2014年09月02日

タルセバとアバスチンの併用-JO25567 study

 JO25567試験が論文化されていたので、掲載します。

 Erlotinib alone or with bevacizumab as fi rst-line therapy in patients with advanced non-squamous non-small-cell lung cancer harbouring EGFR mutations (JO25567): an open-label, randomised, multicentre, phase 2 study

 Takashi Seto, Terufumi Kato, Makoto Nishio, Koichi Goto, Shinji Atagi, Yukio Hosomi, Noboru Yamamoto, Toyoaki Hida, Makoto Maemondo, Kazuhiko Nakagawa, Seisuke Nagase, Isamu Okamoto, Takeharu Yamanaka, Kosei Tajima, Ryosuke Harada, Masahiro Fukuoka, Nobuyuki Yamamoto

 Lancet Oncol 2014, Published Online, August 28, 2014

<背景>EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌患者にEGFR-TKIを使用することにより、生存期間中央値は12か月まで延長した。しかし、この患者群には許容可能な毒性・忍容性でより無増悪生存期間、全生存期間を延長する新たな治療戦略が望まれる。今回は、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞・非扁平上皮患者に対して、タルセバ・アバスチン併用療法の有効性と安全性をタルセバ単剤療法と比較した。
<方法>オープンラベル、無作為化、多施設共同、第2相試験として、日本国内30施設において行った。IIIB/IV期もしくは術後再発のEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞・非扁平上皮癌患者を対象にした。ECOG-PS 0-1、進行癌に対する化学療法の既往がない患者を対象に、タルセバ150mg/日+アバスチン15mg/kg、3週毎のタルセバ・アバスチン併用療法か、タルセバ150mg/日単独治療を、初回治療として、明らかな病勢進行を認めるか忍容不能の毒性が出現するまで施行した。主要評価項目は無増悪生存期間とし、評価は独立した効果評価委員会で行った。無作為化は動的割付法にて行い、結果の分析にはmodified intention to treatアプローチを用いた。
<結果>20011年2月21日から2012年3月5日の期間に、154人の患者が登録された。77人はタルセバ・アバスチン群に、77人はタルセバ群に割り付けられた。タルセバ・アバスチン群のうち75人、タルセバ群のうち77人は効果判定の対象に含まれた。無増悪生存期間中央値はタルセバ・アバスチン群で16か月(95%信頼区間:13.9-18.1か月)の一方、タルセバ単独群は9.7か月(5.7-11.1か月)であった(ハザード比0.54、95%信頼区間0.36-0.79、log-rank test p=0.0015)。Grade3以上の有害事象は皮疹(タルセバ・アバスチン群で19人(25%)、タルセバ単独群で15人(19%)であり、その他には高血圧(45人(60%) vs 8人(10%)、蛋白尿(6人(8%) vs 0)。重篤な有害事象が起こるリスクは領治療群とも同等であった(タルセバ・アバスチン群で18人(24%)、タルセバ群で19人(25%))。
<結論>タルセバ・アバスチン併用療法は、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌に対する初回治療として考慮し得る。より詳細な検討が望まれる。

 以下のように、PFSの生存曲線は綺麗に分かれています。
 タルセバとアバスチンの併用-JO25567 study

 フォレストプロットでは、どの患者群でもタルセバ・アバスチン併用療法が優れていそうです。
 タルセバとアバスチンの併用-JO25567 study

 腫瘍縮小効果は、併用してもあまり違いはなさそうです。
 タルセバとアバスチンの併用-JO25567 study

 water fall plotを見ると、30%以上縮小しているにもかかわらず部分奏効と評価されなかった人が、タルセバ単独群では結構いらっしゃいます。
 これは、一旦は30%以上縮小したものの、再評価の段階でその縮小効果を維持できなかった人だと思います。
 タルセバ・アバスチン併用群には、再評価時も縮小効果を維持できた人が多いようです。
 タルセバとアバスチンの併用-JO25567 study

 全生存期間は、まだ解析できる状態にはないようで、もう少し時間が要ります。
 タルセバとアバスチンの併用-JO25567 study

 毒性評価は、以下の通りです。
 タルセバとアバスチンの併用-JO25567 study
 
 あと、面白いデータとしては、EGFR遺伝子変異がExon 19 欠失変異とExon 21 点突然変異のいずれかによっても治療成績が異なりそうです。
 Exon 19 欠失変異においては、タルセバ・アバスチン併用群のPFSは18か月、タルセバ単独群のPFSは10.3か月、一方でExon 21 点突然変異については、タルセバ・アバスチン併用群のPFSは13.9か月、タルセバ単独群のPFSは7.1か月でした。
 やはり、Exon 21の疾患予後はExon 19よりも悪いようです。

 また、本試験は第2相試験、つまり、第3相試験においての試験治療群としてどれが相応しいかを見極めるものであったため、統計学的前提において、αエラーを0.20、検出力を0.80としています。
 これは、同じ臨床試験を5回繰り返したとして、1回は「本来は有意でない結果を有意である」と判定してしまい、1回は「本来は有意な結果を有意でない」と判定してしまう、というデザインであることを意味します。
 第2相試験だからこれでいいのですが、この結果を第3相試験と同じように論じるのは無理があります。
 本来は、要約の最後に記載されているように、更なる検証が必要です。

 しかし、実際のところは、第3相試験でこの結果を再検証する、といった動きはないようです。
 The bar is dropping.
 本試験の結果を見て実地臨床に導入するか否かは、各医師の判断に委ねられました。



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この記事へのコメント
動きはあるよ
Posted by seto at 2014年09月03日 07:21
Seto先生へ
 コメントありがとうございます。臨床腫瘍学会の場での後藤先生の回答、先日福岡で行われた山本先生のご講演、どちらもEGFR-TKI&BVの第III相試験実施にはやや否定的な見解のように受け取れました。「やりたくない」ではなくて「体制が整わなくてできない」「これだけの結果が出ているなら、苦労してIII相試験までやる必要はないとの意見が多い」というニュアンスに聞こえました。
 第III相試験で検証されるならそれに越したことはありませんし、仮に他の国で第III相試験が行われた場合、今回の結果が霞んでしまう恐れが強いです。All Japan、もしくはAll Asianで遂行できれば、このpopulationの治療概念を大きく変える重要な仕事になります。
 不遜な言い方かもしれませんが、大変期待しています。どうぞよろしくお願いします。

 それにしても、Alektinibの論文といい、今回の論文といい、WBRTの仕事といい、八面六臂の大活躍ですね。
Posted by taktak at 2014年09月03日 08:50
こんにちは。
アバスチンはとても良い薬だと聞きました。
一度でも血痰が出たらアバスチンは使えないのでしょうか?
脳転移に効果があるので諦めきれません。
Posted by さら at 2019年06月02日 08:12
さらさんへ

 コメントありがとうございます。
 詳しくは以下のリンクをご覧ください。
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00052871

 禁忌欄に明記されています。
 「2.5ml以上の鮮血の喀出」は、感覚的に言えばティースプーン半分程度の、と捉えることができます。
 
 禁忌、とまで書かれてしまうと、正直に申し上げて手が出しにくいです。
 実際私も、社会人4年目に大喀血で肺がん患者を亡くしたことがあります。
 ベッドに仰向けに臥床している患者が喀血し、その飛沫が天井にまで届きました。
 私にできたのは、患者の口を押えることだけでした。
 ・・・お勧めしません。
 姑息的な放射線照射を行う方が安全だと思います。
Posted by taktak at 2019年06月03日 23:36
ありがとうございました。
Posted by さら at 2019年06月11日 18:07
再度すみません。
カルボプラチンとアリムタにアバスチンを追加するのとしないのとでは、無増悪生存期間などにかなりの違いが出るのでしょうか?
Posted by さら at 2019年06月16日 16:52
さらさんへ
 
 コメントありがとうございます。一般的なこととして申し上げると、アバスチンは腫瘍縮小効果を強める作用、無増悪生存期間を延長する作用はありますが、全生存期間を延長する作用は乏しいように思います。アバスチン特有の毒性と天秤にかけて、使うことにメリットがあるかどうか、という判断が必要です。以前参加したセミナーで、ある先生が「アバスチンはふりかけのようなものだ」とおっしゃっていましたが、言い得て妙だと感じました。
Posted by tak at 2019年06月19日 09:02
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