2019年07月17日

ハートに火をつけて・・・悪性胸膜中皮腫とCAR-T療法・免疫チェックポイント阻害薬

 免疫チェックポイント阻害薬が効きにくい"cold tumor"をCAR-T療法の力を借りて"hot tumor"にする・・・。
 CAR-Tが火をつけるわけですね。

ASCO 2019
Abst.#2511
Regional delivery of mesothelin-targeted CAR T cells for pleural cancers: safety and preliminary efficacy in combination with anti-PD-1 agent

・キメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor, CAR)産生T細胞を用いたCAR-T療法は、血液腫瘍の領域で既に実用化されている
→ノバルティス社のHPより:https://www.novartis.co.jp/innovation/car-t
・CAR-T療法は、固形癌治療の領域でも研究が進みつつある
・悪性胸膜中皮腫は難治性悪性腫瘍のひとつである
・現在の初回標準化学療法であるシスプラチン+ペメトレキセド併用療養がFDAにより承認されたのは2,003年まで遡り、従来の治療に比べて3ヶ月間全生存期間と無増悪生存期間を延長した(Vogelzang et al., J Clin Oncol 2003)
・二次治療として免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験(IB-II相試験)がいくつか報告されており(KEYNOTE-028, JAVELIN, MAPS2, INITIATE etc.)、奏効割合は9-29%、無増悪生存期間中央値は3.9-6.2ヶ月、全生存期間中央値は10.7-18ヶ月と報告されている
→日本では、ニボルマブ単剤療法が二次治療として承認されている
・一般に悪性胸膜中皮腫は、PD-L1発現もtumor mutational burdenも乏しい" cold tumor"とされている(M Yarchovan et al., JCI Insight 2019)
・mesothelinは細胞表面蛋白で、悪性胸膜中皮腫細胞の85-90%に、肺癌細胞の60-65%に発現している(Morello A et al., Cancer Discov 2016)
・第2世代のCARを発現させたT細胞を胸腔内に投与したところ、胸腔内のみならず循環血中でも確認された
・27人の患者を対象に(悪性胸膜中皮腫25人、肺癌胸膜転移1人、乳癌胸膜転移1人)、mesothelinを標的分子としたCAR-T療法の第I相試験を行った
・全体の37%が、過去に3レジメン以上の薬物療法を受けていた
・PD-L1発現状況(TPS)は、1人が80%、1人が30%、2人が5%、1人が1%、2人が不明、その他(20人)は0%だった
・コホート2-8(計24人で、そのうち23人は悪性胸膜中皮腫患者)の患者は、シクロフォスファミドによる前治療を施された
・CAR-T細胞は、胸腔カテーテルを介して、あるいはCTガイド下胸腔穿刺を介して胸腔内に投与された
・Grade 2以上の有害事象は認められなかった
・神経毒性やサイトカイン放出症候群は確認されなかった
・NCCNガイドラインにおいて、悪性胸膜中皮腫の二次治療として免疫チェックポイント阻害薬が推奨されていることもあり、27人中の22人は抗PD-1抗体の投与を受けていた
・抗PD-1抗体使用後に2人の患者が呼吸困難を訴え、一人は抗IL-6抗体とステロイド併用で、一人はステロイド単独で治療した
・全体の奏効割合は41%(11/27)だった
・シクロフォスファミドによる前治療を受け、CAR-T細胞療法と少なくとも3コースの抗PD-1抗体治療をして、3ヶ月間以上の経過観察ができた悪性胸膜中皮腫の患者(16人)に限って言えば、奏効割合は63%(10/16)だった
・今回の臨床試験において、上皮型悪性胸膜中皮腫の患者23人に限って言えば6ヶ月生存割合は90%、1年生存割合は74%だった
・今回の臨床試験において、上記の16人に限って言えば、6ヶ月生存割合は100%、1年生存割合は80%だった
・完全奏効に至った患者も2人いた


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