2021年02月02日
RET陽性肺がんの臨床的特徴と治療反応性 シンガポール国立がんセンターの報告から
こちらもWCLC2020より。
奏効割合や奏功持続期間といった、腫瘍縮小効果に関わる結果報告が多い中で、検査手法の妥当性や各治療の反応性に関するデータが盛り込まれており、今現在治療を受けているRET肺がん患者にとっては参考になるのではないだろうか。
免疫チェックポイント阻害薬も、マルチキナーゼ阻害薬も、治療効果はあまり期待できないようである。
とりあえず、プラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法は実地臨床として外せない。
Molecular Characterisation and Clinical Outcomes in RET Rearranged Non-Small Cell Lung Cancer (NSCLC)
Aaron C Tan et al., WCLC 2020 #FP14.13
背景:
RET融合遺伝子は非小細胞肺がん患者の1-2%で認められる、治療標的となり得るドライバー融合遺伝子として研究が進んできた。selpercatinibやpraseltinibといった、有望な選択的RETチロシンキナーゼ阻害薬の早期臨床試験結果が報告されつつある。しかしながら、RET肺がんの自然史や既存の薬物療法の有効性については未知の部分が多い。さらには、RET融合遺伝子の検出は標準診療としては未だ根付いておらず、最適な検査手法ははっきりしていない。今回は、RET融合遺伝子を検出するにあたってのFISH法と次世代シーケンサー法を比較対照し、臨床的アウトカムとの関連性について解析した。
方法:
シンガポール国立がんセンターで2014年4月から2020年3月にかけて診断・治療されたRET遺伝子再構成陽性非小細胞肺がん患者を対象とした。早期に診断、根治切除された患者1人の切除標本を用いて、複数部位の腫瘍サンプルを用いた全エクソンシーケンス(multi-region WES)を行った。患者背景と治療アウトカムを抽出した。追跡期間中央値は20.3ヶ月だった。
結果:
総計64人の患者を解析対象とした。年齢中央値は62歳(範囲は25-85歳)、56%は女性、77%は漢民族、95%は腺がん、69%は非喫煙者だった。RET遺伝子再構成はFISH解析で34人中30人(88%)陽性、次世代シーケンサー解析で43人中40人(93%)陽性で、両方の検査を行った患者での結果の不一致は13人中7人(54%)で認められた。tumor mutation burden(TMB)を17人の患者で解析したところ、中央値は5.4変異/メガベース(Mb)で、TMB高値(>10変異/Mb)だったのは2人であり、いずれもFISH陽性、次世代シーケンサー陰性の患者だった。融合遺伝子パートナーはKIF5Bが62.5%、CCDC6が30%、CNTNAP2が2.5%、KIF5BとCCDC共存が2.5%、KIF5BとTHOC2共存が2.5%だった。PD-L1発現は0%だった患者が6%、1-49%だった患者が23%、50%以上だったのが18%、不明だったのが52%だった。multi-region WESを行った患者では、腫瘍標本の4ヶ所からサンプルを採取し、TMB中央値は1.6変異/Mbと低値で、4ヶ所の中でも結果に大きなバラつきが見られた(pITH 0.66)。EGFR遺伝子変異の共存は8人(13%)で認められたが、こうした患者のうち次世代シーケンサー解析でRET遺伝子再構成陽性と診断された患者では、uncommon EGFR遺伝子変異のみが認められた。61人のIIIB / IV期もしくは術後再発患者において、中枢神経系への転移を有する患者は31%を占め、92%は薬物療法を受けていた。62%はプラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法を、28%は免疫チェックポイント阻害薬±化学療法を、23%はマルチキナーゼ阻害薬を、57%は選択的RETチロシンキナーゼ阻害薬を使用していた。化学療法の無増悪生存期間中央値は7.7ヶ月、奏効割合は54%、免疫チェックポイント阻害薬の無増悪生存期間は3.7ヶ月、奏効割合は29%、マルチキナーゼ阻害薬の無増悪生存期間は3.3ヶ月、奏効割合は15%だった。免疫チェックポイント阻害薬は、化学療法と併用した場合のみに腫瘍縮小効果が見られた。選択的RETチロシンキナーゼ阻害薬を使用した患者では、使用しない患者と比較して全生存期間が延長しており、中央値は49.3ヶ月 vs 15.3ヶ月、ハザード比0.16、95%信頼区間は0.06-0.40、p<0.0001だった。免疫チェックポイント阻害薬を使用した患者と使用しなかった患者では、統計学的な有意差は認めず(どちらかというと免疫チェックポイント阻害薬を使用した方が全生存期間が短縮している)、中央値は37.7ヶ月 vs 49.3ヶ月、ハザード比1.30、95%信頼区間は0.53-3.19、p=0.53だった。全生存期間はCCDC6-RET患者の方がKIF5B-RET患者よりも延長しており、中央値は113.5ヶ月 vs 37.7ヶ月、ハザード比0.12、95%信頼区間は0.04-0.38、p=0.009だった。
結論:
RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がんにおいては、選択的RETチロシンキナーゼ阻害薬による治療が生存期間延長に寄与しており、とりわけCCDC6-RET陽性肺がんでその傾向が強かった。免疫チェックポイント阻害薬は効果が乏しく、TMB低値やPD-L1低発現を反映しているものと思われた。次世代シーケンサー解析とFISH解析に結果の不一致が認められた(どちらかというと、次世代シーケンサー解析の方が、RET肺がん患者の臨床背景を忠実に反映していると考えられた)。
奏効割合や奏功持続期間といった、腫瘍縮小効果に関わる結果報告が多い中で、検査手法の妥当性や各治療の反応性に関するデータが盛り込まれており、今現在治療を受けているRET肺がん患者にとっては参考になるのではないだろうか。
免疫チェックポイント阻害薬も、マルチキナーゼ阻害薬も、治療効果はあまり期待できないようである。
とりあえず、プラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法は実地臨床として外せない。
Molecular Characterisation and Clinical Outcomes in RET Rearranged Non-Small Cell Lung Cancer (NSCLC)
Aaron C Tan et al., WCLC 2020 #FP14.13
背景:
RET融合遺伝子は非小細胞肺がん患者の1-2%で認められる、治療標的となり得るドライバー融合遺伝子として研究が進んできた。selpercatinibやpraseltinibといった、有望な選択的RETチロシンキナーゼ阻害薬の早期臨床試験結果が報告されつつある。しかしながら、RET肺がんの自然史や既存の薬物療法の有効性については未知の部分が多い。さらには、RET融合遺伝子の検出は標準診療としては未だ根付いておらず、最適な検査手法ははっきりしていない。今回は、RET融合遺伝子を検出するにあたってのFISH法と次世代シーケンサー法を比較対照し、臨床的アウトカムとの関連性について解析した。
方法:
シンガポール国立がんセンターで2014年4月から2020年3月にかけて診断・治療されたRET遺伝子再構成陽性非小細胞肺がん患者を対象とした。早期に診断、根治切除された患者1人の切除標本を用いて、複数部位の腫瘍サンプルを用いた全エクソンシーケンス(multi-region WES)を行った。患者背景と治療アウトカムを抽出した。追跡期間中央値は20.3ヶ月だった。
結果:
総計64人の患者を解析対象とした。年齢中央値は62歳(範囲は25-85歳)、56%は女性、77%は漢民族、95%は腺がん、69%は非喫煙者だった。RET遺伝子再構成はFISH解析で34人中30人(88%)陽性、次世代シーケンサー解析で43人中40人(93%)陽性で、両方の検査を行った患者での結果の不一致は13人中7人(54%)で認められた。tumor mutation burden(TMB)を17人の患者で解析したところ、中央値は5.4変異/メガベース(Mb)で、TMB高値(>10変異/Mb)だったのは2人であり、いずれもFISH陽性、次世代シーケンサー陰性の患者だった。融合遺伝子パートナーはKIF5Bが62.5%、CCDC6が30%、CNTNAP2が2.5%、KIF5BとCCDC共存が2.5%、KIF5BとTHOC2共存が2.5%だった。PD-L1発現は0%だった患者が6%、1-49%だった患者が23%、50%以上だったのが18%、不明だったのが52%だった。multi-region WESを行った患者では、腫瘍標本の4ヶ所からサンプルを採取し、TMB中央値は1.6変異/Mbと低値で、4ヶ所の中でも結果に大きなバラつきが見られた(pITH 0.66)。EGFR遺伝子変異の共存は8人(13%)で認められたが、こうした患者のうち次世代シーケンサー解析でRET遺伝子再構成陽性と診断された患者では、uncommon EGFR遺伝子変異のみが認められた。61人のIIIB / IV期もしくは術後再発患者において、中枢神経系への転移を有する患者は31%を占め、92%は薬物療法を受けていた。62%はプラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法を、28%は免疫チェックポイント阻害薬±化学療法を、23%はマルチキナーゼ阻害薬を、57%は選択的RETチロシンキナーゼ阻害薬を使用していた。化学療法の無増悪生存期間中央値は7.7ヶ月、奏効割合は54%、免疫チェックポイント阻害薬の無増悪生存期間は3.7ヶ月、奏効割合は29%、マルチキナーゼ阻害薬の無増悪生存期間は3.3ヶ月、奏効割合は15%だった。免疫チェックポイント阻害薬は、化学療法と併用した場合のみに腫瘍縮小効果が見られた。選択的RETチロシンキナーゼ阻害薬を使用した患者では、使用しない患者と比較して全生存期間が延長しており、中央値は49.3ヶ月 vs 15.3ヶ月、ハザード比0.16、95%信頼区間は0.06-0.40、p<0.0001だった。免疫チェックポイント阻害薬を使用した患者と使用しなかった患者では、統計学的な有意差は認めず(どちらかというと免疫チェックポイント阻害薬を使用した方が全生存期間が短縮している)、中央値は37.7ヶ月 vs 49.3ヶ月、ハザード比1.30、95%信頼区間は0.53-3.19、p=0.53だった。全生存期間はCCDC6-RET患者の方がKIF5B-RET患者よりも延長しており、中央値は113.5ヶ月 vs 37.7ヶ月、ハザード比0.12、95%信頼区間は0.04-0.38、p=0.009だった。
結論:
RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がんにおいては、選択的RETチロシンキナーゼ阻害薬による治療が生存期間延長に寄与しており、とりわけCCDC6-RET陽性肺がんでその傾向が強かった。免疫チェックポイント阻害薬は効果が乏しく、TMB低値やPD-L1低発現を反映しているものと思われた。次世代シーケンサー解析とFISH解析に結果の不一致が認められた(どちらかというと、次世代シーケンサー解析の方が、RET肺がん患者の臨床背景を忠実に反映していると考えられた)。
セルペルカチニブ、上市
CLIP1-LTK融合遺伝子の発見・・・LC-SCRUM Asiaから
セルペルカチニブ、2021年12月13日発売予定
セルペルカチニブと過敏症
根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか
脳転移を有する患者集団に対しても、免疫チェックポイント阻害薬は有効なのか
第4世代ALK阻害薬・・・TPX-0131とNVL-655
セルペルカチニブ、製造販売承認
ドライバー遺伝子変異陽性患者におけるPACIFICレジメンの有効性
HER2遺伝子変異陽性肺がんに対するtrastuzumab deruxtecan
オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか
EGFR/ALK陽性非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法
ドライバー遺伝子異常検出におけるジレンマとmultiplex PCR
中国人患者におけるRET阻害薬(Selpercatinib, Pralsetinib)の有効性
オシメルチニブによる術前療法・・・NeoADAURAの前哨戦
BRAF遺伝子変異と縁がない
RET阻害薬、セルペルカチニブがやってくる
進行が速い進行肺腺がんに遭遇したらどう振る舞うか
ARROW試験のupdated data...RET肺がんとpralsetinib
EGFRエクソン20挿入変異に対するAmivantamab
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オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか
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