2015年01月07日
がんの既往と臨床試験参加資格
臨床試験に携わっていると、一般の診療をしながら、絶えず「この患者さん、なにか臨床試験に参加できないかな・・・」という見方をします。
それぞれの臨床試験に、
・適格基準:こんな患者さんは、この臨床試験に参加できますよ、という基準
・除外基準:こんな患者さんは、この臨床試験には参加できませんよ、という基準
が設定されています。
除外基準の中によく見かけるのに「過去に今回診断された肺がん以外の悪性腫瘍の既往がない」というものがあります。
無再発生存期間が評価項目だったとき、他臓器の再発病巣が出てきたら、過去のがんによるものなのか、今回の肺がんによるものなのか、生検診断しない限りは結論が出ません。
全生存期間が評価項目だったとき、仮にそれが悪性腫瘍の再発によるものだったとしたら、それが過去のがんによるものなのか、今回の肺がんによるものなのか、生検診断しない限り結論は出ません。
生検不能な場所に転移再発することは往々にしてありますし、そもそも再発時の生検診断自体がまだ完全に浸透しているわけでもありません。
そうすると、過去のがんの既往がある患者さんは除外した方が、臨床試験の結論としてはクリアカットなものが得られることになります。
では、そうやって臨床試験から除外される、過去に悪性腫瘍の既往がある患者さんは、どの程度いるのか。
そんな疑問に答えるのが、今回紹介する論文です。
Impact of Prior Cancer on Eligibility for Lung Cancer Clinical Trials
David E. Gerber, Andrew L. Laccetti, Lei Xuan, Ethan A. Halm and Sandi L. Pruitt
JNCI J Natl Cancer Inst (2014) 106 (11): dju302 doi: 10.1093/jnci/dju302
背景:悪性腫瘍における臨床試験では、試験の管理運営や試験結果に悪影響があるため、過去にがんの既往がある患者を除外することが当然のことと考えられている。今回、実際の臨床試験においてこういった除外規定がどのくらいの割合で、どのように行われているのか、そのことが臨床試験における患者集積にどの程度影響を与えているかを調査することにした。
方法: Eastern Oncology Cooperative Group(ECOG)が関わり、がんの既往歴が除外規定に関わる肺癌の臨床試験をレビューした。また、Surveillance Epidemiology and End Results (SEER)-Medicareデータベースにアクセスして、肺がんと診断された患者のうち他のがんの既往がある患者の割合を調べた。臨床試験の特徴とがん既往歴除外規定の関連をカイ二乗検定で評価した。
結果:51件の臨床試験(対象患者は13072人)を対象とした。41件(80%)の臨床試験では、過去にがんと診断された患者を除外していた。内訳は、過去にがんの既往がある患者を全て除外したものが14%、5年以内にがんと診断された患者を除外するものが43%、2-3年以内にがんと診断された患者を除外するものが7%、現在も肺がん以外のがんに関しても担がん状態にある患者を除外するものが16%だった。SEER-Medicare データベースの検討(対象となった肺がん患者数= 210509人)では、他のがんの既往がある肺がん患者のうち56%は、肺がんの診断から5年以内に他のがんと診断されていた。全ての臨床試験を横断的にみると、過去のがんの既往により臨床試験から除外された患者の数は臨床試験ひとつあたり0-207人、除外された患者の、全体の患者に占める割合は0-18%と見積もられた。 生存期間が主要評価項目である臨床試験の94%、生存期間以外が主要評価項目である臨床試験の73%で、がんの既往がある患者が除外されていた(p=0.06)
結論:相当数の患者が、過去のがんの既往を理由に肺がんの臨床試験対象から除外されていた。この除外規定はさまざまな臨床試験で広く取り入れられており、生存期間を主要評価項目としない臨床試験ですら、その三分の二で取り入れられていた。
一方、臨床試験が行われた年次別にみると、徐々にがんの既往がある患者さんも臨床試験に組み入れる方向に移りつつあるようです。1986年から1999年に行われた26の臨床試験では、実に92%でがんの既往がある患者さんが除外されていますが、2000年から2013年に行われた25の臨床試験では、68%に留まっているようで、この2つの期間では有意差がついています(p=0.04)。
試験の相によっても違いがあります。第II相臨床試験では83%、第III相臨床試験では88%ががんの既往がある患者さんを除外していますが、第I相試験やパイロット試験では25%に留まっています。組織型では、小細胞がんの臨床試験では89%、非小細胞肺がんの臨床試験では75%ががんの既往がある患者さんを除外していたようです。
その他、局所進行肺癌の臨床試験では、その全てにおいて過去にがんの既往がある患者さんが除外されていました。
根治を目指す治療を評価するための臨床試験なので、やむを得ないかもしれません。
以下に示すTable 3を見ると、結構な割合の肺がん患者さんが、過去にがんの既往があることがわかりますね。
腫瘍縮小効果を見るための臨床試験などは、もっと積極的にこれらの患者さんを組み入れることを考えてもいいかもしれません。


それぞれの臨床試験に、
・適格基準:こんな患者さんは、この臨床試験に参加できますよ、という基準
・除外基準:こんな患者さんは、この臨床試験には参加できませんよ、という基準
が設定されています。
除外基準の中によく見かけるのに「過去に今回診断された肺がん以外の悪性腫瘍の既往がない」というものがあります。
無再発生存期間が評価項目だったとき、他臓器の再発病巣が出てきたら、過去のがんによるものなのか、今回の肺がんによるものなのか、生検診断しない限りは結論が出ません。
全生存期間が評価項目だったとき、仮にそれが悪性腫瘍の再発によるものだったとしたら、それが過去のがんによるものなのか、今回の肺がんによるものなのか、生検診断しない限り結論は出ません。
生検不能な場所に転移再発することは往々にしてありますし、そもそも再発時の生検診断自体がまだ完全に浸透しているわけでもありません。
そうすると、過去のがんの既往がある患者さんは除外した方が、臨床試験の結論としてはクリアカットなものが得られることになります。
では、そうやって臨床試験から除外される、過去に悪性腫瘍の既往がある患者さんは、どの程度いるのか。
そんな疑問に答えるのが、今回紹介する論文です。
Impact of Prior Cancer on Eligibility for Lung Cancer Clinical Trials
David E. Gerber, Andrew L. Laccetti, Lei Xuan, Ethan A. Halm and Sandi L. Pruitt
JNCI J Natl Cancer Inst (2014) 106 (11): dju302 doi: 10.1093/jnci/dju302
背景:悪性腫瘍における臨床試験では、試験の管理運営や試験結果に悪影響があるため、過去にがんの既往がある患者を除外することが当然のことと考えられている。今回、実際の臨床試験においてこういった除外規定がどのくらいの割合で、どのように行われているのか、そのことが臨床試験における患者集積にどの程度影響を与えているかを調査することにした。
方法: Eastern Oncology Cooperative Group(ECOG)が関わり、がんの既往歴が除外規定に関わる肺癌の臨床試験をレビューした。また、Surveillance Epidemiology and End Results (SEER)-Medicareデータベースにアクセスして、肺がんと診断された患者のうち他のがんの既往がある患者の割合を調べた。臨床試験の特徴とがん既往歴除外規定の関連をカイ二乗検定で評価した。
結果:51件の臨床試験(対象患者は13072人)を対象とした。41件(80%)の臨床試験では、過去にがんと診断された患者を除外していた。内訳は、過去にがんの既往がある患者を全て除外したものが14%、5年以内にがんと診断された患者を除外するものが43%、2-3年以内にがんと診断された患者を除外するものが7%、現在も肺がん以外のがんに関しても担がん状態にある患者を除外するものが16%だった。SEER-Medicare データベースの検討(対象となった肺がん患者数= 210509人)では、他のがんの既往がある肺がん患者のうち56%は、肺がんの診断から5年以内に他のがんと診断されていた。全ての臨床試験を横断的にみると、過去のがんの既往により臨床試験から除外された患者の数は臨床試験ひとつあたり0-207人、除外された患者の、全体の患者に占める割合は0-18%と見積もられた。 生存期間が主要評価項目である臨床試験の94%、生存期間以外が主要評価項目である臨床試験の73%で、がんの既往がある患者が除外されていた(p=0.06)
結論:相当数の患者が、過去のがんの既往を理由に肺がんの臨床試験対象から除外されていた。この除外規定はさまざまな臨床試験で広く取り入れられており、生存期間を主要評価項目としない臨床試験ですら、その三分の二で取り入れられていた。
一方、臨床試験が行われた年次別にみると、徐々にがんの既往がある患者さんも臨床試験に組み入れる方向に移りつつあるようです。1986年から1999年に行われた26の臨床試験では、実に92%でがんの既往がある患者さんが除外されていますが、2000年から2013年に行われた25の臨床試験では、68%に留まっているようで、この2つの期間では有意差がついています(p=0.04)。
試験の相によっても違いがあります。第II相臨床試験では83%、第III相臨床試験では88%ががんの既往がある患者さんを除外していますが、第I相試験やパイロット試験では25%に留まっています。組織型では、小細胞がんの臨床試験では89%、非小細胞肺がんの臨床試験では75%ががんの既往がある患者さんを除外していたようです。
その他、局所進行肺癌の臨床試験では、その全てにおいて過去にがんの既往がある患者さんが除外されていました。
根治を目指す治療を評価するための臨床試験なので、やむを得ないかもしれません。
以下に示すTable 3を見ると、結構な割合の肺がん患者さんが、過去にがんの既往があることがわかりますね。
腫瘍縮小効果を見るための臨床試験などは、もっと積極的にこれらの患者さんを組み入れることを考えてもいいかもしれません。


2022年01月06日の記事より・・・各種マスクによる新型コロナウイルス拡散予防効果
2022年01月02日の記事より・・・新年を迎える幸せ
お引越しします
追憶
肺がん患者に3回目の新型コロナウイルスワクチン接種は必要か
そろりと面会制限の限定解除
新型コロナウイルスワクチンの効果と考え方
新型コロナワクチン感染症が治った人は、ワクチンを接種すべきか
抗がん薬治療における刺身・鮨との付き合い方
広い意味でのチーム医療
病院内におけるワクチン格差のリスク
順序
2015年度のデータベースから
2014年度のデータベースから
2013年度のデータベースから
2012年度のデータベースから
2011年度のデータベースから
2010年度のデータベースから
2009年度のデータベースから
2008年度のデータベースから
2022年01月02日の記事より・・・新年を迎える幸せ
お引越しします
追憶
肺がん患者に3回目の新型コロナウイルスワクチン接種は必要か
そろりと面会制限の限定解除
新型コロナウイルスワクチンの効果と考え方
新型コロナワクチン感染症が治った人は、ワクチンを接種すべきか
抗がん薬治療における刺身・鮨との付き合い方
広い意味でのチーム医療
病院内におけるワクチン格差のリスク
順序
2015年度のデータベースから
2014年度のデータベースから
2013年度のデータベースから
2012年度のデータベースから
2011年度のデータベースから
2010年度のデータベースから
2009年度のデータベースから
2008年度のデータベースから
Posted by tak at 13:58│Comments(0)
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