2020年11月28日
新型コロナウイルス感染症における重症度と病床使用率
データと実態の乖離が世間の認識をミスリードすることは珍しいことではないが、標記の話題は極めて深刻だ。
強い危機感を抱いている。
この話題について、朝日新聞デジタルの記事から引用すると、
・厚生労働省の集計では、新型コロナの重症者は2020年11月26日時点で435人。
・半月で約2倍となった。
・自治体が確保した重症者用ベッドの重症者の使用率(2020年11月26日時点)は、大阪府で52%、東京都で40%、神奈川県で32%、愛知県で31%、兵庫県で29%だった。
・重症者用ベッドの重症者の使用率「25%以上」がステージ3(感染急増段階)の目安になる。
・東京都は人工呼吸器か体外式膜型人工肺(ECMO(エクモ))を装着した患者を重症者と定義し、26日現在で60人。
・東京都の重症者用の確保ベッドは「150床」とする。
・しかし、「確保」は必ずしも今使えることを意味しておらず、人手不足などですぐに使えないものが含まれる。
この記事をどのように汲み取るか。
乱暴な例えかもしれないが、原発性肺がんが疑われる患者が半月で2倍になったら、もうお手上げだ。
まず検査の予定が組めず、診断が遅れる。
治療導入の段階になったら、さらに医療供給体制は逼迫する。
肺がんは感染症に比べると、一般に病状の進行が緩やかなのでそれでもやりくりできるかもしれないが、新型コロナウイルス感染はそうはいかない。
診断も治療も、来週や再来週まで待つ、ということができない。
そして、「重症者」の定義が問題だ。
厚生労働省が公表している「新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第3版」から重症度分類について抜粋する。
この分類によると、酸素投与を要し、かつICU管理や人工呼吸管理を「していない」患者は中等症IIに分類される。
ポイントは、ICU管理や人工呼吸管理が「必要でない」患者ではなく「していない」患者は中等症IIに分類されるということだ。
非侵襲的陽圧呼吸管理やネーザルハイフローといった人工呼吸管理に準ずる治療を受けている患者は、一般的な感覚からすれば十分に重症だが、この重症度分類ではグレーゾーンながら中等症IIに分類されてしまう。
こうしたグレーゾーン中等症IIに分類される患者は、疾患背景や年齢、認知機能、患者の意思など様々な理由で人工呼吸管理の適応から除外された患者を考慮すると、おそらく結構な数にのぼるのではないだろうか。
本来は、最下段のフローチャートにあるように、「酸素マスクによるO2(5L/分までの)投与でもSpO2≧93%を維持できなくなった場合、ステロイド薬やレムデシビルなどの効果をみつつ、人工呼吸への移行を考慮する」にあたる患者が「重症者」と定義されるべきだろう。
2020年11月27日時点で、大分県では入院予定・宿泊療養者を含めて70人の入院中患者がいると県が公表しているが、そのうちどの程度が重症者で、どのように県内医療機関・宿泊療養施設に分散しているかは公表されていない。
しかし、一定数の重症者は当然いるはずで、私が知る限り、人工呼吸管理はともかくとして、新型コロナウイルス感染症患者に対応可能なICUやECMOを利用できる医療機関は大分県では極めて限られており、連日10人近い新規患者が発生している現状は深刻と言わざるを得ない。
・大分県におけるPCR等検査実施人数及び患者状況
https://www.pref.oita.jp/site/covid19-oita/covid19-pcr.html
また、新型コロナウイルス感染症用の確保ベッドとして公表された病床が、全て直ちに使用できるわけではない。
平時は一般病棟として運用している病床を、新型コロナウイルス感染患者が増えてきたら、専用ベッドとしてやりくりするわけだ。
当然のことながら、もともと入院していた患者が退院するなり、他の病床に移るなりしないと、専用ベッドは準備できない。
他の病床に移るということは、ときには他病院に転院させるということを意味するわけだが、転院先のベッド稼働状況にも依存する。
私の勤務先はそういった「転院先」としてこのところ入院患者受け入れ要請が後を絶たないが、寒くなって一般の呼吸器感染症や骨折などで緊急入院する患者が増えていて、現在既に満床の状態にあり、これ以上の転院受け入れができなくなっている。
どの地域でもこうした事情はあるはずで、ただでさえ新型コロナウイルス感染症患者の軽症・中等症患者用のベッドのやりくりすら大変なはずなのに、「ICUに入室 or 人工呼吸管理が必要」な重症者用ベッドがそんなに簡単に確保できるわけがない。
ベッドがあっても、医療機器や職員が確保できない。
そういうわけで、本来重症と判定されるべき患者はより多く、実働可能な重症者用ベッドはより少ないはずで、使用率は公表された数字よりも遥かに逼迫しているはずだ。
大分県では、会食によるクラスターの連鎖が今回の第3波のかなりの部分を占めており、当面やむ気配にない。
そして、信じがたいことに、こうした状況下においてもGo To ナントカに便乗して県外にレクレーションで移動しようという人は少なからずいるようだ。
私の実家は宿泊施設なので、母親に予約状況を聞くとこうしたことを実感する。
家業が細るのは寂しい限りだが、この状況で県外に移動して新型コロナウイルスの拡散リスクを高めるのは、医療従事者の一人として本当に勘弁してもらいたい。
強い危機感を抱いている。
この話題について、朝日新聞デジタルの記事から引用すると、
・厚生労働省の集計では、新型コロナの重症者は2020年11月26日時点で435人。
・半月で約2倍となった。
・自治体が確保した重症者用ベッドの重症者の使用率(2020年11月26日時点)は、大阪府で52%、東京都で40%、神奈川県で32%、愛知県で31%、兵庫県で29%だった。
・重症者用ベッドの重症者の使用率「25%以上」がステージ3(感染急増段階)の目安になる。
・東京都は人工呼吸器か体外式膜型人工肺(ECMO(エクモ))を装着した患者を重症者と定義し、26日現在で60人。
・東京都の重症者用の確保ベッドは「150床」とする。
・しかし、「確保」は必ずしも今使えることを意味しておらず、人手不足などですぐに使えないものが含まれる。
この記事をどのように汲み取るか。
乱暴な例えかもしれないが、原発性肺がんが疑われる患者が半月で2倍になったら、もうお手上げだ。
まず検査の予定が組めず、診断が遅れる。
治療導入の段階になったら、さらに医療供給体制は逼迫する。
肺がんは感染症に比べると、一般に病状の進行が緩やかなのでそれでもやりくりできるかもしれないが、新型コロナウイルス感染はそうはいかない。
診断も治療も、来週や再来週まで待つ、ということができない。
そして、「重症者」の定義が問題だ。
厚生労働省が公表している「新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第3版」から重症度分類について抜粋する。
この分類によると、酸素投与を要し、かつICU管理や人工呼吸管理を「していない」患者は中等症IIに分類される。
ポイントは、ICU管理や人工呼吸管理が「必要でない」患者ではなく「していない」患者は中等症IIに分類されるということだ。
非侵襲的陽圧呼吸管理やネーザルハイフローといった人工呼吸管理に準ずる治療を受けている患者は、一般的な感覚からすれば十分に重症だが、この重症度分類ではグレーゾーンながら中等症IIに分類されてしまう。
こうしたグレーゾーン中等症IIに分類される患者は、疾患背景や年齢、認知機能、患者の意思など様々な理由で人工呼吸管理の適応から除外された患者を考慮すると、おそらく結構な数にのぼるのではないだろうか。
本来は、最下段のフローチャートにあるように、「酸素マスクによるO2(5L/分までの)投与でもSpO2≧93%を維持できなくなった場合、ステロイド薬やレムデシビルなどの効果をみつつ、人工呼吸への移行を考慮する」にあたる患者が「重症者」と定義されるべきだろう。
2020年11月27日時点で、大分県では入院予定・宿泊療養者を含めて70人の入院中患者がいると県が公表しているが、そのうちどの程度が重症者で、どのように県内医療機関・宿泊療養施設に分散しているかは公表されていない。
しかし、一定数の重症者は当然いるはずで、私が知る限り、人工呼吸管理はともかくとして、新型コロナウイルス感染症患者に対応可能なICUやECMOを利用できる医療機関は大分県では極めて限られており、連日10人近い新規患者が発生している現状は深刻と言わざるを得ない。
・大分県におけるPCR等検査実施人数及び患者状況
https://www.pref.oita.jp/site/covid19-oita/covid19-pcr.html
また、新型コロナウイルス感染症用の確保ベッドとして公表された病床が、全て直ちに使用できるわけではない。
平時は一般病棟として運用している病床を、新型コロナウイルス感染患者が増えてきたら、専用ベッドとしてやりくりするわけだ。
当然のことながら、もともと入院していた患者が退院するなり、他の病床に移るなりしないと、専用ベッドは準備できない。
他の病床に移るということは、ときには他病院に転院させるということを意味するわけだが、転院先のベッド稼働状況にも依存する。
私の勤務先はそういった「転院先」としてこのところ入院患者受け入れ要請が後を絶たないが、寒くなって一般の呼吸器感染症や骨折などで緊急入院する患者が増えていて、現在既に満床の状態にあり、これ以上の転院受け入れができなくなっている。
どの地域でもこうした事情はあるはずで、ただでさえ新型コロナウイルス感染症患者の軽症・中等症患者用のベッドのやりくりすら大変なはずなのに、「ICUに入室 or 人工呼吸管理が必要」な重症者用ベッドがそんなに簡単に確保できるわけがない。
ベッドがあっても、医療機器や職員が確保できない。
そういうわけで、本来重症と判定されるべき患者はより多く、実働可能な重症者用ベッドはより少ないはずで、使用率は公表された数字よりも遥かに逼迫しているはずだ。
大分県では、会食によるクラスターの連鎖が今回の第3波のかなりの部分を占めており、当面やむ気配にない。
そして、信じがたいことに、こうした状況下においてもGo To ナントカに便乗して県外にレクレーションで移動しようという人は少なからずいるようだ。
私の実家は宿泊施設なので、母親に予約状況を聞くとこうしたことを実感する。
家業が細るのは寂しい限りだが、この状況で県外に移動して新型コロナウイルスの拡散リスクを高めるのは、医療従事者の一人として本当に勘弁してもらいたい。
お引越しします
追憶
肺がん患者に3回目の新型コロナウイルスワクチン接種は必要か
そろりと面会制限の限定解除
新型コロナウイルスワクチンの効果と考え方
新型コロナワクチン感染症が治った人は、ワクチンを接種すべきか
抗がん薬治療における刺身・鮨との付き合い方
広い意味でのチーム医療
病院内におけるワクチン格差のリスク
順序
2015年度のデータベースから
2014年度のデータベースから
2013年度のデータベースから
2012年度のデータベースから
2011年度のデータベースから
2010年度のデータベースから
2009年度のデータベースから
2008年度のデータベースから
がんと新型コロナウイルスワクチン
進行肝細胞がんに対するアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法
追憶
肺がん患者に3回目の新型コロナウイルスワクチン接種は必要か
そろりと面会制限の限定解除
新型コロナウイルスワクチンの効果と考え方
新型コロナワクチン感染症が治った人は、ワクチンを接種すべきか
抗がん薬治療における刺身・鮨との付き合い方
広い意味でのチーム医療
病院内におけるワクチン格差のリスク
順序
2015年度のデータベースから
2014年度のデータベースから
2013年度のデータベースから
2012年度のデータベースから
2011年度のデータベースから
2010年度のデータベースから
2009年度のデータベースから
2008年度のデータベースから
がんと新型コロナウイルスワクチン
進行肝細胞がんに対するアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法
Posted by tak at 01:06│Comments(0)
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