験)といったところだ。
一方で、S-1に関する二次治療以降の大規模臨床試験で、パッと思い浮かぶものはない。
術後補助化学療法はASCO2016で安全性データは報告されたものの、生存期間延長効果については結論待ちで、まだまだ時間がかかるだろう。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e854713.html
実地臨床でのS-1の位置づけはどうかというと、足元ではあまり出番がない。
シスプラチン+S-1併用化学療法は、実際に行われているのをほとんど見たことがない。
カルボプラチン+S-1併用化学療法は、扁平上皮癌でしばしば使われているけれど、最近ではカルボプラチン+アブラキサン併用療法に押されがちなように見える。
局所進行非小細胞肺がんに対する化学療法レジメンは個人の好みによって決まることが多いが、大分大学病院ではもっぱらWJOG trialの結果に基づいてカルボプラチン+パクリタキセル併用が多いようである。
術後補助化学療法では、今のところ実地臨床でS-1が使われているのを見たことがない。
じゃあどの場面で一番使われているかというと、初回治療、二次治療、三次治療・・・と進んで、いよいよエビデンスが乏しくなった局面における単剤治療においてである。
個人的には、
「苦し紛れのS-1」
といった感じで捉えていたが、意外とこれが有効なことがある。
自分のデータベースを紐解いてみると、S-1を含まない標準治療を始めた患者がS-1単剤治療にたどり着くまでには数次の治療を経ていることが多く、それでもある程度の期間は治療を続けることができて、結果としてこの患者集団の生存期間は長くなっていた。
今回報告されたEAST-LC試験の結果は日経メディカルの記事によくまとめられているので、そこから要点を抜粋して記載する。
このところ、さまざまな臨床試験で、二次治療の標準として比較対象に上げられるドセタキセル単剤療法であるが、S-1単剤治療がこのドセタキセルに「少なくとも劣らない」と確認された。
世界的にどうかはともかくとして、我が国ではS-1がドセタキセルにとってかわる可能性すらあると思われる。
いや、むしろ有効な治療選択肢が増えた、とか、これまで実地臨床で汎用されていたS-1単剤治療にお墨付きがついた、とか、そんな風に捉えるべきだろう。
----------
S-1単剤療法は、非小細胞肺がんで治療暦がある患者を対象とした2件の第II相試験で有効性と安全性が確認されている。これらの試験では、S-1は治療暦がある非小細胞肺がん患者に対す標準治療のドセタキセルと同等であることが示唆された。
EAST-LC試験の主な目的は、治療歴がある非小細胞肺がん患者を対象に、ドセタキセル単剤治療に対するS-1単剤治療の非劣性を証明することだった。主要評価項目は全生存期間とした。副次評価項目は無増悪生存期間、治療成功期間、奏功割合、重度の有害事象の発生割合などとした。
対象は、IIIBまたはIV期の非小細胞肺がん患者で、前治療で1-3レジメンの化学療法(プラチナ製剤を含む化学療法を1レジメン以上含む)を受けている患者とした。ゲフィチニブやエルロチニブの投与の有無は問わなかったが、過去にドセタキセルやフッ化ピリミジンの投与を受けていた患者は除外した。PSは2以下とした。
S-1 80-120mg/日を28日間投与し、その後14日間休薬、6週毎に繰り返す群(S-1群)、またはドセタキセルを日本では体表面積当たり60mg、日本以外の国では体表面積当たり75mgの用量で3週毎に投与する群(ドセタキセル群)のいずれかに、患者をランダムに割り付けた。
日本、香港、中国、台湾、シンガポールが本試験に参加し、2010年7月から2014年7月までに1,154人が登録され、最終的にS-1群570人、ドセタキセル群577人で有効性解析を行った。追跡期間中央値は30.75カ月だった。
S-1群とドセタキセル群において、年齢中央値はともに62歳、非扁平上皮癌の割合はそれぞれ81.8%と83.0%、2レジメン以上の前治療を受けた患者は両群で約38%だった。前治療におけるEGFR-TKIの使用は、S-1群23.4%、ドセタキセル群22.8%だった。日本人患者は、S-1群357人(61.9%)、ドセタキセル群358人(62.8%)となった。
全生存期間中央値は、S-1群12.75ヶ月、ドセタキセル群12.52ヶ月、ハザード比0.945(95%信頼区間:0.833-1.073)、p=0.3818となり、ハザード比の95%信頼区間上限が事前に設定していた非劣性マージンである1.2を下回ったため、S-1のドセタキセルに対する非劣性が証明された。
サブグループ解析では、生存期間中央値(MST)は日本と日本以外の国で同様であることが示された。日本のMSTは、S-1群13.4カ月、ドセタキセル群12.6カ月、ハザード比は0.922(95%信頼区間:0.789-1.079)、日本以外の国でのMSTはそれぞれ10.8カ月と12.1カ月、ハザード比1.056(95%信頼区間:0.854-1.307)だった。
PFSも両群で同様の結果となり、PFS中央値はS-1群2.86カ月、ドセタキセル群2.89カ月、ハザード比1.033(95%信頼区間:0.913-1.168)となった。
試験担当医師の判定による奏効率は、S-1群8.3%、ドセタキセル群9.9%、病勢コントロール率(DCR)はそれぞれ45.4%と44.7%だった。
グレード3以上の発熱性好中球減少、好中球減少の発現は、S-1群と比べてドセタキセル群で頻度が高く、S-1群ではそれぞれ0.9%と5.4%だったのに対し、ドセタキセル群は13.6%と47.7%だった。主な非血液毒性では、下痢(全グレード)がS-1群の37.2%、ドセタキセル群18.2%、口内炎がそれぞれ23.9%と14.5%、食欲低下が52.6%と37.9%に発現した。
S-1は内服の殺細胞性抗腫瘍薬でありながら有効な薬であり、これまでは初回化学療法での治療開発が主だった。
ぱっと思いつくのは、進行・再発非小細胞肺がんに対する初回化学療法としてのシスプラチン+S-1併用化学療法(CATS trial)、カルボプラチン+S-1併用化学療法(LETS trial)、局所進行非小細胞肺がんに対するシスプラチン+S-1+根治的胸部放射線療法(九州がんセンターの第II相試験)といったところだ。
一方で、S-1に関する二次治療以降の大規模臨床試験で、パッと思い浮かぶものはない。
術後補助化学療法はASCO2016で安全性データは報告されたものの、生存期間延長効果については結論待ちで、まだまだ時間がかかるだろう。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e854713.html
実地臨床でのS-1の位置づけはどうかというと、足元ではあまり出番がない。
シスプラチン+S-1併用化学療法は、実際に行われているのをほとんど見たことがない。
カルボプラチン+S-1併用化学療法は、扁平上皮癌でしばしば使われているけれど、最近ではカルボプラチン+アブラキサン併用療法に押されがちなように見える。
局所進行非小細胞肺がんに対する化学療法レジメンは個人の好みによって決まることが多いが、大分大学病院ではもっぱらWJOG trialの結果に基づいてカルボプラチン+パクリタキセル併用が多いようである。
術後補助化学療法では、今のところ実地臨床でS-1が使われているのを見たことがない。
じゃあどの場面で一番使われているかというと、初回治療、二次治療、三次治療・・・と進んで、いよいよエビデンスが乏しくなった局面における単剤治療においてである。
個人的には、
「苦し紛れのS-1」
といった感じで捉えていたが、意外とこれが有効なことがある。
自分のデータベースを紐解いてみると、S-1を含まない標準治療を始めた患者がS-1単剤治療にたどり着くまでには数次の治療を経ていることが多く、それでもある程度の期間は治療を続けることができて、結果としてこの患者集団の生存期間は長くなっていた。
今回報告されたEAST-LC試験の結果は日経メディカルの記事によくまとめられているので、そこから要点を抜粋して記載する。
このところ、さまざまな臨床試験で、二次治療の標準として比較対象に上げられるドセタキセル単剤療法であるが、S-1単剤治療がこのドセタキセルに「少なくとも劣らない」と確認された。
世界的にどうかはともかくとして、我が国ではS-1がドセタキセルにとってかわる可能性すらあると思われる。
いや、むしろ有効な治療選択肢が増えた、とか、これまで実地臨床で汎用されていたS-1単剤治療にお墨付きがついた、とか、そんな風に捉えるべきだろう。
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S-1単剤療法は、非小細胞肺がんで治療暦がある患者を対象とした2件の第II相試験で有効性と安全性が確認されている。これらの試験では、S-1は治療暦がある非小細胞肺がん患者に対す標準治療のドセタキセルと同等であることが示唆された。
EAST-LC試験の主な目的は、治療歴がある非小細胞肺がん患者を対象に、ドセタキセル単剤治療に対するS-1単剤治療の非劣性を証明することだった。主要評価項目は全生存期間とした。副次評価項目は無増悪生存期間、治療成功期間、奏功割合、重度の有害事象の発生割合などとした。
対象は、IIIBまたはIV期の非小細胞肺がん患者で、前治療で1-3レジメンの化学療法(プラチナ製剤を含む化学療法を1レジメン以上含む)を受けている患者とした。ゲフィチニブやエルロチニブの投与の有無は問わなかったが、過去にドセタキセルやフッ化ピリミジンの投与を受けていた患者は除外した。PSは2以下とした。
S-1 80-120mg/日を28日間投与し、その後14日間休薬、6週毎に繰り返す群(S-1群)、またはドセタキセルを日本では体表面積当たり60mg、日本以外の国では体表面積当たり75mgの用量で3週毎に投与する群(ドセタキセル群)のいずれかに、患者をランダムに割り付けた。
日本、香港、中国、台湾、シンガポールが本試験に参加し、2010年7月から2014年7月までに1,154人が登録され、最終的にS-1群570人、ドセタキセル群577人で有効性解析を行った。追跡期間中央値は30.75カ月だった。
S-1群とドセタキセル群において、年齢中央値はともに62歳、非扁平上皮癌の割合はそれぞれ81.8%と83.0%、2レジメン以上の前治療を受けた患者は両群で約38%だった。前治療におけるEGFR-TKIの使用は、S-1群23.4%、ドセタキセル群22.8%だった。日本人患者は、S-1群357人(61.9%)、ドセタキセル群358人(62.8%)となった。
全生存期間中央値は、S-1群12.75ヶ月、ドセタキセル群12.52ヶ月、ハザード比0.945(95%信頼区間:0.833-1.073)、p=0.3818となり、ハザード比の95%信頼区間上限が事前に設定していた非劣性マージンである1.2を下回ったため、S-1のドセタキセルに対する非劣性が証明された。
サブグループ解析では、生存期間中央値(MST)は日本と日本以外の国で同様であることが示された。日本のMSTは、S-1群13.4カ月、ドセタキセル群12.6カ月、ハザード比は0.922(95%信頼区間:0.789-1.079)、日本以外の国でのMSTはそれぞれ10.8カ月と12.1カ月、ハザード比1.056(95%信頼区間:0.854-1.307)だった。
PFSも両群で同様の結果となり、PFS中央値はS-1群2.86カ月、ドセタキセル群2.89カ月、ハザード比1.033(95%信頼区間:0.913-1.168)となった。
試験担当医師の判定による奏効率は、S-1群8.3%、ドセタキセル群9.9%、病勢コントロール率(DCR)はそれぞれ45.4%と44.7%だった。
グレード3以上の発熱性好中球減少、好中球減少の発現は、S-1群と比べてドセタキセル群で頻度が高く、S-1群ではそれぞれ0.9%と5.4%だったのに対し、ドセタキセル群は13.6%と47.7%だった。主な非血液毒性では、下痢(全グレード)がS-1群の37.2%、ドセタキセル群18.2%、口内炎がそれぞれ23.9%と14.5%、食欲低下が52.6%と37.9%に発現した。
血液脳関門とがん薬物療法
根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか
ラムシルマブ+ドセタキセル併用療法と胸水・腹水貯留
ドライバー遺伝子変異陽性患者におけるPACIFICレジメンの有効性
オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか
EGFR/ALK陽性非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法
CheckMate9LA試験 脳転移の有無でサブグループ解析
オシメルチニブによる術前療法・・・NeoADAURAの前哨戦
非小細胞肺がんの周術期治療をどのように考えるか
ビノレルビンにも供給不安
進行非小細胞肺癌二次もしくは三次治療のアムルビシン単剤療法
有害事象による治療中止と、その後の治療再開
ナブパクリタキセル、まさかの供給停止
ラムシルマブ+ドセタキセル併用療法再考
進行肺扁平上皮がんでは、二次治療以降でニボルマブにイピリムマブを上乗せする意義はない
ゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法・・・NEJ009試験の最新データ
日本人の高齢進展型小細胞肺がんの標準治療
肺がん診療におけるステロイド薬の使い方
今更ながら第III相AVAPERL試験のおさらい
PD-L1≧50%の進行non-Sq NSCLC患者で、免疫チェックポイント阻害薬単剤療法は必要かつ十分なのか
根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか
ラムシルマブ+ドセタキセル併用療法と胸水・腹水貯留
ドライバー遺伝子変異陽性患者におけるPACIFICレジメンの有効性
オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか
EGFR/ALK陽性非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法
CheckMate9LA試験 脳転移の有無でサブグループ解析
オシメルチニブによる術前療法・・・NeoADAURAの前哨戦
非小細胞肺がんの周術期治療をどのように考えるか
ビノレルビンにも供給不安
進行非小細胞肺癌二次もしくは三次治療のアムルビシン単剤療法
有害事象による治療中止と、その後の治療再開
ナブパクリタキセル、まさかの供給停止
ラムシルマブ+ドセタキセル併用療法再考
進行肺扁平上皮がんでは、二次治療以降でニボルマブにイピリムマブを上乗せする意義はない
ゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法・・・NEJ009試験の最新データ
日本人の高齢進展型小細胞肺がんの標準治療
肺がん診療におけるステロイド薬の使い方
今更ながら第III相AVAPERL試験のおさらい
PD-L1≧50%の進行non-Sq NSCLC患者で、免疫チェックポイント阻害薬単剤療法は必要かつ十分なのか
Posted by tak at 22:53│Comments(5)
│化学療法
この記事へのコメント
こんにちは。いつもお疲れ様です。
TS-1は何も治療薬が無い人に使うもので、効果はあまり無いと思っていて今まで避けてきました。
この記事を読んで、考えを変える機会になります。
高齢で非小細胞肺がん、EGFRuncommonでTKIやICIの効果が見込めずに治療に行き詰まってしまいました。
なかなかエビデンスのない治療は出来ない環境に身を置いており、悩んでしまいました。
全く治療を諦めていない、頑張りたいとおっしゃるこの方に使う価値はありますでしょうか?
他のレジメンのお考えもお聞かせ下さいませんか?
ご本人もご家族もゼロではないなら可能性に賭けたいと言われています。
私も何とか生存期間を延ばしてあげたいのです。
TS-1は何も治療薬が無い人に使うもので、効果はあまり無いと思っていて今まで避けてきました。
この記事を読んで、考えを変える機会になります。
高齢で非小細胞肺がん、EGFRuncommonでTKIやICIの効果が見込めずに治療に行き詰まってしまいました。
なかなかエビデンスのない治療は出来ない環境に身を置いており、悩んでしまいました。
全く治療を諦めていない、頑張りたいとおっしゃるこの方に使う価値はありますでしょうか?
他のレジメンのお考えもお聞かせ下さいませんか?
ご本人もご家族もゼロではないなら可能性に賭けたいと言われています。
私も何とか生存期間を延ばしてあげたいのです。
Posted by 駆け出し腫瘍内科医 at 2020年01月16日 10:58
駆け出し腫瘍内科医さんへ
コメントありがとうございます。
先生のように、この領域を自分の生業として選び、患者さんとともに歩んでくださる方が、私の備忘録を参考にしてくださって、とても光栄です。
まず、高齢であっても、理解力があり、治療意欲があり、PSがよく、治療中のリスク管理ができる方であれば、積極的に治療を考えて差し上げるべきだと思います。
この方が初回治療という前提で記載します。
文面から、非小細胞肺癌(NOS, not otherwise specified)、EGFRはwild typeではなく、uncommon mutationが認められたということですね。
uncommon mutationの詳細が分かりませんが、少なくともアファチニブやオシメルチニブを試してみる可能性はあると受け止めましたが、いかがでしょうか。
また、ICIを検討すべき局面もあるかも知れませんので、組織検体が残っていればKRAS遺伝子変異やTPSは検索しておいた方がよいかもしれません。
臓器機能が保たれており、PSが良ければ、CBDCA+PEM併用化学療法も一つの選択肢です。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e957732.html
単剤療法であれば、高齢者進行非小細胞肺癌の標準治療はドセタキセル単剤で、その他にビノレルビン単剤、ジェムシタビン単剤も選択肢に挙がります。肺がん診療ガイドラインにも記載されているはずですが、ドセタキセル単剤はビノレルビン単剤に対して優越性を示しています。
既にドセタキセル単剤治療はやった後で、二次治療を考えているということであれば、S-1を考えてもいいと思います。
若年肺がんの世界(これは個人的な見解ですが、非小細胞肺癌患者の年齢中央値が75歳を超え、これからも高齢化が進むことを考えると、75歳以上が多数派、75歳以下が若年肺がんというサブグループと捉えた方がしっくりくるような気がします)では、ドセタキセルは二次治療でラムシルマブと併用されることが多くなっており、S-1やICIとの関係性も相俟って、単剤治療としての意義が薄れつつあるように思います。
そろそろ、75歳以上のpopulationにおける初回治療として、S-1がDOCに置き換わってもいい時代が来ているように思います。
S-1を使用されるのであれば、有害事象発生には他の殺細胞性抗腫瘍薬同様にきちんと目を配ってください。
私が初めてS-1を使用している患者に触れたのは、結核療養所に勤務していた時でした。
胃癌の治療としてS-1を服用していた50代の女性患者が肺結核を合併して、私が担当医として治療しました。
骨髄抑制は、同系列のUFTよりは強く、点滴の殺細胞性抗腫瘍薬よりは弱いという印象です。
こんな人もいました。
cT2bN0M1a(悪性胸水)の肺扁平上皮がんの患者さん。診断当時は80代半ばで、劇的にS-1初回治療が効いたものの、薬剤性肺障害でS-1を中止せざるを得なくなりました。その後も頑張っておられ、最近4th line アテゾリズマブ④コースでPDとなったものの、診断からの全生存期間は1900日を超え、昨年秋には90歳の誕生日を迎えられました。
随分昔に、こんな記事を書いたこともありました。
参考にしてください。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e790212.html
記事並みに長々と書いてしまってスミマセン。
参考にしてください。
他の方の参考になるように、1件の記事にまとめさせていただきます。
コメントありがとうございます。
先生のように、この領域を自分の生業として選び、患者さんとともに歩んでくださる方が、私の備忘録を参考にしてくださって、とても光栄です。
まず、高齢であっても、理解力があり、治療意欲があり、PSがよく、治療中のリスク管理ができる方であれば、積極的に治療を考えて差し上げるべきだと思います。
この方が初回治療という前提で記載します。
文面から、非小細胞肺癌(NOS, not otherwise specified)、EGFRはwild typeではなく、uncommon mutationが認められたということですね。
uncommon mutationの詳細が分かりませんが、少なくともアファチニブやオシメルチニブを試してみる可能性はあると受け止めましたが、いかがでしょうか。
また、ICIを検討すべき局面もあるかも知れませんので、組織検体が残っていればKRAS遺伝子変異やTPSは検索しておいた方がよいかもしれません。
臓器機能が保たれており、PSが良ければ、CBDCA+PEM併用化学療法も一つの選択肢です。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e957732.html
単剤療法であれば、高齢者進行非小細胞肺癌の標準治療はドセタキセル単剤で、その他にビノレルビン単剤、ジェムシタビン単剤も選択肢に挙がります。肺がん診療ガイドラインにも記載されているはずですが、ドセタキセル単剤はビノレルビン単剤に対して優越性を示しています。
既にドセタキセル単剤治療はやった後で、二次治療を考えているということであれば、S-1を考えてもいいと思います。
若年肺がんの世界(これは個人的な見解ですが、非小細胞肺癌患者の年齢中央値が75歳を超え、これからも高齢化が進むことを考えると、75歳以上が多数派、75歳以下が若年肺がんというサブグループと捉えた方がしっくりくるような気がします)では、ドセタキセルは二次治療でラムシルマブと併用されることが多くなっており、S-1やICIとの関係性も相俟って、単剤治療としての意義が薄れつつあるように思います。
そろそろ、75歳以上のpopulationにおける初回治療として、S-1がDOCに置き換わってもいい時代が来ているように思います。
S-1を使用されるのであれば、有害事象発生には他の殺細胞性抗腫瘍薬同様にきちんと目を配ってください。
私が初めてS-1を使用している患者に触れたのは、結核療養所に勤務していた時でした。
胃癌の治療としてS-1を服用していた50代の女性患者が肺結核を合併して、私が担当医として治療しました。
骨髄抑制は、同系列のUFTよりは強く、点滴の殺細胞性抗腫瘍薬よりは弱いという印象です。
こんな人もいました。
cT2bN0M1a(悪性胸水)の肺扁平上皮がんの患者さん。診断当時は80代半ばで、劇的にS-1初回治療が効いたものの、薬剤性肺障害でS-1を中止せざるを得なくなりました。その後も頑張っておられ、最近4th line アテゾリズマブ④コースでPDとなったものの、診断からの全生存期間は1900日を超え、昨年秋には90歳の誕生日を迎えられました。
随分昔に、こんな記事を書いたこともありました。
参考にしてください。
http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e790212.html
記事並みに長々と書いてしまってスミマセン。
参考にしてください。
他の方の参考になるように、1件の記事にまとめさせていただきます。
Posted by tak
at 2020年01月17日 12:20

お忙しい中、私の未熟さゆえの拙い質問に答えて下さり、感謝しかございません。
この患者さんは大変お元気で、痛みもなく、症状は多少の咳のみでPSは1もしくは0かも知れません。
認知機能も問題なく、とにかく余計な薬の服用を嫌がり、必要最小限の薬のみご自分で管理される、大変希少な方です。
治療薬に関しても大変勉強されており、ご自分の命をほんの僅かな希望でも賭けてみようとされ、生きる力、生きようとする凛とした姿に、医師として敬意を表するところです。
担当医として、この患者様が望まれる人生に照らし、治療方針を考え、出来るだけのことは精一杯させて頂きたいと思います。
uncommonはEGFRexon20insです。とある論文ではこの方の詳細な遺伝子検査の結果より、アファチニブの効果はゼロに等しいとありました。
この患者さんは大変お元気で、痛みもなく、症状は多少の咳のみでPSは1もしくは0かも知れません。
認知機能も問題なく、とにかく余計な薬の服用を嫌がり、必要最小限の薬のみご自分で管理される、大変希少な方です。
治療薬に関しても大変勉強されており、ご自分の命をほんの僅かな希望でも賭けてみようとされ、生きる力、生きようとする凛とした姿に、医師として敬意を表するところです。
担当医として、この患者様が望まれる人生に照らし、治療方針を考え、出来るだけのことは精一杯させて頂きたいと思います。
uncommonはEGFRexon20insです。とある論文ではこの方の詳細な遺伝子検査の結果より、アファチニブの効果はゼロに等しいとありました。
Posted by 駆け出し腫瘍内科医 at 2020年01月24日 01:26
字数制限があるようで、すみません
次治療は4thlineです。
血痰の症状が以前にあったことから、ラムシルマブは適用外だと考えて、ドセタキセル単剤を勧めましたが、前回入院中、ドセタキセルを使っている他の患者様の様子をご覧になっておられ、しびれや脱毛などの副作用を恐れ、出来る限り避けたいとのご要望でした。
そこで、チームに相談したところS-1が候補に上がり、この患者様にとってS-1が奏功を導くのか、頭を悩ませておりましたところ、先生の記事の中にS-1が取り上げられたものを見つけ、助けを求めてしまった次第です。
記事にまでしていただき、私の未熟さが大変なお恥ずかしい結果となり、面目次第もございません。
この道を選んだ以上、私の人生をかけて、一生懸命勉強を重ね、決して奢ることなく、がんに苦しむ患者様、ご家族の皆様と真摯に向き合い、時には共に笑い、涙し、がんと上手く共存して寿命を全う出来るよう、微力ながら予後の悪い肺がんと共存出来るようになる社会を作り出す一役を担えたら、私の存在も意味のあるものになるのではと考えております。
長くなってしまい申し訳ございません。
先生のお考えを有り難く参考にさせていただき、今後の治療がより良くなるよう努力して参ります。
ご丁寧なご指導、ありがとうございました。
次治療は4thlineです。
血痰の症状が以前にあったことから、ラムシルマブは適用外だと考えて、ドセタキセル単剤を勧めましたが、前回入院中、ドセタキセルを使っている他の患者様の様子をご覧になっておられ、しびれや脱毛などの副作用を恐れ、出来る限り避けたいとのご要望でした。
そこで、チームに相談したところS-1が候補に上がり、この患者様にとってS-1が奏功を導くのか、頭を悩ませておりましたところ、先生の記事の中にS-1が取り上げられたものを見つけ、助けを求めてしまった次第です。
記事にまでしていただき、私の未熟さが大変なお恥ずかしい結果となり、面目次第もございません。
この道を選んだ以上、私の人生をかけて、一生懸命勉強を重ね、決して奢ることなく、がんに苦しむ患者様、ご家族の皆様と真摯に向き合い、時には共に笑い、涙し、がんと上手く共存して寿命を全う出来るよう、微力ながら予後の悪い肺がんと共存出来るようになる社会を作り出す一役を担えたら、私の存在も意味のあるものになるのではと考えております。
長くなってしまい申し訳ございません。
先生のお考えを有り難く参考にさせていただき、今後の治療がより良くなるよう努力して参ります。
ご丁寧なご指導、ありがとうございました。
Posted by 駆け出し腫瘍内科医 at 2020年01月24日 01:28
駆け出し腫瘍内科医さんへ
ご丁寧なコメント、どうもありがとうございます。
腫瘍内科という職種は、ただでさえ心理的な負担が大きいです。
いまの勢いだとburn outしかねないので、もう少し肩の力を抜いて、ご近所さんの治療をしてあげるんだ、くらいの気楽な、しかし真摯な気持ちで業務に取り組んでいただければと思います。
私は実家から車で5分の職場で仕事をしていますから、程よく肩の力を抜きながら、地元の方に恩返しをするつもりでいつも働いています。
また私でお力になれることがあれば、どうぞご連絡ください。
ご丁寧なコメント、どうもありがとうございます。
腫瘍内科という職種は、ただでさえ心理的な負担が大きいです。
いまの勢いだとburn outしかねないので、もう少し肩の力を抜いて、ご近所さんの治療をしてあげるんだ、くらいの気楽な、しかし真摯な気持ちで業務に取り組んでいただければと思います。
私は実家から車で5分の職場で仕事をしていますから、程よく肩の力を抜きながら、地元の方に恩返しをするつもりでいつも働いています。
また私でお力になれることがあれば、どうぞご連絡ください。
Posted by tak
at 2020年01月24日 19:52
