2020年08月14日

ALK陽性肺がんとEnsartinib

 ALK陽性肺がんに対する新規治療薬、Ensartinib。
 アレクチニブよりもEnsartinibを優先的に使用する機会が、我が国であるかどうか。
 



PHASE III RANDOMIZED STUDY OF ENSARTINIB VS CRIZOTINIB IN ANAPLASTIC LYMPHOMA
KINASE (ALK) POSITIVE NSCLC PATIENTS: EXALT3

G. Selvaggi et al., 2020 WCLC presidential symposium, Abstract #2

背景:
 Ensartinib(X-396)は新規の第2世代ALKチロシンキナーゼ阻害薬(ALK-TKI)だ。ALK-TKI未治療、もしくはクリゾチニブやその他の第2世代ALK-TKI治療歴のある患者を対象にEnsartinibを使用した第I / II相試験の結果は有望で、脳転移巣に対しても治療効果を示した。Ensaritinibは安全性の点でも優れており、Grade 1/2相当の皮疹、掻痒症、浮腫、抗トランスアミナーゼ血症が頻度の高い有害事象だった。今回は、局所進行もしくは進行ALK陽性非小細胞肺がん患者で、ALK-TKI未治療、化学療法未治療、あるいは1レジメンまでの化学療法歴のあるものを対象に、Ensaritinibとクリゾチニブの効果と安全性を比較する第3相オープンラベルeXalt3試験の中間解析結果について報告する。

方法:
 ALK陽性非小細胞肺がん患者を対象に、E群(Ensartinib 250mg/日)とC群(クリゾチニブ250mg/日)に1:1の比率で無作為に割り付けた。治療群間のクロスオーバーは認めないこととした。割付調整因子は前治療での化学療法レジメン、PS、脳転移の有無、患者の居住地域とした。全患者集団をITT集団とし、Abbott FISH testを用いてALK融合遺伝子を中央判定した患者集団をmITT集団とした。主要評価項目は、独立した効果判定委員会による無増悪生存期間(PFS)とした。副次評価項目は全生存期間(OS)、奏効割合(ORR)、脳転移巣よる治療打ち切り期間(TTF for brain)とした。ITT集団における無増悪生存期間イベントが予定の75%(143/190)発生した時点で、1回だけ中間解析を行うことにしていた。

結果:総計290人の患者が無作為割付を受けた(E群143人、C群147人)。患者背景について、2群間に偏りはなかった。年齢中央値は54.1歳、全体の26%が化学療法治療歴あり、全体の36%が脳転移巣を合併しており、5%が脳転移巣に対する放射線治療を受けていた。mITT集団は247人で、E群121人、C群126人だった。2020年7月1日の時点でデータカットオフを行った。E群の64人(45%)、C群の25人(17%)が治療を継続していた。ITT集団では139件(73%)、mITT集団では119件(63%)のPFSイベントが発生していた。ITT集団においてE群23.8ヶ月、C群20.2ヶ月の観察期間中央値の段階で、PFS中央値はE群で25.8ヶ月、C群で12.7ヶ月で、ハザード比は0.52、95%信頼区間は0.36-0.75、p=0.0003だった。mITT集団におけるPFS中央値は、E群は未到達、C群は12.7ヶ月で、ハザード比0.48、95%信頼区間は0.32-0.71、p=0.0002だった。mITT集団におけるORRは、E群で75%(91/121)、C群で67%(85/126)だった。脳に測定可能病変を有する患者集団では、頭蓋内病変奏効割合はE群で54%(7/13)、C群で19%(4/21)だった。治療開始前の段階で脳転移巣のなかった患者における、脳転移による治療打ち切り割合は、12ヶ月経過時点でE群4%、C群24%とE群で優れていた(ハザード比0.33、p=0.0016)。mITT集団において、生存期間中央値は両群ともに未到達だった(ハザード比0.91)。24ヶ月生存割合は両群ともに78%だった。安全性についての新規知見はなかった。

結論:
 ALK陽性非小細胞肺がん患者において、Ensaritinibはクリゾチニブに対して有意に無増悪生存期間を延長し、安全性プロファイルについてもまずまずで、この患者集団に対する新たな初回治療選択肢と考えてよい。


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この記事へのコメント
先生、こんばんは。
いつもこちらのブログを拝読させて頂いております。
私はALK陽性肺腺がん(胸膜播種のみ他転移なし4a期・アレクチニブ9ヶ月奏功中)の患者です。

さて、ブログにて先生も仰られたように、ALK肺がんにおける分子標的薬の現在のファーストラインは、アレクチニブ一択と言える状況かと思います。
私共患者としましては、むしろアレクチニブ耐性後の「次」が気になります。
現在ですとロルラチニブやセリチニブ、間もなく保険承認が噂されるブリグチニブ、はたまた一旦ペネトレキセドも選択肢となろうかと思います。
先日九州の某大学病院にてセカンドオピニオンを受診致しました。
その際、割と近い将来、ALK肺がんは分子標的薬のローテーションで超長期生存の未来もおぼろげに見えてきたのではないか、といった趣旨のお話を伺いました。
エンサルチニブもその一助となれば良いと思います。
最後に、COVID-19の感染拡大の驚異の中、大変な思いをされながら日々がん患者と向き合っておられる先生に感謝し、同じ九州の地からいつも応援しております。
これからもブログの更新を楽しみにしております。
Posted by AYA世代ALK一年生 at 2020年08月16日 23:53
AYA世代ALK一年生さんへ

 コメントありがとうございます。おっしゃる通り、beyond the アレクチニブは気になりますね。ドライバー遺伝子変異陽性の肺がんでは、一次治療はこの分子標的薬、というのは概ね定まっていますが、二次治療はこの分子標的薬、というのはそうでもありません。
 EGFR遺伝子変異陽性肺がんでは、オシメルチニブは本来T90M耐性変異陽性患者さんをターゲットに絞っていたはずが、いつの間にか一次治療からほぼオシメルチニブ一択になってしまい、分子標的薬としての二次治療は全く定まっていません。そのため、従来のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬はほぼ出番がなくなりました。しかし、本来なら従来の薬にもまだ活躍の場はあるはずで、治療戦略的にも医療経済的にも今の流れはあまり良くないように感じています。
 ALK肺がんに対しては複数のAKL阻害薬があり、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に比べると、このタイプの変異にはこの阻害薬が効きやすい、という関係が明確です。そのため、アレクチニブに耐性となったとき、再生検でこの変異があればローラチニブ、この変異があればクリゾチニブ、といったような使い分けができるようになるかもしれません。・・・といいながらもう数年たってしまったので説得力はありませんね。
Posted by taktak at 2020年08月18日 00:14
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