2021年01月06日

学会報告0004:術前診断のついていなかった小細胞肺がん手術例のまとめ

 肺小細胞癌の治療の柱は放射線治療と薬物療法とされるが、手術で治療される患者も稀ながら存在する。
 術前診断困難な小さな肺がんを切除してみたら、たまたま小細胞癌だったというパターンである。
 昨年の学会で、興味深い報告があったので取り上げる。
 私は肺がん疑い患者の初診時は、CEA、CYFRA、proGRPを腫瘍マーカーとして測定しているが、この報告には勇気づけられた。
 根治的切除を目指した、すなわち比較的早期の肺がん患者において、小細胞肺癌であればその半数で術前proGRPが高値であり、小細胞肺癌でなければ98%はproGRPが正常だったということだ。
 また、術中迅速診断と最終診断の一致率がわずか14%だったというのも興味深い。
 小細胞癌か非小細胞癌かで、術後薬物療法の方針が大きく異なるため、きちんと最終診断の組織型を確認しなければ足元をすくわれることになる。

<学会報告0004>
 出典:2020年 日本肺癌学会支部会 / 日本呼吸器内視鏡学会支部会
・確定診断未決の肺結節に対して手術を行い、病理学的に小細胞がんと診断された患者を後方視的に検討した
・約10年間で、該当する患者は14人に上った
・術前のCTでは、全て充実性結節の所見だった
・肺葉切除7人、部分切除1人、試験開胸6人
・術中迅速診断と最終診断が一致したのは、14人中わずか2人だけだった
・同じ期間内に、根治的切除を目指して手術を行った原発性肺癌患者のうち、術前にproGRPを測定した189人についても検討した
・189人中、非小細胞肺癌は179人、小細胞肺癌は10人だった
・proGRPによる小細胞肺癌の検出精度は、感度(小細胞肺癌患者のうち、proGRP高値だった患者の割合)50.0%、特異度(小細胞肺癌でなかった患者のうち、proGRP正常だった患者の割合)97.8%だった


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Posted by tak at 22:13│Comments(3)検査法手術
この記事へのコメント
新年あけましておめでとうございます。

つい最近、私も1期小細胞肺癌術後症例に遭遇しました。化学療法を終えた後に問題となったのは予防的全脳照射の是非であり、60歳台と若く患者自身の希望も強かったので、cancer boardで協議の上で実施することとなりました。稀な病態であり悩ましいところです。

今年もよろしくお願いします。
Posted by とある放射線治療医 at 2021年01月22日 21:42
とある放射線治療医さんへ

 コメントありがとうございます。おっしゃる通り、I期小細胞肺がん、根治切除、術後化学療法の後の全脳照射となると、エビデンスのない世界です。とはいえ、事実上は限局型小細胞がんに準じて根治を目指した治療をするべきでしょうから、予防的全脳照射は理にかなっています。晩期合併症として認知機能低下が出ないように祈るばかりです。
Posted by taktak at 2021年01月23日 17:59
お返事ありがとうございます。

仰る通り、海馬回避の全脳照射で合併症が出ないことを期待しています。
Posted by とある放射線治療医 at 2021年01月24日 00:02
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