2012年02月03日

患者から飲食物を勧められたら、その場で頂かなければならない。

以前、里見清一先生著「偽善の医療」に関して触れました。
「消えてなくなれセカンドオピニオン」など強い論調の内容が多く、賛成できるか否かはともかく、クリアカットな一冊です。
その中に「患者から飲食物を勧められたら、その場で頂かなければならない。」という内容の章がありました。
里見先生ご自身にとって、ある終末期の肺癌患者さんに勧められた飲食物を頂かなかったことが未だに痛恨の極みであると書かれており、それ以後は勧められたら必ずその場で、患者さんの見ている前で頂くようにされているそうです。
これは意外と難しい。
私にも経験はありますが、勧められたものの中には
「ノニジュース」
「がんに効くといわれている健康食品」
「純度が極めて高いウコンエキス」
「そう簡単には手に入らない朝鮮人参入り健康ドリンク」
なども含まれており、その場で頂くのにかなりの勇気が必要なものも含まれています。

ですが、今日は実践してみました。
強い癌性疼痛に悩まされているパンコースト腫瘍の患者さんで、医療用麻薬の調整で疼痛コントロールを図っていますが、副作用の嘔気によりほとんど食事に手をつけられません。
そんな患者さんが、「こんなのを息子が持ってきたんだけど、飲んでもよかろうか」と差し出されたのが、ゼリー状の栄養飲料です。
ウィ〇ー・イン・〇リーみたいなもんです。
「あなたが食べられそうなものなら、特に制限はしませんよ。となりにあるプリンもおいしそうですね」
とお話ししたら
「じゃあ、先生どうぞ」
と勧めてくださいました。
私も考えましたが、
「それじゃあ、私が息子さん持参のゼリーを試してみますから、あなたもプリンをお相伴してくださいませんか」
とお答えしたところ了承。
昼まではプリンを食べる気もしなかったそうですが、ご一緒したところ、私がゼリー状飲料を飲み干すより先にプリンをぺろりと平らげてしまわれました。
「先生が一緒に食べてくれたから、安心したわ」
とのことでした。

私が第三者だったら、患者さんのベッドサイドで患者さんから勧められたものを食べる医者はどうだろう、と疑問に思います。
でも、患者と医者の関係は、第三者の目に気を遣いながら築くものではありません。
「患者から飲食物を勧められたら、その場で頂かなければならない」
これはありだ!と実感しました。
里見先生によると「その場で」「患者が見ている前で」というのが特にポイントなのだそうです。
今後は、できる限りそのようにしていきます。
嫌いなもの以外はできる限り。


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