2016年01月13日

髄液移行性の良いEGFRチロシンキナーゼ阻害薬

 今朝は半日の院外出張で、少し勉強する時間があったので雑誌を読んできました。
 近畿大学の小林先生、光冨先生共著の文章に、脳転移を有する患者さんの治療戦略について記載がありました。
 2015年の米国臨床腫瘍学会での報告から2題が取り上げられていました。
 一報は新規治療薬候補であるAZD3759について、もう一報はErlotinibのパルス療法についてでした。
 今回は、AZD3759の報告について少し触れます。

 AZD3759は、脳転移および髄膜播種に対して、脳血液関門を通過して作用するように開発されたEGFRチロシンキナーゼ阻害薬です。髄液移行性が極めて高く、血清中の濃度とほぼ遜色ないくらいの移行性が得られるそうです。

 AZD3759, an EGFR inhibitor with blood brain barrier (BBB) penetration for the treatment of non-small cell lung cancer (NSCLC) with brain metastasis (BM): Preclinical evidence and clinical cases.
 Poster Discussion Session, Lung Cancer—Non-Small Cell Metastatic.
 Abst. #8016
 (前臨床試験の結果は割愛します)
 背景:脳転移を有するEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者の報告が増えつつある一方で、現在実地臨床で使用できるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は髄液移行性が乏しく、有効な治療法がない。今回、髄液移行性の良い治療薬候補であるAZD3759について、脳転移に対する治療としての初期段階の報告をする。
方法:EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌患者を対象とした、AZD3259の安全性・忍容性を調べるオープンラベル第I相試験(NCT02228369)が現在進行中であるが、その一部を報告する。
結果:今日までに、測定可能な脳転移を有する4人の患者が登録された。脳転移巣の治療後評価が可能だった2人のうち、1人では奏効(PR)、1人では病勢安定(SD)の状態だった。これらの患者における脳脊髄液中のAZD3759のトラフ値はそれぞれ7.7nMおよび6nMだった。これまでのところ、用量制限毒性に至る有害事象報告はなく、Grade 1の皮疹が2人に認められたのみだった。

 要旨の中に出てくるNCT02228369試験については、下記のリンクに概要が記載されています。
 https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02228369
 ざっと見てみると、EGFR遺伝子変異はExon 19もしくはExon 21のいわゆるcommon mutationを有する患者さんを対象としていて、前治療歴としてEGFRチロシンキナーゼ阻害薬と化学療法、それぞれ少なくとも1種類ずつの治療歴が必要とされています。
 AZD3759の安全性と忍容性を見るための第I相試験と銘打っていますが、そう単純な設定ではなさそうです。
 初期段階(Part A)は古典的な第I相試験のようですが、Part Bでは脳転移もしくは腰椎穿刺で病理学的に証明された髄膜播種症の患者さんを対象に、AZD3759およびAZD9291の有効性、安全性、髄液移行性を検討する、ランダム化第II相試験を思わせるような設定になっています。
 Part Aの段階で
 米国、オーストラリア、韓国、台湾の施設が参加しているようですが、患者登録が開始されたのはオーストラリア、韓国、台湾のようです。
 18歳以上の患者さんが対象とされていますが、「日本人は20歳以上」との但し書きがわざわざされているのは、韓国や台湾の施設で日本人の患者さんが参加することも考慮してのことでしょうか。
 2016年内いっぱいで患者さんの集積を終了する予定だそうですから、2017年後半から2018年前半にはなんらかの報告が出始めるかもしれませんね。



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