2021年09月13日
病勢進行後の治療をどう考えるか
肺がんの治療が多様化し、治療の考え方はとても複雑になった。
病勢進行後の治療をどう考えるかについて、散文的にはなるが書き記しておきたい。
1)「病勢進行」をどうとらえるか
病勢進行の定義をRECIST効果判定の考え方に沿って端的に書き下すなら、「一定以上の病巣増大、あるいは新規病巣の出現」である。
薬の腫瘍縮小効果を評価する臨床試験においては、この基準が厳密に適用される。
とはいえ、それさえも絶対的なものではない。
〇主観の問題
病勢進行後の治療をどう考えるかについて、散文的にはなるが書き記しておきたい。
1)「病勢進行」をどうとらえるか
病勢進行の定義をRECIST効果判定の考え方に沿って端的に書き下すなら、「一定以上の病巣増大、あるいは新規病巣の出現」である。
薬の腫瘍縮小効果を評価する臨床試験においては、この基準が厳密に適用される。
とはいえ、それさえも絶対的なものではない。
〇主観の問題
画像診断に基づいて腫瘍縮小効果を判定するといっても、評価者の主観に左右される。
患者・家族と喜びも悲しみも分かち合う担当医と、まったく診療に関わらない効果判定委員会では、どうしても測定結果に相違がある。
効果判定委員会の評価を仮に真の測定結果とするならば、患者・家族の心情を慮って測定結果をいい方にとってしまう担当医もいるだろう。
逆に、臨床試験の厳格さを重視するあまりに、却って測定結果を悪い方にとってしまう担当医もいるだろう。
そうした評価のブレがつきものだが、最近はあえて効果判定委員会の評価ではなく、担当医の評価を主要な評価項目に据える臨床試験も散見する。
これは私の推測だが、プロトコール治療が効果・安全性両面で優れていれば、担当医は長くプロトコール治療を続けたいと思うだろうし、逆に効果・安全性いずれかに問題があれば(診療をしていてそのように感じるならば)担当医は早くプロトコール治療をやめて、次の治療を提供したいと考えるだろう。
そうした担当医の主観が、敢えて効果判定に持ちこまれるようにしているのかもしれない。
〇タイミングの問題
治療の効果発現時期が効果判定のタイミングとうまく合致するとは限らない。
双極にあるのが、ドライバー遺伝子変異に対する分子標的薬と、免疫チェックポイント阻害薬である。
分子標的薬は一般に効果発現が早く、適切に使えば治療初期は劇的に病巣が縮小することが多い。
一方で、免疫チェックポイント阻害薬では、有効な場合にも一過性に病巣が増大することがある(Pseudo-Progression)。
そのため、免疫チェックポイント阻害薬で効果判定を急ぎすぎると、せっかく有効なのに早期に中止してしまう可能性がある。
〇過大評価の問題
RECIST効果判定では、「ベースライン(治療開始前)径和に比して、標的病変の径和が30%以上減少したら奏効と判定する」、「(治療)経過中の最小の径和(ベースライン径和が経過中の最小値である場合、これを最小の径和とする)に比して、標的病変の径和が20%以上増加、かつ径和が絶対値でも5mm以上増加したら病勢進行と判定する」という規定が存在する。
よく言われることだが、100mmあった病巣が、治療により10mmまで縮小し奏効と判定され、その後20mmまで増大したら、RECIST規定上はその時点で病勢進行である。
治療開始前からすれば1/5まで病巣が縮小した状態を保っているのだが、最も病巣が縮小した時点を基準とすれば病巣は2倍に増大している。
10mmまで縮小するのに1ヶ月、その後20mmまで増大するのに3年かかったとしても、RECIST効果判定上は病勢進行である。
この時点で治療をやめるのは誰が考えてもナンセンスだと思うのだが、ここまで極端でないにしても、似たようなことは実臨床で行われている可能性がある。
100mmあった病巣が、治療により70mmまで縮小し奏効と判定され、そこから84mmまで増大してもやはり病勢進行である。
この場合も、治療開始前より腫瘍が縮小しているにもかかわらず、治療は変更されることになる。
RECIST効果判定に従う限り、一旦奏効と判定された後の病勢進行は過大評価されがちであることがわかると思う。
〇評価確定の問題
RECIST効果判定においては、完全奏効や奏効の判定は、一定程度の腫瘍縮小が2回の効果判定にわたって連続的に確認されることで初めて確定する。
一方、病勢進行は1回の効果判定で基準を満たせば直ちに確定である。
〇病理学的な確認の問題
とくに新規病巣が出現した場合には要注意である。
その病巣が転移巣とは限らない。
実際に生検してみたら単なる良性病変だった、ということはしばしばある。
他にもまだ様々な問題はあると思うが、これらを踏まえると実地臨床においてはRECIST基準を厳密に守る必要はない。
とはいえ、各担当医の主観に完全に委ねてしまうと、担当医間、診療施設間でのバラつきがあまりに大きくなってしまい、都合が悪い。
RECISTはもともと化学療法の効果判定のために定められた性質が強いが、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬のような新しいメカニズムの治療が一般化している以上、もはやRECIST自体が現状に合わなくなっている感が強い。
実地臨床でも応用可能な効果判定基準の策定に向けて、見直しをすべき時期に来ているように思う。
願わくば、患者の状態の代替指標として有効に機能する測定値の経過の追い方や、時間(縮小速度、増悪速度)の概念を新しい基準では盛り込んでほしい。
2)「病勢進行」後の治療をどのように考えるか
病勢進行、と判定しても、その後の治療の考え方は千差万別である。
ここでは、検討すべき項目を述べ、コメントを付すにとどめる。
〇考え得る治療
往々にして、初期に行われる治療の方が効果が高く、二次、三次、四次治療と進むにつれて期待できる効果は薄れていく。
病巣が大きくなっているにしても、治療前に比べると増大スピードが緩やかになっているようであれば、敢えてその治療をできる限り続けるという戦略もあるだろう。
〇年齢
90代の患者に対し、分子標的薬が効かなくなったからと言って、安易に化学療法に切り替えるのが良いとは限らない。
化学療法に切り替えるくらいなら、有害事象の軽い分子標的薬を使い続けて、それで効かなくなったら運命と思ってあきらめる、という人は多い。
〇体力(PS)
言いたいことは年齢の項と同様である。
〇治療薬の種類
点滴なのか、内服なのか。
化学療法なのか、分子標的薬なのか、血管増殖因子阻害薬なのか、免疫チェックポイント阻害薬なのか。
病勢進行後、次に使うとしたらどのような薬を想定しているのか。
それぞれの要素によって、おのずと考え方は変わってくるだろう。
例えば、免疫チェックポイント阻害薬使用後に分子標的薬に切り替えるのは、間質性肺炎のリスクを考えると勇気がいる。
敢えて間に化学療法を挟んで免疫チェックポイント阻害薬の影響が薄れるのを待つというのも戦略としてあり得るだろう。
〇脳転移による病勢進行
遠隔転移の中でも、脳転移については特別視することが多い。
脳転移以外は病勢進行を認めない、というときは、脳転移巣のみ放射線治療で対処し、薬物療法は変更しないということは多い。
薬物療法の進歩とともに、病勢進行の判定、その後の治療計画策定は一筋縄ではいかなくなった。
とは言え、これは決して悪いことではないように思う。
肌感覚としてかなりの確度を以て言えるのだが、担当医が「これはもういよいよ治療を変えなければまずい」とはっきり感じる場合を除いて、病勢進行時に急いで治療を変える必要はない。
そのくらい、肺がん領域における薬物療法は効果とその持続時間、安全性の両面から質が高くなっているように感じられる。
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