2021年06月24日

G-CSF以外の骨髄抑制制御薬・・・trilaciclib

 進展型小細胞肺がん治療時の骨髄抑制制御薬であるtrilaciclibのお話。
 化学療法に先立って投与することで、白血球/好中球減少のみならず、貧血も抑えてくれるということ。
 エリスロポイエチン誘導体を使って貧血を抑える試みは過去いくつかの臨床試験が行われ、結局生存期間を短縮してしまうということで開発が止まっている。
 それを受けて、G-CSF製剤も実は生存期間を短縮するのではないかという都市伝説が、一部で聞こえてきたりする。
 trilaciclibはエリスロポイエチン誘導体、G-CSF製剤の両方の役割をある程度担ってくれる薬のようだが、有害事象に関する記載が不自然なくらいに強調されていた。
 果たして、全生存期間に対してはどんな作用を及ぼしているのだろう。
 そして、peg-G-CSF製剤に続くこの領域の支持療法薬として、我が国にも導入される日が来るのだろうか?




Trilaciclib to Reduce Chemotherapy-Induced Bone Marrow Suppression in Extensive-Stage Small Cell Lung Cancer

The ASCO Post
By Matthew Stenger
Posted: 6/16/2021 12:53:00 PM
Last Updated: 6/16/2021 1:52:46 PM

 2021年2月21日、進展型小細胞肺がん患者に対するプラチナ製剤およびエトポシドを含む化学療法か、あるいはトポテカンを含む化学療法施行時の骨髄抑制を低減する適用条件で、サイクリン依存型キナーゼ4/6(CDK4/6)阻害薬のtrilaciclibが米国食品医薬品局に承認された。
 本承認は3件の二重盲検プラセボ対照臨床試験(G1T28-05試験、G1T28-02試験およびG1T28-03試験)結果に基づいている。これら3件の臨床試験では、化学療法①コース目における顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の予防投与や赤血球造血刺激薬の使用は禁じられていた。②コース目以降は適応があればこれら治療は施行可能とされ、治療目的のG-CSF投与、赤血球輸血、血小板輸血も適応があれば臨床試験期間中いつでも施行可能とされた。

 GIT28-05試験では、治療歴のない進展型小細胞肺がん患者107人を対象に、trilaciclib群(54人)あるいはプラセボ群(53人)に割り付けた。全ての患者でエトポシド+カルボプラチン+アテゾリズマブ併用療法を21日間隔で最大④コース施行し、trilaciclib群では化学療法に先立ってtrilaciclib 240mg/㎡を1-3日目に、プラセボ群では同様にプラセボを1-3日目に経静脈投与した。主要評価項目の解析において、trilaciclib群は治療①コース目における重篤な好中球減少症の平均持続期間を短縮し(0日間 vs 4日間、p<0.0001)、重篤な好中球減少症を来す患者の割合も減少させた(2% vs 49%、p<0.0001)。化学療法薬の減量を必要とする有害事象全体に占める好中球減少症の割合は、triraciclib群で0.021、プラセボ群で0.085だった。治療開始から5週間以上経過した段階で、赤血球輸血を必要とした患者の割合はtrilaciclib群で13.0%、プラセボ群で20.8%であり、同様にG-CSF投与を必要とした割合はtrilaciclib群で29.6%、プラセボ群で47.2%だった。

 GIT28-02試験では、治療歴のない進展型小細胞肺がん患者77人を対象に、trilaciclib群(39人)あるいはプラセボ群(38人)に割り付けた。全ての患者はエトポシド+カルボプラチン併用療法を21日間隔で病勢進行もしくは忍容不能の有害事象発現まで継続し、trilaciclib群では化学療法に先立ってtrilaciclib 240mg/㎡を1-3日目に、プラセボ群では同様にプラセボを1-3日目に経静脈投与した。治療①コース目における重篤な好中球減少症の平均持続期間はtrilaciclib群0.5日間、プラセボ群3日間で、重篤な好中球減少症を来す患者の割合はtrilaciclib群5.1%、プラセボ群42.1%だった。化学療法薬の減量を必要とする有害事象全体に占める好中球減少症の割合は、triraciclib群で0.0022、プラセボ群で0.084だった。治療開始から5週間以上経過した段階で、赤血球輸血を必要とした患者の割合はtrilaciclib群で5.1%、プラセボ群で23.7%であり、同様にG-CSF投与を必要とした割合はtrilaciclib群で10.3%、プラセボ群で63.2%だった。

 GIT28-03試験では、既治療の進展型小細胞肺がん患者61人を対象に、trilaciclib群(32人)あるいはプラセボ群(29人)に割り付けた。全ての患者はトポテカン単剤療法を21日間隔で病勢進行もしくは忍容不能の有害事象発現まで継続し、trilaciclib群では化学療法に先立ってtrilaciclib 240mg/㎡を1-5日目に、プラセボ群では同様にプラセボを1-5日目に経静脈投与した。治療①コース目における重篤な好中球減少症の平均持続期間はtrilaciclib群2日間、プラセボ群7日間で、重篤な好中球減少症を来す患者の割合はtrilaciclib群40.6%、プラセボ群75.9%だった。化学療法薬の減量を必要とする有害事象全体に占める好中球減少症の割合は、triraciclib群で0.051、プラセボ群で0.116だった。

 trilaciclibは一過性のCDK4/6阻害薬である。骨髄中の造血幹細胞ないし造血前駆細胞は、準間欠中の好中球、赤血球、血小板を増加させる。造血幹細胞及び造血前駆細胞の増殖は、CDK4/6活性に依存している。
 trilaciclibの推奨容量は1回240mg/㎡であり、化学療法薬投与に先立つこと4時間以内に、30分かけて点滴投与することとされている。trilaciclibを中止する場合には、trilaciclib最終投与から96時間経過するまでは化学療法を再開するべきではないとされている。

G1T28-05試験、G1T28-02試験およびG1T28-03試験を統合解析し、trilaciclib群122人、プラセボ群118人から安全性に関するデータを抽出した。trilaciclib群の71%、プラセボ群の78%が少なくとも④コースの治療を完遂した。各群の治療コース中央値はいずれも④コースだった。

 trilaciclib群の患者の10%以上で発生し、かつプラセボ群よりも2%以上発現割合が高かった全グレードの有害事象は、倦怠感(34% vs 27%)、低カルシウム血症(24% vs 21%)、低カリウム血症(22% vs 18%)、低リン酸血症(21% vs 16%)、AST上昇(17% vs 14%)、頭痛(13% vs 9%)、肺炎(10% vs 8%)だった。頻度の高かったGrade 3-4の有害事象は、肺炎(7% vs 7%)、低リン酸血症(7% vs 2%)、低カリウム血症(6% vs 3%)だった。Grade 3-4の骨髄抑制は、好中球減少(32% vs 69%)、発熱性好中球減少(3% vs 9%)、貧血(16% vs 34%)、血小板減少(18% vs 33%)、白血球減少(4% vs 17%)、リンパ球減少(<1% vs <1%)だった。

 深刻な有害事象はtrilaciclib群の患者の30%で認められ、これらのうち3%以上を呼吸不全、出血、血栓塞栓症が占めていた。有害事象により点滴を中断した事例は4%発生した。trilaciclib群の9%では有害事象によりプロトコール治療の中断を余儀なくされたが、原因は肺炎(2%)、無力症、注射部位の局所反応、血小板減少症、心血管イベント、脳梗塞、インフュージョンリアクション、呼吸不全、筋炎(それぞれ1%未満)だった。5%の患者は致死的な有害事象を来しており、原因は肺炎(2%)、呼吸不全(2%)、急性呼吸不全(<1%)、喀血(<1%)、脳血管イベント(<1%)だった。


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