2021年08月10日
進行肺扁平上皮がんでは、二次治療以降でニボルマブにイピリムマブを上乗せする意義はない
CheckMate-227試験の結果を受けて、PD-L1発現の有無に拠らず進行非小細胞肺がんの初回治療として、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法が標準治療の一つとなった。
今回の第III相臨床試験は、それでは進行肺扁平上皮癌の二次治療以降において、初回治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用しなかった患者ではニボルマブ+イピリムマブ併用療法がニボルマブ単剤療法を凌ぐかどうかを見たものである。
結論は、イピリムマブ上乗せ効果はない、ということで、実地臨床をこれまでと変える必要はない。
それでも探索的検討から、いくつか言えることはある。
1つめは要約で触れられているように、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法で奏効が得られれば、それが長期間持続する可能性が高くなる。
論文のsupplement 3中のe-figure 1を参照すると、奏効が確認されてからの無増悪生存期間は、治療開始から8ヶ月を経過したあたりから明らかにニボルマブ+イピリムマブ併用療法の方が長い。
ただし、奏効する患者の割合は全体の20%にも満たないうえ、どの患者が長期に奏効するかを見分けるすべはない。
2つめは、PD-L1発現<1%の患者集団を見たときに、TMBが10mt/Mb以上か未満かでイピリムマブの上乗せ効果の有無がきれいに分かれることだ。
論文のFigure 3を見る。
ニボルマブ単剤療法ならば、TMBの如何によらず生存期間はあまり変わらない。
一方、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法では、TMB≧10mt/MbとTMB<10mt/Mbで歴然とした差があり、生存期間中央値は前者で約17ヶ月、後者で約6ヶ月である。
PD-L1<1%かつTMB≧10mt/Mbの患者サブグループで解析すると、各群15人ずつと極めて少数での解析ながら、ハザード比0.37、95%信頼区間0.15-0.89、p=0.02と有意にN群よりNI群の方が予後が良かったようだ。
免疫チェックポイント阻害薬が一次治療から積極的に使われるようになったため、二次治療以降でこうしたコンセプトを検証する機会は今後あまりないかもしれないが、一次治療で検証する意義はあるかも知れない。
Nivolumab Plus Ipilimumab vs Nivolumab for Previously Treated Patients With Stage IV Squamous Cell Lung Cancer
The Lung-MAP S1400I Phase 3 Randomized Clinical Trial
Scott N. Gettinger et al., JAMA Oncol. Published online July 15, 2021.
doi:10.1001/jamaoncol.2021.2209
背景:
進行非小細胞肺がんの一次治療において、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法はプラチナ併用化学療法より優れていることが示されている。また、既治療進行非小細胞肺がんの治療において、ニボルマブ単剤療法はドセタキセル単剤療法より優れていることが示されている。
今回は、免疫チェックポイント阻害薬使用歴のない既治療進行肺扁平上皮癌の患者を対象に、ニボルマブにイピリムマブを併用することで生命予後が改善するかどうかを検証することとした。
方法:
The Lung Cancer Master Protocol(Lung-MAP)S1400l第3相オープンラベル無作為化臨床試験は2015年12月18日から2018年08月23日の期間に行われた。ニボルマブ単剤治療群とニボルマブ+イピリムマブ併用療法群に1:1の比率で無作為割り付けされた。生存している患者の追跡期間中央値は29.5ヶ月だった。本試験では、免疫チェックポイント阻害薬治療歴がない進行肺扁平上皮癌で、Zubrodスコアが0(無症状)あるいは1(症状はあるが自立歩行可能)、標準的なプラチナ併用化学療法後に病勢進行に至った患者を対象とした。割り付け調整因子は性別、過去の治療レジメン数(1レジメン vs 2レジメン以上)とした。2018年05月03日から2021年02月01日の間にデータ解析を行った。
治療内容:
ニボルマブ単剤治療群(N群):ニボルマブ3mg/kgを2週間ごとに点滴静注
ニボルマブ+イピリムマブ併用療法群(NI群):ニボルマブ3mg/kgを2週間ごとに点滴静注+イピリムマブ1mg/kgを6週間ごとに点滴静注
N群、NI群いずれも、病勢進行もしくは忍容不能の毒性に見舞われるまで継続とした
評価項目と方法:
主要評価項目は全生存期間(OS)とした。
副次評価項目は担当医評価による無増悪生存期間(IA-PFS)と、RECISTガイドライン第1.1版準拠の奏効割合とした。
結果:
275人が本試験に登録され、252人が適格と判定され、無作為割り付けされた(NI群125人、N群127人)。平均年齢は67.5歳(範囲は41.8歳-90.3歳)、169人(67%)が男性、206人(82%)が白人だった。本試験は、中間解析時点で無効中止となった。OSは両治療群間で有意差を認めなかった(ハザード比0.87、95%信頼区間0.66-1.16、p値0.34)。OS中央値はNI群で10ヶ月(95%信頼区間8.0-14.4)、N群で11ヶ月(95%信頼区間8.6-13.7)だった。IA-PFSのハザード比は0.80(95%信頼区間0.61-1.03、p値0.09)で、IA-PFS中央値はNI群で3.8ヶ月(95%信頼区間2.7-4.4)、N群で2.9ヶ月(95%信頼区間1.8-4.0)だった。奏効割合はNI群で18%(95%信頼区間12-25%)、N群で17%(95%信頼区間10%-23%)だった。奏効持続期間中央値はNI群で28.4ヶ月(95%信頼区間4.9-未到達)、N群で9.7ヶ月(95%信頼区間4.2-23.1)だった。Grade3以上の治療関連有害事象はNI群で124人中49人(39.5%)に、N群では123人中41人(33.3%)に認めた。毒性による治療中止はNI群で124人中31人(25%)に、N群では123人中19人(15%)に認めた。
結論:
今回の第III相臨床試験において、免疫チェックポイント阻害薬による治療歴のない既治療進行肺扁平上皮がん患者では、ニボルマブにイピリムマブを上乗せすることによる予後改善効果は認めなかった。
今回の第III相臨床試験は、それでは進行肺扁平上皮癌の二次治療以降において、初回治療で免疫チェックポイント阻害薬を使用しなかった患者ではニボルマブ+イピリムマブ併用療法がニボルマブ単剤療法を凌ぐかどうかを見たものである。
結論は、イピリムマブ上乗せ効果はない、ということで、実地臨床をこれまでと変える必要はない。
それでも探索的検討から、いくつか言えることはある。
1つめは要約で触れられているように、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法で奏効が得られれば、それが長期間持続する可能性が高くなる。
論文のsupplement 3中のe-figure 1を参照すると、奏効が確認されてからの無増悪生存期間は、治療開始から8ヶ月を経過したあたりから明らかにニボルマブ+イピリムマブ併用療法の方が長い。
ただし、奏効する患者の割合は全体の20%にも満たないうえ、どの患者が長期に奏効するかを見分けるすべはない。
2つめは、PD-L1発現<1%の患者集団を見たときに、TMBが10mt/Mb以上か未満かでイピリムマブの上乗せ効果の有無がきれいに分かれることだ。
論文のFigure 3を見る。
ニボルマブ単剤療法ならば、TMBの如何によらず生存期間はあまり変わらない。
一方、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法では、TMB≧10mt/MbとTMB<10mt/Mbで歴然とした差があり、生存期間中央値は前者で約17ヶ月、後者で約6ヶ月である。
PD-L1<1%かつTMB≧10mt/Mbの患者サブグループで解析すると、各群15人ずつと極めて少数での解析ながら、ハザード比0.37、95%信頼区間0.15-0.89、p=0.02と有意にN群よりNI群の方が予後が良かったようだ。
免疫チェックポイント阻害薬が一次治療から積極的に使われるようになったため、二次治療以降でこうしたコンセプトを検証する機会は今後あまりないかもしれないが、一次治療で検証する意義はあるかも知れない。
Nivolumab Plus Ipilimumab vs Nivolumab for Previously Treated Patients With Stage IV Squamous Cell Lung Cancer
The Lung-MAP S1400I Phase 3 Randomized Clinical Trial
Scott N. Gettinger et al., JAMA Oncol. Published online July 15, 2021.
doi:10.1001/jamaoncol.2021.2209
背景:
進行非小細胞肺がんの一次治療において、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法はプラチナ併用化学療法より優れていることが示されている。また、既治療進行非小細胞肺がんの治療において、ニボルマブ単剤療法はドセタキセル単剤療法より優れていることが示されている。
今回は、免疫チェックポイント阻害薬使用歴のない既治療進行肺扁平上皮癌の患者を対象に、ニボルマブにイピリムマブを併用することで生命予後が改善するかどうかを検証することとした。
方法:
The Lung Cancer Master Protocol(Lung-MAP)S1400l第3相オープンラベル無作為化臨床試験は2015年12月18日から2018年08月23日の期間に行われた。ニボルマブ単剤治療群とニボルマブ+イピリムマブ併用療法群に1:1の比率で無作為割り付けされた。生存している患者の追跡期間中央値は29.5ヶ月だった。本試験では、免疫チェックポイント阻害薬治療歴がない進行肺扁平上皮癌で、Zubrodスコアが0(無症状)あるいは1(症状はあるが自立歩行可能)、標準的なプラチナ併用化学療法後に病勢進行に至った患者を対象とした。割り付け調整因子は性別、過去の治療レジメン数(1レジメン vs 2レジメン以上)とした。2018年05月03日から2021年02月01日の間にデータ解析を行った。
治療内容:
ニボルマブ単剤治療群(N群):ニボルマブ3mg/kgを2週間ごとに点滴静注
ニボルマブ+イピリムマブ併用療法群(NI群):ニボルマブ3mg/kgを2週間ごとに点滴静注+イピリムマブ1mg/kgを6週間ごとに点滴静注
N群、NI群いずれも、病勢進行もしくは忍容不能の毒性に見舞われるまで継続とした
評価項目と方法:
主要評価項目は全生存期間(OS)とした。
副次評価項目は担当医評価による無増悪生存期間(IA-PFS)と、RECISTガイドライン第1.1版準拠の奏効割合とした。
結果:
275人が本試験に登録され、252人が適格と判定され、無作為割り付けされた(NI群125人、N群127人)。平均年齢は67.5歳(範囲は41.8歳-90.3歳)、169人(67%)が男性、206人(82%)が白人だった。本試験は、中間解析時点で無効中止となった。OSは両治療群間で有意差を認めなかった(ハザード比0.87、95%信頼区間0.66-1.16、p値0.34)。OS中央値はNI群で10ヶ月(95%信頼区間8.0-14.4)、N群で11ヶ月(95%信頼区間8.6-13.7)だった。IA-PFSのハザード比は0.80(95%信頼区間0.61-1.03、p値0.09)で、IA-PFS中央値はNI群で3.8ヶ月(95%信頼区間2.7-4.4)、N群で2.9ヶ月(95%信頼区間1.8-4.0)だった。奏効割合はNI群で18%(95%信頼区間12-25%)、N群で17%(95%信頼区間10%-23%)だった。奏効持続期間中央値はNI群で28.4ヶ月(95%信頼区間4.9-未到達)、N群で9.7ヶ月(95%信頼区間4.2-23.1)だった。Grade3以上の治療関連有害事象はNI群で124人中49人(39.5%)に、N群では123人中41人(33.3%)に認めた。毒性による治療中止はNI群で124人中31人(25%)に、N群では123人中19人(15%)に認めた。
結論:
今回の第III相臨床試験において、免疫チェックポイント阻害薬による治療歴のない既治療進行肺扁平上皮がん患者では、ニボルマブにイピリムマブを上乗せすることによる予後改善効果は認めなかった。
血液脳関門とがん薬物療法
根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか
ラムシルマブ+ドセタキセル併用療法と胸水・腹水貯留
ドライバー遺伝子変異陽性患者におけるPACIFICレジメンの有効性
オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか
EGFR/ALK陽性非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法
CheckMate9LA試験 脳転移の有無でサブグループ解析
オシメルチニブによる術前療法・・・NeoADAURAの前哨戦
非小細胞肺がんの周術期治療をどのように考えるか
ビノレルビンにも供給不安
進行非小細胞肺癌二次もしくは三次治療のアムルビシン単剤療法
有害事象による治療中止と、その後の治療再開
ナブパクリタキセル、まさかの供給停止
ラムシルマブ+ドセタキセル併用療法再考
ゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法・・・NEJ009試験の最新データ
日本人の高齢進展型小細胞肺がんの標準治療
肺がん診療におけるステロイド薬の使い方
今更ながら第III相AVAPERL試験のおさらい
PD-L1≧50%の進行non-Sq NSCLC患者で、免疫チェックポイント阻害薬単剤療法は必要かつ十分なのか
PACIFIC試験における5年生存割合は42.9%
根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか
ラムシルマブ+ドセタキセル併用療法と胸水・腹水貯留
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有害事象による治療中止と、その後の治療再開
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