2011年01月09日

SPIKES(スパイクス)のS

前回、「悪い知らせの伝え方」のお話をしました。
冒頭に掲げた「SPIKES」とは、悪い知らせを伝える際の、医療従事者の心がけ、といったところです。
米国臨床腫瘍学会(ASCO)が提唱しているものです。
それぞれ、注意すべき事柄の頭文字をとって並べたものです。
今日は、「S」についてお話しします。
医療面接だけでなく、さまざまな分野に応用可能な考え方だと思います。

「S」は「Setting」から来ています。
日本語訳すれば「事前準備」といったところでしょうか。
本稿を読んでおられる方には、病院で自分・もしくは家族の病状説明を受けたことがある方もいらっしゃると思います。
医療従事者の方もいらっしゃるかもしれません。
事前に日時や場所の約束はありましたか、あるいは突然「これから病状説明します」と言われましたか?
どんな場所で面談をされましたか?
外来診察室でしょうか、ナースステーションでしょうか、あるいは食堂でしょうか、病院ロビーでしょうか?
あなただけが説明を受けましたか?
あるいはあなたが一緒に話を聞いてもらいたい人にも同席してもらえるような配慮がありましたか?
医療従事者は、あなたとの面談に十分な時間を準備してくれていましたか?
つらい話があって、思わず涙が出てきたときに、それを拭えるようなちり紙などがさりげなく置いてありましたか?
診断の根拠となるような資料を必要に応じて見せてもらえましたか?
説明内容が後で振り返れるように、説明文書のような書類の準備がありましたか?

簡単に言えば、「S」というのは、上記のような内容に過不足なく配慮をすることです。

重要な面談をするにあたり、突然前触れなく話を切り出すのは配慮に欠けます。
ちゃんと約束をして、話を聞きたい人が集まれるような配慮をするべきです。
医療従事者には、可能な限りほかの仕事を後回しにするくらいのスケジュール調整も必要でしょう。
当然のことながら、病状はプライベートな内容です。
プライバシーの保護をする上で、ちゃんとした個室で面談をするべきです。
涙を拭えるような準備をしておくことも、医療従事者の優しさでしょう。
分かりやすい、それでいて説得力のある資料を吟味して準備することも必要です。
面談中の内容は、後から思い出そうと思っても思い出せないことがほとんどです。
医療従事者のサイン(できれば面談参加者皆のサインも)や日付が入った説明文書があると、後々役立ちます。

できているようで、意外とおろそかにされがちな内容ばかりです。
ですが、とても大切な心がけだと思います。


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