2021年02月03日

EGFR耐性機構としてのRET融合遺伝子出現と、オシメルチニブ+selpercatinib併用療法

 6年ほど前の記事で、EGFR遺伝子変異陽性肺がんにおける治療耐性化後の再生検で、ALK融合遺伝子が検出されたという話題を取り上げた。
 http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e803659.html

 EGFR遺伝子変異耐性機序にALK融合遺伝子がby-pass trackとして関わるという、事実なのだろうがALK融合遺伝子の出現頻度からすれば極端なレアケースなのだと思っていた。
 今回取り上げるのは、EGFR遺伝子変異耐性機序に、ALKよりもさらに頻度が低いRET融合遺伝子が関わることがあるという話題で、さらに驚くべきことに、こうした患者に対してオシメルチニブとselpercatinibを併用するという異次元の内容が展開されている。
 圧倒的多数(91%)がEGFRエクソン19欠失変異の患者だったことは興味深い。
 RECIST ver.1.1準拠で10人中5人が奏効し、奏効割合は50%だったとのこと。
 こうした話題が繰り返し提供され、臨床試験を介して様々な知見が集められるようになれば、これまでとはまた違った意味で再生検が行われるようになるかもしれない。
 血清を用いた解析で網羅的にドライバー遺伝子変異が検索できるようになれば、こうした治療研究は加速度的に進みそうだし、本報告を見ればそれも遠い将来ではなさそうに思われる。
 少なくとも二次変異・耐性変異の観点では、ドライバー遺伝子間の相互排他性にはこだわらない方が良さそうだ。



Combination Osimertinib plus Selpercatinib for EGFR-mutant Non-Small Cell Lung Cancer (NSCLC) with Acquired RET fusions
Julia K Rotow et al., WCLC 2020 #FP14.07

背景:
 selpercatinibは高い選択性と潜在活性を有する、米国食品医薬品局承認済みのRET阻害薬で、RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がんに対して顕著かつ持続的な効果を示した。RET融合遺伝子は、非小細胞肺がんの2%未満の患者で最初に認められるドライバー遺伝子変異だが、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん患者に対してオシメルチニブを含むEGFR阻害薬を使用した際の獲得耐性機序としても同定されている。そのため我々は、オシメルチニブ投与後に病勢進行に至った患者を対象に、オシメルチニブとselpercatinib併用療法の安全性と有効性について評価した。

方法:
 selpercatinibとオシメルチニブを併用した患者は、3種類の未承認薬人道的使用(コンパッショネート・ユース)プログラムに基づいて使用した。これらの患者ではすべて、オシメルチニブ投与後に病勢進行に至ったのちの生検組織もしくは血清からRET融合遺伝子が同定されたEGFR陽性進行非小細胞肺癌患者だった。臨床病理学的データと臨床経過データを後方視的に調査した。

結果:
 12人の患者が同定され、11人(92%)はEGFR exon 19欠失変異患者で、1人はEGFR exon 21 L858R点突然変異の患者だった。検出されたRET融合遺伝子の頻度は、CCDC6-RETが5人(42%)で、続いてNCOA4-RETが3人(33%)、KIF5B-RETが2人(17%)、RUFY2-RETが1人(8%)だった。全ての患者は過去にオシメルチニブ使用歴があり、7人(58%)の患者では第1世代、第2世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の投与も受けていた。ほとんどの患者(92%)はselpercatinib 80mgを1日2回で服用し、患者によっては100mgを1日1回から120mgを1日2回まで幅があった。オシメルチニブは患者の75%が1日80mgで服用し、患者によっては40mg1日1回から80mgを1日2回まで幅があった。12人中10人の患者ではRECIST 1.1に準拠した治療効果判定が可能だった。5人(50%)が奏効を示した。ある1人の患者では、治療開始前の段階で測定可能病変がなかったのだが、画像診断上の改善傾向が8.2ヶ月にわたって続いている。もう1人の測定可能病変のない患者は、経口内服が困難となるような治療と関連のない症状が発生し、再評価前に治療を中断した。今回対象となった12人全員におけるオシメルチニブとselpercatinib併用療法の治療継続期間中央値は7.4ヶ月(0.6-16.7ヶ月以上)だった。RECIST基準で奏効と判断された患者においては、治療継続期間中央値は11.0ヶ月(7.4-16.7ヶ月以上)だった。7人は病勢進行により、1人は毒性(grade2の肺臓炎)により、1人は経口内服継続困難により、治療が中止された。3人の患者はデータカットオフ時点でも治療を継続していた。治療効果が10ヶ月持続した患者1人について、耐性化した時点で血清を用いたドライバー遺伝子変異シーケンス解析を行ったところ、EGFRエクソン19欠失変異とRET融合遺伝子は保持されており、さらにはそれぞれのドライバー遺伝子変異の二次耐性化変異であるEGFR C797S変異とRET G810S変異が新規に出現しており、EGFR遺伝子変異陽性肺がんの獲得耐性変異としてのRET融合遺伝子発生をさらに裏付ける結果となった。

結論:
 EGFR遺伝子変異陽性肺がんで、EGFR阻害薬への獲得耐性としてRET融合遺伝子を有する患者に対し、オシメルチニブに加えてselpercatinibを加える治療は忍容性がよく、画像上の縮小効果と持続的な有効性が認められた。これらの所見は本併用療法を将来さらに研究するにための後押しとなり、第II相ORCHARD基盤研究における1治療群として前向きに臨床試験が行われる予定である。分子標的薬同士の積極的な併用療法戦略は、非小細胞肺がんにおけるEGFRチロシンキナーゼ初回投与後の再発時に、どのような遺伝子メカニズムが背景にあるかを評価する必要性に光を当てている。


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