2015年03月05日

来ました、ニボルマブ!

 話題の免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ、ついに肺癌治療としても2015/3/4付でFDAに承認されました。
 以下、米国臨床腫瘍学会の記事から引用します。

 FDA Approves Nivolumab to Treat Squamous Non–Small Cell Lung Cancer

 By The ASCO Post
  Posted: 3/4/2015 3:50:05 PM
  Last Updated: 3/4/2015 4:07:38 PM

 米国食品医薬品局(FDA)は本日、PD-1阻害薬であるニボルマブ(商品名Opdivo)を、プラチナ併用化学療法後の進行肺扁平上皮癌患者の治療薬として承認した。ニボルマブはPD-1受容体に結合してPD-L1/PD-L2との相互作用を阻害するモノクローナル抗体で、これによりPD-1経路により阻害される免疫応答-これには抗腫瘍免疫応答が含まれるが-を促進させる。

 今回の承認は、プラチナ併用化学療法中もしくはその後に病勢進行した、進行肺扁平上皮癌の患者272人を対象に、複数国および施設にまたがり行われた、オープンラベル無作為化臨床試験の結果に基づいている。ニボルマブ群(n=135人)は3mg/kgのニボルマブを2週間ごとに静脈内投与、ドセタキセル群(n=137人)は75mg/㎡のドセタキセルを3週間ごとに静脈内投与された。主要評価項目は全生存期間だった


 予定されていた中間解析の段階で、ニボルマブはドセタキセルに対し、統計学的に有意に全生存期間を延長した。生存期間中央値はニボルマブ群で9.2ヶ月(95%信頼区間は7.3-13.3ヶ月)、ドセタキセル群で6ヶ月(95%信頼区間は5.1-7.3ヶ月)で、ハザード比は0.59、その95%信頼区間は0.44-0.79、p値=0.00025だった。

 今回の承認はまた、プラチナ併用化学療法と、さらに少なくともあと1レジメンの化学療法を施行したのちに病勢進行した進行肺扁平上皮癌の患者を対象に、複数国および施設にまたがって行われたシングルアームの臨床試験結果にも基づいている。117人の患者が3mg/kgのニボルマブを2週間ごとに静脈内投与された。主要評価項目は奏効割合で、効果判定は独立した判定委員会でRESICT v1.1により行われた。奏効割合は15%(95%信頼区間は9%-22%)で、これらは全て部分奏効であった。解析時点で、部分奏効した17人中10人(59%)は6ヶ月以上にわたり部分奏効を維持していた。

 ニボルマブの主要な有害事象は疲労、呼吸困難、筋肉痛、食欲不振、咳、嘔気、便秘だった。ほとんどの重篤な有害事象は肺・大腸・肝臓・腎臓・ホルモン産生器官等の健常臓器に対する強い免疫応答によるものだった。


 8年前、私が修行先でまとめた論文の序文は、「腺癌と異なり、扁平上皮癌の領域では有効な分子標的薬や抗体医薬は皆無である」というくだりから始めました。
 既にシスプラチン+ジェムシタビン+ネシツムマブ併用療法が肺扁平上皮癌の全生存期間をわずかながら延長することが報告されていますが、今回のニボルマブの報告は、有効性の差が出にくい二次治療以降で、しかも併用ではなく単剤療法で、肺扁平上皮癌にとっては唯一といってもいい標準治療のドセタキセルに対して圧倒的な優位性を示しています。
 扁平上皮癌に対する個人的な思い入れもあり、興奮のあまり病院の仕事を後回しにして記事を書いてしまいました。
 早く我が国でも承認されて、患者さんの手元に届きますように。

 免疫チェックポイントの領域は非常に注目されており、昨年の肺癌学会総会に続き、この4月の内科学会総会でもこの領域の先駆者である本庶佑先生が特別講演をされる予定です。
 前回のご講演は、基礎研究者の矜持と本懐を感じる味わい深いものでしたが、もう一度改めて拝聴しようと思っています。

 


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この記事へのコメント
いつも先生のブログで勉強させていただいています。

ニボルマブは先生もご存じのとおり、本邦でも悪性黒色腫で承認されており、薬価が体格にもよりますが月当たりおよそ150~200万円です。肺癌適応追加時には価格が下がるかもしれませんが新薬が出るたびにどんどん薬剤費が上がり、本当に今の日本の保険診療体制が維持できるのか心配でもあります・・・。

また肺癌領域だとやはり間質性肺炎がどうなのか、扁平上皮癌の患者さんは元々喫煙者の方が多く、日本人は薬剤性肺障害の頻度が元々多いことからもこちらも気になるところです。
Posted by Yoshi at 2015年03月06日 09:10
早く日本でも承認して欲しいです。
オプジーボの説明書も見たのですが、脳転移に効いてくれるという情報が探してもないので、ご存知なら教えて下さい。
妻はAZD9291を6ヶ月で卒業しました。先日書き込みさせていただいた増悪箇所が更に悪化し、再度の気管支鏡で腺癌が見つかり、更にはEGFR陰性でした。AZD9291が効かない訳です。
他のPD-1抗体のペンブロリズマブの治験に参加できるか再生検し、PD-L1があって今のところ参加資格は満たしています。
ただ、脳転移に効くかわからず、参加すべきかどうか決心つかない状況です。
Posted by のぞみパパ at 2015年03月06日 22:55
Yoshiさんへ
 コメントありがとうございます。薬価の問題は以前ベバシツマブのときにも触れましたが、大きな問題ですよね。データがないので何とも言えませんが、仮に無増悪生存期間中央値が全生存期間中央値の2/3の6ヶ月だったとして、月に200万円だったら1200万円かかるわけです。3ヶ月生存期間を延ばすのに1200万円、1か月の人生を400万円で買うということですね。だったらタバコを吸わなければ、タバコ代も薬代も節約できるし、タバコを吸うお金があるならニボルマブも自費で買ったら保険診療も維持できるのでは、というのが、乱暴ですが僕の正直な気持ちです。生活保護を受けながら、入院中にタバコを吸い続けている肺扁平上皮癌の患者さんを見ていると、どうしようもなくそんな気持ちが募ります。
 間質性肺炎の件もおっしゃる通りです。まずは今回のデータが早く論文化されることを願っています。
Posted by taktak at 2015年03月11日 19:12
のぞみパパさんへ
 コメントありがとうございます。脳転移に効くかどうか、申し訳ありませんが存じません。ただ、抗体医薬(分子が大きい)である以上は、血液・脳脊髄液関門の移行はあまりよろしくないのではないか、脳転移には効きにくいのではないかという気がします。さりとて、同じ抗体医薬であるベバシツマブが脳転移に有効な場合もありますし、一概には言えませんね。
 再生検の結果と治療戦略検討が見事に調和していて、患者さんや担当医の熱意を感じます。PD-L1陽性だったとのことですが、参加するかどうか確かに悩みますよね。ただ、誰でも受けられる治療ではないので、他に有望なものがなければ思い切って決心してみてはいかがですか?
Posted by taktak at 2015年03月11日 19:18
ご回答ありがとうございました。
抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体は幾つか出てきてますが、PD-L1抗体は脳転移で治験中止の事例があると聞きました。しかしPD-1抗体はどうも情報が取れません。
逆に言うと、明らかに脳転移に効かないという事実もないのかも知れないと精一杯よい方向に受け止めています。
アバスチンが脳関門通過している事実とT細胞側にくっつく作用機序からも、先生のおっしゃる通り参加の方向で進めています。
まだ、タキサン系やイリノテカンとかのメジャーどころは残していて、闘病3年で脱毛してない状況ですが、先日コメントしたようにQOL維持での延命を目指します。
ペンブロリズマブの治験は1/3の確率でドセタキセルになる可能性があるので、外れたら参加見送りしてタルセバ+他の薬で行く予定です。
ペンブロリズマブに当たり、脳転移もコントロールでることを祈りつつ、状況わかればまたご報告します。
Posted by のぞみパパ at 2015年03月12日 00:20
のぞみパパさんへ
 お返事ありがとうございます。恐れながら、臨床試験に関してひとつだけコメントを。無作為化比較試験に参加するにあたって、意図していない治療群に割り当てられたら試験参加を取りやめる、というのは、信義則違反ではないでしょうか。臨床試験の性格上、患者さんの権利は最大限に尊重されるので参加取りやめはできるのですが、「意に添わない治療群に割り当てられたから」というのがその理由であれば、無作為化の前提そのものが崩れてしまいます。本当にその意向でいいのか、あらかじめ担当医に確認しておいた方がいいですよ。
 お気持ちはわかるのですが、臨床試験に参加する以上は上記内容をご理解ください。公平性が保てなくなってしまいますし、試験結果自体にもバイアスがかかってしまいます。
Posted by taktak at 2015年03月12日 08:15
それはすでに主治医と話し合意してます。
ご指摘ごもっともです。
Posted by のぞみパパ at 2015年03月12日 12:41
私は腫瘍マーカーの研究員です。お知らせします。よく覚えておいてください。

分子標的薬を投与の患者さんは必ず知っておいてください。
分子標的には2種類存在しています。
一つ:がん細胞に多く発現しているものの正常細胞にも一部存在している。
二つ:がん細胞だけに発現しているが正常細胞には存在しない。
現在の分子標的治療薬は一つ目だけのものが創薬化されています。二つ目のものは創薬化されていません。双方の分子標的の受容体は異なっています。
Posted by N/K at 2015年03月27日 14:08
N/Kさんへ
 コメントありがとうございます。
 大切なポイントだと思います。殺細胞性抗腫瘍薬に比較して、分子標的薬はよりターゲットが絞られてがん細胞と正常細胞の差異を認識しやすくなった、とは言え、正常細胞にも一部存在している分子を標的としている以上、有害事象は避けられませんよね。PD-1やPD-L1をターゲットとした治療は、抗体医薬とは言いながら、もしかしたら殺細胞性抗腫瘍薬に近い薬かも知れませんね。少数の対象に鋭く効き、有害事象も少ない、というよりは、より多くの対象にある程度効き、それなりの有害事象も覚悟しなければならない、といったような。
 分子標的薬や抗体医薬の対象分子の幅が広がり、身近なところでもCDK4/6阻害薬のabemaciclibの臨床試験が始まっているようです。さまざまな正常細胞にも影響が出そうな、それこそ殺細胞性抗腫瘍薬のような効き方をしそうな薬なだけに、有害事象がどのような形で現れるのか心配です。
Posted by taktak at 2015年03月27日 19:44
以前の私の書き込み、反省してます。

主治医からは治験参加前には以下の説明をうけ、振り分けられた時点では参加取り止めをしないことを前提に参加判断するように再度言われました。
Tak先生とまったく同じお話しでした。
思い込みから早合点しており、お恥ずかしい次第です。

・抗PD-1抗体が脳転移に効くかは解らないこと。
・ドセタキセルの抗腫瘍効果は抗PD-1抗体に劣るものでない(少なくともそのように証明されてない)こと
・仮に脳転移が増悪したら、放射線や効くであろうタルセバで対応するなど、どちらの薬剤に振り分けられていてもその時点で中止判断が可能で、対応方針は同じこと
・選択薬剤で参加を取り止めるのであれは、無作為抽出の前提がくずれること

また、ドセタキセルは治療を進める中ではどこかで必ずや通るし、仮に治験に参加しなくても、この時点で推奨する薬剤になる旨の話も受けました。

もっともな話であるため、納得して参加を決めました。

書き込みが遅れましたが、他の方が見たときの影響を考え、はずかしながらも訂正コメントをさせていただきました。
Posted by のぞみパパ at 2015年03月30日 00:01
のぞみパパさんへ
 ご丁寧なご報告、ありがとうございます。今回参加される臨床試験、細かい試験計画を知らないのですが、いわゆるプラセボ対象試験(参加される患者さんも、担当医も、試験薬にあたったかどうかわからないようにデザインされた臨床試験)であれば、今回のぞみパパさんがお困りになったようなことは起こらないのにと、気の毒な気分になりました。今回の試験ははおそらくプラセボ対象試験の計画がしにくいのでしょうね。  以前、国立がんセンター東病院の血液・化学療法科で研修していたころ、部長が患者さんに対し、第I相臨床試験(さまざまながんを対象に、薬の安全性を確認して、効果を見るための第II相試験における使用量・使用法を決めるための試験)の説明をされていたのを思い出します。「今回あなたに使うのは、まだお薬とは言えないようなお薬です。あなたのがんに効果が出るかどうかもよくわかっていませんし、どのくらいの量が適量なのかすらわかっていません。毒とも薬とも言えないような代物です。ですが、動物実験ではある種のがんに効果が出るのは証明されていて、動物ではどの程度の量なら安全なのかもある程度は調べられています。あなたは他に標準治療がないからこそこの臨床試験の参加を検討されているわけですが、効果が出たらめっけもの、くらいに考えておいてください。」といった内容だったと思います。第I相、第II相臨床試験段階の薬というのはまだその効果・副作用の情報が不十分で、だからこそそれを臨床試験で確認します。そして、その結果が、将来同じ病気で悩む患者さんに活かされますし、うまくすれば自分自身の病状も好転するかもしれません。そういった意味で、第I相試験や第II相試験は、やや宗教的な響きに聞こえるかもしれませんが、自己利益よりも他者利益の方が多い試験です。そして、無作為化試験においては、無作為化の条件が担保されて初めて、得られる結果が信頼できるものとなります。患者さんも担当医も、そこは納得して参加せねばなりません。  私には知り得た情報を可能な範囲で拡散することと、祈ることしかできませんが、今回の治療がのぞみパパさんになにかいいことをもたらしてくれることを願っています。
Posted by taktak at 2015年03月30日 14:08
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