2016年07月02日

経気管支肺生検とROSE(rapid on-site evaluation)

 ROSEの取り組みについて発表されていたので取り上げます。
 学会から帰る間際、時間に追われながら拝聴したので内容が一部食い違っているかもしれませんが、ご容赦ください。
 

第39回日本呼吸器内視鏡学会総会
#O19-3

・既報を見ると、呼吸器内科医による気管支鏡時検査中迅速細胞診は、感度はいいが特異度に難があるとされている。
・2014年4月から2015年5月の間に肺癌診断目的で気管支鏡を行った患者を対象に後方視的調査
・病巣最大径30mm未満のものを対象とした
・病理医の診断をgolden standardとした
・呼吸器内科医(具体的には桐田先生ご自身で、東病院で約半年間病理部門で研修を受けたとのこと、ちなみに私は9か月間病理部門にお世話になりました)による検査中迅速細胞診(ROSE)を行った群(R群)と行わなかった群(non-R群)に分けて解析した

 経気管支肺生検の際、以下のシェーマに示すような流れでROSEを組み込んでいるそうです。
経気管支肺生検とROSE(rapid on-site evaluation)
・総患者数は172人、R群90人、non-R群82人
・その他の比較結果は以下の通り
経気管支肺生検とROSE(rapid on-site evaluation)
・R群の方が正診率が高かったが、統計学的有意差には至らなかった
・EBUSでadjacent toで描出された場合、R群の方が正診率が高かった(統計学的な有意差があるかどうかは不明)
・検査時間、生検・ブラシ回数、合併症に大きな差は見られなかった
・R群90人について、ROSEと病理医による診断を比較すると、感度89%、特異度94%、陽性的中率98%、陰性的中率67%だった
→ROSEで所見なしと判定しても、そのうち1/3は病理診断可能な試料である・・・ということは、ROSE陰性でも試料は提出すべきだということですね
経気管支肺生検とROSE(rapid on-site evaluation)
 さらに細かく、ROSEで「非癌」と判定されたものも組み込むと、
経気管支肺生検とROSE(rapid on-site evaluation)
だったようです。

 最後に引用されていた、気管支鏡下縦隔リンパ節生検の際にROSEを行った際の前向き臨床試験結果についての論文を引用します。これを読む限り、トレーニングを受けた呼吸器内科医でも細胞診技師の所見に比べると、正診率に10%を超える開きがあり、呼吸器内科医によるROSEの限界を踏まえた上で取り組む必要がありそうです。



The role of the pulmonologist in rapid on-site cytologic evaluation of transbronchial needle aspiration: a prospective study.
Bonifazi M et al, Chest. 2014 Jan;145(1):60-5

背景:
 細胞診検体を用いたROSEは肺病変もしくは縦隔病変の穿刺吸引検査時の補助診断法として有用である。しかし、ROSEは時間や担い手の不足により、一般に普及しているとは言いがたい。今回の目的は、呼吸器内科医が細胞診のトレーニングを受け、肺門・縦隔リンパ節吸引細胞診検体をROSEで評価した際に、認定細胞診技師の所見とどの程度一致するかを見ることとした。副次評価項目として、各検査者のROSE判定結果が、最終病理診断と一致するかどうかをみることとした。

方法:
 細胞診技師による所見をゴールド・スタンダードとして、呼吸器内科医と細胞診技師が個別にROSEを行い、所見を5段階に分類した。両者の所見の相同性をk統計値で評価した。最終病理診断は、標準的な細胞診評価基準で行った。

結果:
 84人の患者から362検体を採取し、評価した。呼吸器内科医と細胞診技師の所見の一致率は81%(k値は0.73、95%信頼区間は0.61-0.86, p=0.001)で、これは悪性病変でより一致率が高かった(k値は0.81, 95%信頼区間は0.70-0.90, p=0.001)。呼吸器内科医によるROSEの正診率(80%, 95%信頼区間は77-90%)は、細胞診技師の正診率(92%, 95%信頼区間は85-94%)と比較して、統計学的な差がなかった。

結論:
 今回の検討により、トレーニングを積んだ呼吸器内科医はROSEにより適切な検体が採取されているかどうか評価可能であることがわかった。呼吸器内科医が細胞診のトレーニングを受けてその基礎知識を身につけることにより、細胞診技師の日常業務の負荷軽減につながり、最終的には検査手技の負担軽減にすらつながるかもしれない。



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Posted by tak at 08:25│Comments(0)検査法
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