2014年07月07日

EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による術後補助治療

 2014年7月5日・6日と、例年の如くBest of ASCO Japanに参加してきました。
 話題はいろいろあるのですが、今日はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による術後補助治療について触れます。
 Best of ASCO自体の内容では触れられていませんが、ランチョンセミナーでTony Mok氏が語っていきました。
 
2014 ASCO Annual Meeting #7501
A randomized, double-blind phase 3 trial of adjuvant erlotinib (E) versus placebo (P) following complete tumor resection with or without adjuvant chemotherapy in patients (pts) with stage IB-IIIA EGFR positive (IHC/FISH) non-small cell lung cancer (NSCLC): RADIANT results.

Author(s):
Karen Kelly, Nasser K. Altorki, Wilfried Ernst Erich Eberhardt, et al

<背景>進行非小細胞肺癌におけるエルロチニブの有効性は既に確立されているが、術後補助療法としての意義は不明である。BR.21試験のデータでは、免疫染色もしくはFISHでEGFR陽性の患者で、エルロチニブの効果がより期待できるようだった。
<方法>IB-IIIA期の完全切除後非小細胞肺癌患者を、エルロチニブ150mg/日もしくはプラセボを2年間服用する治療群に2:1の比率で無作為に割り付けた。層別化因子は、病期、組織型、先行する術後補助化学療法、喫煙歴、FISHによるEGFR発現状態、国籍とした。主要評価項目は全患者を対象とした無病生存期間とし、副次評価項目には全患者を対象とした全生存期間、EGFR遺伝子変異(Exon 19欠失変異/Exon 21 L858R置換)を有する患者群における無病生存期間および全生存期間を含めた。
<結果>2007年11月から2010年7月までに、973人の患者が無作為割付された。両群に患者背景の差はなかった(65歳以上が41%、女性が41%、IB期51%、II期33% 、IIIA期16%、腺癌59%、先行する術後補助化学療法歴53%、非喫煙者20%、アジア人17%、FISHによるEGFR発現率72%、EGFR遺伝子変異陽性率16.5%)。無病生存期間を割り出すために予定されていたイベント数は410で、これが達成されたのは2013年4月だった。277人(28%)の患者が既に死亡していた。患者追跡期間中央値は47ヶ月だった。全体の患者群では、両群間に有意な無病生存期間の差を認めなかった。また、副次評価項目についても、有意差は認めなかった。治療継続期間中央値はエルロチニブ群で12ヶ月、プラセボ群で22ヶ月だった。皮疹はエルロチニブ群の58%、プラセボ群の17%に、下痢はエルロチニブ群の52%、プラセボ群の16%に認めた。Grade 3以上の皮疹はエルロチニブ群の12.6%、プラセボ群の0.3%に、Grade 3以上の下痢はエルロチニブ群の6.2%、プラセボ群の0.3%に認めた。治療関連死は認めなかった。
<結論>エルロチニブによる術後補助療法は、今回の適格患者全体の無病生存期間を延長しなかった。EGFR遺伝子変異陽性患者に限った同様の検討が望まれる。エルロチニブの安全性プロファイルは、進行期の患者を対象にした場合と同様であった。


 abstractだけを見ると得るところのないnegative studyですが、以下の表を見ると、
 1)EGFR遺伝子変異陽性群の方が、全体よりも成績が悪そう
 2)EGFR遺伝子変異陽性のプラセボ群は、他の群に比べて極端に無病生存期間が短い
 3)EGFR陽性群に限って言えば、エルロチニブによる術後補助療法は意義がありそう
 4)EGFR陽性群にエルロチニブを使って、ようやくEGFR遺伝子変異陰性群に比肩できる無病生存が得られる
といったことが見えてきて、興味深いです。
 ちなみに、今回の統計解析では、EGFR遺伝子変異陽性患者での解析において、無病生存期間のp=0.0391は有意差に至っていないそうです。


EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による術後補助治療




さらに、EGFR遺伝子変異患者の解析に焦点を絞ったのが以下の内容で、結果を一部抜粋して記します。

2014 ASCO Annual Meeting #7513
Adjuvant erlotinib (E) versus placebo (P) in non-small cell lung cancer (NSCLC) patients (pts) with tumors carrying EGFR-sensitizing mutations from the RADIANT trial.

Author(s):
Frances A. Shepherd, Nasser K. Altorki, Wilfried Ernst Erich Eberhardt, et al

RADIANTにおいて無作為割付された973人のうち、EGFR遺伝子変異の状態について検索されたのが921人(95%)で、161人(17%)は遺伝子変異を有していた(55%がExon 19欠失変異、45%がExon 21 L858R)。遺伝子変異は女性(65%)、非喫煙者(63%)により高頻度に認められた。47%がIB期、29%がII期、22%がIIIA期であった。49%が術後補助化学療法を受けていて、47%がアジア人だった。治療群間の患者背景に若干ばらつきがあった(エルロチニブ群には化学療法未経験者、早期患者が多く、プラセボ群は腫瘍径が小さい)。102人がエルロチニブ群に、59人がプラセボ群に割り付けられた。治療期間の中央値はエルロチニブ群で21.2%、プラセボ群で21.9ヶ月であった。エルロチニブ群の34人(34%)、プラセボ群の24人(41%)は22ヶ月以上の治療期間を完遂した。エルロチニブ群の無病生存期間中央値は46.4%、プラセボ群は28.5ヶ月で、ハザード比は0.61、95%信頼区間は0.38-0.98、p=0.039だった(今回の解析では有意ではない)。エルロチニブ群では、脳転移再発が多く(40% vs 13%)、骨転移再発は少ない(14% vs 29%)傾向があった。

 全生存期間の解析にはまだ時間がかかりそうですが、現時点でもなかなか興味深い結果が得られたように思います。
 


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