2021年06月20日

PACIFIC試験における5年生存割合は42.9%

 いよいよPACIFIC試験の5年生存割合データが出てきた。
 デュルバルマブを使用していない患者の5年生存割合33.4%も十分立派な数字だと思うが、デュルバルマブを使用するとこれが42.9%にまで跳ね上がる。
 ここまでくると、もはやIII期の患者に手術をする、という選択はしにくくなる。
 術前治療や術後治療で42.9%よりも高い5年生存割合をたたき出さないと、手術の意義は乏しいと言わざるを得ない。



Five-year survival outcomes with durvalumab after chemoradiotherapy in unresectable stage III NSCLC: An update from the PACIFIC trial.

David R. Spigel et al., 2021 ASCO Annual Meeting, abst.#8511

背景:
 プラチナ併用化学療法+同時併用根治的胸部放射線療法後に病勢進行を認めなかった切除不能III期非小細胞肺がん患者を対象としたプラセボ対照第III相PACIFIC試験において、デュルバルマブは全生存期間(OS、層別化ハザード比0.68、95%信頼区間0.53-0.87、p=0.0025、データカットオフは2018年03月22日)および無増悪生存期間(PFS、層別化ハザード比0.52、95%信頼区間0.42-0.65、p<0.0001、データカットオフ2017年02月13日)ともに改善し、その後のデータ更新でも同様の有用性が維持されていた。デュルバルマブによる有害事象は管理可能であり、患者本人申告によるQoL調査でも、プラセボに対して有害な影響は見られなかった。こうした発見により、化学放射線療法後のデュルバルマブ地固め療法(PACIFICレジメン)は本試験参加者のような患者集団にとっての標準治療となった。今回は、最後の参加者が登録されてから約5年間経過したため、OSとPFSについて探索的な解析を行った。

方法:
 WHO-PS 0/1(PD-L1発現状態は問わない)で、同時併用化学放射線療法(少なくとも2コース以上は併用)の後に病勢進行に至らなかった適格患者を対象として、2:1の割合でデュルバルマブ(D)群とプラセボ(P)群に割り付けた。同時併用化学放射線療法(根治的胸部放射線照射として、典型的には計60-66Gyを30-33回で分割投与)終了後1-42日の間に、D群ではデュルバルマブを10mg/kgで2週間ごとに12ヶ月間投与し、P群ではプラセボを同様に投与した。層別化因子は年齢(65歳未満 vs 65歳以上)、性別、喫煙歴(喫煙経験者 vs 非喫煙経験者)とした。主要評価項目はIntent-to-treat(ITT)解析による全生存期間及び無増悪生存期間(RECIST vsr.1.1準拠で、独立判定委員会による)とした。ハザード比と95%信頼区間はITT集団における層別化ログランク検定により算出した。60ヶ月経過時点での全生存期間および無増悪生存期間の中央値は、カプランマイヤー法で算出した。

結果:
 全体で713人の患者が無作為割付を受け、そのうち709人がプロトコール治療を受けた。D群に割り付けられたのが476人、うちプロトコール治療を受けたのが473人、P群に割り付けられたのが237人、うちプロトコール治療を受けたのが236人だった。参加した患者のうち最後の1人がプロトコール治療を完遂したのが2017年05月だった。2021年1月11日までの段階で(全患者の追跡期間中央値は34.2ヶ月で、範囲は0.2-74.7ヶ月)、t全生存期間(中央値はD群47.5ヶ月、P群29.1ヶ月、ハザード比0.72、95%信頼区間0.59-0.89)、無増悪生存期間(中央値はD群16.9ヶ月、P群5.6ヶ月、95%信頼区間0.45-0.68、ハザード比0.55)と、当初の解析時点と同様にD群がOS、PFSを有意に延長するという傾向を維持していた。5年生存割合はD群42.9%、P群33.4%、5年無再発生存割合はD群33.1%、P群19.0%だった。

結論:
 PACIFIC試験の5年間追跡調査結果から、今回の生存期間解析の最新データはPACIFICレジメンの全生存期間、無増悪生存期間延長効果を実証した。D群の42.9%が5年後も生きていると見積もられており、5年経過後も約1/3の患者は病勢進行なく生存している。


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この記事へのコメント
5年生存を見たときは驚きましたが、割付が診断時ではなくてCRT後にnonPDであった症例が対象と知り、PACIFIC-2試験の結果を見るまで外科的治療の意義を議論できないと思っています。放射線治療分野的には、照射法を如何にするかが話題になっており、AZ社からは照射技法アップデートに関する話題が多く届くようになりました。
Posted by とある放射線治療医 at 2021年06月25日 10:55
とある放射線治療医さんへ

 コメントありがとうございます。各種薬物療法における維持療法と同様で、初期治療の段階で少なくとも病勢進行していない、という前提があること、そのpositive selectionが臨床試験のフローに組み込まれているがために、もともと予後良好の患者だけを見てしまっているのではないかというご懸念はその通りだと思います。PACIFIC試験の結果を受けて、局所進行非小細胞肺がんの治療戦略をどのように組み立てるかという議論は盛り上がりを見せているようで、良い傾向です。治療戦略としては、現在の化学療法、免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療の組み合わせに、どこかで根治切除術を入れ込んでいくことも考えられます。以下の記事にあるように、術前免疫チェックポイント阻害薬投与→根治切除の報告が相次いでおり、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法、放射線療法、あるいは手術との相性の良さを考えると、今後さらに深化していくだろうと予想されます。
・http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e987834.html
・http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e987857.html
・http://oitahaiganpractice.junglekouen.com/e987858.html
 
 デュルバルマブをよりupfrontに持ってきたPACIFIC2試験、有効性と毒性のバランスがうまくとれるかどうか、興味深いところですね。
https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.2019.37.15_suppl.TPS8573

 先日webinerを視聴していたところ、下記の観察研究において、実臨床でのデュルバルマブ移行率がどの程度見込めるかのデータが既に出ているとコメントされていました。今年の日本肺癌学会あたりで発表予定とのことでしたが、80%程度は見込んでもよさそうだとのことでした。80%×43%で、PACIFICレジメンを使用すると局所進行非小細胞肺がん患者のざっと35%程度が5年生存するという皮算用になりますね。
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1758835921998588
Posted by taktak at 2021年06月30日 11:33
ありがとうございました。

これから10年で3期肺癌の治療戦略がどうなっているのか、3C期で50%/5年が見えてくるのか、期待をしています。
Posted by とある放射線治療医 at 2021年06月30日 21:51
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