2016年02月27日

エベロリムスとカルチノイド

The U.S. Food and Drug Administration today approved everolimus (Afinitor) for the treatment of adult patients with progressive, well-differentiated nonfunctional neuroendocrine tumors of gastrointestinal or lung origin with unresectable, locally advanced, or metastatic disease.

Today’s approval was based on demonstration of improvement in progression-free survival in a multicenter, randomized (2:1), placebo-controlled trial of everolimus at 10 mg orally once daily plus best supportive care to placebo plus best supportive care.

 以前も少し書いたかもしれませんが、神経内分泌腫瘍というカテゴリーの腫瘍があります。
 われわれ呼吸器内科医にとっては、「カルチノイド」という疾患が挙げられます。
 現在の分類上、肺から発生する腫瘍の中では「定型カルチノイド」「否定形カルチノイド」「大細胞神経内分泌癌」「小細胞癌」が神経内分泌腫瘍に含まれます。
 「大細胞神経内分泌癌」や「小細胞癌」はいわゆる肺癌ですから、ある程度の治療体系が整っていますが、カルチノイドは手術ができるなら手術をする、できないならばサンドスタチンを用いて治療する、くらいしか治療体系が定まっていません。

 米国食品医薬品局は、2016年2月26日、消化管および肺原発の神経内分泌腫瘍に対する治療薬として、Everolimusを承認した模様です。
 EverolimusはmTOR阻害薬で、いまのところわが国では
1. 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
2. 膵神経内分泌腫瘍
3. 手術不能又は再発乳癌
4. 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫
5. 結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫
に対して使用可能となっていますが、今回のFDAの決定は、2.に関連した部分の適応拡大、ということになりそうです。
 わが国でも比較的受け入れやすいのではないでしょうか。
 ただし、Everolimusは我々呼吸器内科医にとっては、薬剤性肺障害や日和見感染症を起こしやすい、要注意の薬剤です。
 本日行われた気管支鏡専門医大会でも、Everolimus投与中に発症したニューモシスチス肺炎の症例に関して発表がありました。
 
 以下、ASCO Postから。
  
 2016年2月26日、米国食品医薬品局は、進行・切除不能・高分化型・非機能性(ホルモン関連症状を呈していない)の消化管もしくは肺原発の神経内分泌腫瘍に対する治療として、Everolimus(アフィニトールTM)を承認した。本承認は、多施設共同無作為化(2:1割付)プラセボ対象比較試験において、Everolimus群がプラセボ群に対して無増悪生存期間を改善したことに基づいている。
 本臨床試験は、切除不能 / 局所進行 / 進行性の高分化型・非機能性(これまでにカルチノイド症状を呈したことがない)消化管もしくは肺原発の神経内分泌腫瘍の患者302人を組み入れた。試験参加にさかのぼること6ヶ月以内に、明らかな病勢進行を認めていることが条件とされた。主要評価項目は、独立した評価機関による画像的RECIST評価に基づいた無増悪生存期間とされた。

 無増悪生存期間中央値はEverolimus群11ヶ月、プラセボ群3.9ヶ月(ハザード比0.48、95%信頼区間0.35-0.67, p<0.001)だった。奏効割合はEverolimus群2%、プラセボ群1%だった。中間解析時点において、全生存期間に統計学的有意差は認められていない。

 安全性の評価は、少なくとも1度の治療を受けた300人の患者を対象に行われた。Everolimusの治療継続期間中央値は9.3ヶ月で、64%の患者が6ヶ月、39%の患者が12ヶ月は治療を継続していた。

 Everolimus群の患者のうち29%は有害事象により治療を中止し、70%は投与量の減量もしくは治療時期の延期が必要だった。Everolimus群の42%に重篤な有害事象が出現し、うち3人は有害事象により死亡した(心不全、呼吸不全、敗血症)。

 頻度の高い有害事象(30%以上の発現率)は胃炎、感染症、下痢、浮腫、倦怠感、皮疹だった。また、頻度の高い血液生化学的異常(50%以上の発現率)は貧血、脂質異常、リンパ球減少、AST上昇、空腹時高血糖だった。

  

2016年02月27日

OsimertinibとCeritinib

 2月26日に開催された薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で、以下の薬の効能・効果が認められたとのこと。

・Osimertinib(タグリッソTM)
 「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のEGFR T790M変異陽性の手術不能・再発非小細胞肺がん」の治療薬として了承

・Ceritinib(ジカディアTM)
 「クリゾチニブ(ザーコリ)に抵抗性又は不耐容のALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の治療薬として了承

 予想の通りなのですが、長い使用条件が付されています。

 Osimertinibは、
1)EGFR遺伝子変異陽性(Exon 19 / Exon 21)を有し
2)既存のEGFR遺伝子変異阻害薬使用歴があり、なおかつ治療抵抗性となり
3)T790M変異陽性が確認された
4)手術不能・再発非小細胞肺がん
患者さんが対象です。
 裏を返せば、初回診断時にT790M陽性だったとしても、初回治療からOsimertinibを使ってよい、ということにはなりません。
 また、T790M陽性が確認されない限りは、使用できません。
 T790Mをどのように確認するかは明記されておらず、コンパニオン診断やリキッド・バイオプシーの問題は先送りです。
 これから再生検を行う動きが活発化しそうですが、診断する側の準備はまだ整っているとはいえません。 
 どの時点で再生検を考慮するのか、再生検をしてもT790Mが陰性だった場合にそこであきらめるのか、再挑戦するのか。
 検査を行う医師は、「肺癌であるかどうか」「組織型はなにか」という議論を越えて、「遺伝子変異プロファイルがどのようになっているのか」を明らかにすることを求められていること、その結論が出せなければ検査をする意味がないことを肝に銘じて検査に望まねばなりません。

 Ceritinibの使用条件も、現状を考えると悩ましいです。
 J-ALEX studyが早期有効中止となったため、今後Alectinibが初回治療から使用され始める可能性が高いですが、CeritinibはあくまでもCrizotinib使用歴があることが前提条件です。
 ALK陽性肺癌患者さんの治療シーケンスとして、
1)Crizotinib→Alectinib→Ceritinib
2)Crizotinib→Ceritinib→Alectinib
3)Alectinib→Crizotinib→Ceritinib
となることが考えられますが、J-ALEX studyの結果を踏まえれば、3)を選択することになります。
 3rd lineまでCeritinibの出番はありません。
 明記はされていませんが、ALK肺癌もいずれは再生検が求められ、その結果を踏まえて治療シーケンスを決めることになるでしょうね。