2016年05月18日

一次治療、二次治療でのOsimertinib(ELCC2016)

 ELCC2016で、Osimertinibの一次治療、二次治療におけるupdate dataが報告されていました。
 ただし、それぞれ第I相試験、第II相試験の結果に過ぎないですし、一次治療の報告に至っては無増悪生存期間中央値の報告結果が追跡期間中央値よりも短いので、本来はまだ発表されてはならないデータだと思います。
 しかしながら、「無増悪生存期間が16.6ヶ月よりも長くなりそう」というメッセージ自体が大きな意味を持っています。
 Ramalingam教授が述べているように、従来のEGFR阻害薬の治療効果を遥かに凌駕しそうなのは間違いありません。
 いまのところOsimertinibを初回治療から使用できるようになる目処は立っていませんが、FLAURA試験の結果が明らかになれば、おのずと適用条件が見直されることになるでしょう。
 一方、二次治療における効果はもはや折り紙つきといっていいでしょう。
 もはや、化学療法との比較試験を行うこと自体が倫理的に許されるのかどうか、という段階にあるような気がします。


Date: 14 Apr 2016
Topic: Lung and other thoracic tumours / Anticancer agents & Biologic therapy

・EGFR阻害薬はEGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌の標準治療である
・EGFR阻害薬を使用しても、50-60%程度はT790M耐性変異により治療耐性になる
・OsimertinibはExon 19 / 21遺伝子変異およびT790M耐性変異に対する阻害薬である
・EGFR遺伝子変異を有する局所進行もしくは進行非小細胞肺癌患者を対象としたAURA試験の第I相試験、expansion cohortから、一次治療としてOsimertinibを投与された60人の患者について解析した
・30人は80mg/日、30人は160mg/日を内服した
・追跡期間の中央値は16.6ヶ月だった
・奏効割合は77%
・無増悪生存期間中央値は160mg/日内服群で19.3ヶ月、80mg/日内服群では中央値未到達(解析時点で、半数以上の患者が再発なく生存中)だった。
・有害事象はわずかで、80mg/日内服群ではちょうど10%の患者が毒性のために減量が必要になった程度だった
・発表者であるSuresh Ramalingam教授は、「奏効割合はこれまでのどのEGFR阻害薬よりも優れている。また、PFSもこれまでのEGFR阻害薬が10-13ヶ月程度だったのに比べれば、雲泥の差がある」と述べている
・500人以上の患者を対象に、初回治療としてのOsimertinibとErlotinib / Gefitinibを比較する第III相FLAURA試験の結果は、1年半以内には明らかになると目されている

・EGFR阻害薬治療歴がある、EGFR遺伝子変異陽性、T790M耐性変異陽性の非小細胞肺癌患者を対象としたAURA試験からの解析データが報告された
・奏効割合は第I相試験の用量設定部分からの63人では71%、2つの第II相試験からの411人では66%だった
・無増悪生存期間中央値は第I相試験では9.7ヶ月、第II相試験では11ヶ月だった
・間質性肺炎やQT延長の頻度はそれほど高くなかった


References

1. LBA1_PR: Osimertinib as first-line treatment for EGFR mutation-positive advanced NSCLC: updated efficacy and safety results from two Phase I expansion cohorts. S. Ramalingam, US. Thursday 14th April 2016 – 15:30-15:45 New strategies for EGFR addicted NSCLC Room B
LBA2_PR: Osimertinib (AZD9291) in pre-treated pts with T790M-positive advanced NSCLC: updated Phase 1 (P1) and pooled Phase 2 (P2) results. J. Yang, Taiwan. Thursday 14th April 2016 – 15:45-16:00 New strategies for EGFR addicted NSCLC Room B


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この記事へのコメント
タグリッソの一次治療の効果は凄まじく、ALK肺癌におけるアレクチニブのようなインパクトを感じています。一方で通常のEGFR-TKIほどではないといえ下痢や皮疹は変わらずあること、また十分に注意されているはずなのに重篤な間質性肺炎の報告があること(しかも日本人/アジア人に多い)は要注意と思いました。

re-biopsyでは腫瘍の非均一性からT-790Mの評価が難しい場合もあるようで、早く1次治療から使用できるようになることを待つばかりです。
Posted by 若手 at 2016年05月19日 12:55
若手さんへ
 とても貴重なコメントをありがとうございます。市販前の段階で、治験参加医師としてコメントしてくださっているのだと拝察します。詳細な臨床データよりも、先生のこのコメントが遥かに雄弁に、Osimertinibの実力を物語っているのだろうと思います。
 実地臨床でEGFR阻害薬を使用している患者さんの経過を見ていますと、使用する側の経験値が上がったためか、きめ細かなマネジメントができるようになり、有害事象を抱えながらもどうにか継続使用できているケースが多いようです。間質性肺炎合併は依然として悩ましいですが、MUC4発現等々、予測因子が早く実用化されるといいですね。
 大分大学病院ではOsimertinib承認を見越して、PD判定から間もない患者さんや、緩やかに増大傾向にある患者さんなどの再生検依頼がぼちぼち出てきています。ここ最近で3件行いましたが、1件は組織診断再確定、Ex.19再陽性+T790M新規陽性、1件は組織診断再確定、Ex.21再陽性+T790M陰性、1件は組織診断陰性、Ex.19再陽性+T790M陰性と三者三様でした。病巣内heterogeneity、病巣間heterogeneityを考慮すると、再生検は増大が目立つ病巣もしくは新規の転移巣から採取するのが望ましいですし、liquid assayでの評価が併用できるようになるとなおいいですね。もっとも、1st lineからOsimertinibが使用可能になれば、戦略が変わってきますけれど。
Posted by taktak at 2016年05月19日 20:09
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