2019年01月15日
高頻度マイクロサテライト不安定性(MSH-High)を有するがんとペンブロリズマブ
2019年初めての日記は、この話題から始めようと決めていた。
肺がん診療にとってというより、がん診療全体にとって記念碑的な側面があるからだ。
ペンブロリズマブは既に非小細胞肺癌で使用可能となっているが、今回新たに、以下の病態で使用可能になった。
「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る」
・・・。
長すぎて分かりにくい。
端的に言えば、
「DNA上に多数存在するマイクロサテライトという部位にたくさん異常がある(MSI-High)癌の患者さんでは、標準治療がすでに終わった後、もしくは何かの理由で標準治療ができない場合はペンブロリズマブを使っていいですよ」
ということだ。
各癌腫におけるMSI-Highとなる患者の割合は、既に論文で公表されているらしい。
5%以上の発現割合を示すものを見ると、
「子宮内膜癌」
「胃腺癌」
「小腸癌」
「結腸・直腸癌」
あたりが挙がってくる。
子宮内膜癌の6人に1人がMSI-Highで、ペンブロリズマブの治療対象になるなんて、あまり知られていないのではないだろうか。
今回の適応追加承認、直腸・結腸がん以外の癌においては、KEYNOTE-158試験が根拠となっている。
MSI-Highであれば、癌腫を問わず参加できる第II相試験で、いわゆるバスケット試験だ。
参加した患者は全部で94人、対象となった患者の癌は本当にバラバラ。
子宮内膜癌、胃癌、小腸癌、膵癌、胆道癌でおよそ4分の3を占めている。
肺癌領域では、小細胞癌が3人含まれている。
奏功割合は37.2%。
すでに標準治療をやりつくした患者集団で、はっきりした腫瘍縮小を来しにくい免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験と考えれば、良い結果ではないだろうか。
わずか3人ながら、小細胞癌での成績は奏効割合66.7%である。
虹色のwater-fall plot。
色が多すぎてなんだかよくわからない。
無増悪生存期間中央値は5.4ヶ月、1年無増悪生存割合は37.7%。
全生存期間中央値は13.4ヶ月、1年生存割合は55.7%。
日本人は94人中7人含まれているものの、肺癌は含まれておらず。
肺癌領域におけるこの適応追加承認のインパクトはといえば、小細胞肺癌の患者でもキイトルーダを使うことができる道が、わずかながら開かれたということではないだろうか。
しかし、小細胞肺癌におけるMSI-High患者の割合は、概ね1%。
実臨床で言えば、ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌を見つけるのに近い感覚。
これまでのところ、私の実臨床の経験では、ROS1融合遺伝子陽性肺癌患者さんはまだ1人しか見たことがない。
今回の適応追加承認を利用して、MSI-High肺がんのスクリーニング体制と医師主導臨床試験を構築して、日本人におけるMSI-High肺がんの治療戦略を練るのがあるべき姿ではないだろうか。
グローバルなバスケット型第II相臨床試験をテコにして、市販後臨床試験として薬効を検証できる機会を与えられたと捉えるべきで、それがバスケット試験の本質なのだろう。
最後に、MSI検査に関する資料を並べておく。
実質的にEGFR遺伝子変異検査とやることは同じだが、非小細胞肺癌でMSI検査を追加で行うメリットは乏しいだろう。
陽性となる確率は低いものの、小細胞癌では積極的に行うべきだ。
肺がん診療にとってというより、がん診療全体にとって記念碑的な側面があるからだ。
ペンブロリズマブは既に非小細胞肺癌で使用可能となっているが、今回新たに、以下の病態で使用可能になった。
「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る」
・・・。
長すぎて分かりにくい。
端的に言えば、
「DNA上に多数存在するマイクロサテライトという部位にたくさん異常がある(MSI-High)癌の患者さんでは、標準治療がすでに終わった後、もしくは何かの理由で標準治療ができない場合はペンブロリズマブを使っていいですよ」
ということだ。
各癌腫におけるMSI-Highとなる患者の割合は、既に論文で公表されているらしい。
5%以上の発現割合を示すものを見ると、
「子宮内膜癌」
「胃腺癌」
「小腸癌」
「結腸・直腸癌」
あたりが挙がってくる。
子宮内膜癌の6人に1人がMSI-Highで、ペンブロリズマブの治療対象になるなんて、あまり知られていないのではないだろうか。
今回の適応追加承認、直腸・結腸がん以外の癌においては、KEYNOTE-158試験が根拠となっている。
MSI-Highであれば、癌腫を問わず参加できる第II相試験で、いわゆるバスケット試験だ。
参加した患者は全部で94人、対象となった患者の癌は本当にバラバラ。
子宮内膜癌、胃癌、小腸癌、膵癌、胆道癌でおよそ4分の3を占めている。
肺癌領域では、小細胞癌が3人含まれている。
奏功割合は37.2%。
すでに標準治療をやりつくした患者集団で、はっきりした腫瘍縮小を来しにくい免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験と考えれば、良い結果ではないだろうか。
わずか3人ながら、小細胞癌での成績は奏効割合66.7%である。
虹色のwater-fall plot。
色が多すぎてなんだかよくわからない。
無増悪生存期間中央値は5.4ヶ月、1年無増悪生存割合は37.7%。
全生存期間中央値は13.4ヶ月、1年生存割合は55.7%。
日本人は94人中7人含まれているものの、肺癌は含まれておらず。
肺癌領域におけるこの適応追加承認のインパクトはといえば、小細胞肺癌の患者でもキイトルーダを使うことができる道が、わずかながら開かれたということではないだろうか。
しかし、小細胞肺癌におけるMSI-High患者の割合は、概ね1%。
実臨床で言えば、ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌を見つけるのに近い感覚。
これまでのところ、私の実臨床の経験では、ROS1融合遺伝子陽性肺癌患者さんはまだ1人しか見たことがない。
今回の適応追加承認を利用して、MSI-High肺がんのスクリーニング体制と医師主導臨床試験を構築して、日本人におけるMSI-High肺がんの治療戦略を練るのがあるべき姿ではないだろうか。
グローバルなバスケット型第II相臨床試験をテコにして、市販後臨床試験として薬効を検証できる機会を与えられたと捉えるべきで、それがバスケット試験の本質なのだろう。
最後に、MSI検査に関する資料を並べておく。
実質的にEGFR遺伝子変異検査とやることは同じだが、非小細胞肺癌でMSI検査を追加で行うメリットは乏しいだろう。
陽性となる確率は低いものの、小細胞癌では積極的に行うべきだ。
セルペルカチニブ、上市
CLIP1-LTK融合遺伝子の発見・・・LC-SCRUM Asiaから
セルペルカチニブ、2021年12月13日発売予定
進行非小細胞肺がんオリゴ転移巣に対する定位照射のランダム化第II相比較試験
セルペルカチニブと過敏症
根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか
HER2エクソン20挿入変異陽性非小細胞肺がんに対するpoziotinib
セルペルカチニブの添付文書
第4世代ALK阻害薬・・・TPX-0131とNVL-655
セルペルカチニブ、製造販売承認
HER2遺伝子変異陽性肺がんに対するtrastuzumab deruxtecan
オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか
EGFR/ALK陽性非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法
ドライバー遺伝子異常検出におけるジレンマとmultiplex PCR
中国人患者におけるRET阻害薬(Selpercatinib, Pralsetinib)の有効性
オシメルチニブによる術前療法・・・NeoADAURAの前哨戦
病勢進行後の治療をどう考えるか
BRAF遺伝子変異と縁がない
RET阻害薬、セルペルカチニブがやってくる
進行が速い進行肺腺がんに遭遇したらどう振る舞うか
CLIP1-LTK融合遺伝子の発見・・・LC-SCRUM Asiaから
セルペルカチニブ、2021年12月13日発売予定
進行非小細胞肺がんオリゴ転移巣に対する定位照射のランダム化第II相比較試験
セルペルカチニブと過敏症
根治切除術直後の非小細胞肺がん患者に、バイオマーカー解析をするべきか
HER2エクソン20挿入変異陽性非小細胞肺がんに対するpoziotinib
セルペルカチニブの添付文書
第4世代ALK阻害薬・・・TPX-0131とNVL-655
セルペルカチニブ、製造販売承認
HER2遺伝子変異陽性肺がんに対するtrastuzumab deruxtecan
オシメルチニブ耐性化後は、耐性機序同定や分子標的治療は意味がないのか
EGFR/ALK陽性非小細胞肺がんに対するカルボプラチン+ペメトレキセド+ペンブロリズマブ併用療法
ドライバー遺伝子異常検出におけるジレンマとmultiplex PCR
中国人患者におけるRET阻害薬(Selpercatinib, Pralsetinib)の有効性
オシメルチニブによる術前療法・・・NeoADAURAの前哨戦
病勢進行後の治療をどう考えるか
BRAF遺伝子変異と縁がない
RET阻害薬、セルペルカチニブがやってくる
進行が速い進行肺腺がんに遭遇したらどう振る舞うか
この記事へのコメント
先生、こんにちは。
先日、市民講座に参加して、80歳の高齢者の場合は、抗がん剤は使うべきではないと聞いて衝撃を受けました。
先生は、どう考えられますか?
先日、市民講座に参加して、80歳の高齢者の場合は、抗がん剤は使うべきではないと聞いて衝撃を受けました。
先生は、どう考えられますか?
Posted by みー at 2019年01月19日 01:31
みーさんへ
コメントありがとうございます。演者がどのような理由で「80歳の高齢者の場合は、抗がん剤は使うべきではない」と考えているのか、によりけりでしょうね。「高度認知症の80歳」、「身の回りのことが自分でできない80歳」、「合併症多数でリスクが高い80歳」などが念頭にあるのかもしれませんし、我が国全体で見たときに、社会保障費や国民医療費の高騰を憂慮している憂国の士なのかもしれません。
個人的には、一律に判断するのには反対です。今日は79歳、明後日は86歳の患者さんに抗がん薬物療法を行います。ただし、自分の治療が自分を含めた現役世代や将来世代に大きな借金を背負わせることにいつも自己嫌悪を感じていますし、重喫煙者(禁煙後の人も含めて)にこうした治療をするときは本当に良心の呵責に苛まれます。
コメントありがとうございます。演者がどのような理由で「80歳の高齢者の場合は、抗がん剤は使うべきではない」と考えているのか、によりけりでしょうね。「高度認知症の80歳」、「身の回りのことが自分でできない80歳」、「合併症多数でリスクが高い80歳」などが念頭にあるのかもしれませんし、我が国全体で見たときに、社会保障費や国民医療費の高騰を憂慮している憂国の士なのかもしれません。
個人的には、一律に判断するのには反対です。今日は79歳、明後日は86歳の患者さんに抗がん薬物療法を行います。ただし、自分の治療が自分を含めた現役世代や将来世代に大きな借金を背負わせることにいつも自己嫌悪を感じていますし、重喫煙者(禁煙後の人も含めて)にこうした治療をするときは本当に良心の呵責に苛まれます。
Posted by tak at 2019年01月21日 13:11
先生、コメントありがとうございました。
母の間質性肺炎は落ち着き、ステロイドをやめて1カ月が過ぎました。また、タグリッソ中止から3カ月が過ぎましたが、今はまだ無治療でよく、経過観察です。ありがたいことだと思っています。
次に悪くなったらカルボプラチン+アブラキサンなどの抗がん剤、もう少し優しい抗がん剤、相談してできればタグリッソをもう少し…、まだまだ大丈夫、と勝手に思って講演会に参加していたので、それを聞いてガーンとなりました。
母は1つ歳を取り、「もう80歳だからね。」と言いますが、3〜4年くらい生きる気満々で大丈夫だと思っているようで、癌が大きくなって治療をしなかったら、どうなるのかあまりわかっていないようです。
普通に生活できているし、スイミングこそやめてしまいましたが、趣味の刺繍などはつづけて元気なので、もう少し頑張って、と思ってしまいます。抗がん剤を使うかどうかで、治療の幅はすごく違ってきますか?高齢者の治療は、ドクターによって大きく変わるのでしょうか。
この頃、また違う場所の胸がなんとなく痛いと言い始めました。
扁平上皮癌と腺癌のミックスって、厄介ですね。そして肺がんの治療も、日々変化して複雑で、難しい言葉だらけで、1つの薬に2つも呼び方があって…。本当に目が回ってわけがわからなくなりそうです。
先生のブログを読ませていただいて、また勉強します。
母の間質性肺炎は落ち着き、ステロイドをやめて1カ月が過ぎました。また、タグリッソ中止から3カ月が過ぎましたが、今はまだ無治療でよく、経過観察です。ありがたいことだと思っています。
次に悪くなったらカルボプラチン+アブラキサンなどの抗がん剤、もう少し優しい抗がん剤、相談してできればタグリッソをもう少し…、まだまだ大丈夫、と勝手に思って講演会に参加していたので、それを聞いてガーンとなりました。
母は1つ歳を取り、「もう80歳だからね。」と言いますが、3〜4年くらい生きる気満々で大丈夫だと思っているようで、癌が大きくなって治療をしなかったら、どうなるのかあまりわかっていないようです。
普通に生活できているし、スイミングこそやめてしまいましたが、趣味の刺繍などはつづけて元気なので、もう少し頑張って、と思ってしまいます。抗がん剤を使うかどうかで、治療の幅はすごく違ってきますか?高齢者の治療は、ドクターによって大きく変わるのでしょうか。
この頃、また違う場所の胸がなんとなく痛いと言い始めました。
扁平上皮癌と腺癌のミックスって、厄介ですね。そして肺がんの治療も、日々変化して複雑で、難しい言葉だらけで、1つの薬に2つも呼び方があって…。本当に目が回ってわけがわからなくなりそうです。
先生のブログを読ませていただいて、また勉強します。
Posted by みー at 2019年01月22日 17:27
先生、素晴らしいpageをありがとうございます。
混合型小細胞癌のように、
二つの癌腫がある場合、
msihは、どちらの癌腫で、検出されるとか、明確に分かりますか?
また、別の話ですが、LCNECでは検出率は、小細胞癌より落ちますか?
混合型小細胞癌のように、
二つの癌腫がある場合、
msihは、どちらの癌腫で、検出されるとか、明確に分かりますか?
また、別の話ですが、LCNECでは検出率は、小細胞癌より落ちますか?
Posted by 地域の医師 at 2019年03月17日 10:28
地域の医師さんへ
コメントありがとうございます。
実のところ、混合型小細胞癌で、小細胞癌の部分とその他の癌の部分、どちらをひっかけるのかまではわかりません。
混合型と診断されているからには、ほとんどがまとまった腫瘍塊を採取したうえで診断されているはずなので、厳密にやろうとすればマイクロダイセクションをして、小細胞癌部分とその他の癌部分を別々にMSI解析すれば結論が出るのでしょうけれど、ここまでするともう実地臨床の域を超えていますね。
LCNECでのMSI検出率については、いよいよもってデータがないのではないでしょうか。どこかのがんセンターが、研究の一環としてやらない限りはデータは出てこないでしょう。
私の病理のお師匠さんなら、レジデントと一緒に取り組んでくださるかもしれません。
コメントありがとうございます。
実のところ、混合型小細胞癌で、小細胞癌の部分とその他の癌の部分、どちらをひっかけるのかまではわかりません。
混合型と診断されているからには、ほとんどがまとまった腫瘍塊を採取したうえで診断されているはずなので、厳密にやろうとすればマイクロダイセクションをして、小細胞癌部分とその他の癌部分を別々にMSI解析すれば結論が出るのでしょうけれど、ここまでするともう実地臨床の域を超えていますね。
LCNECでのMSI検出率については、いよいよもってデータがないのではないでしょうか。どこかのがんセンターが、研究の一環としてやらない限りはデータは出てこないでしょう。
私の病理のお師匠さんなら、レジデントと一緒に取り組んでくださるかもしれません。
Posted by tak at 2019年03月18日 20:31
先生、コメントを拝読するのが遅くなり申し訳ありません。熟読の上、改めて、質問させてください。
なお、万一、msihを認める場合、PDl1を免疫染色するのが流れですか?
なお、万一、msihを認める場合、PDl1を免疫染色するのが流れですか?
Posted by 地域の医師 at 2019年04月12日 15:47
先生、ありがとうございます。また、御指導頂けますと幸いです。
Posted by 地域の医師 at 2019年04月19日 15:16
地域の医師さんへ
コメントありがとうございます。正直申し上げて、地域の医師さんのコメントには不可解な部分がありお返事を控えていましたが、改めて読み返してみてようやく流れが分かりました。ど田舎の私立病院勤務の一呼吸器内科医の私にできることは限りがありますが、何か患者さんのお役に立つようなことが閃いたらまたupします。
MSI-Highであればわが国でもがん種を問わずPembrolizumabが使えるわけですから、PD-L1を染色する必要はないと思います。もちろん、PD-L1高発現ならば一般的には治療効果がより期待できるわけですから、治療効果や予後予測には役立つかもしれません。ご存知のように非小細胞肺癌領域では(それが混合型小細胞がんや混合型大細胞神経内分泌がんであったとしても)PD-L1染色は必須です。肺癌領域以外では・・・どうなんでしょうね。
私の身の回りでは、driver遺伝子変異陽性ならPD-L1染色がしばしばskipされることがあります。ことにEGFR遺伝子変異陽性肺癌においては、免疫チェックポイント阻害薬使用後に分子標的薬を用いると、間質性肺疾患の有害事象を起こすリスクが高まるとされているため、いっそうmotivationが下がります。効果は低い、使った後は分子標的薬が使えなくなってしまう、という制約がある免疫チェックポイント阻害薬を、upfrontに使おうという気になりませんし、だったらわざわざ貴重な生検アーカイブ(TBLBの検体なんて1mm角くらいしかありません)を浪費してPD-L1染色をしようという気になりませんよね。ただ、実際には、driver遺伝子変異陽性でありながら、PD-L1を高発現しているケースもしばしば見かけます。私なりに、heteroな遺伝子変異プロファイルを持つ(≒high tumor mutation burden)腫瘍ほどPD-L1高発現になる、というイメージを持っていたので、driver遺伝子変異陽性かつPD-l1高発現という一群にどういう意義があるのか、疑問をもっていました。
そんな中、今回の呼吸器学会のinternational sessionにおいて、台湾からお越しになった先生が興味深い発表をされていました。EGFR遺伝子変異陽性の肺癌患者をPD-L1発現の高低で比較してみると、高発現の人はEGFR阻害薬の腫瘍縮小効果が低く、無増悪生存期間は短くなる、逆に低発現の人は腫瘍縮小効果が高く、無増悪生存期間は長くなる、ということをきれいなデータで示されていました。結局、分子標的薬の対象となる腫瘍の患者さんの中にも、その他の遺伝子変異プロファイルにはかなり多様性があり、その程度はきっと正規分布しているということなんでしょうね。こうした事実を実臨床にどう活かすかはまだまだ五里霧中ですが、driver遺伝子変異を有する患者でも、様々な薬物療法の可能性を考えた方がいいのかも知れません。
コメントありがとうございます。正直申し上げて、地域の医師さんのコメントには不可解な部分がありお返事を控えていましたが、改めて読み返してみてようやく流れが分かりました。ど田舎の私立病院勤務の一呼吸器内科医の私にできることは限りがありますが、何か患者さんのお役に立つようなことが閃いたらまたupします。
MSI-Highであればわが国でもがん種を問わずPembrolizumabが使えるわけですから、PD-L1を染色する必要はないと思います。もちろん、PD-L1高発現ならば一般的には治療効果がより期待できるわけですから、治療効果や予後予測には役立つかもしれません。ご存知のように非小細胞肺癌領域では(それが混合型小細胞がんや混合型大細胞神経内分泌がんであったとしても)PD-L1染色は必須です。肺癌領域以外では・・・どうなんでしょうね。
私の身の回りでは、driver遺伝子変異陽性ならPD-L1染色がしばしばskipされることがあります。ことにEGFR遺伝子変異陽性肺癌においては、免疫チェックポイント阻害薬使用後に分子標的薬を用いると、間質性肺疾患の有害事象を起こすリスクが高まるとされているため、いっそうmotivationが下がります。効果は低い、使った後は分子標的薬が使えなくなってしまう、という制約がある免疫チェックポイント阻害薬を、upfrontに使おうという気になりませんし、だったらわざわざ貴重な生検アーカイブ(TBLBの検体なんて1mm角くらいしかありません)を浪費してPD-L1染色をしようという気になりませんよね。ただ、実際には、driver遺伝子変異陽性でありながら、PD-L1を高発現しているケースもしばしば見かけます。私なりに、heteroな遺伝子変異プロファイルを持つ(≒high tumor mutation burden)腫瘍ほどPD-L1高発現になる、というイメージを持っていたので、driver遺伝子変異陽性かつPD-l1高発現という一群にどういう意義があるのか、疑問をもっていました。
そんな中、今回の呼吸器学会のinternational sessionにおいて、台湾からお越しになった先生が興味深い発表をされていました。EGFR遺伝子変異陽性の肺癌患者をPD-L1発現の高低で比較してみると、高発現の人はEGFR阻害薬の腫瘍縮小効果が低く、無増悪生存期間は短くなる、逆に低発現の人は腫瘍縮小効果が高く、無増悪生存期間は長くなる、ということをきれいなデータで示されていました。結局、分子標的薬の対象となる腫瘍の患者さんの中にも、その他の遺伝子変異プロファイルにはかなり多様性があり、その程度はきっと正規分布しているということなんでしょうね。こうした事実を実臨床にどう活かすかはまだまだ五里霧中ですが、driver遺伝子変異を有する患者でも、様々な薬物療法の可能性を考えた方がいいのかも知れません。
Posted by tak at 2019年04月20日 20:22